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『黒い目』 作者:平 / 未分類 ショート*2
全角1978文字
容量3956 bytes
原稿用紙約6.4枚
全てに失望している男の話。彼が見たのは現実か、夢幻か。
 男は嘘をついた。自分を守るために。皆は男を責めた。男は――

 小さな小さな部屋の中に、一人の男が立っていた。足元に広がる赤い液体は彼の血だろう、彼の目玉は形を変えて、原型を留めてはいなかった。彼の手には、血で真っ赤に色を染めたドライバーが握られている。
 男は失望していた、人間に、目の前に広がる世界に、全てに。だから男は目玉を刺した、手に握り締めているそのドライバーで目玉を刺した。醜い世界が、もう二度と見えぬようにと。
 目玉を無くした男の世界から光は消え、変わりに闇が周りを覆う、それと同時に男の世界に音が流れ込んできた。
 学校の鐘の音、車の騒音、隣人の下手な歌声、子供達の笑い声、いつもより大きく鮮明に男の頭に響いた。
「……うるさい、うるさいんだよぉおおおお!」
 男は狂った様に叫び踊る。
 ブスッ! ブスッ!
 ――男の世界から音が消えた。
 目玉を無くし、鼓膜を貫いた男の世界は、とても静かだった。もう醜い世界を見ずに済む、それに学校の鐘の音も、車の騒音も、隣人の下手な歌声も、餓鬼の笑い声も、もうどんな雑音も頭に響く事は無い。
「あぁ、なんて美しい世界なんだ」
 男の口から自然と言葉がこぼれ落ちる。男は産まれて初めて満たされていた、全てから開放されて今にも――
「おい!」
 突然、何も聞こえぬはずの男の頭に音が響く。
「おい! 聞こえてるんだろ? 返事くらいしたらどうだ」
 男は手探りで足元に落ちているドライバーを拾うと、再度自分の耳元目掛け突き刺した、何度も、何度も。それでも音はいっこうに鳴り止む事無く、何度も何度も男に話しかけるのであった。
「がめでぐで! あべろ! んろ!」
 言葉にならぬ言葉を叫びながら、ドライバーを耳元目掛けて突き立てる、耳は剥ぎ落ち、裂けた皮膚の内側からは
頭蓋骨が頭を覗かせていた。
 声は止まぬも、しだいに突き立てる男の手は止まる、そしてその場に倒れると、もう動くことはなかった。


 しばらくして、目が覚めた男の目に入ってきたもの、……変わらぬ闇だった、でも先程までとは何かが違う、潰した筈の目玉が付いている、削げ落ちたはずの耳も、裂けたはずの皮膚も元に戻っていた。
「どうなってるんだ? ここは何処だ?」
 困惑気味に辺りを見渡してみるが、そのに在るのは男と何処までも続く深い闇だけ。
 信仰の無い親のせいか、男は神を信じていなかった、もちろん天国や地獄みたいなあの世の存在も。男の信じているもの、それは自身の目に映る醜い世界、それと自身の耳から頭に響く騒音、それだけだった。
 しかし現に今、どう見ても現実とは思えない空間に一人ポツンと居る訳で……。
「おいおい一人じゃないぜ、俺を数え忘れんなよ、それとも自分を数え忘れていやがるのか?」
 闇の中、誰かが男に話しかける。
 驚いた男は周りを見渡してみるが、誰も居ない。
「おいおい何処見てんだよ、目の前だよ目の前!」
 男は目の前を凝視する、しかしそこには何も無くて。……いや、よく見ると何か動く影が見える、闇よりも暗く黒い影、そいつが男の目の前をユラユラと揺れていた。
「そうさ、それが俺だ、ずっと一人で退屈してたんだ、お前が来てくれて嬉しいよ」
 そう言うと、黒い影は嬉しそうにクルクルと男の周りを回ってみせた。
「君は何なんだ? ここは何処なんだ?」
「俺が何かって? ここが何処かって? 俺は俺さ、ここはここ、見りゃ解るだろ?」
「見ればって言われても……そうだ、何故目が見えるんだ? 私の目は潰れた筈だ、それに耳も――」
「ああ潰れたさ、グチャッとな」

 
 ――それから黒い影は男に色々話してくれた、自分の事、この場所の事、自分の知っている世界の全てを。影の声はガサツであったが何故か男に安らぎを与えた。懐かしくて、優しくて、温かくて……。
 影の話によると――昔々この世界に光は無く、皆闇を纏いお互いを確かめ合うかのように絡みあっていた、それだけで皆幸せだった。
 ところがある時、突然一つの影が姿を消した。それから日が経つ毎に影は一つ、また一つと姿を消していき、とうとう自分一人になってしまった。
「原因が解ったのはそれから……長い月日が流れた頃だ、長すぎて覚えちゃいない」
「それでその原因ってのは何だったんだい?」
 ハァと、ため息をつく影に男は問いかける。
「ああ、原因か、原因はこれさ」
 そう言うと、影は男の前に一つの珠を差し出した。珠はよく見ないと分からない程わずかに光っていた。
 これが原因? そう言おうとした男の意識は言葉を発する前に消えた。テレビの電源が切れたかの様に。















「喰ったんだ、皆喰ってやったんだ、これは俺の珠。あぁあああなんて綺麗なんだ」
 闇に響くは闇の声 誰にも届く事の無いその声は 何処までも 何処までも……。
2007/06/10(Sun)13:41:08 公開 /
■この作品の著作権は平さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後まで読んでくださった方、どうもありがとう御座いました。
誤字や日本語ちゃんと使えていない所多々あるかもですが、そこは脳内修正で宜しくです(オイ (アドバイスなんか貰えると嬉しいです。
神とかあの世とか、本当に在るんだろうか。神を全く信じていない派の私ですが、
神は心が広いはず、信じていなくてもきっと受け入れてくれると信じています。終
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