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『Days』 作者:二摸詩要 / 未分類 未分類
全角3579文字
容量7158 bytes
原稿用紙約10.6枚
ある日の夕方、「俺」は突然、どこか遠くへ行きたくなった。行き先も決めずに家を飛び出し、足の赴くままに進む。旅の終着点は想像も出来ず、けれど、今分かっていることは、遠くを夢見るこの気持ちが、止まらないということ。
――別に、探す必要はないからな。
 汚い字でそう書きなぐったメモ用紙を、机の上に置いておく。
 脱いだばかりの制服を、ソファーの上に放り投げると、私服へと着替えた。その後で、自分の鞄の中を覗き込み、忘れ物や他に必要な物はないかを改めて確認する。
「よし――」
 俺は鞄を持ってリビングを出た。玄関前で、もう一度後ろに振り返り、部屋を見渡す。
 マンションの狭い一室。なじみの深いこの部屋を去るのは、少し寂しい気持ちがした。俺は名残惜しさを振り払うようにして首を振ると、ドアを開けて外に出た。
 ドアを施錠した後、鍵を上着のポケットへと入れた。
 そこで、気づく。考えてみれば、この部屋にはもう戻ってこないのだから、鍵を持っていく必要は無い。
 けれど――。
 一瞬の躊躇が俺に鍵を手放すことをやめさせた。
エレベーターに、乗り込む。エレベーターが動き出すと共に、俺は考える。
……これから、どこへ行こうか。
 当ては無い。けれど、どこかに行かずにはいられない。もはや、今の俺には、この衝動を抑えることはできないのだ。
……今までの日常は、すべて捨て去ってしまえばいい。
 エレベーターが開き、俺は歩き出す。
 顔を上げると、街の遠く彼方で夕日が輝いていた。空は、地に近づいていくほど、より濃い朱の色に染まっていた。それを見つめていると、胸に哀愁が広がっていく。同時に、その様子を楽しんでいる自分が、わずかに存在する。
 何とも言えない独特な情感に酔いしれながら、俺はこの情景を忘れまいと、夕日を眼に焼き付け、街を去った。

* * *

 既に十一時を回っている。静まり返った駅のホームは、闇にぼんやりと浮き上がり、周囲には、ベンチの上で鼾をかいて横になっている酔っ払いの他には、誰も見当たらなかった。
 一人、ホームに突っ立っている俺は、漫然と線路を見下ろす。ふと、頭上を蛾が舞い、当てもなくふらふらと辺りを徘徊した後、線路の先へと消えていった。
 静かな夜だった。味わったことのない、孤独を身に沁みさせる夜だった。
 胸が、苦しい。この奇妙な苦しさは、見知らぬ場所に身を置く心細さから来るのか、それとも無断で家を飛び出してきた罪悪感から来るのか。いずれにしろ、もう戻る気はない。だから、この苦しさは些細な問題にすぎない。
 電車が来た。甲高い音を響かせて、停車する。ドアが開き、俺は乗り込もうと足を出す。その時、ふと後ろに振り返り、ベンチの上の酔っ払いを見た。視線をその男に投げかけながら車内へ入ると、そのままドアの前に立った。
 ドアが閉まります、とアナウンスが流れる。それと同時に、酔っ払いが目を覚まし、首を持ち上げて辺りを見回した。そして、電車に気づくと、慌てて起き上がり、駆け出した。
 男が駆け込むよりも早く、ドアは閉まってしまった。走ってきた勢いで、男はドアに正面からぶつかりそうになり、咄嗟に両手を前へ出した。どん、とドアが大きな音を立てて、震えた。ドアの前に立っていた俺は、思わず身を引く。
 男は両の手の平をガラスに張り付けたまま、肉付きのいい顔を、悔しそうに歪めた。そして、男の大きな目は、眼前の俺へと向けられた。
 視線が合う。俺は、金縛りにあったように身動きが取れず、息を止めた。
 電車が発進した。男は口を開き、俺に何かを叫んだ。何を言っているのかわからなかった。動き出すと、男はドアから身を引いた。ガラスの向こうの景色は滑るように流れていき、ホームに立ち尽くす男の姿は、あっという間に遠ざかっていった。俺は見えなくなるまで、ずっと視線で追った。

