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タイトル情景描写について
記事No: 384 [関連記事]
投稿日: 2007/03/23(Fri) 00:30
投稿者祟られる者

最近目立った行動をしておりませんが、ちゃんと生きています。
どうも、祟られる者です。

作品を作っていく中で、どうしても筆者の思い浮かぶ情景が読み手に伝わっていないという事がよく起きます。もちろん筆者と読者の教養や思考が違えば読んで思い浮かべる情景にも違いが生じるでしょうが、やはりある程度筆者が読者を誘導させたいものです。
しかし実際、読者に自分と同じ情景を連想させるというのはとても大変な事です。私にはてんで出来ない事です。
そこで登竜門の皆様はどうなさっておりますでしょうか?コツや感覚、具体的な御説明などありましたら御書き込み下さいませ。


更に具体的に答えてあげよう、という方がいらっしゃいましたならばこちら↓

http://www.restspace.jp/cgi-bin/orz/img-box/img20070323001113.jpg


この情景を文字のみで伝えるとしたらどうやって情景描写致しますか?御指南下さいませ。。


タイトルアワー
記事No: 383 [関連記事]
投稿日: 2007/03/21(Wed) 23:39
投稿者模造の冠を被ったお犬さま

 レンさんと模造の冠を被ったお犬さまは初めましてですね。初めまして。
 私が私のファンのために書いたんじゃなく、私はブヨさんのファンになって書いた書き物だからね。というか、「グエッ」ってなに。「グエッ」って。だから私は聖人君子で聖母でありながら賢者でもあるから自分の中のいびつな何かを書くことにやぶさかじゃないけれど、エグくてスプラッタが私だと思っちゃあいけないよ。私だって純粋無垢になるときがあるんだ。アレの後とか。
 ブログで少し、自分の言葉を安売りしすぎているかな。ありがたみゼロだものな。とあるプロが「文筆家がブログなんてタダの文章を書いてはいけない」とか言っていたけれど、一理あるかもしれない。一理だけ。よし、じゃあ、それについて書こっかと思ったけれど、脈略がないのでやめた。それこそ「自分のブログで書け」。
 書き手のレンさん。初めまして。
 何かを強い口調で書きたいのだけれど書くことが見つからないように見受けられます。無理しないで。
 『私のオリジナル』と限定されて待たれちゃったけれど、どーしよ。『私のオリジナル』ってなんだろ。やっぱり「グエッ」?


タイトルみかん星人
記事No: 382 [関連記事]
投稿日: 2007/03/21(Wed) 22:55
投稿者模造の冠を被ったお犬さま

 私なんか面白くて完成度が高けりゃ文句ないけれどね。タカハシさんとは姿勢のみならず流儀からして違ってるね。もちろん、そんな差別に言葉以上の意味はないけれど。
 にしても、ブヨさんの存在をまったく無視しているよね。『トリビュート』の意を示しているのだから似せようとして作った二次創作じゃあないにしても、舞台を借りておいてそう好き勝手ぶっ壊すことはできないよ。自分のなら容赦なくヤるけれど(血)。
 そーゆーことで、キリキリ舞いしてないように見えているところがキリキリ舞いした結果だよ。“新しい手法をなにも使わなかったことが今回初めてで新しい”なんてレトリックを使うまでもなく“影舞踊舞台でどれだけclown-crown節が馴染めるかどうか”、そーゆー方向性で新しい。
 「もっと重層的にやれ」ってことは“重層的じゃなかった”ってことか。「こんだけややこしい時間軸使ってて読み手にわかってもらえるのかなあ」と思ってたから私にとっちゃ成功なんだよな。
 雨は反省すべきか。でも、雨といったら雨だよ。雨大好き。暴風の次に好き。
 先に【みかんのたいき】を読んでた人にも違和感なく読ませるために、情景とか人物の描写は最低限に留めた。これは私にとって鬼門だったよ。心情描写で進めるストーリは死ぬほど嫌いだもの。そーゆー書き方の書き物は巷に溢れていて、それが一般的なのかもしれないけれど。主人公でなくとも、のらりくらり語らなきゃやってられなかった。私がフツーにやることがどんなに困難か……。テンション下がるわ。
 いいのよー私は白鳥なのよー優雅なのよー水面下は見ちゃ駄目なのよー。


タイトルRe: コチョウラン
記事No: 381 [関連記事]
投稿日: 2007/03/21(Wed) 14:59
投稿者祟られる者


どうも、祟られる者です。
知ってる人は知っていて、知らない人は全然知らないでしょう(笑
(当方は一方的に読んでいるだけだから当然といえば当然。。)

