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『僕の独占力』 作者:あひる / サスペンス 恋愛小説
全角5285文字
容量10570 bytes
原稿用紙約15.45枚
これは僕の愛のカタチ。だからこれは、僕が彼女のことを愛しているという事を示しているのだ。

 彼女が、愛おしくてたまらない。

 全てを、自分のものにしたい。

 初めて人を愛する事を知ったよ。

 それと同時に、僕の独占力の強さも。



 僕は彼女のことを、愛おしく思う。
 彼女は透き通った声で僕を呼ぶ。色素の薄いさらさらの髪に、長いまつげ、栗色の瞳。整った顔、ふんわりと膨らんだ唇。どのパーツも愛おしい。彼女のものだったら、全てを手に入れたいと思う。
 そんな彼女の魅力に気が付いたのは、つい最近のこと。彼女の方から告白してきて、僕は知らないからと断ったのだ―――その他の理由にも、僕は今まで何人もの女の人と付き合ってきた。けれどその人たちは皆、独占力が強すぎる、もう耐えられないと言って、別れていった―――けれども彼女は、そんな事気にせず「おためし」として一週間付き合って欲しいと言い出したのだ。それからだった。彼女のさり気無い優しさ、本当は色んなことを考えている事。そして何よりも、見栄えする顔立ち。そして僕は、彼女との交際を考える事にしたのだ。
 気づけば僕は、彼女にぞっこんだった。自分でも分からないほど、きっと彼女にはまっているのだろう。もう離れられない、とても愛おしい。彼女は僕に、なくてはならない存在になっていた。

 今日もいつもと同じように、彼女と肩を並べて下校する予定だ。それに今日は彼女の誕生日で、僕は彼女の家に寄って行く予定だ。だが突然、何者かによって遮られた。
「おい、今日部活じゃないのか?」
 そう言って僕らの邪魔をするのは、友人でもあり、同じ部活動の奴だった。今日は火曜日。そういえば、部活がある。彼女の誕生日だからといって、浮かれすぎていた。僕はハッとし、彼女を見た。彼女も同じように、困ったように僕を見る。
「もうすぐ中体連なんだぞ? 三年だからといっても、レギュラーから外されるかもしれないんだぞ」
 友人は僕の肩をつかみ、軽く揺する。僕はバスケ部所属なのだが、あんま上手くない。先輩に勧誘されて、内申よくなるかな?と考えながら、フラフラと入り込んでしまったのだ。もちろん1、2年は補欠。別にショックを受けることはない。むしろ良かったと考えているのだ。そんな僕だが、三年になれば中体連は出なければいけない。僕はいやいや、練習を受けている。
 そんな僕だ。部活は嫌だ、彼女を優先したい。だが、レギュラーから外されるのは嫌だった。3年にもなって2年に抜かされるなんて、僕のプライバシーが許さない。
「……」
 僕が黙り込むと、友人はなおも激しく僕の肩を揺する。
「いいのかよ? 2年にレギュラー奪われて!」
 ヒステリックに叫ぶ友人の姿を見て、僕は一層黙り込んでしまった。奪われるのは、嫌だ。だけど今は彼女を優先したい。二つの気持ちがぶつかり合って、何とも言えない音がこころの中で響く。僕は彼女の方を困ったように見た。彼女は暫く僕のことを見つめていたが、なにやら思い切った表情をして、僕に言った。
「……いいよ。わたしの誕生日はいい。部活に専念してよ」
 僕はそんな彼女の言葉に驚いて、彼女を強く見つめて問う。
「な……んで?」
「だって、バスケ部最後の行事だし。頑張ってよ」
 彼女はそう言うと、僕の肩をぽんと叩き、笑った。そんな僕らを見ていた友人はにっこりと笑い、
「じゃあ、行こうぜ」
と言った。それでも僕は納得できずに、叫んだ。
「でも……!」
「それじゃあねぇ、今日9時半にわたしン家前の公園集合。遅れたら、承知しないよ」
 彼女は僕のいう事なんか聞かずに、話を続けた。にっこりと笑い、これでいいでしょ?と問いかける。
「ほーらー」
 友人は僕を急かす。彼女も早く行きなよ、と言う。僕はしょうがなく、
「じゃあ、公園で」
と言った。彼女はこくんと微笑しながら頷いて、色素の薄い長い髪を揺らしながら、帰っていった。
「ほら、行こうって」
 友人が僕の背中を押す。僕はちらちらと後ろを見ながら小走りした。
 一度も振り向いてくれない彼女を見て、少しだけ寂しいと思った。

