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『ARK ~アーク~』 作者:地中ギャオス / SF アクション
全角19980文字
容量39960 bytes
原稿用紙約62.85枚
 一章  来日、そして初仕事。
 
 しかし東京というのは変わった所だ。さすがは世界最大の経済国、コンクリートジャングルとはよく言ったもんだ。俺の名前はフェイル=キリシマ。かつてロシアの猪武者と呼ばれた殺し屋だ。
 説明させてもらうと、時は西暦3519年、5月19日。今俺が居るのは東京の成田空港ってとこだ。ロシア出身のこの俺がなんでそんな所にいるのかって?話せば長くなるからかいつまんで説明しよう。数十年ほど前に米国が行った核実験による放射能が宇宙空間に流れ出し、変な電磁波と核融合だか何だかを起こし、生命体となって漂い、地球の大気に触れて「GLD(グルド)」とか言う妙な生き物になっちまって、この日本に降下して来たらしい。地表に降りてからは、しばらく大人しくしてたそうだが、最近になってまた現れ、更に凶暴になってたらしい。もう警察の特殊部隊や自衛隊じゃとても手がつけられないから俺が派遣されたってわけだ。俺を派遣したのは、日本政府の極秘武装特務機関、「セクター49」で、俺はそこに所属するエージェント、対グルド専門の殺し屋ってわけだ。説明以上。
 肩に担いでいた荷物が重くなってきたな。俺は荷物を慎重に肩から下ろし、ゆっくりとベンチに置いた。しかしよく入国審査に引っかからなかったな。なんせカバンの中には特殊なステルス塗料が塗り込まれたでかい日本刀が入ってるんだからな。下手すりゃ捕まっちまう。
「遅いな…。」
 俺の他にあと3人エージェントが来るはずなんだが…。
「飛行機が遅れてんのか…?」
 呟いて周りを見回したとき、不意に後ろから声をかけられた。
「ねえちょっと!」
 素晴らしくびっくりしたな。振り返ると頭1つ分くらい俺より背の低い日本人らしき女がこっちを見ていた。割と整った気の強そうな顔立ち、貫通しそうな鋭い目つき、クセのある異様に長い黒髪を先の方でリボンで束ねている。
「何か用か?」
 そう言うと、
「あんた、エージェント・キリシマ?」
「へ?」
「そうなの?違うの?」
 きっつい口調で畳み掛けてくる。変わった女だ。
「ああ...そうだけど?」
「あっそ。意外に若いのね。」
 は!?何言ってんのこの人!?
「私はセクター49のセカンドエージェント、白蓮霊奏(びゃくれん れいか)よ。よろしく。」
 おう、よろしく…といきたいが、霊奏と名乗るこいつの初対面の人間に対する接し方はいかがなものか。俺がなんと言おうか迷っていると、また不意に後ろから、今度は袖を引っ張られた。見ると、今度は霊奏より更に背の低いショートカットの少女…と、イギリス人らしい顔つきの背の高い男がいた。少女の方はどう見ても子供のような体つきで、顔にも幼さが残っていた。しかし無表情で、視線は氷のように冷たい。なんだか威圧感を感じる。
「失礼ですが、エージェントの方ですよね?」
 と、丁寧な口調で男が言う。
「ああ、そうだ。」
「そうですか。よかった。空港で会えなかったらどうしようかと思っていたんですよ。あ、申し遅れました。僕はキュベリエ=ブランダールと言います。よろしく。」
「李 法龍…」
 ん?今何て?俺と霊奏は少女の方を見る。
 ......しばらくの沈黙の後、少女がもう一度口を開いた。
「リー=フェイロン…」
 全く耳に残らない平坦な声だ。どうやらそれが名前らしいが、顔からして中国人でないのは明らかだった。多分コードネームを決める時に中国語が気に入ったんだろう。
「じゃ、みんな揃った事だし、時間も時間だし、4人で昼ご飯食べに行きましょ。今ここでコイン投げて最後に裏が出た人がおごりってことで。」
と霊奏が言い出した。
「無茶苦茶な話だな。まあ良いけどよ。」
「良いでしょう。」
…ピーン。

 ……どう見ても俺が負けているように見えるのは気のせいか...?いやどうやら気のせいではないらしい。くそ、おのれ霊奏、なんでお前が一番嬉しそうな顔してやがる。今回は負けたがこの次は俺がそんな顔してやるぞ。
 食堂でメシを喰っているとキュベリエが話し出した。
「みなさんはどちらから来られたんでしたっけ?」
「俺はロシア郊外からだ」
「私は京都から」
「……ヴェネツィア」
「ちなみに僕はロンドンです。みなさんご存知のように、今我々は近年東京に頻繁に出現するようになった遺伝子媒介型特殊知的生命体、通称〈GLD(グルド)〉駆除の為にここにこうしているのです。召集の際に全員が小型の情報端末を手に入れているはずです。何かあればそこに本部から司令が来ますから、常にそれを持ち歩くように心がけて下さい。」
 俺は上着のポケットから小さな携帯のような物を取り出した。簡素な画面といくつかのスイッチだけのシンプルなデザインだ。
「手短にグルドの説明をさせて頂くとですね……何でしたっけ、リーさん?」
話す事を忘れたのか、それとも知らないのか、キュベリエは横で緑茶を黙々とすすっているリーに話しかけた。沈黙の後、リーは湯のみを置き、
「…23年前に米軍が行った大型原子力爆弾の起動実験により、おびただしい量の強烈な放射線が宇宙空間に放出された。同時刻、その通信の為に使用された大型電子機器によって同じように原因不明の電磁波が放出され、宇宙空間で何らかの原因で核融合を起こし、生命体となった。しかし、宇宙空間は彼らが生きるのには不向きな空間。水もない。空気もない。だからここに来た。彼らは地球の大気圏突入と同時に、強烈な熱と大気にあてられ、ウイルスと類似した形態となって、運悪くこの日本にピンポイントで降下した。彼らはロボットとは違い、思い、考え、そして動く。非常に知能が高い。まずそれが1つの脅威。更に、遺伝子媒介型特殊知的生命体の名の通り、自らの遺伝子をコピーし、いくらでも仲間を増やす。これまでに人間に擬態していた例も報告されている。性質は一般的に凶暴で好戦的。身体能力も高く自在に姿形を変える。今まで警察の特殊部隊や自衛隊が対処出来なかったのは恐らくそういったグルドの特性によるものだと考えられる。特徴としてはっきりと分かっているのは彼らの血液は大気に触れると緑色の無毒のガスを出す事。これでグルドを見分ける事ができる。」
「…よく分かんないけど噛み砕いて言うとつまりは宇宙人襲来!ってことでしょ?」
「解釈はそれでもいい。ただ私は個人的には以上のように解釈しているわ。」
「…なるほど。それで?俺達の仕事はいつになったら来るんだ?」
「この東京のどこかにグルドが出現すれば必ず全員の端末に連絡が行き渡ります。それまで気長に待ちましょう。」
「じゃ、お腹も一杯になったところだし、そろそろ出よ。あ、もちろんフェイル、あんたのおごりね。」
 畜生、持ち合わせ少ねえって言ってんだろうが。
 俺達は店を出て一旦自分の家に向かう事になった。キュベリエは街中の高層マンション、霊奏とリーは住宅街にある分譲マンションを住まいにしたらしい。俺はというと…
 ボロっちい安アパートだった。ボロいどころかこれじゃ人が住めるのかどうかも微妙だぞ。床ギシギシ言うし。とりあえず部屋に入ろうとすると早速ドアが外れた。大家さんが来てすぐはめてくれたが...ホント大丈夫か?
「悪いわねえ、ここ最近借りてくれる人もいなくて、困ってたのよ。ホント、有り難い限りだわぁ」
 とか言ってる大家さんを尻目に俺は部屋の整理を始めた。カバンを開けると大きな棒状の物が転がり落ちた。俺の愛刀、「滅刀〈炎牙〉」だ。どこに行こうと、手入れは絶対に欠かさないので刃は美しい銀色に光っている。せっかくだからちょっと素振りでもしてみようかと刀を抜こうとすると、
 ピロリロリ、ピロリロリ、
と、焦ったような音を出して携帯が鳴った。
 画面を見ると、
『13時17分、東京都内日比谷公園にて11頭のグルドを確認。今のところ死傷者はおらず』
……初仕事の前に引っ越しの片付けぐらいさせろっつーの。
 
