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『アヴェスタ戦記 未完』 作者:プリウス / ファンタジー 未分類
全角63858.5文字
容量127717 bytes
原稿用紙約177.15枚
アヴェスタ。三つの勢力、アパスターク帝国、ヤスナ教主国、ウィスプ・ラトゥ自治領。それら三国の争い。歴史の渦中に巻き込まれる戦士セタンタ。彼の前に現れた少女パンドラ。二人を軸に物語は回る。
Chapter 01「出会い」

 圧倒的勝利が覆され圧倒的敗北に陥ったとき、人が取る行動は限られている。逃げる、もしくは敵に投降するのいずれかだ。騎士であれば最期まで誇らしく戦うという選択肢もあったかもしれない。祖国のため、守るべき家族のため、そして自らの栄誉のために死を厭わず戦い抜く。騎士道精神は子供たちにとっての憧れであり、尊崇の念でもって迎えられる思想だろう。だがそれはあくまで一部の人間のみに与えられた幸福な陶酔。恵まれた環境で生きるもののみが持つ、形而上学的な名誉に過ぎない。こうした精神の高みに至れない凡百の人間は、ただ日々を生き、暮らすのみ。
 彼、セタンタは間違いなく後者の人間。精神の高みとは全く無縁な戦士だった。守るべき祖国も、家族も、誇りすら持たず、ただ己の嗅覚のみで生きる蛮族。セタンタは流れ者だった。その場限りの暴力を振るい、その場限りの糧秣を得て生きてきた。時に大富豪の用心棒として戦い、時に山賊の片棒をかつぎ、時に戦場で傭兵となった。なりふり構わず、信念を持たず生きる彼のことを他の荒くれどもは「狂犬」と罵った。
 セタンタは焦っていた。流れが全く、己の意図せざる方向に進んでいる。セタンタは「狂犬」と呼ばれはしたが、決して愚鈍ではなかった。むしろ鋭敏と言っても間違いではない。仕事をする際は必ず自分の利益を最優先に考えた。つまり、絶対に負け戦に乗らない。そのために情報収集は怠らなかった。この世の中で誰が力を持っているか、そのことに集中した。今この国、アヴェスタには大きく分けて三つの勢力が存在する。一つは古くよりこの国を治めてきたヤスナ。ヤスナを治めるのは神託によって選ばれし巫女であり、現在はイシュタルという名の娘が巫女王として君臨している。巫女王とは、彼らが崇拝する神を皇とし、それに従う者のことである。そのヤスナに対抗する勢力がアパスターク。彼らは古くからの神々を否定し、近代的な国家樹立を求めてヤスナより離反した勢力だ。その首領であるギルガメシュは自ら皇帝を名乗り、アヴェスタの統一を目論んでいる。そして第三の勢力がウィスプ・ラトゥ。アヴェスタにありながらその豊富な資源を武器に自治を認められている。形式上はヤスナと臣従関係にあるが、アパスターク、さらには諸外国とも独自に交易を行っており、実体はほぼ独立国と言って良い。
 それらの勢力が微妙な拮抗関係を保ちつつ、アヴェスタは一応ひとつの国として体をなしていた。諸外国からすれば三つの国が存在するだけのことかもしれない。しかしその拮抗がついに崩れた。ヤスナ内部で政治的な争いが勃発したのだ。イシュタルが最も信頼を置いていた臣下、ティアマトの謀反だった。教義においてイシュタルは光の神アフラ・マズダを信奉する立場にあるが、ティアマトは闇の神アンリ・マンユに強く傾倒した。そうした信仰の違いは、最初の頃はさほどの影響ももたらさなかったが、徐々に政治の世界で考え方を違えるようになった。その隙を突く形で、今回のアパスターク帝国によるウィスプ・ラトゥ自治領侵攻が勃発した。
 アパスタークの進撃はまさに電光石火。ギルガメシュの右腕とされる知将エンキドゥの指揮の下、ウィスプ・ラトゥの防衛網は次々と撃破されていった。強いものに力が集まるのは世の理。金を求めて傭兵たちがアパスターク陣営の元に集まりだした。セタンタもそうした傭兵たちの一人だった。彼はアパスタークの必勝を確信し、エンキドゥ配下の兵士長フンババの下に行った。フンババが功名に野心的であり、活躍の場が大きいと踏んでの判断だった。
 全ては順調に進んでいた。フンババは決して勇猛さに溢れていたり智謀に長けているわけでもなかったが、それなりに有能な仕官だった。千人の部下をうまくまとめ、敵を確実に仕留めてきた。セタンタはその中でひときわの活躍を見せた。自分の身長以上もある槍を二本、巧みに使いこなし、敵という敵をことごとく屠った。漆黒の衣を身に纏い疾駆するその姿は敵の目には悪魔に映ったかもしれない。狂犬。彼の槍は鋭く、敵を馬ごと貫くこともあった。必勝。誰もが勝利は確実と思い、勝利の先に思いを馳せた。ある者は報奨の額について。ある者は論功行賞について。おそらくかの知将エンキドゥでさえも、勝利の先、つまりヤスナとの戦いを思考の中心に据え始めていただろう。だが状況は瞬時にして一変した。あまりの速さに誰もその危険に気づくことが出来なかった。真っ先に気づいたのは、戦の最前線にいて、危険に対する嗅覚を発達させたセタンタだったろう。しかし、それでもやはり遅かったのだ。
「くそっ。いったいどうしちまったって言うんだ。おい! 魔道士部隊はどうした。援護無しじゃ乗り切れねえぞ」
 セタンタは無駄と知りつつ毒づく。さっきから、全く魔道士たちの援護が無い。彼ら最前線で戦う者にとって、魔道士の援護は必須なのだ。敵の矢を凌ぐ風を起こし、追撃の火を放つ。その上で最前線の戦士たちが敵に突撃をかける。それが戦場での基本的なスタイルだ。それなのに、今は全く風が吹いていない。
 辺りを見回す。すでに自分は地獄にいるのではないかと思わせる世界が映る。共に食事をした傭兵たちが何人も矢に撃たれて倒れている。近くから悲鳴が聞こえる。林の向こう。セタンタが駆けつけるとそこには敗北の景色が広がっていた。そう、それは見紛うことなき敗北の証。馬上のフンババが敵歩兵に槍で貫かれ絶命していた。辺りは霧がかっていて視界が悪いが、どうやら湿地帯のようだった。それと気づかずに進軍したフンババが敵に取り囲まれたということか。
 歓声が聞こえる。敵将を討ち取ったことが敵全軍に知れ渡る。さらに歓声が起こり、太鼓の音が鳴り響く。冷静にならなければならない。セタンタは焦る自分の心を抑え、この先の判断に思考を巡らせた。フンババが討ち取られた今、自分がここにいる理由は無い。ただちに逃げるのが上策だ。おそらく敵も、逃げる傭兵に追い討ちをかけるほど余力は無いだろう。それにしても今回の敗北は完全に予想外だった。数の上でも力の上でも帝国はウィスプ・ラトゥを圧倒していたはず。彼の国が傭兵を大勢雇い入れたとか、諸外国に救援を求めたといった話も聞いていない。傭兵の話であれば必ずセタンタの耳に入るはずであったし、諸外国に救援を求めることは亡国の道に繋がるので、聡明なウィスプ・ラトゥ領主ノアが行うとは考えにくい。領主ノアは実はよほどの軍略家であったのか、それとも優秀な部下を持っているのか。
 霧が晴れてきた。そしてセタンタは、敵部隊の中心にいる人間を見た。そして少なからず驚いた。そこにいたのは妙齢の女。異国の服を身に纏い、馬上にて遠くを見つめる黒髪の美しい女がいた。その視線は死体となったフンババには向けられず、さらに奥を観ていた。セタンタには彼女がいったい何を見ているのかが分からなかった。刹那、女と目が合った。合ってしまった。セタンタは野生の勘のようなもので目をすぐに離した。
「なんて目ぇしてやがんだ」
 走りながらセタンタは呟いた。この場から逃げる。今はそれ以外のことを考えるべきではなかった。ましてや、敵が自分たちを逃がしてくれるだなどと甘い考えを抱くべきではなかった。セタンタは直感的に、本能的に悟った。あの女はここにいる敵、誰一人として逃がすつもりなどないということを。
 誰かが叫ぶ声が聞こえた。それが敵のものか味方のものか分からない。そんなことにかまう余裕はもうどこにもない。ときたま、自分の近くに矢が落ちてくる。それが自分を狙ったものなのか、たまたま飛んできただけなのか、考えることも出来ずにセタンタは走った。ただひたすらに駆けた。しかし、どこに?
「こっちもかよ!」
 もはや逃げ道など存在しないのではないかと思われた。どこに行っても必ず伏兵が潜み、セタンタを狙ってきた。そのたびに相手を二槍で貫き屠ってきたが、体力の限界は隠し切れない。狂犬の異名で恐れられたセタンタの身体にも切り傷の痕が目立ち始めた。さらに敵には魔道士の援護があるが、こちらにはない。セタンタ自身の力だけで乗り切るのは酷というものなのだ。
 セタンタは立ち止まり、身を潜めた。戦いの太鼓はまだ鳴り響いている。どうやら本気でこちらの兵力を殲滅するつもりのようだ。全てが予想外。何を考えてもこちらの逆となる。この状況にセタンタは苛立ちを抑えられないでいた。
「やれやれ。俺の命運もここまで、かな」
 一兵士であるセタンタに戦況を把握することは不可能。それでも他の兵士よりははるかに状況をよく分析できていた。他の兵士たちには魔道士の援護が切れたことに気づくこともなく死んでいく者もいた。ただし、いかに現状を正しく把握できたとしても、それがいったい何の足しになろうか。いや、むしろこの状況を知ることで圧倒的な絶望に陥るかもしれない。そうなればあとは大人しく死を待つだけだった。
 ウィスプ・ラトゥの軍師ウー・ヨンは遠くを見つめていた。その視線が何を捉えているのか、そこにいる誰も知りえないことだった。彼女は東洋の衣装を纏い、腰には鎖分銅を佩いている。その得体の知れない雰囲気から、周囲の誰もが彼女を敬遠した。しかしウー・ヨンはそうしたことに全く頓着した様子がない。そうした世俗の思考は、彼女にとって何ら一考に価するものではなかった。
「敵戦力はほぼ壊滅状態。部隊長フンババの首も取ったことじゃし、そろそろ撤退の鐘を鳴らしても良いのでは? 逃げる者はすでに烏合の集。そのまま放置しても問題は無かろう」
 ウー・ヨンの隣に位置する初老の将軍が尋ねた。彼、エイブラムは歴戦の勇者にして領主ノアの親友でもある。エイブラムは当初、ウー・ヨンの従軍を渋った。異国の人間を自国の戦争に使うこと。何よりウー・ヨンが若い女であることが気がかりだったのだ。女に戦をさせるべきではない。それは決して女を蔑視してのことではなく、女性を守るべきという騎士道精神の表れであった。しかし今、エイブラムはもはやウー・ヨンが戦場にいることにいささかの不満も持ち合わせていなかった。彼女の知略に尊敬の念さえ抱いていた。エイブラムとはそのように柔軟な思考の出来る男でもあった。
 エイブラムにウー・ヨンは静かに応えて言った。
「今回の戦いはただ目の前の敵を追い払うだけではございません。常勝ならぬ常敗を続けたウィスプ・ラトゥにとって、この一度の勝利は最大限に活かさねばなりません。すなわち、次の勝利に繋げるための大きな勝利といたします。そのためには、敵を完膚なきまでに叩きのめす必要があります。それにより、帝国は兵を集めにくくなるでしょう。彼の国の国民はいきり立つ可能性がありますが、世の流れに敏感な傭兵たちはこちらになびくやもしれません」
 それゆえの殲滅。それゆえの虐殺。ウー・ヨンにとって、人をどれだけ殺すかということさえも、目的に沿って決定される要素の一つに過ぎないのだ。その徹底した冷徹さに、エイブラムは僅かばかりの怖気を感じた。
 敵を湿地帯に誘い込み周囲を完全に封鎖する。そのための伏兵の配置、全体の行軍、そして動くタイミング、どれも全てウー・ヨンの采配によるものだった。その全てが見事という他ない、まるで一つの芸術のような仕上がりであった。そしてその芸術の渦中にセタンタはいた。
 セタンタの前に現れる敵の数が徐々に増えていた。そのことは味方の数が徐々に減っていることを意味した。いずれにせよセタンタはすでに孤軍奮闘。ただ何の考えも無しに目の前の敵を屠り続けた。
 二本の槍は折れ、今は敵から奪った剣ひとつで戦い続けていた。体中から血が流れ、死の気配が漂い始める。狂犬と呼ばれた勇姿はそこになく、今はただの無残な敗残兵でしかない。それでも、そんな状況に至っても尚、セタンタは諦めなかった。生きるということを。決して死なないということを。背負うものなどない。彼はすでに祖国を捨てた身。守るべきものなどない。彼は常にひとり。それでも生きたいと願う。妄執にも似た生への執着が彼を戦わせ続けた。
「ははっ……。さすがにここいらが潮時か」
 その彼もついに自らの結末を想起した。生きることの無意味を思わせるほどの絶望的な状況。誰も彼を責めることなど出来ない。むしろここまでよく頑張ったと褒め称えられるべき。彼は騎士道精神など持ち合わせてはいないが、まさしく戦士であった。
 そして彼は信じられない光景を目にした。それはこんなところにあるはずのない光景。いてはいけない人。戦場に最も似つかわしくない存在。深く暗い、闇色の髪は腰まで届き。神々しいほどに白い肌は美しく。黒のローブを纏い、魔道士さながらのいでたち。禍々しい光を放つ黄金色の瞳。年の頃は十代の半ばと思しき少女がセタンタの目の前に立っていた。
「お前は……」
 天使。いや、悪魔かもしれない。セタンタはついに自分に死期が訪れたかと思った。天国に行くにせよ地獄に行くにせよ、こんな綺麗な女の子に連れて行ってもらえるならそれも悪くない。少なくとも骸骨のお化けのような死神でなくて安心だ。だが少女の口をついて出た言葉は、セタンタの想像の斜め上を行くものだった。
「始めましてお兄ちゃん。私はパンドラ。あなたを助けに来てあげたわ」
 パンドラと名乗る少女はにっこり微笑みセタンタに挨拶する。何もかもが戦場にそぐわない。パンドラの可愛らしさもここではむしろ異様なものに思えた。セタンタは警戒心を持ち、目の前の少女を睨みつける。
「助けに来ただと? お前のような小娘に助けてもらうほど落ちぶれていたとは、俺ももうおしまいだな。だが遠慮しておこう。だいたい、いったいどうやって俺を助けてくれるって言うつもりだ」
 セタンタは剣を構え、パンドラと距離を置く。見た目は少女だが、ひょっとしたら魔道士の術でそう見えているのかもしれない。見たままの人間だったとしても、やはり魔道士であれば注意すべきだ。優れた魔道士はその体躯に関係なく凶悪な破壊力を有する。
 対するパンドラは笑顔を崩すことなく、右手に杖のようなものを構える。セタンタは目を疑った。少女が持つ杖が突然現れたように見えたからだ。やはりこの姿は幻覚なのか。そう疑うセタンタにパンドラが言葉を発した。
「お兄ちゃんの右から敵の矢が来るわ。少し後ろに下がって」
「なに?」
「いいから、早く下がって! 死にたいの?」
 少女の言葉に従って、というよりも少女の気迫に押されてセタンタは一歩後ろに下がった。するとその直後、目の前を通り過ぎる風がセタンタの顔にあたった。一瞬、何が起こったか分からなかった。左を見ると、近くの木に矢が一本刺さっている。もし一歩後ろに下がっていなければ、セタンタの脳はその矢に射抜かれていたところだ。
「ほら。言った通りでしょ? じゃあ、分かったら私に付いてきて」
 パンドラはやれやれといった風にセタンタをせかした。その黄金の瞳は禍々しいが、敵意や殺意は無かった。しかしセタンタはやはり動けずにいた。あまりにも想定外のことが立て続けに起きたため、思考がショートしていたのだ。
「待て。その前にはっきりさせろ。お前はいったい何者なんだ。いったい何を企んでいる。どうして俺を助ける」
「ああ、もう面倒くさいなあ。狂犬とか呼ばれてるわりには、意外とつまらないところに引っかかるのね。もっと直感で生きなさいよ」
 セタンタの通り名を知っている。それだけでパンドラが普通の少女ではないことがはっきりした。狂犬という通り名は傭兵稼業の間で知られていて、その関連で各国軍隊の一部にも伝わっていたが、決して市井の人間の知るところにはない。そしてパンドラの見た目はどう考えても傭兵稼業のそれではない。であればやはり軍関係者なのだろうか。
「俺の直感に従うとだな。お前には何処か邪悪な気配を感じる。つまり、そう簡単に信じられんということだ」
「信じられないんなら、私が何を言ったって無駄じゃない」
 確かにそうだ。小娘に論駁されたことで、セタンタは妙におかしな気分になった。全く、死線にあってもなお笑えるとは、人とは業なものだ。
「警戒を解くことは出来んが、さりとて他に選択肢があるわけでもない。このままここにいたところでどうせ死を待つだけ。ならば怪しげな小娘に付いて行くのも一興、ということか。分かったぜ。今はとにかくお前に付いていくことにしよう」
「あっそ。それじゃさっさとここから出ましょう」
 そう言うパンドラにセタンタは右手を差し出す。訝る少女にセタンタは精一杯の笑顔を見せた。
「改めて自己紹介だ。俺はセタンタ。海を越えた地から来た流れ者の傭兵だ」
 パンドラは杖を左手に持ち替え、セタンタの右手を握り返して言った。
「私はパンドラ。ヤスナの闇巫女、ティアマト様に仕える魔道士よ」


