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『欠片となって降る記憶』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:LOH
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目を開けると、いつの間にかヴァイオリンを止めて心配そうに覗き込むライの顔。
「シラン? 大丈夫かい?」
「ライ……」
ライに関する記憶が次々に浮かんでくる。
何十年も離れていた恋人のような感じがして、私は目に涙を浮かべた。
「ライ……!」
もう一度懐かしく愛しいその名を呼んで、私はライの首に腕を回した。
「ライ…ライ……」
「シラン? シラン、どうしたんだ」
いつもと違う私の態度に、ライは動揺しているようだ。
しかしライの頭の中にもあるはずだ。
私が記憶を取り戻したという考え。
「シラン…? もしかして君は記憶を……」
私は何度も首を縦に振る。
「そうか。そうか…よかったな……!」
大きな手が私の頭と背中をライの方へ引き寄せた。
しばらく、これ以上ないほど近づきたいと、お互いを求めるように抱き合った。
身体を離し、視線を合わせる。
薄い蒼の瞳を見つめながら、私はライとのことを思い出す。
今まで忘れていた思い出が、次々と浮かんでくることが、嬉しくてたまらない。
ライの吸い込まれるような瞳がだんだん大きくなる。
私の唇はライのと近づき、触れ合った。
懐かしい柔らかい唇の感触に、私達は数十秒唇を離すことはなかった。
「シラン、取り戻したばかりでこんなこと聞くのはあれなんだけど……」
「記憶喪失の原因…ね」
一つため息をすると、ライは心配顔になる。
「辛かったらまだいい。もうすこし時間を置いてからでいいから」
「大丈夫。実を言うと、私もはっきりとは思い出せないの」
頬を持ち上げて、ライの表情を直そうと努めた。
でもそれは事実で、少しずつ思い出してくる感じ。
「私はいろんな事を抱えていた気がする。なんか毎日のパーティとか、誕生日を迎える毎に増えていくお仕事とか。もううんざりって……。それに、そのおかげでライと一緒にいる時間もなくなってきてね。こうやって、ライがヴァイオリン弾いて私が歌うことも、前は良くやっていたよね」
そういえばそうだなと、ライの顔に笑みが戻った。
私はその笑顔に力をもらっている。
「なんか、もう自分が爆発しそうになっても誰にも言えなくて。心配してほしくなかったのよ。ライはライで忙しいから甘えられないし…。それにこんなこともできないくらい弱いなんて認めたくなくて」
ライは黙って聞いていた。
無駄な口出しをして、私の話を止めたくないのだろう。
それは私も同じだから、かえってそれが嬉しかった。
調子良く、次々に記憶が甦ってくるのだ。
「でも、爆弾に火をつけたのは、私への陰口……って言うのかな」
「まっ……!」
勝手に動き出した自分の口を、慌ててライが抑えた。
その姿に思わず笑みをもらしてしまった。
「あんまり関わりないお手伝いさん。それで、嫌われるならなんで私こんなことやってるのって気になって。自分で人生は選べないから……この国を治めなきゃいけない人に生まれたから……って思うのに……」
「それで、記憶喪失に……?」
私が話し始めて、やっとまともに口にしたライの質問に、私は頷いた。
「現実から逃げたかったのよ。記憶を失おうとも。少しでいいから、休息の時間がほしかった……。でも、もう十分ね。ちょっと、強くなれた気がするから」
さぁっと、春の温もりを含んだ爽やかな風が、私達の横を通り過ぎた。
横に首を回すと、私が生まれたときから共に生きてきた愛しい顔がある。
そして、私に向かって微笑んでくれている……この笑顔さえあればそれで十分なんだろう……。
「幸せだな、シラン。今日も、これからも……ずっと幸せなんだな」
「うん……。シアワセかもね…」
私は首の力を抜いて、ライの肩に自分のそれを預けた。
春の薫る風が心地いい。
このまま時間が止まってしまえばいいのにと思うほど、シアワセな時間が過ぎていく。
そんなシアワセな時間は、今までの記憶を一度砕いた事で、できたような気がする。
結局記憶を失った事は、私の損になったのか得になったのかはわからないけど。
ライとの絆が強くなった事には変わりない。
こんなことを思う私は、やはりありきたりなロマンティストかもしれないけど……。
そんな人が一番思ったことをストレートに言えるのではないかと思ったのも事実だ。
今、ライの近くで、ライとの思い出に浸りながら、ライと触れることができる私は……。
この瞬間の中では一番のシアワセ者かもしれない。
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2003/11/15(Sat)23:26:00 公開 / LOH
■この作品の著作権はLOHさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
やっと終わりました。
ここまで適当にでも読んでくださった方!!
本当に本当にありがとうございました!!
まだまだ未熟者ですが、がんばっていきたいと思います。
ありがとうございました
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