『父か母か娘か息子か』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:晋出霊羅                

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「お父さん、私、女になった」

 ある小さな家庭で起こった出来事であった。
 大学で勉強の為上京している息子から手紙が届いた。 春休みに帰って来るという。
 
 春休み、明日息子は到着すると、母と父が意気込んで迎える準備をしている時だった。 一日早く息子は来た。 娘となって。
 
「お前、巫山戯ているのか?」
「嘘よね、龍平」

 娘は、小さく嘘じゃない。 と呟いた。
 母は、何をしていいか分からず、只オロオロする。
 父は、黙って娘を家に上がらせた。

 ちゃぶ台の周りを家族が囲む。
 
「龍平、どう云うことだか分かってるな」

 絵に描いたような頑固親父が口を開く。

「私が、決めたの」

 普通の女の子がはっきりと言葉を放つ。

「私が、決めたの。 私は女として生きていく、名前も変えるわ」
「龍平、今ならまだ間に合うわ」
「……もう間に合わないわ。 私女性ホルモンを射ってるのよ」

 重苦しい、沈黙。
 頑固親父が沈黙を解いた。

「仕方ない、こいつには俺達の血が流れてるんだ」
「………えっ?」

 俺達の血が流れている。 その言葉の意味を理解できずに、娘は混乱する。

「まぁ、何時かは言おうと思ってたんだけど……」
「父さんは、女だ」
 
 言うと父は笑顔を浮かべ、おもむろに衣服を脱ぎ、上半身裸となり、身に着けている物を晒す。 ブラだ、そして小さい胸。
 父さんは女だ父さんは女だ父さんは女だ父さんは………
 娘の頭にその言葉が流れ、ひとつの疑問が生じる。

「じゃ、じゃあ、私は誰から生まれたの!?」
「父さんに決まってるじゃないか」
「そうよ、父さん産む時苦しんでたんだから〜」

 父と母が笑う。
 娘は、不味い事になったと頭を抱える。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 溯る事十分前。
 散歩をしていた恭子に、夫婦の話声が聞こえてきた。

「いや〜、大学で龍平はちゃんとやってるかな」
「龍平なら、大丈夫ですよ。 明日帰って来るんだもの、用意しなきゃ」

 恭子は、昔から悪戯ばかりしていた。
 そして、この夫婦の会話を聞き、とんでもない悪戯を考えてしまったのだ。
 理性が悪戯を止める前に、体と口は動いていた。
 玄関に回り、恭子は言った。

「お父さん、私、女になった」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「じゃあ、私のお父さんは誰なの!?」
「そんなの母さんに決まってるじゃないか」
「…っえ?」

 笑いながら、母は恐ろしい事を口にする。

「私、男なのよ」

 恭子は目の前の二人が恐ろしかった。
 ほんの少し、少しの悪戯だったのに、とんでもない事を聞いてしまった。

 トゥルルルルルルルル、トゥルルルルルルル。

 そんな時に、電話は掛かってきた。
 母が、立ち上がり棚の上の電話の受話器を取る。

「もしもし、あぁ、龍平。 えっ!龍平!?」

 母と父が凄い目つきで恭子を見る。

「えっ!?ニューハーフになる?えっ、ちょっ、切らないで……」

 恭子は、一目散に逃げ出した。
 この親子は狂ってる。と何度も呟きながら。
 

2004/01/04(Sun)16:59:52 公開 / 晋出霊羅
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■作者からのメッセージ
家族の話が書きたかったらこんな事に。

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