Chapter 02 「脱出」

 ふと自分がどこにいるのかを忘れそうになった。パンドラに連れられて森の中を分け入るセタンタは、自分が何かに化かされているのではないかと何度も思った。彼らが歩いているのは戦場であるはずなのに、まったく敵と遭遇しないのだ。たまに見かける帝国兵士の死体を除けば、そこには静寂があるだけだった。
「これも、やはり魔術なのか」
 セタンタが誰に言うでもなく呟く。彼は槍だけで生き抜いてきた生粋の戦士。魔道というものについて街の小売商人が知る以上のことは知らないでいた。もちろん戦場では何度も魔道士と出くわした。何人もの魔道士をその手にかけてきた。しかしそうした魔道士たちの使う魔術とパンドラのそれとはどこか違うような気がした。魔道士のそれはあくまで人間が作り出した術式であるのに対し、今の状況はどこか神がかっている。だいいち、パンドラには魔術を行使している様子が全く無い。
 戸惑うセタンタにパンドラが振り向いて言った。
「魔術と言えば魔術だけれど、魔術でないと言えば魔術でないわね。お兄ちゃんはきっと、私が魔術を使っているはずなのに、そういう素振りが無くて戸惑ってるんでしょ。私のこの魔術は特別なの。そのへんの三流魔道士が行使するような魔術とは格が違うのよ」
 パンドラが得意げにふふんと笑って言った。この年頃の女の子にありがちな生意気な態度を微塵も隠そうとはしない。
「分かりにくい言い回しをしないでくれ。俺はそんなに頭が良くない」
 あくまでそっけない態度のセタンタにパンドラは少し苛立つ。頬を膨らませてセタンタを睨みつける。このまま秘密にしてやろうかという思考が頭を巡ったが、それはやめにした。今がそれどころではないことは少女も重々承知している。
「私が使っているのは魔法よ。魔術じゃないわ。まあ、言ってもお兄ちゃんには違いなんかどうでもいいだろうから説明は省くけどね。とにかく私はこの魔法で、自分の身近に迫る危機を察知できるの。私という人間は、私に訪れるあらゆる災厄を予見できるっていうわけ。そして私の近くにいる人間についてもある程度は見れるの」
「災厄を予見? お前は占い師なのか」
「いや違うけど、それで分かりがいいっていうんならそう思ってくれても構わないわよ。ただし、的中率百パーセントのハイパー占い師ね。悪いことしか当たらないけど」
 何がおかしいのかパンドラがくすくすと笑う。年頃の少女らしく、笑う姿はなかなかに可愛らしいとセタンタは思った。
「なるほど了解した。つまりお前は自らに降りかかる災厄を全て予見できる、と。その力を利用して敵の居ない道を選んで進んでいるということだな」
「ご明察。お兄ちゃんのところまでもそうやってなんとかたどり着いたのよ」
 パンドラの説明を聞いてセタンタはふと疑問を覚えた。確かに今はそのパンドラの力を使って、敵を回避しながら道を選べる。しかし、どうやって彼女は自分を見つけたのだろうか。パンドラはどう見ても頑強な戦士とはいえない、やわな体躯をしている。そんな彼女が自分を見つけるため、戦場を走り回った? それはいくらなんでもあり得ないのではないか。一人黙考するセタンタにパンドラが言う。
「お兄ちゃん気をつけて。前方から敵の歩兵が近づいてくる」
「なに。予見出来なかったのか」
「ううん。敵兵が来ることは分かっていた。けれど避けられなかった。今この戦場はウィスプ・ラトゥの軍に完全包囲されている状態よ。今まではするすると敵をすり抜けてこられたけれど、最後までというわけにはいかないの。だから私は兵士が最も少ないルートを選ぶわ。お兄ちゃんにはその都度知らせるから、不意打ちでも何でもして敵をやっつけてほしいの」
「なるほど、やっつけてほしいときたか」
 セタンタは不敵に笑みを浮かべる。やはりパンドラは一人の人間だった。天使でも悪魔でもない。そのことにほんの少し安堵し、改めて気を引き締める。最後に自らを救うのは、自分以外にありえない。今回もそのセオリーに従ったまで。剣を構え、敵を待ち伏せる。
 ウィスプ・ラトゥの軍師ウー・ヨンと老将エイブラムは共に戦略地図を見つめていた。何人もの人間が入れ替わり立ち代り二人の前に現れては現状を報告して去っていく。戦でウー・ヨンが最も重視したもの、それが情報だった。偵察専門の部隊を組織し、彼らを縦横無尽に走り回らせる。そうすることで敵味方双方の状況をいち早く把握する。それこそが勝利への常道であると確信していた。
 そうした数ある情報の中で、一点だけ気にかかるものがあった。少女と思われる小柄な女が男と二人で戦場を歩き回っているのだという。当初は何を馬鹿なと気に止めずにいたが、同様の報告が二回以上なされた時点でウー・ヨンは対処することを決めた。今のところその二人に何か被害を受けたというわけではない。しかし、自らが敷いた包囲網をするりと抜けようとしている。その事実がウー・ヨンに危機感を抱かせた。
「いったいこやつらは何者じゃろうな。まるで森の中に住む幽霊か何かのようではないか」
「報告を時系列にまとめ軌跡を追えば、彼らが戦場の離脱を図っていることは一目瞭然です。生き延びたいという意志を感じます。おそらく幽霊ではないでしょう」
 冗談にも真剣に応対するウー・ヨンをエイブラムは可愛げのない女と感じたかもしれない。それとも単に東洋の人間とはこういうものなのかと納得しただろうか。
「彼らが我々の位置、移動を完全に読みきっていることは疑いようがありません。いかなる手段によってか、それは分かりませんが。兵の全く居ない、もしくは兵の少ない位置を確実に見破り移動しています。このままではいずれ、抜け出されるでしょう」
「別に構わんのではないか。敵兵の一人や二人逃したところで、お主の戦略に何ら泥を塗りはすまいて」
「いいえ。彼らがいかなる手段を用いて我らから抜け出ようとしているか、確認する必要があります。これが単なる偶然で抜け出そうというものなら捨て置いても構わないでしょう。しかし、これは明らかに我々が出し抜かれているということ。今後の戦略に重大な亀裂を生む可能性を捨て置けません」
 内容とは裏腹にウー・ヨンの言葉は淡々としていた。自分の役目はただその智謀の限りを尽くし、最善の対応を取ることのみだと言わんばかりに。エイブラムはうら若き乙女と言える年頃のウー・ヨンがどうしてそこまで達観できるのか不思議でならなかった。よほどの場数を踏まなければ得られない境地だ。
「しかし、こちらの動きを完全に見透かされておるのだろう。そんな二人を捕らえるのは至難の業じゃて」
「いいえ、策はあります。こちらの動きを完全に見透かされているということをこちらが気づいた。その時点で彼らの優位は消滅しています。有難いことに彼らの動きには一点のブレも無い。確実にこちらの手薄を狙ってきている。ならばそれを利用して、彼らを誘導することが可能です」
 ウー・ヨンの語るところはすなわちこうだ。戦場離脱を試みる二人にあえて道を作ってやる。彼らは必ず敵のいない道を選んでいるので、そこでは遭遇する余地が無い。そして最終的に、包囲するのだが、一箇所だけ手薄なところをわざと用意する。相手の手の内がまだ明らかでないため、完全包囲は避けたかたちだ。そしてその手薄な箇所には自分自身が精鋭を連れて赴く。
 ウー・ヨンはすぐに作戦の配置に取り掛かる。エイブラムに指示を出し、戦闘の総仕上げとして兵を鼓舞させる。彼女は同時に帝国軍本隊であるエンキドゥの動向にも意識を向ける。今回の敗北でエンキドゥは一時、体勢の立て直しに力を入れているというが油断はならない。こちらが少しでも隙を見せれば果敢に攻め込んでくるだろう。アパスタークの知将エンキドゥをウー・ヨンは決して過小評価しなかった。
 彼女は作戦に没頭する。そうすることで別の思考を振り払うかのように。発作的に、どうしようもなく込み上げて来る熱い思いを静めながら。志。仲間。それらは今、軍師ウー・ヨンの胸の奥深くに眠っている。彼女は乗馬し、左腰に佩いた鎖分銅に手を添えて行軍を開始した。
 狂犬と呼ばれたこの身も今となっては野良犬と大して変わるまい。セタンタは肩で息をしながらそう自嘲した。まったく笑えない冗談だと思う。パンドラの指示に従い、何度か敵を不意打ちで倒した。真っ向から戦い続けるよりかは随分と楽だったが、それでも疲労は溜まり続ける。中にはそれなりの手だれもいた。普段の狂犬セタンタであれば物ともしない相手だったかもしれないが、今では何度も切り結んだ挙句、ようやく討ち取るといった状態だった。我が身を振り返り、パンドラが居なければもうすでにこの世にはいなかったろうと思った。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
 パンドラが不安げな顔でセタンタを覗き込む。セタンタの満身創痍ぶりにさすがに心配になってきたようだ。時々立ち止まっては、セタンタの胸をいたわるようにさする。
「まだ死にはしない。それにしてもお前、回復の魔術とか使えねえのかよ」
「ごめんなさい。そういうのはちょっと……。人の傷や病気を癒すのは魔術の領分じゃないから。そういうのは神術を扱う光巫女の領分で、イナラシュとかブルリヤシュが居てくれれば何とかなるんだけど、彼女たちは完全にイシュタル様の配下だし……」
 パンドラは何か言いにくそうにしている。セタンタは、確かパンドラは最初出会った頃に自分はティアマトの配下だと宣言していたことを思い出した。かの教主国ヤスナでは政情不安定となり、内部争いが勃発している。巫女王であるイシュタルに歯向かう闇巫女のティアマト。そうした情勢が目の前の少女を苦しめているのかもしれない。
 セタンタはまるで自分がパンドラを苦しめているかのような錯覚に襲われた。ちっ、と舌打ちをひとつし、セタンタはパンドラの頭をぐしゃぐしゃに掻き撫でた。
「な、なにを!」
「心配すんな。こんくらいの傷、何度も受けてきてる。この程度の危機はまだまだ危機なんかじゃねえよ。頼もしい魔道士も付いてることだしな。さあて、ちゃっちゃとこんな場所おさらばして、美味い酒を浴びるように飲むとしよう」
「お酒!? いいねいいね。よおし、張り切って脱出するわよ」
 酒という単語にパンドラが喜びの笑みを浮かべた。セタンタは焦る。
「おい。酒はガキの飲みもんじゃねえぞ。齢十六からってのが帝国の決まりだ。お前はどう見ても十四かそんくらいだろ。熱いミルクでも奢ってやるから、それで我慢しろ」
「何言ってんのよ。私はとっくにそんな年齢過ぎてるわよ」
 意外なパンドラの言葉にセタンタは少なからず驚いた。ひょっとしたら成長が遅れているのかもしれない。そんな風に考えてパンドラの体躯を見る。長い髪が女性らしさを表しているが、それ以外は少年のそれと何ら変わるところがない。
「そうなのか。まあ、それなら文句はねえが。実際のところいったい何歳なんだよ」
「さあ……。二百を数えたところからもう数えるのが億劫になって、もう正確な年齢は定かじゃないんだけれど。ざっと千年ってところかしら」
「はあ? お前、頭大丈夫か」
「ちょっと、それってどういう意味よ!」
 パンドラの言葉をセタンタは当然のように一蹴した。全く驚いたりしない。嘘に決まっているからだ。それが本当ならヤスナ教主国のどの巫女よりも高齢ということで、そんな人間が誰かの下に収まるはずがないではないか。
 パンドラはしばらく抗議を続けていたが、やがて無駄を悟りこの話は終了した。そして二人は黙々と歩き続けた。幸いなことに、敵と遭遇することもめっきり減った。強行突破せずとも、敵の居ない道を選んで外へ抜けることが出来そうだった。
「ほらお兄ちゃん、もうひと踏ん張り。もうほとんど災厄も感知してないし、これならすぐにここを抜け切れそう」
「ああ。しかし今さらだが、どうしてお兄ちゃんなんだ。少しこそばゆい。セタンタで構わない」
「そんなのお兄ちゃんなんだからお兄ちゃんに決まってるじゃない、お兄ちゃん」
 俺はお前のようながさつな妹を持った覚えは無い。そう言いかけてやめた。また拗ねられても面倒だ。それに言い争うほどの気力も無い。セタンタはすでに気力だけで歩いているような状態にあった。
 周囲が少しずつ明るくなってきた。森の木々を抜け、平原に近い証拠だった。セタンタも自然、気力が沸いてくる。色々あったが何とか九死に一生を得られそうだ。その時、パンドラが声を潜めて言った。
「お兄ちゃん、この先に誰かいるみたい」
「何、まだ敵兵が潜んでいたのか。回避する道は……」
「ううん。他も敵が大勢いるわ。私たち、ほとんど囲まれちゃってる状態よ」
 ならば、とセタンタは腹をくくる。敵戦力の最も薄い箇所を突く。今となっては戦い続ける余力は無い。不意を突いて、敵の急所を突破する。それしか方法は無かった。
「走るぜ。付いてこれるか」
「任せて。私、こう見えても足は丈夫なの」
 心の隅でセタンタはパンドラを置き去りにすることも考えていた。千年生きているというのはさすがに冗談だろうが、例え成人であったとしても走りが速いとは思えない体躯をしている。その上魔道士のローブでは走りにくいだろう。助けてもらった恩を仇で返すようで心苦しいが、パンドラの面倒まで見る余裕はセタンタには無かった。
 パンドラが最も敵戦力の少ない方向を指差す。そこを突き抜ければ後は帝国領まで一息。馬があるならついでにそれも頂戴しようとセタンタは胸の内で考えた。せえので二人は駆け出した。パンドラは小柄なわりにセタンタにしっかり付いてきていた。セタンタはそんなパンドラを見て、やわなお嬢ちゃんではないと改めて感心した。これならこのまま敵の不意を突き、一挙に……。
 不意を突かれた。
 パンドラの悲鳴が聞こえたような気がした。ひょっとしたらそれは危険を警告するものだったのかもしれないが、少し遅い。小さな鉄の塊がセタンタの右腕に直撃する。地面にみっともなく転がり、左手で右腕を庇う。骨は折れていないが、強い衝撃を受けて右腕が軽い麻痺状態になった。
「腹部を狙ったつもりだったのですが、とっさにかわすとは、とても良い反射神経をしていますね」
 馬上からそう言う女にセタンタは見覚えがあった。あれはそう、兵士長フンババの戦死を見届けたとき。冷たい目でセタンタを見た東洋風の女。セタンタは馬上の女を睨みつける。が、女は全く動じない。余裕ゆえに、の態度ではなかった。ただただそれが自然体であるというだけのことなのだ。
 女は両手に鎖分銅を構えている。先ほどセタンタを襲った小さな鉄の塊の正体である。
「お初にお目にかかります。私はウィスプ・ラトゥ自治領領主ノアの軍師を務めるウー・ヨンと申します。ここまでたどり着いたこと。いかにしてかは後ほど問いただすとして、まずは見事といたしましょう。私の陣をこうもたやすくかわした人は後にも先にもあなた方だけですよ。どうか大人しく投降していただけませんか。命は保証いたします」
 ウー・ヨンの声が淡々と響く。大人しく投降してもしなくても、確実に捕えるという意志が込められているようにセタンタには感じられた。ウー・ヨンの周囲にいる男たちがセタンタを囲むようにして近づく。
 投降。その二文字がセタンタの頭にこびりつく。別に帝国に忠誠を誓った騎士というわけではない。元々が自由の傭兵稼業。命が助かるのであれば、魅力的な選択ではある。そう思い、セタンタはパンドラを見た。そして心が揺さぶられる。その表情はいつになく真剣で真っ直ぐセタンタの目を見据えていた。投降など決して許さない、とその目がひしと語っている。
 まったく、しょうがねえな。
 つくづく、自分は逆境に向いていると思う。どうしようもないと思うような場面に何度も出くわした。そういうのを避けているつもりが、何故かそうなってしまう。ああ、本当にどうしようもない。セタンタは左手で剣を持ち直し、諦めた。人であることを。


Chapter 03 「狂犬」

 パンドラは身震いした。彼女の前にあるのは災厄そのもの。彼女のみならず、この世のあらゆる者、物にとっての脅威。その顕現に恍惚の笑みさえ浮かぶ。これこそ彼女が求めた力。彼女が必要とした悪。偉大なる者クロム・ドーに従いし怒れる猟犬。コイン・イオタイル。この世に生を受けたもの全てを破滅へと導く邪悪。これほどの災厄、これだけの力をもってこそ、彼女の願いは成就される。
 セタンタは己が蝕まれていくのを冷めた感覚で理解していた。すでに体中の血が全て自分のものではない。古き魔女によりて作られし血が身体の中で暴れもがく。視界が霞む。なのに周囲の動きが手に取るように分かった。戦士たちの呼吸、鼓動、唾を飲む音全てを把握した。ゆえに彼らの動き全てがセタンタには見えていた。セタンタの身体は満身創痍。もはや常人のごとく動くことかなわぬ身。であれば話は簡単。常人でなければ良いのだ。
 馬上の軍師が何か動きを見せた。それに呼応し、男たちがセタンタに襲い掛かる。だが遅い。ため息が出るほどに遅い。セタンタは攻撃を避けることなく手近な男に襲い掛かる。反撃を予想すらしていなかったのか、慌てる男の顔が見えた。男はその剣を振り下ろす。腕に覚えのある戦士だった。必殺の一撃と言って良い。だがセタンタはあろうことか、その剣檄を右手ではねのけた。さすがに男は己の目を疑った。疑うべきではなかった。そのような時間、彼には許されていなかったのだから。男の意識はそこまでで、次の瞬間には首から上が天高く舞い上がっていた。
「女を抑えろ。そいつには構うな!」
 セタンタの尋常ではない様子にいち早く気づいたのはやはりウー・ヨンであった。彼女は何人もの豪傑をその目にしてきた。そして豪傑たちの追い詰められた際に発揮する、驚異的な力もよく理解していた。ゆえに焦らない。即座に傍の少女を確保し、男を牽制する方針へと変えた。それは戦術としては正しかったであろう。敵の急所を突くことは初歩の初歩。だが彼女は重大なミスを犯した。相手をまだ人であると認識していたことこそ誤りの元であった。
 その直後にウー・ヨンは驚愕する。配下の戦士たちを飛び越え、セタンタが跳躍した。男たちもウー・ヨンの指示に従うのを忘れ、ついセタンタを目で追ってしまう。セタンタの軌道、それはそのまま主である軍師へ襲い掛かる。
「馬鹿め。中空では逃げ場など無いぞ。私の鎖にて叩き落してくれる」
 ウー・ヨンが鎖分銅を素早く構える。右からセタンタを絡め取るべく大きく振りかぶり、分銅を放つ。彼女は勝利を確信した。物は上から下に落ちる。その決まりに逆らえるのは鳥や竜など、空を舞うものだけだ。地を這うものである人間が避けられるはずがない。セタンタはウー・ヨンの鎖を巻きつけられ、がんじがらめとなって地に打ち付けられる、はずであった。
 今度こそ、冷静沈着を崩さなかった軍師の思考が停止した。それは驚愕を超える出来事であった。右から凪ぐように襲い掛かるウー・ヨンの鎖を、あろうことかセタンタは身体をねじってかわした。鎖はセタンタのすれすれ上を通り抜ける。そしてウー・ヨンは見た。恐怖した。セタンタの赤く光る目を。彼の纏う邪悪な赤い瘴気に。
「い、いやあ!」
 彼女は衝動的に叫び、馬から転げ落ちた。恐怖が彼女を助けた。セタンタは主を失った馬の背を剣で貫く。馬が暴れセタンタを落とそうとするので、彼は馬の頭を左手で抑えつけ、喉元に食いついた。馬の首など、人の歯で食い破れるものではない。それが人の世の常識。だが彼はそれをした。馬の首から鮮血が飛び散り、ウー・ヨンの全身を赤く染める。彼女は生きながらにして地獄を見た。
 息絶え、その場に倒れる馬の上にまたがり、彼はさらに深く喉笛を噛み切る。嫌な音がした。オオカミが羊を食べる音に似ている、いや同じ。セタンタは馬を食っていた。血で喉の渇きを癒し、肉で活力を得る。冷徹なる軍師も、屈強の戦士たちも、ただその光景を呆然と見守る。ただ一人、パンドラだけが暗い笑みを浮かべていた。
 セタンタがウー・ヨンに向き直る。それは本当にセタンタであったろうか。ウー・ヨンは死そのものが自らの肩に手をかけていることを強く意識した。彼女が真剣に死を意識したのはこれが二度目だった。一度目はここより遠く、東の地で。次々に討ち果たされる仲間たちの無念。生涯唯一の主と誓った者の死。軍師として篭った梁山泊が陥落するのを目の当たりにして、彼女は志の終焉を悟り、死を覚悟した。だが、その後彼女は数奇な運命を辿り現在の主ノアに救われた。彼女は新たな生き場所を得、いずれは東へと舞い戻り志を成就せんと誓ったのだ。しかし今、彼女の志は無残に散ろうとしている。得体の知れない狂気に飲み込まれようとしている。軍師は歯噛みする。
「このような下らない幕の閉じ方か、この私が!」
 剣は馬に深く突き刺さり、セタンタは丸腰。全身に傷を負い、今なお血を流し続けている。対するウー・ヨンには鎖分銅。馬上から落ちたのみでたいした傷は負っていない。それでも、彼女は悟っていた。そんなことなど、もはや最初から関係無かったのだということを。
 狂犬。
 パンドラは満足そうに展開を眺めていた。ウー・ヨンの配下たちはもはや完全に戦意を喪失している。パンドラの力、それは災厄の予言。災厄とは、あくまで彼女にとっての災厄であり、それ以上でも以下でもない。身近な者の危機は自分への災厄となるので、多少は察知出来る。だが基本は彼女を滅ぼしうるもののみを予見する力。彼女は暗い喜びを噛み締める。馬鹿と鋏は使いよう。滅びの力を自らのものとしてしまえば、それは最強の武器となる。自らを守る盾となる。そしてその盾は、なかなかに若く健康的な男。
「おっと、いけない。よだれが……」
 パンドラは口許を右手でぬぐい、にやけた顔でセタンタを見た。赤い瘴気が立ち込めているが、それはセタンタの血。そしてパンドラだけが理解する、瘴気に浮かぶ文様の意味。
「闇の魔女に感謝しなくてはいけないわね、癪だけど」
 セタンタは意識の海に溺れている。彼を囲む十数匹の犬たち。犬たちはセタンタを何度も何度も噛み殺す。不思議なことにセタンタの肉体は潰えず、犬たちの喉を永遠に潤し続ける。常人であればすでに正気を保てない世界で、セタンタは決して自分を失わなかった。痛みが無いわけではない。既に何度も死の痛みを味わっている。だが彼は己を保ち、外の世界を凝視する。犬に気を払っても仕方が無い。犬たちはコイン・イオタイル。偉大なる者クロム・ドーに従い、生けとし生けるもの全てを破滅へと導く怒れる猟犬。そのためにセタンタを食いつくし、外へ現れんとする獣たち。
 軍師は身構えた。反射的なもので、特に意味は無い。いや、身構えることで少しは恐怖を抑えられたか。死への恐怖。それはいかな歴戦の戦士と言えども容易に克服できるものではない。その時、一陣の風がウー・ヨンをかすめた。直後にセタンタが左手で矢を受け止める。セタンタの目はすでにウー・ヨンから離れ、別の獲物を発見していた。馬上にまたがり弓を構える老将、エイブラムの姿がそこにあった。彼は馬を走らせながら正面に矢を放ち、寸分違うことなくセタンタの頭蓋を狙ったのだ。しかしその狙いが失敗に終わったことを悟り、即座に右手で剣を抜き放つ。恐るべき速さでセタンタに接近し、剣を振るう。
 対するセタンタは剣を持たない。さすがに今度ばかりは手で払いのけることは不可能と考えたか、とっさに転がり攻撃をかわした。その隙を狙い、エイブラムはウー・ヨンとの間に降り立つ。
「ウー・ヨン、ここは即時退却じゃ」
 心なしかエイブラムの声に焦りがある。ウー・ヨンは数瞬の放心を恥じ、エイブラムに問う。
「いったいどうしたのです。焦るなど、あなたらしくない」
「南方の砦が落ちた。このままでは補給線が断たれる。いや、すでに遅いやもしれん。わしは速やかに防衛の準備に取り掛かる。お主はノアのところに戻って、戦略を練り直してくれ」
 まさか、とウー・ヨンは思考を巡らせた。南方の補給線は最重要項目の一つ。決して疎かにはしていない。エンキドゥの部隊が攻め込めばウィスプ・ラトゥの本体に報告が行き、すかさず対処したはず。よしんばそれが突破されるにしても、一日や二日というのはあまりにも速すぎる。では情報網、もしくは防衛網に不備が? そこまで考えてウー・ヨンは頭を振る。どうやってかを知ることは今は優先ではない。今は一刻も早い対応が必須だ。だが……。
 セタンタはすでに体勢を立て直し、新たな獲物に襲い掛かろうとしていた。獣のごとく四つんばいとなり、エイブラムに飛び掛る。その動きは完全に犬のそれとウー・ヨンには思われた。セタンタの手がエイブラムの頭に掴みかかる。そう思われた直後、セタンタははるか後方に吹き飛ばされた。ウー・ヨンは驚き、エイブラムを見た。彼は右手を真っ直ぐに突き出し、不動の構えを取っていた。驚くべきことにエイブラムは常人ではないセタンタを正拳突きで吹き飛ばしたのだった。
「エイブラム、あなた、その腕は!」
 ウー・ヨンは慌てて声をあげた。ほんの数瞬。その交叉の中で、エイブラムの右腕は真っ赤に染め上げられるほどに傷だらけになっていた。傍目にはもはや使い物にならないのではないかと思えるほどの傷だった。
「なに、このくらいの傷なんぞは唾付けときゃ治るわ。おい貴様ら! いつまでも呆けとらんで、さっさとこっち来んか。撤退じゃ! ウー・ヨン、お主はわしの馬を使え。女の足では逃げ切れん」
 男たちはやっと我に返った様子で、慌ててエイブラムの元に集う。ウー・ヨンは馬にまたがり、遠くに倒れるセタンタを睨みつける。恐怖を怒りに変え、彼女は必ず借りを返すと誓う。
 パンドラは一部始終を見ていた。ウー・ヨンたちの姿を見えなくなるまで追い続けた。
「まあ、危なっかしくはあったけれど、なんとかなったわね」
 そう呟くパンドラから少し離れて、セタンタが立ち上がる。彼の目は未だに赤いまま。獲物を探し続ける目。その視線は明らかに残されたパンドラを突き刺していた。彼は獣だった。そこにいるのが誰であるかなど、まったく関係のないこと。腹がすけば獲物を殺し食う。それだけのことなのだ。しかし決定的に危機的状況にあるはずのパンドラは特に警戒するでも無い。
「私を狙うつもり? まったく節操無いわね。いくら私が美少女で萌え萌えだからって、シャワーも浴びないだなんてお断りよ」
 黄金色の瞳をギラギラと輝かせて少女が哂う。
「でもね、今日はもうお休みなさいな。今のあなたは私にとって、その辺の野良犬と大差無いわ。つまり、私に対して微塵の危害も加えられない弱者ってこと。血を流し過ぎなのよ。犬どももあなたを食いつかれて眠くなってきた頃でしょう。何も心配いらないわ。お眠りなさい。何なら私が優しく添い寝してあげるわよ。ああ、でもその血の臭いが移るのは嫌ぁね。くすくす。この世の災厄を抱いて眠るなんて素敵だけど、今日はちょっと遠慮させてもらうわよ」
 まったく、好き勝手言いやがって。犬たちに食われ続けながら、セタンタは毒づいた。一瞬、このままパンドラを食い殺してやろうかと思ったが、寝覚めが悪いのでやめておくことにする。セタンタは身体をコイン・イオタイルから徐々に取り戻す。同時に激しい痛みが襲う。無理な動きをし続けた反動がくる。だがその痛みも徐々に緩慢なものへと変わる。痛みを押さえつけるほどの睡魔が身体全体を蝕んでいた。彼の傍から最後の犬が消えてしまった後、彼の意識も深い海へと流れた。
 セタンタは夢を見る。その夢は決して彼が望んで見るものではない。夢とは最初からそういうものだと言われるかもしれないが、そういう話とは少し異なる。彼の場合、夢には決まって同じ登場人物が現れた。一人の女。赤き衣を纏いし闇の魔女。セタンタにとっては、犬に食われ続ける夢の方が何倍かマシだと思われた。赤き魔女はセタンタにとって最悪の極悪なのだ。
「おやおや。また今回は派手に死にかけてるねえ坊や。未だにわたしが編んであげた血清邪法を制御し切れてないんだから、しょうがないけどさ。でもいい加減、コイン・イオタイル程度は自在に操れるようになってほしいね。そんなんじゃいつまで経っても“槍”にまで到達出来ないよ」
 赤き魔女が口許を嫌らしく曲げてニヤニヤと哂う。あざ笑う。その笑いは無能を笑う有能に似ているが、それをさらに不快にしたもの。虫を踏みつけた後に気持ち悪いと嫌悪する態度に近い。徹底的な侮蔑。絶対的な愉悦。
「うるせえババア。今はお前と話す気分じゃない。消えろ」
「おおやおや、つれないねえ、釣れないねえ。きゃっきゃきゃきゃ。この私が! 偉大なる赤き魔女が! 闇の世界に君臨する最強にして最悪の魔法使いたるこの私が! 君のごとき虫けら君に親切丁寧懇切親身に魔術を教えてあげているというのに、どうしてそうも無碍に扱おうとするんだい。君ってば全く女心が分かってないみたいだねえ。きゃっきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゅきゃきゃきゃ。今ちょっとだけきゅって言ってみたんだけど気づいたかなあ? んん?」
 赤き魔女の哄笑は収まらない。赤く燃える炎のごとき髪。赤く塗り染めし唇。赤きマントをなびかせ、赤のとんがり帽子を頭に載せる。皮の胸当て、皮のパンツ、皮のブーツ、もちろん全て赤。編みタイツがエロチックに覗いているがそれも赤。年のころは三十路前後か。だが時に彼女の仕草、声からまるで少女のようにも老婆のようにも思わせる。
 セタンタは吐き気をこらえつつ、文句する。
「いい加減黙れよ。煩くて死んでしまいそうだ。だいたい、お前に魔術を教えてもらった覚えはねえ。お前のやったことと言えば、この胸糞悪い犬ころどもを俺の中にねじ込んだだけだろうが」
「そいつらは魔術の結晶みたいなもんだよ。魔法には敵わないけど、それなりに役に立つ。そいつらを飼いならすことが魔術の訓練になるのさ」
「なるほど。そんならこの犬ころどもを飼いならした暁には、まずお前の煩い喉を噛み切ってやらないとな」
「それはとっても魅力的な提案だけどね。それは無理ってもんだよ。どうしても私を殺したければやっぱりせめて“槍”に到達してもらわないとね。ああ、でも“槍”の力を使わなくても、君の新しい彼女がいればなんとかなるかな。うん、いけるかも。わあ、私ってば超ピンチ? きゃきゃきゃきゃ、ウケる」
 彼女って何のことだよと思い、ふと思いつく。赤き魔女はパンドラのことを言っているのだ。しかし、パンドラがいれば、とはどういうことなのか。
「まあ、それはそれとして。とにかく君、早いとこ犬ころたちを従えないと、ほんとに君が犬ころの仲間入りしちゃうよ。私は最強で最悪だから平気だけど、さすがに犬があんまり増えると良くないからね。世界がほんとに滅亡しちゃう。さすがにそれは私の望むところじゃない。世界は醜く、それゆえに美しい、って誰か言ってたしぃ。うん、やっぱ私がいるこの世界は美しいのであって、その美しい世界は美しいがゆえに私に愛されているのだ。そしてそんな世界で右往左往するセタンタちゃんも一緒に愛しているのだ。きゃ! 告白しちゃった、どきどき」
 赤き魔女の軽口にはあえて応じない。あんまり調子に乗らせてはいけないということはとうの昔に学習済みだった。それにしても赤き魔女の警告はセタンタにとって切実であった。彼が彼の中に飼っている犬たち、怒れる猟犬のコイン・イオタイルはセタンタを食うことで生きながらえている。赤き魔女がセタンタの血液に魔術式を書き込み、それにより顕現しているのだ。食われ続けるということは当然、死に近づくということで、普段はそれを封印している。解き放つことでセタンタは力を手に入れ、代償として自らを差し出していたのだ。コイン・イオタイルは主にセタンタの精神、魂を好んで食す。
「お前、さっきパンドラがどうとか言っていたが、いったいどういう意味だ。何を企んでいる」
「企んでいるだなんて酷いなあ。なんでもかんでも私を悪者にしないと気が済まないなんて、どうしてセタンタちゃんはこんな意地悪な子に育っちゃったんだろうねえ。企んでいるのは私よりもむしろパンドラの方じゃなあい?」
 パンドラが何かを企んでいる。それは最初から分かっていることでもあった。何の見返りもなしに誰かが誰かを救うなどとセタンタは全く考えていなかった。たとえ無償で誰かを助けるとしても、そこには必ず誰かを助けたいという欲求があり、結局は自己満足のための慈悲となる。そのことを悪いとも思っていない。ただ人というのは最初から最後までそういうものであるというだけのことなのだ。
「セタンタちゃん可愛いんだから気をつけなさいよお。女ってほんとに怖いんだから。あっという間に食べつくされて、搾り取られて、絞りかすみたいになってもさらにあれこれと要求されて、最後の最後には使い捨て」
 赤き魔女が哂う。彼女こそは闇の国にその名を轟かせし大魔女。のちにセタンタに“槍”を与えることになる最強にして最悪、スカアハである。