本作「コチョウラン」ですが、時事的で微笑ましくて良かったです。言われるまでもないと花を持ち歩いたりする、少し可愛い所のある主人公ですねぇ。

展開としてはとてもありがちです。ホワイトデーに花言葉。……しかし主人公のサバサバとしている考えや発言が特徴的ですね。しかしホワイトデーで連想されるものからかなり遠いこのキャラクター。逆に良いと思います。


そして個人的な感性での指摘をします(ぇ
序盤の会話部分の描写ですが、これは読み手が勝手に想像すれば事足りることなのかもしれないが、唯一のヒント(?)が『兵士の像前』は微妙。人通りが多いのか少ないのかも良く分からないですからね。

それと後半。これは本当に個人的な感覚なのですが、夜道の追跡者の所。これらで、プランターで殴り付ける理由に成り得ましょうか?後ろから息荒く走って来ている人がいるってだけで殴ったら私もかなり殴られています(ぁ


それと題名をカタカナにした理由について、邪推してみます(ぇ
これまたかなり私の感覚によるものですが。。

カタカナにすると「本来の意味と違うものを表している」風に感じます。
例を挙げると、「壊れる」は物体の損傷を連想しますが、「コワレル」は不気味で精神的なものだと思えます。

そのように最初私は「コチョウラン」と見て植物の「胡蝶蘭」ではなく虫の「蝶々」を連想しました。実際は花言葉だったわけですけどね。
だから題名のみカタカナだったんじゃないかな、っていう邪推でした。
とんでない的外れかもしれませんね(笑

出来ればそこらへんの回答希望です(笑


タイトルRe: みかん
記事No: 380 [関連記事]
投稿日: 2007/03/21(Wed) 10:46
投稿者レン

 ごきげんよう、模造の冠を被ったお犬さま。
【みかん】読ませて頂きました。
 先ず、貴方のファンとしての感想は、――――残念でした。ファン故の身勝手な意見です。もっと『グエッ』と思わず声が漏れそうな書き物を期待してましたので。そして、ナツに対する僕の気持ちが今一微妙(淡泊)過ぎて悶えられませんでした。――――雨は嫌いじゃない……好きにはなってやれないもどかしさ……とか、好きなんですよネェ、そうゆうのが。
 次に、書き手としての意見。みかんに対する何とも言えない【僕】の感情を読み手の心に引っ掛ける、そんな書き物だったと思います。ただ読み違えでなければ、何故、雨とみかんが父さんを彷彿とさせるのかがはっきりしないのは、影舞踊様の物を読んでいないせいか……。だとしたら、勝手に想像を膨らませ愉しませて貰うとする。トリビュートはいかに元の話を知っているかでその良し悪しが判定できると思うが、知らないからこその感覚と言うのも悪くないと思っている。よって暫くは読まないつもりだが、何れ読むでしょう。
 最後に、もっと書き込まれていた方が良かったと思う。が、淡泊にする事による淡く酸味のある情景を描きたかったのかと思えばそれまた一興かなと。
 ……では、貴方様のオリジナル作品を心よりお待ちしています。


タイトルRe: みかん
記事No: 379 [関連記事]
投稿日: 2007/03/19(Mon) 22:36
投稿者タカハシジュン

 面白かったよ。悪くない作品だと思う。サイズ、この掲示板にアップする作品の方向性、其の辺り尺に合っている。器用。だからその点で不満なし。そしてその辺りを承知の上で、不満がないから不満なのだ(笑) 
 何ていうんだろう(笑) ほとんど邪推の世界なんだけれど、破れ目がなかったのはトリプルアクセルを見事に成功させたというより、無難にダブルアクセルでまとめたという印象があるのね。それがリスクを回避するために余剰を切り捨てた、のであるのか、余剰が存在しないのか、意地が悪いとは思いつつも、僕は其処の判断にちと困っている。
 もちろんいずれか一方の回答ということはないと思うし、この見方自体があさっての方向かもしれない。ただ、言外の領域をふんだんに含んだ重層的な作品構築、もしくはその拡張性を感じさせるものというのとひきかえに、まとまりよくて体裁の整った作品を提示したのか、その潜在性を思い切って寸断した潔い切断面を見せつけながらの作品か、となると、さてさてねえ。

 ただこれは執筆に対するアプローチの違いだよね。僕は山師なんだ(笑) 


