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『ブラジルへの近道』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:谷川蟹太
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あらすじ・作品紹介
夢への出発
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成田国際空港、第二ターミナルのロビーはさまざまな人種が集まる国際色豊かな場所だ。さまざまな色の人々が、歩いていたり、ソファで新聞などを読んでいる光景には新鮮なものを感じさせられる。
僕は搭乗手続きを済ませ、円のレアルへ換金を済ませると、出発時間まではソファに座っていること以外にすることがなくなってしまった。しかし、ソファに座っていても何もやることがなかったので、細長い空港のロビーを移動する外国人の大名行列をぼんやりと眺めていた。そんな風にぼーっとしていると、自然となにか考え事をしたり、昔のことを思い出したりするのが僕の癖である。そのときは自分が中学生だったころを回想していた。
* * *
中学で初めての試験の前夜に特別なものを見たのだ。僕はノートに書き込まれた内容を頭にねじこむために夜遅くまで起きていた。数時間も文字ばかり見ていたので、いい加減目に疲れが生じ、ふと、窓の景色に目を移した。マンションの四階から見える景色は大部分が真っ暗な夜空だった。星は見えるだろうか、と思い目を凝らしてみると、塩粒のような小さな星をいくつか確認することができた。
そのときだ、特別なものをみたのは。
黄金に輝く物体が暗闇を駆け抜けた。それは衝撃的で一瞬のことだったのか、五秒くらいのことだったのか、ともかく時間の感覚を忘れさせるほどのものだった。
僕は呆然とした。そしてすでに、その時にはそれに魅了されていたのだった。テストの結果は散々だった。
それがきっかけで、僕は宇宙に関する本を片っ端から読んでいった。未だに馴染めないクラスの雰囲気から逃げだしたかったのかもしれない。気まずい空気の流れる休み時間は読書に明け暮れていた。しかし、それが原因でか、僕はクラスから孤立しまうようになる。
そんな僕の中学生活にも一人だけ友達がいた。ある授業でペアを組んで作業をすることになった。僕は辺りを見回したが、他の人たちは次々とペアを作っていた。あきらかに仲のよさそうでない者がしかたなくペアを組んでいるのは、どうやら僕とは一緒になるのが嫌なようである。むう、どうしたものか、と困っていると後ろから肩を叩かれた。振り向いてみると、そこには谷崎がいた。僕はクラスの中で顔と名前が一致するのは谷崎だけだった。なぜかというと、谷崎もクラスからなんとなく嫌悪されているようだったので、すこし気にしていたのである。谷崎の場合、考え方や言動が周りとずれているからだった。
そうやってなんどかペア組むときは毎回谷崎とだったので、一緒に作業をしていくうちに仲良くなっていった。
ある日、休み時間に例のごとく読書をしていると、谷崎が横から顔をひょっこりと顔を出して本を覗き込みながらたずねてきた。
「何を読んでるの」
谷崎は本などに興味がなさそうだったが、僕が毎日読んでいるものだから気になっているらしかった。僕は谷崎に表紙を見せてやる。
「そういうのに興味があるんだ。毎日読んでるのも宇宙の本か?」
「まあね」
と答えると谷崎は少し驚いたようだった。
「ホー。じゃあ、将来はその専門家になるんだ」
その質問を聞いたとき、僕は黙り込んだ。どうなんだろう。好きでこういうものを読んでいるが、これが将来に関わらせることを考えていなかった。
「わからない。確かに好きだけど、これは仕事になるようなものではないし、他人が理解してくれそうなものでもないし」
「えー、もったいないじゃん。そんなに勉強してんのに」
「でも……」
僕は顔をうつむかせた。これが馬鹿馬鹿しいものだと半ば気付き始めていたのだ。
「ブラジルへの近道って知ってる?」
「えっ」
突然何を言い出すんだろう。
「ブラジルへの近道ってなんだと思う?」
僕は少し考えてから「ドリルで穴を掘っていくとか?」と答えた。
「ちがうよ。物理的に無理じゃん」
「え、じゃあなんだよ、正解は」
「正解は……」
谷崎はわざと間をあけてから、
「とにかく前に突き進む」
と言った。思いがけない答えに僕は少し押し黙った。
「……なんだよ、それだって物理的に無理だろ」
「でも、船とか車とかいろいろ使えば可能だろ、ある程度」
「なんだよ、それ……」
僕はあまり納得のいかないので思わずそう呟いたが、谷崎が言わんとすることは分かっていた。
「まあ、そういうことだよ」
僕は未だにそのときのやり取りをはっきりと覚えている。
* * *
周りがすこしさわがしくなった。どうやら僕の乗る飛行機の搭乗が始まったらしい。僕はソファから立ち上がって、ゲートへ歩いていく。
飛行機の指定された席に座っても、離陸するまでにはまだ時間があるようだ。
これからブラジルへ行く。その理由はあのやり取りのせいも少しはあるが、一番の理由は僕があの夜見たもの――UFOがブラジルでよく見られるからである。僕は現地のUFO愛好家のもとへ訪れて、UFO研究に従事する。その夢がもう始まろうとしていると思うと身体の芯が熱くなった。
飛行機が震動しながら滑走路へ移動していく。備え付けのモニターが飛行時間や緊急時の脱出の方法を知らせていて、そして次に「この航空機はニューヨークで給油した後、サンパウロに向かいます」という情報が流れたとき、それはちょっと遠回りだな、と思った。
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2009/02/28(Sat)18:40:06 公開 / 谷川蟹太
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