Chapter 04 「知将」

 エンキドゥにとってフンババの戦死は想定外であったが、それをもって彼の意志をくじくようなことは無かった。一つの駒を失ったとしても将棋は終わらない。エンキドゥは二重三重に策を巡らし、ウィスプ・ラトゥ侵攻を開始した。
 彼が最初に行動を開始したのはすでに一年以上も前のことだった。まず彼はウィスプ・ラトゥ南方の要である地点に配下の人間を少しずつ送り込んだ。商人に扮した兵士を何人も紛れ込ませ、町に溶け込ませた。今では町に住む住人のうち十人に一人がアパスターク側の人間となっている。言ってしまえば周囲の気づかぬうちにすでに侵攻は始まっていたということなのだ。
 そして今、南方の勢力図は塗り替えられ、フンババを撃退したエイブラム率いるウィスプ・ラトゥ軍は北方のエンキドゥ、南方のアパスターク別働隊によって挟み撃ちの状態となっている。退いたと見せかけたエンキドゥの本隊は即座に転進し、エイブラムの追撃にあたっている。南方の部隊は打ち破られる可能性があるが、疲弊したエイブラムの部隊を打ち破ることは容易であると思われた。
 エンキドゥの傍らに一人の女性が近づく。彼女、メイヴはエンキドゥの参謀として本隊に付き添っている。小さくしなやかな弓を左手に持ち、右手だけで手綱を器用に操っている。メイヴは弓兵部隊の隊長でもあるが、そのように小さな弓を持っているのは彼女だけだった。東洋の北方騎馬民族より手に入れた珍しい一品であるという。
「エンキドゥ。急いだ方がよろしいのではなくて? この速さでは、エイブラムに退却の時間を与えることになるのではないかしら」
 そのように進言したメイヴだが、実際には特に不安でも心配でもなかった。彼女は明らかにエンキドゥには考えがあってのことだと確信していた。事実、エンキドゥはアパスタークにおいて知将の誉れ高く、作戦においては右に出る者なしとの評判であった。メイヴ自身、彼の参謀としてこの場にいるものの、参謀としての役割など無いに等しいと思っている。
 だがエンキドゥの答えはメイヴの予想の外を行っていた。
「メイヴ。君には黙っていたのだが、フンババの部隊にはセタンタも同行していたのだよ」
 セタンタの名前に身を凍らせるメイヴ。瞳は暗く濁り、視線はここではないどこかを彷徨う。その曇った表情は一瞬。彼女はすぐに普段の冷静な顔に戻り、エンキドゥを見た。
「そうですか。ですがあの殲滅戦から逃れることは難しいでしょう。兵の誰一人として戻って来てはいません。そう、狂犬と言えども」
 エンキドゥはじっとメイヴの顔を見つめる。長い赤毛を後ろできつく縛ったメイヴの顔はどこか戦いの女神をエンキドゥに思わせた。女性的なもの、色気や母性のようなものを剥ぎ取り、青年のごとき凛々しさを身に纏っている。弓兵らしく全体的に軽装である。メイヴの視線はすでにエンキドゥから離れていた。
「そのセタンタが生きている、という報告が入った」
 その言葉を聞き、メイヴは自身の狼狽をもはや隠そうとはしなかった。
「彼は、今どこに」
「大きな傷を負っているらしい。すぐには使い物にならんというので本国に送り返した。一介の傭兵という身分だが、あれほどの戦士はそうおらんからな。多少、手厚く扱ってやるのも良いだろう」
「そうですか……」
 メイヴはうつむく。そしてすぐさま気づいた。
「エンキドゥ。あなた、わたくしと彼が鉢合わせるのを避けるために、行軍を遅らせましたね」
 怒気をはらめた言葉をエンキドゥに投げかける。しかしエンキドゥは全く動じない。彼は静かにメイヴを見つめて言った。
「私は君を優秀な軍人だと高く評価している。だが、まだまだ小娘なところがある。はっきり言うが、戦場に私情を持ち込まれては困るのだよ」
「私情を持ち込んでいるのはあなたの方でしょう! 勝手に私の心を推し量って、それを全軍の作戦に影響させるなど、素人のやることではないですか。これでエイブラムを取り逃がすようなことがあれば、わたくしはいったいどうなるのです。わたくしの誇りを踏みにじるおつもりですか!」
「問題ない。今回は兵糧攻めでいく」
 メイヴは絶句した。せっかく、敵の将軍を討ち取る機会を持ちながら、相手に篭城の機会を与えるなどと。今回の侵攻作戦は拙速をこそ尊ぶ。最大の敵国となるヤスナの混乱に乗じたもののはず。ウィスプ・ラトゥの攻略はその足がかりに過ぎず、本来の目的はアヴェスタの全統一のはず。それなのにエンキドゥは時間をかけてウィスプ・ラトゥを攻略すると言うのだ。
「そんな、そんな作戦。納得いきません」
「急いては事を仕損じる。こちらが絶好の機会を得た時こそ、最大限、慎重にならねばならん」
「エイブラムごとき老いぼれに何を怯えているのです。そのようなことで、アヴェスタの統一など果たせましょうか」
「アヴェスタの統一は、余所者の君が心配することではない」
 余所者。そう言われてメイヴは大人しく引き下がった。メイヴは元々、アヴェスタの生まれではない。海を越えた場所から流れ着いた流浪の少女であった。そしてアパスターク領内で倒れているところを助けられ、現在に至る。
 沈黙するメイヴとエンキドゥの間に気まずい空気が漂う。
 その時、叫び声が上がった。
「敵襲! 敵襲!」
 エンキドゥの許に兵士が駆け寄り、慌てた表情で告げる。
「落ち着け! 速やかに敵戦力を報告せよ」
 そう言いながらエンキドゥは自分の心を落ち着かせていた。彼の予想は撤退か南方の迎撃。本隊への襲撃は自殺行為に等しい。そうした矢先にこちらへの襲撃の報告だ。馬上からもまだ敵の戦力は見えていない。
「敵戦力は、騎兵が十。以上であります!」
「はあ? たったの十で攻めて来ているですって? そんなわけないでしょう。エンキドゥ、それはおそらく投降か何かかと思われます。そうでなければ集団自殺志願者が突進してきているとしか思えません」
「いや、間違いなく敵襲だろう」
「どうしてそう言えるのですか」
「今まさに矢をこちらに向けている」
 メイヴがエンキドゥの視線を追うとそこには確かに騎兵がいた。それもたったの十人で。そしてすぐさま全員が矢をこちらに放つ。全ての矢はたった一点のみを狙っている。
「許しません!」
 メイヴはすぐさま反応し、矢をつがえる。一度に二本の矢を放ち、矢継ぎ早に次を構える。そして恐るべきことに、敵から放たれた矢を次々に撃ち落していった。それはまさに神技。だが、最後の一本が迎撃の矢から逃れ、エンキドゥの胸へと吸い込まれていく。
 エンキドゥはすかさず剣を抜き放ち、その一本の矢を叩き落した。
「エンキドゥ! あなたの兵、借りますよ。騎兵隊、わたくしに付いてきなさい。たった十人で攻め込んできたこと、後悔させてきます」
「待て。挑発に乗るな」
 エンキドゥの制止を振り切り、メイヴは馬を駆けさせた。それに数十の騎兵隊が続く。制止を聞かないと即座に判断し、騎兵隊の突進を認めたのだ。
「やれやれ。一人にしておくよりはと思い参謀にしておいたが、適任とは言いがたいようだな」
 そうひとりごち、エンキドゥは周辺の警戒を敏にした。
 ふと下に目をやると叩き落した矢が目についた。なにやら紙切れのようなものがくくりつけられている。下馬し、それを手に取り中を確認する。
「これは……、まずいかもしれん」
 紙にはただ一言、「臆病者」とだけ書かれていた。エンキドゥは少し離れた場所に落ちている矢にも目を向けた。同じように紙がくくりつけられている。すぐに全ての矢を回収し処分するよう部下に命じる。その程度のことは無駄と知りつつ、そうしないではいれなかったのだ。
 同じ頃、セタンタは馬車にいた。幌の中に簡易ベッドをあてがわれ、そこに横になって上を見ていた。傍には黒髪の少女、金色の瞳を持つパンドラが座っている。セタンタの額に手を乗せ、暗い笑みを浮かべている。
「あらお目覚め、お兄ちゃん」
 セタンタは薄暗い幌の中でパンドラの顔を確認する。そして包帯でぐるぐる巻きにされた自分の身体を確認する。一応、五体満足ではいるらしいと分かり、少しだけ安堵する。
「ここは、どこだ。状況の説明を頼んでもいいか」
「ここは馬車の中よ。アパスタークの輜重隊に同伴させてもらっているというわけ。お兄ちゃんの通り名が役に立ったわ。連中、もっともっと働いてもらいたいみたいね。今はアパスターク本国に向かう途中よ」
「そうか」
 そう言ってため息をつく。治療を受けるのは有難いが、この戦争からは身を引こう。セタンタはそう考えた。元々、身軽な傭兵身分だ。国という大きな依頼主の信頼を損ねるのは残念だが、負うリスクが大きすぎた。短期決戦と思われた戦争はフンババの敗北で長期決戦にもつれこむように思われた。長い戦争は稼ぎ時ではあるが、同時に大きな渦に巻き込まれるリスクが高まる。自分では判断のつかないところで死地に追いやられる。そういう危険を思えば、これ以上の関わり合いは避けるべきなのだ。
「ねえ。私からも一つ、質問いい? お兄ちゃんの体に流れている血をちょっと調べさせてもらったんだけど。血液に魔法がかけられているわよね。これって誰の仕業? お兄ちゃん、魔術のこととか全然知らないんだから、これは別の誰かがやったってことよね」
 赤き魔女。スカアハの顔が浮かぶ。セタンタはパンドラの顔を見つめ、告げる。
「お前には、関わりのないことだ」
「へえ。命の恩人にそんな口の聞き方するんだ。……生意気」
 そう言ってパンドラはセタンタの肩、傷のまだ閉じきっていない箇所をぐいと掴む。想像を絶する痛みがセタンタを襲い、悲鳴をあげそうになる。だがパンドラはそれすら許さず片方の手でセタンタの喉笛を突き刺す。悲鳴にならない悲鳴をセタンタは吐き出した。ひゅうという音だけが鳴る。
 傷口を抱えてセタンタは簡易ベッドから転げ落ちた。
「あ、あれ、ごめんなさい。まさかそんなに痛いだなんて思わなくって」
「ふざけるな! 傷のところはともかく、喉笛突くってなんだよ。お前、手馴れ過ぎだぞ」
「意地を張るからよ。さっきはあんな風に聞いたけど、私にはちゃんと分かってるんだからね。その魔法、闇の魔女の仕業でしょ。それも超えげつないやつ。それって魔法というよりほとんど呪いよね。魔法の中に死者の怨念がいい具合にミックスされちゃって、とてもじゃないけど元通りには戻せない。でもお兄ちゃんってほんとすごいよね。今だってそいつらに食い殺されてもおかしくないくらいなのに、ちゃんと抑え込んでる」
 コイン・イオタイル。セタンタの中に巣くう犬たちをパンドラは見抜いていた。そしてその犬たちがどういう存在であるかも薄々気づいている風だった。
「お、お前。どうしてそんなことまで」
「言ったでしょ。私には災厄を予見する力があるって。それは漠然としたイメージで現れるのだけれど、私にとって将来災いとなるものは全て見抜くことが出来るわ。それは単に敵が目の前に現れるとか、そんなレベルじゃないの。もちろんそういうことも出来るけど、もっと大きな存在に対しても私の力は発揮される。それはつまり、この世全てを覆い尽くすようなもの。生けとし生けるもの全てにとっての災厄を私は見ているの。あなたたちが気づいていないだけで、この世にはこの世を簡単に滅ぼしてしまうような力が転がっている。それはお兄ちゃんの中に眠る犬たちも同じ。そう、お兄ちゃん、あなたという存在それ自体がもはや災厄なのよ。あなたの中の魔法、呪いはあなたが行き続ける限り肥大化していく。そして最後には世界を破滅に導く力を得るわ。そこの犬たちは、そういう存在なの」
 突然の大きな話にセタンタの思考が停止する。確かにセタンタにとってスカアハに埋め込まれた魔法は厄介なものだった。しかし、まさかそれが世界をどうこうする力まで持っているとは思っていなかった。
「にわかには信じたくない話だが……。そうか、それでお前は俺を見つけられたというんだな。俺自身がお前にとっても災いとなるから、探し出すことが出来た」
「まあね。でも、安心してお兄ちゃん」
 パンドラはその可愛らしい顔をにっこりさせて宣告する。
「お兄ちゃんの中の犬が目覚めるよりも先に、お兄ちゃんが食い殺されて死んじゃう可能性の方が断然高いから、世界を滅ぼす可能性もぐっと少なくなるわよ。お兄ちゃんがほんとに死んだら、中の犬っころだって何も出来ないんだからね」
「そ、そうか……」
 歯に衣着せぬ物言いにセタンタはもはや言い返す気力も残っていなかった。いずれにせよ、セタンタにとって不幸が訪れることに変わりはないようだ。
「だから一番危険なケースは、お兄ちゃんがその犬たちを手なずけて、その上で成長させることね。そしたらお兄ちゃん、ちょっとした魔王になれるわよ。きっとあの魔女はそれを期待してるんだろうけどね。精神も身体も邪悪に染まりきって、好き勝手暴れだす。お兄ちゃんはそんなことしないって思ってても、それはそうなってしまう。そういうものなの」
「どうあがいたところで、俺に幸せは訪れないということか。と言うか、そんな話を聞いたら、俺は死ぬべきなんじゃないかとすら思えてくる」
 セタンタは這うようにして簡易ベッドに戻る。そうして横になり、傷をいたわった。死ぬべきじゃないかと思ったとしても、生への欲求はなかなか抑えられるものではない。
「ねえ、お兄ちゃん」
 パンドラがそっとセタンタに近づく。また傷口を握られるのではないかと思い、セタンタは少し身体をこわばらせる。だがパンドラはそっと優しくセタンタの頬に手を添え、彼の目を覗き込んだ。目と鼻の先を言葉通りの意味に、二人の距離は限りなくゼロに近づいた。
 パンドラの金色の瞳がセタンタの目の奥を凝視する。まるで全てを見透かされるような、そんな恐怖があった。
「話して」
「な、何を」
「全部よ。お兄ちゃんがどうしてそんな魔法を身に付けているのか。どうして闇の魔女と出会ったのか。どうして死霊を抱え込んでいるのか。どうして狂犬なんて呼ばれているのか。そういうこと、全部話して聞かせて」
 パンドラの息がセタンタの唇にあたる。それはすこし涼しいくらいの息。黄金の瞳がセタンタを捉えて離さない。不思議と、パンドラを押しのけようという気にはならなかった。ただほんの僅かな恐怖感と高揚感がセタンタを支配する。
「話したところで何になる。さっきも言ったが、お前には関係無いことだろう」
 そう言いながら、何故かセタンタは話してしまいたい衝動に駆られる。話したところで何になるのか。そう、何になるのか、期待をしてしまう。パンドラに話せば何かあるのではないか。そういう気持ちが少なからずセタンタに芽生えかけている。
「何になるのか」
 パンドラが答える。あっさりと。
「呪いを解く方法を教えてあげるわ」


