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『英雄伝説 七聖士物語 第2話〜第3話』 作者:蒼月 / 未分類
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 いつもと同じ朝、でも気分はいつもと違う。
 わくわくしてたまらない。
 今日はいつもより太陽が輝いて見えた。


  2話「魔法修行初日」


 昨日一日で何だか生まれ変わった気分だ。
 もしかしてこれは夢なんだろうか。
 勇気は朝食のトーストをかじりながらそんなことを考える。
 でも、勇気はもしこれが夢でもよかった。
 なんせこんなにわくわくしたのは久しぶりだ。
(夢なら夢で、とことん楽しんでやる!)
 トーストの残りを全部口の中に放り込むと、後は牛乳で流し込む。
 今日はあの3人と一緒に登校することになってる。だから、あまりのんびりしてもいられないのだ。
 勇気はハンガーにかかっているブレザーの上着をはおって学校指定のネクタイをしめた。
 その時、ふと鏡に映った自分が視界に入って、なんとなく鏡の正面に立って自分の制服姿をじっくり眺めてみる。
 鹿草高校の制服はかっこいいと、他校の生徒の会話でよく聞くがまったくもってその通りだと自分も思う。
(この辺では一番って言っていいくらいじゃないか?)
 しばらくそうしてぼーっと突っ立ていたが、はっと我に返る。
(こんなことしてる場合じゃねーや。)
 次は鞄をとりに勉強部屋の方へと足を向ける。
 荷物のチェックを済ませて、居間のほうへ進み昼食のパンを鞄へとつめこんだ。
(よし、準備万端!後は待つだけ。)
 準備万端なのは結構なことなんだが、何もすることがなくなって急に暇になってしまった。
 仕方がない。昨日言われたことの整理でもするか。
 何が分かっていて、何が分かっていないのか。
 整理をすれば、聞きたいこともすぐに聞けるだろう。
 とりあえず昨日、一緒にサファイアたちと帰っている中で分かったことがいくつかある。
 まず、魔法の星っていうここからずっと離れた星がサファイアたちの故郷であること。
 その故郷の星では地球とは違って、もう星全体がひとつの国のようになっているらしい。
 他の生命のある星との交流をしてるとも言ってた。
 国が星単位になったと思ったらいいんだろう。
 そしてその魔法の星全てをまとめる次の女王がエミリィーだそうだ。
 昔の王朝時代の名残で一応、王とは呼ばれてはいるが、(エミリィーは次の女王だから今は姫)豪華な生活ができるわけではないらしい。
 すごく忙しい上に大変な仕事だって…。
 国ひとつまとめるのも大変なんだ。そりゃ大変だよな。
 それに、王は血筋では決まらない。
 時期王希望者が募った大会で優勝しなければその地位は獲得できない。
 それは、知能、武力、気品、判断力…そういった必要とみなされるものは全て見極められるらしい。
 エミリィーはそれで1位なのだ。
 同じ年なのに本当にすごい。
 教室で彼女を見たとき、どこかの女王様みたいだって思ったけど、まさか本当にそうだ ったとは…。
 その交流をしている星にもちろん悪魔族もあって、ずっと昔から悪魔族と魔法族は仲良くはなかったらしい。
 ここ数年は連絡もとっていなかったと言っていた。
 そして数日前。
 悪魔族の王である、ルギータって奴が宣戦布告をしてきたらしい。
 つまり、魔法の星と悪魔の星は今戦争状態にあるわけだ。
 ルギータの目的は人類…俺たちのような人形の体を持つ生命のある星を全て占領すること。
 とんでもねー、悪党だな。
 そして、それをききつけた昔からの同名星の神族の星の女王アルテナが現れて、彼女はいった。
「夢を見た」と。
 そしてこう言ったそうだ。
「七人の聖なる力を持つ七聖士が全て集まりました。それを全て集めれば、あのルギータを倒せるかもしれません。」
 まぁ、今知ってるのはそこまで。
 分からんのは七聖士って何なのか…。後、どうして七聖士じゃなきゃいけないのか…。
 ピンポーン、ピンポーン
 そこまで考えると、普段ほとんど鳴ることのない呼び鈴がなる。
「はいはーい」
 勇気がそんな返事をしてドアをあけると、「おっす!おはよ!」という元気な声が返ってきた。
「おはよー」そして後に続いて柔らかい声。
「おはよ!カルーファ、サファイア!」勇気がそう返すと二人もにっこり笑顔で返してくれる。
(なーんかこーゆーのっていいよなぁ…)
 勇気が鍵をしめながら幸せに浸っていると、今度は鋭い声がした。
「サファイアやカルーファはまだいいとして、どうして私が貴方と一緒に登校なわけ?」
 振り返って見ると声だけではなく、顔も不満気そうなエミリィーがこっちを見ていた。
「俺に言うなよ!サファイアが誘ってきたんだ!」
 思ったままに初めて反論する。
 こっちがずっと折れるのもしゃくだ。
「あらそう。じゃあ、いくわよ」
 しかし、エミリィーは勇気の必死の抵抗を無視に近い状態で返して歩き出してしまう。
(こっちの言うことなんてまるで聞いちゃいねーな…)
 まったく、せっかく幸せな気分に浸ってたのに…。ぶち壊しだ。
 深くため息をついてこっちも「へいへい…。」と適当な返事を返す。
(何もそんな言い方したくたっていいじゃねーかよ)
 心の中で愚痴りながら勇気はカルーファの横に並んで、皆と一緒に歩き始めた。

 マンションを出て何気なく空を見上げると、今日もすごくいい天気な事に気づく。
 昨日は本当に雲ひとつない快晴だったが、今日はいくつか雲が浮かんでいた。
 柔らかい太陽の光が体をやんわりと温めて、空を舞う小鳥のさえずりが聴覚をほどよく刺激する。
 そんな中でまだ少し冷たい空気を肺いっぱいにためると、春の朝を体全身で感じることができる。
(今日も一日頑張りますか。)
 どうしてか、こんな朝は元気がでる。
 やっぱり俺は晴れた日が一番好きだな。
 そんなことを考えながら進めていた足がちょうど歩道に差し掛かったとき、ふとサファイアが口を開いた。
「そういえばカルーファ、宿題やった?」
 うん。なんとも学生らしい質問だ。
 どうせ成績なんか考える必要もないのに、きっちりとそんなことまでこなすところが流石サファイアって感じだな。
「んなもんあったっけ?」
 と、人が関心しているとすっとんきょうな声が返ってくる。
 あったことすら覚えてないのか。
 それもある意味すごいっていうか…。流石カルーファって感じだな…。
「あったわよ!話聞いてなかったの?」
 カルーファのいい加減な返答にサファイアは少しきつい口調で言う。
「あー、わりぃ。オレ、授業は寝てるから…。まぁ、なんとかなるんじゃないかなぁ。」
 だがカルーファはそれをまるで他人事のように、はははと笑って流してしまう。
 あんたのことだって。と思わず突っ込みたくなるくらいだ。
「勉強嫌いだからって、さぼってちゃ駄目じゃない。」
「いやー、さぼりたくなくても難しいこと言われると体が拒絶反応を起こしてだなぁ…。」
(まさに真面目ちゃんとサボリ魔の会話だな…。)
 勇気がその会話を横でそのやりとりを聞きながら心の中でつぶやいた。
 っていうか、拒絶反応が寝ることってどんなんだ…。
 しばらくはまだ続いている言い合いをBGMに足を進めていたが、ふと聞きたかったことを思い出して言ってみる。
「あ、そういえば、二人は何組なんだっけ?」
 これは魔法がどうの以前に聞きたかったことだ。
 クラスが分かってないといざという時に困るだろう。
 すると、二人は言い合いを止めてこちらに視線をうつし、その質問にサファイアが答えた。
「私はB組で、カルーファがC組よ。」
 そうなのか…。サファイアも特進クラスなんだな。
 まぁ、カルーファがそうじゃない理由は聞かなくても分かる。
 あ、でもC組ってことは…。
「だったら今日の体育の授業、カルーファと一緒だ!」
 勇気が言うとカルーファはにかっと笑って言う。
「そーなんか?まぁ、よろしくなー。」
「おうよ!寝るなよー?」
「体育は寝ないって!心配には及ばん!」
 その後もそんな何気ない会話を交わしながら登校する。
 満開の桜並木、自転車登校のやつにはきつい上り坂、狭い歩道を越えてサファイアとカルーファのクラスがある階に着くと別れ際に言った。
「色々考えて、疑問に思うことがいくつかあるんだけど、後でいいか?」
 そう。せっかく朝考えてきたんだ。訊きたいよな。やっぱ。
 だがさっきまで登校する人がたくさんいたし、訊くに訊けなかったのだ。
「ええ、もちろん。昼食でも一緒に食べながら話しましょう。」
 勇気の言葉にサファイアはそう提案した。
 そうだな。それだったらゆっくり話せる。
「わかった!わりぃな。じゃあ、屋上に来てくれ。あそこは誰もいねーから。」
「ええ。わかったわ。」
 そして俺たちは軽く手を振って別れた。

