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『音感カプリチオ(修正版)』 作者:風丘六花 / ショート*2 リアル・現代
全角3409文字
容量6818 bytes
原稿用紙約10枚
「耳に入るメロディが、全部ドレミで聞こえるのってどんな気分なんだろ」
 窓から橙が覗く、夕方の音楽室。囲んだグランドピアノ、ふいのつぶやきは隣から。
 聞こえてそっちを向いたら、「ちょっと気になって」と目を伏せて笑われた。私は肩を竦める。こいつと一緒に居て、いつの間にかうつっていたしぐさ。
「どんなって言われても、わかんないよ。それが普通なんだもん」
「だよなあ」
 予想通り、と倉本も肩を竦める。私が真似したしぐさのはずなのに、なんだか真似された気分。視線は手元に落として、ちょっとむっとしてみせれば、気付かれたのか。倉本は肩をすとんと落として、宙ぶらりんになった右手をピアノの縁に。
 わかってたならどうして聞いたの、と。一度は声に出そうとしたけど、やめた。きっとこいつだって、意味があって聞いたわけじゃないんだろうから。
 困ったように眉を寄せて、小さく笑う姿が絵になるのに、またちょっとだけむかむか。なんだって、こいつに。
 なんとなく悔しくなったから、ちょっとだけ反抗。いつもいつも同じ質問ばっかりされる、私の身にもなってみればいい。なんて、それはほんの小さな八つ当たり。
「そんなこと言ったらさ、私は倉本には音がどう聞こえてるのか知りたいよ。この音が」
 ぽーん。右手の人差し指で、ちょうど触れた鍵盤を弾く。指を滑るなめらかな感触から、間延びした単音。
「――“ミ”だってわからない、倉本の世界をみてみたい」
 目を落とした白と黒、指は確かにその上にあった。間違えるわけはないけれど、ちょっと安心。
 倉本に目をやれば、やつは少しだけ目を丸くしていた。さすがにこの切り返しは予想していなかっただろう。ちょっと、勝った気分。なにが負けだかはよくわからないけど。
 倉本は、ひとつ溜息。それから、「降参」とばかりに両手をあげて首を横に振る。そんな大袈裟なジェスチャーさえ、自然に思えるところに腹が立つ。射し込む陽の光は、赤く長く。
「俺が悪かったよ、答えらんねえ。俺は、こうじゃない世界なんて知らない」
「でしょ? 私だって、音がドレミで聞こえない世界を知らないもの」
 ぽん、ぽん、ぽん。高くしたままの椅子に座って、付かない足をぶらぶら。片手だけ、適当に鍵盤を叩く。放課後夕暮れ、音楽室のグランドピアノを二人で占領して、なんて。どんな青春ドラマ。
 それなのに、甘い雰囲気の欠片もないのが惜しまれる。まぁ、倉本相手じゃ仕方ない。ピアノと私と倉本と、残ったのは広い広い空間。まっすぐ飛んで、あちこち跳ね返って響く音。ぽん、ぽん、ぽーん。
「なんか、曲弾いてよ」
「やだ。倉本の前でピアノ弾きたくない」
「なんで」
「やだったら、やだ」
 倉本サイズのピアノの椅子は、私がずっと占領して、そんなわがまま。それはもう、ちょっとした意地。何回も繰り返したやりとり。ここに二人でいるのも何度目だけど、私の指は意味の無い音しか紡がない。白鍵の上で、跳ねる。なんの理由もないスタッカート。ぽんぽんぽん、ぽーんぽん。ドレミファソラシド、ドシラソファミレド。
「ピアノ、上手いんだろ。コンクールで賞とか獲りまくってるって聞いた。有名だって」
「だって、昔からやってるもん」
「何でやなんだよ」
「ピアノ、好きじゃないから」
 嘘。嘘でもないけど、近い。倉本は案の定目を丸くした。「初耳だ」とピアノの縁にかけた右手に、力を込める。
「好きじゃねえのに、上手いの?」
「ピアノしか、出来ないから」
「……ふうん」
 腑に落ちないような声を出してから、「代わってよ」と倉本が私に言う。だから、席を退いた。さっきまで倉本が居た位置に立てば、今度は倉本が椅子に座る。私と違って、足はしっかり地面に付いた。ピアノにかける両手。長い指、大きな手。メロディが、広がる。