 部活中も、彼女の事が気になって仕方ない。振り向いてくれなくたって、本当は一緒に帰れなくて寂しいという気持ちを、どこかで隠しているはずだ。愛おしい気持ちが溢れそうで、僕は何回も、何回も、彼女の名前を呼んだ。手に入るわけないのに、ただ呼んだ。
 僕の考えはだんだん内容が深まり、次第には彼女が僕を待ちきれなくて泣いている姿さえも浮かんできた。すると気持ちが逸り、あの小さな背中を抱き締めたく思う。
 むさ苦しい男たちの中にいると、彼女の存在がとても恋しくなって、僕は蒸し暑い部室の中で必死に耐えた。
 早く帰らなくちゃ、彼女が待っている。そんな考えしか浮かばなくて、部活中の行動なんて思い出すことができなかった。

 学校から家までは、走って10分。まだ初夏だというのに暑くて―――部活後だということもあるが―――拭っても、拭っても、またふきだす汗に苛立ちを感じた。
 家に着いて、急いで鍵を取り出す。親は生憎外出中で―――確かバレーの大会で一日帰ってこないだとか言っていた―――鍵が隠しているポストを漁って取り出す。鍵穴に鍵を差し込んで、回す。そんな作業が遅れると、それさえももどかしくて。
「あちー」
 家の中を叫びながら、ずんずんとあがっていく。冷蔵庫から昨日母親が買ってきた抹茶アイスを取り出す。時はもう、9時20分で、そんな余裕さえないというのに。
 階段を一段抜かしで上って、自分の部屋のドアノブを回しながら、ジャージを体から剥ぎ取る。そしてベッドに乱暴に脱ぎ散らかしてある服を一枚とって、着た。急いで携帯や時計をバッグの中につめ、階段を下りていく。その際に抹茶アイスのパッケージを剥ぎ取り、口の中に入れた。じんわりと冷たさが口の中に広がっていく。僕は心地良いと感じながら、玄関に急いだ。そんな時、急いでいる時は、何事も失敗するものなのだ。靴箱の上に置いてある紙の束―――紙の束の内容は、学級通信だとか、そんなくだらないもの―――少しの過ちで体を掠った。気づいた頃にはもう遅い。紙の束は大きな音を立てて、崩れ落ちた。僕はチッと舌打ちをすると、適当に紙を一点に集めた。なんで僕がこんな目に……と思いながらも、母さんに怒られるのは嫌なので、きちんと拾う。そんな時、ふと目に入った紙。太いゴシック体の文字で「殺人鬼現る」という見出し。僕は手にとって、3、4行の短い手紙を目に通した。内容はこの頃この周辺で、凶器を持った男が背後から近づいてき、心臓目掛けて刺す、という物だった。僕は母さんから貰った護身用のナイフがあるから安心だな、と思う。だがよくよく見れば、犯人は逮捕されたと載っている。じゃあ、安心じゃないか、と僕は紙に向かってキレた。犯行の目的は、あまりにも美しい交際している女を、自分のものにしたくて、と書いてある。僕は絶対そんな事はしないのに、どうしてこの人はそんなことしたんだ、と疑問を抱え、その紙共々、散らかった紙を元通りにする。
「あ、いけねっ」
 もう9時27分。何、僕はくだらない記事を読んでいるんだ、自己嫌悪しながら、靴を履き、彼女はどんな顔をして待っているのか。それだけを考えていた。いや、それだけじゃあない。あの小柄な体を抱き締めたい、その全ての顔を自分のためにしたい。心配は欲望へ、いつのまにか変わっていた。

 彼女の家の近くの公園まで、走っていっても5分。僕はごめんと心の中で彼女に謝りながら、走った。
 着いたのは予定通り、32分。はぁはぁと乱れる呼吸をしながら、彼女に頭を下げる。
 彼女は不安そうな顔で、けど怒っているような顔で、僕を見つめる。その栗色の瞳には、僕がどのように映っているのだろうか? また、君の心の中で、本当は僕に対してどんな思いを持っているんだ?
「……遅い」
 彼女は重く、低い声で言った。やはり怒っているんだ、と僕は思いながら、とりあえず謝った。けど、その不満そうな顔も、愛しい。
「心配したんだから」
 彼女はそう言って、僕の胸をぽこぽこと叩いた。その手から伝わる彼女の温かさが、なんともいえなく心地良かった。僕はごめんごめん、と笑いながら謝って、にこりと笑った。
「悪気はなかったんだ。本当にごめん」
 彼女は頬を膨らましながら、
「けど……ちゃんと来てくれたから許す」
と小さな声で言った。愛おしい。それしか思えない、彼女が欲しい。
「有り難う」
 僕はそう言って、彼女の肩を引き寄せた。彼女は拒むことなく、僕の肩に乗せる。この微妙な距離感が、たまらなくいい。
 僕らは沈黙していた。けど、嬉しかった。温かかった。優しかった。
 彼女の少し水気を含んだ髪が僕の頬をくすぐる。風呂上りなのかな、と思いながら、彼女の名前を呟く。
「なあにー?」
 彼女は少し甘えたような口調で、上目遣いで僕に答える。
 綺麗だ。美しい。僕に必要なモノ。
 僕の体のなかで、一つの異変を感じた。それは何か分からないが、溢れ出すこの気持ちはなんだろう。
「……綺麗」
 勝手に出てくる言葉。まさに綺麗だ。けどそれを言葉にできるほど僕は、勇気があっただろうか。いや、これが僕の本当の気持ちなのか?
「え、なによ……そんないきなり……」
 彼女は照れて、頬を脹らませた。愛おしい。どの表情も、大好きだよ。
「これが僕の……本当の気持ちだよ」
 僕は少し照れくさかったが、そういう。ああ、もう気持ちが爆発しそうだ。
「やだあ……」
 彼女が目を逸らす。ああ、この顔。好きだ。とてつもなく好きだよ。
 僕は目を逸らす彼女の顔を捕まえて、僕の顔のほうへぐいっと強引に持ち込む。なに?と照れた彼女の顔が、前に現る。心臓が高鳴る。君が目の前にいる。赤面した顔、可愛いよ。
 そのときだった。僕の心臓が一瞬跳ね上がる。バッグの中に、手が入り込む。
―――僕は本能的に動き出したのだ。