 教室が違うためサファイアとカルーファとはさっき別れたわけだが、そうなるともちろんエミリィーと二人っきりになるわけで、とっても気まずい雰囲気になるのは必定・・・。
 エミリィーは今はもちろん、サファイア達がいたときですらまったく口をきかなかった。
 表情だってまったく変えずにいつものきりっとした無表情で横に並んで歩くだけ。
 サファイアやカルーファとはなかなかの長い付き合いらしいがそれも疑わしいもんだ。
 話しかけられたら答えるが(それもたまに流される)自分からは絶対口を開かない。
(俺が嫌いなのかな…。)
 勇気はそんなことを考えながら階段を一歩一歩上る。
 いつもは一人の階段。でもそれよりも時間の流れを遅く感じる。
 何か、何か話すことは…とあれこれ思考をめぐらしているうちに結局教室まできてしまった。
(はぁ…せっかく仲良くなれるチャンスだったかもしれねーのに…。)
 自分の情けなさにため息をついて席につく。
 いや、まてよ。でもどうせ隣同士なんだし、話すチャンスなんかいくらでもあるじゃないか。
 ちらっと横目でエミリィーの様子をうかがうと、エミリィーは手帳で時間割をチェックしている。
(よし!頑張れ!俺!)
 心の中で自分にエールを送って、エミリィーの方を向く。
(いざ、出陣!!)
「一時間目の体育ってきっついよなぁ。起きたばっかなのにさ!」
 印象ってのは大事だ。
 そんなわけでとりあえず文句のつけようのないくらいの笑顔でいってみる。
 だが相手はこっちを一瞬横目で見たかと思うと、すぐに手帳のほうへと目線を戻し、
「あら、そう?ぎりぎりに起きてるからじゃないの?」
 と、呆れた風に答えるだけだった。
 だが、ここで引き下がっては会話が終了してしまう。
(ま、負けんぞ!)
 勇気は自分にそう言い聞かせると、
「そうかもなー!俺、朝はちょっと苦手でさー。」と、100万ドルの笑顔で返す。
「ふーん。」
 だが、今度返ってきたのはあからさまに適当な返事。
 ふーんというセリフにまだ気持ちがこもっていればいいが、まったくの棒読み。
 仲良くなるどころか、相手にすらされてないという感じだ。
(くぅ…負けねぇ!!)
「エミリィーは朝は大丈夫なのか?」
 この前テレビでやってた王子様スマイルというやつで今度は返す。
 するとエミリィーは手帳から目線をはずしてこっちをしっかり見た。
(お、やった!王子様スマイル無敵!!)
 心の中でガッツポーズをとったのもつかの間。
 エミリィーの目がこちらを思いっきりにらみつけた。
 その顔はとても恐ろしく、にらみつけられた瞬間から自分の心臓が高鳴るのがわかるほどだ。
「あのね、貴方うるさい。黙っててくれない?邪魔。」
 挙句こんなセリフを返されるしまつだ。
(ま、負けた…。王子様スマイルは氷の王女のにらみ顔に負けました…。)
 勇気は机に頬を押し当ててエミリィーに見えないように敗北感に浸る。
(こりゃ先が思いやられるな…。)

「わぁー!!」
 グラウンド中に歓声と拍手が飛び交う。
 勇気もその声を上げる一人だった。
 本当にすごいものを見てしまった。
 そしてその皆の視線を独り占めしているのがあのカルーファだっていうのが余計にびっくりだ。
 何故あの彼がこんなにも騒がれているかというと…。
 今日の1、2時間目は体育で、種目は50メートル走。
 彼はそれでものすごいタイムをだしたのだ。
 まるでオリンピック選手を間近で見ているようだった。
 陸上部の人たちが彼のまわりに集まっている。
 まぁ、当然の話だろう。彼なら全国は夢じゃない。
「まったく…。」
 沸き立つ歓声の中で一人呆れ声を出したのはエミリィーだった。
 もちろん、男子と女子が同じ授業をしているわけではなかったが、たまたま両方ともグラウンドでの授業だったので、女子も全員まじって一緒にきゃあきゃあ騒いでいたのだ。
 それに混じってエミリィーもこっちへ来たのだろう。
「あまり目立つ行動はしないよう言ったのに…。」
 独り言なのか、それとも話しかけてるのか、それはわからないが少し疑問に思ったので言ってみる。
「なぁ、まさかと思うけどあの力って魔法のおかげとか…?」
 それだったら納得がいく。あのスピードは高校生レベルじゃなかった。
 が、エミリィーは勇気の期待を裏切るようなセリフを返した。
「それはないわ。魔法って言っても貴方たちが思ってるほど便利なものでもないのよ。」
「便利なものじゃない…?」
 魔法っていうと何か色々できそうなイメージがあるけど…。
 そんなことを思いながら勇気はエミリィーの話に耳をかたむける。
「そう。自分の身体能力を変えるなんてことはできない。魔法族にできることは、炎や水なんかを操って相手を攻撃する攻撃魔法とか、魔法の力の源である魔気を操ったりとか…。その程度のことよ。それに、魔法って使えば使うほど源である魔気が失われて、使いすぎると魔法はもちろん使えなくなるし、気を失ったりもするわ。だから、考えて使わないといけないのよ。」
「そうなのか…。」
 つまり魔気っていうのはRPGとかでよくある『MP』みたいなもんなんだな。
 なるほど。言うほど便利なもんでもないな、確かに…。
「傷を治したりとかはできないのか?」
 ゲームと言って思い出す。戦っていく中で回復呪文ってないとすごく不便だ。
「無理ね。魔法族にはできないわ。できるのは神族だけよ。後、防御呪文とかも神族だけね。その代わり、神族には攻撃魔法が使えないんだけど。」
 ははは。やっぱり…。でも神族を仲間にすればいいのか。
 いや、でも行くのは七聖士だけでってことだし…。
 何でもいいけど、なんでこの人はそんな一大事なことを無表情でいえるんだろう…。
 勇気はそう思いながらも次の質問を言う。
「じゃあ、悪魔族は?」
 やっぱり敵である悪魔族のことは知っておきたいし。
 エミリィーは皆にもてはやされているカルーファから目線をはずしてこちらをみて答える。
「悪魔族はもちろん回復呪文なんてできないし、防御呪文もできないわ。ただ、攻撃呪文と身体能力が他の一族よりは優れてるの。そういった点では魔法族は中途半端な種族なのよ。まぁ、そのぶん知力がほかの一族より優れてるらしいけどね。」
(うーん。じゃあ、やっぱり不利だな。)
 魔法族対悪魔族とするなら、明らかに不利だ。
 攻撃魔法では威力は劣るし、勝っている能力といえば知力。
 けど知力だけで抑えきれないから俺たちが選ばれたわけだし…。
 エミリィーはこのことをどう考えてるんだろう?
 勇気はそう思ってまた質問をぶつける。
「じゃあ、そんな悪魔族と戦うのって結構不利なんじゃ?」
 勇気のその質問にエミリィーは少し真剣な顔になって答える。
「ええ。だからこそ神族の女王アルテナ様の言うとおりに七聖士を集めてるのよ。アルテナ様は予知夢をみれるからね。信じていいかどうかは知らないけど、それしかないの。」
 なるほど。一応、希望があるって言われてるんだもんな。
 でも、だったら…。
「だったら…。」
 勇気が新たな疑問を言おうとしたその時、
「はい!皆さんそろそろ集まって!いつまで騒いでますか!」
 と、先生のスピーカーで言った怒鳴り声がそれをさえぎった。
 そう言う先生もさっきまで一緒になって騒いでたような気がするが…。
 しかし、そういわれては仕方がない。女子はそれぞれの持ち場へ帰っていく。
「じゃあ、私も行くわ。続きはお昼にでも聞いてあげるから。」
 エミリィーはそう言うと皆と一緒に行ってしまった。
 何か知らんが初めてまともに会話したような気がする。
 なんだかちょっぴり嬉しい。
「おい、勇気!次、お前だぞ!」
 が、誰かに呼ばれてはっとなる。
 そういえば今は体育の授業だった。
「おう!ごめん。ちょっと考え事してて。」
 そう答えると勇気は自分のコースの方へ小走りで行った。

