『夢人 第六章』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:棗                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
「宿命」



もう一人の自分が疼く
もう一人の魂が疼く
もう一人の傷跡が疼く


俺は、とんでもなく訳の分からない事になっていたらしい。
頭痛が治まったと思ったら、自分の意識に関係なく、誰かに鎌を振り上げようとして。
そうしたら、その誰かに吹っ飛ばされて。誰かは、俺を悲しい目で見つめていて。
体中に静電気が走っているような感覚。錯覚かは定かではない。
夢ならいい、一瞬そう思った。
その、誰かにぶっ飛ばされた気持ち。その誰かを、殺そうとしていたという情けなさ。

もし夢だったら、話の種にして笑い飛ばせる、下らないことだが。


しばらくすると、また意識は無くなった。黒いフードが、俺の顔を包み隠す。
視界が暗く、そして空気は血生臭くなった。きっと、このフードには、血がこびりついているのだろう。
恐ろしい事なのに、頭の中で当たり前のように考えている自分が居た。

また気が付くと、俺の視界は赤一色になった。
血に染められた地面。そして、無数に飛び散る羽。
道の傍らで倒れている人。死に掛けている子供達。崩れ落ちた家。赤く燃える炎と、盛んに流れていく鮮血。
何処かで見た風景に、似ている。

しかし、それを見て、何とも思わない自分が居た。そして、その光景を

―――自ら作り出している自分が居た―――

鎌には、黒くなった血が付いていた。
黒いフードの裾は、少しだけ赤みを帯び、湿っている。
また、鎌を振り上げる。
助けてくれ、と懇願する声が、耳の奥で何回も轟く。何回も繰り返す。
しかし、今の俺に、人の命を助けてやろうと思う心なんてない。

ザクッ、という確かな感触。悲鳴。泣き叫ぶ声。

―――人の命を弄ぶ、死を愉しむ本性だけが、今の俺を支配しているのだから。


2003/11/19(Wed)22:50:03 公開 /
■この作品の著作権は棗さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
死神編はややホラーです。
全体的に暗めですが、書いていて楽しかったですよ(微笑)短いんですが。
ちなみに、誤りたいことが一つ。毎回パスワードが食い違ってしまい、新規投稿ばかりしてしまっています。すいません;

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。