 先に模造の冠を被ったお犬さまが主張した作品判別の観点に概ね合致した、有言実行的作品で、その点大したものだと思いますよ。技術的には一人称体裁における中盤の説明パートの解決方法として、まあ新機軸が用いられていなかったかなというオーソドックスプラン採用の不満があるとはいえ、破綻ではないし、文章運びで説明パートの負荷もある程度回避していると思う。ただ無難でありすぎるかなあ。これは全体的にも類似で、もう少し文量を多く見込むと、構成をいじって時間軸推移を混濁させ、より幻想的な一時を演出する余地はあったかなと思う。まあこれは諸般の事情を考えれば実現困難かもしれんね。雨の使用は、これは陳腐だろう(笑) というか、ここにも可能性があるんだよなあ。情感表現としての小道具にするより、ほのか雨が蜜柑の表皮を洗う清浄さ、蜜柑の薫香と雨滴が混ざる清々しさのイメージの展開のほうが、淡い思慕の感情を彩るによりポテンシャルがあるようにも思う。ハデに降らさずとも、雨滴が蜜柑を伝って落ちるなんていうやりかたで涙を類推させるというのもあるしね。

 うん、こういう部分をどんどん突出させると、作品全体の当初想定の方向性が狂って、破綻のリスクをしょいこんでくるのね(笑) 実はそれを抱え込んで作者がキリキリ舞いする姿をテクストの向こう側にうかがうのが、僕は大好きなのですよ(笑) 


