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『さくらばな』 作者:ゅぇ / ショート*2 恋愛小説
全角4240.5文字
容量8481 bytes
原稿用紙約15.3枚
日菜子も好き。鉄平も好き。だからわたしはなにも言わない。



   【さくらばな】


 


 ――みずから苦しむか、もしくは他人を苦しませるか。そのいずれかなしに恋愛というものは存在しない。
                                              byレニエ

 ◇ ◇ ◇

 
 ――大学三年生、四月。

 

 桜の花びらが、春の強い風にあおられて何度も舞った。同じ花びらはもう二度とこの世に生まれないんだろうな、ふとそんなことを思った。
「今度ね、てっちゃんと沖縄旅行に行くのよ」
 幸せそうな日菜子の顔をみるのは、けっして嫌なことではなかった。わたしは日菜子のことが好きだった。彼女の屈託のない明るい笑顔も、隠しだてすることを知らない開けっぴろげな性格も。
 わたしは鉄平のことも好きだった。爽やかな彼の笑顔も、いつでも人の輪の中心にいる明朗な性格も。
 大切なのは、わたしが“ふたりとも好きだ”ということだった。だからわたしは、もう七年近くも鉄平への恋心を抑えてくることができたのだ。

 ――七年。あたしてっちゃんのことが好きなの、と日菜子に打ち明けられたあのときから、もう七年だ。わたしたちはもう大学三年になり、日菜子と鉄平が付き合いはじめてから二年が経った。
 鉄平を見つめるわたしの瞳に、どうか恋心がにじんでいませんように。そんな気遣いをするのにも、慣れた。
「いいよね、彼氏持ちはさー」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ねっ、ちゃんと志保にもお土産買ってきてあげるから」
 大学のオープンカフェで、沖縄のパンフレットを嬉しそうにめくっている。時おり携帯でメールをうっているのは、おそらく鉄平への返信なのだろう。
 日菜子が好き。
 鉄平も好き。
 あのふたりがうまくいけばいい――それは本心。

 日菜子が好き。
 鉄平に恋してる。
 あのふたりが別れてしまえばいい――それも本心。

 わたしが鉄平に想いを伝えないのは、“どっちも好きだから”なんていう綺麗ごとだけが理由ではない。この心地よい三人の関係を、わたしは壊したくなかった。人間関係に対する、ありきたりなおびえ。
(ありきたりにもほどがあるよね)
 少女漫画では、きっとうまくいく。主人公の想いが何かのきっかけで露呈して、男のほうも実は主人公のことが好き。主人公と親友の関係は一時期とても険悪になるけれど、どうせ最後には仲直りをして、何もかもがうまくいく。
 
 現実は、そんなもんじゃない。
 
 大学三年生のゴールデンウイーク。わたしは笑顔で日菜子たちが沖縄旅行へ行くのを見送った。わざわざ車で空港に送っていって。自分の心を隠すなんてことは、大学の試験よりも就職活動よりも、よっぽど簡単なことだった。


 
 ◇ ◇ ◇

 
 ――二十四歳、八月。

 
 わたしたちの関係は、変わらなかった。十八年近くも築いてきた関係は、簡単には壊れない――というよりは、誰かが故意に壊そうとしない限りはけっして壊れない、安定したものだった。
 日菜子と鉄平が付き合いはじめて、六年が経っていた。
「一緒に旅行いくんじゃなかったの?」
「会社の同僚たちと海外だってさ」
 けろりとした表情で、鉄平はそう言った。あまり寂しそうにはみえず、それがもしかすると彼らの絆の深さなのかもしれないと思って、わたしは一抹の切なさを感じた。この、胸がぎゅっと締めつけられる感覚。“胸がぎゅっと締めつけられる”なんて、そんな陳腐な表現――けれど確かにそれ以外表現しようのない感覚。
 わたしにはそれらをすべて隠しとおす自信がある。
「でもさ、あんまり連絡とらなくなったよな」
「誰が」
「俺と日菜子」
 そりゃもう社会人になったんだから、しょっちゅう連絡なんてしてられないよ。わたしはそういって、鉄平が開けてくれた缶コーヒーを受けとった。
「おまえは日菜子と連絡とってる?」
「ほとんどとってないよ。飲みに行ったり、遊びに行ったりするときくらい」
 ふと違和感を覚えて、わたしは黙った。もしかすると、鉄平も同じ違和感を覚えていたかもしれない。
 