<屋上>
 鉄でできた少し重いドアを開けると、いつものように柔らかい光を放っている太陽と綺麗な青空が出迎えてくれた。
 数歩前にでると暖かい春の風がそっと吹いて、春が来たんだなと改めて感じられる。
(皆はもう来てるんだろうか…。)
 勇気があたりを見渡すと「おーい!こっちこっち!」と後ろからカルーファの声がした。
「おお!もうきてたのか!」
 勇気が声の方を見るとサファイアのカルーファの隣に座って、にっこり笑って手をふっている姿と、屋上の柵にもたれかかって腕組をし、こっちを見ているエミリィーの姿も見られた。
「遅いわよ。」
 エミリィーが相変わらず厳しい意見を言ってサファイアの隣に座る。
「悪い!ちょっと先生に質問しててさ。」
 勇気も言いながらカルーファの横に座った。
 まぁ、今回は自分が悪いもんな。怒られてもしかたない。
 そんな時、ふとグラウンドが視界に入ったので、体育の授業を思い出し、カルーファの方に向いて目を輝かせて言う。
「にしても、今日のカルーファはすごかったな!」
 するとカルーファは少し嬉しそうに軽く笑って
「おう!ありがと!」と、答えた。
「や、まじですごかったって!感激したもんな!俺!」
 正直、カルーファがそんなにすごい奴だとは思いもしなかった。
 なんとなくただ者じゃないような気がしてたが、本当にただ者じゃなかった。
「はは、そんなにか?まだ本気じゃねーぜ?」
(あれで本気じゃないのか。なんてすごいんだ。)
 勇気が尊敬のまなざしでカルーファを見つめていると、釘を打つようにエミリィーのセリフが突き刺さった。
「目立つなって言ったのに。」
 エミリィーが言うと、カルーファは両手を合わせて申し訳なさそうに謝る。
「ごめんって!でも授業って退屈だろ?俺にとっては体育が唯一の癒しの時なんだ!」
「まぁ、終わったことを言っても仕方ないけどね…。」
「じゃあ、言うなよ。」
 エミリィーの言葉に思わず突っ込んでしまってからはっとなって今更ながらに口を両手で覆う。
 案の定というか、当たり前というか、エミリィーはこちらをにらみつけて、
「何か言った?」
 と冷たく言い放つ。
「い、いえ!何でも!何でもございません!!」
 勇気は両手を軽く前にだして横にぶんぶんふりまわし、大きな声で強く否定する。
 が、所詮は後の祭り。向こうはずっとにらんでいる。
(こ、こえー…。)
 もうこっちは泣きたい気持ちになってくる。
(なんて言ったらいいんだろう…。)
 そんなことを考えて、困り果てていたところを助けてくれたのはサファイアだった。
「とりあえず、皆そろったんだし、ご飯にしましょ!ね?」
 サファイアが言うと待ってましたーといわんばかりにカルーファがにこにこ顔で自分の鞄の中をあさる。
 するととんでもなく大きいお弁当箱がでてきた。
「えーっと、それは…重箱?」
 勇気が言うとカルーファが満足げに頷く。
「皆で食べるのかよ?なんだー、水臭い。俺もちょっとくれよー。」
 勇気が言うとサファイアが苦笑して、
「これ全部カルーファが食べるのよ。私やエミリィーはこっち。」
 と、普通サイズのお弁当を取り出していう。
「そそ!悪いけどやれねーわ。これは俺の!ってか、これでも足りねーくらいだぜ?」
 そういってにっこり笑いながらもりもり食べだす。
(これでも足りないのか…。なんてすごいんだ。)
 よく食べ、よく寝、よく運動する…。まったくなんて健康的なやつだ…。
 あまりに常識はずれすぎる。
 さっきからカルーファには驚かされてばっかりだ。
 勇気がカルーファのそんな姿を呆れ半分、驚き半分で見ていると、
「それで?体育の授業のときに聞こうと思ってたことは?」
 と、エミリィーが会話を本題へとうつした。
「うん、あのさ、思うんだけど、神族と同名星なんだろ?だったら適当に魔法族の強い人たちと神族の強い人たちを集めて倒しにいけばどうにかなるんじゃねー?第一、回復できる人がいないのに戦いいどむなんて無茶だって。」
 勇気にはそれがひっかかって仕方がなかった。別に七聖士である必要性がどこにもない。
 なのに、なんで自分なんかが選ばれるんだろう。
 魔法なんぞ使ったこともない、この俺が。
 まぁ、幼い頃からずっと剣道は習っている。
 全国にだっていったことはあるし、剣にはそこそこ自信がある。
 だが、実際本物の剣を扱ったことはない。
 剣道なんかある意味ゲームだが、戦いになったら自分の力なんてどこまで通用すかわからない。
「どうにかなれば、こんなとこになんて来てないわ。」
 エミリィーは食べる手を休めて続けた。
「そんなことなんて、もうとっくにやってるの。だけど、ルギータにたどり着くどころか、ルギータの直属の部下である八騎士と呼ばれる者たちに全員やられたわ。彼らはたぶん悪魔族のトップクラス。冗談じゃないくらい強い。だからこそ、最後の手段としてアルテナ様の言葉を信じた。七聖士を集めればあいつを倒せるかもしれないって言葉をね。」
 その言葉にはわずかに殺気が混じっていた。なんせエミリィーの顔がいつも以上に真剣だ。
 自分の星を滅ぼそうとする、ルギータが許せないのだろう。
 勇気はエミリィーの表情からそう読み取った。
「七聖士って結局のところ何なんだ?」
 勇気が新たな質問をなげかけると今度はサファイアが答えた。
「七聖士っていうのは、七人の聖なる力をもつ戦士って意味なのよ。そして、七聖士に選ばれた者たちには更なる力が与えられるらしいわ。それが何かはわからないけど…。」
「わからないって何で?」
「過去に七聖士に選ばれた人はもちろんいるんだけど、その人に対する詳細はのってなくって。私たちにもよく、分からないのよ。滅多なことがなければ選ばれないみたい。そして、その選ばれた人たちはどれをとってもまさにトップレベルの力をもつ人たち…。どうやら、強い人が選ばれる仕組みになってるみたいね。種族は関係ないから、集めるのはすっごく大変になると思う。」
「じゃあ、なんで俺が七聖士だってわかったんだ?」
「ああー、それはね。アルテナ様の予知夢でぎりぎり分かったのよ。私たちもその予知夢で分かったからこそ、こうして3人も早く集まったわけ。後の3人については分からないんだけど…。」
「けどさ、本当に七聖士だってどうしたら分かるんだよ?」
「それはね、秘密兵器があるの。これよ!」
 そういうとサファイアは少し大きめのビー球ぐらいの玉をにっこり笑って取り出した。
「この玉から半径1メートル以内に七聖士が入ったらこれが光るのよ!」
(ほう。そりゃすごい。)
 勇気は一瞬納得したが、その玉が光ってないのを見て焦る。
 1メートル以内だったら、サファイアだって俺だっていや、全員入ってるはずだ。
 なのにその玉はちかりとも光りはしない。
「え、でも今光ってないんですけど…。」
 勇気が顔をひきつらせてそう言うと、サファイアは一度頷いて笑って続けた。
「一度光るともう光らないしね。まぁ、見落とした時のために予備がいくつかあるから大丈夫よ!貴方がそうだって確信したのだって、エミリィーと貴方がぶつかったときにこれが光ったからだし。」
「ふぅーん…。」
(じゃあ、やっぱり俺が七聖士なのは確定なんだな。一瞬間違えだったりって思った。)
 まぁ、いちいち光られたら持ってる間ずっと光ってるってことだしな。逆に困るか。
 それのそても、自分に悪魔を倒せるような力があるなんて到底思えなかったが…。
 神様のおすみつきなら、多分そうなんだろう。
 そんなことを玉を見つめながら思っていると、エミリィーが口を開いた。
「まぁ、貴方が心配してる、回復役もどうにかなりそうよ。七聖士には、それぞれ別の名前の力があって、それに『生命の力』っていうのがあるから…。」
「え!じゃあ、俺は何の力は何なんだ!?」
 『生命の力』がどうの以前にそっちの方が気になった。
(なんかかっちょええのがいいな〜!)
 勇気がわくわく期待しながら返答を待っていると
「勇気くんは、『勇気の力』よ。」
 と、サファイアが思いっきり期待はずれなセリフをにっこり笑っていった。
「はい?」
 思わずそう返してしまう。
 何だそりゃ。まんますぎだろ。
「だから、『勇気の力』だって!覚えやすいでしょー?」
 笑って言うサファイアとは引き換え、勇気は肩を落として答える。
「ちっとも嬉しくないんですけど。」
 名前とかぶるのはどうかと思う。
 幼い頃から書き飽きた字だ。今更かっこいいとか思わない…。
 悪くはないとは思うけども。
「因みに、私が『正義の力』で、カルーファが『希望の力』、エミリィーは『奇跡の力』だから!」
 と、サファイアが補足する。
 何だか余計に不満感が湧き出てきた。
「なんか、皆、かっちょええな。」
 勇気が言うとサファイアは、くすりと笑って言った。
「あら、勇気だってかっこいいじゃない!」
(まぁ、かっこ悪くはないけどね。)
 言っても仕方ないことだ。
(いいじゃん。勇気。かっこいいじゃん。勇気。)
 と、自分に言い聞かせて気を取り直し、質問を続ける。
「他の力は?」
「『天地の力』、『美の力』、『生命の力』よ。後、3人、頑張って見つけようね。」
 サファイアは本当にいい人だと思う。
 何も知らない俺が質問攻めしても、しっかり優しく教えてくれる。
 この子がいたら、なんとかこの先もやってけそうだ。
 ほんと、アルテナ様が予知夢でみたのが、エミリィーとカルーファだけじゃなくてよかった。
 がつがつお弁当を食べ続けるカルーファと、何も言わずもくもくとお弁当を食べているエミリィーを見てつくづく思った。


「はぁ…はぁ…はぁ…。」
 膝に手を付いて呼吸を整える。
 今日は部活が少し遅めに終わったので森まで走ってきたのだ。
 しかし、あたりを見渡しても人影は見当たらない。
(まぁ、待たせるよりはましか。)
 魔法を教えてくれるのはエミリィー1人。
 だから遅れて怒られてもなだめてくれる人はいない。
 勇気は鞄を下ろして、地面に大の字になって寝転ぶ。
 流石に部活でさんざん走った後に、全速力で走るのはこたえた。
(今のうちに体力を回復しとかねーと。)
 だが、荒い呼吸がだんだん収まってくると少し暇になってしまった。
 ふと視界に入ったオレンジ色に染まり始めた空に、なんとなく手を伸ばす。
(この手から魔法が出るのか…。)
 しばらく考えてむくりと体を起こし、じーっと手を見つめてやがて決意を固める。
 どーせ、やるんだ。ちょっとやってみよ。
 エミリィーはどうやってやってたっけ?
 記憶の中から昨日のあの時のことを探り出す。
 確かこうやって、空に手を伸ばして…後は光がすっとでてきて炎の玉が…。
 駄目だ。空に手を伸ばした後どうしたらいいのか分からない。
 いや、待てよ。そういえば魔法を発動するには魔気が必要だって言ってたな。
 魔気ってのをどうやって使えばいいか分からんが、とりあえず…。
「む〜〜〜っ!!ファイアーーーーー!!!」
 とりあえず、叫んでみた。
 『しーん』その言葉が今のこの状況のために生まれてきたと言ってもいいくらい、その言葉がしっくりくるな。今の雰囲気。
 そんなことを思いながら、虚しさをかみしめて手を下ろす。
 やっぱ出ないよな。
 そりゃそうだ。叫び一発でどうにかなるもんだったらエミリィーだって教えるなんていわないだろう。
 何だか自分が可笑しくなってきて笑いをこぼす。
「出るわけねーじゃん!俺ってバカみてー!」
 と、独り言を言った…つもりだったが、思わぬことに頭上から鋭い返事が返ってきた。
「『みたい』じゃなくバカよ。」
 おそるおそる声のした方へ顔を上げるとやっぱりエミリィーがこちらを見下ろしていた。
「エエエエエ、エミリィーさん!!いらっしゃったんですかぁ!!」
 驚きと恥ずかしさのあまり、赤面して大声を上げ、少し後退りする。
 どうせバカにされるに違いない。
(なんであんなことしたんだ!)と、今更ながら後悔する。
「バカじゃないの?」と見下されるか「まったく…。」と呆れられるか…。
 そんな予想を立てたがエミリィーはまったく違う行動をとった。
 エミリィーは勇気の目の前にしゃがむと、がっと勇気の手をつかんで、
「バカ!万が一魔法が出たらどうするの!もし、魔気が暴走したりなんかしたら、貴方は魔法に飲み込まれるとこだったのよ?」
 と、怒ったのだ。
「あ、ああ。ごめん…。」
 予想外の展開に少し戸惑いながら答える。
 するとエミリィーはぱっと手を離して立ち上がった。
「いいえ…。遅れた私も悪いわね。ごめんなさい。」
(エミリィーが謝らなくても…。)
 しばらくそんなことを思ってエミリィーの顔をぽかーんと見ていたが、どうしても聞いてみたくなって言ってみた。
「俺のこと、心配してくれたんだ?」
 エミリィーはその質問に、少し驚いたように一瞬目を見開いたが、やがて一息ついて言った。
「あのね、当たり前でしょ?心配しないわけないじゃない。」
 そう言うエミリィーの顔は、いつもの無表情よりどことなく心配気で口調も少し優しかった。
(もしかしたら、俺はすごく勘違いをしてたのかもしれない。)
 勇気はそんなエミリィーを見つめて思った。
 口では「そんな奴じゃないかもよ?」とか偉そうに分かったような口をきいていたが、正直、エミリィーのことを怖い奴って決め付けてたとこがあった。
 だから、仲間としてやっていくために機嫌を損ねたくないと、気を使っていたところもあった。
 でも本当はエミリィーだって普通の子なんだ。
 少し冷たいところはあるけれど、心の奥底ではちゃんと心配してくれるんだ。
 初めて会った時から、仲良くなりたいってなんとなく思っていたが、今は心の底からそう思えた。
「ありがとう。」
 勇気が言うとエミリィーは少し眉をひそめて返す。
「どうして?」
「心配してくれて。」
 勇気はにっと笑って言うと立ち上がり、エミリィーの横に並んだ。
エミリィーはしばらくこっちを見ていたがやがて空を見上げて
「お礼を言われることなんてやってないわ。」
 と相変わらずの無表情で言った。
 その言葉を聞いて勇気も空を見上げる。
 さっき見上げたときは薄いオレンジ色だったのに、空はもう少し紫がかった色になっていた。
「エミリィーは優しいんだな。」
 なんとなく思ったままのことを、空を見上げながら呟いてみる。
「どうして、そんなことを?」
 エミリィーも空を見上げたまま返した。
「だってさ、自分の星のために頑張ってるんだろ?すごいって思う。俺と同じ年なのに。」
 本当にすごい。俺は毎日『明日の宿題大変だ』とか『部活、今日も疲れたなぁ。』とか そんな単純なことしか考えないで生きてるのに、彼女は星のために異世界にまでやってきて…。
 まったく、同じ年だっていうのが信じられない。
 だが、エミリィーはその言葉を聞くとうつむいた。
「ん?どうかした?」
 勇気がエミリィーの顔をのぞきこんで言うと彼女は少し寂しげな顔で言った。
「私はそんな立派な人間じゃない。」
「え…?」
「私がルギータを…あいつを倒したいのは…あいつに全てを奪われたからよ。私は、今まであいつを倒すために生きてきた。あいつを倒すこと、それが私の全てなの。」
(それは…つまり、復讐ってことか?)
 勇気は聞いてみたい気持ちはあったが、エミリィーから言わない以上、自分の入ることではないと、そう思ったのでそれは聞かなかった。
「そっか…。」
 とりあえずはそんな相づちをうってもう一度空を見上げる。
「なぁ、今日はいい天気だよな。今日は星が綺麗だぜ。きっと。」
 話をそらすためとかそんなんじゃなく、やっぱりそれも思ったことをそのままのことを、言葉にしただけだった。
 エミリィーはそういわれるともう一度顔を上げる。
「そうね…。こっちの星は綺麗?」
「ああ!まぁ、この辺は結構田舎だからな!その辺の夜空よりは綺麗だと思うぜ。俺は好きだな。」
「…そう。」
 優しさがこもったその返事に勇気がエミリィーの顔を見ると、彼女の顔はかすかながらに微笑んでいた。
 どうしてかこっちまで嬉しくなって自分の顔がゆるむのを感じる。
 しばらくはそのまま二人で空を見上げていたが、やがてエミリィーは風になびく自分の 髪をそっと耳にかけると、数歩歩いて勇気の方に振り向き言った。
「じゃあ、そろそろ始めましょうか。」
 その顔はいつもの無表情に戻っていたが、それも今はエミリィーらしいと思えた。

