『とうりゃんせ【登竜101怪奇譚 その1】』 ... ジャンル:ホラー 未分類
作者:浅田明守                

     あらすじ・作品紹介
とある警察署で見つかった不可思議な録音記録。消えた子供と変死体として発見された警察官。あなたはこの謎に耐えられますか……?

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
     藤林警察署にて事情聴取の録音記録

 平成12年7月21日、藤林警察署第一事情聴取室。
(若い男性の声。その後しばらくがさごそという雑音が入る)
 今から君の証言、つまり君が言ったことを録音して今後の資料にするけどいいかな?
「はい、大丈夫です」
(少し緊張気味の少年の声。自分が置かれている状況をうまく飲み込めていないようだ)
 じゃあ最初に名前と年齢を教えてくれるかな。
「藤崎誠哉、12歳。小学校6年生です」
 一週間前、君が行方不明になっていたときのことを話してもらえるかな。
(少しの沈黙。その後に少年がぽつりと漏らすように言う)
「行方不明……一週間も僕は行方不明になっていたんですね」
 そう。君がいなくなったのは6月13日。学校の友達と一緒に"御山"に行ったきり帰ってこなかった。それから一週間後に"御山"の登山口近くで酷く衰弱している君を近所の人が見つけて保護したんだ。
「正直、まだ自分が一週間も行方不明になってたなんて信じられない」
 それは行方不明だった一週間の記憶がないってこと?
「いえ、そうじゃ無いんですが……」
(いまいち端切れの悪い声。まだ混乱しているようだ)
 とりあえず覚えている範囲でいいから、君がいなくなったあの日のことを教えてくれるかな?
「はい、わかりました」
(しばらく沈黙が続く)
「"御山"に伝わる伝承って知っていますか?」
 伝承……あの神隠しがどうとかいうやつかい?
「はい。"御山"には門がある。その門の向こうは異世界に繋がっていて、そこには子供たちの楽園がある。門には門番がいて、時折山で遊ぶ子供たちを門の向こう側へと連れ去ってしまう」
 確かに、警察署の資料にも山に行った子供が行方不明になったっていう事件が何件かあったね。一時期は神隠し事件とか言って話題になったっけ。
「僕たちはその神隠しを調べていたんです。それであの日、みんなで"御山"の調査に行ったんです」
 もしかして、君と同じ日に行方不明になった田島勇斗君も一緒に?
「勇斗……やっぱりあいつも行方不明になってたんですね」
 やっぱりっていうのはどういう意味?
「あの日、僕は勇斗と一緒に活動してたんです。今までの事例は全部、1人ずつしか神隠しに遭ってなかったから、最低でも二人一組で常に一緒に動いていれば少しは神隠し対策になるからって」
 君はずっと田島君と一緒に?
「はい。僕と勇斗は"御山"の山頂近くにある社の近くを調査するはずでした」
 はず、ってことは……
「はい。僕たちは結局、調査なんて出来なかったんです」
 出来なかった。ということは社に向かう途中になにかあったんですね。
「歌が聞こえてきたんです」
 歌……?
(しばらくの沈黙。若い警官が戸惑ったように少年に声をかけようとしたその時、静かな、囁くような声で歌を紡ぎ出す)

 とおりゃんせとうりゃんせ
 ここはどこのほそみちじゃ
 おやまへつづくほそみちじゃ
 ちいさきわらべはおやまにかえる
 おうちにはいらばもどりゃせぬ
 おおきなわらべはおべべをかえて
 いずこにいくかはわかりゃせぬ
 いきはよいよいかえりはこわい
 こわいながらもとおりゃんせとうりゃんせ