 わたしたち三人は、大学を卒業して三者三様の道を歩きはじめたのだ。もう今までのように、同じフィールドに立つことはない。
 あのころは朝から晩まで、ほとんど三人が同じようなスケジュールだった。けれどもう、わたしたちはそれぞれの生活を手に入れた。連絡をとらなくなるのも、けっしておかしいことではなかった。連絡をとらないからといって、絆が切れるわけでもない。
 鉄平と日菜子は、あまり連絡をとらなくなった。
 わたしと日菜子も、あまり連絡をとらなくなった。
 わたしと鉄平は――毎日のようにメールをしたり、電話をしたりしていた。覚えた違和感は、それだった。
「…………」
「…………」
 つと鉄平と視線がぶつかる。けっして意味ありげな視線ではなかったけれど、ふたり同じ違和感を覚えていたことに気付いて、思わず笑いあった。
「俺たちもう二十四だぜー。おまえももうオバチャンだよ」
 こん、と鉄平がわたしの頭を軽く小突く。中学生のとき、高校生のときまでは普通にできていたことだった。たぶん日菜子と付き合いはじめてからだ――わたしも鉄平も日菜子への気遣いを覚えて、お互い小突きあったり触れあったり、そんなことは一切しなくなった。
「うるさいってば。そんなら鉄平だってオッサンでしょ」
 鉄平のしっかりとした腕を、思いきり叩いた。日菜子が海外にいるからできたことなのかもしれない。この――昔を懐かしく思い出させるような行為。
「日菜子とより、おまえとのほうが仲良いかもしんないね」
(あ)
 言ってはいけないことを言った、と思った。

 
 気持ちの問題だ。
 気持ちの問題として、わたしたちのあいだには言ってはいけないことが多すぎる。やってはいけないことが多すぎる。
 男と女は不自由だ、と思った。

 ごめん日菜子、と思いながら、日菜子が海外へ行っているあいだ、わたしと鉄平は何度も遊んだ。日菜子がいればけっして座ることのない、鉄平の車の助手席に座る。日菜子がいればけっして触れることのない、鉄平の体温にふと触れる。
 もしもあのとき日菜子が、鉄平への恋心をわたしに打ち明けていなかったら。