 結局、今日の修行で魔法を出すことはできなかった。
 そのことに俺が少し落ち込んでいると、エミリィーに「一日でできるほど魔法は甘くない。」と言われてしまった。
 でも、それは彼女なりの慰めだったのかもしれない。
 帰るともう9時ちかくで、サファイアとカルーファが手料理を作って待っていた。
 サファイアはとても料理上手で、おかげで久しぶりに美味しいと心から思える料理にありつけた。
 カルーファも不器用なくせにサラダを自分でを作って、その不恰好なサラダを「許せ!」と笑って出してくれる。
 そして、4人で雑談を交わしながら食事をとる。
 一体何年ぶりだろう…。こんなに温かい食事をしたのは…。
 勇気はふとたてかけてある母の映っている写真を見た。
 あれが唯一残っている母の写真だ。
 それはまだ物心もついていない幼い自分と優しく微笑む女性の写真。どこで撮ったかは覚えてない。
 父のものは一つもなくて、顔すら知らない。自分が生まれる前に彼は死んだと聞いた。
 どうしてかは分からない。
 心の中では人の温もりを求めていたはずなのに、結局壁をつくっているのはいつも自分自身だった。
 だから友達と心から呼べる人はいなかった。
 人気者ではあったが、心はずっと独りだった。
 人とのかかわりを自ら避け続けていたのだ。
 だが、彼らには違った。彼らには自然と心を開けたんだ。
 どうして彼らにだけなんだろう…。
 少し考えて思いつく。
 きっとエミリィー、彼女が原因なのではないだろうか。
 どうしてか、会ったときから親近感のようなものを抱いていた。
 理由は考えなくても今ならわかる。
 彼女もまた、独りだったからだ。
 それにどこか…いや、これは思い過ごしだろう。
 食事が終わると皆はそれぞれの部屋に戻った。
 勇気は後片付けを終えてベッドに横たわる。
 一人になると無性に少し寂しさがこみ上げてきた。
 何かして気を紛らわすにしても、宿題は学校にいる間に終わらせてしまったし…。
 うーむ、やることがない。
 しばらく寝転んでぼーっと天井を見上げていたが、ばっと起き上がると上着をはおり外に出た。
(よし、魔法の練習をしよう!)
 エミリィーも言ってた。今日言った点だけ注意すれば危険はないから、少しずつばれないとこで練習してもいいって。
 自分も何か彼らの力になりたい。
 それに、仮にも悪魔族の王を倒す戦士なんだ。
 一日でも早く魔法を覚えて、魔法の星まで行かないと。
 勇気は階段を一気に駆け下りて自転車にまたがると、森まで全速力で走った。

 まず、神経を手に集中させる。
 そして目を閉じて体の中に流れる魔気の流れを読み取り、それが手の上でうずまくようなイメージを思い浮かべる。
 後は炎を頭に強く思い浮かべながら一気に力を放出させる。
「はぁ!!」
 その掛け声と同時に目を見開いたが、手から魔法が出る様子はない。
 むぅ、難しいもんだ。
 なれてしまえば目を閉じたりせずにすぐ魔法を出せるようになるって言ってたが、本当なのだろうか。  
 目を閉じていても、魔気の流れを読みとるのは難しい。
 今日はほとんどそれだけで、練習が終わってしまった。
 森についてからもう1時間はたっているとは思うが、一向に魔法が出る様子はない。
 まぁ、魔気の流れをつかむことには、だんだん慣れてきてはいるが…。
(それだけでも成長か…。)
 自分の手を眺めて心の中でつぶやく。
 そっと吹いた風は冷たくて熱った体には丁度よかった。
 冷たい空気を思いっきり吸い込んで、今度は思いっきり吐き出す。
(よし!もういっちょ。)
 気合を入れなおし、もう一度やってみようと思ったその時、ふと頭上から声がした。
「一人で魔法の修行ですか?」
 声のした方をみると、そのには一人の男性がいた。
 男はどこか高貴な雰囲気を漂わせていて、少しウェイブがかった長髪の髪を夜風になびかせている。
(魔法のこと、なんで知ってるんだ…?)と思ったが、すぐに理由は理解できた。
 よくみるとその人は空中に浮かんでいたのだ。
 彼は異世界の人間なのだろう。
 ほかに仲間がいるなんて聞いてはいないが…。一体何者だ?
 こちらがそんなふうに思考をめぐらせていると、男は口元で笑うとこう言った。
「ふふ、七聖士ともあろう者がまだ魔法も使えないなんてお笑いですね。」
「何だと!?」
(いきなりなんて失礼なやつだ!)
 勇気は下唇をかみ締めて相手をにらみつけた。
 なんとなくバカにしたような笑みがよけいに腹立たしい。
「どうやら、エミリィーはいないようだね。なら、こいつで充分か。」
 男がそう言って、指をぱちんと鳴らすと、勇気の前に3匹の妙な形の生物が現れる。
 そいつらの体にはもじゃもじゃの太い紫色の毛のようなものが全身に生えていて、正面だと思われるところの中心に真っ赤な目が5つほどついていた…。
 おまけにその毛がうにょうにょと動くものだから、余計に気持ち悪い。
「な、何だこいつらは!?」
「僕の可愛いペット達さ。モンスターって呼ぶ人もいるね。」
「モ、モンスター…?」
「そう。知らないの?まぁ、地球にそんなもんはいないからね。知りたかったらエミリィーにでも聞くといいよ。まぁ、生き残れたらの話だけどね。」
「一体お前は何者なんだよ?」
「僕?僕は八騎士の一人、ギルビス。」
「八騎士って…!」
 お弁当を食べてたときにエミリィーが言ってたことを思い出す。
 こいつがルギータの部下であり、悪魔族のトップクラス『八騎士』
 なるほど…。どおりで性格悪そうな目つきしてやがる…。
「じゃあ、あんまり僕はここに長く居れないんだ。術が解けちゃうからね。まぁ、せいぜい頑張るんだね。さようなら。勇気くん。」
「ま、待てよ!!」
 勇気がそう呼び止めた時には時すでに遅し。彼は消えてしまった。
「キー…。」
 モンスターが体にぴったりの薄気味悪い声をだす。
(おいおいおいおい…。めちゃくちゃやばくねーか?)
 魔法は出せない上に剣だって持ってない。
 かといって相手は3匹。逃げるのは困難。
 それに、逃げたりなんかすればやつらは無関係の人を襲うだろう。
「くっそー…。」勇気がぼやくと同時に3匹がいっせいに襲いかかってきた。
「!!」

2話(完)








 突然ですが、僕『一ノ瀬 勇気(17歳)』は生命の危機にさらされています。
 見てるだけで寒気がする、このモンスターと呼ばれる生物達に追いかけられているのです。
 誰か、何でもいいから助けてください。
 けれど現実とは厳しいもので…。
 そんな俺の願いを叶えてくれる人なんて、都合よく現れるはずもなく…。
 自分を情けなく思いながらも、俺はただ奴らから逃げ続けるのだった…。