(再びの沈黙。時折、若い警官のあ〜、だのえ〜、だの、意味をなさない音だけが聞こえてくる)
 えっと……歌が聞こえて、それからどうしたんだい?
(若い警官の声はまるで寒さで歯がかみ合っていないかのように震えている。それとは対照的に、少年は機械のような淡々とした声で話す)
「女の子がいたんです。社の……ちょうど鳥居の前あたりに。真っ赤な着物を着た女の子。着物よりもさらに赤いボール……鞠をついているんです」
(ごくり、と誰かが息を呑む音。それを合図に少年の喋りが加速していく)
「最初は僕たちも隠れたんです。あのあたりは隠れる場所が多いから。木の影に隠れて女の子を見てたんです。そしたらまた女の子が歌い出して、僕たちが隠れている方においでおいでってするんです。僕は怖くなって、なのに勇斗がふらふらって女の子がいる方に歩いていって、あわてて追いかけて鳥居をくぐったら女の子が『おかえりなさい』っていってそしたら急に何も見えなくなっていきなり冷たい手に引っ張られてどこかに連れて行かれそうになって−ーー!!」
(沈黙。しばらくの間は少年の肩で息をする音だけが聞こえる)
「しばらく手を引かれるままに歩いていると、突然手を離されたんです。『君はまだ……もう少し先ね』って言われて」
 あ、えっと……君だけ解放されて、田島君は連れて行かれたってことかな?
「……わかりません。真っ暗で、何も聞こえなくて、寒くて。それ以外は何も覚えてないんです。歩いて、歩いて、気が付いたら病院のベッドの上でした」
(若い警官が「うぅむ……」と疲れた様子で唸る)
 君も辛いかも知れないけど、何か他に思い出せないかな。どんな些細なことでもいいんだ。
「…………1つだけ」
(本当なのか夢なのかはわかりませんが、と断ってから少年が呟くように答える)
「真っ暗な世界でふらふら歩いていた時。『必ずまた、今度は迎えに……』そんな声が聞こえた気がしました」
「ええそうよ。必ずまた、今度は迎えに。だから私はここにいる」
(少年の後に続いて少し舌足らずな、それでいてどこか嗄れている声が答える)
 だ、誰だ! どうやってここに!?
「あら、あらあら。そんな大きな声を出してはいけないわ。私は大きなものが嫌いなの」
 何を訳のわからなーーー
(警官の声が不自然に途切れる。少女が小さく笑い、少年はしゃくりあげるような声にならない悲鳴を上げる)
「あぁ、これで小さくなったわね。さぁ、あなたもいきましょうか」
(ガシャン、と何かが勢いよく倒れる音。しばらくそれが続き、やがて静かになる)
「……次はあなたね」
(舌足らずな嗄れ声を最後に、記録はぷつりと切れる)



     平成14年8月11日の新聞記事

   神隠し事件に変動あり?
        七枝山で変死体発見!
 8日の早朝、長野県藤林市にある七枝山で男性の変死体が発見されたことが警察から発表された。
 鑑定の結果、遺体は2年前に行方不明になっていた藤林警察署勤務の倉西猛巡査であることが判明。
 遺体は両手足及び胴体を無理やり"圧縮"されたように、身体の大きさが元の半分程度にされた状態で発見された。
 倉西巡査は未だに未解決の小学生行方不明事件の捜査にも関わっており、行方不明になった当日も、事件について唯一"神隠し"から還ってきた藤崎誠也君(当時12歳)に事情聴取をしていた。
 警察はこの事件を2年前の小学生行方不明事件と何らかの関わり合いがあるとし調査を進める方針。

  小学生行方不明事件
 平成12年6月13日。藤林市立宮台小学校に通う田島勇斗君(12)と藤崎誠也君(12)が友人数名と共に七枝山に行った後に行方がわからなくなった事件。
 藤崎誠也君は事件発生から1週間後に登山口近辺にて衰弱状態で発見されたが、その後、警察署で事情聴取を受けている際に聴取をしていた倉西巡査と共に再び行方がわからなくなった。
 2人の行方については未だ手がかり1つ見つかっていない。

2012/01/17(Tue)20:07:30 公開 / 浅田明守
■この作品の著作権は浅田明守さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 初めての方にははじめまして。そうでない方にはお久しぶりです。テンプレ物書きこと浅田です。
 久々の投稿でさっそくやらかしましたw 
 雑談板でもほざいていましたが半年前に自分で立てた企画をそろそろ動かしてみようかと。
 とりあえず企画を立てた張本人と言うことでホラーともそうでないともつかない良くわからない作品を投稿してみました。
 企画に参加する方も参加されない方も、少しばかりでも楽しんで頂ければ幸いです。

2012.1.17 誤字を修正

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。