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『ジグソーパズルファミリー』 作者:碧 / ショート*2 ショート*2
全角1437.5文字
容量2875 bytes
原稿用紙約4.65枚
一枚の紙があれば、必ず表と裏がある
表と裏があるから、一枚の紙になるのかしら
どちらが表で、どちらが裏か、
もしも決めることができなかったら
もしも誰も決めてくれなかったら
紙はそこに存在しないことになるのだろうか

表と裏
どちらが表でどちらが裏か、
それを最初に決めるのは、誰ですか
決めてもいいのは、誰ですか
私ですか
それとも、あなたですか
それとも、そんなことは考えてはいけないこと
決めなくても、いいことなのでしょうか

世界が差し出すゲームの勝者だけが
それを決めてもいいのだとしたら
私は、何のためにここにいるのでしょうか……



 そんなことを思いながら、雨降る町を歩いた。雨が降っていることになっている町を、歩いた。いつもの店で、「少年」を買うために。

「お望みは? 」
 カウンターの向こうの店員は、相変わらず無表情だ。

「金髪碧眼、年齢は10歳。身長は145センチメートル。体重は30キロくらいで」
 私は考えてきた要望を伝えた。

「少々お待ちください」
 店員は背後の棚を見上げた。薄暗い店内に、商品がびっしりと並んでいる。箱に詰められた「少年」たちが、黙って客を待っていた。

「少年」を受け取ると、私は金を払って店を後にした。隣の店は「少女」専門店だ。くたびれた姿の男が、「少女」を抱えて出てきた。
 雨の中を足早に去っていくどこの誰だか分からない彼。彼もきっと、私と同じ人種だろう。空っぽの心と空っぽの体の。ぽっかりと開いたその空洞を、何で埋めていいのか分からない、悲しいニンゲン。

 家に帰ると、片足を失った息子に「少年」を渡した。
「できるだけ早く、組み立てるのよ」
 息子は私から「少年」の入った箱を受け取ると、中身を部屋中にばら撒いた。
 ジクソーパズルのピースは、どれも同じような形をしているのに、きちんとはまるべき場所が決まっている。一体何のために、わざわざバラバラにして売るのだろう。
 息子は無言で、「少年」を組み立てる作業に取り掛かった。

 私は鏡を見た。頬の皮膚がはがれかけている。私も、限界なのだろう。女は顔から崩れてくる。

 玄関が開く。夫が帰ってきたらしい。迎えに出た私に、夫が大きな箱に入った「女」を渡した。
「できるだけ早く、組み立ててくれ」
 私は夫から、ずっしりと重い「女」の入った箱を受け取ると、中身を部屋中にばら撒いた。「少年」のピースと、「女」のピースが混ざる。
 息子が、表情のない顔で私を見た。この子は私の何人目の息子だろうか。息子に限界が来ると、新しい「少年」を買ってきて、古い息子に新しい息子を組み立てさせてきた。壊れた息子は、私がゴミ袋に詰めた。
 「大人」よりもピースの少ない「子ども」のほうが、早く限界が来る。「男」よりも小さい「女」の方が、早く限界が来る。それが、この世界の常識。
 
――最初の一体を作るのは大変だけれど、後は完成したニンゲンに作らせたらいいから……
――完全に壊れる前のニンゲンに、次のを組み立てさせると楽だよね……

どこからともなく、聞こえる声。空の上から聞こえてくる、無慈悲な声。
「男」を最初に作った神の声。「男」は「女」を、「女」は「子ども」を作った。
立体ジズソーパズルの家族。壊れても、代わりは、いくらでもある。

 何のために、私はここにいて、何のために、新しい私を組み立てるのか。何万ものピースを順にあてがいながら、私はそれだけを考える。
 私に限界が来るまで。
 神が、この遊びに飽きるまで。
2006/10/01(Sun)11:03:54 公開 /
■この作品の著作権は碧さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
雨の日は、なんとなく、暗い気分になります。急に思いついて書きました。ブラック&ダークで、無味無臭な感じ、伝わりましたでしょうか。
また気持ち悪いものを、と思われた方、お目汚し申し訳ありません。他の方の爽やかな作品で、気を取り直して下さいますように。


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