  3話「君と星と夜空と…」


「キキー!」奴らが耳が痛いくらいの甲高いをあげて、俺を追いかけてくる。
 もう30分くらいたったか…。
 奴らが現れてからというもの、何度も危険な目にあいつつも、森の中をただひたすら逃げ続けた。
『そんなことをしていても何の解決にもならない』と言う人がいるかもしれないが、そんなことを言われてもどうしようもないのが現実。
 何かいい解決法を思いつくなら教えてくれって感じだ。
 しかし今日ばかりは俺を運動できる奴に生んでくれた母と父、後さんざん部活でしごいてくれた先輩やコーチに感謝。
 そうじゃなければ今まで生きながらえることはできなかっただろう。
 いや、でもそれも時間の問題かもしれない。
 だんだん体力は削られるわけだし、やっぱりいい解決法を思いつかない。
 今はただ、必要はないと携帯電話を買わなかった自分が腹立たしいばかりだ。
 本当に物というのは、いつ必要になるか分からないもんだな。
 そろそろ足も重くなってきた。
 全速力でずっと走り続けてるんだ。いくら俺でも疲れる。
 それに、魔法の修行中にだいぶ体力も削っていた。もう限界に近い。
 勇気はどうしようもないこの状況に舌打ちすると、足を止めて相手のほうに向き直る。
(どうせ死ぬんだったら一か八か、やってやる!!)
 すっと相手の方に片手をむけて目を閉じ、そして魔気の流れをよむ…。
 たったったったった。
 だが、相手が迫ってくる音にどうしても気をとられて集中しきれない。
(落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け!)
 何度も自分に言い聞かせるが、そのたびに逆に恐怖心がつのる。
 このまま目を閉じ続けるなんて無理だ。
 いつ相手に攻撃されるかわかったもんじゃない。
(やっぱ駄目だ!)
 そう思って目を見開いた時にはもう遅く、相手はもう目の前まできていた。
「わっ!!」
 反射的に腕で顔の前を防御したがあまり意味はなく、相手に突進されて吹き飛ばされる。
 その後はどうなったかよくわからない。
 とにかく落ちてる感覚と、あちこちにいろんなものが当たる感覚がした。 
 ばんっと最後に背中が当たったのと同時に自分の体が静止する。
 目をゆっくり開くと「キキー。」と言う声を上げてモンスターがずっと上からこちらを見下ろしているのが見えた。
 どうやら山道の脇の坂に落ちたようだ。
 状況から考えて、自分の体を静止させたものは木だろう。
 いや、でも今はそんなことはどうだっていい。
 逃げなきゃ、逃げなきゃやられる。
 勇気は立ち上がろうと体に力をいれたが、全身があちこち痛んで体が言うことを聞かなかった。
 もう走るどころか立ち上がることもできない。
「キー!」
 モンスターの一匹が坂を下りてこちらに走り向かってくる。
(俺、死ぬのか…?)
 恐怖もない、焦りもない。ただ向かってくるモンスター眺めながら冷静にそんなことを考えていた。
 でも、もう仕方が無い。逃げられない。
 多分、自分はここで死ぬのだろう。
 そう覚悟して目を閉じる。
(いつでもこい。)
 そう思った瞬間だった。
『あなたは生きなさい。』
 ふと女性の声が聞こえる。
 いや、聞こえたんじゃない。思い出したんだ。
 とても優しくて綺麗な声…これは…母さん?
『生きることを投げ出しては駄目。あなたは生きなさい。』
 そうだ、俺は母さんと…約束したんだ。
 さっきまで死を完璧に覚悟してたはずなのに、そのことを思い出した瞬間、『生きたい』という思いが強く芽生える。
 勇気は閉じていた目を勢いよく開くとかろうじで動く手を前へと伸ばす。
(どこでだか分からない。どうしてだか分からない。だけど確かに俺は約束した!俺は生きるって!!)
「悪いけど、俺はまだ死ねねーんだよ!!」
 勇気が今だせるありったけの声でそう言うと同時に、伸ばした手のひらに光が集まりはじめ、それはやがて自分の座高以上の巨大な炎の玉を作り上げる。
「はぁぁぁ!!これでも、くらいやがれぇぇ!!」
  ズバーン!!
 妙な爆発音が森中に響き渡る。
「はぁ…はぁ…。」
 勇気は息を切らしながら、目の前に立ち上る煙の中に目をこらす。
 魔法を使えても当たっていなければ意味がない。
 回避された恐れだってある。
 だが、そこには奴の影も形もなく、ただ少し火がくすぶっているだけだった。
「や…った…。」
 勇気は力なく、だけど心の中では強く喜んだ。
 ただもう体中の力が抜けて、大声が出せないのだ。
「へへ…。」
 力なく笑って、軽い深呼吸をし、生きていることを実感する。
(よかった。俺、まだ生きてる)
 が、目線を上に上げた瞬間。
 喜びは一気に消え去った。
 そうだ。向かってきたのは3匹のうち1匹だけ。
 まだ2匹はこちらを坂の上から見下ろしていた。
 状況はなんら変わっていない。
 再び胸の鼓動が高鳴り、焦りと恐怖が自分を襲う。
 しばらくモンスターはこっちを見下ろしていたが、やがて声を上げ向かってきた。
「キキー!!」
 しかも今度は2匹同時にこっちに向かってくるではないか。
(死にたくねぇ。死にたくねぇんだ!)
 だが、そんな思いも虚しく、2匹はどんどん迫ってくる。
 もう一度魔法をとも思ったがもう手に力が入らない。
 さっきので全身の力を使い果たしてしまったのだ。
 仕方なく目を閉じるという最後の無意味な抵抗をした瞬間、ずぱっと何かが切れる音がした。
 しかし自分には痛みがない。それどころかふれられた感覚すらない。
 不思議に思ってゆっくり目を開くと、そこには剣を片手に持ったエミリィーと、まっぷたつに切られたモンスター達がいた。
 殺されたモンスターたちはすぅっと透き通りだんだん消えていく。
 だがそれを見ても、その時は不思議だとか思えなかった。
 今はただ生き延びることができたことの嬉しさと、安堵の気持ちで頭が一杯だ。
(助かったぁ。)
 勇気がふぅっと安堵の息をもらすと、エミリィーがくるっとこちらを向いて勇気と同じ目線になって言う。
「よく頑張ったわ。ごめんなさいね、もっと早く見つけられればよかったんだけど。」
 暗がりで顔はよく見えないが、彼女の声は申し訳なさそうな風だった。
「どうして…わかったんだ…?」
 勇気が力のないこえで言うと、少しきつい口調のエミリィーのセリフがかえってきた。
「余計な口をきかないの。後でいくらでも質問に答えてあげるから。今はこの薬を飲んで。」
 勇気は小さく頷いて、目の前に差し出されたビンに手を伸ばそうとしたが、力が入らない。
「わるい…。もてない…。」
 エミリィーはそれを聞くと
「じゃあ、私が口元に運ぶから…。」
 と、勇気の首の後ろに手をまわして飲みやすい角度にし、ビンを口元にまで運んでくれる。
 薬を飲んだ後は急激な眠気に襲われて眠りこんでしまった。