タイトルみかん
記事No: 378 [関連記事]
投稿日: 2007/03/18(Sun) 15:05
投稿者模造の冠を被ったお犬さま

 みかん



 骨董家のひいひいじいちゃんが大枚をはたいて買ったというミミズがのたくっている掛け軸がかかる床の間にあるのは市販品ののっぺりとした鏡餅とそれを押し潰すかのような重量感たっぷりのゴツいみかんだった。それは家の農園で採れたみかんだ。マズい。
 高校を卒業した途端、享受する側から授与する側に立った僕としては大学四年生にもなった親戚にお年玉をあげるというのは精神的に躊躇いがある。お正月などの行事以外お付き合いのない相手にお年玉をあげるのは納得できるにしても毎日顔をつき合わせている歳の近い相手にお年玉をあげるのはなんだか腑に落ちない。もちろん、肉体的に表現するほどやぶさかではないが。
「わーい、ありがとうリエちゃん」
 それが子供っぽくて無邪気だと思うよりは、子供っぽくて無邪気だと装った計算高さと感じさせるくらいには幼稚な演技だと思う。そしてそれが、子供から大人への過渡期であるから不完全ということではなく子供から『女』への過渡期であると感じてしまうのがやるせなさを感じる。ただし、そのやるせなさは僕にとってなのかナツに対してなのかよくわからない。
「わたしに女を意識しているね、にーに」
 直感の方はもう完全に女になっているらしい。
「ん? なんだトシ、夏見でいいなら熨斗をつけるぞ」ここぞとばかりおじさんが言った。
「僕にとっては妹のような存在ですよ。ナツは」
「ゼッタイ、イヤラしい目で見てたー」
 自分がモノ扱いされるより自分の感覚を否定されるほうが懸念事項らしい。もしかしたら父親の存在を無視しての歴然とした反応かもしれない。
 父さんはよく「正月と盆がいっぺんに来たようだ」と幸せの渦中を例えて言っていたけど僕にとって『正月と盆』は災厄の代名詞だった。普段は母さんとふたりの生活のエリアが、ナツやおじさんに限らず大量に親戚筋が押し寄せてきて一躍大所帯に変化するのは異物が進入してきたような落ち着きのなさがある。お年玉という金銭面ひとつとっても明らかにおめでたくない。正月というのは。
 子供にお年玉が行き渡り大人にお酒が回ったころを見計らって僕は厠に行くふりをして家から抜け出した。熨斗や白無垢の話はもうしたくない。
 雲行きが怪しい。肌寒さを感じるものの、この程度なら雪にならずに雨になる。雨の降った後はみかんの臭いが濃くなるような気がするから雨は嫌いじゃないが、雨とみかんのセットは酸っぱさと渋みの混じったあの記憶を蘇らせる。
 母の血を受け継いで僕は色白でなまめかだったためそれを揶揄するような「リエちゃん」と呼び名ができたことがあって、僕はそう呼ぶクラスメイトを片っ端から殴って泣かせた。男女差別なく。やんちゃだったころの話を自分で吹聴することはないが面白がったナツが僕の高校来の友人にその話をしてみたところ友人は信じなかった。もし「似合わないことをするんだね」とでも言ったら殴りはしないものの絶交していた。三日間だけ。ちなみにナツは僕がどんなに殴っても泣かせても『リエちゃん』と呼ぶのを止めなかった。その割りに『にーに』と呼ぶこともあるからこだわりは特にないようだ。
 僕は無意識に思い出すことを避けているのだろうか。外堀の記憶ばかりで雨とみかんの記憶を直截に呼び覚ますのを避けている。雨とみかんの記憶は父さんを彷彿とさせるから同じく父さんを彷彿とさせるこのみかんの木の前で思い出したかったのか。
 僕の足は今にも朽ち果てそうな、しかし大きなみかんの木の前で止まっている。手を伸ばしてその無骨なみかんを手に取り、分厚い皮をもぎ、薄皮とは名ばかりの房をそのまま口に頬張る。これが僕の父さんの味だ。マズい。
 床の間に飾られたあの小さな鏡餅の上にバランスよく鎮座するみかんもこの木から採れた。もちろんそんな不味いみかんの木は一本しかなく、みずみずしく甘酸っぱいおいしいみかんも家の農園にはたくさんある。本来であれば一本でも多い不味いみかんの木。でも僕がこの木を切ることはなさそうだ。
 何代も何代も昔からこの地域一帯ではみかん農家を生業としているらしく僕の家系ではひいひいじいちゃんから始めた農園も古くからみかんに携わっている人間から見たら新参者で邪険に扱われていた。しかしあることを境にひいひいじいちゃんは英雄視されるようになる。みかん──温州蜜柑というのは全般に寒さにも暑さにも強い種であるがその年は未曾有の寒冬でほとんどのみかん農家のみかんが全滅したのだが近所から苗を売ってもらえずよその土地の苗から育てたひいひいじいちゃんのみかんの木だけが例外だった。ひいひいじいちゃんは収入のないみかん農家にみかんを配って回った。それでみかん農家が同じ生活水準を維持できたとは思えないが足しにはなる程度だろうからよほどの量だろう。それも一軒や二軒ではないだろうし。みかん農家はひいひいじいちゃんにもらったみかんのすべてを売ったりはせず数個をみかん畑に植えたみた。すると翌年はどのみかん農家も大豊作となり以後はどんな寒波が襲っても決してみかんが駄目になることはなかったという。
 さすがに最後の部分はフォークロアに思う。もともとみかんは収穫が芳しい年と芳しくない年が交互に来るから寒冬が地域一帯のみかんのリセットをしてその結果、翌年は総じて収穫が多くなっただけの話だ。それにひいひいじいちゃんのみかんの木は種無しだから在来のみかんの木と交雑することはなく寒さに強くなるということは考えられないないからきっと、以来そこまで寒くなることがなかったのだろう。
 ひいひいじいちゃんのみかんの木はつまりこの大きく不味いみかんの木だ。当時はそれほど不味くはなかったらしい。不思議なことに件の年、ひいひいじいちゃんのみかんの木は自分の使命を知っているかのようにぽこぽこと実をつけたのだとか。今もそんなにぽこぽこと実をつけてくれたら困る。売り物にならず近所に持っていっても嫌な顔をされるこのみかんは僕と母さんしか食べないからたくさんあっては食べきれない。
「それはみかんの木が使命を全うしたからだよ」とナツのおじさんが言っていた。ひいひいじいちゃんにまつわるこの話はナツのおじさんから教えてもらった話だ。「その年に、もてる力を出し切ってしまったから、今はもうたくさん実をつけることはできないし、おいしさも減じてしまった」おじさんはまるで見てきたかのように言う。「助けられたよ」