 倉本のピアノが好き。上手いとか下手でいったら、そんなに上手くはない。それは確か。だけど、私はこの音が好き。決して上手くない一個いっこの音が集まってつくる音の世界が、びっくりするほどひとつだから。つながったまま、橙の光に融ける。触れたピアノ、指先にかすかに伝わる振動。
 音がわかってしまうのは、昔からだった。いつからなんて覚えてない。ただ、幼稚園の時に聞こえる音に名前を付けられてから、音といえばそれだった。全て単音の集まりで、メロディは細かく分割されて頭の中に入ってくる。それが普通。どんな優雅な曲でも、流れるようなメロディでも、いつもばらばらだった。
 それなのに、どうしてだろう。どうして倉本なのかはわからないけれど、倉本の音だけはなんだか違う。音じゃなくて、完全なメロディ。「音」を感じさせない連続性が確かにあって、それがどうしてなのかはよくわからない。けど、倉本の奏でる繋がった音が好き。
 もしかしたら、それは倉本には音がわからないからなのかもしれない。こいつは、びっくりするほど音感がない。よく、そんなで音楽やれるなぁ、と思ってしまうほどには。でも、きっとだからなのだろう。音を名前で区切ることが知らない倉本だから、こんな。
「なぁ、笹原」
 メロディの途中に、倉本の声が顔を出す。「なに」と聞けば、倉本は鍵盤から両手を同時に離した。急にしぼむ音、わずかな余韻も倉本の右足が踏み消した。
「絶対音感って、便利?」
 どうして、今日はこんなにも唐突なんだろう。わざわざ、弾いてた曲を途中で切ってまで。
「便利だよ。……でも」
 一度聞けば曲は弾ける。音楽をやっているなら、誰もが欲しがるものなのだろうとは思うし、わかってる。それに、現に利用もしている。確かに便利だ。でも、だけれど。
「私はほしくなかったし、嫌い」
 倉本は、今度は目を丸くはしなかった。そうか、とただ呟くだけ。視線は手元、ちょっと触れた鍵盤。このわかった風なのがやっぱり腹が立つ。
「だって、これに人生決められちゃったみたいで、悔しい」
 理由は聞かれなかったのに、私は喋っていた。勝手な自己満足、だけれど言葉にしたかった。絶対音感なんて嫌い、ピアノなんて嫌い。望んで持ったものでも始めたものでもないのに、気が付いたら自分の一部だった。一部どころじゃなくてほとんど全てだった。ピアノが得意なのが、私。
 それが、悔しい。
「それでも、やめねえの?」
「やめないよ。だって、私だもん」
 だから、倉本の前でピアノを弾くのは嫌。倉本は本当にほんとうにピアノが好きだから、音楽が好きで好きで大好きだから。そんな、ピアノが好きな倉本が弾くピアノが好き。だから、邪魔したくない。雑音なんか、入れたくない。
 私の音は、気持ちのこもらない模範解答。楽譜通りに弾いて、楽譜通りの感情表現。そんなもの、倉本に聞かせたくない。こんな音が素晴らしいと思ってほしくない。素晴らしいのは、私の音じゃなくていつだって倉本のものでいい。
「倉本、弾いてよ。倉本のピアノが聞きたい」
「俺だって、笹原のピアノ聞きたいんだけど」
「やだよ。今は、弾いてあげない」
 そう言って、笑ってみせる。このタイミングで倉本は一瞬、目を見開いた。だけど、すぐに顔を伏せて、それからやつも笑う。「今はってなんだよ」と、笑いながら聞いてくる。
「そうだなあ、じゃあ」
「お?」
 こっちに乗り出してくる体、このきらきらした目がどうにも。なにを期待してるんだか、なんて。自然と笑えてくる。こんな、図体してる癖に。本当に、こいつには腹が立つ。
「私が倉本のこと好きになったら、倉本にセレナード弾いてあげるね」
 一瞬、空白の時間。倉本はまた目を丸くして、それから盛大に笑い出す。「意味わかんねえ!」と大笑いして、思わず拳が鍵盤を叩く。ぽろろーん、ぽん。それが聞こえてもまだ、倉本は笑っていた。