Chapter 05 「戦略」

 少年は東を見ていた。遠いその地にあるものに思いを馳せて。ベランダの手すりを掴み、外に身を乗り出す。風は暖かく、夏の近づきを感じさせた。
 短く切りそろえられた金色の髪。白い軍服に身をまとい、宝石で飾られた短剣を腰に佩いている。その短剣は権力の象徴としてだけそこにある。彼はこの国の皇であった。
「マルドゥーク」
 彼は傍に控える屈強な戦士に声をかける。戦士は声に応じ、静かに歩み寄る。齢、四十を過ぎたくらいであろうか。引き締まった筋肉と鋭い視線が、彼を見る人間に「歴戦」を思わせる。事実、マルドゥークと呼ばれた戦士は帝国の将であり、数々の戦場を潜り抜けた猛将であった。
 その猛将に皇帝ギルガメシュは静かに問う。
「僕は、正しいことをしているのかな」
 少年の瞳はどこか物憂げにマルドゥークの足元を彷徨う。
「無論。皇帝陛下の意志、すなわち正義でございます」
 マルドゥークは何ら躊躇することなくそう言い切った。それは強く固い意志。何者にも曲げられぬ信念を秘めた思い。だが果たしてそれは目の前の少年に向けられたものだったか。ギルガメシュは悲しげにうつむき、そしてまた東の空に目をやった。
「父上の代から仕える君とエンキドゥにはとても感謝している。二人の力が無かったら、僕はきっと途方に暮れていただろう。帝国も簡単にヤスナに飲み込まれていたかもしれない。そして、そうなれば世界を破滅へと導くということも理解しているつもりだ」
 マルドゥークはその未だ若い皇帝をじっと見つめている。ギルガメシュはその強い視線に少し気圧されながら、言葉を紡ぐ。
「ヤスナの魔女、イシュタルが持つプロメテウスの炎。それを何としても奪わなければいけない。魔女は炎の力をもって世界を破滅へと導こうとしている。だから僕たちが魔女から炎を奪い、その力を正しく使う必要がある」
 ギルガメシュは腰の短剣を抜き放つ。鮮やかな色彩の鞘とは対照的に、地味な意匠の短剣であった。それはどこか暗く、禍々しさを漂わせている。それを見た人間はおそらく誰一人として皇帝の証とは思うまい。邪悪な魔法使いの持ち物ではないかと思うに違いなかった。
「それは……」
 マルドゥークが息を呑む。
「そう。これがエピメデウスの鍵。マルドゥークにも、見せるのは初めてだったね。鍵と炎、そして箱の三つが揃いし時、神に匹敵するほどの力を得る。箱は千年の昔に失われてしまった。残された炎は代々アヴェスタの巫女が管理し、その力を利用して民に恵みを与えてきた。鍵は巫女を守る騎士が引き受け、管理をした。けれど……」
 ギルガメシュはヤスナの巫女王、イシュタルの顔を思い浮かべる。妖艶さと気品とを見事に混ぜ合わせた空気を身にまとう絶世の美女。その姿をギルガメシュは何度も見ている。実際に会ったことは一度も無い。イシュタルはいつも夢の中に現れた。
 イシュタルのことを思い出すたび、ギルガメシュは頬を紅潮させた。そして必ず自分を責めた。
 イシュタルは炎に魅せられた邪悪な魔女である。そう言われている。イシュタルがいつの頃から巫女王となったのか、定かではない。おそらく、二百年以上は前からだろう。イシュタルは歴代の巫女の中でも天才であった。炎の制御装置である箱を使うことなく、炎の力を一割程度まで引き出すことが出来た。一割と言っても、神の力における一割だ。その力はすでに一国に君臨するには十分すぎるものであった。
 力を手に入れたイシュタルは己の欲望を抑えるのをやめた。望むもの全てを手に入れようとした。彼女はまずその力で不老となった。女性として最も美しい時代にそのカタチを凍結させた。次に望んだものは金銀の財宝であった。巫女にあるまじき俗物の欲望を彼女は隠すのをやめた。立派な宮殿を自分のために建てさせた。
 イシュタルを殺そうとする者たちも現れたが、近づくことすら出来ずに火で焼かれて死んだ。そして誰も彼女に逆らう者がいなくなり、彼女の欲望は肥大の一途を辿る。
 ついにイシュタルは外征を宣言した。神の力を得た彼女が求めるものとして、それは順当極まりないものであった。それに抗議したのが巫女を守るべき騎士たちであった。彼らは気高く誇りある者であった。諸外国とは常に敬意をもって接してきたアヴェスタの伝統を踏みにじる行為として、イシュタルを弾劾した。騎士たちは一致団結し、アヴェスタの西部に抵抗勢力拠点を築き上げた。それこそがアパスターク帝国の始まりであった。
 そうした歴史がありながら、ギルガメシュはどうしてもイシュタルを憎みきれずにいた。夢の中に現れる彼女は朗らかな笑みを浮かべ、とても綺麗だったのだから。そしていつもギルガメシュに優しかった。ヤスナの魔女に心動かされる自分をギルガメシュは強く恥じた。己の心の弱さを何度も詰った。そうして生まれたのは、焦りだったのかもしれない。
「マルドゥーク。エピメデウスの鍵が告げている。決戦の時は近い、と」
 マルドゥークは怪訝な顔をした。それは帝国内で持ち上がる、エンキドゥ弱腰論につながっている。フンババの徹底的な敗北以降、帝国内では短期決戦を望む声が高まっていた。戦争で息子を失ったという母親が広場で速やかな決戦を主張しているところをマルドゥークは見た。恐るべき光景であった。戦争そのものを忌避する女性という存在が、盛んに敵を殺せとまくし立てる姿は狂気そのものに思えた。
 街のいたるところで怪しげな文書がばら撒かれてもいた。内容は全てエンキドゥの攻囲戦を非難するものだった。速やかにノアの首が取れるものを、エンキドゥは無駄に時間を費やしている。敵に篭城を許すなど、二流の軍略である。知将の名は地に堕ちた。そうした文書が街のどこででも手に入る。明らかに敵の扇動であった。明らかであったが、民衆は徐々にエンキドゥ弱腰論へと傾いていった。そして今や、エンキドゥを罷免し、勇猛果敢な将軍マルドゥークを戦地に送るべしとの声が圧倒的多数を占めていた。民衆だけではなく、兵の多くもそう考え始めているようだった。
 そして今、皇帝ギルガメシュが「短期決戦」を口にした。マルドゥークは幾度か皇帝に対し、エンキドゥを信頼するよう伝えてきた。マルドゥークはエンキドゥに対し、絶対の信頼を置いている。周囲に理解できずとも、彼が兵糧攻めを望んだのであれば、その判断を最大限尊重する。しかし。
「マルドゥーク。もはや民の声を無視するわけにはいけない。だから僕は君に命令するよ」
 マルドゥークは目を閉じ、臣下の礼を取る。命令である以上、もはや何も言うべきことはない。騎士はただ、主の命に従うのみ。
「第三部隊を連れてのウィスプ・ラトゥ攻略を命じる。エンキドゥには後方支援の任につき、マルドゥークの援護とヤスナ教主国への警戒を行うよう伝えるべし」
「御意」
 マルドゥークはすぐさま立ち上がり、部屋を退室する。その瞳に迷いなど一切ありはしない。ただただ、任務を忠実にまっとうする。戦士としての矜持だけを胸に抱えて彼は出立するのだ。
 それを遠くから見る一人の少女がいた。亜麻色の髪をおかっぱに切りそろえ、くりっとした大きな目が愛くるしさを際立たせる。少女は遠見の魔術を使い、山の奥からアパスタークを監視しているのだ。もちろん遠見の魔術だけでは会話の中身を知ることは出来ない。しかしたった今、ギルガメシュが何かをマルドゥークに命じた。その姿だけで彼女には十分だった。それは物事が思い通りに運んだという証拠に他ならないのだから。
「ここまではウーちゃんの思い通りだね。さてさて、肝心要の試合どころはどう転ぶのかな」
 少女は皇帝の間から視線を外し、街の中にある病院へと移した。窓の奥には黒髪の少女がいる。その黒髪の少女は黄金の瞳を真っ直ぐこちらに向けている。
「ありゃま。気づかれてたか。今日はこのへんで退散しとこうかね。じゃあ、またね。パンドラちゃん」
 くししと少女は笑い、闇に身を溶かす。
 パンドラはじっと外を見ていた。何か汚いものを見た、というような表情をしている。
「どうした」
 すでに全身に巻いていた包帯を取り去ったセタンタが尋ねる。その回復力は驚異的なものだった。もちろん治癒の魔術によるところは大きいが、それにしてもあの満身創痍の状態からは信じられない速さで回復していた。
 セタンタの問いかけにパンドラが不愉快そうに答える。
「別に。ちょっと目の前をゴミ虫が飛んでいただけよ」
「そうか。虫くらいでそこまで嫌悪感を顕わにするほど繊細な女だとは思っていなかったが、意外だな」
「なによ。こんな可愛い乙女をつかまえて、その言い草は失礼なんじゃない?」
「乙女と言われて、今さら信用できるか。千歳云々は冗談だとしても、その姿通りの年齢とは思えん」
「うっさいわね。それより、どうすんの。近々、別の将軍がウィスプ・ラトゥの攻略に赴くって噂よ。きっとお兄ちゃんにもお呼び出しが来ると思うけど」
 セタンタはほんの少し逡巡する風にして、すぐに答えた。
「当然、参戦する。それ以外に道が無いなら、突き進むのみだ」
 決意の固い目でセタンタはパンドラを見つめる。
「ま、そりゃそうよね。そうしなけりゃ犬に食われて死ぬだけだもん。おっきな戦争で死んじゃう以上に確実なことなんだから。それよりかはほんの少しの希望にかけてみる方が断然合理的だわ」
「ところで、その、プロメトリックの炎、だったか。それを手に入れたら、俺の中にいる犬どもを消せるんだな」
「プロメテウスの炎よ。プ・ロ・メ・テ・ウ・ス! 何よそのどっかの試験会場みたいな名前は。心配しなくても大丈夫よ。なんせ神様の炎なんだから。消そうと思えば何だって消せるわ。それを使うのは人間である限り、限界はあるけどね。例えば存在そのものとか、時間とか、概念的なものまでは手に負えない。それはもう人間の領域をはるかに超えているわ。でも、お兄ちゃんの犬っころくらいなら朝飯前よ。プロメテウスの炎さえあれば、ものの数分で消去完了ね」
「それならいい。ところでずっと聞きそびれていたんだが、お前はいったいどういう目的で俺に近づいたんだ。それなりの危険に身をさらしてでも俺を助けたからには、やはり相応の理由があるんだろ」
 セタンタの厳しい視線を軽く受け止めてパンドラはにやりと笑う。見た目十代の少女とは思えないほど邪悪な笑みにセタンタは少しばかり怖気を感じる。
「それはね。お兄ちゃんを愛しているから」
「嘘をつけ」
 一蹴した。
「なによ。もうちょっとドキドキしたっていいじゃない。こんな美少女に愛してるなんて言われて、お兄ちゃんは何も感じないってわけ? ひょっとしてお兄ちゃん、そっちの人?」
「どっちの人でもねえよ。全くの赤の他人を愛せる人間なんかいるわけねえだろ。そんなのは宗教か、ちょっとした病気だ」
「お、お兄ちゃん……。さらりと危ないことを言うわね。解釈によってはかなり大勢の人を敵に回す発言よ、それ。まあ確かに、愛してるってのは嘘よ。冗談。本当の目的は別にあるの。もし最初の時点で言ってたらお兄ちゃん絶対断ってたと思うけど、今ならきっと聞いてくれると思うわ」
「それって何だよ」
「イシュタル様を殺してちょうだい」
 先ほどまでアパスタークの様子を監視していた亜麻色髪の少女は今、ウィスプ・ラトゥの城内にいた。隣には戦地図を厳しく見据える軍師、ウー・ヨンがいる。ウー・ヨンはエンキドゥの攻囲戦開始後、一切外に出ていない。偵察部隊からの報告から現状を分析し、全ての機会を窺っている。
「ウーちゃん、たまには休みなよ。睡眠足りてないんでしょ。お肌に良くないよ。ウーちゃんせっかく綺麗な肌してるんだからもったいないって。ほら僕のほっぺた触ってみて。ぷにぷにで超気持ちいいんだから」
「いらぬ気遣いだアルル殿。それよりもアパスタークの情報をお願いしたい」
 ウー・ヨンはアルルと呼んだ少女を見ず、淡々と語る。アルルの能天気な素振りに若干の苛立ちを覚えつつ、それを押し殺しているように見えた。
「まあそんな焦んなくてもいいじゃん。お肌だけじゃなくて、冷静な判断力にも影響しちゃうよん。ウーちゃん、イライラと睡眠不足の相互作用でボロボロになっちゃうんだからね」
「問題ない。それなりの睡眠時間は確保している。私の判断に影響は無い」
 期待するような反応を得られないと分かり、アルルは舌打ちをする。
「まったく、つまんないの。ま、いっか。ウーちゃんおめでとう。ウーちゃんの考えている通りに物事は進んでいるよ。近いうちにマルドゥークの本隊がこっちに攻め込んでくるはず」
 アルルの報告を聞き、ウー・ヨンの瞳に光が挿す。彼女の思考は新たなステージへと突入する。その様子をアルルは楽しそうに見ている。
「ウーちゃん燃えてるねえ。今度はどんなトラップを仕掛けてくるのかな。僕はねウーちゃん。君がフンババの部隊をぼっこぼこのぎったぎたにした時から君の大ファンなんだよ。君が敵を恐怖のどん底に突き落として、完膚なきまでに打ちのめす。そういうのが見たくてたまらないんだ。でもさ、やっぱり不安にはなるかな。分かるよね。今、ウィスプ・ラトゥは瀕死の状態だってこと。ヤスナ本国はごたごたしてて、とてもウィスプ・ラトゥに手が回せない。イシュタル様が兵を動かせば、必ずティアマトの子飼いどもが動き出すからね。そんなわけでヤスナからの増援は僕一人、あっはは。でえ、エンキドゥはこっちを兵糧攻めで攻めに攻め立てて、ウーちゃんたちはひもじいひもじいなんだよね。お腹すいたら戦えないって、パンのヒーローも言ってるし。着実に、確実にエンキドゥに締め上げられてる。そりゃあウーちゃんが短期決戦を望む気持ちは分かるよ。辛いよね我慢するのは。でも、じゃあマルドゥークが来ましたって言って、あいつに勝てる見込みはあるの? あいつってば、なんだかんだで歴戦の勇者だよ。知恵を巡らすエンキドゥの方がまだ戦いやすいんじゃないかってくらいの純粋戦士。からめ手も何も通用しない、本物の騎士なんだから。そんな奴が決戦を挑んできたら、こんな弱りきった国なんかひとたまりも無いでしょ」
 あえて挑発的に言うアルルをウー・ヨンは冷ややかに見つめる。その目には何の迷いも不安も無い。ただ己の計画を淡々と進める。ウー・ヨンにとって作戦は進めば必勝あるのみであった。
「誰が攻め込んできたところで、こちらの勝利は変わりない。個人がどれほどの力を持っていようとも、集団の猛威にはひれ伏すしかないのだからな」
「へえ。大した自信だね。それってあのセタンタっていう傭兵のことを指してるのかな」
「特に誰というわけでもない。戦に私情はない」
 ウー・ヨンはそう言いながらも心の奥にある暗い炎を感じていた。完璧であったはずの自分の策に穴を開けられた。実際には作戦は完璧と言ってよいほどに効果を挙げ、事実としてアパスターク国内の扇動にも一役買っていた。しかし、ウー・ヨンの誇りがほんの小さな穴であるセタンタを許せないでいた。
「今回のところ、僕は単なる駒だからね。ウーちゃんの指示通りに動くさ。僕の闇魔術はこういう時にこそ猛威をふるうからね。期待してくれていいよ」
「期待はしない。ただ結果だけを見せてくれればいい」
「まったく、ほんとツンデレなんだからウーちゃん。いや、それともクーデレってやつかな。ウーちゃんなだけに。あっははは。やだ面白い、あっははははは」
 一人けらけらと笑い転げるアルルを尻目に、ウー・ヨンは再び戦地図へと視線を落とす。ウィスプ・ラトゥの城を中心に、いくつかの陣地が敷かれている。エンキドゥの攻囲に、ウー・ヨンは敵ながら感心せずにはいられなかった。全く隙の見えない陣地。攻囲戦とはこうあるべきというお手本のような配置となっていた。だが。
「この完璧な陣も、もうすぐ崩れる。それも向こうから勝手に。攻めてきなさい、マルドゥーク。あなたはこの地で果てることになる」


Chapter 06 「戦争」

 マルドゥークが戦地で目にしたものは異様な光景であった。つい先ほどまでエンキドゥによる地道な攻囲戦が繰り広げられていたはずだ。当のエンキドゥはすでに後方へと撤退している。それはいい。しかしマルドゥークが見た戦場は彼を大いに惑わせた。敵は鉄壁の守りを敷いている。そのはずだ。なのにその鉄壁の守りの象徴たる巨大な門が、大きく開け放たれているのだ。
「将軍、これはいったい。敵は降伏の意思を示しているのでしょうか」
 側近の一人がつぶやく。マルドゥークも一瞬、そうなのではないかと思った。門が開け放たれているどころか、周辺を守る兵の姿すら見えない。
 すると城壁の上に一人の女が姿を現した。彼女は東洋風の衣装を身に纏い、優雅に扇をはためかせている。
 それを見た周囲に動揺が走る。兵たちは知っていた。フンババの部隊を徹底的なまでに打ち尽くした鬼神の存在を。その情報がいったい何処から流れたのかは定かではない。ただ、エンキドゥを臆病者とののしる声と同時に広まった噂のひとつであった。ウィスプ・ラトゥには鬼神のごとき東洋の女あり、彼女によって千のつわものたちがいとも容易く皆殺されたと。マルドゥークもそのことは知っていた。単なる噂の一つとして気にも留めていなかったが、こうして目の前に現れるともはや無視は出来ない。
 その姿を見てしまっては、この開門が降伏の証だなどと呑気なことは全く言えない。これは敵の策であり、何かの罠なのだ。全軍が緊張し、城壁の女を注視する。遠く、その顔までは見ることができない。しかしその場にそぐわぬ優雅な佇まいに、兵たちは恐怖した。
「やはり、兵糧攻めが最も堅実な策ではあるか。いや、今さらそれは出来ん。ここで時間を潰すことは百害あって一利なし。たとえこれが罠であり、城内に侵入することで大きな被害を受けたとしても、ヤスナの介入を許す前に叩くことの意味はある。しかし……」
 マルドゥークは決断する。
「陣を張れ。明日、明朝に城攻めを決行する。各自、十分に休息を取るように」
 城壁にはウー・ヨンがいた。傍にはアルルが潜んでいる。ウー・ヨンはマルドゥークの軍が陣張りを始めたのを見届けると、頬を少しだけ緩ませた。
「べっつにウーちゃんがほんとにこんなことする必要無かったんじゃない? 別の女に服貸してあげて、それで立たせておけば良かったのに。他の皆は作戦の準備で大忙しなんだから、そっちの手伝いをした方がいいよ」
「手配は全て指示済みです。あとはエイブラムが首尾よくやってくれるでしょう。ここに私が立つのは、まあ仕方の無いことです。私以外に東洋風の顔立ちをした人間はおりませんから」
「それにしても今どき空城計だなんて、よくやるよね。初めて見るよ、僕」
 アルルの発言にウー・ヨンは少しだけ驚く。空城計という言葉を知っている人間がこの国にいるとは思っていなかったのだ。
「あんまり僕のこと、なめないでほしいな。これでも君より随分年上なんだからね。君の国のことだってそれなりによく知っているよ。昔っから戦いばっかり続けてきた国だよね。僕はさあ、好きなんだよ戦争が。人と人とが己の欲望を大義に変えてぶつかり合う。そういうどろどろしたのが、たまんないんだよね。皆、自分の正義を振りかざしてさ。正義も悪も、そんなのどこにも存在しないのに、ほんとに存在してるみたいに思い込んで。何、天命ってやつ? 面白いじゃん。人を殺すことが天命だなんて。僕にも来ないかな、天命ってやつ。でも天命って面白い理屈だよね。結局、勝った奴が正義ってのを後押ししてるだけじゃん。てことはさ、あの国での敗者は結局、天に見放されたってことなんだよね。どれだけ自分の正義を信じても、負ければ天命に背いたってだけで、後世に何の評価もされないんだ。あっはは、惨めだよねー。そんな人生」
 ウー・ヨンが動く。扇に仕込んだ針を抜き放ち、アルルの喉許に突きつける。アルルは相変わらず楽しそうににやにやと笑っている。
「少し、黙っていてもらえますか。耳障りです」
 ウー・ヨンの鋭い視線を受け流し、アルルはくすりと笑う。
「やっと感情見せてくれたね。そういうの待ってたんだよ。刺したきゃ刺しなよ。僕を殺せば君の計画に支障があると思うけどね」
「問題ありません。あなたの助けは作戦を強化するものではあっても、必要条件ではありません。多少の犠牲は甘受しなければなりませんが、大きな流れを止めるほどではない。ですから、私がここであなたを突き殺しても構わないのです」
 ウー・ヨンの目に真剣さを感じ取り、アルルは少しだけ焦る。
「ちょ、ちょっと待ってよ。ほんの冗談じゃない。何マジになってんだか。て言うか、僕はヤスナからの大事な使いなんだから、その僕を殺せば外交問題になるよ」
 アルルの言葉にウー・ヨンはくすりと笑い答える。
「これは戦争ですから。死者が出るのは仕方の無いことです。あなた、お好きでしょう? 戦争は何も華々しい戦場だけが舞台ではありません。情報戦しかり。武具や兵糧の調達しかり。他国との外交や裏取引。あらゆるものを総動員して戦場へと赴く。謀(はかりごと)多きは勝ち、少なきは負ける。これは戦争の常道です。何、ご心配なく。あなたの死は無駄にしませんよ。ヤスナも決して一枚岩でないことは、あなたもご承知でしょう。あなたの死はティアマト様への手土産とすることも出来ますね」
 そこまで言ってアルルの顔がひきつる。ウー・ヨンの頭脳を初めて理解した。ウー・ヨンは凡百の戦略家ではない。策を練ってから準備するのではない。あらゆる事象をそのまま策に組み込んでいくタイプの軍師なのだ。
「くっ……」
 アルルが悔しげに顔を歪める。それを見届けてウー・ヨンはアルルの喉許に突きつけた針を引き込める。
「あなたの方こそ、私をあまりなめない方がよろしいでしょう。今はあなたが死ぬシナリオよりも生きるシナリオの方が有用性がありますので、その命は取らないこととします。作戦は明日以降、実行されます。あなたもご自分の持ち場へと赴いてください」
「ちっ。人使いが荒いことで」
 そう言ってアルルは闇へと身体を溶け込ませた。それをウー・ヨンは最後まで見届けることなく、マルドゥークの陣営へと視線を移した。そのさらに後方にはかつてフンババを仕留めた森が広がっている。そしてここからは見えないが、そのさらに奥ではエンキドゥの部隊が後方支援の任についている。マルドゥークの後方支援のみではなく、ヤスナの軍が攻めてきた際にも対応できる良い位置だった。
 日が暮れて、夜が明けた。マルドゥークは今もなお開け放たれたままの門を見つめる。夜陰に乗じて何人か偵察を送り込んだ。城内へ潜入を試みた者は誰も帰ってこなかった。おそらく敵の手にかかり死んだのであろう。それ以外の偵察報告によれば、城の周辺には何の仕掛けもされていなかったとのことだ。例えば、門へ突進をかけた騎兵を突き落とす堀のような罠は見つかっていない。
 マルドゥークは決心を固めた。たとえ城内にいかなる罠が仕掛けられていようとも、それを突き抜けるだけの力が自らにあると確信していた。門が開け放たれているとしても、馬鹿正直にそこに突っ込む必要はない。正規の攻城戦通り、はしごで城壁の上から突き崩していく。安全を確認した後、門からなだれ込んで行けば良い。古い時代の戦争で、城内に油を流し込み、攻め込んできた兵を焼き殺したというものがある。そうした罠を全て想定し、マルドゥークは対応も考えた上で突進を決めたのだ。猛将と言われる身だが、決して愚かではない。
「歩兵、前に! 盾で敵の矢をかわしつつ、城壁にはしごを架けよ。魔道士たちは兵を援護。弓兵は城壁に敵が現れたら即座に射かけよ。騎兵隊は我に続け。歩兵たちの半歩後ろから突進のタイミングを図る」
 兵たちはマルドゥークの指示に従い、速やかに行動を開始する。よく訓練の行き届いた兵たちであった。そして誇り高き兵たちであった。一人一人が、自身が猛将マルドゥークの下に集いし戦士であるという自負を抱き、勝利への道を歩まんとする。
 よく訓練された兵士たちを率いるマルドゥーク。そしてエンキドゥの兵糧攻めにより弱っているはずのウィスプ・ラトゥ軍。この両者がぶつかり合えば、勝利はマルドゥークにもたらされることが必然に思われた。しかし、それでもマルドゥークは決して気を緩めなかった。開け放たれた門が何を意味しているのか、未だはっきりとしていない。単なるはったりではないかとも思えたが、それをするだけの理由も思い当たらない。
 そこまで考えてマルドゥークは迷うことを止めた。戦場において迷いは致命傷となりうる。彼は己の判断に基づき、任務を果たすのみ。兵たちは特に敵の攻撃を受けることもなく、城へと近づいていった。城壁にはしごが架けられても、何の反応もない。そしてすぐさま門付近の安全が確保される。兵の合図を受け、マルドゥークは城内へと突進をかける。城内に入っても敵の反撃は全く無かった。宮殿に立て篭もり戦うつもりだろうか。マルドゥークはそう考える。城門のさらに奥、領主ノアが住む宮殿が見える。そこに戦力を固め、最後の決戦とするつもりではないだろうか。
「望むところ。行くぞ兵たちよ。この戦いは本日をもって決着する!」
 マルドゥークの鼓舞に兵たちがいきりたつ。城の外にいた兵たちも次々と城内になだれ込む。その時、マルドゥークの背後から悲鳴にも似た声が聞こえた。
「て、敵が!」
 マルドゥークが振り向くと城門の外に見覚えの無い騎兵の軍団が。いかん。マルドゥークはとっさに反転しようとするが、外から無数に射掛けられた矢がそれを拒む。城門付近にいた兵たちが次々と倒れていく。
「おのれ、エイブラム」
 マルドゥークの視線の先には一人の老将がいた。彼もまた馬にまたがり、矢をマルドゥークに向けている。反撃する間もなく兵たちが次々に倒れていく。敵の襲撃は収まる気配がない。
「やむをえん。門を閉じよ。急げ!」
 門付近の生き残った兵が近くの縄を切る。門がゆっくりと閉ざされていく。そしてマルドゥークは見た。老将の不敵な笑みを。
 その様子を遠くからアルルは見ていた。
「おやまあ。ほんと、ウーちゃんの思い通りになるもんだねえ。でも、こんなにうまくいってばっかだといずれ足元掬われちゃうんじゃないかな。ま、いいいけどねー。僕には関係ないし。僕は僕の仕事をするだけですよっと。ではでは」
 アルルは怪しげな文様の描かれた石を取り出し、地面に埋める。石はいくつもあり、それを彼女はいたるところに埋め込んでいった。
「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。アルルちゃんのどきどき大魔術」
 アルルの通ったあとに薄紫色をした瘴気が漂う。この世ならざるものたちが瘴気に惹かれて目を覚ます。ここは戦場だった。ウー・ヨンにより殲滅されたフンババの部隊。亡骸は今も放置され、その怨念は行き場を無くし彷徨うばかり。
 報告を聞いたエンキドゥはすぐさま行動に移った。メイヴを部隊長に任命し、マルドゥークの救出を命じた。ヤスナの動向を考えれば、全軍を動かすわけにはいかなかった。
 報告は恐るべきものだった。エイブラム率いるウィスプ・ラトゥ軍がウィスプ・ラトゥの城を攻囲しているというのだ。攻撃は熾烈で、城内に残されたマルドゥークは手も足も出ないという。またウー・ヨンの非人道的な攻撃も兵たちを驚愕させた。なんと投石器を用いて死体を城内に投げ込んでいるのだという。おそらく今回の攻撃で死んだ死体にフンババの部隊のものを加えているのだろう。すでに何百という数の死体が投げ込まれている。自分たちの拠点をそこまで穢す徹底ぶりに、エンキドゥは背筋の凍る思いがした。死体を投げ込むという戦法は決して新しいものではない。敵に病気を蔓延させたり、敵の精神を追い詰める戦法として知られている。しかし騎士道精神の発達した現在でそれを用いることは外道の証とされた。そんな外道の技をためらうことなく、しかも自分たちの城に行ってしまえる大胆さ。エンキドゥは改めて自分が大変な敵と戦っていることを思い知らされた。
 マルドゥークの本陣にいた部隊はエイブラムにより一掃されている。おそらく城の食料などは全て持ち出されているだろう。マルドゥークの軍は何も食わずにすでに二日を経過している。戦意の落ち込みは避けらない。
 メイヴはウィスプ・ラトゥの城目指して行軍を急いだ。あのマルドゥークがいとも容易く討ち取られようとしている状況が未だに信じられないでいる。だが、今は事実を真っ直ぐに受け止めなければならない。メイヴは己の浅慮を恥じた。今となってはエンキドゥが圧倒的に正しかったのだと認めざるを得ない。自分は軍高官の地位にありながら、民衆と同程度の状況判断しか出来ていなかった。目先の利益ばかりを考え、物事を俯瞰的に見ることが出来なかった。結果はどうなったか。形勢はあっさりと逆転され、追い詰める側から追い詰められる側となった。愚かな民衆を正しき方向に導くのが騎士の使命であるはずが、その民衆に釣られて自身が愚か者となっていた。
「わたくしは、なんて愚か者」
 一人、自らを責める。決して許しを求めてのものではない。ただひたすらに自分を責め、怒りの炎を燃やす。エイブラムを討ち取り、マルドゥークを救出する。そのことだけをひたすらに念じた。
 にわかに霧が濃くなった。辺りが薄暗くなる。森に紫色の瘴気が漂っていた。
「こんな時に霧だなんて。魔道士たちに風を起こすよう伝えて。霧をなぎ払うのよ」
 そう伝えた直後、メイヴは視線の先で何かが動くのが見えた。最初、それは人かと思われた。カタチが似ていたから。けれどその考えは誤っていた。確かにそのカタチは人に似ていた。ただし、首から上が無いということを除いて。
 気づけば、メイヴたちは囲まれていた。狂乱が始まった。
 全てが思い通りに動いていた。猛将マルドゥーク、弓兵隊長メイヴ。エンキドゥは未だに討ち取れないでいるが、これだけの戦果を得ればしばらくはアパスタークを沈黙させることが出来るだろう。そして、ウー・ヨンは思考する。これだけの結果を出してみせた自分を、ヤスナのイシュタルは評価しないわけにいかない。必ずや自分をヤスナへと呼び、謁見の機会を与えるだろう。それはあの炎に近づく大きな一歩となる。
 プロメテウスの炎。その存在を知った時から、ウー・ヨンはいかにしてその力を手中にするか考え続けた。手に入れたとして、巫女でもない自分には鍵と箱無しで使いようもない。しかしそれでも構わなかった。使えないということを示す必要はない。それを持ってさえいれば、実際に使えずとも使い道はいくらでもあるのだから。
 ウー・ヨンは東の空を見た。森の上空は邪悪な薄紫色に染まっている。ヤスナの闇巫女、アルルの魔術は死者を蘇らせ、自らの支配下に置くというえげつないものであった。今、森の中にはフンババが引き連れた無数の兵士の死体が転がっている。それを全てたたき起こし、マルドゥークの救援に参じたメイヴの部隊を取り囲んでいる。すでにそこでは一方的な殺戮が始まっているのだろう。殺し合いではなく、一方的な。何故なら、片方はすでに死んでいるのだから、それ以上殺しようがない。突き刺そうが切り刻もうが死体は死体。その死体に襲われた人間は死体となり、死体の仲間となる。それが繰り返され、最後には死体しか残らない。そういう地獄になっている。
「ウィスプ・ラトゥの城内でもそれが使えたらもっと楽だったのですが」
「無茶言わないでよ。この森一帯を支配するだけでもけっこうな魔力を消費するんだから。あんな離れた場所を同時にだなんて、いくら僕でも無理ってもんだよ。まあいいじゃんか。どうせ今ごろ、城の中じゃ飢えて弱った連中が病気とかになってバタバタ倒れてるよ。それか、ひょっとしたらお腹すきすぎて共食いでも始めてるかな。バッタみたいにさ。ウーちゃんはバッタを捕まえて籠に入れたこととかある? あいつら、おっきい奴がちっさい奴をむしゃむしゃ食べちゃうんだよ。餌をちゃんとあげてるのにさ。共食いの方がきっと栄養効率が高いんだろうね。そしたらマルドゥークも案外ぴんぴんしてるのかもね」
「それはありません」
「どうしてさ」
 本当に不思議そうな顔でアルルがウー・ヨンに尋ねる。ウー・ヨンは不思議でも何でもなく答える。
「彼らは、騎士ですから」