 僕も僕のひいひいじいちゃんも自己顕示欲は希薄なようにひいひいじいちゃんの家系はみんなしてそういう気質をもっているらしい。ひいひいじいちゃんとは傍系にあたるナツのおじさんだからこそ聞けた話であって父さんも何らかの形で薄々感じていたらしくあの木を大事にしていたものの僕ほどはっきり聞いてはいなかっただろう。みかん農家で財を成したが同時に骨董家でもあるひいひいじいちゃんが蒐集に散財したのにあいまってみかん農家からの畏敬の念も薄れたらしくひいひいじいちゃんに嫁ぎに行かせたおじさんの家系だけが古臭い忠義心を今も伝え守っている。みかん成金のひいひいじいちゃんが遺したのは立派そうに見える贋作と大きくて不味いみかんの木だけだ。未練があるわけではないけど。
「こーら、セクハラされるからって抜け駆け禁止」
 ナツの声がして振り返るとそこは視界いっぱいのナツだった。顔が近い。セクハラとはなんのことだろうと考えてみると三々九度や玉串に思い至り、なるほど同性からでもセクハラと呼ぶことはできるだろう。
「わたしとしましては結婚話をのらりくらりとかわすリエちゃんにおじちゃんおばちゃん全方位から一斉にハッパをかけて陥落させたいとこだけどね」
「僕の恋人はみかんだから」
「ソーユーとこがのらりくらりだって」
「だから連れ戻しにきたわけ?」
「援護射撃を背に最前線でリエちゃんが折れるとこを見たい気もするけど。それよりはふたりだけでロマンチックなひとときを過ごすほうがステキだと思うわけ」
「妹と?」
 はりきっているらしく今日はいつもより粘るので仕方なしに最終兵器『妹』の切り札を出してみたらさすがにぐでえとした顔をしている。話をはぐらかすためにおじさんを煙に巻くのはそれほどでなくとも面と向かって茶化されると堪える模様。
「世には妹に欲情するものもいると聞くよ」
「いまだに僕のこと『にーに』と呼ぶのは戦略?」
 その言葉を聞くだけでぐでえとしてしまうようなウィークポイントすら突破口にして果敢に攻めようという姿勢は評価に値する。応えるかは別として。
「自虐も十二分に混じるけどね」
 “敵ながら天晴れ”と言ったところ、ならば“敵に塩を送ろう”。
「農学という学問のカテゴリに育種学というものがある。動植物種を遺伝的側面から改良する分野だ」
 怪訝な顔をするナツ。
「平易に言い換えれば品種改良。耐熱性や耐寒性といった環境適応性、成分育種とも呼ばれる経済的特性、栽培作業においての特性などの改良を行う。その方法も多岐にわたるが、中でも交雑育種法について。これもまた平易な言い方をするなら『かけあわせ』。優れた性質をもった種をかけあわせどちらの性質ももつ種を作り出す方法。
 さて、それを踏まえて次は遺伝学のメンデルの法則。同じ対立遺伝子が優性と劣性のホモ接合型をもつそれぞれの親をかけあわせると子の代では4:0で確実に優性が顕在するが孫の代では3:1の割合で劣性もわずかながら顕在されるようになる。ここで注意したいのは優性がすなわち優れた形質ではないということ。顕在していない劣性に育種学的に見て優れた形質がもっていることはじゅうぶん考えられる。ではその優れた劣性を顕在させるにはどうするか」
 警戒心をはらんだ怪訝さはなりをひそめ純粋に不思議そうな顔をしている。
「インブリード、インブリーディング、クロス、内系交配──」
 その顔は少しずつ朱を帯びて。
「──近親交配、近親姦、近親相姦。
 劣性を顕在させるためには劣性同士でかけあわせればよい。どんな形質をもっているかわからない劣性を顕在させる確実な方法は自分自身をかけあわせること。それが不可能であれば自分に近い遺伝情報をもつ近親者とかけあわせるのが最適だ。戦前であれば皇室でも見られた慣例とも言えるし、競走馬は『ブラッドスポーツ』と呼ばれるほど血統にこだわり意識して繁殖されてきた。近親婚は珍しいことじゃない」
 不思議そうな顔はあるいはなにも考えていないだけなのかもしれない。
「にーに、高校でベンキョーしてきたんだねえ」
 農高とは農業高等学校の略称であり学校は勉学に励む場所を意味する。普通科高校だけが高校ではない。生徒や教師の中にも勘違いしているものがいるが。
「僕は知識をひけらかしたいんじゃない」
「妹と呼ぶわたしを愛するための釈明ともとれる言葉をわたしの前で並べ立てて『妹だって愛せるんだ』と希望を見せた気になってんの、にーに?
 お父さんから聞いてるよね。このみかんの話」
 背後から囁くように語られる僕の目の前に年期を感じさせる荘厳とした大きな不味いみかんの木が立っている。
 甘言で篭絡しようとして踏み込みすぎたか。
「お父さんはもともと自分の家のみかんとこのみかんが交雑するかなんかして寒さに強いみかんができたと信じてるみたいだけど、そんな寓話みたいなこと起こるハズない。みかんにちょっと詳しければ──そうじゃなくてもちょっと想像を巡らせてみればわかる。お父さんって頭が固いクセにミョーなこと信じ込みやすいんだよね。
 助けられたのはホントかも知れないけどウチのみかんとこのみかんは遺伝とかカンケーない。リエちゃんだって同じ考えでしょ」
 空模様がいっそう怪しくなってきた。これは一降りくるな。
「わたしたちもいっしょ。親戚同士だけどわたしとリエちゃんの間には血のつながりがないってこと誤魔化してるよね。『妹のような存在』って言ってたのはそのまま比喩でしかなくて。血のつながりはないけど幼馴染み以上に親しいって意味の。ねえ、わたし、もう二十二歳だよ?」
 いっそのこと早く降らないかな。
「うまくいかないよね。なんでわたしが告白しないかもわかってるんでしょ」
 神様は運命の杯をもっていてその手が滑ったとき中の水がこぼれる。涙のような雨として。
「ずっとそばにいたのはそれが心地良かったからだけど。だんだんそれが捻じ曲がってった」
 雨がさめざめと降る。
「わたし、卒業したら東京行くんだよね」
 僕はいつもナツのことが。
「嬉しいでしょ」
「うん。害虫からみかんを守る害虫みたいだった。僕にとってナツは」
「ひどいなあ。せめて腐ったみかんにしてよ」
 そろそろ頃合なのかもしれない。
「じゃあさ、離れ離れになる前に一生のお願い聞いてくれる?」
「それ何度目かな。聞くだけならいいよ。言ってみてくれる?」
 ようやく終わり。



