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『うちゅみちゅ』 作者:修羅場 / 未分類 未分類
全角10211.5文字
容量20423 bytes
原稿用紙約31.85枚
仕事に失敗した父と仕事に成功している二十歳の長女と十八歳の長男、そして中学三年生を終えた次男の俺に告げられた突然の解散命令。
 衝撃の事実。

 地球人の母とエイリアンの父を持つ男。

 十五歳の俺には理解できなかった衝撃の真実。


●プロローグ

 中学三年の卒業式の日。
 いつものように起きて、朝食の食パンを一口かじりながら5つ上の姉貴が慌てふためいて職場に出かける準備をしていた。
 暢気に今日一日の朝の状態を眺めていたら、いつの間にか食べ終えていた。
 姉貴の出かける次か後くらいに出かけるので、朝食はこの通り遅く終わることが多い。
 空の食器を流しへ持って行き食器かごに溜め込んだ水の中に食器をつけておいた後、俺は俺で中学校に行く準備をして出かけた。
「いってきます」


 いつも通りの朝を迎える。
 七月末のその日は朝から暑く、歩いて学校に行くだけでも結構な汗をかいた。
 途中、昭和を思わせるレトロな造りの駄菓子屋の入り口前で立ち止まる。
 目の前には昔懐かしいアイスボックス。
 何度もいうが七月末は暑い。
 だから時と場所を選ばずに涼しげな場所を心のどこかで求めている素直な気持ちに逆らう事は出来ない。
 自分自身の感覚では、このまま長居していると完全に遅刻をするとわかっていても色々な種類のアイスがある中からひとつを選抜して購入する訳でもないのに、アイスを選ぶふりをしながらアイスボックスの扉を開けた。
 瞬間に四方八方から流れ出す大量の冷気を突っ込んだ両腕に浴びせながら「アイス星人にでも成りたい」と思い込んでいた。

 夏場の通学路は決まってこのような行動の繰り返し。
 いつも通りの朝。そしてシナリオ通り。

 アイス星人に成りたい男。
 誰もが経験する幼少時代、幼稚園の頃に少なくとも聞いたことがある「将来なにになりたい?」という質問に対して答えた俺の答えである。
 他の女児男児の言うことは大抵「お嫁さんになりたい」だの「ヒーローになりたい」という回答が最も多い。
 その中でも「アイスになりたい」とか「ケーキ屋さんになりたい」なんていう夢の話に溶け込んで、この当時よく見せられたディズニー映画『トイ・ストーリー』に出てくるヒーローのバズ・ライトイヤーに憧れていた俺は思い切って言ってみた。
「えいりあんになりたい!」
 それは断念無念。また来週。
 そもそもバズはアイスのエイリアンでもただのエイリアンでもなくてオモチャのヒーローである。
 その代わり緑のエイリアンなら存在するからいっそうのこと緑のエイリアンになりなさい。
 もし本気でエイリアンに成れたら、それでこそ奇跡だ。ドリームだ。
 でも実際、叶うはずもない事を真っ向に信じて生きてみる。
 その結果は何の変哲もない人間が出来上がる。つまらない人生だ。


「おっす」
「おはよう」
 学校に到着して同級生と顔を会わせ卒業後の予定などを呑気に話していた。
 同じ剣道部に所属していたので、中学校生活最後の部活の練習予定の合間をぬってキャンプに行こうと友人たちとプランを立てたりもした。
 そんなに遠くに行くわけでもないが、中学生最後の思い出作りにとってそれは大冒険を意味する。

 やがて卒業式の為、全校生徒が体育館に集まり中学校生活最後の集会が始まる。
 有難みをなくした校長の長い長い世間話とこれからの話がやっとのことで卒業式が無事に終わりを告げた。
 帰り道、家の近い友達と帰りながらこの先の予定を披露しあいながら歩く。
 その速度は心なしかいつもより早く、お互いの高校の文化祭には必ず呼ぶことも約束をして別れた。
「絶対に忘れるなよっ」
「そっちこそ」


