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『嵌め殺しの窓』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:木沢井
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あらすじ・作品紹介
今日、俺はいつものようにやって来た。
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「こんにちは」
俺がそう言って訪れると、彼女はいつものように笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい」
どうも、と軽く会釈してからベッド脇の椅子に腰を下ろすと、俺はお決まりの台詞を投げかける。
「それで、今日は何があったんだい?」
「そぉねぇ」
聞かせるのが楽しみで仕方がない、と言わんばかりの笑みを顔全体に貼り付けながら、彼女は「今日、ツバメを見たのよ。ツバメ」と口火を切る。今日はツバメの話か。
「ほら、そこの家。今も見えるんじゃないかしら」
彼女が指さす先を見ずに、俺は次の言葉を待った。
「不思議よねぇ。毎年同じような場所に来るんだもの。どうしてかしら?」
ここいらで、決まって俺に話が振られる。
「さあな」
でも俺は、そのバトンをすぐさま彼女に返した。「そぉ」と彼女も気にせず、すぐさま話を続け始めた。
「そういえばね、一つ思い出したんだけど、ツバメは秋と冬になると見かけなくなるけど、どうしたのかしら?」
「そういえばそうだな」
昔、ツバメは寒くなったら暑い国へ行くんだとテレビか本かで知ったような気もするが、俺は相槌に留めておく。
「不思議よねぇ、ツバメ」
窓の向こう、とっくにツバメが飛び交う初夏の町並みを見つめて、彼女は短く呟いた。
「そうだな」
俺はただ、相槌を打つ。
夕焼けに染まる帰りの道すがら、俺は思い出す。
(――「何も話さなくていいから、代わりに一つだけ、わたしの話を聞いてほしいの」――)
これは俺が、彼女と最初に結んだ約束だ。
どんなに外のことを聞いても、見に行けないのでは結局塞ぎ込んでしまうだけだから、いっそ聞きたくない。知りたくもない。
だから、せめて窓から見える、わたしだけの世界を貴方に見て、聞いてほしい――そう彼女は、俺に言っていた。
――救いのない話だ。
彼女は外への関心を半ば以上捨てて、窓から見えるだけの世界に埋没してしまっている。温かくも涼しい、暑くも寒くもない、あの部屋のベッドの上で。
その原因は分かっている。何度か面と向かって(或いは視線で)非難された経験があるから。
(――「また明日ね」――)
それでも、毎日聞かされ続ける彼女の言葉を俺の脳からこそげ落とすには足りない。
「……ああ」
きっと俺は、明日もまた彼女の話を聞いてやりに行くだろう。明後日も、明々後日も、その先もずっと、彼女の声が俺の中に残り続ける限り。
嵌め殺しの窓は、開かない。
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2009/04/06(Mon)19:24:38 公開 / 木沢井
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■作者からのメッセージ
初めての方にははじめまして。それ以外の方にはTPOに則った挨拶をば。三流物書きの木沢井です。
毎日のようにダラダラと長ったらしい話ばかりを書いているからなのでしょうか、衝動のままに習作を兼ねて作ってみました。
どのような感想・ご指摘でも幅広く受け付けております。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
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