「好きです。付き合ってください」



「嫌だ」



 言ってから雨音が強くなった気がする。
「あーあ、フられちゃった。わかってたのに、ツラいなあ」
 雨は嫌いじゃない。
「わたしのこと好きじゃないってわかってた。告白したらゼッタイにフられるってわかってた。フられないために告白しなかった。ずっとそばにいて私のこと好きになるのを待ってた。トシに彼女ができるのがイヤで近づく女を片っ端から追っ払ってた」
「なんで諦めた?」
「諦めた、ってのは違うかもしんない。自分に自信がもてなくなったのかも。トシは強情だったよね。お父さんを懐柔するほうがよっぽど楽だよ。
 ね、トシ、好きな人いるんでしょ?」
「雨足が強くなってきたよ。風邪をひくから帰ろう」
 ナツの顔が変わる。
「そうだね。にーに」



 たぶん今生の別れにはならない。僕の親戚はやたらとお祭り騒ぎが好きだからお盆かそれが駄目でも次の正月にはきっと会う。
 もうお年玉はあげなくていいだろうけど、酸っぱい思いをしなきゃならないだろうな。





 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 登竜門トリビュート──影舞踊。
 私のオリジナルではありません。過去ログ-20050430の【みかんのたいき】を基にしたトリビュート作です。
 雑談板だからいいよね? って、以前にも同じことしたけれど。本人の了解は得ております。これ読んで面白かったらブヨさんの【みかんのたいき】も読んでみることをおススメするよ。


タイトルRe: コチョウラン
記事No: 377 [関連記事]
投稿日: 2007/03/17(Sat) 15:48
投稿者模造の冠を被ったお犬さま

 「このストーリはするすると芋づる式に、というよりゴボウ抜きのような手早さでできあがったのだろうな」とメタ視点で読みました。物語に移入できずメタ視点で読んでしまったのも、物語と私の速度が合わず空転してしまったからです。
 短編なら、いきなり舞台説明を一通りしてしまうのも手だと思うのです。長編なら適宜に説明していかないと息が切れてしまうのですけれど。この【コチョウラン】は冒頭から心情吐露を始める。基礎ができてないうちに木を組んでいるのを見るような不安がありました。だから中に入っていくのが怖いのです。基礎が不安などころか、見た目からして落ち着かなくなってしまうような書き物もありますけれど、それならそれでフレキシブルな好奇心で覗いてみます。基本をブチ破るには、まだまだ晃さんに羞恥心が残っていています。ま、でも、晃さんは基本に忠実に作ったほうがよいと思いますけれど。
 やり方としては巧いと思うのです。『今日』という日にアップしたことをすべての説明として、ほか一切の説明を排する。そんなスタンスを一貫していたら手を打って賛辞を送っていました。



 ひとつ気になったのですけれど、タイトルはカタカナなのに本文中は漢字なのはなぜですか? 最初だけは読めるようにカタカナにしたとか? 私は胡蝶蘭は好きでその漢字も好きだから、特にひとの目に付くようなタイトルはきっと漢字で書きます。
 たまに思うことです、「動植物をカタカナで書くのはなぜなのか」。表記ゆれが生じるから好ましくない気がします。理由はいくつか考えられますけれど。たいがいの動植物の漢字は難しいだとか(ほとんど使わないからなおさら)、アカデミックな意味合いで読みやすいようにだとか(文学的にはカタカナのほうが問題ある気がする)。 
 せっかくだから、もう少し花の話題。駄目出しじゃないけれど、「なぜこの話に胡蝶蘭が使われたのか」いまいち使途が不明です。あとがきにある通り花言葉で選んだのでしょうけれど、同じくあとがきにある通り花言葉なんていくらでも幅があるものだから、極言すればでっち上げてもバレない。それなのに胡蝶蘭の『貴方を愛します』を使ってくるのはなぜでしょう。それほど魅力はないように思えますし(花言葉に『愛』をもつ花なんてそれこそいくらでもある)、ストーリに密接に関わってくるものでもない。彼氏彼女の関係であれば『貴方を愛します』がべつだん特殊な言葉のようには感じられません。



 あまり自分ランキングを披露するのはよくないと思うのだけれど、私はスレッドの中でこの話を一番評価しています。だってさ、ホワイトデーってお返しだよね。つまり、この女の子はチョコを渡したわけだ。この女の子がチョコを渡すシチュエーションを考えたら。……ツンデレだね。
 裏ドラの『萌え』を見切るとはさすが。得点加算。


