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『蛙』 作者:薄羽蜻蛉 / ショート*2 未分類
全角1761文字
容量3522 bytes
原稿用紙約5.2枚
 廊下を歩いていた。
 床も、壁も、天井も、すべて蛙に覆われている。
 片足に体重を掛けるごとにぐにゃりとした奇妙な感触が足の裏から全身へと伝わっていく。蛙は逃げようともせず、ただ耳を覆いたくなるような鳴き声を上げながらじっとしている。
「これは何という蛙だったろう。」
 確かに知っているはずなのだが、どうにも思い出せない。あと少しというところで記憶はするりと抜け出していく。その感覚が何とも気持ち悪く、そのせいもあってか蛙がよりいっそう不気味に思われた。
 しばらく歩いているとグシャという何かが潰れたような感触、あるいは音だったかもしれないが、それが突然伝わってきたのではっとなって立ち止まり、足下を見た。
 蛙は何重もの層になっていて、自分が潰したであろう蛙が一体どこにいるのか全く見当がつかない。蛙は相変わらず同じ声で鳴いている。その声がひどく不快に感じられた。
 私はしゃがみこんで自分が潰したであろう蛙を掻き分けて探そうかどうか思案した。蛙たちはじっと私のことを見ている。しばらく眺めていると角から曲がってきた男が話しかけてきた。
「お久しぶりですね、……さん。」
 四十を超えたぐらいの背の低い小太りの男である。病人のようなひどく弱弱しい声だったので、自分の名前を何と呼んだのか、はっきりとは聞き取れなかった。私は立ち上がりながらええと答えたが、自分の前に立っている男の名前が蛙と同じように思い出せず困惑した。確かに見覚えのる顔で、むしろ親しい間柄だったように思うのだが、どうにも名前が出てこない。
「私は……ですよ。お忘れになりましたか?」
 男の声は弱弱しく、やはり名前の部分が聞き取れない。私は何だか申し訳ない気持ちになった。
「……へ向かうのですね? 一緒に行きましょう。」
 私は男と並んで歩き始めた。歩きながら自分は今どこに向かっているのだろうかと考えた。考えたが答えは出なかった。どこにも向かっていないのかもしれない。
 廊下は真直ぐでどこまでも続いている。左側には窓が、右側にはドアが一定の間隔で並んでいる。窓とドアにだけ蛙は貼りついていなかった。何だか同じところをぐるぐる回っている気がした。
 歩き続けてから何時間もたった。その間男は一言も喋らなかった。男はいつのまにか私の前を歩いている。どんな表情をして歩いているのかわからない。そもそも男がどんな顔をしていたのかも忘れてしまった。
 外はすでに夜になっていた。窓からは黄色い月が見え、薄白い光が差し込んでいる。蛙たちはその光をぬめぬめとした体に浴びて蛍光灯のようにぼんやりと光っている。その中を蛙を踏みつけながら進んでいく。人の気配はなく蛙の鳴き声と、蛙を踏むときの奇妙な音だけが反響している。
 私はその音を聞いているとなんだか全身を掻き毟りたくなったので、気分を紛らわせようと男に話しかけた。
「……あとどれくらいでしょうかね?」
 男は答えようとしない。それからまた無言で歩き続けた。私は自分が本当にこの男のことを知っているのかどうか疑わしくなってきた。
「それにしても……困ったことになりましたねえ……。」
 私のその言葉に男はようやく口を開き、
「……何がですか?」
とやはり細々とした声で答えた。
「……いえ、蛙ですよ……蛙。」
「……いいじゃないですか……蛙ぐらい……。」
 男の声はさっきと違っている気がした。
 そうこうしているうちに男が立ち止まった。目の前にはドアがある。男が右手でドアを開ける。男の手はいつの間にか緑色になっていた。それが月明かりに照らされて怪しく輝いている。
「さあ……着きましたよ。」
 振り返った男の顔は蛙になっていた。やはりなと私は思った。ふふんと男が笑った。私は顔が紅潮するのを感じた。男に言われるままに部屋の中に入った。部屋には湿った黴臭い空気が漂っていて、それが粘着質に全身にまとわりついてくる。
 部屋には服を着た蛙たちが私を見つめながら何やらわめいている。みなどこか見覚えがあるが、記憶は曖昧である。中央には古びた大きな鏡がある。
 私はその鏡の前に歩み寄った。はたして鏡に映っているのは一匹の巨大な蛙であった。私は自分の名前がわからなくなっているのに気づき、大声で叫んだが口から出てくるのは蛙の鳴き声だった。
2006/12/31(Sun)16:32:43 公開 / 薄羽蜻蛉
■この作品の著作権は薄羽蜻蛉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ふと内田百けんみたいな小説が書きたいなと思ったので。失敗かなあ。
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