(うかつだったわ。)
 エミリィーは近くにあった椅子に座り、ベッドの上に眠り込んでいる勇気を見て顔をしかめる。
 まさか地球にモンスターが現れるとは思ってもみなかった。
 おそらく八騎士のしわざだろう。
 そうでなければこんなところにモンスターが現れるはずがない。
 しかし、昨日勇気のだしたあの魔法…。
 私が一番初めに勇気に見せたのと同じ呪文だったはずなのに大きさが尋常じゃなかった。
 もちろん私にだって本気をだせばあれくらいだせるが、一日修行しただけの地球族がなせる技ではない。
(一体何者なの…?)
 その時「あれ…?ここどこ…?」と勇気が上半身を起こした。
「ここは私の部屋。」
 とりあえず質問に答えてやる。
 まったく、人の気も知らないでのん気ね…。
 勇気はまだ起きたばかりで頭がまわりきってないのか、しばらくぼーっとあたりを見回し、やがて、
「エ、エミリィーの部屋!?」
 と、耳が痛いぐらいうるさい声を上げる。
 そんなに驚くことじゃないと思うけど…。いちいちオーバーな人だわ…。
 そう思いつつも一応それに答える。
「そうよ。貴方の部屋につれていこうと思ったんだけど、鍵がどこにあるのか分からなくて。仕方ないからここに連れてきたってわけ。カルーファの部屋でもよかったんだけど、貴方の部屋からは遠いでしょ?仮にも怪我人だからね。」
 そういわれると勇気は自分の体にあちこち巻かれている包帯をまじまじ見て、今更な発言をする。
「俺、そーとーやばい怪我してたんだな。」
「ええ。そうとうね。」
 家に帰って傷の度合いを見るとあちこちにひどい打ち身、切り傷、があった。
 足になんて骨にひびが入ってたほどだ。
 普通に地球で治療すれば全治1ヶ月以上はかかったはずだ。
「けど、もうあんまり痛みはねーな。まぁ、ちょっとは痛いけど。」
 そういいながら勇気はあちこち体を動かして確かめる。
(怪我人だったら怪我人らしく大人しくしてなさいよね。)
 そう思って、少し呆れてため息をつき、エミリィーはそれに答えるように言った。
「当然よ。この私が調合した薬よ。もう一日薬のんで休めば完治するでしょうよ。」
「そっかぁ。じゃあ、学校…。」
 勇気は学校という単語を口にした瞬間、一瞬固まって少し焦ったような顔をし、さんさんと明るい日がもれている窓の外を眺めた。
「あの、エミリィーさん。」
 しばらくして、勇気がこちらに視線を戻してよそよそしく呼びかける。
「何?」 
 今度は何を聞かれるのかと面倒に思いながらもそう答える。
「今日っていつですか?」
 なんだ。そんなことか…。まぁ、寝てたんだから時間の感覚がないのは分かるけど。
 そんなに焦った顔をする必要は無いんじゃないかしら…。
 血の気の引いた勇気の顔を見てそんな疑問を抱くが、とりあえず返答する。
「いつって。貴方がモンスターに襲われたのが昨日よ。」
「え、じゃあ今何時?」
「夕方の4時くらいかしらね。」
 勇気はそういわれるとさらに顔を青ざめ固まってしまった。
 こっちからあえて話しかけることなんてないし放っておくと、自然と部屋に沈黙が訪れる。
「………。」
「………。」
 しばらくの沈黙の後、また勇気が耳が痛くなるほどの大声で叫ぶ。
「学校ーーーーー!!」
(学校って…。学校に行けなかったことがそんなにショックなわけ?)
 にしてもうるさい人だ。いちいち騒ぐな。
 とりあえず、学校はどうしたのか教えてやる。
「学校なら休んだわよ。当たり前でしょ。仮に行ったところでその怪我、どうやって説明するつもり?」
「そりゃ、お前さん、あれよ…。」
「何よ?」
 勇気はしばらく考えるように腕を組んで目が閉じたが、やがてこう言う。
「なんて説明しましょ?」
「……。」
 まったくこの人には呆れるばかりだ。だいたいできるもんなら私だって起こしたわよ…。
「はぁ…。高校入ってから無遅刻無欠席のこの俺がぁ〜。しかも今日は部活で…。」
 勇気が情けない声でうつむきながら、ぶつくさなにやら言っている。
 なんだか落ち込みモード全開って感じね。
 本当にこの人がルギータを倒す七聖士なのかしら…。
 頼りないその姿にエミリィーは少し不安を覚える。
「っていうかよぉ…。」
 勇気が少し顔をあげて言う。
「あんなにエミリィーとばっかりいて、一緒にお休みだったら絶対なんか言われそうなんですけど…。しかも明日にはこの傷治っちまうんだろー?二人そろって風邪ひきましたってか…。」
 まぁ、確かに一緒に登下校した挙句、勇気が話しかけてきたりするから少し噂にはなっていた。
 気になるのは分かるが、だったら無意味な話題をもちかけてくるのはやめて欲しい。
 怒っているのが顔にでたのか、それとも黙っていたからか、相手は慌てて、
「別にエミリィーと噂になるのが嫌とかそんなんじゃなくってさ…。」
 と少し小さな声で言う。
 なにやら勘違いされたらしい。
 ただ訂正するのも面倒なので、とりあえず無視して話を進める。
「大丈夫よ。言ってなかったかもしれないけど、私たちが魔法星に行ったら地球人から私たち魔法人の記憶が無くなるわ。ついでに言うと、貴方が魔法星に行ってる間はこっちの時は止まってるからこれ以上やすまなくても大丈夫。それに、貴方が魔法をもう一度うつことができたら、もう出発するつもりだから。」
「出発ってもう?」
 勇気は別に驚いた風でもなく、今日の献立何?ぐらいの質問のような顔で言う。
 この男には緊張感とか不安とかがないんだろうか…。
 そう思いつつも話を続ける。
「ええ。本来ならもっとこっちにいるつもりだったんだけど…。思った以上に貴方が早く
仲間になって、魔法が使えるようになったからね…。それに、あんまり長く滞在して、またモンスターに出てこられても困るわ。本当はもっと貴方を鍛えたかったんだけど。八騎士がこっちに現れた以上、そうも言ってられないからね。」
「ふぅーん、そっか。じゃあ待ってて。」
 勇気は言うとベッドの上に立ち上がり、自分の手を前にのばした。
「?」
 エミリィーは勇気が何をしようとしてるのか理解できなかったが、やがてはっとなる。
(まさか、魔法を使おうとしてるんじゃ…。)
 そう思った時にはもう遅く、手のひらから異常なでかさの(森でみたときよりでかい)炎の玉が作り上げられる。
「お!できた!もう完璧にコツつかんだぜ!」
 のん気に喜ぶ勇気に、エミリィーは怒鳴った。
「こんなところで魔法を発動させて!それ、どうするつもりなのよ!?」
 勇気は一瞬きょとんとした顔をしたが、自分の作り出した魔法に目をやってやっと気づいたようだ。
「わわわ!どうやって消せばいいんだ!?」
(何か今更慌ててるし…。もう少し後先考えて行動しなさいよ…。)
 心の中で愚痴りながらエミリィーも魔法を発動させる。
 その手のひらの上には勇気のものとは違い、水がうずまいていた。
「そこでじっとしてなさいよ?」
 エミリィーはそういうと勇気の炎めがけてその魔法を放った。
 しばらくは炎の勢いが強くてなかなか消えなかったが、やがてエミリィーの水の威力にだんだん小さくなっていく。
 シュー…。
 最後に炎はそんな音をたてて消え去った。
「あ、ありがとう…。」
 エミリィーは勇気がそういうのも完全に無視して、もう一度怒鳴った。
「もうすこし考えなさいよね!私がいたからよかったものの!」
「ご、ごめん…。以後、気をつけます…。」
 勇気は本当に申し訳なさそうだったが、怒りはなかなか収まらない。
 こんな奴と一緒にこの先やっていくのかと思うと、本当に先が思いやられるばかりだ。
 何が何でもルギータを殺さなきゃならないのに…。
 なのに、時間まで割いて地球にまで来た結果がこれ…。
 それに、ルギータを倒すことを目標に生きてきたエミリィーからすれば、この旅のことを楽観視しているような勇気には、何だかむしょうに腹が立った。
「ほんとに、気をつけてよね。」
 相手を睨みつけて言ったその時、部屋のドアが開いた。
 そっちの方に目をやるとそこにはサファイアとカルーファがいた。
「エミリィー、何かあったの?」
 サファイアが心配気な顔で言う。
 どうやら声が聞こえていたらしい…。
 説明しようとして口を開いたが、エミリィーが言うより先にカルーファが言った。
「あ、分かったぞ!」
 その言葉に全員がカルーファを見る。
 どうせカルーファの推理なんて当たりはしないと思うが…。
 とりあえず、耳を傾ける。
「おねしょだな!!ほら、だってベッドぬれてるし!」
 その馬鹿げた推理に、当たるわけないよね、と言う顔でサファイアは苦笑し、勇気は呆れた顔でカルーファを見た。(私は、多分表情は変わってないと思う。)
 確かに、さっき出した魔法の水しぶきがあたりにかかっていたのでベッドはぐちょぐちょだった。そう見えなくもない。
 が、実際ありえない。それを本気で推理して本気で思ってるカルーファは、ある意味尊敬に値する。
「んなわけねーだろ!!」
 勇気がしばらくして、そう思いっきりつっこんだが、訂正するのも面倒だし何だか腹が立ったので、
「そうよ。よく分かったじゃない。カルーファ。」
 と言ってやった。
 案の定、勇気は驚きそして困った顔をした。
 それを聞くとカルーファはにやにやして勇気に言う。
「なーんだ。やっぱそーなんじゃねーかー。」
「違うから!!」
 勇気は思いっきり否定したが、カルーファがそれで納得するわけがない。
 カルーファは一度思い込むと、なかなかその考えを修正できない。
 まぁ、だからこそ言ってやったのだが。
「失敗は誰にでもあるって!気にすんなよ。」
「だから違うてってば!!」
(いい気味ね。)
 エミリィーはそのやりとりを見ながら、心の中でそう呟と、
「今度から気をつけてね。勇気くん。」
 と、無表情に嫌味を言い放ち、部屋を出ていった。