 彼女のことを、愛おしく思う。
 彼女は透き通った声で僕を呼ぶ。色素の薄いさらさらの髪に、長いまつげ、栗色の瞳。整った顔、ふんわりと膨らんだ唇。どのパーツも愛おしい。彼女のものだったら、全てを手に入れたいと思う。
 彼女の何もかもを、手に入れたい。

 例えどんな手段を使ったとしても。

 それからの事を、僕はよく覚えていない。
 はっきりと頭が冷めると、手には血がついたナイフがあった。ああ、コレは母さんがくれた護身用のナイフじゃないか。そして僕の足元には、口と胸から血が出ている美しい彼女。
 僕は慌てることなく、彼女に寄った。ハンカチで口元の血を拭い、呟いた。
「あーあ……。せっかくの君が、台無しだ」
 僕はそういうと、彼女を抱いて家に向かった。愛おしい彼女を胸に抱いて、僕は幸せだった。
 僕に抱かれている君は、もう既に死んでいる。そんな事分かりきっている。
 だって僕が殺したんだから。
 そうだよ、思い出した。僕は彼女を自分のモノにしたくて、殺したんだ。そう、永遠に僕の傍にいてもらうためにね。後悔なんてしていない。これが僕の愛のカタチだからね。それに、むしろ正直嬉しかったよ。これでもう、君は逃げられない。君は永遠に、僕のモノさ。
 今更だけど、思う。彼女の家に行く前に見た手紙。あれはもしかして、僕への注意書きだったのかもしれない。僕はその注意書きを無視してしまった。けれど、道は踏み外していない。僕はいま、自分の好きなように、生きているのだから。

 僕は家に帰ってから、静まり変えった部屋に行き、僕のベッドに彼女をおろした。頭から足。全てが愛おしい。僕は一通り彼女の体を、人差指でなぞる。君がいるという、証拠を掴む。
 暫く黙っていると、あの生々しい出来事が、頭の中のスクリーンで上映される。ナイフが刺さった時の彼女の悲鳴。僕は大声で笑った。楽しそうに、狂ったように、彼女の顔が引き攣るのを見て、僕は快感に陥ったのだ。こんな顔、他にも全部、自分のモノにしたい。そんな欲望が、僕の脳裏を支配する。何者かの声がして、僕を誘惑する。「もっと浸ろうよ」何者かは、僕を誘う。「なあ、殺しちゃおうよ」君の恐怖で引き攣る顔。「この顔……自分のモノにしたいだろ」スイッチが入ったように、僕は狂気に満ち溢れる。うん、そう。はっきりと思い出せる。もう、僕のモノになったんだよね。
「今日は満月だよ」
 僕は死んだ彼女に問いかけた。彼女は答えなくていいんだ。ただ傍にいればいいんだ。
 そして一生、僕の傍にいればいいんだ。
「俺は幸せだよ」
 僕は彼女の名前を呼んだ。何回も、何回も、答える事はない。ただ、君がいることを確認するのだ。寂しくなんて、ないよ。僕はね、いまとても幸せなんだ。美味しいものを食べて、幸せをぼやいている女とは違う。快感を手に入れたのだ。
「ねぇ……」
 初めて人を愛する事を知ったよ。
 それと同時に、僕の独占力の強さも。
「君は幸せかい、美月」
 僕は彼女の唇を軽く人差指で、なぞった。
 今日は綺麗な満月だった。
2006/10/02(Mon)18:09:53 公開 / あひる
■この作品の著作権はあひるさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりです。
初めてサスペンスものに挑戦してみました。これをサスペンスとよべるのかはともかく、文章がおかしい部分がいくつかあると思います。そこを丁寧に教えてくださると、嬉しいです。たくさんの作品を書いているわたしですが、まだまだ初心者でして。
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