 家につくと、朝出かけたときとは明らかに様子が違っていた。
 アパートの二階に住んでいたのだが、上がる階段の前で俺を迎えてくれたのは家の中にあるはずの見覚えのある家具達だった。
 そのルックスから、父親の仕事関係でなにやら怪しい雲行きに包まれついに我が家も終わりを迎えたのだと俺は心中察しながら野晒にされた家具達をぼーっと突っ立って眺めていると怒りを露にした姉貴が帰ってきた。
 軽々しくも俺が問うと姉貴は目もあわせず俯いたまま下の足元ばかりを見つめて、いつもとは違った禍々しい感じのオーラというかドス黒い空気を全面に巻きつけていそうな感じの額に青筋をはっきりと浮かばせるような勢いで怒り悲しみ怨念が一度に篭ったような低い声が返ってきた。
「お帰り……ていうか、姉貴。なんかあったの?」
「おだまり。あんたには関係ないわ」
「姉貴……」
「……なによ?」
 状況というより状態を姉貴に説明し、二人で二階に上がった。
 二階に上がるとドアは開きっぱなしになっていたが「差し押さえ」とかかれた異常に存在感のある黄色いテープがクロス状に張られていて、もう家には入れなくなっていた。
「なんだろうね……これ……」
「さあね。私が知るわけないでしょ」
「……」
 目の前の状態を鵜呑みに出来ないまま入れなくなってしまった状態を俺ら姉弟は漫然と眺める。
 まるでこの住み慣れた家の最後を見届けているような感じ。
 俺の中で妙な不信感が渦巻き始めていた。

 暫くしてから気づいたのだが、必死に止めようとしても止まらない壊れた蛇口から一度に零れる大量の水みたいに俺の目から大量の涙が溢れ出していた。
「〜〜〜……っ、男の子が泣くんじゃないのっ!」
 泣き出した俺をしかりつける強気な態度をとる姉貴の目から僅かにきらきらと光る水の雫が溢れ出していることに気づいた。
 俯いていた顔を上げて俺は姉貴の顔を眺めていたら僅かだが初めて中学三年の頭でも理解が出来た気がする。
 だけど、今の俺の悲しみよりこの状態をより多く理解しているけれどそれを鵜呑みにしたくない姉貴の悲しみに比べたらまだこの重みは軽いほうだ。
 とうとう姉貴は声を上げて泣き出してしまった。

 今、二階に居るのは俺と姉貴だけ。
 姉貴を支えてやれるのも俺だけ。

 だから何も言わずに少し丸くなった姉貴の背中をそっとさすってやり包み込んで慰めてやるこの程度の事しか出来なかった。


 暫くすると3つ上の兄貴が帰ってきた。
 目と鼻の先で起こっている状況を平然としか顔で見回す。
 入り口の前で泣いている姉貴の傍により大丈夫だと声をかけつつ、そっと涙を拭ってやり気持ちを落ち着かせといて物事の段落をひとつつけ終える。
「兄貴……」
 そんな時、次男の俺はこのとき兄貴に何かを伝えようとしたのだが、その何かが何なのか自分自身でもわからず仕舞いで言いかけた言葉も後に詰まって出てこなかった。
 兄貴はそんな俺を見いれて囁いた。
「そう心配するな。時期、父さんも帰ってくるだろうから父さんの帰りを待とう」
「……わかった」
 次男という立場の俺を見るなり兄貴は少しはにかみながら話しかけた。
 実際は兄貴も現状を把握しきれず不安だったに違いないが焦る様子も見せずに落ち着き払っていた。
 もしこの場で、兄貴までもが乱れていたら姉弟揃って収拾がつかないくらいに泣きじゃくっていただろう。
 長女の下、次男の上の長男というのも大変である。
 姉弟三人揃って父の帰りを待つことにした。


 待ち人来たる。
 夜14時あたりに父さんが帰宅したというか、とりあえず帰ってきた。
 笑っているわけでもなく、怒っているわけでもなく、かといって真顔でもない複雑な表情を浮かべて姉弟三人の前に現れた。

 父さんは俺達三人を二階へと連れて行きクロス状に張られたテープの前に集合させた。
 まるでバスツアーのガイドさんが名所案内をするような感じに手のひらをテープに向けて言った。
「始めに。今まで黙っていましたが私たちエイリアン家族は住処を失くしてしまいました。誠に残念では御座いますが、これからの末永く生き抜いていくために各自で頑張ってください。では、……………解散!!」
 ……かいさん? 改産でも海産でもなく、あの遠足のときに使われる解散? ということは、家に帰ればいいのか?
 たった今、その家に入れないということに成ったばっかりなのに?
 中学三年生を卒業したばかりの俺には全く、全然、さっぱり解らなかった。
 それ以前に俺等姉弟がエイリアンの娘と息子だったという衝撃の事実を知った。
 なんだそれ? 何気に幼稚園の頃の夢が叶っていたというか、まんまエイリアンだったのかよ。
 父さんは最後の言葉を告げた後に足早に何処かへ過ぎ去ってしまった。