Chapter 07 「過去」

 少女は走った。人生で最も必死になって走った。彼女は父親の言いつけを破り、入ってはいけないと言われた庭に忍び込んでいた。そこにはとても綺麗な花が咲いていたから。だから少しの間だけと思い、言いつけを破った。それが災いした。黒く、大きな犬が二匹、こちらに向かって駆けてくる。その姿を確認した瞬間、少女は反射的に駆け出した。駆ける事が出来たのは幸いだった。もし少女が恐怖で身をすくめたなら、すでに命果てていたであろう。しかし人間の少女と屈強な犬とでは力に差がありすぎる。少女の喉笛が犬に食いちぎられるのは時間の問題と思われた。
 どこまで走ったのか分からない。気づくとそこは屋敷の奥まった場所。少女は行き止まりへと追い詰められた。犬たちは今にも少女に襲い掛かろうとしていた。
「い、いや。誰か、たすけて」
 怯える声は震え、どこにも届かない。犬たちのうなり声が少女の哀願をかき消す。そして犬が少女に飛びかかろうとしたまさにその瞬間、一人の少年が犬の上に落ちてきた。少年は自分の身長以上もある長い槍を両手で握りこみ、犬の脳を貫いていた。一瞬、少女は何が起こったのか分からなかった。もう一匹の犬はすかさず反応するが、少年は犬の脳を貫いたその槍でさらにもう一匹の犬の腹を突き刺す。甲高い犬の絶命する鳴き声が周囲に響く。少年はその槍を一振りし、犬二匹の死体を壁へ投げつけた。そして槍で風を切り、血を払う。
「怪我、してない?」
 それが島国アイラを治めるクランの娘メイヴとセタンタとの初めての出会いだった。セタンタは孤児で、屋敷の使用人として雇われることになっていた。しかしその時の、メイヴを助けた功績、ならびに槍の技術が評価され、クラン直属の騎士として屋敷の警護の任にあてられることになった。
 それから数年の時が過ぎた。セタンタは番犬を殺してその代わりとなったということで、周囲からは番犬と呼ばれていた。名前もクランの番犬、クー・フーリンと改めていた。健康に育ったクー・フーリンは槍において右に出るものなしとの評判で、町の娘たちにも評判の的となった。年頃のメイヴは自分の命の恩人であることも重なり、徐々にクー・フーリンに思いを寄せるようになっていた。
「クーのお嫁さんになる人ってどんな人かしら。きっと、あなたみたいな乱暴者をうまく制御できる、しっかりした女性よね」
 ある日、メイヴはなんということは無しに尋ねた。クー・フーリンの顔色を窺う。クー・フーリンがメイヴを見ると、メイヴの顔が少し赤く染まる。クー・フーリンは特に気づいた風でもなく答えた。
「俺はたぶん、嫁は取らない。生涯、独り身でいるだろう」
「それって、どうして」
「俺は騎士だ。クラン様に忠誠を誓っている。クラン様をお守りするために、純粋戦士でなければならない。嫁を貰うということは、自らに弱点を作るということ。それではクラン様をお守りすることは出来ない」
「そんなことないわよ。もしそうなら、他の騎士だってお嫁を貰えなくなってしまうわ」
 メイヴは少しだけ焦って言った。自分の本心がバレないか不安を覚えながらクー・フーリンに嫁を貰うよう説得する。いずれ自分が彼の隣に座る。そういうことを思わずにはいれなかった。
「俺のことよりも、メイヴこそ。もう年頃じゃないか。きっといい結婚相手をクラン様が探してくださるだろう」
「私はまだ。だって、お兄様もまだご結婚されていないのですから。妹の私が先に誰かの嫁に行くなんて、出来ないわ」
「そうか。タム・リン様はとても立派な方だ。すぐに良いお妃様を娶られるだろう」
 そこは小高い丘の上。メイヴは肩のあたりで切りそろえた赤い髪を右手でいじる。彼女はささやかな幸せを夢見てクー・フーリンの肩に頭を乗せた。クー・フーリンは特に何も言わない。父、クランは厳格だが包み込むような優しさを持つ人でもある。きっとメイヴのこの気持ちを認めてくれるだろう。そう信じた。
 幸せは簡単に壊れる。
 メイヴはその時の光景を忘れない。最初、何が起こったのか理解することが出来なかった。理解を理性が拒絶した。宰相クラム・ドーによる父クランの暗殺。その現場を不幸にもメイヴは見てしまった。それはクーデターだった。メイヴの命もあわやというところで、クー・フーリンが駆けつけ、その場を脱した。
 クー・フーリンの尽力でメイヴはなんとかその場から逃れられた。町の酒場に部屋を借りて隠れ住み、少しずつ状況を飲み込むことが出来た。
 宰相クラム・ドーの謀反。そしてその中心となったのが事もあろうに兄のタム・リンであった。タム・リンとクラム・ドーが共謀し、国政を奪い取ったのだという。
「どうしてお兄様が、そんなこと。私には全く分からない」
 メイヴは脱力した。ベッドに座り込み、両手で顔を覆う。クー・フーリンはその様子を少し離れた場所から立ったまま見ていた。そして槍を手に取り、部屋を出ようとする。
「待って、クー。どこに行くつもり」
「屋敷に行く。クラン様の仇を討たねばならない」
「それって、クラム・ドーを殺すということ?」
「それもある」
 メイヴは理解した。目の前の青年が捨て身の覚悟であるということ。そして、メイヴのたった一人の兄を殺す意志を持っているということを。
「お願い、やめて。タムは私のたった一人の兄なのよ。確かにお父様を殺した罪は償われるべきかもしれない。けれど、兄を失いたくない。お兄様に生きていてほしい。だからお願い。仇討ちなんて、考えるのはやめて」
 クー・フーリンは槍を壁に立てかけ、分かったと一言だけ伝えた。その言葉を聞いてもメイヴは安心することは無かった。
 深夜、クー・フーリンは部屋を出て行った。
 メイヴは目を覚ました。腐敗臭が立ちこみ、息をするのも苦しい。部下の兵が目の前で倒れていった。それに構っている余裕はメイヴには無い。倒れた兵はすぐに敵へと変わるのだから。
「不覚。このような状況で気を失うとは」
 後頭部に鈍い痛みを感じる。おそらく敵の攻撃を受けたのだろう。その衝撃で気絶していたのだ。メイヴは弓から剣へと武器を持ち替えていた。死体に矢をいくら突き刺したところで効果は無いと悟っての判断だった。それでもせいぜい敵の攻撃を凌ぎ、牽制する程度の効果しかない。
 統制は完全に失われた。撤退を叫ぶメイヴの声はむなしく響く。この森の中、どれだけの味方が残っているのか、全く判別出来ない。メイヴには知る由も無いが、最も善戦していたのは後方の魔道士部隊だった。魔術で生み出した炎で死体を焼き払い、戦闘を継続していた。しかしそれも時間の問題だった。増え続ける死者の数に、魔道士たちも徐々に圧倒され始めていた。
 逃げる。もはや何も考えずに逃げる。自分が北に向かって走っているのか、それとも南に向かって走っているのか。真っ直ぐ走れているのかどうかさえ分からなかった。どこに行っても死体の臭いがする。メイヴは肉体的にも精神的にも限界が近づくのを感じていた。そして彼女は終着点へとたどり着く。目の前に絶壁があった。とても登ることなど出来ない高さ。行き止まりだった。
 メイヴは振り返る。周囲はすでに死者たちに囲まれている。中には自分の部下だったものもいる。彼らは仲間を欲しがっているように見えた。
「これがわたくしの最期、というわけね」
 諦めかけたその時、天から誰かが振ってきた。二本の槍を構えた青年が、死者たちをなぎ払い吹き飛ばす。メイヴはその青年に見覚えがあった。つい先ほどまで、夢の中で見ていた。
「ちょっとセタンタ、飛び降りるなら飛び降りるって言ってよ。めちゃくちゃ怖かったじゃない!」
 見ると青年の背中に一人の少女がしがみついていた。メイヴの場所からその顔は確認できないが、黒く長い髪の少女だった。
「緊急だったのでな。それよりもお前、魔道士なら炎のひとつやふたつ、おこせないのか」
「出来るけど、そんなことしてる間に他のゾンビたちがこっちに来ちゃうわよ。それよりも先にここを出ることを優先させましょ」
「なるほど。それももっともだ。おいメイヴ」
 急に声をかけられてメイヴは驚く。メイヴはクー・フーリン、いやセタンタをじっと見つめる。その顔は以前に比べて大人びて見えるものの、間違いなくかつて自分を救ってくれた、そしてほのかな思いを寄せた相手であった。今では憎むべき存在でもあったが……。
「死にたくなければ俺たちに付いて来い」
「いったい何処に」
「決まっているだろ。マルドゥークの救助に、だ」
 セタンタはそう言って駆け出した。メイヴが付いて来るかどうかもお構いなし、という感じだった。慌ててメイヴは立ち上がる。周辺の死者たちも再び起き上がろうとしていた。
 セタンタを追いながら、メイヴは複雑な気持ちでいた。セタンタに再び助けられたこと。そして自分がまた過去の淡い恋心を思い出していること。そうした思いは完全に断ち切ったつもりでいた。セタンタを自らの手で討ち果たすことを誓って以来、会えば必ずセタンタを殺すつもりでいた。図らずも味方としてセタンタと再会を果たしてしまい、容易には復讐を遂げることは出来そうにない。それにしても、まるで相手をすぐにでも許してしまいそうな心境の変化に自分でも納得がいかなかった。人はそうも簡単に己の信念を曲げてしまえるものだろうか。
 メイヴは走りながら、また別の不思議に気づいた。先ほどから全く死者たちと遭遇しないのだ。セタンタはでたらめに走っているようなのに。
「見つけたわ。ここよ」
 黒髪の少女が何かを告げた。セタンタは立ち止まり、少女の指差した位置、地面を手で掘り起こす。すると中から、一つの石が出てきた。何か模様の付いた、不気味な石だった。
 セタンタはそれをまた地面に落とし、槍で一突きした。石は割れた。すると不思議なことに、周辺の瘴気が若干薄くなった。
「こ、これっていったい」
 メイヴがつぶやくと、黒髪の少女がセタンタの背中に乗ったまま、顔をメイヴへと向けた。黄金の瞳をした綺麗な少女だった。メイヴは少しどきりとする。少女の眼を見ると、何故か自分の心が見透かされているような気持ちになった。
「魔術の結晶みたいなものよ。この石が死者を操っていたってわけ。他にも沢山埋まってるわよ。だからそれを全部破壊してしまえば、今のこの混乱は治められる」
「あなたは、いったい」
 問うメイヴに対し、不遜に笑い少女は答える。
「私はパンドラ。この世の災厄を知る者よ」
 城には三つの目的がある。一つは内側の人間を守ること。鉄壁の防御によって、外からの攻撃を防ぐ。そしてもう一つは外側の人間を攻めること。隙間から矢を放つ、投石器を用いて遠方の敵に石をぶつける、そうした機能を城に準備することで攻撃的な城となる。これら二つは一般に理解される、城の基本的な機能である。だが城の三つ目の機能は、あまり知られていない。
 三つ目の目的、それは内側の人間を内側に閉じ込めておくことだ。それは同時に、外の人間が侵入することを防ぐことも意味する。内と外の絶対的な境界。それこそが三つ目の機能である。ウー・ヨンは城をマルドゥークに意図的に占領させるにあたって、最初の二つの機能を潰した。すなわち、守りに弱く、攻めにも弱い。城としての機能をほとんど失っている。そして三つ目の機能、すなわち内側に閉じ込めるという機能だけは残しておいた。侵入も難しいが、脱出も困難な状況を作り出した。それは城というより、牢獄に近いものと言えた。
「なるほどね。だからあいつらが出てくるとしたら、あの門以外ありえないわけだ。でもあんな狭いところから出てきても、一網打尽にされるだけ。決戦を挑むにしても、外からの援護が必要ってわけだね。さっすがウーちゃん。やることがえげつないわあ」
 ウー・ヨンの隣でアルルが楽しそうに笑う。ウー・ヨンはそれを無視して、遠方のエイブラム隊に目を向ける。エイブラムの部隊は常に臨戦態勢を取り、マルドゥークが門から飛び出してくるのを今か今かと待ち構えている。マルドゥークにとって何もしないということは、そのまま飢えて死ぬということを意味する。そうであれば、たとえ援護が望めなくとも決死の覚悟で打って出る可能性はある。
「けれどその援護も僕の魔術で望めなくなっちゃったからね。最初から大量の死体が存在する場所でなら、僕ははっきり言って最強なのさ。ひょっとしてウーちゃんってば、そこまで見通してあの殲滅戦をやったのかい。一体でも多くのゾンビを、って」
「それは買いかぶりですよ。私は最初からあなたの力などあてにしていません。今回の件は、たまたま運が良かっただけのことです」
「またまたあ。謙遜しちゃってさ。……おや」
 アルルが何かに気づいた。ウー・ヨンは怪訝な顔をし、アルルを見る。
「どうかしましたか」
「うーん。どうやら誰かが僕の魔術を破壊しまくっちゃってるみたいだね。このままだと、いずれ森は正常化して、メイヴは部隊を立て直すかも」
 その言葉にウー・ヨンはため息をつく。
「まったく。つい先ほどまで最強だなどと豪語していたわりには使えませんね。まあいいでしょう。先ほども申しましたが、あなたの力をあてにはしていません。メイヴの部隊には私があたります。マルドゥークはエイブラムに任せておけば問題ないでしょうし」
「そんなうまくいかないと思うよ。だってこれ、パンドラちゃんの仕業に決まってるもん。彼女以外に僕の魔術をこうも容易く打ち破れる子はいないよ」
 耳慣れない名前にウー・ヨンは訝る。
「パンドラとはいったい。その者があなたの魔術を破っている、と?」
「あれれ。ウーちゃんも会ったことあるはずだよ。ああ、名前までは知らなかったのかな。ほら、黒髪で金色の目をしたとっても可愛い女の子。もうほんとすっごく綺麗な顔で、食べちゃいたい、いや食べられたいくらいなんだから」
 金色の目をした少女。そんな少女に会ったことがあるだろうか。思い出せない。ウー・ヨンは記憶を辿り、その存在に至る。
「ああ……。あの時の」
 ウー・ヨンの中で怒りの炎が芽生える。狂犬セタンタ。あの男。ウー・ヨンが張った完璧な陣を物ともせず、あまつさえ自分に恐怖さえ抱かせた戦士。その傍に、確か黒髪の少女がいた。セタンタに気を取られて深く考えることは出来なかったが、あの場にあんな少女の存在は明らかに不釣合い。そこに何か重大な点が隠されているのではと思わせるのに十分な状況。
 アルルがにやにやとウー・ヨンを眺める。
「そうそう。思い出したあ? その子の名前がパンドラっていうんだよ。で、そのパンドラちゃんが今、森の中にいるってことはさあ。例の狂犬くんも一緒にいるってことでしょ。となるとウーちゃんとしては見過ごせないよねえ。また軽い気持ちでメイヴをやっつけに行こうとしたら、あっさりと返り討ち、なんてことになるかもね。しかも今回、もし返り討ちにされたら、もう帰るとこないよ。だってお城は明け渡しちゃったんだから。あっはは。馬鹿みたいよね。自分で立てた作戦に自分が足元を掬われる、だなんてさ」
 ウー・ヨンはアルルを一瞥するが、特に何も言わない。元より必勝の策。逃げ道など用意していない。逃げ道を用意出来ないほどに追い詰められていたということでもある。アパスタークとウィスプ・ラトゥでは元々の国力に差がありすぎるのだから。それを覆す策で、逃げ道などあろうはずもない。
 ただ一点だけ。ウー・ヨンは絶対に確保しなければならなかった。
「万一の場合は、アルル殿。領主ノア様をお連れし、ヤスナにて匿っていただくようお願いいたします」