 本心だよ、と言ったらこいつはどんな顔をするだろうか。なんて。でも本当だと思う。倉本のことが好きになったら、きっと私はピアノが好きになる。だって、ねえ? ――まあ、そんなことがあるなんて保証ないけれど。
「要するに、一生聞かせねえ、ってこと?」
 残念。と倉本は呟いた。広い両手が一オクターブと二つ、一気に叩く。滑らかに、流れ出す両手とメロディ。やっぱり好きだなぁ、と。思ったのは、今はこのメロディにだけ。
 夜が近づく放課後の音楽室、グランドピアノを囲んで二人。この音を独り占めできる私は、本当に幸せ者だ。

2011/01/03(Mon)03:04:51 公開 / 風丘六花
■この作品の著作権は風丘六花さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは、風丘六花です。
初めてお邪魔させていただいてから、そういえば重い話しか書いていなかった気がするので、今度は軽い話を、と。
「等身大」を目指しました。
同い年くらいの子を書くのは一番難しいです……。

私は音楽に関しては無知(特に演奏する方)なので、音楽についての表現はかなり危ういと思います。
その辺りもあわせて、ご指導いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

[01/03]
加筆修正いたしました。
ちょっとカメラワークを引いた描写を増やしてみたつもりです。
冬休みの課題が終わりません。もといやってません。
この作品に対する感想 - 昇順
水山 虎です。初めまして。読みやすくて好印象です。
 絶対音感の世界って一体どんな感じなんでしょうかね……。僕は凡人なので、わからんですなホホホ。僕に絶対文感とかあったらいいのに……。と思いました。でも絶対文感あっても、主人公のように小説が好きじゃなくなるなら、そんなものはいりませんな。 

2010/12/28(Tue)16:48:170点水山 虎
水山 虎様
はじめまして、お読みいただきありがとうございます。
私も音感とかいうものはほぼ無縁なもので……。
絶対文感、どんなものなのでしょうか。気にはなります。
だけどそれで小説が嫌いになったら本末転倒ですよね。
凡人が一番かな、って思います。
ありがとうございました。
2010/12/28(Tue)22:59:010点風丘六花
 はじめまして、風丘六花さん。作品、拝読させて頂きました。
 初っ端からですが、風丘さんの文の区切り方はいいですね。ピアノ(というか音ですかね)がメインとなっているようなのですが、文章も、雰囲気がまるでぽたり、ぽたり、と音が降ってくるような感じでした。読んでいて、主人公のたどたどしくも豊かな思春期の感情がよく伝わってくるようです。
 ただ、一つ、個人的な意見を申し上げると、登場人物が二人、そしてピアノが一台、という舞台なのですが、せっかくのピアノが影が薄く、少々残念でした。もう、ほんの少しだけ、ピアノなど風景の描写を入れると、風丘さん独特の作品における雰囲気の深みが増すのでは、と勝手ながら思いました。素人意見で申し訳ありません。
2010/12/28(Tue)23:20:560点一二三四吾
一二三四吾様
初めまして。お読みいただきありがとうございました。
文の雰囲気に関してはいつも苦労しているので、評価していただけてとても嬉しいです。
やはり風景の描写が弱いのですね。
自分でも多少は自覚していて、意識もしているつもりなのですが難しいです。
上手く取り入れられるよう、試行錯誤してみます。
ご感想、ご指導ありがとうございました!
2010/12/29(Wed)00:48:310点風丘六花
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