 日比谷公園は既に警察によって封鎖線が敷かれていた。しかしあれだな、日本の警察ってのは警備がホント甘いな。おいそこの兄ちゃん、ぼっとしてんな。まあそんなこと口には出さねぇけどよ。
「んじゃ、仕事にかかりますか。」
 俺が先頭を切って封鎖線の中に入る。
「ここからは二手に分かれて行くわよ。男同士、女同士のペアに分かれてフェイルとキュベリエは東側から、私とリーは西側からグルドを公園の中央広場に追い込んで一気に殲滅するわよ。何かあったらとりあえず連絡。ヘマしないでよ。いいわね?」
「了解!!」
 俺とキュベリエは公園の茂みの陰に隠れていた。木の向こうに骸骨を纏い着かせたような黒と白のツートンカラーの奇妙な化物が4匹ほど歩いていた。あれがグルドか。初めて見たぜ。…気持ち悪いな。外見が。
「まずはデフォルトでプランAからいきましょう。遊撃をお願いします。」
「了解だ。」
 キュベリエが懐からバカでかいピストルを2丁取り出して来た。次の瞬間、キュベリエは目にもとまらぬ速さで茂みから飛び出し、グルドの足下を目掛けて撃ち始めた。4匹のグルドがこちらに気付く。
「今です!奴らが僕に気を取られている間に!公園の中央広場に追い込みますよ!」
 俺は茂みから飛び出し、日本刀を腰から抜いた。やっぱり久しぶりの実戦はいい。身体の動きが軽やかだ。グルドが俺に気付く頃には俺はもうすれすれにまで接近し、真っ直ぐに真上からグルド目掛けて刀を振り下ろす。ザックリと斬れる手応えの後、どす黒い血が噴き出して来た。たちまち緑色のガスが辺りに立ち籠める。ああ、この手応えだ。やめらんねえな、やっぱ。
 突然後ろに気配を感じ、俺は後ろを振り返りつつ日本刀を横なぎに払う。切断されたグルドの上半身が下半身からずり落ちた。グルドはしばらくもがいていたがやがて鉄板をこすり合わせたような断末魔と共に絶命する。それを見た残りの2匹は踵を返して中央広場の方へと逃げて行った。予想通り。
「ではこのまま追いつめて4人で一掃しますよ。まだ周辺に隠れているかもしれないので注意して下さい。」
「分かってるよ、そのぐらい。俺だってもうガキじゃねーよ。」
「失礼。じゃあ合流しましょう。」
 霊奏達は大丈夫だろうか。今頃7頭ものグルドを相手にしてんのに。
 中央広場に着くなり、俺は目を疑った。リーがすごいスピードで動いている。グルド達はその動きに惑わされ、なかなか動けない。
「霊奏!!」
「遅かったじゃない!」
「うっせえよ!結構うまくいってたんだぞ!?」
「ふーん、そう。まあいいわ。さっさと片付けましょ。」
 そういう霊奏はさっきとは違う奇妙な格好をしていた。長い袖に赤い袴の日本衣装だ。
「おいお前、ところでその格好は…?」
「巫女よ巫女。知らないの?あたしは昔からこの格好よ?これがあたしのバトルスーツなの。何あんたこういうの好きなの?下らない事言ってないで行くわよ!」
 そうなのか。まあその件については後でゆっくり聞くとしよう。
「夢双結界!鬼門!!」
 霊奏が服の中から妙な模様が入ったお札のような物を取り出して指先ではじいた。次の瞬間、どこからともなく無数のお札が飛び出し、周囲の木や茂みに張り付き、見えない壁を瞬時に作り出した。
「これは……。」
「夢双狂舞。私が10年間かけて体得した技。今公園内に結界を張ったから奴らは逃げられないわ。本来人間には修得不能なのよ?」
 そうなのか。まあ後で聞くとしよう。
「戦術をプランCに変更して。回り込んで錯乱させる。」
 リーがそう言って腰からいくつかスイッチのついた小さなジャックナイフの様な物を抜いた。リーがスイッチを押すと、刃が飛び出し、耳を切り裂くような強烈な音波を放ち、刃が高速で振動し始めた。虫の羽ばたきの音にも似ている。他の者はその激しい振動音に耳が耐えきれずに耳を押さえて闘っているが、ナイフを持っている本人は平然としている。しかし化物と闘うにしては刃渡りが短すぎんじゃねーか?リーがそれを無言で両手に構えると、また走り出した。相変わらずすごいスピードだ。
 次の瞬間、リーの動きがS字に激しくカーブし、グルドの間を素早くすり抜けた。と思ったら、そのS字の近くに居たグルドの首が全てスッパリと切り落とされていた。俺は飛びかかって来た一匹を斬り倒しながらリーに聞いた。
「おい!その武器は一体何なんだ?」
「ソニッカーソード。刃を高速で超振動させることで刃渡りは短いながらも驚異的な切れ味を持つ。ローマ軍特攻隊の最新兵器。」
「ほぉ……」
「みんな!下がって!とどめよ!!」
 霊奏がお札を取り出し、グルドに向かってはじいた。その時、無数のお札が宙を舞い、残ったグルドを取り囲む。
「さ、グダグダ抜かさずに死んじゃいなさい。夢双殺法!鳳凰!!」
霊奏が残ったお札をグルドに向けて飛ばす。俺がそれに反応する頃にはグルドとその足下の地面が、ぼっ、という音を立てて一気に吹っ飛んだ。
「おや、1頭逃げたようですね。」
 振り向くと、キュベリエはいつの間にかピストルを大型の狙撃用ライフルに持ち替えていた。遠くには走って行くグルドの姿が見える。キュベリエがライフルを構え、有無を言わさずトリガーを引いた。その銃口から撃ち出された弾はやけにゆっくりと…俺の目にはそうみえた…宙を飛び、走っているグルドの頭を正確に、驚くほど正確にぶち抜いた。
「すげえ……」
「初仕事、終了です。」
「なんとかうまくいったようね。」
 