Chapter 08 「前兆」

 干し肉などの携帯食料はとうの昔に食い尽くした。兵たちは空腹をしのぎながら思い思いの場所に腰を下ろしている。城の中は静かだった。マルドゥークは一人、城壁の上から周囲を見渡していた。彼の視線の先にはエイブラムの部隊がある。おそらく交代で張り付いているのだろう。昼夜問わずこちらを監視している様子が窺えた。そこから少し離れた位置に東洋人が指揮する部隊があった。その部隊が何かしら動きを見せている。
「さて、この動きはこちらに良い報せか、それとも……」
 マルドゥークは期が来るのを待っていた。それはいくら待っても来ないかもしれない。いずれにせよ、このまま飢えて死ぬよりは打って出るべきだ。いや、それ以外に自分の首を差し出すという手もある。すなわち、完全降伏。それもまた期を待たなければいけない。出撃するにしても、降伏するにしても、その時期を見誤れば多大な被害を被るだろう。
 兵たちは大きな混乱もなく、おおむね冷静でいてくれた。そのことがマルドゥークにとって何よりも幸いに思われた。敵は死体を城内に投げ込むという卑劣な手段を用いた。その死体の中に、顔見知りのいる者も少なからずいる。ほとんど腐りかけた死体をそのまま放置するわけにはいかず、さりとて鳥葬に適した場所も無いため、城内の奥隅に集めて放置している。そして城内にある石や板などで囲み、普段は近寄らないよう注意を促した。注意するまでもなく誰も近寄ろうとなどは思わないだろうが。
 マルドゥークは待った。何を待つとも知らず、待ち続けた。それは策を弄し、迅速なる勝利を求めるウー・ヨンとは対照的であったかもしれない。
 ウー・ヨンは思案した。前回の戦いで、敵がこちらの動きを想定できるということは承知済みだった。ゆえに、出し抜かれる恐れがある。とは言え、全体を包囲するカタチに持ち込めば、必ずセタンタに一点突破を許すだろう。つまり、セタンタという尋常ならぬ力も計算に織り込まねばならない。セタンタに対して点であたるのは危険極まりなく、確実に集中砲火を浴びせて仕留める必要があるのだ。そのために包囲のカタチを取るには戦力が足りない。最初彼女はエイブラムと合流し、待ちの構えを取ることを考えた。いずれにせよ敵の目的はマルドゥークの救出、乃至は領主ノアにある。守りに入ればおいそれと手は出せないはず。しかしそれには南方の敵軍が懸念材料となった。その軍とメイヴの部隊を合わせればこちらを数で上回る。その軍が押し寄せてきた際に、マルドゥークに打って出られると非常に危うい。ならば……。
 メイヴは生き残った兵を全員まとめあげ、部隊を整えた。その数は半減しており、騎馬は一騎たりとも残ってはいなかった。兵たちは疲弊し、その士気は低い。戦場の常であれば、この状態は完全な敗北。撤退を決断するに不足無い被害状況であった。しかし、それでもメイヴは進軍を決意した。エンキドゥから指示を受けた必勝の策、それが未だ有効であると確信したためである。彼女はエンキドゥの元を離れる前に一本の火筒を受け取っていた。それが何なのかまでは知らされなかったが、ウィスプ・ラトゥの城近くまで攻め入った時に、天に向けて放つよう言い渡されていた。それにしても。
「まさかあなたと共に戦うことになるとは、思いもよりませんでした。クー、いいえ、セタンタ」
 メイヴはきっとセタンタを睨みつける。セタンタは表情を変えない。
「許せとは言わない。一生恨んでくれても構わない。ただ今は目の前の敵に集中しろ。でないと、死ぬぞ」
「偉そうな口をきかないで。戦場ではせいぜい背中に注意することね。いつ味方の流れ矢が飛んでくるか分からないわよ」
 そこにパンドラが割り込んで言った。
「それは無理ね。私がいる限り、お兄ちゃんを死なせはしないわ」
「はあ? お兄ちゃんですって?」
 多少困惑を見せるメイヴに構わず、パンドラは続ける。
「あなたが何をしようとしても、私がその前に必ず防いでみせる。いいえ、あなたが何かをしようと思うことすら許さない。思う前に私が思いの元を断ち切ってあげる。いいこと。お兄ちゃんは私のものなんだから、あなたが手を出すことは絶対に許さない。私にはそれを為すだけの力がある。そしてあなたには私が為すことを阻む力が無い。それはもう確実に」
「おい。いつから俺はお前のものになったんだ」
 セタンタの抗議を二人は無視する。パンドラとメイヴ。互いの睨み合いが少しの間続いた。
「そう。パンドラさん。そういえばあなた、先ほどおかしなことを仰っていましたわよね。森を右から抜けても左から抜けても敵が待ち構えている。真ん中を突っ切れば敵はいないが両脇から挟み撃ちにされる、と。どうしてそのようなことが分かると言いますの」
「分かるものは分かるのよ。あなたに説明する義理はないわ」
 メイヴが顔を険しくする。セタンタははあとため息をつきながら二人の間に入った。
「こんなところで諍いを起こすのは勘弁してくれ。体力がもたない。すまないなメイヴ。詳しいことは俺にもよく分からんが、パンドラにはそういう力があるとだけ理解してくれ。実際、お前も見ただろう。彼女の指示に従って歩いたとき、一度も敵に遭遇しなかった。俺もこの力のおかげであの時の戦闘から逃げ出すことが出来たんだ」
「確かに、そうね……。まあ、いいわ。とにかくどう出たところで敵に遭遇する。ならば右か左、どちらからか出るしかないということかしら。このまま真っ直ぐ進んでも、挟撃されるのがオチなのでしょう。こちらにはもう騎馬も無いし、真っ直ぐ突っ切っていくのは無謀過ぎる。で? 右と左、どっちに行くといいのかしら?」
 メイヴの問いかけにパンドラが答える。
「右も左も対して戦力に違いは無いわ。半々に分けて配置しているようね。ただ、あえて言えば私なら左を選ぶ。右にはあの女がいるから」
「あの女とは誰のことですか。出来るならばわたくしは右側の方が望ましいのです。南方の部隊により近く、合流出来れば大きな力になります」
「この森でフンババの部隊を殲滅した張本人よ。その女が右側に陣取っているわ」
 メイヴの顔が引き締まる。そしてセタンタの顔を見た。セタンタはそれに応えて頷く。
「なるほど。あまり相手にしたくない相手、というわけですわね。そうなると右に行くも左に行くも大して変わらない気もいたしますが、本人がいるよりかは左の方がマシ、ということでしょうか」
「あなた参謀でしょ。なんか頼りないわね」
「なっ!」
 パンドラの言葉にメイヴが顔を赤くする。しかし自分への自信の無さから、それ以上の反論を抑え込む。参謀などという肩書きが自分に相応しくないことは承知していた。自分はただただ弓の腕だけを磨いてきただけで、特に頭がキレるというわけでもない。単にエンキドゥの腹心として位置するために与えられたお飾りの肩書きなのだ。しかし、たとえそうだとしても参謀としてのプライドは少なからずある。メイヴは与えられた職務をまっとうにこなすという点では、決して無能でも無かった。それゆえにパンドラの言葉に反論出来ないながらも、承服しかねない反感を強く持った。
 メイヴは後方を振り返り、全軍に宣言する。
「我々はこれより、敵右翼に対し奇襲をかけます! こちらは森、対して敵は平原。この地の利を活かし、森から一斉に矢を仕掛けます。歩兵部隊は攻め寄る敵に備え、弓兵を守りなさい。以上!」
 メイヴはそのまま先へ先へと進んだ。セタンタとパンドラも後に続く。パンドラがセタンタにぼそりとつぶやいた。
「ねえ、あの東洋女のこの布陣、どう思う?」
「ん? そりゃあ、まあ、妥当だと思うがな。戦力を大きく分散させることなく、敵を幅広く捉えることが出来る」
「そうなんだけどさ、何か変なのよね」
「どうした。いったい何を懸念している」
「イメージが途切れてるの。なんか、敵は確かにそこにいるんだけど、なんだか急に現れたって感じで」
「なるほど。それはおそらく敵が埋伏して待ち構えているってことだろうな」
「埋伏?」
「ああ。こう、地面に腹ばいになって潜むことだ。きっとどこかのくぼみに潜んでいるんだろう。メイヴに伝えてやらないとな。ありがとよ」
 セタンタはそう言ってパンドラの頭をくしゃくしゃにした。普段は喜ぶその行為にパンドラはあまり嬉しそうな顔をしなかった。何かしっくり来ない。そういう表情をしていた。だがセタンタはそれに気づかなかった。
 ウー・ヨンは暗闇の中で目を閉じた。休んでいるのではない。その思考は休むことなく研ぎ澄まされ、次の手、さらに次の手と連ねられていく。ウー・ヨンの元に兵が駆けつけ、何かを耳打ちする。
「そうか。よし、下がれ」
 兵はすぐに引き下がり、己の任務へと戻った。ウー・ヨンの予想通り、敵はこちらの右翼に進んでいった。左翼でも問題は無いが、南方の敵部隊が気がかりだったため、より好ましい結果であった。南方の部隊とメイヴとに挟み撃ちされれば、さすがに苦戦が予想された。
 真ん中を突っ切らないということは確信していた。ウー・ヨンはまたも相手の力を逆手に取ったのだ。一見、正攻法に見える布陣も、相手に見破らせることを前提としている。全てが彼女の思惑通り。自分がいる限り、決して負けない。そういった自負を彼女は持った。そう、二度と負けはしないのだと。
 メイヴは森から出る少し前まで来ていた。偵察の報告によれば、平原に敵は確認出来なかったとのこと。セタンタの言うように、どこかに潜んでいるのだろうと思った。それにしても遠目とは言え、敵はそうとうにうまく隠れていると思われた。もしパンドラの予見が無ければ、そのまま敵の奇襲に遭っていたかもしれない。
「ねえパンドラさん。どのあたりに敵が潜んでいそうとか分からないの?」
「一人や二人が相手なら分かるけれど、敵はかなりの数なのよ、馬鹿。そんなの、どのあたりかなんて言えるわけないじゃない、馬鹿。あえて言えば、そこらへん全体よ、馬鹿」
「ねえ、どうして私、三回も馬鹿なんて言われなくちゃならないのかしら」
「さあね。馬鹿だからじゃない?」
 またも睨み合う二人。セタンタは少し離れてそれを見守る。メイヴを見て、少しだけため息をついた。昔はもっと大人しい少女だったはずが、今は随分と男勝りになってしまった。そうなった原因はおそらく自分なのだろう。メイヴには、すまないという思いがある。鮮血の部屋。魔女の笑い。何もかもが狂っていた。自分もひょっとしたら、狂っていたのかもしれない。
「とにかく。作戦は実行します。敵がどこに隠れているのか分からないなら、炙り出してやるだけよ。弓兵、火矢をつがえなさい。魔道士部隊は火を起こして。歩兵部隊はたまらず出てきた連中を仕留めなさい」
 メイヴの指示に従い、全体が動きはじめる。その時、パンドラが叫んだ。
「いけない、みんな伏せて! いや、そうじゃない、それじゃダメ、逃げて!」
「ど、どうしたのよいったい」
 メイヴが当惑した顔でセタンタを見る。セタンタはパンドラの肩を掴んで彼女の黄金の瞳をじっと見て言った。
「落ち着け。どうしたんだパンドラ。いったい何を予見した」
 その時、セタンタから少し離れた場所に巨大な岩がひとつ落ちてきた。突然のことに誰も反応出来なかった。幸い、その下に人はいなかった。しかし誰もが直後に絶望した。空を見ると、木々の隙間を多い尽くす無数の岩石が落下する様子がありありと見えていたのだから。
 いくつもの岩石が落下してきた。何人もの兵がその下敷きになり逃げ惑う。セタンタとパンドラのみ、その落下位置を予見することで難を逃れていたが、兵全体を守ることは出来ない。
「メイヴ、早く森の外に出るぞ! このままだと、投石だけで全滅だ」
「だって、外には敵が。それよりもこの場は撤退しないと」
「馬鹿言うな。こんな動きにくい森の中をちょろちょろしてる内に、全員押しつぶされるぞ。くそっ、なんて数の岩だ。いったいどれだけの投石器を用意してやがった」
 セタンタの言葉にメイヴは小さく頷き、全軍に脱出の指示を出した。
「戦闘準備。わたくしに付いてきなさい」
 兵たちは岩の雨から逃れるようにして外へ飛び出した。セタンタとパンドラもそれに続く。すると目の前に広がる光景に全員が驚いた。そこには埋伏する兵士など一人も居なかったのだから。
「ちょっと、セタンタ! 話が違いますわよ。敵はどこですの」
 メイヴが先頭を走り続けながら叫んだ。
「危ない、下がりなさい!」
 パンドラがメイヴを制止した。その瞬間、メイヴはわき腹に鈍い痛みを感じた。見るとそこには一本の槍が突き刺さっている。槍は地面から伸びていた。地面が少しだけ盛り上がっている。いや、盛り上がっているのではない。地面がまるで蓋のように開いて、そこから槍が突き出されているのだ。
「あ……、いたぁ……」
 そこから次々と槍が突き出される。メイヴの傍にいた兵たちも次々に槍の餌食となった。地面からわらわらと敵兵が姿を現す。敵に囲まれながら、メイヴは膝を地に突く。メイヴは遠目に、ウィスプ・ラトゥの城を確認した。あと一歩のところで、至れなかった。いや、見えるだけでその城ははるかに遠い。だが、見えた。メイヴはエンキドゥに渡された火筒を手に取る。まだ死ねない。周囲では乱戦が始まっていた。
 ウー・ヨンは煙が上がるのを確認した。もちろん自分の指示ではない。であれば敵のものだが、いったい何の知らせか。煙は森の近くから上がっている。つまりメイヴの部隊から上がった火ということ。その時、遠くから地面を揺らす音が聞こえた。その音の震源を見たウー・ヨンは絶句する。無数の牛が横一直線になって南方から押し寄せてきたのだ。その一線は真っ直ぐエイブラムの部隊へと進んでいる。
 マルドゥークは狼煙が上がるのを見た。そして牛の大群が押し寄せているのを確認すると、部下に戦闘の準備を命じた。そのまま自分も門の前へと降り立ち、馬にまたがった。馬は少し痩せていたが、その目に衰えは見られない。マルドゥークはぎりぎりまで、馬を食べることを兵に禁じた。馬は決して単なる道具ではない。彼らにとって戦友であった。そして今この瞬間、共に駆け出そうとしている。もしマルドゥークが短絡的に馬を食っていれば、反撃の余地は無くなっていただろう。馬無しで飛び出していたとしても、たちまちエイブラムに追いつかれ、討ち取られていたに違いない。今が絶好の勝機であることをマルドゥークは理解していた。メイヴの部隊、南方の軍、そして自分が合流し、一挙に東洋人の軍を撃破する。今はそれが可能な唯一の瞬間となった。
 アルルはその光景を遠くから眺めていた。彼女はすでにウー・ヨンの元を離れ、高みの見物を決め込んでいたのだ。そしてにんまりと笑い、つぶやく。
「あぁあ。こりゃウーちゃんもうダメだね。さすがに挟み撃ちどころか、三方から攻められちゃ打つ手無しでしょ。変に勝ち急いだりしないで、もっとまともな戦法を取れば良かったのに。例えば全軍で南方の拠点を制圧するとか。そしたら補給線も確保出来るし、改めて仕切りなおせる。そうしたらヤスナの援軍だって期待できたのに。もしくはウィスプ・ラトゥの城を徹底的に破壊して燃やし尽くしてしまうとか。変に残して後から帰れるように、なんて欲を出すからダメなんだよね。火攻めにすればマルドゥークなんて、戦わずして殺せたのに。虎が檻から出てくるのを待って殺すだなんて、なあんて優しいんだろうね、ウーちゃんってば。まったく、東洋の軍師ってのも意外とたいしたことないんだなあ。まあ、彼女の場合は敗軍の軍師だから、それで東洋の軍師を判断するのは酷ってもんかな、あっははは。まあ、それなりに楽しかったよ、ウーちゃん。きっとその仇は取ってあげるから、きちんと成仏するんだよ」
 アルルは愉快に笑った。そして闇の中に姿を溶かす。もうここに彼女の用は無かった。


Chapter 09 「敗北」

 連環牛、とでも言えばよいのだろうか。その牛は全て鎖で繋がれていた。尻に火を付けられ、それから逃れるように暴れ走る牛の大群。その連環牛が真っ直ぐに突撃していく様は異様だった。エイブラムの部隊は総崩れ。エイブラム自身、無事かどうかも定かではない。その直後に城門が開かれた。先頭を走るのは騎馬にまたがったマルドゥーク。数多くの兵たちが彼に従い戦場を駆け抜け、一直線にウー・ヨンの部隊へと突進する。さらに南方からは連環牛を仕掛けた部隊がこれもウー・ヨンめがけて突進を始めた。南方の部隊だけならウー・ヨンの敵ではなかった。速やかに撃破し、その流れでメイヴたちに攻撃を仕掛けられる。しかしそこにマルドゥークが現れた。歯止めとしていたエイブラムの部隊は一時的にだが使い物にならない。その隙に騎馬で攻撃を仕掛けてくる。これはウー・ヨンにとって、もはや逃げようもない窮地であった。
「ふっ」
 ウー・ヨンは諦めに似た笑みを浮かべる。
「これならば、なかなか派手に散れるというもの。一度は死んだ身。何を悔いることがありましょうか」
 そう独りつぶやき、前方の戦場を目にした。そこで彼女は悟った。自分は最初から負けていたのだということを。完全な規格外。そういうものを彼女は今まで知らずに生きてきた。だから規格外を計算の内に入れることは端から不可能。不可能を可能にするほどの力を得るまでには、まだ彼女は至っていなかった。
 狂犬。セタンタは一人、こちらを睨みながら立っていた。傍には女が倒れている。見ると、敵も味方も彼から距離を置いている。誰もが戦闘をやめ、怯えた瞳をしていた。
「まったく、何なのですかあなたは。完全に常識外れ。もう私の手に負えません。参りました。負けを認めましょう。ですが、ただ負けるというのは、いささか寂しいものですね。申し訳ありませんが、最後まであがかせていただきますよ」
 ウー・ヨンはたずなを握ると、馬首を東へと向けた。そしてその場を一目散に立ち去る。そのほかの兵たちもウー・ヨンに続く。彼女はすでに覚悟を決めていた。その上で最後に一泡吹かせよう。いや、何か策を秘めているというわけではない。ただただ、敵の将軍の一人でも道連れにしてやれと思い立ったに過ぎなかった。
 マルドゥークは前方から来る東洋人の部隊を視認した。おそらく後方のエイブラムが立ち直ると見越し、そのまま挟み撃ちにするつもりだろうと思われた。ここからは速さが鍵となる。自分が挟撃するのが先か、挟撃されるのが先か。きわどいと思ったが、勝利できると見た。真っ先にぶつかるのは自分と東洋人の部隊なのだ。純粋に力でぶつかれば勝算はある。
 マルドゥークは部隊を鋭角に動かした。完全に中央突破のカタチである。対する東洋人は一見して分かりにくい形でこちらに向かっている。両翼で挟み込む陣形にも似ているが、中心は中央突破するかのように見える。Wのカタチで、二つの口をこちらに向けているようだ。
「こちらの陣形を最初の一撃で突き崩し、その上で取り囲むつもりか。なるほど。だが、小賢しい!」
 マルドゥークは剣を抜き放ち、全軍を鼓舞した。兵たちもそれに応え、大声で叫ぶ。子供の大きさほどもある巨大な剣だった。その剣で前方、ウー・ヨンの部隊を指し示し、マルドゥークは叫ぶ。
「なんとまあ、まるで野蛮人ではないですか」
 ウー・ヨンはすぐ近くまで迫るマルドゥークを見てそう漏らした。しかし、その野蛮人こそが力を持ち、豊かな文化を持つ国を滅ぼす。それが歴史であるということも事実。優れた文化を持つ方が負けるはずがないという驕りはどこから来るのだろうか。実際には、文化と力とはあまり関係性が無い。ウー・ヨンはそのことを痛感しつつ、自らを思った。
「そうだな。私はきっと、野蛮になり切れなかった。死体を放り込んだだけで、十分蛮族を気取っていたが、全く足りていなかった。もっと下劣に、もっと卑怯に動けば勝てただろうに。そうなりきれなかった私はやはり臆病者なのだろう」
 鎖分銅を手に取り、迫るマルドゥークに対峙の構えを取る。猛将の気迫に押され、汗が流れる。
 マルドゥークとウー・ヨン、二人の視線が交叉する。マルドゥークの振り下ろす一撃をウー・ヨンは身体をひねらせて避け、その上で鎖で剣を絡め取る。しかしその行為に何の意味も無かった。マルドゥークはただ剣を一振りするだけで、ウー・ヨンの鎖を断ち切った。そしてそのまま第二撃を繰り出す。ウー・ヨンはたまらず馬から飛び降りた。直後、馬の首が飛んだ。
「全軍、かかれ!」
 ウー・ヨンの指示により、全軍が動く。右翼と左翼に分かれ、マルドゥークの部隊を飲み込もうとする。しかし、マルドゥークは全くたじろぐことがない。真っ直ぐ、ウー・ヨンの首を狙い剣を振るう。マルドゥークに幾つもの矢が飛ぶ。だがそれは彼の傍にいた兵たちがことごとく剣ではじき返す。そしてウー・ヨンの周囲の兵たちを次々と打ち倒していった。兵の練度が違う。マルドゥークの指揮する部隊はまさに精鋭だった。傭兵をかき集めたフンババの部隊とは比較にならない強さだった。
 ウー・ヨンの陣形は敵を惑わし、包み込むものだったが、全く効果が無かった。そもそも敵を惑わすという時点で失敗している。これならば正攻法で、両翼の陣を構えていた方が効果があったろう。ウー・ヨンは自軍の力をまったく活かせず、自分を窮地へと追い込んでしまった。
 ウー・ヨンは短剣を抜き放ち、マルドゥークと対峙する。マルドゥークはそれを見て、馬から降り立った。
「まだ、そなたの名を知らん。聞こうか」
「そうですね。これから死に行くものに、名前くらいは教えてあげるのが礼儀というものでしょうか」
「かっはっは。そのような減らず口が叩けるとは、気に入った。まずわしから名乗ろうではないか。わが名はマルドゥーク。アパスターク帝国の将である」
「存じております。私はウー・ヨン。ご覧の通り、東洋より来ました、流れ者です。ウィスプ・ラトゥ領主ノア様に忠誠を誓っております。マルドゥーク、あなたの命、ここで頂戴いたします」
 言って、ウー・ヨンはマルドゥークに切りかかる。速く、鋭い一撃であった。並みの者が相手ならその瞬間に勝負が付いている。しかしながら、マルドゥークにとってその一撃は児戯にも等しかった。彼はウー・ヨンの剣を叩き折り、彼女の腹を蹴り飛ばした。
「がはっ」
 地面に落ち、ウー・ヨンは血を吐く。部下の兵たちがマルドゥークに立ち向かうが、瞬く間になぎ払われた。
「無粋な連中よ。将と将との一騎討ちに水をさすとは」
 もはやウー・ヨンの部隊は散り散りとなっていた。指令系統の頂点であったウー・ヨンが窮地に立たされ、多くの者がその場から逃げ始めていたのだ。すでに彼女を助けようという者もいなくなっていた。
「そなた、部下からの信頼はあまり無いようだな。異国の人間にこき使われることを思えば、無理も無いが」
「信頼、など。無用なものです。私は常に完璧な作戦を編んできた。そしてその通りに兵を動かした。兵にはきちんと仕事をしてもらえれば何の問題もありません。兵たちも勝利する私には喜んで付いてきます。そして今、私は負けました。だから兵は去る。当然のことです。何の疑問もありません」
「ふむ。そこまで達観しておるか。悲しい女よ」
「なんとでも言いなさい。私は軍師ウー・ヨン。決してあなたに哀れみを受けるような人間ではありません」
「そうか。ならば、この場で果てるも本望であろうな!」
 マルドゥークが剣を振りかざす。そこに慈悲は無い。ウー・ヨンはマルドゥークの顔を睨みつける。その目からは諦めの色は見えない。彼女はもう何の策も持ち合わせていない。武器も無い。部下も居ない。全くの絶望的な状態にいた。それでも彼女は目を閉じない。真っ直ぐ敵の顔を睨みつける。
 そう。心に大望ある者は決して最後まで諦めることをしない。彼女は一時は弱りかけた気持ちを振り絞り、生きる覚悟を持った。死の直前にあって、まだ死ねないという気持ちを新たにした。彼女は最後の力を振り絞り、立ち上がった。マルドゥークはそれを見てにやりと笑う。彼女のその姿に、騎士としての誇りを感じ取ったのだ。死ぬまで立ち続けるという誇りを。しかしそれはマルドゥークの思い過ごし。彼女はすでに死ぬ覚悟など捨て去った。なにがなんでも生き抜く。たとえ無様な姿をさらすことになろうとも死なないという決意。それはおそらく猛将たることを誇りとするマルドゥークには決して理解しえない境地であったろう。
「ではお喋りはここまでとしよう。さらばだウー・ヨン。そなたのその名、生涯忘れぬと誓おう」
 マルドゥークがかざした剣を振り下ろすその直前、ウー・ヨンは倒れた時に握りこんだ土をマルドゥークの顔面へと投げつけた。思わず顔をしかめたマルドゥークめがけてさらに、折れた剣の柄を投げた。折れた剣はもちろん刺さりはしないが、マルドゥークの頬をかすめ、傷をつけた。ウー・ヨンはすかさずマルドゥークに背を向け走り出す。
「私の名前など、すぐにでも忘れてもらって結構。まだ死ぬわけにはいきませんのでね。ここでさよならさせていただきますよ」
 周囲は平原。彼女には馬も無い。それでもウー・ヨンは絶望しなかった。逃げられるわけ無い。それでも彼女は逃げることを選んだ。
 マルドゥークは逃げるウー・ヨンの背中を見て、怒りに震えた。最後の最後でなんと情けない後姿であろうか。誇り高く死ぬ機会を失い、こうして間抜けな背中をさらしている。その姿は騎士たる彼にとって醜悪以外の何物でもなかった。
 マルドゥークは乗馬し、ウー・ヨンを追う。もはや何の言葉をかける義理も無い。彼は瞬く間にウー・ヨンに迫り、剣を振り下ろした。だがそれを阻む者がいた。
「エイブラム!?」
 ウィスプ・ラトゥの老将、エイブラムがその剣でマルドゥークの剣戟をはじき返したのだ。
「ば、馬鹿な。どうしてこんなところに。この戦況を見れば、ノア様をお連れしてヤスナへと逃れることが最優先であると分かるでしょう。その大事な役目を負うあなたが、どうして」
「確かに、ノアを助けるのが騎士としての最も重要な役割じゃろうて。主人に奉公すること。それこそが騎士道の基本じゃからな。しかし、騎士にはそれに勝る優先事項があるのじゃよ」
 エイブラムは振り返り、ウー・ヨンを片目で見る。
「それはな。愛する女を守るっちゅうことじゃよ」
「は、はあ?」
 ウー・ヨンの目が点になる。傍で聞いていたマルドゥークも、いったいこいつは何を言っているんだろうという顔をしていた。
「ほれ、かの有名な騎士もそうじゃったろう。ええっと、なんつうたかな。ラン……、ラーンス……、ええいまあ名前なぞよい。つまり愛する者のために戦う騎士こそ、真の騎士であるということじゃ。そしてわしはそなたに惚れた。じゃからそなたをこの身に代えてでも守り抜く。なあにノアのことなら心配せんでもええ。あいつはちゃんと自分のケツは自分で拭ける男じゃからな」
「そ、そんな。冗談言わないでください。いきなり愛しているとか言われても、信じられるわけないじゃないですか。年もだいぶ差がありますし。どうして私なんですか。い、いえ、そうじゃなくて。ここはそんなことを言っている場合ではなくて」
「そんな場合なんじゃよ」
 エイブラムが真剣な顔でウー・ヨンを見た。その混じりけの無い真剣さに、ウー・ヨンは圧倒される。
「わしの馬を使え。それでお主だけはここから逃げられる。多少の追っ手くらい、そなたなら自力でなんとかできるじゃろ。すまんがわしは目の前のこいつで手一杯じゃからな」
「酷い。酷すぎます。どうして……」
 愛しているなどと、死の直前に言うのか。これでは、一生忘れることなど出来ないではないか。
「ほれ。もう時間もなかろう。四の五の言わずにとっとと逃げんか!」
 エイブラムが片手でウー・ヨンの首根っこを掴み、馬へと放り投げる。そして馬の尻を蹴飛ばし、無理やりに走らせた。
「ま、待って。私はまだ……」
 まだ、何だと言うつもりだったのか。それは今となっては知る由もない。知る必要もない。ウー・ヨンは単騎、どこへともなく駆け続けた。エイブラムと別れた直後、マルドゥークの軍が勝ち鬨をあげる声を聞いた。
 しばらく駆け続けた。途中何度か追っ手に遭ったが、全て切り伏せてきた。馬に剣が備え付けてあったので、それを使った。
 どこまで駆けて来たのか、彼女にはもう分からなかった。自分が東へ向かっていたのか、南へ向かっていたのかさえ定かではない。今はゆっくりと歩く馬の背で、ただ呆然と空を眺めていた。
「そんなの。いくらなんでも唐突過ぎます」
 彼女はエイブラムのことを思った。彼との関係は戦場での上司と部下、それのみだった。こちらから好意を寄せたことも、向こうから好意を寄せられたこともない。なんの脈絡も無い愛の告白だった。それも自分の父親と同じくらいの年齢の男からだ。そしてエイブラムは直後に散った。あれは本当にいったい何だったのかと思う。
 娘のように愛する、という意味だったのかもしれない。そう思うとひどく狼狽した自分が恥ずかしい。ただ今となってはそれも確認するすべは無い。全ては何も分からないままなのだ。
 深く息を吸い、長く息を吐く。彼女は思考を切り替えることにする。過ぎたことを何度も考えたりしない。もしそんなことをしていたら、自分の生涯は過去のことを考えるばかりで終わってしまうだろう。今は、この後どうするか。順当に考えればヤスナへ落ち延び、再びノアの下で働くべきだろう。それともどこか別の場所で勢力を結集し、反撃の機会を見出すことがウィスプ・ラトゥのためとなるかもしれない。どちらも選ばないとすれば、自分はどうするのだろう。
 祖国へ帰る。そういう選択肢もあるかもしれない。祖国で、自分のように再起を望み、力を蓄える者たちがいるかもしれない。そして彼女は思い出す。そう、志半ばにして倒れていった仲間たち。彼らの遺志を受け継ぐことこそ自分が自分に課した使命ではなかったか。それこそを天命と心得、臥薪嘗胆の日々を送ると誓ったはずだ。そして何故自分がここにいるのか。それはヤスナの秘宝、プロメテウスの炎を手に入れるためではなかったか。そのための最善の手段を考える。それこそが今、自分が真っ先に行わなければならないことなのだ。
 ウー・ヨンは辺りの景色を見渡した。太陽はすでに沈みかけている。紅い光が草原の緑を鮮やかに包み込み、えもいわれぬ風景が広がる。彼女はもはや、完全に自分を取り戻した。
「まったく、情けない話ですね」
 自嘲気味につぶやく。
「生涯を戦略に捧げてきたと言うのに。ここに来て、こんな大敗北の真っ只中で愛などというものを意識するとは。そしてそれをどのように扱えばいいのか苦しむだなんて、まったくどうしようもない。あらゆる知略を会得したと思っていたのですが、こんなところが抜け落ちていたのですね」
 目を閉じて、手を胸にあてる。エイブラムの顔を思い浮かべた。ひげまで白い老人の顔。まったく色ボケにもほどがある。いい年をした男が自分の娘ほどに若い女に愛を語ろうなど。
 エイブラムの手を思い浮かべる。あの手は良かった。そう思った。大抵の人間は彼女を恐れ、近づこうともしない。だがエイブラムの手はいつも容赦なく彼女の頭をなでていた。
 エイブラムの口を思い浮かべる。まったく煩い口だった。こちらの作戦にいちいち口を挟む。駒は黙って動いていればいいというのに。実際にそう言ったら、以降ますます煩くなった。
 エイブラムの腹を思い浮かべる。年の割りに引き締まった腹だった。見たことはないが、筋肉もかなりあるのだろう。
 エイブラムの目を思い浮かべる。優しい目をしていた。その目は嫌いだった。ウー・ヨンにいつも彼女の両親を思い出させた。故郷の仲間たちを思い出させた。だから嫌いだった。
 ウー・ヨンはくすりと笑う。喜びで笑うのは久しぶりだった。
「一人の男に愛された。今はそれだけでいい」