* * *

 真っ暗な景色を見つめながら、長い事、物思いに耽っていた。いつの間にか、終点だった。俺は駅を出ると、見知らぬ街中を、足早に歩き始めた。
 適当に道を辿っていくと、狭い通りに入った。
通りは明るく、闇に慣れた目には眩しすぎる。通りの左右に、怪しげな店が立ち並んでいて、そこから強い光が放たれ、容赦なく目に刺さる。その無数の光の棘の下で、人が楽しそうに徘徊している。
 深夜にも関わらず、通りには様々な声が飛び交い、賑わっていた。
 俺は顔を俯けて、徘徊する人々の間を、通る。すれ違った何人かが、物珍しげに見てきたが、素知らぬふりをして歩き続けた。
 そうするうちに、明りの灯った店が徐々に少なくなり、闇がぽつぽつと現れ始める。頼りない街灯の光に照らされ、薄暗い足元を見ながら歩いた。
 すると、道の先に一つ、黄色い光が浮かんでいて、近寄ると、それは漫画喫茶の看板だった。看板の枠を球が囲って、その中を光が進んでいく。
 灰色の建物の下で、黄色い蛇が四角い縁を絶えず這っているのを、目で追いながら、二階へ続く狭い階段へと近づいた。
 前で立ち止まって、首を上げ、急斜面の階段の奥を見やる。しばらく躊躇していたが、ふと耳元で、虫の羽音を聞き、黒い粒が頬をかすり、目の前を煩わしく浮遊した。自分の眉が引きつるのが解り、反射的に足を段の上へ強く乗せた。
 金属でできた薄い段の鈍い振動が、右足から伝って、弱い俺の心を揺さぶろうとするが、止まらずにもう片方の足を乗せた。
 宿が決まり、俺の覚悟も決まった。

* * *

「だから、違うと言っているだろうが」
 足元の赤いカーペットの、長く伸びた先から、太い声が伝わってきた。後ろで自動ドアの閉まる音を耳にしながら、赤い太線の通る狭い廊下の奥を見た。
 小さな戸口の先の、正面のカウンターに若い女性店員と、中年男性が向かい合っている。白が混じる黒髪を短く刈り上げた、男の後頭部の横から、目を見開いた店員の顔が見える。
「長谷川って誰だ。他の店員にも言われた。人違いも大概にしておけ」
 その男は、店員に人差し指を向けて言うと、こちらに振り返った。吊り上がった太い眉の先が、使い古した筆のように散開していた。顔は卵のようで、その表面には鬼の顔が描かれていた。
 その顔から視線をずらすと、女性が、不機嫌そうに眉をよせつつ頭を下げるのが、男の肩越しに見えた。
 戸口の前で、男とすれ違った際、その、よれよれの汚れたジーパンが、俺の腰の横で揺れる鞄を擦った。体臭が鼻をかすめ、俺は思わず口を歪ませて、「おえっ」と声を漏らした。
 すると、男が足を止め、振り向くのが視界の隅に見えた。俺ははっとし、逃げるように早足で戸口をくぐり、カウンターに近寄った。店員の驚いた目が、俺をーーいや、俺の顔よりわずかにずれた、背後を見ているのがわかった。
 耳が熱くなり、カウンターの前で立ち止まると、恐る恐る振り返る。それと同時に、右肩を、無骨な硬い手の平でつかまれた。俺は飛び上がった。
 肩へと伸びてきた太い腕を間近で見ると、その手首から徐々に視線を上げ、男の顔を見た。怒ってはおらず、驚いた表情が浮かんでいた。大きな下唇を滑稽に下げて、目は見開かれて白い部分が飛び出ている。
 俺ははっとして、その顔に見入った。
「卓郎、どうしてここに」
 と、男は声を張り上げた。別のことに驚いていた俺は、その言葉を聞いた途端、眉をひそませ、「卓郎?」とつぶやく。
「九州の大学は、どうしたんだ。まさかお前、中退したんじゃないだろうな!」
 突然、両肩を激しく揺らされ、さらに怒声を浴びせられ、驚いて心臓が止まりそうになり、呆然と見返した。
 しかし、俺を食い入るように見つめる男が、突然、「ん」と眉を曲げて、顔をよせた。
「卓郎……?」
 と、不信そうにつぶやき、まじまじと見つめられる。ガスのような異様な吐息を鼻に受け、俺の頬の筋肉は、激しく引きつっていた。その猛毒に耐えつつ、頭の片隅で、このおやじは一体どこの星からきたのだろうと、考える。
「卓郎じゃない……」
 男は身を引いて目を伏せ、複雑そうな顔でつぶやいた。だが、すぐに俺を見て、
「すまないな、人違いだ。……あんまり似ていたから」
 と、苦笑いし、そして、ふと視線を俺の顔から右へずらした。すると、途端に無表情になって、そっぽを向き、ばつの悪そうな顔で、俺に背を向けた。
 後ろへ振り返って見ると、店員は目尻を吊り上げ、俺の顔越しに、男を睨んでいた。その恐ろしげなる視線の矢が、頬を掠めて、自分に向けられている訳でもないのに身震いした。男のさっきの顔より、よっぽど鬼の顔と言える。
「自分だってしてるのに」
 女性は、唇を小さく開いて零し、険しい表情を浮べる。しかし、俺の存在を思い出したのか、はっとして振り向いて笑顔を作り、いらっしゃいませ、と穏やかに言ってきた。その声には、まだ黒い感情が混じっていて、先ほど男が怒っていた理由を、聞くに聞けなかった。
 店員とやりとりする中で、卓郎って誰だよ、と俺は心中で毒づき、訳のわからない出来事にひどく混乱していた。
2008/07/21(Mon)00:01:28 公開 / 二摸詩要
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