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『O君とH君と会話』 作者:カオス / リアル・現代 未分類
全角2916.5文字
容量5833 bytes
原稿用紙約9.75枚
「ねぇ。『もしも』の話をしようじゃないか」O君はH君にそう言われる。冴えない学生の梅雨のあるできごと。
 「ねぇ。『もしも』の話をしようじゃないか」

O君は、優等生。
H君は、劣等生。
O君はH君よりも、一般常識に富んでいる。
H君はO君よりも、アングラを知っている。

 ふたりは、似ていないようで全く似ていない。


季節は梅雨。
場所は教室。
放課後の誰も居ない教室。
そこに、居るのは冴えない二人の学生。
言い出しっぺは、H君。巻き込まれたのは、眼鏡のO君。
「は?」
と訝し気に聞き返すO君。
「うん。だから、『もしも』の話をしようじゃないか」
にぃやりと、H君は胡散臭い笑顔を見せる。とてもじゃないが、これで信用しろという方が無理なくらい、胡散臭い。
窓の外では雨が降っている。ザァーザァーと、雨が地面に叩き付けられる音が教室まで響いてくる。
堪ったもんじゃない、とO君は思う。
ここ一週間太陽をまともに拝めない上に、雨で湿度が高くべたべたと肌がべと付きイライラしている。そんな所に、H君の意味不明な発言。
O君にしてみれば、まさに『堪ったもんじゃない』なのである。
「そうだな。例えば、『もしも』今雨が止んだら」
窓ガラスを競うように落ちて行く水滴を追いながら、H君は言う。
「雨が『もしも』止んだらO君、君はどうする?」
机の上で、頬杖を付きながら窓ガラスを眺めるH君をO君は眺める。もう、心境は苛々を通り越して諦めに近い。
「はッ。堪った洗濯物を一気に干すね」
「何だつまらないなぁ………」
「詰まるより、詰まらない方が絶対いいね」
馬鹿にしたような口調で、O君は言う。
「………なんかO君。皮肉が巧くなったね……………」
相変わらず、水滴を追いながらH君は関心したような、どうでも良いような、とも取れる答えを返す。
「誰のせいだ。誰の」
「うわぁ。それは私に対する当てつけかなぁ?」
「そう聞こえるように僕は、言ったんだが」
「うん。私は、とってもショックだよ」
心にも無い事をさらりと言える、H君はもしかしたら大者になるかもしれない。
「所で、O君。『もしも』死んだ人が生き返ったら君はどうする?」
「は? お前は馬鹿か。死んだ人は生き返らないからこそ、死んだ人なんだ」
「だから、最初に『もしも』の話をしようと言ったじゃないか」
外では、先程ど同じように雨が降っている。
何も変わったようには、見えないがそれは確実に変化している。
「どうもしないな、別に。僕の親族関係で亡くなった人はいなからな」
「でも、それは君が生まれてからだろう?」
すっと、窓ガラスから視線を移しH君はO君を見る。
実験体のモルモットを見るような、冷静で冷たい眼だ。O君はまるで、その眼に気が付いていない。
「私はね。きっとこの世界はパニックに陥ると思うよ。飽くまで、これは私の個人的予想に過ぎないのだけれども………」
H君は昔話でも話すように、ゆったりと話す。
それは、神の予言のようでもあり、ただの戯れ言のようでもある。
「という訳だと思うのだよ」
H君はO君を見る。なんだか、はっきりしないいい加減な灰色の眼で、O君を見る。
「O君。『もしも』願いが叶うのなら、君はどうする?」
「お前だったらどうするんだ?」
「私かい? ………私は、そうだね世界平和でも願おうか」
渇いた笑い声が、教室に響く。
「ふん。だったら、僕は不老不死でも願ってやるよ」
「不老不死か………。面白いことを、君は言うね」
「お前の方がよっぽど面白い。次の日から、世界平和になって戦争や紛争がなくなっていたら、僕はお前に一ヶ月昼食を奢ってやる」