Chapter 10 「巫女」

 広大な空間に二人の女がいた。その空間がどのくらいの広さを持つか、肉眼では図りかねる。中心に炎の明かりがあり、二人の女を照らす。それ以外は全て闇で覆われていた。
 中心に位置するそれはまさしく原初の炎。神がひ弱な人間に生きる力を与えるためもたらした力の根源。それは不思議なことに炎としてだけ存在していた。火を生み出すには通常、炭素と酸素の結合をもって為される。魔術においてもそれは例外ではない。空気中に存在する物質を魔術式によって練成し、火や水、風などを発生させる。それは理屈で説明できる力。ゆえに人の手に負えるものと言える。だがこの原初の炎はそれとは異なる。炎は酸素も炭素も必要とせず、ただ炎としてだけそこに在る。それはまさしく神の炎。地獄の業火さえも焼き尽くす全ての力の源。
 その炎をじっと見入る女。まだ二十歳を過ぎた程度の容姿であるにも関わらず、異様なまでの妖艶さがあった。腰まで伸びた黄金の髪は炎に照らされ、見るものを恍惚とさせるような輝きを放つ。その瞳は深い海の底を思わせる黒き蒼。整った容姿はこの世の美女を掛け合わせて割ったのではないかと思われた。豊満な胸を強調するかのような金色のドレス。そのスカートにはスリットが入り、カモシカのごとき美しい脚を見え隠れさせる。彼女こそはヤスナの巫女王、イシュタルその人であった。
 それに対峙する女は全く対照的な姿をしていた。黒いローブを目深に被り、容姿はおろかその年齢さえも定かでない。背はイシュタル同様に高いが、若干前かがみの姿勢のため、どこか萎縮して見える。ローブは床まで垂らしており、その手、その足、何もかもを闇の中に隠している。炎で照らされてもなお、顔の輪郭さえ掴めない闇。それはあたかもブラックホールのごとき闇であった。この世のあらゆるもの全てが落ちていくほどの深い闇。彼女を女であると知らしめるのは唯一、彼女の声だけであろう。彼女こそはイシュタルに敵対するもの、ティアマトである。
「アルルが帰ってきたようね。ウィスプ・ラトゥはあっけなく陥落した。それでもなお我々は互いに意見の一致を見ない。さあて、どうするのイシュタル。このままではギルガメシュがごとき子供に私たちが制服されるのも時間の問題よ」
 闇の中からティアマトが声を震わせる。その声はイシュタルに対する嘲りが多分に含まれていた。臆病者を罵る声である。対するイシュタルは表情を変えない。
「ティアマト。何度言われようともわらわの考えは変わらぬ。神の力はみだりに使って良いものではない。己が欲望の欲するままに使用すれば必ず災いとなるであろう。それが分からぬそなたではあるまいに」
「その力で延々と生きながらえているあなたの言葉とは思えないわね」
「わらわには、生きながらえねばならぬ使命がある。特にそなたのような野心に溢れたものを残して、わらわ一人死ねぬ」
 イシュタルはゆっくりと目を閉じる。その思いは過去へと遡る。彼女がまだ若く、右も左も分からぬ少女だった頃にそれは起きた。幼い頃より天才の名をほしいままにしたイシュタルだったが、彼女自身は自らの力を快く思っていなかった。どうして自分にこれほど強大な力が宿ったのか。ただただ怖れた。やがてその力を利用しようという者たちが現れた。騎士である。騎士たちはイシュタルを利用し、諸外国を侵略すべしと考えた。だがイシュタルが思い通りにならぬと悟った彼らは、炎そのものを奪おうとした。騎士が手に入れたところで使いこなせぬ炎であるが、もし箱と鍵の二つを手に入れられれば状況は変わる。そして騎士たちはすでに鍵を所有している。イシュタルは争いを忌避した。巨大な争いを防ぐために、小さな争いを起こした。その結果生まれたのがアパスターク帝国とヤスナ教主国。もともと自治意識の高いウィスプ・ラトゥを加えて三国が並び立つ結果となった。
「野心だなどとめっそうもないことを。私はただ、この争いを一刻も早く終結させたいだけ。そのために炎の力が必要なのよ。プロメテウスの炎。それは万の兵に匹敵する強大な力。たとえ完全にではなくても、イシュタル、あなたにはそれを使うだけの力がある。アパスタークなど、その力で瞬く間に灰燼となるわ。どうしてそれをしないの」
「その話もすでに何度も繰り返した。今さら付け加える言葉はない。わらわはこの力を、国を滅ぼすなどということに使いはせぬ」
「別に国を滅ぼすまでしなくていいのよ。ただ力を見せ付けてやるだけ。例えば近くの山を瞬時にして灰の山にしてやればいい。そうすれば奴らは恐怖で縮み上がって、二度と私たちに歯向かおうだなんて思わなくなるわ」
 イシュタルの瞳がすっと細くなる。ティアマトの顔は闇の中にあり、その表情は全く読み取れない。だがイシュタルはティアマトの声から彼女の心を読み取った。ティアマトは決して言葉通りのことを望んでなどいない。単なる見せしめのためだけでなく、実際に敵を討ち滅ぼす力を望んでいる。
「愚かな。恐怖で人を支配しようと言うのか。最初のうちはうまくいくかもしれんが、それは亡国への第一歩ぞ。ティアマトよ、そなたはもう少し利口かと思っておったが、わらわの見込み違いであったか」
 沈黙が生まれた。原初の炎は音も無く、二人の女を照らした。
 やがてティアマトが動いた。右腕をローブごとすっと上げる。イシュタルはそれを見て訝る。
「ティアマトよ。そなた、これは何のつもりか」
 闇から何人もの黒い装束を纏った兵が現れた。無個性、かつ統一された兵士たちの中に二人、新たな巫女が姿を現す。
「ご尊顔を拝し、恐悦にございます」
 巫女の一人が言った。ティアマトの配下にして、邪竜の召喚に長けた闇の巫女、イルルヤンカシュである。
「イシュタル様。ご機嫌麗しゅうございます」
 もう一人の巫女が言う。彼女もまたティアマトの配下である。呪術を得意とする、アプスーである。
 イシュタルは完全に囲まれていた。だが彼女には全く狼狽した様子は無い。淡々と事実確認をするために、周囲を見回している。
「そなた、この程度の数でわらわをどうにかできるとでも?」
 ティアマトは答える。
「ええ、もちろん。むしろこれほど大掛かりにする必要は無いとすら思っているわよ」
「やれやれ。愚か者を通り越して大ばか者であったとはな。そなたには失望した。闇を司る者として取り立ててやったにも関わらず、わらわの力を全く理解していないと見える」
 そう言った直後、イシュタルの周囲が揺らめく。プロメテウスの炎がその輝きを増した。
「さらばだティアマト。今回はそなたの命だけで許してやろう。イルルヤンカシュもアプスーも、その目でしかと確認するが良い。そなたらが背こうとしたわらわが、どれほどの力を有しておるかをな」
 周囲の景色が一変する。赤く染められた広大な空間は隅々まで炎で照らされていた。イシュタルを中心に、爆風が起こる。兵たちは風に押されてその場に釘付けとなった。風に押され倒れる者もいた。ティアマトを含む闇の巫女三人は微動だにしていない。
 イシュタルの右手に炎が生み出される。いや、それは炎と形容するにはいささか異なるカタチをしていた。青く光る球状のそれはどこからか力を吸い取り続けているように見える。イルルヤンカシュはそれを見て恍惚としたため息をつく。炎の恐るべき力に見とれている様子だった。
「消えよ」
 イシュタルは一言だけ告げ、右手をティアマトの前に差し出した。青い光の球が一直線にティアマトへと走る。ティアマトの全身が炎に包まれ、瞬時にして灰となる、はずであった。イシュタルはわが目を疑った。青い光の球はそのままティアマトの中に吸い込まれてしまった。いや、実際にはティアマトの中に吸い込まれたわけではない。彼女がローブの中に隠し持っていた、ひとつの箱の中へと吸い込まれたのだ。
「そ、そなた。それはもしや」
 ティアマトがくすりと笑う。だがその表情は他の誰にも見えない。彼女は箱を掲げて唱えた。
「鎮まれ」
 その途端、イシュタルは膝をつき、うめき声をあげて床へと崩れ落ちた。プロメテウスの炎はその存在感を消失し、辺りは急に闇となる。すかさずアプスーが松明をかざした。他の兵たちも何人かが松明をかざす。
「残念ながら、これは本物ではないの。レプリカよ。けれどあなたの力を抑え込むくらいには効果があるみたいね。エピメデウスの鍵も無ければ、これが精一杯というところでしょうけど、まあ十分だわ」
「くっ……」
 イシュタルは歯噛みしてティアマトを睨みつける。
「わらわを捕えたところで何になる。箱だけでは炎は扱えぬぞ」
「心配無用よ。鍵も近いうちに手に入る。あなたは私の邪魔さえしないでいてくれればいいの。アプスー。この女に緊縛の邪法をかけてやりなさい。イルルヤンカシュ。何か動きがあれば邪竜で速やかに封じ込めるのよ」
「「仰せの通りに」」
 二人の巫女がイシュタルの封印を行い始めた。
「さて、と」
 ティアマトはその場を後にする。片付けるべき問題は山積みであり、イシュタルのみに構っている暇などないのだ。
「ではそろそろ始めようかしら。戦争を」
 ウィスプ・ラトゥの城へはエンキドゥが入り、領内の慰撫に努めた。ノアを慕う領民は多く、アパスタークの治世を受け入れさせるには相当の時間がかかると予想された。負傷したメイヴはアパスターク本国へと送り返されることとなった。すでにマルドゥーク共々、帰途についている。
 セタンタはパンドラと共にウィスプ・ラトゥ領内にある小さな酒場に宿をとっていた。
「つまり、イシュタルが全ての元凶、ということか。イシュタルがプロメテウスの炎を己の欲しいままにし、力で君臨していると。そしてその力はいつ気まぐれに暴れだすか知れたものではない。だからこそお前の主人、ティアマトは反旗を翻したのだな」
 セタンタの言葉にパンドラが頷く。
「そうよ。ティアマト様はイシュタル様とは少し毛色が違うけれど、間違いなく天才の一人よ。もう今ごろはイシュタル様の力を封じ込めているかもしれないわね」
「しかし、そううまくいくものか。それにもしうまくいっているのであれば、俺がイシュタルを殺す必要などないのではないか。いや別にためらっているわけではない。俺は俺のためにイシュタルの持つ炎が必要だからな」
「それは……、いくらティアマト様といえど、その封印は完全にはならないわ。おまけに相手は不老のイシュタル様よ。しばらくの間なら大丈夫だろうけど、結局数十年後には元の木阿弥になってしまう。そうじゃなくて、きちんとした平和を得るためにも、イシュタル様を殺さなきゃダメなの」
「そういうもの、なのだろうか」
「そうそう、そういうものなの。お兄ちゃん、馬鹿なんだから深く考えちゃダメよ」
 セタンタは手元のクッションをパンドラに投げつける。パンドラは顔面でキャッチした。
 セタンタは手を胸にあてて心の内でささやいた。
「大丈夫。メイヴは生きてる。だからお前もそんなかっかすんな。さすがに俺の身がもたねえ。お前の無念は、必ず俺が晴らしてやるさ。だから、ちょっと大人しくしててくれ」
 誰にも等しく夜は訪れる。今は戦士たちにひとときの安らぎを。


アヴェスタ戦記 未完
2010/01/11(Mon)23:24:56 公開 / プリウス
■この作品の著作権はプリウスさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
【登場人物】
・セタンタ:狂犬の異名を持つ傭兵 二槍の使い手
・パンドラ:ティアマトの腹心 魔道士
・スカアハ:赤き魔女
・ギルガメシュ:アパスターク帝国皇帝
・マルドゥーク;アパスターク帝国将軍 猛将
・エンキドゥ;アパスターク帝国将軍 知将
・メイヴ:アパスターク帝国 エンキドゥ隊参謀 弓兵隊長
・イシュタル:ヤスナ教主国巫女王
・ティアマト:ヤスナ教主国闇巫女
・アルル;ヤスナ教主国闇巫女
・ノア:ウィスプ・ラトゥ自治領領主
・エイブラム:ウィスプ・ラトゥ自治領将軍 ノアの古き友
・ウー・ヨン:ウィスプ・ラトゥ自治領軍師 東洋人

【更新履歴】
2009/12/15 Chapter 01 「出会い」
(気分転換にファンタジーに挑戦です。『生徒会長探偵』はプロットまで書き上げ、ちょっと寝かせているところです。今回の『アヴェスタ戦記』は一応chapter10で一区切りの予定ですが、大河物なので話は全然終わりません。描いてみて、読んでくれる人が多いようなら続けてみようというくらいの気持ち。キャラクタや地名は様々な神話から取っていますが、基本的に神話の物語とは関係ありません。自己流の解釈で神話のキャラをいじっているので、好きな人には怒られるかも。特にセタンタは女神転生好きには人気なので、大丈夫かなあと心配。ともかく、ご意見ご感想お待ちしています)
2009/12/16 Chapter 02 「脱出」
(描いていると自然とボリュームが想定以上になるから困る。登場人物の情報を少しずつ出してみました。個人的にはウー・ヨンがお気に入りで、けっこう力を入れてたりします)
2009/12/18 Chapter 03 「狂犬」
(セタンタを暴走させるつもりが、僕が暴走してしまいました)
2010/1/4 Chapter 04 「知将」
(あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします)
2010/1/5 Chapter 05 「戦略」
(全然関係ありませんが、韓国語勉強し始めました。チャミスルジュセヨ)
2010/1/5 Chapter 06 「戦争」
(謀多きは勝ち、少なきは負ける。昔見た大河ドラマ『毛利元就』で敵武将が語っていた台詞。かっちょいい)
2010/1/6 Chapter 07 「過去」
(実際のところクー・フーリンとタム・リンは全くの無関係のようですが、女神転生的イメージで関係がありそうだなとずっと思っていました)
2010/1/8 Chapter 08 「前兆」
(読者置き去りなのは申し訳ないと思いつつ、このまま突っ切らせていただきます)
2010/1/8 Chapter 09 「敗北」
(伏線無しのどっきり展開)
2010/1/11 Chapter 10 「巫女」
(これにてひとまず終わりとします。続きはまた書きたくなればという感じで。中途半端な感じですが、ここまで読んでくれた人ありがとうです。この後、アパスタークとヤスナの一騎打ち。ギルガメシュ陣営とティアマト陣営という感じになります。最終的に勝つのはどちらか、というより勝利とはそもそも何か。誰が善で誰が悪かは全く定まりません。ではまた次回作にて)
この作品に対する感想 - 昇順
こちらでははじめまして、自他共に認める三文物書きの木沢井です。
 こういった壮大な物語、非常に好みです。多くの人間の思惑が絡み合って時代を作っていく様子が頭に浮かび、想像するだけでも楽しみです。
 セタンタは伝説どおりに大英雄となるのか、それとも一人の人間として死ぬのかどうなのか、時間が許すかぎり見届けていきたく思います。
 以上、昨日の弁当の残りをどうするか考える木沢井でした。
2009/12/15(Tue)10:58:510点木沢井
はじめまして。読ませていただきました。ファンタジーでアフラマズダやイシュタルをお使いになるところが「すげえ!」って感じでもあり、ちょっと心配な感じでもありますが、まずは次回を楽しみにお待ちしたいと思います。一読した感じではセタンタ、狂犬といわれるような殺伐とした雰囲気をあまり出していなかったような。なんか繊細でマジメな部分を多く秘めているような、わりと好感がもてました(笑)パンドラのほうが何つーか強えよな、と。ちょっとセタンタに肩入れしながら読みたいと思いますー。ではでは。
2009/12/15(Tue)11:15:200点ゅぇ
>木沢井さん
 コメントありがとうございます。僕もこんなものを描くくらい「多くの人間の思惑が絡み合って時代を作っていく」物語が好きな人間です。三国志や水滸伝も好きですし、定金伸治の『ジ・ハード』なんかが好物です。『ジ・ハード』は第三次十字軍とサラディンの戦いを部隊に、好き勝手歴史の隙間を軽くファンタジックに埋めた感じの作品なのですよ。
 弁当は加熱して食うが良いかと。それでは、今後ともよろしくお願いします。

>ゅぇさん
 コメントありがとうございます。僕も心配ですが、基本名前を使っているだけなので(笑) とりあえずゾロアスター教の神々が物語中の宗教で、登場人物の名前はその他の神話なんかから拝借という感じです。キャラクタの性格とか設定に多少の影響はありますが、神話とは切り離して見ていただければ、と。
 セタンタは確かに狂犬っぽく描ききれてないかもですね。もっとダークヒーローっぽく影のある主人公にしたいので、そこんとこ考えときます。というわけで、今後ともよろしくお願いします。
2009/12/15(Tue)15:59:310点プリウス
千尋です。
 うん。セタンタ、可愛いじゃないですか。こういうやんちゃで強い男が右往左往する姿は、萌えますね〜** 調教師的美少女魔道士もいて、たまにお仕置きされちゃったりww 「お前は、私の犬よっ」とか。……すみません、妄想してしまいました^^。
 続きも楽しみにしています!
2009/12/15(Tue)16:35:460点千尋
>千尋さん
 コメントありがとうございます。僕が描く話はどうもダメな男と強い女という関係になりがちで。ひょっとして何か自分にトラウマでもあるのかもしれません(笑) 調教師的美少女魔道士という設定ではないのですが、それもありかなと思い始めましたwww
 今後ともよろしくお願いします。
2009/12/15(Tue)16:53:420点プリウス
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
ミステリーは苦手だが、ファンタジーなら大好物だ。というわけで、読ませていただきました。いやはや、壮大な出だしから始まり、そして謎の少女に助けられるなんて、とても素敵です。基本的に殿方と幼女(少女?)の取り合わせは好きなので、今後どのような展開が待ち受けているのかとても気になります。是非とも、セタンタの狂犬ぶりを見て見たいなと思いました。
続きを楽しみにしています。
2009/12/15(Tue)21:14:440点水芭蕉猫
>水芭蕉猫
 コメントありがとうございます。いつも思ってたんですが、読み方は「水芭蕉猫(みずばしょうねこ)」でよろしいですか? 殿方&少女の取り合わせは完全に定金伸治の影響だったりします。『ジ・ハード』の知将ヴァレリー(男)と猛将エルシード(女)、『姫神 -kishin-』のアメノオシホとトヤ。どちらも勇猛果敢な女性とそれを補佐する頭脳明晰な男という話で、かなり面白いです。セタンタの場合は頭脳明晰とかではありませんが。
 狂犬ぶりはやはりアクションシーンを充実させるべきですかね。もしくはもっと別の見せ方があるのか。考えながら描くことにします。では、今後ともよろしくお願いします。
2009/12/16(Wed)00:11:140点プリウス
千尋です。
 「諦めた。人であることを」……かっこいー♪ セタンタ、いいなあ。無頼漢のようでありながら、最後の一線はきちんと保っているって感じが。ハムナプトラのリック・オコーネルを、もうちょっとダークにしたふうですかね。あやうく惚れそうですよん。
 パンドラの可愛さも、ウー・ヨンの切れ者ぶりも、徐々に際立って、キャラクターが生き生き動き出してきましたね。
 続きも楽しみにしています!
2009/12/16(Wed)10:25:080点千尋
こんにちは! 羽堕です♪
 ギルガメシュは名前の響きだけでも、応援したくなってしまいます。昔したゲームの中で好きなキャラの名前だったので。でも今回の電撃的な侵攻は失敗に終わってしまったようで、これからに期待したいなと思います。
 そしてセタンタの予測できなかった展開を起こしたウー・ヨン、それだけでも実力が伺えるなと感じました。エイブラムみたいな老練でいて柔軟な考えの出来る戦士って好きです! 決してオヤジ好きという訳ではないのですがw
 パンドラも高飛車な少女って感じが、なかなか可愛く感じてしまいました(年齢は、かなり上のようですが)。ヤスナ側の人なのにセタンタを助けるのか、どんな糸があるのか楽しみです(二つの勢力で争っているようだし)。
 何も見えないという事で、災厄がないって分かるのかな? それと、どれぐらい先まで見えるのだろう。もしかして、こうなる事もパンドラは分かっていたのだろうか? セタンタはウー・ヨンの申し出を受け取らなかったでいいのかな。人である事を諦めたって、まさかそんな事ないよなとドキドキしながら、続きを待ちたいと思います。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/16(Wed)17:46:390点羽堕
よく見ると水芭蕉猫さんに「さん」を付け忘れていました。申し訳ない

>千尋さん
 格好いい男を描きたいと思っているので、そう言ってもらえて何よりです。
 ちなみに僕の基本スタンスは「悪い人はいない」です。これは別に悪人が居ないという意味ではなく、誰もが各々の正しいと考える道を進んでいるということです。千尋さんの「群神」もそんな感じですよね。中国の三国志だと曹操が完全に悪者っぽいですけど、それが日本の漫画版三国志『蒼天航路』だと、曹操含めて誰もが魅力的に輝く。そういうのが素敵だなと思うわけです。

>羽堕さん
 ゲームに出てきたギルガメシュってFFですよね。僕はやったことないので知らないんですが、けっこうな人気キャラなようで。ちなみに僕は『ギルガメシュ叙事詩』を読んで、ギルガメシュ、エンキドゥ、フンババ、イシュタルという名前を拝借しております。『ギルガメシュ叙事詩』は世界最古の神話で、とても面白いですよ。ノアの方舟の原型ではないかとされる逸話も入っています。
 パンドラの能力がどの程度のものかは今後の鍵になってきますので、徐々に明かしていきたいと思います。
2009/12/16(Wed)18:55:500点プリウス
初めまして、サル道です
戦記物は私の大好物でありまして……じゅるり

