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『バースデイ』 作者:七つ色 / リアル・現代 未分類
全角3171文字
容量6342 bytes
原稿用紙約10.4枚
 ずっと立ちっぱなしのバイトで疲れた体には、更衣室のある二階から社員通用口のある一階まで階段を降るのは少々堪える。
作業している人がいないため閉店間近のバックヤードは暗い。
等間隔に吊された裸電球は通路よりも壁に張られた蜘蛛の巣を鮮明に照らし出していた。
棒のようになった足が段を踏み外さないか注意し、木槌で鉄板を叩くような音をリズムよく鳴らしながら階段を降りて、最後の一段は飛ばした。
どこからか蛍の光が聞こえてくる。
それが自分の鼻歌だと気付いたのは通用口のドアノブに手を掛けた時だった。
「お疲れ、余裕がありそうだな。もう少し働いていけばどうだ」
そして不意に掛けられた声も目の前のドアに反射され、一瞬、自分とドアの間に人がいるのかと思った。
「お、お疲れさまです。もうへとへとなんで勘弁して下さいよ」
振り向いて、苦笑気味の店長に言う。
仕事は真面目にしている。
今だっていつものように疲れ切っていた。
が、今日は月に一度の給料日。
そして明日は彼女の誕生日だ。
どうやら思ったよりも気持ちが浮かれているらしい。

 気持ちは浮かれていても体は付いてきてくれなかった。
あの時間に閉店するのは何もうちのスーパーだけではない。
自転車を全力で漕いでも速度は出ず、プレゼントを買う予定だった店に着いてはシャッターが降りているのを確認するという作業を二回繰り返したところで体力が尽きた。
店の並びが途切れたところで片足をついて自転車を止めると、鼓動と共に肌が震え心臓の音がよく聞こえた。
普段よりも数倍大きなその音はまるで体の外から聞こえているみたいだ。
だらしなく口を開けて少しでも多くの息を吸おうとするが、その度に粘性の高い唾液が喉に絡み付く。
秋に近づくにつれていくらか涼しくはなった。
とはいえこんな運動をすれば体中が熱くなって汗が噴き出してくる。
バイト先まで車で来ていればもっと余裕があっただろう。
今日に限って車で出かけていた姉を恨むべきか、AT限定免許を取ったせいで親父の車を運転できない自分を恨むべきか迷った。
やはり給料が入るまで待たずに借金してでも早めに用意しておくべきだったのだろうか。
時間を確認しようと携帯を開くと、時計表示よりも待ち受けにしていた彼女の画像が先に目に入った。
不意に、この子が自分の彼女なんだという喜びと愛おしさがこみ上げてくる。
辺りに誰もいないのを確認して、画面の中で笑っている彼女にキスをする。
一瞬だけ鼓動が聞こえなくなった気がした。
「よし、次行くか」
口を閉じハンドルを握りしめて再びペダルを踏み込む。
恥ずかしさをごまかすためにスピードをあげる。
汗が風に冷やされて気持ちいい。
絶対にプレゼントを用意して明日は本物の笑顔にキスをしよう。
そんなことを考えたら勝手に口元が緩んでいた。

