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『彼女の密かな殺人計画』 作者:コーヒーCUP / ミステリ ショート*2
全角4736.5文字
容量9473 bytes
原稿用紙約13.9枚
 三倉空と初めて会ったのは、三ヶ月前だった。しかし会うまでに、俺は彼女の事を知り尽くしていた。別にストーカーをしていたわけではない。相手が教えてきたのだ。自分の好きなものや嫌いなもの。それ以外にもたくさん教えてきた。どこで教えてきたかというと、チャットルームだ。
 ネットの出会い系サイトで知り合ったのが一年前。前の恋人をふったすぐ後だった。元々、前の恋人もそこで出会ったやつだったで、新しい恋人をみつけるのも、カップラーメンを作るくらい簡単だった。
 そして出会ったのが三倉空であった。チャットで数度はなした事があり、恋人になる以前から、そのサイトにいる彼女の存在は知っていた。出会い系とは恋人になるまで時間は要らない。何度かチャットやメールで会話し、そして実際(リアル)で会えば、恋人成立だ。だから、俺の恋人は、三ヶ月前から三倉空である。
 今日は彼女がはじめて、自宅に来る日であった。最後に会ったのは二週間目の日曜日だが、これは実際に二人で食事をとり、顔を見た日である。チャットでなら、昨日会っている。
 一昨日、彼女が会いたいと言ってきた。二週間前に会った所で、俺はそんなに頻繁に会わなくてもいいといったが、彼女は言った。
『私の家はあなたに紹介したのに、あなたの家はまだ紹介されてない!』
 そういえば、そうであった。出会い系サイトで知り合ったところで、恋人は恋人である。お互いの家の場所くらいは、知っておきたい。俺はすでに二ヶ月前、彼女の家を紹介され、そこで夕食までいただいた。しかし、出会って三ヶ月、まだ俺の家は紹介していなかった。
 彼女が明後日、つまり今日の夜なら明日が会社が休みだし空いている、と言ったので、メールで住所を教えた。
 夜の九時ごろにこっち来る、と言っていたので、それまで出前でもとっておこうか。
 俺の家は、ごく普通のマンションの一室。俺は今、リビングでテレビを見ていた。今日と明日は仕事が休みだ。だからこそ、今夜、彼女を招待したんだ。
 ソファーの正面にあるガラスのテーブルを上にある灰皿にくわえていたタバコを押し付け、火を消した。時計を見てみると、七時半だった。ソファーから立ち上がり、廊下においてある電話台の上に置いてある電話でピザの出前をしといた。今日は客が少ないらしく、九時までには余裕で配達できるらしい。それを聞き安心した。
 またソファーに座り、テレビを見た。大して面白くも無いバライティ番組がやっていた。
 ソファーに寝転がり、目を瞑った。すると頭の中で、前の恋人の顔が浮かんできた。
 前の恋人――嫌いではなかった。好きでもなかった。だから別れた。あいつは俺から「別れてくれ」と言うと、必死に止めてきた。その止める姿が、とても痛々しかった。そして俺が「別れてくれ。もう、お前の事を愛していない」というと、彼女はこう言った。
『……後悔させてやる』
 彼女は……元気でやってるだろうか。別れてからは、彼女の情報などまったく知らない。
 元気でやってるのか? 心の中で、そう問いかけた。


