『ヤセ馬ロバート』 ... ジャンル:ファンタジー 童話
作者:えびすかぼちゃ
あらすじ・作品紹介
つらい環境にいるお馬さんが、新たな環境に向けて一歩を踏み出すお話です。4000字程度ですぐに読めると思います★よかったら読んでみてください★
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
馬のロバートはひどくやせていました。脚には重い、鉛の鎖をはめられています。
「やい、働け!」
飼い主のルドルフは姿をあらわすなり、いつものようにロバートをむちで打ちました。お酒の入った樽を何十も載せた荷馬車をひいて、ロバートは朝から晩まで働きます。けれどももらえるごはんときたら、ひとつかみの牧草だけ。ひどい日はそれすらもらえません。仕事が終わってぐったりとしたロバートを見たルドルフは言うのです。
「役立たずの醜い馬め。こんなろくでなしを雇ってやっている俺に感謝しろ。」
それだけではありません。ルドルフは機嫌が悪いと、理由もなくロバートを打ちます。
「かわいそうに、なんとかにげだせないのかい。」
道を行く親切な辻馬車の馬がロバートに声をかけます。でもロバートは言うのでした。
「にげ出すなんてとんでもない。この鉛のくさりはとてもはずせません。それに、私のようなろくでなしの醜い馬は、ここを出たらきっと雇ってくれる人などないでしょう。」
そうして話していると決まって、ルドルフがききつけて、すごいけんまくで辻馬車の馬たちを追い払います。
「かわいそうだが、あれでは近づけない。」
ある日の夜、ルドルフがひどく酔っ払って馬小屋にやってきました。また八つ当たりされるんだ、とロバートは覚悟を決めます。が、ルドルフが振り上げた手を見てロバートは震え上がりました。いつものむちではない、金棒です。
「殺される!」
ロバートは必死でもがきました。ルドルフの顔をひづめで蹴り上げました。それから鉛の鎖も力いっぱい引っぱりました。すると、鉛の鎖は雨でさびた部分から、いとも簡単にちぎれたのです。傷の痛(みにうずくまるルドルフを横目に、ロバートはちぎれた鎖をしげしげと眺めました。
「やってみれば、たやすいことだったんだ。」
けれどもぐずぐずしてはいられません。ロバートは大急ぎで、町にむかって走りました。
あたりがうっすらと白(しら)んできたころです。
「あら、ロバートじゃないの!」
声のするほうを見ると、それはあの、親切な辻馬車の馬でした。
「よくにげてきたね。さあ、お入り。」
辻馬車の馬は自分たちの食事をロバートに分け与えました。
「これから、どうするの」
「ここでもたもたしていては、追っ手が来て、またもとのもくあみ、それどころか前よりもっとひどい目にあわされるかもしれません。
私だけでなく、あなたたちも。」
「なら、西の市場に行きなさい。私の弟のフレッドを訪ねるといい。きっと力になれるわ。」
市場についたのはもう夕方で、人々は店じまいをはじめていました。辻馬車の馬の弟フレッドは駅馬車の会社に勤めていました。
「仕事ならたんとあるぜ。辻馬車、駅馬車、乗合(のりあい)馬車…。面接にいくといいよ。」
「私のような醜(みにく)い馬がお客をのせて走るなんてとんでもない。荷馬車で十分です。」
荷馬車の面接に行くと面接官が言いました。
「食事一日三回、週休二日。楽に暮らせるぜ。」
がはは、と笑う面接官の目を見て、ロバートの背筋(せすじ)が凍(こお)りつきました。ぎらっと光るその目が、ルドルフにそっくりだとロバートには思えたのです。
「うまいことを言って、私を飼いだしたらまたひどい目にあわせる気じゃないだろうか。」
ロバートは仕事を自分から断(ことわ)って、とぼとぼ、夜の市場を歩きました。
もうすっかり人も少なくなった市場で、ロバートは大きな荷車(にぐるま)を引く女の子に出会いました。この荷車は女の子には大きすぎて、しょっちゅうバランスが崩(くず)れては荷物がこぼれ落ちるので、女の子はなかなか前に進めないのでした。ロバートは思わず声をかけました。
「もし…よかったら私が運びましょうか。」
「ほんとですか。でも…すごく重いのよ。」
「だから、私が運ぶのです。これくらい、わけない。さあ、私にお乗りなさい。」
「私、スー。市場の西の村、トリヤで畑を営(いとな)んでいるの。あっちよ。」
スーの家に着くと、スーの半分くらいの身長の男の子が走りよってきました。
「おかえりなさい。わあ、お馬さん」
「母は弟が生まれてすぐ、亡くなったんです。父も去年疫病(えきびょう)で倒れて、今は弟と二人なの。」
スーが淡々(たんたん)と説明しました。ロバートはじっときいていましたが、隣人の声がするたににびくっと震え上がりました。
「まあ、なにもおびえることはないのよ。かわいそうに、よほどひどい目にあわされてきたのね。」