 その後、日比谷公園の一件は無事に処理され、俺達の初仕事は幕を閉じた。だが、これはまだまだ序の口に過ぎなかったようだな。陰でひっそりと奴らが動き始めたのはその数週間後の事だった。





 二章 2つの銃口、その標的。

「ういーす」
「あ、どうも」
 …都内のとあるビルの地下2階、西向きの廊下の3つ目のタイルを押し、パスワードを解除してさらに地下に降りた所にその部屋はあった。
「ここか…。」
「ええ、ここです。ここが我々、セクター49の事実上の本部、様々な情報を管理するオペレートルームです。我々の為に機関の上の方達が秘密裏に用意してくれていたらしいですね。あ、どうぞ。」
 先に来ていたキュベリエが俺にコーヒーの入ったマグカップを渡す。
「…あ、サンキュ。」
 率直な感想を言わせてもらう。なかなかにいい部屋じゃねーか。ちゃんと人数分のパソコンが完備されていて、部屋の中央のメインモニターとつながっている。片隅の倉庫には様々な武器防具が満載、そして見渡せば…食い物も♪
「食料は何かあったらいつでも支給してくれるそうですよ。ご安心下さい。」
「…ま、マジ!?」
「何目輝かせてんのよ!」
 突然、背後から強い衝撃を受けた。これは何だ。突き飛ばしか、それとも蹴りか。それを確認する前に、俺は前のめりに倒れ、妙にアツアツのコーヒーを顔面に受けてその反動で「アッツイ!!!」とか当たり前の事を言いながら後ろに仰け反った。仰向けに倒れた俺の真上には、真っ赤な布と、今しがた俺に攻撃した霊奏の足と……いや、何も見てない。俺は素早く身体を横に回転させ、立ち上がろうとして上半身を起こした。その時、俺の目の前に鈍く光る長大な薙刀の刃が突きつけられていた。
「……見た…?」
 見ていない。俺は何も見ていないぞ。断じて。
「……見てないわよね…?」
 薙刀の刃が近づいてくる。
「……見てない……わよね……?」
「見てねぇって言ってんだろ!」
「ホントに?ならいいんだけど」
 そう言って自分のマグカップをキュベリエから受け取り、パソコンの前に座る霊奏を見つつ、俺はこう思っていた。………コワかった………。

 話は変わるがセクター49の存在意義は周囲に潜むグルド抹殺にある。ではそれ以外の事はしてはダメなのか。
「ダメですね。」
「そんなはっきり言い切らなくても……」
「我々はグルド消滅の為にここに居るのです。下手に命令違反を犯せば、最悪エージェントとしての資格を完全に失う事になりますね。」
「……それって……クビって事……?」
「ってことです。」
 俺は生まれつき、正義感が強いらしい。そのせいか、俺は今キュベリエに言われた事が理解し難かった。
「さすがは猪突猛進の武者ね。頭もカタいわ。」
「んだと、もう一回言ってみろ。」
「さぁ?何の事かしら?」
「テメェ……。」
 なんだかんだ言って、いつもと同じ光景だ。平和だな。だが、その平和も長く続く事はなかったらしい。電子音が鳴り響いた。
「リーさんからの通信です。MM4に繋ぎます。」
 右側のメインモニターに、リーのいつもの能面のような顔が映し出された。
「どうかしたの、リー?何かあった?」
『……私は今都内の小さな球場にいる。恐ろしい事態よ。球場内で数十頭にも及ぶグルドの群れが確認された。私の知る限り、死者はいないものの5名が重体、8名が軽い怪我をしている。この区画の管理者はもう手に負えないと判断し、セクター49にグルドの駆除を依頼したわ。直ちに全員出撃せよとの事。李法龍、報告終わり。』
「早速だな。行くか。」
「んーっ、最近運動不足だったしねぇ。」
「しかしグルド数十頭というのは……今までより圧倒的に数が多いですね。」
「大丈夫よ。私が全部ブッ殺してあげるから。」
「いざという時は、お願いしますよ?」
 もちろん!と威勢良く返事した霊奏は、いつの間にか巫女服に着替えていた。俺は日本刀を、霊奏は薙刀を手に部屋の外へ出ようとすると、
「フェイル君、ちょっと待って下さい。忘れ物です。」
 と、キュベリエが呼び止めた。
「あ?何だ?」
「僕が密かに開発していた新装備です。これを靴の裏につけて下さい。」
 と、靴のような形をした黒光りする機械を俺に渡した。
「何だよこれ。どうやって使うんだ?」
 俺は靴の裏にそれを装着しながら聞いた。
「側面にあるスイッチを蹴って頂ければ真価を発揮しますよ。いざという時には是非とも使って下さい。霊奏さんもいかがです?」
 キュベリエは霊奏にもその奇妙な装備を勧めたが、
「私はいいわ。夢双狂舞で事足りるもの。」
「分かりました。お時間を取らせて、申し訳ないです。では、行きましょうか。」
 キュベリエがライフルを取った。

 球場の入り口で、リーは待っていた。現場は救急車などでごった返していたが、球場内は妙に静かだった。
「リー、今のとこ、何匹確認したの?」
「…恐らくは20頭以上。殲滅には時間がかかる。」
「じゃあ、全部球場の中心におびき寄せて一気にせん滅する手を取ればいいんじゃねーのか?」
「いいですね。その方法で行きましょう。しかし、グルドは非常に知能が高いです。全部寄せ集めることは……なかなか難しいでしょうね。」
「……では追い込めばいいのでは?」
「そうね。じゃあまた2人2人で散らばりましょ。今日は私とフェイル、あんたよ。」
 なんでこいつと組まにゃならんのか。まあ別にいいけど。