「勇気くん。お腹すいたでしょ?」
 水の後始末が終わって、サファイアが聞いてきた。
「ああ、だいぶ。」
 そう答えるとサファイアは、病院でよくあるような、机をベッドにかけてある状態にし、その机の上におかゆを置いた。
「うわぁ!ありがとな。いただきまーす!」
 勇気はそういうとお箸を手に持ってそれを口にする。
「うん!美味い!」
 満足げに勇気が言うと、サファイアは微笑んで言う。
「そう?」
 勇気はそれに大きく頷いて、応答する。
「まじで美味いって!やっぱサファイアは料理うめーな。」
 お世辞とかじゃなく本当にそう思う。
 昨日食べた晩御飯もそうだったがこのおかゆも絶品だ。
 が、次の瞬間、サファイアが予想外な発言をした。
「それ、エミリィーが作ったのよ。」
「……え?」
 自分の顔の血の気がさぁーっとひくのを感じる。
(何ですとー…?)
 思わず石化。驚きもあったがそれ以上に別の心配事が一つ。
「あのさ、毒とか入ってねー…よな?」
 もう食べてしまったのだから仕方がないかもしれないが、さっきは本気で怒ってたっぽいし…。
 しかし、さっきはえらいめにあった。
 サファイアはすぐ理解してくれたが、カルーファの誤解解くのに一苦労。
 しかも最後のあの嫌味な物言い。完璧に怒ってる。毒だって入れられてもおかしくない。
 勇気のひきつる顔とは裏腹に、サファイアはくすくす笑って答えた。
「そんなことないわよ!大丈夫。安心して。」
「だ、だよな!?だよな!?」
 すがりつくように言う勇気に、サファイアは相変わらずの笑顔で頷いて答える。
「うん。大丈夫。」
「よかったぁー。」
 勇気は安堵の息をついて、また食べ始める。
 やっぱり、美味しい。なんてこった。
 料理の調味料は愛情とかいうのを聞いたことがあるが、ありゃ絶対嘘だな。
「ってか、本当にこれエミリィーが…?」
 途中で思っていることがそのまま口にでてしまった。
 その言葉にまたサファイアはくすくす笑い始める。
「あ、今のはなんつーか…。」
 慌てて言い訳を考えようとしたが、サファイアはその言葉をさえぎった。
「大丈夫。エミリィーには言わないから。」
 それを聞いてほっとする。聞かれた相手がサファイアでよかった。
「びっくりする気持ちもわかるわ。でも、エミリィーは悪い人じゃないのよ。むしろ、いい人かな。勇気君が寝ている間、ずっとエミリィーが看病してたのよ。一睡もしないでね。そのおかゆだって、もうすぐ薬の効果がきれるからお腹すいてるだろうしって、作ってたの。自分からは絶対口がさけても言わないけど…。そうゆう人なのよ。冷たく振舞うくせに本当は優しくて、誰よりも気高くて強くて、できないことなんてなんにもなくて…。誰もが彼女のことを口をそろえて『完璧な姫』と呼ぶ。近くにいても、とっても遠い存在…。それに比べたら私なんて…。」
 サファイアはそこまで言うと口をつむってしまった。
 こちらがいぶかしげな視線をなげかけていると、それに気づいたのか、こちらに向かって誤魔化すように苦笑して、こう付け加えた。
「とにかく、そんな人なの。エミリィーは…。悪く思わないであげて。」
 うん。確かにエミリィーは悪い人じゃないと思う。
 それに俺自身、悪く思ってるわけでもない。
 むしろ向こうがそう思ってるじゃないかと不安だ…。
 とにかく、そんな自分の正直な気持ちを言ってみた。
「あ、うん。悪くは思ってねーよ。ただ、俺が嫌われてるんじゃないかと…。」
 するとサファイアは微笑んで答えた。
「そんなことないわ。エミリィーも貴方のことを本当に心配してるのよ。」
(本当かなぁ…。)
 とわずかに疑心が芽生えたが、とりあえずはその言葉を信じることにした。
「そっか!なら、よかった。」
 そういうとサファイアはにっこり笑って返す。
 と、ここで思い出した。
 そういえば、エミリィーにあの森で訊こうと思ったことをそれっきり忘れてた。
「あ!そういやさ、何で俺があそこにいるってわかったんだ?」
 そういわれると、サファイアは少し真剣な顔になって説明しはじめる。
「それもエミリィーのおかげよ。エミリィーは人一倍気配や魔気を読み取る力に優れてるから、八騎士みたいな絶大な力を持つ人が地球に入ったら気づくのよ。それで、エミリィーが私達に知らせてくれて、皆で森に行ったの。でも、途中で八騎士が帰っちゃったでしょ?だから気配が薄くなっちゃって、手分けして探したんだけど、なかなか見つけられなかったの…。その…勇気くんはまだそれほど魔力をもってないじゃない?それにあのモンスターだってそんなに強くはないから…。」
「なるほどね…。」
 そうじゃなきゃ、あんなところにエミリィーが偶然来てるわけないもんな。
 にしても気配か…。俺は敵があんな近くにいてもそんなの微塵も感じなかった。
 うーん、やっぱ俺ってすっげー足手まとい…。
 今までもそうだけど、それ以上にこれからが…。
 まぁ、そんなことを考えても仕方ない…。
 俺は俺で精一杯頑張るしかねーよな。
「おーい、サファイア!そろそろ行くぞー。」
 その時カルーファの呼ぶ声がドアの向こうからした。
「あ、うん!すぐ行く!」
 サファイアはドアの方を見てそう言うと、こっちにもう一度向き直って、
「じゃあ、私行くね。それ食べ終わったらこの薬飲んで。」
 と言うと、机に液体の入ったビンを置いて立ち上がり、ドアに向かって歩き始めた。
「どこに行くんだ?」
 勇気が言うとサファイアは立ち止まって、少し振り返り言った。
「魔法の星に旅立つ準備をしにいくの。勇気くんの体が治り次第出発する予定だから…。今のうちに、ゆっくり休んでね。あ、後、自分の部屋にもう戻れそう?」
「あ、ああ。もう大丈夫」
「じゃあ、薬飲む前に戻ってあげてくれる?エミリィーもそろそろ休みたいだろうし…。」
 そうだよな。このままだと俺のせいでいつまでも休めない。
「わかった。あ、今エミリィーは?」
「先に準備をしに行ってるわ。すぐ戻ってくると思うけど。」
 一言お礼をと思ったが、居ないなら仕方ない。
 また今度絶対言おう。
 そう心に誓って、勇気はサファイアに言った。
「そっか…。じゃあ、気をつけてな。」
「ええ。勇気君もお大事にね。」
 サファイアはそう答えるとドアノブに手をかけて、小走りで行ってしまった。


(今…何時だ…?)
 勇気が再び目覚めるともう外は真っ暗だった。
 自分の部屋に戻って薬を飲んだ瞬間、また急激な眠気に襲われて、すぐにベッドの上で寝てしまった。
 寝すぎたのか、重く感じる体をゆっくりと起こして電気をつける。
 しばらくは眩しくて目を開けられなかったが、しばらくしてやっと目が慣れ、時計へと手を伸ばす。
「げっ…。」
 勇気は時計の指す時間を見て、思わずそんな声を上げた。
 もう夜中の3時じゃないですか。遅いなんてもんじゃないな。
(もう一度寝ようかな…。)
 しばらく時計を眺めたまま考えていたが、もう寝れそうにもないので、寝るのは諦めた。
(何すっかなぁ。)
 とにかく体が重い。目覚ましついでに散歩…いや、それはまずい。
 モンスターとの鬼ごっこは昨日でもうこりごりだ。
(ここの屋上にでも行くか…。)
 マンションの敷地内なら、すぐエミリィーたちも来れるだろうし、やっぱり外の空気を吸いたい。
(よし…!!)
 勇気は意を決すると、上着をはおり部屋を出た。


