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『甘美な罠』 作者:風間新輝 / ショート*2 リアル・現代
全角2806文字
容量5612 bytes
原稿用紙約9.15枚
気分を害しうるお話。善良な人にはお勧めできない!?
 熱く咆哮したくなるような情事を終え、俺は手早くシャツを着て、帰り支度をする。シャツや服は女の香水や髪がつかないように気を付けている。
 女は眠たげにトロンとした誘うような甘ったるい目をしてこちらをぼんやりと見ている。安くさい証明に照らされ、天然ではないブロンドの髪が明るく輝く。まだ先程の交わりの熱が残っているのか頬は紅い。体はシーツを巻き付けただけだ。そこから魅力的な長い足が伸びている。
「ねぇ、もう帰っちゃうの?」
 不満げに、でも、猫なで声で女は言う。口先を尖らしている。そんな子供っぽさが鬱陶しくも甘く心地よい。
「わかっているだろ?」
 俺は息を吐き、ちょっと冷たく言う。主導権を握っているのは俺だという主張のようなものだ。
「わかってるけどさぁ」
 もう少し余韻に浸ってくれてもさ、か。後に続くセリフは安易に想像がついた。でも、歯牙にもかけてやらない。
「愛する妻や子供が待っているからな。わかっていて付き合っているんだろ?」
 我ながら薄っぺらで最低な言葉だと思う。
「そうだけどさぁ」
 哀しげに不満げに女は呟く。独占したいという気持ちがあるのだろう。一々逆接が多いなと思うが、その原因はすべて俺なのだから仕方ない。
「じゃあな」
 俺はホテルの代金だけを乱れたベットに置き、立ち去った。

「ただいま」
 まだ時刻は十時頃だ。
「おかえり。最近遅いのね」
 妻が笑顔を浮かべながら訊く。内心何を考えているのかは全くわからない。あの女のがまだわかる。単純だからだ。
「仕事が厄介でなぁ」
 うつむき具合いに疲れているようにぼそりと呟く。
「そうなの。大変ね。ご飯ならすぐに温めるから」
 そう言って、妻はぱたぱたと台所にむかう。俺は上着を脱ぎ、ゆっくりとリビングにむかう。
 小二の息子が野球を見ている。どうやら延長戦に突入しているらしい。あまり俺にはなついていないのか、むこうから口を開くことはない。学校ではどうしているのかはさっぱりわかっていない。基本的に子育ては妻任せだ。
「野球楽しいか?」
「別に。暇だから」
 息子はテレビ画面を見たまま、面倒くさそうに可愛いげなく答えた。俺はなんとなくだが、ここでは異物なのだと感じた。いらない異質な存在。ないほうが場が円満になる不協和な存在。子供がきっと一番本質を見ているのだ。だから、この態度。いや、考えすぎだな。俺はカッターの胸ポケットから煙草を取り出し、火をつける。紫の煙が直ぐに立ち上る。
「あなた、食事温まったわよ」
 妻の声がして、俺はもったいないと思いながら吸いかけの煙草を灰皿に押し付けた。俺が立ち上がると息子がじっと冷たい目で見ていた。
――なんだよ! くそ餓鬼!
 そう言ってしまいたい苛々した気持ちを我慢する。俺はダイニングにむかった。
「あいつ、学校ではどうなんだ? うまくやってるのか?」
 俺は出されたオムレツを食べながら訊いた。
「孝のこと?」
「ああ」
「学校の先生にはとても明るくて、皆とも仲がよくていい子だって褒められたわよ。しかも成績も優秀だからって言われちゃって」
 息子の自慢になったからか、妻は凄く嬉しそうに笑顔になる。
「そうか。ならいい」
 俺が不機嫌そうに頷くと、妻は一気に嬉しげな顔を哀しげに変えた。
「ねえ、あなたはあの子のこと、あまり気にならないの?」
 妻は言いにくそうに口を開いた。
「気にしているさ。だから、今も君に訊いたんじゃないか」
「でも、そんな返事しかしないじゃない」
「悪いことがあるなら、俺からなんとか直してやろうとするさ。俺の息子だからな。でも話を聞いた感じでは非の打ち所のないいい子みたいだからね。きっと君が頑張ってくれているからだな。感謝しているよ」
 俺は作り笑いを浮かべる。
「なら、いいわ。私もう寝るから、食器はいつも通り流しに置いといて」
 妻は深い溜め息を吐き、寝所へと行った。何かが妻を怒らせたようだが、俺は特に怒らせることを行ったつもりはない。だから、考えても無駄だと思い、俺はさっさと食事を
すませた。煙草を吸い、一服する。
――こんなことなら、あの女といた方が良かったな。
 そんな考えが頭を徐徐に占領していった。