「そっち、いたわよ。挟み撃ちするから、向こう側にまわって。」
「分かった。うまくいくんだろうな?」
「うるさい。黙ってやんなさい。」
 畜生、どこまでも失礼な野郎だ。
『用意は?』
『完了だ。』
 携帯で連絡を交わした後、俺は腰から太刀を抜いた。向こう側で霊奏も薙刀を構えている。
「いくわよっ!!」
「でぇああああぁぁぁっ!!!」
 グルドは突然の奇襲に右往左往している。
「オラオラァ!!とっとと逝っちまえ!!」
 薙刀と太刀の刃が次々とグルドを斬り捨てていく。状況が不利だと見極めたのか、残った数頭がスタジアムの中へと逃げて行く。
「よし、うまくいったわ。」
 俺と霊奏も後を追う。
「行くぜ!!」
 俺が再び斬り掛かるモーションに入った瞬間、
「フェイル君!!伏せて下さい!!!」
 キュベリエだ。俺は一瞬わけが分からなかったが、言葉通りに草の上に身体を投げ出した。その時、頭上で銃声と断末魔が轟き、俺のすぐ傍に翼の生えたグルドが落下してきた。死んでいるらしい。起き上がってみると、キュベリエはライフルを構えて空を見上げていた。視線の先には、もう何匹かのグルドが空を飛んでいた。
「フェイル君。地上は霊奏さんとリーさんにお任せして我々は空中の敵を迎撃しましょう。」
「空中って、どうやって!?」
「先程渡したでしょう?スイッチを蹴って下さい。」
 俺はためらいつつも靴の側面にある赤いスイッチを蹴った。その瞬間、靴に装着した機械から、両足一枚ずつ、黒いウィングが飛び出し、かかとからはブースターが出現、靴が板のようになり、両足でガチャリと音を立ててくっつき、
一枚の大きな板になった。まるでサーフボードのようだ。
「そうか……!!これで!!」
 気付くとキュベリエも同じ機械を展開させ、既に空中に上がっていた。
「空間飛行ボード、通称『バルチャーカスタム』です。既製品をそれぞれ改良しました。僕のは射撃に向いた安定性重視設計に、あなたのは限界までスピードが出せるように、速度、火力重視型に改造しています。」
「いいぜ、最高だ!これならいける!!」
「あ、アクセルは右上です。」
 俺はそれを最後まで聞かずにアクセルを踏みつけた。足を引っ張られる、とはこの事だな。ブースターが青白い炎を吹き出し、時速百数十キロはあろうかというような凄まじいスピードで真上へとブッ飛んだ。
「おおおおぉぉぉぉああああああぁぁぁぁ!!!?」
 地面がどんどん遠ざかって行く。
「くそっ!動け、この野郎!!」
 空中で必死に身体をねじる。ようやくバルチャーが降下を始める。
「いっけえええええ!!!」
 空中を滑るように飛び、手近にいたグルドを斬り落とす。次いで、後ろにいた一匹を、オーバーヘッドキックの容量で蹴り飛ばし、それをキュベリエが撃ち落とした。
「あと2匹!!」
「プランJいきましょう!!」
「了解!!」
 プランJ、剣士とガンマンのコンビネーションの最もスタンダードな技だ。キュベリエが戦闘エリアから離脱した。俺がエリア内を大きく旋回し、グルドの注意を引きつける。あとはこれでキュベリエが後ろから狙撃して……
「おわっ!!?」
 俺の顔のすぐ傍を直径2センチほどの小さな鉄球がものすごいスピードで通り過ぎる。
「何だ!?」
 飛んでいった鉄球は球場のライトの柱に当たって……真っ直ぐに跳ね返ってこちらに戻ってくるではないか。俺はそれを間一髪でかわし、飛んでいく鉄球を目で追った。鉄球は2、3回壁にぶつかって跳ね返り、驚いた事に撃ち出された銃口へと吸い込まれるように戻っていった。屋根の上に1人の男が立っている。年齢はキュベリエよりも少し年上、茶髪を真上に立てている。入れ墨の入った腕がノースリーブの黒いシャツから伸び、その腕には先程の鉄球を撃ち出した巨大な猟銃が握られている。男が赤く塗装されたバルチャーに乗ってこちらに降りてきた。
「はははは!!日本政府が誇る殺し屋集団、セクター49が来るって聞いたからわざわざ来たのになんだ、その闘いっぷりは。さほど大した事もないようだなぁ!?」
「何ですって……!?」
 俺は隣のキュベリエを見た。あいつのことなら今も隣で不敵に笑ってるだろう……と思ったら、妙な事に、キュベリエは驚愕の表情を浮かべていた。
「貴方は……っ、まさか……。」
「お?お前、俺の事知ってんのか?」
「元フランス軍前衛隊長、『妖銃の狩人』クールランテ……」
「流石だな。戦火で腕を失い、肉体を改造されたプログレクロス。」
「プログレクロス……?」
「肉体改造を受けた人間の総称だよ。話には聞いていたが俺も見るのは初めてだ。」
「貴方は……っ……何故ここに……。」
「あ?決まってんだろ。俺はこのグルド共のコマンダーさ。」
「何をしているの!?目的は何!?」
「はぁ?まだ分からねえのか。俺は……。」
 手にした猟銃がゆっくりと持ち上がる。
「お前らを……。」
 セーフティーを外すカチャリという音が響く。
「ぶっ殺しにきたのさああぁぁぁ!!!」
 銃口が先程の鉄球を弾き出した。縦に横に飛ぶ弾丸は一匹のグルドを貫き、俺の刀を弾き飛ばし…地上にいるリーに向かって真っ直ぐに飛んでいく。
「リー!!危ない!!」
 次の瞬間、リーは足から小さな赤いバルチャーを展開し、弾丸とは反対方向、つまり弾丸に真っ正面から突っ込んでいった。その手の中から高速振動する短い刃が飛び出すのが見えた。と思ったら、弾丸が4つに裂けた。そのまま突っ切り、無表情にクールランテに斬り掛かろうとする。
「いい度胸だなぁ!お嬢ちゃん!!」
 再び銃声。黒い弾丸は空を切り……….

