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『列車』 作者:kanare / リアル・現代 ショート*2
全角3576.5文字
容量7153 bytes
原稿用紙約10.65枚
 列車は定刻どおり到着した。
 強い南風の吹くホームから、特急列車の三号車に乗り込む。
 後ろから数えて二番目の、二人掛けの席に座ると、恭しく列車は走り出した。
 いよいよ、この時が来た。幼い頃より憧れていた、紀伊半島の先、那智勝浦町へと向かうのだ。
 電車は、平坦な住宅街の間を抜けていく。景色は後ろへ、後ろへ駆け抜けていき、旅立ったあの駅は遥か彼方に消えてしまった。
 しかし、自分でも驚くべきことだが、発車してから五分もすると、あれほど心躍っていた気持ちもみるみる萎んでいくではないか。
 どんなに待ち望んだことでも、その時が来てしまえばなんということもないのかもしれない。僕は、軽い幻滅を覚えながら、窓枠に肘をつき、頭をもたげた。そうするうちに、うつらうつらとしてきた。朝が早かったせいだろう。とくにすべきこともなかったので、そのまま寝入ることにした。
 幾ばくかの時間が経ち、気がつくと、特急列車は駅へと到着していた。その駅では、数人の客が乗り込んできた。僕は眠たげな瞼を持ち上げて、後方の入り口のドアーを眺めていた。すると、一人の大男が僕の座っている座席の前で突っ立っている。僕は、不審げにその男の顔を見た。
「もし、お宅、この席は予約済みですよ」
 男はぶっきらぼうな口調で言った。
「……ああ、そうでしたか。これは失礼」
 寝ぼけていたのもあり、僕はそそくさと右手に自前の大きな革トランクを持って、前の方の座席に移動した。黒と白の横縞模様のシャツを着た男は、悠々と、僕のもといた席に座った。
 しかし、後になって気がついた。どうもおかしい。あそこは、僕の予約席のはずなのに。すると、車両の前方のドアーが開いて、浅葱色の四角い帽子を被った車掌がやってきた。車掌は、訝しげに僕に尋ねた。
「お客さん、特急券はお持ちで?」
「ええ、もちろん、ここに」
 僕は、慌ててコートのポケットから切符を取り出した。車掌は、僕の切符を手にとってまじまじと眺めた。
「……お客さん、あなたのお席は、向こうで、ございます」
「しかし、車掌さん、私の座るべき席には、今、あそこにああして座っている横縞の男が座っているのです」
「……そうでしたか。それはお気の毒様です。世間では、往々にこのようなことが起こるものですね。」
 白目を剥き出しにした車掌は、それだけ言うと何事もなかったように行ってしまった。結局、僕がこのままこの座席に座っていてもよいのかは、わからなかった。
 列車は、一駅、また一駅と南下していく。いつの間にやら急峻な山に差し掛かったり、そうかと思えば平野部の、田園と田園、家と家の間を走ったりする。
 僕が、ぼーとしている間に、また駅についた。今度はどこ着いたのだろうか。熊野だろうか。
 二列に並んでいる木造の駅舎を、同じく木造のアーチが繋いでいる。下り方面の駅舎の階段を降りて、誰かがホームにやって来る。若い婦人だ。年の功は、まだ二十になるか、ならないかと言ったところだろうか。彼女は、三号車に乗り込んだ。そして、向かいに並んでいる、僕の目の前の座席に腰掛けた。
 彼女は、実に爽やかな、三月の匂いを運んできた。僕は、彼女のことを横目で見ていた。彼女は軽装で、荷物は小さなハンドバッグだけだった。
「もしもし、あなたも、旅ですか?」
 婦人は、僕の顔を見て、言った。
「ええ、そうです。旅はいいものですね」
 彼女は、切れ長の、黒目がちな瞳を細めて、にこりと微笑んだ。なんて美しいんだろう。僕は、思わず彼女を見つめた。しかし、どうしたことだろう。僕は、どうにもこの人を見たことがある気がする。今、偶然に向かい合っただけなのに。どこかで、会ったことがあるのだろうか。
「……あの、つかぬことをお聞きします。あなたとは、どこかでお会いしましたでしょうか?」
 しかし、彼女は何も答えなかった。ただただ、うふふと微笑むだけだった。開け放していた車窓から、びゅうびゅうと風が入り込んできた。彼女の真っ白な帽子が、足元に、ひらりと落ちる。彼女は、スローモーションのようにゆっくりと、前かがみになって、帽子を拾おうとした。
 その時、屈んだ彼女の、ブラウスの隙間から、零れそうな乳房のやわらかな影が、はっきりと見えた。