「どうしよう……」
「……」
 身なりも言語も変な感じじゃないし色も肌色だし、ちゃんと一般的な生活をしているあたりで既に信じ難い話だがエイリアン家族なんだと父さんからの突然の告白を聞かされて家がなくなったからどうしようというどころではない。
「どうしようっ、……ねえっ! どーすんだよっ、……この先」
「……」
 それ以前にエイリアンだったという事実を鵜呑みにするには難しく荷が重かった。
 置き去りにされてしまった姉弟三人は父の後を見送った後、同じ衝撃を受けているはずの兄貴と姉貴は全く動じていなさそうな顔で、この先どうするかを話進めていた。
 姉貴と兄貴の間に腰掛けながら、焦りと不安で未だ整理がついていない脳味噌を俺なりにフル回転させたつもりだった。
「なあ……俺達、この先どうすんだよ」
「………」
「俺達こんなんじゃ駄目だろう!? なあ、だから……」
「………」
「だから俺なりにこれから先どうすればいいのか考えることが先決だと思うんだ」
「………」
「………なあ、何とか言ってくれよ」
「………さい」
「なあって」
「煩い。少しは黙ってろ」
 瞬間、パシンッという音が上の空に響いた。
 俺は反射的に目を瞑っていたから、その瞬間の音と感覚でしか状況がつかめなかったが閉じていた片方の瞼を半開きにして出来る限りの状況を窺った。
 僅かに見えたのはほんのり桜色に染まった兄貴の手のひらが俺の右側の頬を強く打った後のように思える。
 普段は温厚であまり怒鳴らない兄貴が今日初めて俺に向かって怒鳴りつけて打たれた左側の頬は赤く染まっていた。
「黙ってろじゃ分かんねーよっ! そんなんじゃ、何の解決にもならならな」
「黙ってろって言ってるのが分からねえのかッ! 俺だってなあ、どうしていいのか判らなくなってんだよ。それがお前には解らねえのかっ!!」
 今までにないマジ切れした兄貴に少しビビッて言葉を失った俺を前にする一方、姉貴はショックのあまり口を半開きにした状態で茫然と俺達を眺めていたことに気づいた。
 兄貴は深いため息をついて二度とふざけたことは言うなと俺に告げた口で言葉をつなぐ。
 とりあえず三人で行動を共にするとして今後の生活費を姉貴たちが集める方針で話は進み俺もそれに賛成した。

 怖くて不安で「一人にしないで」といいたくて本当は仕方なかったが、必死で耐えた。
 社会人の姉貴たちとは違うけれど中学生を卒業した俺だって働こうと思えば働きに出れるのかもしれない。
 三人力を合わせてどのくらいの持ち金があるかどうかを確認するために、いっせーの、せ。で六つの視点が交わる中心にむき出しにした財布の中身を見せ合った。
 亡き母に変わり隣町のデパートで働く姉貴の財布にはキャッシュカード数枚と1万円分の持ち金少々。
 そしてとある企業で働く従業員の兄貴の財布にも数枚のキャッシュカードと仕事関係の名刺が数枚入っていて殆どが姉貴と同じくらいの金額を持ち合わせていた。

 もちろん俺も財布の中を見せ合った後に最低限与えられるという額を兄貴から受け取って最終的に姉貴と兄貴が行動を共にすることが決まった。
 その日の夜は入れなくなった部屋の玄関前で姉弟三人が身を寄せ合い最後の夜を過ごした。

第1話『さよならエイリアン』

 翌朝、俺も姉貴たちも朝食を抜いての朝を迎える。
 姉貴と兄貴はとりあえず職場近くに住む知り合いの家に泊めてもらうことが早朝に連絡がついたらしくて、いつもの職場に行く準備をし終えて出かけ間際に俺に言い残した。
「……じゃあ、私たちは知り合いの家に泊めてもらうけど……」
「何かあったら連絡してくれ。いつでも来ていいからな」
「大丈夫だよ」
「お願いだから無理はしないでね。あ、それから絶対に無駄遣いをしないこと。いいわね?」
「ああ」
「じゃあ――さようなら」
「行ってらっしゃい」
 姉貴たちは職場に出て行った。
 アパートの二階に取り残された俺はというと少ない持ち金を眺めながら以前まで中学生だった自分がいつも手にしていた革製の鞄を握り締め暫くしてから、とりあえず動き出す。
革の鞄の中に必要なものだけを詰め込んでアパートの二階を降りながら、この先どうするかを考えていた。
階段を下りる度に財布の中のじゃらついた小銭とプラス兄貴に貰った小銭が僅かに音を立てる。