 リーの頭を額から後頭部まで一直線に貫いた。真っ赤な血が噴き出す。その反動で、リーを乗せたバルチャーは球場の下の方へと墜落していく。
「リー!!」
「貴方……何て事を!!」
 キュベリエが飛び出す。今までの笑顔とは違い、明らかな怒りが浮かんでいた。
「おっ、やんのか!?」
 その時、俺の目には見えた。クールランテが猟銃に一度に6発の弾を装填する瞬間が。確認した時にはキュベリエは既に両手にピストルを構え、突っ込んでいた。いかん、あれはもう何を言っても聞きそうにない。ないのだが。
「キュベリエ!!行くな!!」
 ほらやっぱり聞いてねえ。
「フェイル!!」
 霊奏が地上から日本刀を放り投げてきた。
「サンキュー!!」
 無理だと分かっていても俺は自然とアクセルを踏んでいた。あのアホみたいに狙撃のうまいスナイパーはこのチームに必要だ。
「死なせてなるものか!!」
「蜂の巣にしてやるぜえぇぇ!!」
 複数の銃声と共に6発の弾丸が螺旋状に軌道を描いた。次の瞬間、キュベリエがピストルを突き出しこちらも6発の銃声が鳴り響いた。それと同時に、今まさにキュベリエに命中しようとしていた鉄球6発全てが粉々に砕け散った。
「なっ!?」
 クールランテが驚愕の表情を浮かべている。
「何て精密な狙撃だ……。俺の弾丸を撃ち落とすとは……んっ?」
「あああぁぁぁ!!!」
 見れば、薙刀を構えた霊奏が空中に上がり、斬り掛かってくる。霊奏はバルチャーではなく足にお札を貼付けている。勢い良く振り下ろされた薙刀はクールランテの真横を通り過ぎた。
「へっ、残念、空振りだ!!」
「さぁて、それはどうかしら?」
「!?」
 霊奏が後ろを向いてニヤリと笑う。未だに状況を悟れない俺の目の前を、真上から物凄いスピードで何かが降ってきた。続いて、2本、3本、いや数10本の……ソニッカーソードだ。ということは……。
「リー!?」
「リーさん!?」
 上空で、リーがソニッカーソードをウルウ゛ァリンの爪のように構えて、それを一気にクールランテに投げつけた。不規則な線を描いて飛ぶソードはかすり傷を負わせただけだったが、それを見たリーは残った2本を構えて急降下した。先程のソード攻撃でリロードの隙を逃したクールランテはとっさに猟銃でガードの姿勢をとった。しかし、振動する短い刃はその巨大な銃身をやすやすと切り裂いた。中に入っていた火薬のせいだろうか、銃は落下途中で派手に爆発した。
「回復法術ね……。」
「え?」
「見てみなさい。リーの頭。」
 俺はリーの頭を見た。そこには銃弾のあとはおろか、傷すらついていなかった。
「あの子は自分の傷を自分で高速回復する能力を持っているのよ。すごいわね…..。」
 あいつはそんな無敵少女だったのか……。
「やってくれたな……セクター49……」
 言うと同時に、高らかに口笛を吹くと、周囲からグルドが集まってきた。クールランテは一歩後ろに下がると、腰からスイッチを抜き、押した。
「ッ!?」
 周りを飛んでいたグルドが爆発し、周囲が緑色のガスで何も見えなくなる。
「くそっ、どこだ!?」
「1つだけ教えてやる。俺達はディフレイル。言っておくが、これは警告だ。また会おうぜ、プログレクロス……。」
 緑色の煙幕がおさまった頃には、クールランテはどこへともなく姿を消していた。

 結局、何故クールランテがグルドをわざわざ差し向けたのか、「ディフレイル」とは一体何なのかなど、詳しい事は何も分からないまま、この事件は終わりを迎えた。
 月日の流れるのは速いもので、それから数ヶ月経ち、季節は冬になった。空白になっている夏、秋の間に何をしていたのかというと、なんてこたぁない、普通にグルドを駆除していただけだ。夏の長期休暇の間には4人で海とか花火とか行ったし……言い出したらキリがない。でだ。俺は今いつもの格好とは違う格好でたたずんでいた。
「……似合う。」
「そ、そうか?」
「うん。」
 今リーの前で俺が着ているもの、それはスーツだった。何でまた人間はこんな動きにくくて暑苦しいものを作り出したんだろうな?まずそこが疑問だ。何故俺がこんな格好をしているのかというと、数日前にキュベリエが
『今度の土曜日に都内の新しくできた高層ビルで記念式典があるんですよ。そこに僕も招待されたんです。よかったら皆さんも一緒に来ませんか?』
『ちょっと待て。なんでお前が招待されてんだ。』
『あそこの取締役の方とはちょっとしたコネがありまして。』
『ふーん。一応聞くけど、当然、この格好でいいんだよな?』
『当然、正装でお願いします。スーツをこちらで用意しますよ。』
『んなっ……!?』
………というわけだ。狭苦しい電車に乗って着いた所は、先っちょが見えないほどの高層ビルだった。どっかの会社らしいが、こんなもん造るなんて、どこの金持ちだ。
「これが都内に新しくできた、株式会社大日の運営する高層ビル、通称『バベル』です。」
 コメントし辛いネーミングセンスだ。
「まあそこは気にしないでおきましょう。それよりも霊奏さん、貴方のドレスもよくお似合いですよ。」
「え、ホント?ありがとう。」
 どう褒めたらいいのか分からないが……率直に思ったことを言おう。綺麗だ。
後は背中に背負ったその薙刀さえどうにかしてくれれば。
「いいじゃない。護身用よ、護身用。それに、あんたも人に言えたもんじゃないでしょうが。」
 まあそうなんだけどな。俺も日本刀を忘れてない。リーはいつもの軍服で来ている。キュベリエもいつものスーツ。全員武器携帯。なんちゅう集団だ。

 ……記念式典も佳境だが、そろそろこのスーツにも疲れてきた。トイレに行って息抜きでもしてくるか。
「すまん、ちょっとしつれ……」
 地震かと思った。突如として轟音と震動がビルを襲い、電気が消え、会場内は混乱の渦に巻き込まれた。
「何?何なの!?」
「知らん。俺にも何が何だか……」
 携帯でしばらく喋っていたキュベリエがこっちに来た。
「武器を持ってきて正解です。どうやら、グルドによる爆弾テロの様です。」
「あぁ!?」
「何ですって!?」
「……私達への依頼は?」
「とりあえず、会場の人々の避難、そしてビルの中にいるグルドを見つけ出し…」
「……殺すのね。」
「そうです。今回は面倒な仕事になりそうですよ……。」
 
 ……おいおい……冗談だろ……?