 僕は、その光景に釘付けになってしまった。同時に、今まで感じたことのないような、性的な興奮を覚えた。
 そこで、僕はようやく思い出したのだ。君はカヨちゃんではないか。幼馴染のカヨちゃん。僕の恋人だったカヨちゃん。赤ん坊を孕んで、自殺未遂をしたカヨちゃん。
 途端に、名状しがたい罪悪感に襲われて、僕は頭を抱えた。烈しい偏頭痛のときのように、両目がパチパチとして落ち着かず、吐き気にも襲われた。列車は、古く煤けた煉瓦造りのトンネルを潜っていく。僕も暗がりに隠れてしまいたかった。
 トンネルを抜けた後、特急列車は、青々した蜜柑畑の間を通り抜けていった。その間、僕はずっと外を見ていた。彼女は、黙ったままだった。これでいい。これで十分なのだ。
 いつの間にか、次の駅に来ていた。
 彼女は、何も言わず、すっと立ち上がって出て行った。
 駅のアナウンスが、やけに甲高い音を立てる。
「大阪、大阪。」
 ああ、なんてことだ。僕は、とんだ思い違いをしていたのだ。
三号車の乗客は、皆足並みを揃えたようにホームへと散っていった。
 閑散とした車両の中に、僕だけが取り残されていた。先頭車両の方から、ドアーをくぐって車掌がやってきた。僕は、慌てて彼に話しかけた。
「車掌さん、大阪といいましたか?」
「ええ、そうですとも」
「……車掌さん、僕は、紀伊半島に行きたいのです」
「お客さん、お客さん、何を言っているのですか。ここは、紀伊半島ですよ」
 そうだったか。僕は、妙に納得した。そして、もう一度、座席に深く腰掛けた。
 よくよく考えてみれば、そう急ぐ旅でもないのだ。少しくらい暇を持て余したって、誰にも文句を言われない。皆、人生の暇を持て余しているのだから。
 ジリリリと、けたたましい発射音とともに、再び、列車が発車する。
 列車は、凄まじい速さで進行した。きっと、時速三百キロメートルは出ているだろう。急な勾配を下り、ヘアピンカーブを曲がる。そして途端に、視界が開けた。寂れた漁村の合間を縫うように、燦々と光る、見事な太平洋が見える。あちこちに浮かぶ小島。海に突き出すようにそびえる崖。
海だ。やっと海が見えた。僕はこのときを待っていたのだ。
「おうーい、おうーい」僕は叫んだ。興奮を抑えきれず、上下に開く車窓を思い切り開けて、身を乗り出した。
 電車は、最後の駅へと到着した。
 先頭車両から車掌がやってきた。今度は、浅葱色の制服ではなく、鶯色の制服を着ていた。
「終点でございます」
 車掌は、葬式の参列者のような顔をして、そう告げた。
 僕は、右手にカバンを、左手にコートを抱えて、急いで駅へと降りた。鄙びた白ペンキ塗りの駅。錆びた看板が、強い海風を浴びて、ぎいぎいと音を立てていた。
 僕は、古く苔むした石段を駆け下りた。すぐに、蒼々とした海が見えてきた。白い砂浜には、捨てられた漁船が寂しそうな顔で佇んでいる。僕は、どうしてここまで来てしまったのだろう。
 ふと見ると、向こうの浜辺で誰かが炭火焼をしている。僕は、あてもなくその煙の立つところへ近づいた。
「どうですか、お一つ」
 老婆が、貝を焼いている。
老婆は座ったままの姿勢で、こちらに貝を差し出した。うまそうな貝だ。このような鄙びた場所で施しを受けられるなんて、僕は運がいいのかもしれない。両手で貝を持って、そのままむしゃぶりついた。なんだか、随分と懐かしい味がする。
 ここにきて、僕はようやく気がついた。貝を焼いていた老婆は、僕の母親だった。
「あなた、僕のお母さん、お母さんではありませんか」
 小さく座り込んだ老婆には片腕がない。そうだ、お母さんは、数年前、交通事故で死んだのだ。
 すると、ここは、僕の故郷か。
 悪戯な南風が、びゅうびゅうと僕の髪を揺らした。
 実に簡単なことだった。何も悩むことなどなかったのだ。僕は愕然と腰を抜かして、よろよろと座り込んだ。
 浜辺に寄せては消えるそぞろな波が、空しい音を立てた。もうすぐ夜になる。黒い雲が来て、嵐になる。やがて朝が来る。ただ、それだけのことなのだ。
 僕が再び駅に立つと、ちょうど列車が到着していた。
「……この列車は、どちらに向かいますか?」
 僕は、改札の駅員に尋ねた。
「あなたをお待ちしておりました」
「そうでしたか」
 僕は、躊躇なく橙色の特急列車に乗り込んだ。列車は、轟音と共に、止め処もなく走り出して、やがて見えなくなった。列車は、二度とこの地を訪れなかった。

 
2009/02/26(Thu)13:14:10 公開 / kanare