「二日連続で私を誘うなんてあんまりなかったじゃん。どうしたの?」
 女は昨日同じく甘く誘うような声で囁く。耳元に熱い息がかかり、思わず体がうずく。「別になんでもない」
 家に居場所がないような気がしたなんて言ってたまるか。俺はこいつに付き合ってやっているんだ。
「嘘。嘘ついてるでしょ?」
 女は笑う。笑いじわが少しだけできる。
「本当に気まぐれだよ。あそこにいてもつまらないからな」
 こんな女に見透かされてしまっているような驚きと屈辱のため、本音が溢れてしまった。
「そうなんだ」
 女は妖艶に魅惑するように、いやらしく、紅い唇を歪め、笑った。
 俺はここにも居たくなくなって、あそこへと逃げ出した。嫌な笑みが頭から離れなかった。

「ただいま」
「ねぇ、どういうことよ!」
 妻は顔を真っ赤にして、俺に掴みかかるように詰め寄ってきた。目は僅かに涙ぐんでいる。 
「なにがだよ? 疲れているんだ。後にしてくれ」
 俺はネクタイを弛める。
「これ何よ!」
 妻は俺の目の前に、俺が昨日着ていた上着を出す。
「はっ? 昨日の上着だろうが」
 態々答えるのも億劫で、俺は何も考えず言った。
「この口紅の跡とポケットに入っていた髪の毛よ! ブロンドの髪なんてあなたのポケットに入るはずないでしょ!」
 俺は自分の顔の筋肉が俺の意志に反するようにぎこちなく、ひきつるのを感じた。
「それは……」
 答えられるはずもない。浮気相手の髪だなんて。
「もういいわ。別れましょう。どうせ私たちなんてあなたにとってはいてもいなくてもいいんでしょう。孝の養育費だけは払ってね。離婚届けは後日送るわ。さようなら」
 妻は呆れたように俺に背を向けた。その奥に息子がいた。冷めた、軽蔑した、人ではな
い塵でも見るかのような目で鋭く、俺を見据えていた。
 俺は全身の力が抜けたようにその場に座りこんだ。そのまま、妻と息子が出ていくのをじっと見ていた。
 ぱたりと音を立てて、玄関の扉が閉ざされた。
 
 俺の所業は会社にも知れ渡っていた。ひそひそと噂話がされ、遠巻きに俺を冷たい、或いは好奇に満ちた目で見ている。どこから漏れたのかはわからない。会社にも俺の居場所はない。
 善良で俺を疑ってすらいなかった妻をないがしろにし、息子を可愛がることもしなかった俺は本当に愚かだったのだ。わからないことをわかったと勘違いして、あったものをなくした。あったことにすら気づけていなかった愚かなピエロだ。
 愚かなピエロに帰る場所はない。俺を嵌めた、あのいやらしくも魅惑的な笑みを浮かべる、子供のようにも見える悪魔のように狡猾な女のもとにしか……。

2006/04/28(Fri)22:44:04 公開 / 風間新輝
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■作者からのメッセージ
規約にひっかからないかが不安です。主題が主題だけにいれざるをえなかったのです。重点をおいていないからたぶん大丈夫だと思うのですが。できたら教えてください。
ご指摘、ご感想をいただけたらうれしい限りです。
微訂正。わかりにくい部分をわかりやすくしたていどです。
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