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『みっつの掌編』 作者:時貞 / ショート*2 未分類
全角3302文字
容量6604 bytes
原稿用紙約10.25枚

    1 「刃」

 どうやら眠り込んでいたらしい。
 首筋や腋の辺りに薄っすらと汗をかいている。濡れたシャツが肌に纏わりつき、気分が悪かった。
 軽く首を左右に動かしてみる。朦朧とした意識が徐々にはっきりとしてきた。仰向けの姿勢のまま、俺はまんじりともせず横にさせられているのであった。
 薄っすらと目を開ける。
 照明の灯りをまともに受け、その眩しさに俺は再び目を閉じた。しばらく強く目を瞑った後、先ほどよりもゆっくりと瞼を開いていく――。
 ぼんやりとした視界の中に、一人の男の姿が映る。男は実に冷静な目で俺を見下ろしていた。
 視線が合う。
 男は目じりを下げて、無理に笑顔を作ったように思えた。そしてゆっくりと、俺の顔に自分の顔を近づけてくる。かすかに感じる男の鼻息――。
 俺は正面を向いたまま、視線だけを動かす。
 天井から投げ掛けられる照明の灯りに照らされて、男が手に持つ鋭利な刃物が目に入った。俺は目を細める。再び全身が重くなり、猛烈な眠気が襲ってきた。
 男が動く気配を感じる。
 すると突然、男は俺の口元を濡れタオルで覆った。ムっとした熱気が鼻腔から入り込み、思わずむせ返りそうになる。それと同時に、全身を覆っていた猛烈な睡魔が去っていく。
 俺は大きく目を開いた。
 男は俺の頬にシェービングクリームを塗りたくりながら、マスクでくぐもった声でこう言った。
「お客さん。眉の下はお剃りしてもよろしいですか――?」
「はい、お願いします」



    2 「マリアがくる」

 はじめての一人旅だった。
 夢にまでみたアメリカ――俺は憧れのロスアンジェルスに降り立ち、レンタカーを借りて西海岸を南下する旅程を立てた。
 カリフォルニアの太陽が燦燦と降り注ぐ。俺の旅は順調だった。現地で買った古着のティーシャツを着込み、顔にピッタリ嵌まるサングラスを掛け、マロボロを咥えながらハンドルを握る――。気分はすっかりカリフォルニアの真っ青な空に染まっていた。
 気ままなドライブ旅行を楽しんでいた俺は、ある日、ハイウェイを走行中に激しい雷雨に見舞われた。暗雲が立ち込め、強い雨がボンネットを叩きつける。遠くで雷鳴が轟き、旧式のレンタカーの車体が揺れた。
 ワイパーがほとんど役に立たなくなったため、俺は慎重にハンドルを捌きながらハイウェイを降りると、雨雲から逃れるように車を走らせた。
 どのくらい走った頃であろうか。
 俺は小さな田舎町へと辿り着いていた。雨はすっかりあがったものの、暗く重い雲がハンモックのように立ち込めている。
 その町は、まるで人々に見捨てられたような、寂しい印象を抱かせる町であった。古い造りの民家がちらほらと点在するが、人の加配がまったく感じられない。俺は地図を広げて自分の居る位置を確認しようとしたが、闇雲に走ってきた所為か方向感覚がすっかり麻痺しており、この場所がどこなのかまったく見当がつかなかった。
 そろそろ日も落ちてくる時刻だ。こんなしけた町にいつまでもいたら、今夜の宿探しがたいへんだ。
 俺は早々に立ち去ろうとレンタカーのキーを回した――がしかし、いくら試してみてもエンジンが掛からない。
「まいったな」
 俺はレンタカーのボンネットを軽く拳で叩いた――。
 いくら試しても言うことを聞いてくれないレンタカーを諦め、とりあえず俺はこの町で一宿することに決めた。見渡す限りホテルらしき建物は見当たらない。気乗りしないが、数軒ある民家に直接交渉してみようと思う。まず泊めてくれる家などないだろうが、いくらかの金を渡せばもしかしたら何とかなるかもしれない。俺は駄目元で民家のドアを一軒一軒ノックして歩いた。

 予想通りの反応であった。
 誰もドアを開けてくれない家もあれば、顔だけ一瞬覗かせるが、そのまま怯えるようにドアの奥へと引っ込んでしまう家がほとんどだった。
「やっぱり駄目か……」
 俺は民泊を諦め、車の中で一夜を過ごすことに決めた。