タイトルコチョウラン
記事No: 375 [関連記事]
投稿日: 2007/03/14(Wed) 15:07
投稿者

「これやる」
 突き出された物体を見て、私は図らずも眉をひそめてしまった。
 目の前でその物体を突き出しているのは、いわゆる私の『彼氏』というやつで、今日遊ぶ約束をしていたので、兵士の像前で待ち合わせという事になったのだ。
「なんだ、藪から棒に」
 私がそう呟いてしまったのも無理は無い(と思う)。
 そいつが持っていたのは、大ぶりな白い花がついたプランター。花は嫌いではないが好きでもない。それはひとまず置いておいて、こいつが、私に、花を、送るなんて天変地異が起きても絶対無いだろうとおもっていたのだ。もしや今日は地球最後の日か? うん、きっとそうだ。こいつの今までの贈り物と来たら、サングラス、たこ焼き、筆記用具一式、防災セット一式などなど。およそ世間のカップルが贈りあっているような、アクセサリーだのぬいぐるみだの服だの、贈られる日が来ると誰が想像する? いや、誰も想像しない(いわゆる反語だな、これは)。服は一度買ってもらったことがあるが、あれはジャ○コで一着五百円のTシャツだ。あれを贈り物の『服』というカテゴリーに分類するほど、私はあつかましくない。
 しかし何故いきなり今日花だ? 今日は私の誕生日でもなければクリスマスでもない。ザビエルが産まれた日でもなければ織田信長が没した日でもない。大した記念日ではない気がしたのだが、それとも私が知らないうちに新しい記念日でも出来たのか? 否、そんなことは無い筈だ。となると、やはり今日が地球最後の日か。いい人生であった、南無。
「お前いつまで人の事待たせる気だ!? いい加減その長々と考えごとする癖、どうにかしろ!」
「ん、ああ悪い」
 謝罪し、花に手を伸ばす。私も一応オンナだ。彼氏から花を贈られて、嬉しくないといえばウソになる。
「ありがたく貰っておこう」
 受け取った花は透明のビニール袋に入っていた。花は咲いているのもあれば、そろそろ咲きかけるというものもあって、暫くは部屋に飾れば楽しめるだろう。
 改めてみてみると、その花には見覚えがあった。
「これ、胡蝶蘭か?」
「ああ……って、知ってるのか?」
 何故、バツの悪そうな顔……というよりしまった、という顔をしている? 花の名前、当ててほしくなかったのか? と言うよりそこは「よく知ってるな」くらい言ってくれてもイイのでは? 気がきかない奴だな。にしても胡蝶蘭か。高くなかったのだろうか。本当にどうしたんだ……?
 とりあえず、花に鼻を近づけて(シャレでは無い)匂いをかいでみた。
「うん、花くさい。二酸化炭素の削減にはなるだろう」
「……」
 きっぱりそう告げると、何故か相手は黙り込む。
 それよりも、だ。
「何で今日いきなり花なんだ? 今日は何かの記念日か?」
 先ほどから気になっていた事を口に乗せる。相手は一瞬、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をし、それが徐々に信じられない、というものになっていく。
「……気付いてないのか!? お前っ!」
「だから訊いてるんだろう」
 気付いていたら態々訊かない。そういうニュアンスを込めて言えば、相手は僅かに肩を落としてなにやらブツブツ言っている。背に哀愁が漂う様は、まるで黄昏ているサラリーマンだ。大人の仲間いりか、良かったな。
「……お前さぁ」
「なんだ」
「……いや、いい。とりあえずそれ、もってろよ」
 言われるまでも無い。わが恋人からの誠意ある贈り物だしな。枯らせないようなるべく長く育てるさ。
 そう言えば結局なんなのか訊き忘れていたな……まあいいか。こいつも何も言わないし、さして重要な日でもないのだろう。