 三章  繋がるもの
 
 その現場、都内の新しくできた高層ビル、通称「バベル」。その最上階にいる俺達はその様を数百メートル上から見下ろしていた。
「キュベリエ、周辺の被害状況はどうだった?」
「ビル内のブレーカーなど電気システムは全て落ちていました。現在自己発電に切り替えています。更に、52階ではあまり規模は大きくないものの火災も発生しています。その内に燃え広がるでしょうから、早急に脱出を。」
「参ったな……。この分じゃ消防とかが到着するまで時間もかかるぞ……。」
「ではこうしてはいかがでしょう。これから二手に分かれて片方のペアは先にいるグルドを駆除し、脱出路を確保、残りの2人は警備員と協力して避難者の誘導を。」
「私はいいけど、異議は?」
「ねえな。」
「ない。」

 かくして、二手に分かれることになったわけだが……俺はどういうわけかリーとペアを組んでいた。
(はてどうしたもんか……。俺こいつとまともに喋ったことないんだよな……。まずこいつが喋らねえし……。)
 テロが起きてから40分そこそこ。すでに数匹のグルドを単体で見かけ、その全てを駆除した。向こうの方で、キュベリエと霊奏が避難者誘導で汗を流していた。
「みなさん、こちらです!!落ち着いて避難をお願いします!!」
「足下気をつけて!!グズグズしない!!ああもうそこ、押さないの!!」
 ご苦労さん。
 その時、リーが手で俺を制した。
「どうした?」
「……この先にたくさんいる。」
「マジか?」
 頭1つ低い頭が前に傾く。
「よし、非常階段を使おう。俺がキュベリエに連絡を入れる。」
 数分後、キュベリエと霊奏の誘導で、避難者がゾロゾロと非常階段を下り始める。
「じゃあ、時間稼ぎ、頼んだわよ。私達も後から行くから。」
 霊奏がそう言い残し、防火扉を閉めた。
「この先の曲がり角から強い気配がする。注意して。」
「お、おう。」
 リーが腰からソニッカーソードを抜いて刃を出す。俺も着ていたスーツを脱ぎ捨て、いつでも太刀を抜ける体勢をつくる。
「行くぞっ!!」
 俺は角から飛び出した。そして、見た。広い通路にウジャウジャといるグルドの群れを。
「っはああぁぁぁっ!!」
 かけ声一声、俺の両手に握られた大太刀が次々とグルドの首を斬り落として行く。後ろから、耳障りな音をたててソードが飛び、顔に、腹に、深く突き刺さり、獲物の体を内側から破壊していく。
「ラストォ!!」
 俺の一声で最後の二匹が斬撃とソードの投擲を同時に受け絶命する。
「この奥……行ってみるべきだと思うか?」
 この奥、というのはその通路の奥、デカい扉の向こう側だ。確かこの向こうはかなり広いダンスホールだったはずだ。
 リーは頷いた。
「んじゃ、開けるぞ。」
「待って!!」
「あ?」
 突然の大声に思わず間抜けな声を上げてしまった俺をリーはその小さな体躯で突き飛ばした。
「どわっ!?」
 次の瞬間、分厚いドアを貫通して太い銀色の鎖が凄まじい勢いで飛び出した。そしてそのままリーの足に絡み付き、ドアの中へと引きずり込む。
「おい!!」
 俺は体当たりでドアを全開にし、中へと突入した。そこには、鎖を振りほどいたらしいリーと、1人の女がぽつりと立っていた。大体15、6ほどの若い女。短く切りそろえた髪に、大人しそうな顔立ち、都内でよく見かけるブレザーの学生服。両手には先程の銀の鎖が握られている。
 女が口を開いた。
「初めまして、そして………お久しぶり。」
 妙な女だ。お久しぶりとはどういうことだ?しかし、この状況に頭の上にクエスチョンマークを浮かべているのは俺だけのようだった。
「……本当に。何年ぶり?」
「何年ぶりかなぁ……?でも結構長いことあってないよね?それなのに……君は何も変わってないね。」
「あなたこそ……。」
「あはは、しかも何?男まで連れちゃって。君そんな色気のある子だったっけ?」
 さすがにこの会話についていけないことに限界を感じ始めた俺はリーに現状の説明を願う。
「おい、一体どういうことだ?この女は何なんだよ?」
「詳しくは言えない。でも、味方じゃない。」
「いや、そりゃ分かってるよ。」
「来る。」
 気がつけば、地面が縮んだのかというような妙な感覚の後、女が小振りの細い剣を構えて突っ込んできていた。
「こっのぉ!!」
 とっさに俺はリーの前に飛び出し、刀でガードの姿勢をとる。しかしその剣はその細さとは裏腹になかなかの重量と威力を持っていた。
「舐めてんじゃねえぞ、このアマぁ!!!」
「っ!?」
 入るだけの力を腕に込めて女の剣を押し返す。女は5メートルほど、ジャンプで距離をとった。そして、その身体がぐっと、いきなり後ろに反り返った。「ックックッ……闘うのってさぁ……無益だけどさぁ……無意味に楽しくなぁい……?」
 身体が今度は前に曲がる。
「君だってそう思うよねぇ……?でしょう?」
 その身体が、曲がったままリーの方を向く。
「私は君との再びの邂逅を心から望んでいたんだよ……。君もほんとは嬉しいんでしょぉ?」
 そして、ゆらりと俺の方に向き直る。
「あぁごめんね、挨拶が送れちゃったよ。私の名前はルペルカリア。『冥界の剛鎖』セリス=ルペルカリア。よろしくね。」
 ルペルカリアの手が自らの腰に回る。
「そして……。」
 リーがぴくりと動いた。
「さようなら。」
 次の瞬間、殺意に満ちた鎖の一撃が撃ち込まれた。俺はそれを腹にまともに食らい、壁に叩き付けられる。
「私の仲間に……触れはさせない!」
 リーも動いた。両手にソードを握りしめ、S字を描くように動いた。
「狂目術式、『ステリアム』。認証コード、2、5、3、0。」
 ルペルカリアが何事か呟いた。その時、今まさに斬り掛かろうとしていたリーと、その前で、不敵に立ち笑うルペルカリアとの距離が一気に離れた。
「!?」
「伸地……!?」
「そう。君たちはもう私の術式の中。逃げられないよ。」
 気がつけば、周囲の壁には何本もの銀の鎖が張り巡らされている。
「しかも……。」
「っ!!」
 リーが腕を押さえて膝をついた。
「リー!?」
 いつ攻撃されたのか、腕の深い傷から、血が絶え間なく流れ出ていた。
「これが……『ステリアム』……。」
「『ステリアム』?空間を操る術式か?」
「そう。私達に幻覚を見せ、私の回復法術も破る強力な術式……。」
「何!?」
 ルペルカリアが近づいてくる。彼女の周りでは鎖がジャラジャラと音をたてながら蛇のようにのたくっており、それまであった穏やかな笑みは狂気に満ちた笑みに変わっている。
「面白いよねぇ……?ほんと、面白いよねぇ……?」
 