「『もしも』明日が来なかったら………。君はどうする?」
ザァーザァーと、雨が降っている。
変わらぬように見えるのに、それは刻々と変化している。
「……………」
O君が、H君を凝視する。
H君はそれを無視するように、また窓ガラスの水滴を追う。ガラスの向こうには、灰色の空が広がっている。
「それは、とても幸福なことかもしれないね。同じ毎日を繰り返す。誰も死にもしないし、誰も気が付きもしない。ただ、同じ毎日が繰り返される。きっと、その中は幸福で満たされているのだろうね」
淡々とH君は続ける。
きっと、同じ毎日を繰り返すというのは、永遠不滅のものを手に入れるのと同じようなものなのだろう。
同じことを、一生繰り返す。
何も変わらないという退屈の引き換えに、何も変わることなどないという安心を手に入れることが出来る。
「変わるということは、良いことだと思うかい?」
まだ、雨は降っている。
「確かに『変化』という『進化』によって生物は、生きて来た。しかし、その『変化』が必ずしも良いことだとは言えない。人類の発展により、多くの生物が絶滅したし、今も絶滅の危機にある生物も存在する。しかも、その人類までもが地球の『変化』によって将来絶滅する恐れまである」
「…………………」
「果たして、『変化』とは良いことなのだろうか? 『変化』しない、つまり変わらない不動のものこそが良いのではないだろうか? 先程、君が願いがもしも叶うなら『不老不死』になる、と言っただろう。『不老不死』も煎じ詰めれば、『変化』しないということだろう? 老いもせず、死にもせず、ただ同じものでありたいということだろう?」
すぅーと雨が落ちて行く。
「『もしも』明日が来なかったら」
にぃやりと、H君の口が弧を描く。
「それは、『変化』しない毎日が手に入ることだ。素晴しいことだとは思わないかね?」
「…………………」
O君は、H君を凝視したままぴくりとも動かない。
魔に魅入られた者は、このようにして堕ちて行くのだろうか。
ただ、時間だけが律儀に過ぎて行く。
O君の眼鏡にも、窓ガラスの外の空が映っている。色などないモノクロームの世界が、そこには広がっている。
「なぁーんちゃって」
H君が、声を上げて笑う。
じめじめとした、教室にその声が響く。はっ、としてO君はH君を見る。
「そんなもの、退屈に決まっている」
ガタ、と音を立ててH君は椅子から立ち上がる。
「知ってるかいO君。退屈は人を殺すのだよ」
そう、言うとH君は机の横に掛けてあった鞄を手にとる。
「特に君のような、セッカチな人間は真っ先に退屈にやられてしまうだろうね」
「………」
ベシッと、梅雨らしくない渇いた音が響く。O君がH君をパーで叩いたのだ。
「痛いじゃないかO君」
「うっさい。黙れ」
頭を手で押さえながら、H君はO君に非難の声を上げる。だが、O君はそれを素早く切って捨てる。
「というか、傘持って来たのか?」
「何を言っているんだいO君。雨ならもう、降っていないじゃないか」
モノクロームの世界は、そこにはもうなかった。
灰色の空の雲の隙間からは、さんさんとした明るい日差しが降り注ぐ。
「さぁ、帰ろうじゃないか。だが、その前にコンビニよってマンガを買わなければ」
H君が廊下に出て行く。
それに、続くように慌ててO君が走り出す。
「おい! 待てよ!」
「何だい。騒がしいな」
廊下でH君が立ち止まる。
窓ガラスの外では、もう太陽が偉そうに輝いている。
O君がH君の隣に並ぶ。
「もう、夏は目の前だね」
遠くに思いを馳せるように、H君が呟く。
「ああ。もう、夏が来るな」
外に出ると、そこはもう夏の香りがする。
2008/06/23(Mon)18:00:57 公開 / カオス
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