■この作品の著作権はkanareさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
読んでいただき、本当にありがとうございます。
解釈は人によって違うと思います。
実をいうと、自分の見た夢をもとに再構築した話なのです。ですから、ところどころ了解不明な部分もありますが、そういう作品と思っていただければ幸いです。しかし、まだ当方も未熟・拙筆ですので、厳しく批評していただければ作者冥利に尽きるところであります。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
不思議な話だなと思いました。主人公は死んでしまっていて、そういった死の旅路をしてりうのだろうか?などと考えてしまったけど、でも違うようにも感じるし、不思議だけど分からないなって感じました。
では次回作も期待しています♪
2009/02/26(Thu)16:22:310点羽堕
[簡易感想]おもしろかったです。
2009/02/26(Thu)21:40:250点中村ケイタロウ
>>羽堕さん
読んで下さりありがとうございます。自分としてはあまり死のイメージはしてなかったのですが、気がついたら死のモチーフが増えてしまいました。やはり、少々難解すぎたかもしれません。またこういう世界観の話を書きたいなと思うのでよろしくお願いします。

>>中村さま
感想ありがとうございます。これを励みにがんばらせていただきます
2009/02/27(Fri)20:38:320点kanare
 こんにちは。よくわかりませんね……。そもそも彼が乗ったのはどの駅で、実際に列車が向かっていたのはどの方角で、最終的にたどりついたのは結局どこなのか? しかし、すべてあいまいにされているところが、良さでもあるのでしょう。わざわざ「列車」と書いているのも、雰囲気を高めているように思います。列車なんてことば、今はなかなか使われませんよね。
 紀伊半島、那智勝浦という地名も、読みかえしてみるとどこか神秘的。うーん、主人公の故郷ってどういうことなのだろう。どうして紀伊半島の端をめざしていたのだろう。とてもふしぎな作品でした。
2009/02/28(Sat)16:21:280点ゆうら 佑
>>ゆうらさん
読んでいただき、誠にありがとうございます。あえて、細かい答えを用意せずに作品を完成させました。ですので、一見煙に巻いているようですが、明確な答えを用意するよりも、多くの人の内面に直接訴えかけるような作品を書きたかったので、それが狙いでもあります。ちなみに、つげ義春氏の「ねじ式」やフランツ・カフカに影響されている部分もあるので、そういうものだと思っていただければ幸いです。
 紀伊半島が出てくるのは、自分にとって紀伊半島が非常に懐かしい場所であるとともに、個人的に神秘的な憧れを抱いている点も大きいかと思います。一見わかりにくいですが、自分自身の内面にある「ノスタルディックの追求」と、「主人公の過去への決別」がテーマになっております。(死のモチーフが多く出てくるのもこのためです)
 個人的に「不思議な」「神秘的な」作品といわれるのは非常に光栄なので、大変嬉しく思います。重ね重ね、拙筆ながら読んでいただき感謝しています。また、このようなシュールレアリスム的作品を投稿したいと思いますのでよろしくお願いします。
2009/02/28(Sat)21:37:570点kanare
作品を読ませていただきました。なんだか、つげ義春のマンガを読んでいるような気分になります。条理が不条理へとずれていく感覚は面白かったです、ただ一人称で書いているのに三人称の表現が入っていて文章の雰囲気を変え勿体ないとも感じました。では、次回作品を期待しています。
2009/03/02(Mon)00:04:040点甘木
>>甘木さん
ありがとうございます。たしかに不条理系のお話が大好きなので、影響を受けている部分も多々あります。
>>一人称で書いているのに三人称の表現
たしかにそうですね。もっと慎重に表現するべきでした。次回より気をつけます。ご指摘ありがとうございました。また、作品を制作していきますので読んでいただけたら幸いです
2009/03/02(Mon)10:26:350点kanare
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