 屋上へと続く階段を上りながらふと気づいた。
(もう、どこも体が痛まねぇ…。)
 あの薬、すごい効き目だな。すごく眠くなるが、効果は抜群だ。
 魔法人の知力という長けた能力って何か役に立つのだろうかと思っていたが、知力が高いということはそれ相応の医学も発達してるということ…。
 回復役がいなくても大して焦ってなかったのはこのせいでもあるのかもしれない。
 と、気づくと屋上の扉の前まできた。
 ドアノブに手をかけてドアを開き、外に出る。
「寒っ…。」
 上着をはおったとは言っても、下は薄着だ。やはり少し寒い。
 でも、やっぱりここはいい。
 一面の空を電線にも邪魔されず、眺めることができる。
 学校の屋上とは違ってきちんと掃除もされているし、ベンチや自動販売機、植物なんかも置いてある。
 勇気は今日に限らずよくここに来ていた。
 静かな場所で、瞑想にふけるのは結構好きだったし、星を眺めるのも好きだったからだ。
 とりあえずどこかに座ろうと前に出た瞬間、頭上から声がした。
「寒いなら戻ったら?怪我人。今度は病人にでもなるつもり?」
 反射的にその声のほうを見ると、エミリィーが自分がたった今出てきた鉄の扉のある建物の上に座って、こちらを見下ろしていた。
「エミリィー…何でこんなとこに?」
 少し驚きながら言うと、エミリィーは建物の上からすとっとジャンプして降り、勇気の横で返した。
「星を見に来たの。誰かさんのおかげで昨日は見れなかったし。」
 その言葉に勇気は軽く頭を下げて申し訳なさそうにする。
「ご、ごめん。」
 勇気にはそれしか返す言葉が思いつかなかった。
 エミリィーには本当に迷惑をかけてばかりだ。
 自分が悪いってことぐらい、ちゃんと分かってるつもりだ。
 だがエミリィーはその謝罪には答えず、こう言った。
「どこかに座りましょう。」
「あ、うん。」
 エミリィーが入り口に一番近いベンチに座ったので、勇気もそのベンチに少し距離を置いて座る。
 が、それはいいとして、話題がない。
 というか、話しかけてもいいのだろうか…。
 あんまり無理やり話しかけると「邪魔」とまた言われかねない。
 黙っているのが正解なのかな…そんなことを考えていると、エミリィーの方から口を開いた。
「ごめんなさいね。」
「え…?」
 思わず聞き返してしまった。
(何で…エミリィーが謝るんだ?)
 こちらが分からない顔をしていると、エミリィーは付け加える。
「貴方にあたったりして。」
「あたった?」
 勇気が聞き返すとエミリィーは少しうつむき加減で言う。
「私、少し焦ってたみたい。ずっとルギータを殺すことを目標に生きてた。だから、目の前にあるのに、それを実現できない今にどこか苛立っていたの。地球族である貴方が魔法に対する知識がなくて当然なのに、それをいいことに貴方を苛立ちの捌け口にしてたのかも…。さっきまでそんなことを考えてた。」
「……。」
 勇気はまったくの予想外の展開に少し理解が遅れたが、しばらくして苦笑し、それに答えた。
「無理ねぇーよ。」
 勇気が言うとエミリィーは少し驚いたように顔を上げる。
「俺がもっと色々こなせたらな。ごめん。」
 これは本心だった。昨日、自分は何もできないことを痛感した。
 八騎士の…ギルビスだっけ?あいつが言ってたように『七聖士ともあろう者が魔法もろくに使えないなんてお笑い』なのだ。
 八騎士から見ても、ルギータから見ても、俺は地球人じゃない。七聖士なんだ。
 手加減をしてくれるわけはないし、逆にさっさと抹殺されるだろう。
「貴方は…悪くないわ。」
 勇気が黙っているとエミリィーはこちらに視線を向けてそう言った。
 そういってくれるのはもちろん嬉しかったが、俺だってバカじゃない。
 それが慰め以外の何者でもないことぐらい分かっていた。
 勇気は空を仰いで、その言葉にこう答える。
「でも、現実足引っ張りだ。俺を追いかけてたモンスターって弱いんだろ?そんなのも倒せないで、七聖士は務まらねー。問題は俺が悪いか悪くないかじゃない。役に立つか立たないかだ。地球人だから仕方がないで済む問題じゃねーだろ。言い訳にもなんねーよ。そんなの。もっと強くなんねーと。」
 それを聞くとエミリィーは、ぽんっと勇気の肩に手をおいた。
 勇気がそれに反応して彼女の顔へと視線を移すと、彼女はこちらをじっと見つめて言った。
「向こうについたら、貴方は私が鍛える。貴方には才能があるわ。いい人材といい講師が揃えば、実力なんてすぐ伸びる。貴方の意思も強いようだし、心配いらないわ。後は貴方次第よ。」
 彼女の視線はまっすぐだった。
 笑ってるわけでもなく、いつもの無表情とも少し違う…。
 その真剣な眼差しは、勇気にその言葉を信じさせてくれた。
 実際、自分に才能があることが本当なのかは分からないが、ありふれた慰めより、ずっと自信がわいた。
「ありがとう。俺、頑張るから!」
 勇気はその言葉にそう笑顔で返す。
 するとエミリィーは肩から手をおろして、目線を前へと戻し、いつもの無表情に戻って答えた。
「頑張ってもらわなきゃ困るわよ。覚悟してなさいよ。私は甘くないから。」
「スパルタ教育ですか?」
勇気がそれににやっと笑って冗談交じりに聞くと、エミリィーは冗談なのか本気なのか…こう答えた。
「地獄の特訓よ。」
 地獄の特訓って…どんなんだ。
 エミリィーが言うので、それを冗談ととっていいのか悪いのか…。
 反応に少し困ったが、とりあえず冗談で返してみる。
「じゃあ、エミリィーが地獄の鬼で…俺が…。」
 エミリィーが鬼っていうのはすぐ頭に浮かんだが、(鬼並みに怖い時あるしな)自分の立場はそうするとどうなるのだろう。
 地獄に鬼にしごかれてるって言えば…。
 しかし勇気がぴんとくる言葉を言う前に、エミリィーがその先を答えた。
「罪人。」
 本来ならここでは怒るべきなのだろうが、何故か笑いをこぼしてしまった。
 鬼のような顔でこん棒を振り回すエミリィーを想像すると、余計顔がにやついた。
 それで、自分が囚人服を着て…駄目だ、これ以上想像したらもう笑いをこらえることができない。
 勇気は途中で無理やりその想像を頭からかき消して、まだ少し笑いながら言う。
「ええ〜?俺めちゃくちゃいい子なのにぃ?」
 それを聞くとエミリィーは眉をひそめそれに返す。
「いい子は部屋の中で魔法を発動させたり、人のベッドを長時間占領したり、おねしょしたりしないわ。」
 と、ここで不満。最後の項目はやってない。
 ここはやっぱり、突っ込んどかねーと。
「なんか引っかかるのが一個混じってるんですけど。それに関してはまったくの無実よ?」
「どーだか。おかげでサファイアが掃除しなくちゃいけなくなったじゃない。」
「えー。でも、それってさ一番初めの項目の罪の中に入るんでないの?ってか、濡らしたのは俺じゃ…。」
 勇気がそこまで言うとエミリィーはこっちをきっと睨んだ。
「何よ?私のせいだとでも言いたいの?」
 こうなるともう鷹に睨まれたネズミだ。
 いや、ライオンに睨まれたまだ歩けない子羊だ。
 勇気は縮こまって小さく答える。
「や、俺のせいですね…はい。」
「そーよ。貴方が全部悪いの。」
「さっき、俺は悪くないって言ったくせに。」
「それはそれ、これはこれ。」
「勝手だなぁ。」
 勇気は軽く吹きだして言うと、もう一度空を仰いだ。
「地球の夜空はどうだった?」
 空を見上げてふと思い出す。一度、星空は綺麗かと聞かれたことを。
 エミリィーはそう言われると、自分も空を見上げて言った。
「とても素敵だった。魔法星のと同じくらい。」
「そっか…。そりゃよかった。星、好きなのか?」
「ええ。とても。向こうでも、よく見るわ。」
「俺も好きなんだ!だからここにはよく来る。」
「そうなの。」
「おう!」
 彼女の自分の質問に答えるその顔から、勇気は本当に好きなんだろうと読み取った。
 にっこり笑っている訳ではもちろんなかったが、口元がかすかながらに微笑んでいた。
 考えられないかもしれないが、彼女は本当に顔の表情を滅多に変えない。
 変えたとして、それは怒った顔か、呆れた顔か…。
 だからエミリィーのそういう顔はとても新鮮だ。
 まぁ、それもよく見てないと分からないくらいだけど。
「何にやついてるのよ。」
 エミリィーに言われてはっと我にかえる。
 どうやらにやけてたらしい…。
「あ、いや。別に。」
「貴方って、本当に変な人よね。」
 勇気が言うとエミリィーは呆れた顔をしてそう答えた。
 ああ…一瞬だったな…。笑った顔…。(もっとも、あれを笑った顔に含むのならだが)
 勇気はそう思って、エミリィーの居る方向と反対方向に顔を向け、ため息をつく。
「ところで、怪我の具合はどうなの?まだ痛む?」
 と、エミリィーがここで新たな話題を切り出した。
「いや、ちっとも。もう平気。」
 勇気はそれににっと笑って答える。
 痛むどころか、怪我したことが嘘のように思えるほどだ。
 エミリィーは勇気の言葉にやはりいつもの無表情で言った。
 多分、心配してたわけじゃなく、確認の意味で聞いただけなのだろう。
「そう。なら、朝になったら出発するわよ。」
「え、魔法の星に?」
「ええ。貴方は一応魔法使えるわけだし。まぁ、もっとも向こうについたてもしばらくは修行だけど。」
「そっかぁ。わかった!」
「ご両親とかに出発するまでに連絡とっといたら?もしかしたら、何年も帰って来れないかもしれないわよ?こっちの時間は止まってるけど、貴方はこれから向こうで暮らすことになるんだから。死ぬ可能性も絶対無いとは言えないし…。」
「それは大丈夫。俺、親いねーから。」
「そう…なの?」
 エミリィーの顔が少し驚いたような…そして『まずい』とでも言いたげな顔でこちらを見る。
 大抵『親が居ない』というと、皆そうゆう顔をする。
 だから自分からは言い出すことはなかった。
 変な気を使われても困るだけだ。
 おかげで担任の先生以外はそのことを知る者はいなかった。
 でも、今回は言わざるをえないので、言っておくことにした。
「ああ。物心ついたときにはもう…。母さんの記憶ならかすかにあるんだけど…。父さんにいたっては、生まれる前に死んだらしいし。だから、心配することねーって。」
 するとまたエミリィーが呆れた顔になった。
「よくそんなこと、さらっと言えるわね。」
 勇気はそれに苦笑して答える。
「ん?ああ。だって、ほら。それが当たり前だったし。別にそれを悲しいとかは特別思ったことはねーよ。ただ、ちょっと寂しいときはあったけどな。ま、もう慣れたし。」
 そう。それが当たり前。俺にとって親が居ることなんて、到底叶いそうもない、いや絶対叶わない絵空事だった。
 自分がもし親に会えることがあるとするなら、それは夢の中か自分が死んだときだろう。
 そして唯一生きて会える夢でさえも、いつも残酷な悪夢だった。
「そう…。」
 エミリィーは言いながら目線を前に戻してうつむき、少し間をあけて続けた。
「私も、いないわ…。もう、ずっと前に亡くしてる。」
「…そっか。」
 エミリィーに親近感を覚えたのは、やはり気のせいではないようだ。
 しばらく二人は黙っていたが、勇気がやがて少し明るい口調で言った。
「俺たち、ちょっと似てるよな。」
 エミリィーはその言葉に少し顔を上げて不満気に答える。
「ほんの少しだけね。後は全然似てないわよ。」
「なーんか、引っかかる言い方だよなぁー。ま、いいけど。」
 勇気はそういいつつも軽く笑いをこぼす。
 思いっきり否定するエミリィーが何だか笑えたからだ。
「そろそろ戻りましょうか。」
 しばらくの沈黙の後、エミリィーは言いながら立ち上がった。
「あ、おう。」
 それを聞くと、勇気もそう返事をして立ち上がる。
 しかし、エミリィーは立ったまま、その位置から動かない。
 どうしたのだろうと、声をかけようとしたその時、彼女はふりむかずにこう言った。
「今日は、話せてよかったわ…。ありがとう。」
 勇気はその言葉に固まってしまった。まさか、そんなことを言われようとは…。
 驚きのあまりしばらくぼーっとそのまま突っ立ていたが、しばらくしてはっと我に帰る。
 すると、目の前にいたはずのエミリィーは、もう屋上のドアノブに手をかけていた。
「あ、エミリィー!」
 勇気が呼び止めて、エミリィー傍に駆け寄ると、彼女はいつもの無表情で振りむいて答える。
「何よ?」
「俺も…話せてよかった!ありがとな!」
 その『ありがとう』の言葉は、話せたことだけではなく、エミリィーへ対する感謝の気持ちを全てその言葉にたくしたものだった。
 それがエミリィーに伝わったかどうかは分からないが、ともかくありったけの誠意をこめて勇気は言った。
 彼女はそれを聞いてしばらくは、何を思ったかこっちをじっと見ていたが、やがて前に視線を戻して、
「そう。」
 と、そっけなく、でもいつもより少し明るい口調でそう答えると、ドアノブをまわして扉を開けた。
 勇気はその背後で一瞬笑顔になった後、置いていかれないようにその後に続いた。
 喜びをまだ、その胸でかみしめながら…。


「本当に何も持たないで行くの?」
 サファイアが手ぶらで部屋から出てきた勇気に、心配そうに言った。
「ああ。持ってくもんは特にないだろ?」
 武器や洋服は向こうで揃えてくれるらしいし、お金なんか持っていても無駄だ。
かといって勉強道具なんぞ持っていく訳にも行かない。
 強くなることがまず最優先だし、第一荷物になる。
 旅をするのに、ずっと重い荷物もってるのも嫌だしな。
(待てよ。あれは持っていかなくちゃ。)
「あ!ちょっと待ってて。大事なもん忘れてた。」
「いいけど、早くしなさいよ。」
 エミリィーが言うと
「おう、すぐ戻ってくる。」
 と、答えて部屋の中に駆け込む。
「危うく忘れるとこだったぜ。」
 勇気はどたばたと廊下を走り、いつも食事をとっている部屋の棚の上に視線を向けた。
 目線の先には一つの写真たて。
 その写真の中では相変わらず、優しそうな面持ちの女性と幼い少年がこちらに微笑みかけていた。
 勇気は写真たてを持ち上げて、中から写真を取り出し、その写真を折りたたんでポケットに突っ込むと、またどたばたと廊下を走って部屋をでた。
「何とってきたんだ?」
 カルーファのその質問に勇気は
「写真。これは母さんの唯一の形見だから。」
 とだけ答えた。
「かた…み?」
 だが、相手はどうやら形見の意味を理解してないようだ。
 やっぱ馬鹿だな。こいつ。
(説明すんのも面倒だよなぁ…)
 しかし、その手間は省けた。
 それ以上カルーファが聞かないようにと気を使った…かは分からないが、エミリィーが
「じゃあ、行くわよ。」
 と、出発を切り出したからだ。
 その言葉に全員頷き、魔法の星へ移動するための魔法陣があるところへと向かった。
 こうして、俺たちは地球を旅立ったのだ。



3話(完)
2005/06/06(Mon)03:03:55 公開 / 蒼月
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■この作品の著作権は蒼月さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
えー、ようやく3話を終わらせることができました。
だんだん重くなってきて、打つのが困難になってきたため、4話はこの続きではなく新しく投稿したいと思います。
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