- 『ある学校の文化祭前日』 作者:Itsuki / ショート*2 ホラー
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全角2430文字
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原稿用紙約7.5枚
文化祭前の興奮で沸き立った学校。 翌日のことを考え、笑顔にあふれる生徒たちの顔。 ……それが一転、恐怖に引きつる。
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私の学校の文化祭が明日開催される。
私のクラスは社会科教室で演劇をやるので、今日の放課後は準備で大忙しだ。机を運び出し、ステージを造るスペースが空けられた。椅子もはじっこに寄せられて、教室の中は見違えるように広くなった。
私と友達の桃子ちゃんは小道具を作る係だったので壁際に座りこんで段ボールで王冠を作っていたが、手よりも口のほうが忙しかった。
「B組は女装のメイドカフェをやるんだって」
「ええっ、…… じゃあ、あの野球部の部長もメイド服を着るの?」
「気持ち悪いよねえ」
「C組はお化け屋敷だって聞いたけれど……」
「かなり怖いらしいよ。桃子ちゃん、明日一緒に行かない?」
「私は怖いの苦手だから行かない」
すげなく断られてしまったが、それでもめげずに誘おうとした時だった。
「この本棚の裏に何かついてるぞ!」
近くで棚の移動をしていた男子が声を上げた。
首を伸ばして見てみると、確かに白い紙が貼られていた。とても古いらしく、書かれている文字は埃で読める状態ではない。それでも、墓地で見かける卒塔婆に書かれているような記号みたいな文字であることはわかった。
「それってお札じゃないの?」
思いついたままに私が言うと、興味を持った野次馬が押し寄せてきて大騒ぎになった。私と桃子ちゃんははじき出されてしまい、離れた所から様子をうかがっていた。
「ねえ! 先生を呼んできた方がいいんじゃない!?」
怯えた桃子ちゃんが声を張り上げたが、みんなの耳には届いていないようだった。嫌な予感が胸をよぎった時、まさに恐れていた音が聞こえてきた。
―― ビリッ、と。
「おまえ、なに破ってんだよ!」
「おまえが引っ張ったからじゃねえか!」
ぎゃあぎゃあ言っている彼らの向こうに見える夕空が、いつの間にか曇っている。
「先生を呼んでくる」
ドアの近くにいた女子が廊下に出ようとした。その鼻先で突然勢いよくドアが閉まった。取っ手に手をかけてガタガタやっているが、鍵の付いていないドアがうんともすんとも言わなかった。慌てて駆け寄った男子三人がかりでも開かなかった。
そうこうしているうちに、ずいぶんと気温が下がった。―― 季節は秋。まだ夏の名残を感じられる暖かさだったのに、吐いた息が白く見えるほど寒くなった。
「怖い……」
隣に立っていた桃子ちゃんが震えながらしがみついてくる。私も怖くなって、足がすくんでしまった。
そして追い打ちをかけるように教室中の電気が消えた。悲鳴を上げたのは私たちばかりでなかった。みんなパニックに陥り、収拾がつかなくなった。
「みんな、落ち着け!」
HR長が気丈にも声をかけたが、恐怖に対する歯止めにはならなかった。
きわめつけに、蛍光灯が割れて落ちてきた。
「きゃあ!」
私の腕を掴んでいる桃子ちゃんの手に力がこもった。骨が折れるんじゃないかというくらい強くて、痛かった。けれど、それは私の正気を保つのに役立った。桃子ちゃんが氷のように冷えているのがわかったので、私はぎゅっと抱きしめてあげた。互いの熱が伝わるように、ぎゅっと。
HR長がこちらを向いた。そして驚いたように目を見開く。
「桃子っ! どうしたんだ!?」
顔色を変えて走ってきたHR長は、私の脇まで来て、なぜかしゃがみ込んだ。不思議に思ってそちらに目をやると、真っ青な桃子ちゃんがぐったりと目をつむって床に倒れていた。HR長が揺すったり、頬を叩いたりしている。
(どうして桃子ちゃんがそこにいるの。桃子ちゃんは私が抱きしめているのに……)
背筋が寒くなった。
そんな私の心を読んだかのように腕の中にいる誰かがしがみつく力を強くした。まるで、逃がさないぞと言うように。
そんなことはしたくないと思いつつも、自分が抱いているものの正体を見ずにはいられなかった。きしきしいっている首をゆっくりと動かし、視線を動かした。
―― 見てしまった。
* * * *
HR長である俺が何とかみんなをまとめなければ。
そう思って恐怖を脇に押しやった時、桃子が倒れているのが目に入った。
「桃子っ! どうしたんだ!?」
走って行って、揺すったり、頬を叩いたりしたが、気絶したまま目を開けない。どうしたらいいのかとうろたえて、周りを見回した。すると、すぐ隣に立っていた女子の様子が変なのに気付いた。身体がガタガタ震えて、白目をむいて泡を吹いている。そして腹から女の首が生えていた。
「うわっ!!」
叫び声をあげて飛び退る。女の首から目を離さずに桃子を引き寄せた。
女子の腹から生えた女は、ずるずると長い髪の奥からこちらを見ていた。視線が合ったと思った時、女はにやりと笑った。そのまま女子の腹の中に潜っていって、見えなくなった。
自分の見たものの恐ろしさに動けずにいると、棒が倒れるようにして女子が倒れた。心配になり近づこうとしたが、それより前に女子は起き上った。まるで操り人形のように不自然な起き上り方をした。よく見ると、足が数センチ浮いている。
この異様な光景を前に誰一人として動くことができなかった。
その中を女子は浮いたまま移動し、窓の一つにたどり着く。手を触れてもいないのに、勝手に窓が開いた。窓の外を覗きこむようにして前のめりになり、狂ったような笑い声をあげる。
あっ! と思った時にはもう遅かった。
女子は床を蹴り、窓の外に身を投げた。
我に返ったクラスメイトが窓に駆け寄ったのは、彼女がもう地面に叩きつけられた後だった。
あまりの惨劇にみんな茫然としていると、教室に教師が飛び込んできた。不思議なことに、あれほど引っ張っても開かなかったドアがあっけなく開いていた。
――文化祭は中止になった。数日後、亡くなった女子生徒の慰霊祭が行われた。そして社会科教室は使われなくなった。
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2012/10/02(Tue)18:25:48 公開 / Itsuki
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■作者からのメッセージ
ありきたりなストーリーですが、いかがでしたでしょうか。
私はまだ未熟者なので、読んでくださった皆さんに満足していただけるような文章ではなかったかもしれませんが、初投稿のこの作品に今の私の全力を注ぎこみました。
読んでくださった皆さん、ありがとうございました。