世界観も壮大で、少女とおやじ?なタセンタの関係が今度どうなるのか?
また、包囲された二人の運命がどうなるか。と楽しみな展開となってきてますね。

指摘できるほどの力量はないのですが、気になった部分を。
策士のウー・ヨンが包囲するときの策を、最初にばらしてしまっては、ちょっともったいない気がしました。

セタンタとパンドラが包囲に気がついた時に、ネタバラシのほうが面白かったのでは、
と思いました。

えらそうに申し訳ありません><

2009/12/16(Wed)20:27:080点サル道
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
最後の最後、人であるのを諦めた。というのはやはり今まではまだ「人」だったのですね。次回「人間じゃなくなる」らしいので、それに物凄く期待を大きくしてお待ちしております(おい)
ウー・ヨンさん、良いですねぇ。やっぱり、私はこういうカッコイイ系の女性は大好きです。パンドラちゃんも、皆生き生きと書かれていて良いなと思いました。果たしてセタンタとパンドラは無事この場を切り抜けることが出来るのか! 期待しております。
2009/12/16(Wed)21:04:460点水芭蕉猫
>サル道さん
 はじめまして、感想コメントありがとうございます。
 セタンタの年齢設定はまだ描いてませんね(^^; どこかで入れないといけないと思いつつ、後回しになってしまいました。早くしないと微妙な感じになりそう。
 ウー・ヨンの策はこの順番でいいと思ってたりします。と言うのも、後から実はという風にやると、うまく説明を挿入出来ない気がしたので。今後も軍師には様々な戦略を使わせたいので、説明を入れるタイミングは注意しながら描きたいと思います。

>水芭蕉猫さん
 ものすごく期待とかされるとびびって先が描けませんよ(笑) ゆるりとお待ちください。
 まだ登場人物は増えるので、きちんとキャラを活かして描くよう頑張ります。もちろん、既存のキャラも縦横無尽に走りまわらせます。
2009/12/16(Wed)23:26:510点プリウス
千尋です。
 なるほど! 自身の中に狂犬を飼っているなんて素敵な設定ですね! できれば、もう少しセタンタを暴れまわらせてもよかったかなあ。二、三人の喉を噛み切るくらいw 途中でウー・ヨンの過去の話が入るのも、ちょっと流れが中断したような気がしました。ああ、でもセタンタかっこよい** ダークヒーロー万歳!!
 パンドラもいい感じになってきてますね。「馬鹿と鋏は使いよう」って! うむ、男は若く健康なほうがいいですよ(オイ。 スカアハのしゃべり方はちょっとファンタジーに似つかわしくないような気が一瞬しましたが、笑い方で、うんアリかな、と思い始めましたww
 続きも楽しみにしています! 
2009/12/18(Fri)08:39:441千尋
こんにちは! 羽堕です♪
 前回の続きからパンドラにセタンタは襲いかかるんじゃないかとドキドキとしていましたが、それ以上に面白い展開になっていて良かったです。馬を食べるとか想像すると怖いですね。ウー・ヨンは悲鳴を上げさせられた事は、かなりの屈辱だったのではと思いました。相当にプライドを傷つけられたのではないかなって。そしてエイブラムの思わぬ活躍は嬉しかったです! 国の事や作戦など色々と考えはあったのだろうけど、やっぱり女性を護る騎士精神ではないかなと。
 スカアハは不気味さより、少し軽さが勝っているように感じました。それでもセタンタを使って遊んでいる様な暇つぶしをしているような雰囲気はあったと思います。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/18(Fri)14:32:320点羽堕
読ませていただきました。なるほどセタンタ…狂犬(笑)んーでももう少し描写の量を増やして、もっともっと底知れない恐怖を与えてもらいたかったような気もします。ウー・ヨンが悲鳴をあげるまでに、もうひと押しの何かが欲しかったです。スカアハもやはりちょっと軽め?これはもうプリウスさんの頭のなかできちっと設定がそういうふうになっているのだと思いますから、もうほんと一読者の一感想として見ていただければいいのですが、スカアハももっと深い不気味さを前面に出してもらいたかったな、と。全体的にやや軽い印象を受けました。完全に読者の個人的な好みの問題ですね(笑)申し訳ないっす。それぞれの人物はとても魅力的でよかったと思います。
2009/12/18(Fri)19:58:540点ゅぇ
ファンタジーって思ってたよりも難しいなあ。

>千尋さん
 加点ありがとうございます。言われて読み返してみると、確かにウー・ヨンの過去話は流れを遮ってますね。個人的な趣味でウー・ヨンがどういう伝承の出自かを明らかにしたくて描いたのですが、性急でした。もうちっと客観的に推敲するように気をつけます。

>羽堕さん
 なんとなく、爺さんがかっこいい話は面白いという先入観もあり、どっかで活躍させようと思ってたりします。スカアハは実は全く不気味に描こうというつもりはなく、むしろ愉快系キャラクタを目指してたりします。まだそういう感じにもならず、いささか中途半端キャラになってしまってるかもしれません(汗)

>ゅぇさん
 セタンタが狂犬とかいう話は本当はもっと別のところにあるのですが、それはまたの機会に。描写があっさりしているのは本当に悩みどころです。ああすれば、こうすればと色々思いながら、自分がこしらえた設定の制約に苦しめられている感じ。僕ももう一押しの何かが欲しかった。

 なんだか全般的にスカアハ不評な感じで、まずいなあと思ったり。セタンタ主人公にしといてスカアハがいけてないと、全体に良くない影響が(汗) はてさてどうすべきか。しばらくスカアハは出番無しなので、考えておきます。ではでは。
2009/12/19(Sat)01:50:260点プリウス
遅ればせながら拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
狂犬万歳。狂犬かっこいいな。犬に食われ続けるってメチャメチャ苦痛だな……でも、だからこそ最大限の魔力が引き出せるというわけですね。地を走り馬を喰らうセタンタが素敵すぎました。こういう病的な豹変は好きです。スカアハは個人的には結構好きですよ。ちょっと一歩進みすぎた感じの狂い方って好感が持てます。できるならもっとオカシなかんじだったらいいなーと。真っ赤な魔女、良いですね。
2009/12/20(Sun)21:22:050点水芭蕉猫
ダークファンタジーな小説、久々に読ませていただきました。
最近はこういうダークな感じのを読んでいなかったので、久々に新鮮な気持ちを味わえました。
セタンタが狂犬に食われていくさまなど、頭の中に自然と思い浮かんできました。
魔女も複数人でてきて、今後の展開が楽しみです。
2009/12/20(Sun)21:55:180点サル道
>水芭蕉猫さん
 何の代償も無しに強いキャラよりかは、苦しみまくりのキャラの方が魅力的かな、と。『ベルセルク』って読んだことありますか? 主人公のガッツが魔法の鎧(?)を着て超人的な力を得るんですが、その鎧は装着者を蝕むものなのです。セタンタの犬はまんまベルセルクな感じだったりします(汗)

>サル道さん
 ダークな感じを好むのは、僕の性格上ゆえでしょう(笑) 努力とか熱血とか友情とか、そういうのは逆に描けない気がします。出来るだけ写実的な表現をこころがけているので、もし分かりにくい箇所とかがあれば指摘してもらえると嬉しいです。
2009/12/20(Sun)22:34:570点プリウス
作品を読ませていただきました。ファンタジーはあまり好きじゃないから途中で放棄するかもなぁと思いながら読み始めたら、文章の流れが良くって一気に読めました。なにより主人公がアクが強くて良い。あと全体的にダークな雰囲気があって良かったです。では、次回更新を期待しています。
2009/12/20(Sun)23:41:280点甘木
>甘木さん
 感想コメントありがとうございます。途中で放棄しないで読んでもらえたということで、ほっとしました。上のコメントでも述べましたが、ダークなのは僕の性格によるものかと(笑) 今後ともよろしくお願いします。
2009/12/21(Mon)00:31:320点プリウス
こんにちは、昨日は二時間半かけて大掃除に励んでいた木沢井です。遅くなってすみません。
 エイブラムの『唾付けときゃ治る』という発言にかっこいいなぁと思いつつ読み進めていました。聊か展開が急かな、とも思いましたが、ウー・ヨンとの戦いで『狂犬』となる辺りでは彼の異常性が上手く表されていたかと思います。こういった血みどろの戦いもいいものですねぇ……いえ、実際にそういった状況に直面するのは願い下げですが。
 どこかファイナルファンタジーのケフカを連想させる魔女、スカアハ。彼女がこれからどのように物語に関わっていくのかが気になります。
以上、スーザのグラディエイター・マーチを聴きながらの木沢井でした。
2009/12/22(Tue)15:56:330点木沢井
>木沢井さん
 僕などは大掃除はつい長々とやってしまう性質でして、掃除すればするほど細かいところに目が行ってしまう。そして終わらない(笑)
 ファイナル・ファンタジー。実はやったことないのですよ。七作目をほんの少しだけ借りてやってみて、途中で飽きてしまった人間です。その後、ネットで評判を見ると七作目が圧倒的に高いんですよね。なので自分にFFは合わないのだなあと合点した次第。神話から色々と拝借しているので、またどこかFFと被ってしまうかもしれませんが(汗)
 では、今後ともよろしくお願いします。
2009/12/23(Wed)02:02:050点プリウス
千尋です。Chapter 04から07までを拝読しました。
 自分がSかMか、ずっと分かりませんでしたが、喉を突かれるセタンタに喜んでしまった私は、やっぱりSなのかも知れませんw
 イシュタルは「善」のほうかと思っていましたが、そうでもないんですね。というか、全ての元凶がイシュタル?っていう気もしてきました。
 セタンタの「全くの赤の他人を愛せる人間なんかいるわけねえだろ」は、なるほどなあ、と思いました。誰かを愛しているっていう気持ちも、裏返せば全部自己愛とも言えますよね。あるいは、他者に自己を投影させる現象を愛っていうのかも知れません。……などということを恋愛モノを書いている私としては、思ったりいたしました。
 どうもエンキドゥの知将ぶりがハッキリしませんでしたが、ウー・ヨンがエンキドゥに感心している様から、間接的に、すごさが分かった気がします。人を使うのって難しいな、ということを、ギルガメシュがエンキドゥをはずした件を読んで思いました。それにしても、この作品は、どうも騎士について評価が辛いようなのは、気のせいでしょうか^^。魔女や策略家のほうが生き生きしていますね。
 ウー・ヨンは、やっぱりかっこいいですね。城壁の上で扇をもって立つ姿には、「よっ、孔明!」と声をかけたくなりました。アルルの戦争についてのセリフが興味深かったです。もしかして、ウー・ヨンは本当に孔明に会っているかも、なんて妄想もw
 マルドゥークの城攻めは若干無謀かなとも思いましたけど、軍を率いる身としては何かの決断をしないといけないですし、難しいところですね。
 セタンタとメイヴには、意外な過去があったんですね。セタンタは、クランとタム・リンには敬語なのにメイヴにはタメ口のあたり、二人はずいぶん親しいという印象をうけました。しかし、メイヴは、セタンタと結ばれるには、ちょっと役不足という気がしますね。
 ウー・ヨンの沈着冷静さに、ウィスプ・ラトゥが優勢のような錯覚がありましたが、実はウー・ヨンも結構背水の陣だったんですね。こうなるとウー・ヨンを応援しないわけにはいきませんね。セタンタのほうが好きですが、彼の場合、窮地に陥っている姿のほうが萌えちゃいますので(オイ。
 全体的に、多少展開が速すぎて、入り込む前にどんどん話が進んでいってしまう感がありますが、一方、キャラクターやセリフの言い回しに印象的なものが多くて、そこが魅力的ですね。
 うーむ、また女神転生をやりたくなってきましたw
 続きも楽しみにしています!
2010/01/07(Thu)21:30:230点千尋
>千尋さん
 長文を読んだ上に感想をくださり、ありがとうございます。展開の早さは僕の準備力の問題です。最初のうちに、このくらいのボリュームで完結させるぞって感じで書いているのですよ。なので想定以上に話が膨らむと、大変なことになってしまう。あと少しで、「第一部完」みたいな感じなので、もう少しお付き合いくださいませ。
 隠すことでもないので明かしますと、ウー・ヨンの元ネタは水滸伝の呉用です。中国語の発音はウー・ヨンなのです。それって男じゃんという突っ込みは無しの方向で。あくまでも元ネタ、ですから(笑) なので時代的に孔明とは被りません。孔明よりかは後の時代、ですね。
 女神転生いいですよね。僕は中でもデビルサマナーがお気に入りです。本気でそれをやるためだけにセガサターンを買ったくらいに。あと、真・女神転生Vもかなり気に入ってます。ビジュアル的に、クー・フーリンよりもセタンタの方が格好いい気がする。女神転生シリーズは他のメジャーなRPGと違って、善悪が定かでないところがいいなあと。
 それではまた。
2010/01/08(Fri)03:14:480点プリウス
こんにちは! 羽堕です!
 メイヴの弓の腕もすごいのですが、こう直情的に動くキャラって好きです。エンキドゥに窘められてる傍からというのも。
 ギルガメシュは少年でしたか、まだどこか自分の意志というよりも流されているような所はあるけど、成長すれば立派な統治者になりそうだなって感じました。パンドラとセタンタの利害も一致したようで、ここの辺もどうなるか楽しみです。
 マルドゥークが少し、あっさりとひっかかり過ぎているように感じました。メイヴもかなりのピンチで、城での攻防はアパスターク劣勢になってしまったけど、アルルは凄いなって思いました。
 セタンタとメイヴの過去は、どこか淡い恋心からの、メイヴの兄とセタンタがどうなったかは分からないけど微妙な変化が出ていて面白かったです。状況が状況ですが、出会った時にメイヴとセタンタの間で、もう少し何か言葉のやり取りがあってもいいかなと。
 メイヴとパンドラのやり取りは、ちょっと笑える部分もあって面白かったです。そしてアパスタークの逆転という戦況と、ウー・ヨンがどうなってしまうのか心配です。アルルは、とっと見限っちゃうし。
 ウー・ヨンのどこかふっきれたような所は良かったです。そしてエイブラム! この散り方は、ある意味で最高なんじゃないかなと思いました。助けたのは二度目だったと思うのですが、もう少し伏線があれば、もっと感情移入できたのになと。でも面白かったです。
であ続きを楽しみにしています♪
2010/01/08(Fri)19:05:120点羽堕
拝読させていただきました。
なんというか、もう、言葉が出ないというか。とにかく、もう脱帽物です。
ここまで、ためていた分を一気に読み進めてしまって、戦略、戦術はなおのこと、キャラの駆け引きや、その個性が読むにつれてわかってくる。いつのまにか、感情移入して読んでました。
両軍の視点から幅広い視点で戦場というものが描かれていて、戦いの流れというものがとてもわかりやすかったです。
メイヴとパンドラのセタンタを巡っての微妙なやり取りもあって、今後の展開がとても気になります。なにより、最後のエイブラムの愛の告白には、なぜかにやりとさせられました。
最後の最後でエイブラムがカッコいいと思いましたね。
では、続きを待ってます。
2010/01/09(Sat)00:50:520点サル道
>羽堕さん
 毎度、コメントありがとうございます。本当に、もっと伏線を張れていれば良かったなと思うところが多々ありますね。きっとまともな小説家なら、遡って書き直しまくるところかと思います。会話が全然足りてない。場面も足りてない。反省してます。今回はテンポを崩したくないのでこのまま進めますが、今後はもっと書き込みを増やす方向で頑張りたいです。
 マルドゥークがちょっと頭足りないんじゃないかという感じになってしまいましたね。あっさりひっかかるなら、それが必然であるようにうまく書ければ良かった気がします。策を弄さずして力のみで突き抜ける戦士、みたいなものを書きたかったのですが、ちょっとウー・ヨンに気持ち入れすぎた感じです。

>サル道さん
 感想ありがとうございます。今回は戦略とか戦術とか、そういうものを前面に押し出したかったので、褒めてもらえて嬉しいです。具体的には地図を描いて、軍を配置して動かし、どうすればこの敵を攻略できるだろうと考えるところから始めています。多少、自分の都合の良いように戦略を練れるのは筆者の特権みたいなもんですがw 例えば今回は使いませんでしたが、水攻めをするなら近くに大きな河が必要だな、とか。
 エイブラムの扱いは正直なところドキドキでした。羽堕さん指摘の通り、伏線をしっかり張っていれば良かったと自分でも思いますから。特に大きな問題はないようで安心しています。
2010/01/09(Sat)05:26:120点プリウス
千尋です。
 セタンタをめぐる三角関係(?)にニヤリとした私です。「この男は私のもの」なんて堂々と言ってみたいですねぇ。まあパンドラは別の意味で言ったのでしょうが。
 今回のアパスタークとウィスプ・ラトゥのガチンコ対決、大変に面白かったです。双方様々な策を弄し、最後には力と力のぶつかり合い。ウー・ヨンは軍師として十二分にやったんでしょうけど、それでも力には叶わないところがあるっていうところが、うーん、やっぱり孔明を思い出させますね。……ごめんなさい、水滸伝を読んでいないので、呉用について何も言えないんです。だって、なんかグロいんですもの、あの話;
 ウー・ヨン、死ななくてよかった! エイブラム、かっこいー! そう言えば以前もウー・ヨンを身を挺して守っていましたものね。「唾付けときゃ治る」ってセリフを思い出します。あれもかっこよかったなあ。役回り、美味し過ぎます^^。そして、ウー・ヨンが、最後にエイブラムのことを色々思いだすところ、もう、たまりません! 「一人の男に愛された。今はそれだけでいい」……クーッ!!(オイ。
 続きも楽しみにしています!
2010/01/09(Sat)09:20:551千尋
>千尋さん
 加点ありがとうございます。水滸伝は僕もなんだかんだで北方謙三のしか読んでなかったりします。要するに、かなり内容を変更された普通じゃない水滸伝だけってことです。その中の呉用なんですが、大きな戦略には強いが小規模な戦術に弱いというキャラクタでした。策は完璧でも、実戦になるとあまりという感じですね。今回のウー・ヨンもそんなイメージです。
 最後の台詞は僕もちょっと気合入れて挿入したので、喜んでもらえて良かったです。二人の馴れ初めをもっと入れていれば良かったなとも思います。ただ、あんまり力入れすぎて、ウー・ヨンが主役なんじゃないかということになってしまうとアレですが(笑)
2010/01/09(Sat)17:11:140点プリウス
セタンタを助けると豪語していたパンドラは、ティアマトの配下にいるみたいですが、果たして本当に助ける気があるのか。
そして、なにより、スカアハにかけられている狂犬、コインイオタイルを、セタンタが使いこなせるようになったとき、本当に世界が滅んでしまうのか。
今回は色々と疑問符がつくことが多く出てきましたね。
世間一般からは騎士達はイシュタルを畏怖して、炎を奪って平穏を取り戻すために動いている。対して、イシュタルはその目的に更なる領土拡大による戦乱を呼び起こす原因になる。
はたして、どちらの言い分が正しいのか。まったく予想のつかない話の展開となってきましたね。
ティアマトの狡猾さといい、パンドラの腹の中といい。真実は一体何処に?w
セタンタ逃げて〜〜〜〜!なんて、思いったりもしましたが、まったく物語が進まない以上は何もいえませんねw
それよりも安心したのは、メイヴがちゃんと生きていたことですね。
腹を刺されてて、そして、あの最後の描写でしたから、てっきり死んだものか。心配になりましたw

では、次回の作品を期待してまってます。
2010/01/12(Tue)00:01:360点サル道
>サル道さん
 コメントありがとうございます。今回、こういう戦記物を書いて思い知ったのは、めちゃくちゃ疲れるということです(笑) こんな短い文章でも大勢の人物を登場させなくてはならないし、それぞれの思考を追うというのはかなりしんどい作業でした。本当は民衆の暮らしとか、経済とか、そういうのも描きたかったのですが、さすがに大変なので戦略のところだけクローズアップすることにしました。
 僕の頭の中にだけ、各々の真意があります。また続編を書くことがあれば、お付き合いいただければと思います。正直なところ、メイヴはどうしようかと迷いましたが、まだ使えると判断して残しました。それではまた。
2010/01/12(Tue)01:09:130点プリウス
千尋です。明けましておめでとうございます。昨年中は大変お世話になりました。今年も宜しくお願いいたします。
 私がメチャクチャ影響を受けている、高橋克彦先生の「竜の柩」でのイシュタルのイメージ(心優しすぎて、それが弱さになっている)がこびりついていたので、今回の描写には、ちょっとホッとするものがありました。
 セタンタの中にいるのって、犬だけじゃないっぽいですね。
 そしてそして、終わってしまったのですね……。未完だけど。もっと、セタンタを応援したかったよーT T なんか、とっても不完全燃焼です。悶えちゃいます。思いきり術中にハマっている気がしますけどw
 で、もう新作ですか? すごい執筆スピードだ……。でもでも、セタンタのことも忘れないでくださいね!(しつこい) 面白かったです!
2010/01/12(Tue)13:19:130点千尋
>千尋さん
 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。僕の中でのイシュタルは女神転生のセクシーなお姉さんなのでこうなりました(笑) 『ギルガメシュ叙事詩』のイシュタルはギルガメシュに言い寄るけれど振られて逆切れな恋する女の子(?)です。
 新作の方はこちらを書き始めるよりも先にプロットを作り上げていたのですが、寝かせまくっていたのです。そしてその結果、元々の設定から大幅に変更して、主人公も変えましたw 色々と頑張っているので、こちらもお付き合いいただければ幸いです。それではまた。
2010/01/12(Tue)17:20:110点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 イシュタルとティアマトの登場で、ヤスナの内情が見えてくるのかなと思っていたら、イシュタルは囚われの身になってしまうし、箱のレプリカまで出てきて、物語が加速している感じを受けました。
 このままだとセタンタは利用されてしまうだけなんじゃないかと心配で、続きが気になります。そしてメイヴの兄は、もしかしてと。
 ここまで面白かったです。
であ、いつか続きが読めるのを楽しみにしています♪
2010/01/13(Wed)18:04:231羽堕
>羽堕さん
 加点ありがとうございます。そうなんですよね。なんか「俺たちの戦いはこれからだ」的な終わりで、少し微妙かなと思っています(汗) とにかく、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。ではまた。
2010/01/14(Thu)04:09:100点プリウス
初めて感想を書かせていただきます。まず思ったことは、まいったなー、登場人物の名前がかぶる。私もシュメール文明やギルガメッシュ叙事詩から名前を拝借しています。以後の登場人物の名前を考え直さなければならないかなー。物語は大変興味深く読ませていただきました。特に戦闘シーンは参考になりました。私としては最初悪人のように描かれたイシュタルの存在が気になります。続きを楽しみにしてます。
2010/01/15(Fri)00:33:200点土塔 美和
>土塔 美和さん
 感想コメントありがとうございます。名前についてはお気になさらず、というか気にしないでください。被っても特に問題ないと思っています。ちなみに僕が名前を引用したのは、ギリシア神話、ケルト神話、ギルガメシュ叙事詩、旧約聖書、ゾロアスター教、水滸伝、など。何でもありなので、色んな人の何かと被りまくっていると思われます。続きを書くことはしばらく無いのですが、またよろしくお願いします。
2010/01/15(Fri)01:12:510点プリウス
こんばんは、ひとまず休憩中の木沢井です。
 怒涛の展開に半ば目を回しつつ読み進めていました。
 ウー・ヨン。彼女は最後の方で色々と魅せてくれましたね。色んなドラマを経ての捲土重来を期待したくなります。ラスボスかと思われたイシュタルも捕らえられたようですし、心境としては指輪物語の序盤から中盤あたりを観ているような感じがします。
 以上、攻防戦について頭を働かせないとならない木沢井でした。未完とあるようなので、気長にお待ちしております。
2010/01/15(Fri)19:24:341木沢井
>木沢井さん
 加点ありがとうございます。捲土重来とは難しい言葉をお使いなさる(笑) 続きを書く頃にはもう誰からも忘れられているかもしれませんが……。それでは今後ともよろしくお願いします。
2010/01/15(Fri)20:48:340点プリウス
 こんばんは、プリウス様。上野文です。
 御作を読みました。
 …歯に衣着せぬことをお許しください。
 とある同人ゲーム(アニメ化済)の聖杯戦争よろしく、あらゆる神話と物語から「名前を借りる」というのは無茶だった、と思います。
 名前を借りたら、良かれ悪しかれ背景も背負うことになるんです。背負ってなお、独自の物語として構築するのは、簡単なことじゃない。
 誤用先生w 失敬、呉用軍師が大活躍! というのは個人的にめちゃシビれましたが。
 これだけ書けるなら、オリジナルキャラで、国とか文化とかも参考にしつつ設定して、それで書かれたら、たぶん、すごいの、書けるんじゃないかなーって。そう、思います。
 慌しくはありましたが、戦闘など、面白かったです。
2010/01/16(Sat)23:47:330点上野文
>上野文
 感想ありがとうございます。仰るとおり、なんだかんだでキャラの背景も一緒くたで、完全なオリジナルにはなってません。というかその背景も丸ごと利用したという感じですね。完全オリジナルな名前というのが面倒だったという理由もありますが(笑) それではまた、よろしくお願いします。
2010/01/17(Sun)02:15:580点プリウス
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