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『City of Damned』 作者:片瀬 / 未分類 未分類
全角6516.5文字
容量13033 bytes
原稿用紙約23.65枚
睡眠薬三錠、ハンバーガー、フレンチフライ、狂った母と、夢を謳うテレヴィジョン。それが日常だった。あの、あの女に会うまでは――。
 
 


 耳をつんざくようなタレントの声だけが、部屋中いっぱいに響く。




 つけっぱなしのテレビからは、いかにも、僕馬鹿ですいやそのふりをしてるんですソレが売りなんですからこのキャラでいかせて下さいよ、と懇願せんばかりに大口を開けて笑うお笑い芸人や、たった数年の若さだけを売りにした、さほど可愛くないグラビアアイドルがコメンターを務める通信販売の番組が流れている。


 やだあ、これ、ちょうべんりじゃありませんかあ。ぼく、こういうのほしかったんですよねえ。このきかいがあったらやさいじゅーすもてがるにつくれておとくだとおもいますよー、ぜひいっかにいちだい、ですねー。これでごせんきゅうひゃくはちじゅうえん!おどろきのかかくですよ。いまならそうりょうむりょうでーす。つづいて、かんれんしたしょうひんをごしょうかいしますねー。


 テレビに出てるタレントを可愛くないだの馬鹿っぽいだのと批判している当の俺自身と言えば、ろくに食事もとらずに(いや、とっていることにはとっている。しかし、それはハンバーガーや、フレンチフライなのだけれども)、ビールばかり飲んでいる。
 しかし、退屈つぶしにと見始めたテレビはさらなる退屈を与え、俺が途方にくれていたころだった。
 隣の部屋からどこのアメリカン・コメディーかと思うほどの音がした。
 部屋中、洗濯機で回ってしまっているんじゃないか、というほどの。

 それ以上に大きく、隣の部屋で寝ていたはずの母さんの喚き声が部屋を満たした。
 俺はいつものことだと思いながらも、今まで寝転がっていたソファーから名残惜しいながらも離れ、わずかな隙間からのぞくと、母さんは相当年季が入った鏡台に向かって怒鳴り散らしていた。
 只でさえ年齢より老けて見られる顔をくちゃくちゃにして、




「ちょっと!私の鼻をもぎ取ったのは誰よ!鼻がなくなってるわ!」





 いや、あんだろうがよ、そのしわだらけの顔の中央に。














***City of Damned***















 そりゃあもう小さいころからテレビが親であり、兄妹であり、友達だった。ついでに言うと、テレビは近所のうるさいおばちゃんでもあった。
 この通り母さんはイカれてるし(物心ついたころからこんなだった。詳細は知らない)、政府からの母さんの精神障害への手当て金と、俺のわずかなコンビニでのアルバイトの給金でなんとか食いつないでいる有様だ。
 もう直ぐ正月だっていうのに、こうして安っぽいファストフードとアルコールばっかり摂取している。これじゃあ腹が腐敗して、母さんがくたばる前に俺がくたばっちゃうよ。

 
 もう一度、ソファーに戻ってきてみると、今度は開戦記念日特集番組がやっていた。
 開戦記念日――二十世紀から保たれてきた平和・そして憲法九条を放棄し、アメリカが敵視していた第三国への爆撃を開始した日だ。そこから、ずうっと日本は細々と戦争を続けている。
 その番組は、いかに日本の憲法九条を放棄した事が正当なことだったか、そしてどれだけの人が賛同したか、ということをアピールするためのものだ。その証拠に、スポンサーを読み上げるアナウンスが、行政各省の名を読み上げる。
 ただでさえ、大昔から抱えていた国債を雪だるま式に巨大化させて、今や手のつけられない状態だと、素っ裸の女の写真しか載せないようなカス雑誌までもが騒ぐ。
 そこに戦争の軍事費がのしかかるのだから……俺が言うまでもない。


「何もかもが、クソだ」


 誰に言うでもなく呟く。テレビはコマーシャルに入り、睡眠薬、健康食品、電化製品。果てには、旅行のツアーパックといった、明日の夢を謳い、強烈な色彩で人々にさまざまな欲望を植え付ける。


 まだ母さんは喚き続けているけれど、俺は知らぬふりを決め込む。
 いつも閉め切ったカーテンを開けると、窓越しに遠くの建物が燃えているのが見えた。
 ここからそう遠くないところに、どこかの大使館があったはずだ。それかもしれない。いい気味だ。
 カーテンを勢いよくしめた。
 またソファーに寝転がって、床に落ちていたブランケットを頭から被る。
 くそったれの街で、今日も俺は眠りにつく。睡眠薬三錠とともに。






 俺の朝はとてつもなく早い。
 まあ、自然に目が覚めてしまうんだよとか年寄りじみたことは言いたくないのだが、本当に自然に目が覚める。それ以前に、熟睡というものをここ最近したことがない。
 あきらかに健康ではない身体に鞭を打って起きだし、駅前のコンビニへ向かう。
 いつもの経路。
 やけに黒ずんだ犬、路上に寝転がるホームレス、排気ガスで美しく紫色に霞む空。
 こんな世界に吐き気を催しても、その吐き気をどうにかする便所はない。それを吐き出す場所はない。逃げ場はない。いつも行き止まりふん詰まり。あ、そういえば最近便秘気味。


