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『ここにあるもの』 作者:早 / 異世界 未分類
全角4352.5文字
容量8705 bytes
原稿用紙約13枚
ここにあるもの



 先生は、うつくしいひとでした。
 背筋がしゃんと伸びていて、小さいはずの後姿がとても大きく見えました。
 凛と通る声は、弱いぼくをたしなめ、時に励ましました。
 長い髪はいつも輝いていて、先生の顔を隠していました。
 だからぼくは、先生が弱い心を持っていることに少しも気付きませんでした。


 先生と出会ったのは、小さな酒場でした。大人ばかりのその場所で、先生はそこにしっかりなじんでいたけれど、ぼくは違いました。ぼくは、小さな子どもでしたから。ぼくは強い人を探していました。いえ、正確には、ぼくを強くしてくれる人を探していました。
 ぼくは先生に言いました。
「ぼくを弟子にしてください」
 先生は無言で店を出て行きました。ぼくは慌ててあとを追いました。先生は広い歩幅でつかつか歩いてしまうので、ぼくは走らなければいけませんでした。それでも一生懸命走ればすぐ追いつくと思っていたのに、先生はなんと馬をもっていました。馬小屋までは追いついたけれど、先生が馬にまたがった瞬間、もう駄目だ、と思いました。
 ぼくは自分でも気がつかないうちに泣いていました。汗か涙か鼻水かわからないもので顔をぐちゃぐちゃにして、それはもうひどい泣き顔でした。ぼくはしばらく泣きながら先生を追って走りました。でも、小さな子どもが馬の足にかなうわけがありませんでした。足が疲れる前に先生の姿は見えなくなり、ぼくは泣きくずれました。自分の無力さに打ちひしがれて泣きました。どれくらいかそうしていると、蹄の音が聞こえて、顔を上げると目の前に先生がいました。先生は言いました。
「もう諦めるのか」
 と。

 ぼくが先生に弟子入りしたいと思ったのは、ぼくが弱くて、ひとりぼっちだったからです。ぼくがひとりぼっちだったのは、ぼくの村が悪いやつにめちゃくちゃにされたからです。村中が火事になって、みんな死んでしまいました。ぼくは命からがら逃げて逃げて、その途中で先生の話を聞きました。とても強い女だ、と誰かが言っていて、ぼくは先生に弟子入りしようと決めたのです。もちろん、悪いやつに仕返しするために。
「そうゆう動機は嫌いだよ」
 先生は言いました。
「でも、そうゆう動機は止められないものだから」
 先生はあっさりと、ぼくを弟子にしてくれました。その時は単純にうれしかっただけなのですが、今思うと先生は、過去の自分をぼくに重ねていたのかもしれません。ぼくがそう思うになったのは、ずっと後のことです。
 先生は名のある賞金稼ぎでした。遠隔射撃用の長い銃を持っていて、いつも的確に仕事をこなしました。先生が『仕事』をしているところを一度見たことがあります。先生は地面に伏せて銃をかまえ、息を詰めて標的を観察します。しばらくして、先生の体が少しだけ揺れて、空気を裂くような高い音がして、あっさりとそれは終りました。その呆気なさに拍子抜けしてしまうほどです。
 こんなにも簡単に――人は人を、殺せるのか、と。
 先生はぼくにいろんなことを教えてくれました。射撃はもちろん、近距離での戦い方、大勢に囲まれた時のやり過ごし方、かしこい逃げ方、森の中での食料確保の仕方、きれいな水のありか。やがて時が経つと、ぼくは先生よりも背が高くなり、力も強くなりました。それでも先生は先生でした。
 ところで、先生はネコを飼っていました。名前をアンリといいました。ラベンダー色の毛で、サファイアのような目をした、それは美しいネコでした。あまりに美しいので、ぼくは最初妖精の類かと思ったぐらいでした。先生はいつもアンリと一緒にいました。先生は時々アンリに話しかけ、アンリも答えているように見えたので、ぼくもアンリに話しかけてみましたが、そっぽを向かれるだけでした。
 先生は寡黙な人だったので、ぼくはしょちゅうアンリに話しかけました。アンリはぼくといると詰まらなそうにあくびをするばかりですが、ぼくは誰かに話しかけないと気がすまなかったのです。
 ある朝、突然先生はいなくなりました。ぼくの初めての『仕事』を控えた日の朝でした。傍らにはぼくのわずかな荷物と、アンリがいました。馬は先生が連れて行ったようでした。アンリのすぐ傍に手紙が置いてありました。宛て先は書いてありませんでしたが、それはぼくに宛てられたに違いありませんでした。ぼくが封をきろうとすると、突然「おい」と声が聞こえました。声が聞こえた方を見ると、そこには青年がいました。ぼくより少し背の高い、すらりとした男の子でした。髪の色は紫で、目の色は青だったので、アンリと一緒だなあと思いました。そういえば、アンリの姿が見えませんでした。ぼくがアンリを探していると、男の子は言いました。
「おれがアンリだよ」
 ぼくはひどく間抜けな顔をしていたに違いありません。アンリは本当に、妖精だったのです。
「エイヴンは、お前に何も言うなっていってたけど」
 ぼくはその時初めて、先生の名前を知りました。
「お前と出会った時、エイヴンは死のうとしてたんだ」
 彼は先生のことを教えてくれました。それはとても長くて、悲しい旅の話でした。