 車のサイドウィンドウを叩く、コンコンという物音で目が覚めた。
 俺は倒していたシートからむくりと起き上がり、目を擦りながら物音のする方へと顔を向けた。
 目を凝らすと、随分背の低い老人が車の脇に立っている。老人は震える手を上げて、またもやサイドウィンドウをコンコンと叩いた。
 俺は訝しみながらもドアを開けた。湿気を含んだ生ぬるい風が車内に入ってくる。俺は老人に向かって、英語で話し掛けた。
「何ですか?」
「あんた、ここで何しとるね?」
 老人は、低くしわがれた声でそうたずねてきた。そこで俺は、この町に来てしまった経緯を話す。
「……というわけで、車の中で一泊することにしたんです」
 老人は黙って俺の話を聞いていたが、やがてゆっくり自分に言い聞かせるかのように頷くと、俺に向かって手招きした。
「わしはちょっと用があって留守にしとったんじゃ。そりゃ、すまんことをした。早く車から降りてウチに来るがいい」
 俺は嬉しいというよりも驚いてしまった。まさかこの町で、一泊させてくれるような親切な人物に出会うとは思わなかったのだ。
 しかしこんな時に限って、日本人らしい遠慮が出てしまう。
「せっかくですが、僕なら大丈夫ですよ。車の中は熱くも寒くもないし……」
 そう言った途端、老人の顔色が変わった。
「何を言っとる。こんなところにおったら、あんた死んでしまうかもしれないぞッ。さぁさぁ、遠慮せんでウチに来るんじゃ」
 俺は半ば強引に老人に腕を取られ、車から引きずり出されてしまった。こうなったら好意に甘えさせてもらうしかない。しかし俺は、先ほど老人が口走った一言が気になった。
「あの、おじいさん。……さっき、ここにいたら死んでしまうかもしれないって言いましたよね? どういう意味です?」
「……マリアが、くるんじゃよ……」
「え? マリア……?」
「……」
 俺が連れて行かれた老人の家は、造りは古いがいかにも頑丈そうな煉瓦造りの建物であった。

 その日の深夜、その町一帯を大型ハリケーン《マリア》が襲った――。



    3 「動物愛護」

「えー、今夜のお客様は、動物王国で有名なムタジロウさんに来て頂きました」
 高価なスーツに身を包み、髪を後ろに撫で付けた温和な顔の司会者が拍手をする。すると舞台袖から、乱れ気味の白髪に大きな縁の眼鏡を掛けた老人が、痩身をふらつかせながら現れた。
「ようこそいらっしゃいました、ムタジロウさん」
「いえいえ、こちらこそお招きいただきまして」
 ムタジロウと呼ばれる老人は、その見た目とは似つかぬ甲高い声で挨拶をかえした。
 司会者の男がマイクを向ける。
「さっそくですがムタジロウさん。今日起こしいただいたのは、最近よく耳にする小動物の虐待についてお話を伺いたいと思いまして」
 ムタジロウの双眸が、眼鏡越しに鋭い光を放った。いきなり司会者からマイクをもぎ取ると、水を得た魚の如く語り始める。
「本当に悲しい世の中になったもんですねえ。か弱い小動物を虐めたり、ましてや傷つけたりするなんて私にはまったく理解できませんよッ。ああ、嘆かわしいことです」
 そう言ってムタジロウという老人は、大きくため息をついた。それからテーブルに用意されていたグラスの水を一口飲むと、更につづける。
「ああ、本当に嘆かわしいことです。か弱い動物は、我々人間が守ってやらなければいけない。そんな当たり前のことを、あまりにも多くの人が忘れてしまっていますよ。……生命の大切さ、重さをまるでわかっていない。動物であれ、虫であれ、その生命はとても尊いものなのです。何よりも大切なものなのです」
 司会者の男はしたり顔で頷きながら、ムタジロウに質問した。
「仰るとおりです。……ところでムタジジロウさん。もし、ムタジロウさんがそのような小動物を虐待している人物を見掛けたとしたら、どう説いてその行為を止めさせますか?」
 ムタジロウは真摯な表情で、さも当然とばかりにこたえる。
「止めさせるもなにも……その人物を殺してやりますよ」




      ――おわり――
2005/10/31(Mon)19:45:24 公開 / 時貞
■この作品の著作権は時貞さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お読みくださりまして誠にありがとうございます。
タイトルのとおり、三つの掌編を集めた小品でございます。それぞれのオチはすぐにわかってしまうと思われますが(汗)時貞流のブラック・ジョークです。どうもスランプで長い文章が書けないため、このような体裁のSS集を投稿させていただきました。
一人でも楽しんでいただくことが出来れば幸いです。感想などいただけたら大・大感激です。
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