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『ブラジルへの近道』 作者:谷川蟹太 / リアル・現代 ショート*2
全角2202文字
容量4404 bytes
原稿用紙約6.6枚
夢への出発
 成田国際空港、第二ターミナルのロビーはさまざまな人種が集まる国際色豊かな場所だ。さまざまな色の人々が、歩いていたり、ソファで新聞などを読んでいる光景には新鮮なものを感じさせられる。
 僕は搭乗手続きを済ませ、円のレアルへ換金を済ませると、出発時間まではソファに座っていること以外にすることがなくなってしまった。しかし、ソファに座っていても何もやることがなかったので、細長い空港のロビーを移動する外国人の大名行列をぼんやりと眺めていた。そんな風にぼーっとしていると、自然となにか考え事をしたり、昔のことを思い出したりするのが僕の癖である。そのときは自分が中学生だったころを回想していた。

      *      *      *

 中学で初めての試験の前夜に特別なものを見たのだ。僕はノートに書き込まれた内容を頭にねじこむために夜遅くまで起きていた。数時間も文字ばかり見ていたので、いい加減目に疲れが生じ、ふと、窓の景色に目を移した。マンションの四階から見える景色は大部分が真っ暗な夜空だった。星は見えるだろうか、と思い目を凝らしてみると、塩粒のような小さな星をいくつか確認することができた。
 そのときだ、特別なものをみたのは。
 黄金に輝く物体が暗闇を駆け抜けた。それは衝撃的で一瞬のことだったのか、五秒くらいのことだったのか、ともかく時間の感覚を忘れさせるほどのものだった。
 僕は呆然とした。そしてすでに、その時にはそれに魅了されていたのだった。テストの結果は散々だった。
 それがきっかけで、僕は宇宙に関する本を片っ端から読んでいった。未だに馴染めないクラスの雰囲気から逃げだしたかったのかもしれない。気まずい空気の流れる休み時間は読書に明け暮れていた。しかし、それが原因でか、僕はクラスから孤立しまうようになる。
 そんな僕の中学生活にも一人だけ友達がいた。ある授業でペアを組んで作業をすることになった。僕は辺りを見回したが、他の人たちは次々とペアを作っていた。あきらかに仲のよさそうでない者がしかたなくペアを組んでいるのは、どうやら僕とは一緒になるのが嫌なようである。むう、どうしたものか、と困っていると後ろから肩を叩かれた。振り向いてみると、そこには谷崎がいた。僕はクラスの中で顔と名前が一致するのは谷崎だけだった。なぜかというと、谷崎もクラスからなんとなく嫌悪されているようだったので、すこし気にしていたのである。谷崎の場合、考え方や言動が周りとずれているからだった。
 そうやってなんどかペア組むときは毎回谷崎とだったので、一緒に作業をしていくうちに仲良くなっていった。
 ある日、休み時間に例のごとく読書をしていると、谷崎が横から顔をひょっこりと顔を出して本を覗き込みながらたずねてきた。
「何を読んでるの」
 谷崎は本などに興味がなさそうだったが、僕が毎日読んでいるものだから気になっているらしかった。僕は谷崎に表紙を見せてやる。
「そういうのに興味があるんだ。毎日読んでるのも宇宙の本か?」
「まあね」
 と答えると谷崎は少し驚いたようだった。
「ホー。じゃあ、将来はその専門家になるんだ」
 その質問を聞いたとき、僕は黙り込んだ。どうなんだろう。好きでこういうものを読んでいるが、これが将来に関わらせることを考えていなかった。
「わからない。確かに好きだけど、これは仕事になるようなものではないし、他人が理解してくれそうなものでもないし」
「えー、もったいないじゃん。そんなに勉強してんのに」
「でも……」
 僕は顔をうつむかせた。これが馬鹿馬鹿しいものだと半ば気付き始めていたのだ。
「ブラジルへの近道って知ってる?」
「えっ」
 突然何を言い出すんだろう。
「ブラジルへの近道ってなんだと思う?」
 僕は少し考えてから「ドリルで穴を掘っていくとか?」と答えた。
「ちがうよ。物理的に無理じゃん」
「え、じゃあなんだよ、正解は」
「正解は……」
 谷崎はわざと間をあけてから、
「とにかく前に突き進む」
 と言った。思いがけない答えに僕は少し押し黙った。
「……なんだよ、それだって物理的に無理だろ」
「でも、船とか車とかいろいろ使えば可能だろ、ある程度」
「なんだよ、それ……」
 僕はあまり納得のいかないので思わずそう呟いたが、谷崎が言わんとすることは分かっていた。
「まあ、そういうことだよ」
 僕は未だにそのときのやり取りをはっきりと覚えている。