 暗い道は怖いので帰りは国道沿いを走る。
 三軒目に訪れた雑貨店でようやくプレゼントを買うことが出来た。
そこは一人のお爺さんが道楽で経営していて、シャッターを下ろす直前のところで待ったをかけて半ば強引に店内に入れてもらった。
それなのにお爺さんは嫌そうな素振りを何一つ見せずに応対してくれて、それどころか事情を話すと、
「こんなに一生懸命に誕生日を祝おうとしてくれる彼氏がいて、その子はきっと幸せだろう」
なんて言うものだからつい携帯の待ち受けを見せて惚気話を聞かせてしまった。
 夜になってもまだまだ遊び足りなさそうな車が何台も行き交うため道路は明るい。
無理をさせた体もようやく落ち着きを取り戻し始めてきている。
自分の頬を撫でる風の匂いと温度が夏の頃とは違うことに今更気が付いた。
疲れてはいるが不思議と足に力が入る。
意気揚々と自転車を漕いでいると、自分の少し前方、いつか彼女と行こうと思っていたホテルの前に人影が見えた。
ここのホテルは結構人気があり人が出てくるのは別に珍しいことでは無い。
特に興味は無いので顔を見ようとも思わなかった。
そもそも人目をはばかるように出てきた二人の周りには明かりが無く顔は見えない。
そのはずだった。
その時、歩道の縁石を隔てて自転車のすぐ横の道路を一台のトラックが通過していった。
腹に響くエンジン音と共に二人の顔はヘッドライトで照らされ、僕の体は生ぬるい排気で包まれる。
僕の彼女がそこにいた。
男の顔を見る余裕なんて無かった。
まるで思考が働かない。
彼女と目が合った僕はとにかく話を聞こうと二人に近づく。
すぐに目をそらされたが彼女の表情が驚きから嫌悪へと変わるのがはっきりと分かった。
「知り合い?」
自転車を降りて二人の前に立つと、最初に言葉を発したのは見知らぬ男だった。
「うん。元彼」
彼女の首元にあるクロスのネックレスが眩しい。
今まで彼女がネックレスを着けているのは見たことが無い。
隣の男からもらったのだろうか。
やっぱりよく似合ってるな、と頭のどこかで冷静に思った。
「それで、どうかしたの?」
今までに聞いたことが無いくらい冷たい声だった。
「いや、……彼氏出来たのか」
既に彼女との関係は終わっている。
昨日までは確かに恋人同士で、「別れよう」なんて一言も言われてないがそれは分かる。
「見ての通り」
それでも、いきなり僕のことを指して元彼呼ばわりされるとは思わなかった。
その時点で何も喋りたくなくなっていた。
でもこれが彼女との最後の会話になるなら、格好悪いところだけは見せたくない。
「そっか、お幸せに」
涙をこらえるのに精一杯でそんな言葉しか言えなかった。
「ありがとう。じゃあ」
彼女は男に連れられ、車に乗って去っていった。
最後に男が会釈したのが見えた。
誕生日おめでとう、すら言えなかったことが悔しい。
唇が濡れる。
鼻の横が冷たい。
涙はこらえきれてなかったらしい。

 自転車でどこをどう通って帰ってきたかは覚えていない。
気が付くと家の前まで戻ってきた。
玄関の横には親父の車が止まっている。
車で目一杯スピードを出せば少しは気が晴れるかもしれない。
都合よくエンジンキーは挿さったままだ。
自転車をその場に倒して運転席に乗り込むと次第に気分が高まってきた。
事故になろうが知ったことか。
子供の頃に近所の廃屋を探険した時のような興奮がある。
彼女の誕生日プレゼントに買ったクロスのネックレスを助手席に置いてハンドルを握る。
MT車の運転はしたことが無いが、やり方だけなら親父に何度も聞かされてきた。
クラッチとブレーキを踏み、ギアをニュートラルにする。
キーを回すと心地よい振動が座席から体に伝わりエンジンが始動した。
ラジオから洋楽が流れてくる。
サイドブレーキを倒し、ギアをローに入れる。
ラジオと、エンジンと、心臓が好き勝手に音を立てている。
これから道路を思いっきり走らせるのかと思うと楽しくて仕様がない。
アクセルを踏んでクラッチを半分だけあげる。
車が揺れてエンジンの音とラジオが止まった。
期待通りに発進することはなく、何度やっても結果はエンスト。
結局、発進すらできなかった。
「はは……格好悪いな」
自然と笑いがこみ上げてきた。
さっきまで抑えていた涙が一気にあふれ出してきたが、今までの高まっていた気分が嘘のように鎮まっている。
もう少ししたら彼女のことも冷静に考えられそうだ。
額をハンドルの中心に預ける。
クラクションの音に驚いて慌てて頭をどけた。
自分があまりに情けなくて笑いが止まらなくなった。
玄関に明かりが点くのが見える。
きっと親父が起きたのだろう。
とりあえず謝って、明日から運転を教わろう。
フロントガラスを通して久しぶりに空を見上げる。
花火に占領されていた空には再び月と星が帰ってきていた。
助手席で中秋の名月の明かりを受けて光っているネックレスをつかんで僕は車を降りた。
2006/09/04(Mon)00:56:46 公開 / 七つ色
■この作品の著作権は七つ色さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
読者の皆様、こんにちは。
そしてここまで読んで頂きありがとうございます。
七つ色と申します。

今回はどこにでもあるような、失恋から自暴自棄、そして立ち直るまでの流れを書こうとした作品です。
その際、前回の指摘を生かして失恋するまえの主人公の感情を丁寧に描こうと気を付けました。

感想・指導・批判などよろしくお願いします。
最後に。あとがきまで読んで頂いて本当にありがとうございました。
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