 頭上には既に剣が振りかざされていた。




 四章 狼たちの宴

 その時、俺とリーは見ていたはずだった。頭上から真っ直ぐに、鋭く、重く、振り下ろされる刃を。しかし、そいつは違った。
 俺が不覚にも一瞬死を覚悟してしまった、その刹那。
 鎖の術式の壁に赤い亀裂が走る、と数秒遅れて、亀裂の入った壁が術式もろとも派手に吹っ飛んだ。
「ドッカーン!」
 と自分で効果音を叫びながら派手に登場したのは巫女服を身に纏った霊奏だった。更に、その勢いでルペルカリアに壮絶なタックルをかまし、ビルの反対側の壁に激突した。
「んごふっ!?」
 ルペルカリアは珍妙な声を上げて自分の術式で頑丈になった壁にまともに叩き付けられた。
「ったく。ちょっとした人命救助程度で済むと思ってたのになんなのよこの状況は。」
「見ての通りの状況だよ。どうやって『ステリアム』を破ったんだ?」
「簡単よ、簡単。ルペルカリアの『ステリアム』にしては思った以上に薄かったのよ。それよりせっかく助けたのに、何か言うことはないの?」
「はて、何のことだ?」
「あんたねぇ!」
「来た。」
 リーの指差した方向で数本の鎖が束ねられ、ねじれて巨大な蛇のようなものを形作る。
「コード、8、2、7、8。行け!!」
 呼応した蛇が空中から突撃を始める。俺は刀を腰に構え、真っ直ぐに刺突を繰り出す。
「っはぁ!!」
 ガッ、と嫌な音が鳴り、刀が蛇の先端に突き刺さる。次の瞬間、蛇を形作っていた鎖が一瞬で解けた。
「やったか!……っ!?」
 ルペルカリア以外の全員が戦慄した。分裂した鎖は瞬時、閃光を放ち、爆発した。壁中の鎖が一斉に崩れ落ちる。霊奏が空けた大穴の外に明るい紫色の光が見えた。
「クソっ、狙いはそっちか!!」
 俺が飛び出そうとすると、
「追う必要はないわよ、フェイル。」
「なんで!」
「すぐに分かるわよ。」
 すぐに分かった。ルペルカリアが何もなしに空中を飛んでいく、その先には先日開発したとか言っていた大型ガトリングを両手に構えたキュベリエ・ブランダールの姿があった。
「逃がしません……っよっ!!!」
 ごつい銃身の先には6つの銃口。それが両手に一基ずつ。12門のレーザーの豪雨が夜の黒にオレンジ色の光を混ぜてルペルカリアに襲いかかる。だが……
「っふふっ」
 ルペルカリアの顔に張り付いているのは……明らかな、嘲笑。
「!?」
「てめぇ!!逃がすかぁ!!」
 俺は着ていたスーツを脱ぎ、一振り翻した。一瞬、砂塵にまみれたスーツは錆びた鉄のような褐色のロングコートに姿を変える。鉄壁の防御力を誇り、着用者に空中を自在に舞う能力を与える『翔装・レシフォールド』。
「はあぁぁっ……っだぁっ!!」
 俺はレシフォールドを一杯に拡げて飛び出した。しかしそれより早くリーが飛び出していた。両手にソードを構えて。ギュラッ、と奇妙な音がする。俺もキュベリエもリーも、ついでに後から飛び出してきた霊奏も、その気配の強大さに身構える。
 目の前に、無数の鎖を翼のように広げて宙に浮かぶルペルカリアの姿があった。鎖の一本一本がジャラジャラという動きに合わせてバチバチと爆ぜ光り、淡い紫色の光を放っている。
「させないわよ!!」
「この野郎っ!!」
 俺と霊奏が同時に叫び、同時に大きく跳躍する。しかし、ジャラジャラとのたくる鎖は二人を凄まじい威力で弾き飛ばし、ビルの壁面に叩き込んだ。
「っがっはぁ!?」
「んきゃあっ!?」
 これまた珍妙な声を上げて大量のガラスの破片を浴びる。外ではキュベリエがどこから出してきたのか巨大なミサイルポッドを構えていた。
「はぁっ!!」
 鋭いかけ声とともにミサイルが斉射され、全方向からルペルカリアに直撃する。
「やったか!?」
「いえ、面目ありませんが、逃げられたようです。」
「んだとぉ!?」
 すぐさまレシフォールドを広げて飛び立とうとすると、
「駄目」
「!」
 以外にも、リーが静止をかけた。その小さな背にはなぜか大きな威圧感があり、俺はそれ以上何も言えなかった。