     *      *      *

 周りがすこしさわがしくなった。どうやら僕の乗る飛行機の搭乗が始まったらしい。僕はソファから立ち上がって、ゲートへ歩いていく。
 飛行機の指定された席に座っても、離陸するまでにはまだ時間があるようだ。
 これからブラジルへ行く。その理由はあのやり取りのせいも少しはあるが、一番の理由は僕があの夜見たもの――UFOがブラジルでよく見られるからである。僕は現地のUFO愛好家のもとへ訪れて、UFO研究に従事する。その夢がもう始まろうとしていると思うと身体の芯が熱くなった。
 飛行機が震動しながら滑走路へ移動していく。備え付けのモニターが飛行時間や緊急時の脱出の方法を知らせていて、そして次に「この航空機はニューヨークで給油した後、サンパウロに向かいます」という情報が流れたとき、それはちょっと遠回りだな、と思った。
2009/02/28(Sat)18:40:06 公開 / 谷川蟹太
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この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
スッキリとしていて、とても読み易かったです。谷崎は主人公とのやり取りだけでも、少し変わってるなって思えるけど決して嫌な奴とかじゃなくて「なるほどな」って思える所があり、最後に主人公が自分の夢と向かうという終わり方が好きでした。文章の途中で(30文字ごとに)入ってしまっている改行は故意にではないと思うので直した方が、読みやすくなると思います。
では次回作も期待しています♪
2009/02/28(Sat)18:10:210点羽堕
 はじめまして。羽堕様
 感想ありがとうございます! 返信が早くて、しかもほめていただいて、とってもうれしいです!
 ご指摘くださいました改行はさっそく直してみました。コピペしたままを修正せずに投稿してしまったので、あんなふうに右半分がまっしろな状態なってしまったのでした。読みにくい状態で読んでくださってほんとにすいませんでした。
2009/02/28(Sat)18:49:060点谷川蟹太
こんにちは、頼家と申します。
作品を見させていただきました。まとめられた良い作品だと思います!
 UFO発見からその後の展開。しかし、谷崎君もまさか主人公が将来『天文学』ではなく『UFO学(?)』に進むとは、私と同じく思ってもみなかったでしょう。その意外性に、少しクスリとしました^^
 何気ない事がきっかけで出会った人の何気ない一言が(それが主な原因でなかっとしても)結果として夢への後押しになる事もあると思います。この場合は谷崎君の「もったいない」と「ブラジルへの近道」の件でそれが表されているのでしょうか?(主要因はもちろん主人公が実際にUFOを見たからだと思いますが)
 最後の一文も谷崎君の話と絡んでいて、いい味を出していると思います!
 語りすぎずコンパクトに書きたいことをまとめるショートの書き方。勉強させていただきました!
 頼家
2009/03/01(Sun)17:51:060点有馬 頼家
 こんにちは、頼家様。
 とてもほめていただいて、なんだか恐縮です。。。
 「語りすぎずコンパクトに書きたいことをまとめる」というふうに見えるのかもしれないのですが、自分的には小説の文量がこれで精一杯なんです(笑)。いつかは長編を書けるようになりたいです。
2009/03/02(Mon)19:03:140点谷川蟹太
谷川さん、はじめまして。春野藍海(ハルノアオミ)と申します(^^*
私も谷川さんと同じ頃からこのサイトにお世話になっているので、「あっ、同期だな(^^」と思いながら読ませていただきました。
谷崎は『周りがどうであろうとまっすぐに自分の道を進め』と遠まわしに主人公に強いエールを与えているように思えて、こういう友情っていいなぁ。と微笑ましくなりました。そして、最後の「ちょっと遠回りだな」の行は気持ちをくすぐられ、すごく良い部分だと感じます。こういう回し文句をさらっと書けるのは、素晴らしいと思いました。
次の作品を楽しみにしています!ぜひ、谷川さんの長編も読んでみたいと思いました!!
同期(?)として今後もよろしくお願いしますね(^^
2009/03/06(Fri)15:52:060点春野藍海
 はじめまして、春野さん。
 僕は最近投稿したばかりでこのサイトの誰も彼もが先輩だと思っていたので、そういってもらえると嬉しいです。
 長編はいつか挑戦してみたいのですが、人生初の長編になるだろうから大した作品にならないとおもいます(笑)。
2009/03/08(Sun)17:26:230点谷川蟹太
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