 *


 島道用陽子(しまみちようこ)は、ある男を今夜、殺す計画をたてていた。後悔させてやる。その言葉を実現させるために。
 今夜、彼は九時に人と会う予定をたてている。その恋人が第一発見者となる。
 まず、八時半頃に、彼の部屋におしいり、彼を刺殺する。殺害時はレインコートを着て、返り血を防ぐ。彼を殺害した後。血まみれのナイフとレインコートをゴミ袋に入れる。そしてゴミ袋に彼の部屋の物、できれば金目の物を詰め込み、彼の部屋を荒らす。
 そして部屋を出て、エレベーターは使わず、階段でゴミ袋を下に運び、近くのゴミ捨て場に他のゴミと混ぜて捨てる。
 作業時間は二十分程度を予定している。簡単なトリックだが、見破られるはずが無い。彼女は、もし自分が疑われても、アリバイがある。
 彼女の会社から彼の家までは、どんなに急いでも、二時間はかかる。しかし、今は八時半。彼女はすでに彼の部屋の扉の前にいた。
 簡単な時間差トリックを使った。
 彼女の仕事は、雑誌記者だ。これの仕事が役に立った。同僚には、取材等で疲れて仮眠室で寝ている同僚もいる。彼女は寝ている同僚に、別れを告げるふりをして、同僚を起こし、今は七時だから、後すこし寝れるよ、と言った。同僚は、また寝た。
 その後、誰にも見られないように会社を出たのだ。六時半に。
 今は八時半。レインコートを着て、片手にナイフを持っている。レインコートの中にはゴミ袋を忍ばせていた。これで準備は完璧である。後は、実行するだけだ。
 震える指で、ゆっくりとインターホンを押した。ピンポーン、という音が流れる。
 しばらくすると、彼が出てきた。タバコをくわえていて、彼女が来た事に驚いていた。
「なんで、お前――!」
 彼女は、彼の左胸をナイフで刺した。精一杯の力を込めて。心臓までナイフが届くように。彼が間違いなく死ぬように。後悔させてやる。その言葉を実現させるために。
 家に入り、玄関の扉を閉めた。ナイフを手から離すと、彼の左胸につきささったままになった。彼はすぐに倒れた。間違いなく、死んでいた。
 その後は計画通りやった。彼の部屋を必要以上に荒らし、金目の物と一緒にレインコート、そしてナイフを入れ、彼の服なども入れて、ゴミ袋をパンパンにした。
 そして彼の部屋を出た。明日はゴミの日だ。エレベーターに乗ると監視カメラに姿が映ってしまう。だから階段で一回まで降りて、近くのゴミ捨て場にゴミ袋を放置した。彼女が捨てたゴミ袋以外にも、捨ててあるゴミ袋があった。
 これで、完全犯罪が出来た。警察は金目の物や部屋が荒らされている状況から、強盗殺人で調べるだろう。自分に容疑がかかって、アリバイがある。
 彼女は、すこし微笑みながら、ゴミ捨て場を後にした。
 時間は、八時五十分だった。


 *


 三倉空が彼の住むマンションに着いたのは、九時十分だった。エレベーターで彼の部屋のある七階まであ上がり、彼の部屋に向かった。
 彼の部屋に行こうとすると、部屋の前では数人の警官が彼の部屋の前に立っていた。扉には『立ち入り禁止』と印刷されている黄色いテープが貼られれていた。
 動揺した。そして少し震えた足で扉の前に立つ警官に近づき、何があったのかを聞いた。
「事件です。この部屋に住む栗村治虫さんの遺体が発見されました」
 信じられない。彼女はそう思った。何で?
 三倉は、震えた口を開き、警官に言った。
「わ、私、彼の恋人です。こ、こ、今夜、彼と会うはずだったんです」
 そういうと警官はひどく驚いていた。目を見開き、すぐに無線で誰かに連絡を入れた。無線で話し終えた警官は、私の目を見た。するどい目つきだった。
「お話があります。ちょっと来ていただけますか」
 三倉は頷いた。するり警官は、ついてくるように言い、スタスタと歩き始めた。三倉は後を追った。