 いつも通りの見慣れた道を行く。
 中学校に戻るわけでもないがあの頃と同じ道を今日も歩いていたら待っていましたとばかりに目先に映るレトロな造りの駄菓子屋と相変わらず大きて横長のアイスボックスが目に留まる。
 ほんの僅かながら貰った金を無駄にしなくてより多く手ごろな菓子が購入できる駄菓子という貴重食を購入すべく俺は足を止めて財布を鞄の中から取り出してから財布の中身を確かめるように開けてみた。

「〜〜〜〜……っ!!」
 声に成らない叫びを上げる。
 こんなことって本当にありえるんだと確信したのもつかの間で昨日の夜寝る前に確かに兄貴から受け取った筈の金がまるっと消えていたもんだから叫んで驚きを表現していたら俺より更に驚いていた駄菓子屋のばあちゃんは腰を抜かしながら唖然としていた。
 このときはお互い驚いて何もいえない状況というか、この先どう対処してあげればいいのか言葉に詰まるという密かな問題が俺と駄菓子屋のばあちゃんの間に発生していたことは今の俺等にしか解らないだろう。


「とありあえず、……これください」
 暫くしてから当初の目的を思い出した俺はさっそく食料の調達を始めて適当にかき集めた菓子の山を両手に抱え込みながら俺はばあちゃんに言った。
 ポテトチップスWコンソメ味とチュッパチャップスと風船ガム。
 組み合わせがどうとかそういうのは関係なく俺なりに考えあってのセレクト方法である。
 選ぶときに必ず気をつけておかなければならないのが賞味期限。という基本な考え方はもちろんのこと出来るだけ賞味期限が来年の話になっているものか今年の期間なら長持ちできそうなものを選んでおくと後々腹痛を起こさずに済む。
 飴類は噛み砕かなければ暫くは長持ちするけれどガムの場合は注意しておいたほうがいい。
 後々ベタついて大変なことになるから気をつけろ。
「まいどあり」



 食料調達を終えた俺はとりあえず駄菓子屋から離れ、どうするか考えた。
 正直、行く当てなんて実際そんなに多くも少なくもない。
 昔からあまり人見知りをしない性格で友達もわりと多いほうだから、いざとなったら友達の所にでも泊めてもらおうかと思ったが実際に友達に会ってみると状況を説明するのに困難だった。
 まず一人目。次に二人目、三人目……。
 とりあえず手当たりしだい家々を回ってみたが結局どれも駄目で「何だそれ」とか「どうして?」という言葉をたて続きに訊いて聞き返して、それの繰り返しばかりで答えるほうも段々と辛く感じてきた。

 それからまた歩いてみる。
 暫くして探す当ても底を尽きてきた。

 そこから何の記憶もない。
 ただ何も考えずに空腹に耐えながら彷徨っていたからか、今日が燃えるゴミの日だったからか、蝿が周りで飛び交っていそうなツーンとくる臭さを鼻にした流れで目が覚める。
 すると友達の家というか一応はクラスメイトだったけどあまり親しい仲じゃなかったような記憶がある槙原の住むマンション前のゴミ捨て場の中に行き倒れていた。
「…………」
「あれ? まこっちゃ……んだよね? ああ、やっぱりそうだ。まこっちゃんだ」
 まこっちゃん。つまり俺のこと。
 御囲地命(おかちまこと)だからオカちゃんとか御囲地町とか呼ばれている中でも最も多いあだ名でもあるこんなあだ名を知っているのはこのマンションの十階に住んでいる槙原か、クラスメイトの誰かくらいしか居ない。
「僕だよ。槙原、槙原健之助っ」
「………ああ」
 やっぱりだ。こんな言い方をするのは槙原以外の何者でもない。
 顔の向きを変えてみると両手に不透明の大きな袋をヤジロベエみたいに持ったまま、こちらを覗き込んでいた。
 つまりこれは惨めな俺を十階上から偶然にも発見したので助けに来たよというものではなくゴミを捨てに来たよという行動だった。
 なら声を掛けないでくれ。と心のそこから思った。
 朝から何も口にしていなくてその上基本的に体力はあっても気力がない子だから、とりあえず歩いているという意識だけは残っていてそれ以外は何も受け付けていないままで俺をここまで導いたのだろう。
「……大丈夫?」
「………これが……ダイジョーブに見えるか?」
「ううん。全然」
 もはや気力より無意識的な体力の導きに感謝せざるおえない。
 先ほど立ち寄った駄菓子屋で購入した菓子の入った袋を左手に、右手にスクール鞄をしっかり握っていながら行き倒れていたということには自分でも感動するけど他の生ゴミに紛れ込んで倒れていた自分に泣きたい。