その夜、ロバートは人目を避け、民家を少し離(はな)れた裏山(うらやま)で眠りました。朝になると、スーの畑仕事を手伝いました。夜になると、また裏山に戻っていきました。スーはそんなロバートに何も言いません。ただやさしくたてがみをといてくれたり、からだを洗ってくれたり。そんなスーの気持ちにこたえたいと、ロバートはますます一生けんめいスーの仕事を手伝いました。
こうして秋になりました。スーとロバートはいつものように市場にでかけました。一生けんめい働いたかいあって、小麦はいつもの二倍採(と)れました。ロバートは市場でもできる限りの愛嬌(あいきょう)をふりまき、売れ行きにも一役(ひとやく)買っていたので、スーは両親を失って以来初めて、十分なお金を手にしていました。
「ああ、ありがとう、ロバート。あなたのおかげよ。これでやっと、うちの軒(のき)に大きな屋根を作ってあなたを雨から守ってあげられる。それから…一着だけ、一着だけ、私、自分のドレスを買っていいかしら。そんなもの、私に似合わないかしら。」
「似合いますとも。貴族(きぞく)のおじょうさんのように綺麗(きれい)になれますよ。」
ロバートはスーを乗せて、仕立て屋の並ぶ通りへ向かいました。
そのときです。
「やい、金をよこせ!」
四人の男たちが、ロバートとスーを囲みました。手にはナイフを握っています。
「よこさないと命はないぜ。」
体格のよい男たちににらまれて、スーは泣きながらお金を差し出そうとしました。ロバートの胸に、激(はげ)しい怒りがこみあげてきました。相手は四人、しかも武器ももっています。でも、ロバートはあの、ルドルフと闘(たたか)ったときのことを思い出していました。やってみれば、できるかもしれない。
「スー、しっかりつかまって!」
ロバートは思いっきり暴れだしました。
気がつくと、四人の盗賊(とうぞく)はすっかり気を失っていました。
「今のうちよ、警察(けいさつ)に知らせましょう。」
「なんてことだ、それは有名な盗賊、ハーシムの一行だよ。盗みのプロ中のプロ。君たちがお金を手にするのを市場で見て、つけてきたにちがいない。いや、よくやってくれた。」
なんと、ロバートは国王さえも悩ませていた盗賊たちを退治(たいじ)したのです。警察はハーシムたちを逮捕(たいほ)に走りました。そしてロバートとスーは王の宮殿(きゅうでん)に呼ばれました。
「きみは自分の大切な人を守るために危険をかえりみず戦える、勇敢な馬だ。ぜひ、王宮の馬として働いてもらいたい。」
王を前に、ロバートはもう、人間を恐れたりはしません。
「ありがとうございます。しかし、お願いがございます。スーと弟を私の世話係りに、王宮に呼んでもらえないでしょうか。」
「よかろう。」
ロバートの宮殿初仕事の日、ロバートは公爵こうしゃく夫人を乗せて、三頭立ての馬車を引くことになりました。
「公爵夫人を私のような醜い馬が…。」
ロバートが言いかけると、王は庭の池のほうにロバートをいざないました。王に導みちびかれるままに、池をのぞいたロバート驚きました。そこにはたくましく、ふさふさのたてがみをもった馬が映っていたのです。
「そなたは、ただやせすぎていたのだ。」
今ではロバートは王宮の馬として立派に働いています。そんなロバートの一番の楽しみは、ドレスを身にまとった世話係のスーを乗せて、朝の散歩にでかけることです。
宮殿へ帰るみちすがら、ロバートは一度だけ、あのルドルフを見かけたことがあります。相変わらず酔っ払って、貧乏で、いらいらしています。あの男を恐れていた日々を思い出すと、なんだかおかしくなってしまいました。このすばらしい三頭立ての馬車をひく馬があのやせ馬ロバートだなんて、ルドルフは気づきもしません。いつか仕返しを、と思っていたロバートの気持ちはすっかり消えてしまいました。、
「もう、過去のことだ。」
ロバートはきらびやかな宮殿にむかって、駈けていきました。
2006/07/07(Fri)01:27:50 公開 /
えびすかぼちゃ
http://www.geocities.jp/melodies730 (
■この作品の著作権は
えびすかぼちゃさん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
環境を変えることを怖がっている友人に、応援のつもりで書きました。
読んで下さった方、ありがとうございました。
作品の感想については、
登竜門:通常版(横書き)
をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で
42文字折り返し
の『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。