 それからしばらく遊んで、別れたのは午後八時前だった。
 人通りがあまりない道を、切れ掛かった街灯が二、三度点滅しながら照らす。お世辞にも明るいとはいえない道を一人であるのは、初めての人間なら勇気がいるだろう。
 私は既に通いなれているが、しかし、なれた道だからこそ警戒は必要。後ろから近付く足音を意識しながら、私は手に持ったプランターを強く握り締めた。
 街灯と街灯の間隔が広く、完全とは言えないもののほぼそれに近い暗闇ができる空間の中で立ち止まる。後ろから迫る足音は徐々に近くなってきており、それと一緒に荒い息遣いも聞こえる。
 近くなる足音と、呼吸。
 追跡者が暗がりの中に足を踏み入れた……今だっ!
「うるぁぁぁっ!」
「きゃあああっ!」
 私が大きく振りかぶったプランターの入ったビニール袋は、追跡者にあたる事無く宙を掠めた。やるな。しかし、追跡者も驚いたらしく、甲高い悲鳴をあげ、街灯の下へ尻餅を……甲高い悲鳴?
「ちょっ、なにするのよ、もー!」
 怒っている声も聴き覚えがある女の物だ。
 わたしは暫し黙り込んだ。
「……岬?」
「なんだとおもったの!?」
 街灯の市明かりの下で、ぺたりと尻餅をつく小柄な少女は、私の親友である岬だった。そう言えば、岬は歩幅が狭かった。対して私は歩くのが早い。追いつこうとして、小走りになったのだろう、それで息が荒かったのか、なんだ、そうか。
「それならそうと言ってくれればいいのに」
「問答無用で攻撃してきたのはそっちでしょ」
 まったく、と言いつつ実際もう怒っていないらしい。服についた砂埃をはらいながら、プランターをきょとんとした眼で見つめる。
 まあ私が葉なんかもってたら、誰でも驚くか。
「なに? それ? 胡蝶蘭?」
 自問自答。既に答えが出ているではないか。
「ああ。今日遊びに行った時な。彼氏から貰った」
「へぇぇ。そっかー、今日ホワイトデーだもんね」
 ホワイトデー。そうか。それでか。つまりこれは先月のお返し。なるほど、それで合点がいった。
「あれ? ていうかさっき、それ武器にしてなかった?」
 過ぎた事はいいのだ。あのとき、恐怖でそんなことまで頭が回らなかったのだ。
 しかし、振り回したのは事実。明日は、朝一で肥料を買いに行ってやろう。きっと花も喜ぶ。と、思う。生憎私に花の気持ちは分らない。
 そう考えていると、まじまじと花を見つめていた岬が少し、笑った。
「にしても胡蝶蘭ねぇ。ふーん」
「なんだ? どうかしたか?」
 そう問うと、岬は少し悪戯っぽく笑う。ちょいちょいと手招きされて、岬と身長をあわせるために少しかがんだ。少し背伸びした岬は、私の耳に口を近づけ、いわゆる内緒話をする体勢を作る。

「あのね、胡蝶蘭の花言葉はね……」
 
 ……

 はぁ?
 
「ラブラブ。いいねえ、青春だねえ」 
 
 囁かれた言葉に、顔が赤くなるのを止められない。岬はそんな私を笑いながら見ている。
 なんだそれ。
 あいつ、わざとか? それとも天然か?
 敵は中々強敵だ。
 これから、どんな顔をして会えばいいんだ?
 取り合えず明日の事を考えて、私は熱を冷まそうと頬に手をやった。
 あいつの意図したことは、おそらく明日、明らかになるから。




 胡蝶蘭の花言葉は




『貴方を愛します』




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 こんにちは、最近科学の不思議に目覚めた晃です。ウソです。目覚めてません。

 花言葉の話しです。こんなのでよかったでしょうか? 花言葉……諸説ありますよね。いろんな本とか調べてみましたが、ひとつの花で正反対の意味を持つものもあったりして、中々面白かったです。
 胡蝶蘭はもしかしたら『貴方に幸せを届けます』のほうが有名だったかも。あと、桜の花言葉『精神美』も有名ですよね。
 
 そんなわけで、これで失礼させていただきます。
 それでは。


タイトルRe: 桜
記事No: 374 [関連記事]
投稿日: 2007/03/13(Tue) 21:07
投稿者雪世

自身、つけあがってしまう癖がありますが、皆さんの厳しい言葉は作品または自分自身の向上に繋がるので感謝させていただきます。
>模造の冠を被ったお犬さま
ストーリーを構成する上で矛盾が生じたとき、何かを付け足すことでそれを解消しようと書いていましたが、補足はあくまで補足であり矛盾の解消にはならないということを痛感させられました。
心情を書くということも、人物の心底まで考えることも書き取ることもできず後悔しております。
まずは、自分の得意というより好きなジャンルの小説を最後まで書き上げてから、短編に挑戦したいと思います。
>タカハシジュンさん
花より団子な性格が裏目に出てしまいました。
短編小説だからメインセンテンスを詰め込めばいいという考えも甘い考えでした。
短編だからこそ一文一文が大切だと思わず、表現が凝ってない頭の中だけの「偽物の世界」になってしまったと思います。
小さいこと一つ一つを描き出すによってより本物に近い世界を書けるように努力していきたいです。
>レンさん
女心を避けこの書き方になりました。最後の方はややこじつけとなり、自分でもあまりいいとはいえません
レンさんの望むような美しい表現の「桜」にすることができず、申し訳ありません


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