 
 ――日菜子の場所に、わたしがいたのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇


 
 ――三十一歳、十二月。

 
 わたしは、もうほとんど鉄平たちと会わなくなった。鉄平と日菜子は結婚して、もうひとりの子供がいる。日菜子も仕事で忙しかったし、メールをした感じでは鉄平も忙しくしているようだった。
 鉄平とは、たまに電話をする。
 日菜子への気遣いなのか、単なる暇つぶしなのか、ほとんどが仕事の残業で残っているときの夜中の電話だった。それでもわたしは、鉄平からの着信はけっして無視しない。どんな夜中でも、わたしは起きた。
『最近どう?』
 久しぶりであればあるほど、彼の声を聞くと切なくなった。その切なさで、自分が今でも彼を好きなのだと痛感する。
 たとえ想いが報われなくてもよかったのだ。好きなときに会えて、幼なじみとして付き合えればそれで。けれどわたしと鉄平は、まぎれもなく傍からみれば異性どうしなわけで、当然思うようにはいかない。それがどこまでももどかしく、どこまでも寂しかった。
 こんなことなら、男に生まれたかった――そんなことさえ思った。
 もう一度、中学三年のころに戻してくれたなら。
(日菜子よりも先に、気持ちを伝えるのに……)
『あ、誕生日おめでとう』
「え?」
 思い出したような物言いに、わたしはふと携帯から耳をはなしてディスプレイを見た。午前零時だった。
『おまえもまじでそろそろオバチャンだなー!』
 嬉しそうな声が、向こうから聞こえてくる。変わらない明朗な声。誕生日には、毎年欠かさずおめでとうの電話をくれる。日菜子でさえ忘れてしまうことがあるのに。そんなことがいちいち嬉しくて、わたしはいつまで経っても鉄平から離れられないのだ。
(鉄平。あなたのほうから離れてくれたら、どんなにか楽なのに……)
 わたしからは、離れられない。
 こんなに長い年月――なんて不毛な恋なんだろう。もう三十一歳だ。現実の厳しさも、世間の厳しさも、もうじゅうぶんに知っている。
 わたしたちはもう、あのころの少年少女ではない。
 あのころは出来なかったことが、今は出来るようになった。
 そのかわりに、あのころは出来ていたことが、今は出来なくなった。
 わたしたちは、とても自由でどこまでも不自由な、そんな大人になってしまった。

 
 人生は一度きり。やり直しなんてきかないんだよ。

 いつか大人に聞かされた言葉を、大人になってから身をもって知る。



  ◇ ◇ ◇

 
 ――三十六歳、四月。


 
 日菜子が、交通事故で死んだ。

 四十九日の法要が終わった翌日、わたしは鉄平に誘われて三人が通った高校へ足を向けた。
「懐かし……」
 かつて、三人並んで登校した桜並木の歩道。桜の花びらが、春の強い風にあおられて何度も舞った。
 日菜子の明るい笑顔が懐かしかった。どうでもいいことでにこにこと笑う少女で、誰からも好かれていたのを覚えている。この桜並木に感動して、毎日騒いでいたのも日菜子だった。そんな子だったから、鉄平に対する想いを聞いたとき、素直に邪魔したくないと思ったのだった。
「俺、高校三年のときに二回、日菜子に告られてたんだ」
「……うそ」
 日菜子が鉄平に告白をして、それがOKだったと大喜びしていたのは確か大学一年のときだったはずである。驚いて、わたしは鉄平を見上げた。
「初耳だし」
「初めて言ったもん。日菜子が言うなっつーから」
「やだ、何それ」
「まあ、俺さ。そのとき二回とも日菜子のこと、ふっちゃったから」
 唖然としたわたしの頬に、桜の花びらがぺたりと間抜けにはりつく。それを指先でつまんで、鉄平は困ったように笑ってみせた。





「俺、それよりもずっと前から、おまえのことが好きだったもんでさ」




 “ずっと前から、おまえのことが好きだった”






 不思議と喜びはなかった。
 眩暈がするような、妙な絶望感に襲われていた。
 人生は一度きり。やり直しなんてきかないんだよ。
 いつか大人に聞かされた言葉を、大人になってから身をもって知る。




 鉄平。
 わたしだってずっとずっと前から、あなたのことが好きだったのに。




2007/04/30(Mon)18:50:19 公開 / ゅぇ
■この作品の著作権はゅぇさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
花の色はうつりにけりないたづらにわがみよにふるながめせしまに。

の和歌をもともとはベースにしていたら、いつのまにかどっか行きました。どうしたんだろう。最近、伝えたいことがうまく伝えられていない気がします。何か……こう、えれぇ拙いなぁと思いながら。

ごめんなさい。

一番最後、どこまで丁寧に書くべきなのか、どこまで削っていいのか、いまいち分かりませんでした。日菜子が死んだからって付き合って万歳、というわけには……いきませんよねぇ普通。長編が上手ってわけでもないけれど、やっぱり読みきりは苦手です。ブー。
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