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『発展途上文明生物』 作者:藍紫蒼世 / ショート*2 SF
全角815.5文字
容量1631 bytes
原稿用紙約2.3枚
 この星には確かに文明が存在した。彼らは道具を使い、火を利用している。すなわち石器を用いて狩りを行い、薪に火を灯して生活しているのだ。彼らの文明を文章に書き尽くすなら、これだけで十分だ。
 おそらく体系的な言語は存在しないのだろう。この星で私の用意した新品の翻訳機は機能しなかった。
 言葉の通じない彼らを前にして私は戸惑った。異星の住人を前にして必死に時刻の言語で呼びかけてみた。私の周りに集まった彼らは、何も声らしき声をたてずにたた見守っているように見えた。
 埒の開かない状況を打開したのは彼らの方だった。そして今に至る。彼らに招かれた集落で、私はこうして生きながらえることができた。
 彼らの施しに言葉を伴わない。最初は感謝の言葉を並べてもみた。それが意味をなさないことを改めて確認した後、宇宙船にあった可視光望遠鏡のレンズを取り出し、それによって彼らよりも効率よく火を灯してみせた。そしてレンズを彼らに与えた。
 もう時期宇宙船の修理は完了する。そのときは何も言わず立ち去ろう。私が彼らに与えるものはもうなにもなければ、お礼という言葉で誤魔化すなんてことはできないのだ。
 その時、けたたましい電子音が鳴り響いた。考え事をしていた私は現実に引き戻される。久しく聞くことのなかった類の音は、次第に大きくなり音源らしき銀色の塊が凄まじい勢いでこちらに接近していた。
 驚き立ち上がったときには、すでにそれは私の目前に異様な圧迫感をたたえて存在していた。
 その中から数名、一目で文明を持つと分かる格好をした者が出てきて、あっという間に私は彼らに拘束されてしまった。
 翻訳機がこの星に来てはじめて声を出した。
「発展途上文明生物保護法違反であなたを逮捕します。同法律でここは立ち入り禁止になっているにも関わらず、あなたはここに滞在し、途上生物に違法な文明干渉をしました」
 翻訳機は発展し終えた文明生物の言葉を、とても正しく私に伝えた。
2007/01/03(Wed)10:26:43 公開 / 藍紫蒼世
■この作品の著作権は藍紫蒼世さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、藍紫蒼世です。ここでは初投稿になりますが。よろしくお願いします。

誤解があったようなので付け足しておきます。
この作品はSSであり、これで完結しております。プロローグではないのでご了承くださいませ。
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