 先生の村もある日、ぼくの村と同じように悪いやつにめちゃくちゃにされたそうです。でもその悪いやつというのが、先生の実のお兄さんでした。先生のお兄さんは村中のみんな、両親も兄弟も友達もご近所さんもみんなを殺して、最後に先生を殺そうとしました。でもその時隣の村から助けがきて、先生だけ生き残りました。お兄さんは逃げ出して賞金首になり、先生はぼくと同じように、復讐を誓って村を出ました。先生とアンリはいつも一緒でした。たくさん、つらいことがあったそうです。食べ物を請って雨の中を一日中歩いたり、持ち物を取られたり、それを取り返そうとしても、力がなくて痛い目にあったり。でもそんな日々よりも、初めて人を殺した日、その日が一番先生にとってつらい日でした。それは『仕事』ではなく、食べ物を得るための行為でした。先生は血に濡れたまま考えました。そして決心しました。
 こうやって、生きていこう。
 それから先生は経験をつみ、ある筋では有名な賞金稼ぎになりました。そしてお兄さんを探しました。世界中で探しました。世界中で『仕事』をしました。先生は言いました。
「誰かを傷つけないと生きていけない、私は何も変わっていない」
 弱い心を隠しているだけ。見られまいと必死で、うずくまってるだけ。
 旅を続ける過程で先生は、復讐を果たした後の空しさを予想できるようになりました。
 字のとおり、空っぽ。そこにあるのは、何もない空っぽだろうと。
 そしてある日、ついに先生はお兄さんを見つけました。
 復讐は空しい。そうは分かっていても、目の前に相手がいるなら話は別でした。先生は何も考えず走り出しました。ナイフを握り締めて走り出しました。
 そして、それが終ったあと。
 そのひとはお兄さんではなく、『お兄さんによく似たひと』でした。
 血に濡れながら、先生は全てを思い出しました。
 そして気付きました。選択は、間違っていた、と。
「兄さんは、あの日私を殺そうとした」
 たぶん、
「私は死にたくなかった。だからナイフを取った」
 きっと、
「私は、兄さんのお腹を刺した。いっぱい血がでた。私は、……」
 最初から。
 そこは初めから、空っぽでした。

「エイヴンは死のうとした。生きる意味は、本当はずっと昔に無くしていたと気付いたから」
 ぼくは黙っていました。先生の言葉を思い出していました。先生とは驚くほど長い月日を共にしていたのに、思い出せる言葉はわずかでした。
「でも、お前と出会った。彼女は最後の、自分の使命だと思った。同じ苦しみの淵から救い出そうとした。彼女は昨日やるべきことを全て終えて、あとはお前に任せようとしている」
 そうゆう動機は嫌いだよ。でも、止められないから。
 先生はぼくを救おうとしていた。でも止められないと思った。
「おれはお前と一緒に行くよ。お前がどんな道を選んでも。それがエイヴンの願いだから」
 アンリは姿を消しました。ぼくにひとりで考える時間をくれたようです。
 ぼくは手紙を読みはじめました。


 お前とであった時、お前は小さくて弱くてほんの子どもだったから、誰かに守られるべき存在だと思いました。でもお前がかつての私のように、復讐を胸に抱いていると知って私は、導いてやらなければいけないと思いました。人のいのちを奪うのは、悲しい行為です。私は誰かを傷つけることで、自分が強くなったように思っていました。でもそれは錯覚で、実際は頑固な強がりが、誰の手にもおえないほど膨れ上がっていただけでした。そして同時に、自分の内側が空虚になっていくのを感じました。……実はそれも錯覚だったのですが。
 お前が以前の願いを持ち続け、誰かを傷つけながら生きる道を選ぶなら、私は口をはさむつもりはありません。それはあなたの選択です。やがてすっかりあなたの内側が空っぽになってから、お前は自分の行為がどういったものか気付くかもしれません。それでも、それはあなたの選択です。
 私はお前に、私の全てを託そうと思いました。でも、この気持ちだけは言葉で伝わるものではありません。託せるだけの全てを託した今、お前がどの道を選ぶか、それはお前次第です。
 私はもう行こうと思います。どこに行くかはわかりません。それは、私次第です。


 ぼくは駆け出していました。ちょうど、あの頃のように。そう、ぼくもあの頃から、少しも変わっていなかったのです。先生が何処にいるかなんて、皆目検討がつきませんでした。でもぼくは走りに走り、遠くに見慣れた後姿を見つけました。
「先生!!」
 ぼくはこれまでにないくらいの大声で先生を呼びました。先生は馬を引いて、並んで歩いていました。
「先生!!」
 さっきよりもっと大きな声で、と意識して呼びました。先生は背を向けたまま、馬にまたがりました。
 ああ、あの頃と一緒です。ぼくは知らぬ間に泣いていました。泣きながら走り走り、息が苦しいのを我慢して、遠のいていく後姿に向かって叫びました。
「絶対、諦めません!!」
 ぼくは走り続けました。

 少しだけ時がたったあと、ぼくはエイヴンという女のひとの細い肩を抱いていました。
 彼女は尋ねました。声が震えていました。
「その選択は、間違ってない?」
 ぼくは彼女を力いっぱい抱きしめました。そして答えました。
「こうやって、生きていけます」
 彼女は泣いていました。
 ここにあるのは空っぽではなく、空虚ではなく、たぶんきっと、いのち、というものなんだと思いました。





2005/10/23(Sun)10:42:28 公開 /
■この作品の著作権は早さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 こんにちは。うっかり自己紹介版に書き込んでみた早です。
 突発的に書いた話なのでいろいろとわかりにくい点、意味不明な箇所あるかもしれません。その上だらだらと長ったらしく感じられるかもしれません。申し訳ないです。分類を『異世界』に入れてみましたが、これでよかったのか心配です。
 感想や指摘など、あればものすごく嬉しいです。ではこのへんで失礼します。
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