 刹那、階下が緑色の閃光に包まれた。続けて轟音と共に、ビルがゆれ始める。
「これは……!」
「まさか、ビルの中のグルドを『ステリアム』で全部爆破させる仕掛けにしてやがったのか!?」
「ということは……」
「このビル……倒れるわよ!!?」
「もしもし、僕です!!ビルの近辺にいる人を大急ぎで避難させて下さい!!あと5分でです!!」
キュベリエが警察だろうか、誰かに常にない大声で電話をかけている。やがて携帯を閉じ、
「我々も急いで脱出しましょう。建物の倒壊となれば、いくら我々とて生きては帰れません。」
キュベリエとリーが先に外に出た、次の瞬間。二度目の轟音と振動が訪れた。「……何よもう……あっ!」
「どうした?」
 声のする方向に砂塵を払いながら目を凝らす。
「塞がっちまった!?」
 その通り、霊奏が壁に開けた大穴はさっきの振動で周辺の壁天井もろとも崩れ落ちて埋まっていた。
「俺の刀じゃ堅すぎて通じねえ。お前ここ壊せるんじゃねーの?」
「無理よ。」
 即答すんなよ。
「だって、さっき壁ぶち破った時にちょっと力使いすぎちゃって……。それに、崩れたせいでさっきよりも障壁が分厚くなってる。これじゃ外に出られないわ。」
「じゃあどうすんだよ……。」
 頭を抱えて座り込むしかなかった。現に今そうしている。
「あっ……」
 突然霊奏がプレーリードッグのように立ち上がった。
「ん?」
 腰から携帯を取り出し、電話をかけている。
「もしもし、キュベリエ?あんた今どこ?隣?そう。リーは?一緒なのね?分かった。今から私たちが脱出するからちょっと頼みたいことがあるの。」
 電話の相手はキュベリエらしい。頼られてんな、お前。霊奏は電話を切ると、近くの瓦礫の上に座り込んで巫女服の袖をめくり、腕時計を見始めた。
「……来るわよ。」
 せめて前触れくらいは欲しいもんだ。突然、ドーン!!という音とともに、さっきよりも建物が大きくゆれ、続いて、ズン、という重い音が足下から聞こえた。
「フェイル、いつでも飛べる用意しときなさい。」
「お、おう」
 俺は、何で命令口調なんだろうなとか考えながらレシフォールドを飛びやすい大きさに広げる。
「見て腰抜かさないでよね。」
「んぁ?」
 そのセリフの意味を呑み込む前に、それは現れた。霊奏の背中から、メキメキと音を立てて巨大な漆黒の双翼が生えてきたのである。
「お、お前それ……!」
「だから腰抜かさないでって言ったのに……バカ。」
「だからっていきなりそんなもん生やすことないだろ!?そりゃビックリ人間でもビックリだぞ!」
「これはね、あたしがこの身体の内に守護神を収めているからよ。」
「守護神?」
「そう。小さい時にあたしの住んでた神社に戦争の手がのび、一晩で焼き払われた。両親もその時に死んだ。あたしは本堂の奥の祭壇に逃げた。でも兵士達がなだれ込んできて、あたしも捕虜にされそうになった。その時、私が必死で掴んだ宝具箱を勢い余って開けてしまったのよ。両親から絶対に開けるなと言われていた。でも開けてしまった。そうすれば、助かるような気がしたから。」
「で、結局その宝具箱の中に封印されていた守護神がお前によって解き放たれた、と?」
「うん。宝具箱の中で眠っていたのは古来より道しるべの象徴として知られていた大鳥神、『“幻惑の羅針”ヤタガラス』。」
「ヤタ……ガラス?」
「結果として私は兵隊たちを殲滅、そして独りぼっちになった。何とか私を育ててくれるって人の世話になりながら今まで性懲りもなく生きてきたわけ。」
 意外だった。いつも喜怒哀楽の激しいこの賑やか女がそんな過去を持っていようとは。俺は知らず知らずのうちに話し出していた。
「俺も同じさ。」
「……え?」
「親父の営んでいた道場でトップクラスの成績を取りつつ、後輩たちの面倒も見ながら皆で協力し合ってた。俺の住んでた村はとても小さくて、学校もねえ。その代わり、そこの子供達はみんな親父の道場に通い、身体も精神も頑丈になっていった。だが6年前、村はイタリア軍の一個中隊に占拠されかけた。そう、されかけた、だ。」
「どうして……。」
「俺達道場の門下生が必死に奴らを食い止めたんだよ。中にはもちろん……負けた奴もいたけどな。」
 6年前の惨劇が脳内に蘇る。兵士と少年達の絶叫。立ち上る噴煙。倒壊した民家。あちこちに倒れ伏す兵士。そして、……鮮血のしたたる大太刀の刃。
「その部隊を全滅させた後、身寄りのなくなった子供らはみんな散り散りになっていった。まあ、最終的にはほとんどそうなったんだけどな。」
 ……そう、覚えているとも。門下生の中でもベスト5に入る猛者達。ダンカン・グリファトン、ノアシュ・ウェラルダ、メリッサ・バルバロッサ、フィオリナ・スティンドルエ、そして、俺。今、誰1人として行方が知れない。元気にしているのだろうか。いや、そもそも生きているのだろうか。
「意外ね……。」
 霊奏が俺と同じ感想を漏らした。
突如、ドンッ!!という凄まじい衝撃。そして、その衝撃で、いつの間にか傾く所まで傾いていたビルの詰まっていた壁面の瓦礫が一気に抜け落ちる。
「飛ぶ!!」
「おうっ!!」
 褐色の塊と、赤いカラスが、跳躍した。

 

 数日後の話になる。やっとこさ病院から出られた俺達は高層ビル倒壊の件に関して上層部に始末書を提出する羽目になった。ったく、仕事やるだけやらしといて、責任ぐらいとってくれねえのか。とにかく、全員無事で生きて帰って来られたわけだ。なんでも霊奏の奴、キュベリエにビルの下の方を砲撃させてわざと倒し、その衝撃で邪魔な瓦礫などを一気に取っ払おうと考えたらしい。全く、こっちは寿命が縮んだっつーの。
 この更に数日後、このセクター49に霊奏が新しいエキストラを連れてくることになるのだが、まさかそいつがきっかけで、この東京の下にとんでもない代物が隠されていることが分かるなんて、まだ誰も考えもしなかった。とりあえず今夜はカラオケにでも行くとしよう。


〜都内某所にて。
「やっぱりあいつら強かったよ、お姉ちゃん。私の『ステリアム』がカンタンに破られちゃった」
「フン、まあいいわよ。一応、目標は達成したんだし。」
「でもね、面白い人に会ってきたよ。あの子、ハーフウォルフだね。」
 周囲に鎖を漂わせているショートヘアの少女の前に傲然とそびえ立つのは少女と全く同じ服装の、ロングヘアの少女。彼女が肩に担いでいるのは、人間の武器とは思えないほどの、巨大な鎌。その周りを取り巻くのは、淡い紫色の光。
「もうちょっとしたらあたしが出て行くタイミングかもね。いいわよ、フィリス。お姉ちゃんに任せなさい。ばっさり刈り取ってやるから。」
「けっ、まったくもって美しい姉妹愛だねぇ、お二人さん。」
 そして、壁にもたれて煙草を吸いつつ皮肉たっぷりに話しかけるのは、長い猟銃を足下に転がす、男。
「今スティンドルエを出すわけにはいかねえ。お前らの連携プレーが重要なんだってよ。まあ、せいぜい頑張りな。我らが頭領様の為に。」
 更に、もう1人。錆びた鉄のような褐色のコートを羽織った、ロングポニーテールの少女。その腰には、日本刀。
「いざという時にはあたしが参戦するから、楽しみにしてなさい。見ててごらん、今世紀最高のショーになるわよ。」

 ひっそりと、そして堂々と、彼らが動き出す。『ディフレイル』が。







 
2008/08/14(Thu)00:14:02 公開 / 地中ギャオス
■この作品の著作権は地中ギャオスさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、地中ギャオスと申します。昔から考えていたストーリーにアレンジを加え、こうして公の場に出す事となりました。まだまだ未熟ですが、楽しんで読んで頂けると幸いです。

2章:続編です。遅くなってすみません。もう少し長くても良かったかも。

3章:遅くなりました。短くなりました。ごめんなさい。

4章:えらく間があいてしまいましたが、ようやくうpです。
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