 とりあえず、事情を一通り説明して槙原の家に泊めてくれと神に縋るような勢いで頼んでみる。
「別にそれは構わないよ? ――ただ……」
 これぞ地獄に仏。あまり親しい仲でもなかった槙原がいく当てもない哀れな俺を快く受け止めてくれた。槙原万歳! やっぱり友達が一番最高だよ!! 心のそこから喜びに溢れていたが、そうしているのもつかの間だった。
「ただ?」
「その臭う服で僕の家に上がらないでくれる? 汚らわしい」
「てめえ……」
「まあ、いつもなら汚すような人を家に上げはしないけど……。居候としてならあげてもいいよ?」
 いい気に成ってて凄い腹がたつ。こっちが黙って聞いてりゃ王家貴族を気取りやがって、ジミー王子!
 こいつの本性が見えた瞬間、仏面した悪魔を目の当たりにした気がする。
 普段はどちらかというと物静かで教室の隅っこでじっとしてる感じ。
 友達もそんなに多く居なさそうな、とてもジミーな存在感がない影が薄い可哀想なイメージ全開の子。

 そんなジミー君も、今では酷く汚らわしい愚民を見下す王家貴族のような目を向けるムカつく奴になっていた。
 心の中では思いたい放題思えるのだが惜しくも口に出せないことだらけで、実際のところ臆病な俺だから小さく舌打ちをするしかなかった。
 何故ならこの先、本当に槙原の家に居候せざる終えない日が近いうちに来るかもしれないから。

第2話『流されてエイリアン』

「ほら、早くしてよっ」
「………」
 鵜呑みにする。
 鵜が魚を丸呑みにすることから物事の真意をよく理解せずに受け入れることをいう。
 職業は未だ何もない状態で人様の家に引き取られ主の面倒を看ている人種が取る行動はバイトの中に入るのか。
 少し際どい心境というか、お金が一文(いちもん)も貰えていないので、多分これは某執事コメディの主人公と同じ心境になるかも知れない。

 居候兼執事兼同世代の友人だというのになんなんだ、この差は。
 これが王家と愚民の差というものなのか。

 俺みたいな地球人の母親とエイリアンの父親とはわけが違い、ジミーこと槙原健之助は中国人の母親と日本人の父親の血を受け継ぐハーフだ。
 きっと槙原の体内では日中平和条約が結ばれているに違いない。
 自分が今更ながらエイリアンの息子だったという自慢はやってみてもあまり張り合いがない。
 それどころか無意味なことだから地球に住む人類の皆々様方には内緒にしておきながら、というか話すのも面倒なので生きていくうえで重要そうでそうでない一部の伽羅設定として受け止めてくれ。


 今日も槙原がいつも通るという見慣れない道の上を俺と槙原が歩いている。
 一度は歩いてきたであろう道のりを逆上りに暫く進んでいくと中央通公園という近所の公園に差し掛かる。
 この公園、何故「中央通公園」かというと、便利なことに駅の中央口への近道になっていることから由来しているらしい。
 槙原の住むマンション付近に住む住人の大半が、わざわざ園内を通って駅の中央口に行くんだとか。