 警官に案内された場所は、マンションの外に駐車されていたパトカーの中だった。警官がパトカーに入るように指示したので、素直に指示に従いパトカーの中に入った。後部座席には、すでに先客がいた。ビクビクと、震えながら泣いている女の子だった。まだ若そうで、二十代前半だろう、と思った。彼女はある有名なピザ屋の制服を着ていて、どうやらそこの社員らしかった。
 前座席には緑色のコートを着たまだ若い男が座っていた。恐らくは刑事かなにかだろう。
 三倉は震える女の子の横に座った。
 前座席に座っていた若い男が振り返った。まだ全然若そうだ。大学生です、と言われたら、信じてしまうだろう。目つきが悪いのは、警察の人間だからだろうか。
「ええと、お話はきってますよ。栗村さんの恋人さんですよね。僕、こういう者です」
 男はそう言うと胸ポケットから警察手帳を出した。二つ折りにされた手帳を開くと男の顔写真があり、その下に『警部補 立原順二』と書かれていた。
「立原です。ちょっとだけですけど、ご協力お願いしますか?」
「はい」
 三倉は返事をしたが、横にいたピザ屋の女の子は、ただ震えているだけだった。
「ええと、あずお名前とかをおしえていただけますか?」
 捜査協力という名の事情聴取のため、三倉は自分の名前や勤め先、携帯と家の電話番号など、訊かれたことには全て答えた。女の子も、何とか答えていた。
 この女のこそ、第一発見者らしい。ピザの配達のため彼の部屋に行き、インターホーンを押したが彼が出ないので、ためにドアを開けてみると、玄関先に彼の遺体を見つけたらしい。
「恋人さんにこんなこと言っていいのか分かりませんけど、遺体は心臓を一刺しされていて、ほとんど即死だったと思われます」
 そうですか、と小さな返事をした。まさか……なんで……、という言葉が彼女の中でかけめぐっていた。
「ところで、栗村さんとどういうご関係で?」
 三倉は出会い系サイトで彼とであった事など、全て話した。その間、立原は無線と誰かと話していたが、何を話しているかは聞き取れなかった。恐らくは捜査状況を報告しあっているのだろう、と勝手に考えていた。
 無線で話し終えた立原が鋭い目つきで、三倉を睨んだ。
「たった今、あなたが犯人だという連絡がはいりました」
 ……まさか、そんなはずは無い。三倉はそう自分に言い聞かせた。きっと、この刑事の間違いだ。
「あなたは、完全犯罪でもやってのけたつもりでしょうが、警察をなめないでください。あなたが考えたトリックくらい、一時間もしないうちにつぶせます」
 頬につめたい汗が流れた。おちつけ、おちつくんだ。三倉は自分を落ち着かせるため、ひたすら心の中でそういい続けた。
「さきほど、凶器のナイフと被害者の血のついたレインコートがゴミ捨て場で見つかりました。あなたは、なめていんだ、このマンションを。監視カメラなんて、今の時代、ほとんどのマンションが出入り口にもつけてます。エレベーターだけじゃないんです」
 三倉はだまった。動かない。動けない。蛇に睨まれたかえるとは、よく言ったものだ。
「ナイフからもレインコートからもゴミ袋からもあなたの指紋が出るでしょう。八時半ごろにマンションに入ったあなたの姿が出入り口の監視カメラがとらえてますし、五〇分頃に出て行くのも確認されてます。いい加減、あきらめてくださいよ――島道陽子さん」
 三倉は、自分の本名を言われた所で、体中の緊張の糸がきれ、力が抜けていった。ああ、私の計画がこんなにも簡単に。


 *


 逮捕された島道陽子は、被害者にはネット上で公開していたハンドルネームの『三倉空』という名前を本名だと偽っていた。
 被疑者は、一年前に被害者がふった榎本佳波の親友だった。榎本は被害者にふられた後、自宅で首吊り自殺を図っていた。その前日に、被疑者に自分が被害者にふられたことや『後悔させてやる』と言い残した事などを話したらしい。
 それを聞いた被疑者は、死んだ榎本の変わりに被害者をさつがいするために、接近した。そして、殺害した。
 彼女の使った時間差トリックも、いとも簡単に崩れた。同僚を騙して、こっそりと会社を抜け出す姿を警備員が見ていた。そしてゴミ捨て場に捨てられていたゴミ袋から大量の証拠が見つかり、彼女は言い逃れ不能になった。
 そもそも警察は、あの事件を強盗殺人とはみていなかった。被疑者はそう見せかけたつもりでも、それができていなかった。強盗犯が、家の中で家人を殺す事は稀にあるが、強盗犯が家人を玄関先で殺す事はまずない。
 彼女の計画は、穴ぼこだらけだったのだ。
2007/02/02(Fri)00:02:48 公開 / コーヒーCUP
http://yaplog.jp/gothoc/
■この作品の著作権はコーヒーCUPさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 薄いです。何が薄いって、内容がです。トリックも曖昧、というか適当に近い。そして別にたいしたラストも無い。ミステリ小説としては最悪な作品となった。
 さて、この作品の反省をふまえて、次の作品に力を入れます。
 かなり悪い部分が多い作品ですが、特に悪かったところを指摘いただけると嬉しいです。それでは。
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