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『妹雨』 作者:さざんか / リアル・現代 ショート*2
全角1089文字
容量2178 bytes
原稿用紙約4.45枚
僕は雨が嫌いだ。  

雨は濡れるから。  

雨は空を暗くするから。    

雨は大切な人を連れて行くから。   

    
『妹雨』  


僕のうちは5人家族だ。  
お母さんと
お父さんと
お姉ちゃんと
僕と
……妹の。    


──僕には3つ歳の離れた妹がいた。 
名前は ゆう という。     
僕はお姉ちゃんとはケンカしてばっかりだったけど
ゆうとはケンカもせずいつも遊んでた。 
近所のおばさんに「まるで恋人みたいねぇ」と言われたほどだった。  

僕達はいつも一緒にいた。 
学校へ行くときも。
家に帰るときも。
家にいるときも。    


……でもゆうはもう居ない。      
雨がゆうを連れてったから───。             



1997年7月21日   
夏休み直前のことだった。
        

僕は小学校6年。
ゆうは3年になっていた。    
いつもはゆうと一緒に下校している僕だったが
今日は友達と話したいことがあって放課後教室に残っていた。   

ゆうは「早く帰ろう」と言っていたが
僕は「なら一人で帰れよ」と冷たく突き放した。   
ゆうはしょんぼりした様子で一人教室を出て行った。        

……それから30分くらい経ったころだろうか。

僕は急に先生に呼ばれた。ゆうのクラスの先生だった。     
先生は泣き出しそうな顔をして「ゆうちゃんが…交通事故……」とだけ言った。     

僕は大急ぎで学校を飛び出して家に向かった。    

家に帰るとちょうどお母さんとお父さんが病院に向かうところだった。   
僕は病院について行った。          
20分ほどで病院に着いた。
でも案内された場所は病室じゃない、別の部屋だった。       

部屋の前でお医者さんがお父さんに何かを話していた。

まずお母さんが部屋に入る。次いでお父さんが。    
中からは悲鳴に近いお母さんの泣き声が聞こえる。
僕も入ろうとしたが、部屋から出てきたお父さんに止められた。

「お前は見ないほうがいい」  

「ゆうは死んだ」と。            


僕の顔は真っ青になった。
僕が友達と話しなんかしないですぐに帰っていたら……
僕が「早く帰ろう」と言われたときに一緒に帰っていたら……
頭の中ではそんなことばかり考えていた。

僕の目から涙があふれる。
僕はフラフラしながら病院の外へ出た。

──今まで晴れていた空からは

         雨が降っていた──




僕は雨が嫌いだ。  

雨は濡れるから。   

雨は空を暗くするから。       

雨は、大切な人を連れて行くから。

2006/07/25(Tue)16:52:44 公開 / さざんか
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