 槙原は誰も聞いちゃ居ない思い出話を話し始めて時間がないという割にはものすごく余裕があるように聞こえる長々しい説明文を横流しにしながら歩いていた。
「僕が始めて日本に来たとき、最初に遊んだ思いである公園なんだ。いろんな遊具が設置してあって一度は試しに全部を制覇してみたんだけどどれもグッときてバッとくるものがなくて物足りなかったんだけどね」
 日曜日なのに忙しい忙しいと言い回している性もない人様の思い出話を聞き入れる感じじゃない。
 かといって他に話題があるわけでもないから仕方なく耳にしていたら、今度は行動までも流されていて気が付いたら通り越しているはずの中央通公園の中を歩いていた。
「――……でも、一つだけ制覇していないものがあったんだ」
「えっ」
 あー……ごめん、ジミー槙原。
 あまりの長さに思い出話の中盤聞いてなかった。
 何があったのかはたいてい予想が付くけど母校の明るい校長と同じくらい長々しい音読というか昔話が語り部だけのBGMの様に流れる物語を今も聞いている最中。
 ダルい厭きた。という感情を通り越して、眠い帰りたい。しかも数秒短時間も真っ直ぐ立っていられない状態。
 それでも心地よい風を肌に感じて放心状態になりかけた途端、BGMがぷつんっと切れて、はっとする。
 俯いていた顔を上げて眺める俺を他所に槙原は漫然と語りだした。
 本当に槙原は歩くラジオの様だ。
「聞いたい? 聞きたいよね。ね?? つーか聞け」
「………」
 しつこく話の内容を盛り上げようとする槙原は俺の回答を待たずに話を中略化する。
 仕方ないから聞いてやるよ、別に大して興味はないけど……。
「海外ドラマやホラー映画とかによく出てくる未知の生物との激突! エイリアン退治を制覇してみたいんだっ」
「………」
 多分、この場で飲み物を口に含んでいたら真っ先に槙原の足元めがけて流していただろう。
 ぽっかりと開いた口元が元に戻らないくらい言葉を失った俺は呆気な顔で槙原を見た。
 公園関係ないじゃん!! 心の底から思いを込めてツッコミをしてみる。
 中国系のホラー映画がどんなのかは知らないが、槙原の思い切った発言に言い返す言葉も浮かばず、ただ軽い相槌をした。
「……へえ」
「そもそもエイリアンというのは……」
 もしも今は無き父親の最後の言葉が本当だとしたら、俺はどのような対応をするだろう。
 実は俺、エイリアンなんです。予算もないのに地球侵略であります。空腹と戦う。
 事情を説明した上で同意してもらう。こんな不束者の俺ですが、よろしくお願いします。
 オバタリアン。化粧を落とせばエイリアン。……いや、これは違うな。というか、さっきから全く関係のない言葉がわんさか出てくる。
 未だ信し難い真実のような冗談のような話を思い浮かべながら、槙原の自慢話を聞かされる。
 そういえば某宇宙蛙のアニメで、僕たち友達だよね。○○殿と我輩は友達であります! なーんて言ってる宇宙人が居たり、ダーリン許せないっちゃ! とか何とか言ってる宇宙人も居たり何だりテレビでは言ってたから、もしもの時は大丈夫だろう。

 よくは分からないが、いつの間にかエイリアンについての薀蓄を語り始めていた。
 槙原と薀蓄と公園を目や耳に入れながら、過ぎていく時の流れを肌に感じる。

「英語で外国人を指す言葉で、主に異邦人の事を言っていたが、いつしかSF用語で異星人の事を指して言うようになって一般に地球人と同等の知性を有する存在。つまり獰猛な宇宙生物の名称になったんだ」

 今度の槙原は歩く辞書か何かか?
 何にせよ、語りだした彼の口を今更、止める事なんて出来ない。
 やろうと思えば出来るのだけど、今はエイリアンの話題しかなさそうなので、あえて止めないで流させる。
 聞いている分には飽きない。

「本来の英語では「alien」つまり外国人を意味していたが、映画シリーズの『エイリアン』がヒットして以降、この言葉は異星人や映画『エイリアン』の意味で使われることが多くなって……」

 やっぱり止めたほうがいいのかもしれない。
 気づけば日も暮れていて、一体何のために公園に居るのか、さっぱり分からなくなっていた。
 因みに「alien」を「エイリアン」と表記するのは映画シリーズだけ。
 それ以前は「エーリアン」と表記する事が多くて、日本ではエイリアンの敵対的宇宙生物を意味せずに友好や敵対的の双方を含むさまざまな異星人宇宙生物を包括的に意味する事が多いらしい。
 半分、寝ていた俺は不意に起き上がり、慌てて手のひらで槙原の口を塞いだ。
 さすがの本人も口を塞がれた事に抵抗して「もっと語らせろ」と言ってきたが、公園だけにエイリアン口演をしないでくれ。
2007/12/20(Thu)15:41:49 公開 / 修羅場
■この作品の著作権は修羅場さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
更新はゆっくり亀並みですが……まぁ、ゆるくお付き合いしてくれたらいいなあ…なんてね(苦笑)そんなことを考えていたらクリスマスが近くなっていた。
季節関係なく話は進みます。というより季節はずれです。
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