 この角を右を曲がれば、見えましたコンビニ。アルバイトを始めて、もう三年になった。
 そんな俺はベテランとして店長に一目置かれているが、遅刻の常習犯としても目をつけられている。
 

「おはよーっす」
 まだ客もまばらで、従業員室に入ると、一足先に来ていたらしいトオルが煙草をふかしていた。
「よ。ってか、まっずいねこの煙草」
「じゃあすうなよ」
「貰いもんなんだよ」
 ふうん、と俺は相槌をうった(精いっぱい興味のある声にしたつもりだった)が、思いの外冷たく部屋に響いた。
 トオルは面白くないのか、座っていた事務机から身体を乗り出す。


「な、知りたくないの?俺が誰から貰ったか」
「別に。お前のことだから拾ったんだろ」
 トオルの事は判りきっている。容姿端麗、頭は軽い、薄情、トークは面白く、変わり身は早い。
 そりゃあ小学校三年生のころから知り合いだったらケツの穴のことまでわかりますって。あいつね、よく切れぢになるんだよね。そんなことはどうでもいいね。
 まあ、トオルがいつ初めて女の子と手を繋いだかも知ってるし、トオルは俺がいつごろから不眠症だったかを知っている。


 だるいと訴える患者には、とりあえずビタミン剤を与えとけ、という医者にかかっているということも。


「なあ、聞きたいだろ」
 言い出したらとまらない。それもわかっている。
 どうしても話したくてたまらないらしいので、俺は仕方なく椅子に腰掛けた。
 従業員室から店内のモニターを見ると、客は出勤前であろうサラリーマンと、真面目そうな女子高生しかいなかった。レジには店長がいるし、まあ大丈夫だろう。
「ああー、聞きたい聞きたい」
 わざと興味がなさそうに言う。それでも食らいついてきたから、よほど話したかったらしい。


「お前、この前の大使館テロ知ってるだろ」
 トオルは立ち上がり、カーテンを少しだけ手でよけて、窓の外を指差した。
 ちょこんとビルの隙間から見える残骸。ビルの死体。
 相槌を打たずに目で話を促す。
 テロ、という単語が出てきた時点でピンときた。
 おそらく、また悪い連中とでも付き合っているんだろう。
 前はチンピラと付き合って、半殺しの目にあったのに。懲りないやつ。


「あれをやったのって、アレスっていう組織なんだよ」
 聞いたことのある組織だった。
 ローカルのニュースではしょっちゅう耳にしたし、アレスに所属してるキッズたちにいきなり殴りかかられそうになったこともある。
 頻繁にテロを起こすのには、資金も必要だ。よほど金回りがいいのだろう。
「なに? その下っ端とでもまた付き合ってんの? やめとけよ」
「違うんだって! そのボスさ」
「いつからそんなに偉くなったんだよお前」
 いくらテロ組織であっても、幹部あたりになると賢いやつが多い。それこそ、馬鹿と利巧は紙一重ってやつ。いや、頭がよすぎて狂気じみているというか。


「仲良くなったんだ。お前、賢いやつだなって褒められたよ」
 トオルは新しい一本を箱から取り出してもてあそぶ。
 その病気じみた白さをした手を眺める。
「へえ。出入りしてんのか」
 さりげなくモニターを確認した。
 客は……増えていた。店長がこちらに向かって睨んでいる。
「今、資金集め手伝ってんだ。そろそろ大役任せたいって言ってたし、」
「おい、そろそろやべえよ。出るぞ」
 制服――すごく着る気をなえさせる色をしている――を手渡しながら、俺はトオルの話を遮った。
 トオルは口を尖らせたが、そんなことに構っている暇はない。
 安い時給を、これ以上下げられては困る。全ては店長次第。俺次第。


 店にでる。
 店内には軽快な音楽が流れていて(洋楽だった。たぶん、『警告・警告なしで生きろ』と訳のわからないことを歌っている)、それとは対照的に、早朝であるせいか、客の表情は硬い。
 今しがた入ってきた、化粧品と香水のまじったにおいを振りまく女に買い物かごをわたす。


 いらっしゃいませええ。
 そんなトオルの声が、背後で響いていた。今日も一日が始まる。
 薄っぺらい歌が、俺を励ましていた。
 さあ、今日も警告なしで生きろ。




 突然だが、絶望について話そうと思う。
 絶望は、いつもねっとりとした口調で俺に囁く。
 あの生ぬるい息が、耳にかかってしまうほど近くで。
 じいっと見ている。息遣いを殺して、こちらに気付かれないようにそっと。
 ただ、囁きかけてくるときは滅多になくて、話しかけてきたとしても、すぐに黙ってしまう。片頬だけの笑みを顔に貼り付けたまま。


「なーあ」
 ひらひらと骨ばった手が目の前を行き来した。
 骨ばった手、というよりは、無駄のないラインをした手だ。昔、美術の作品鑑賞で見た、高村光太郎の作品のような。触ってしまったら、ほろほろと崩れてしまいそうな手。
「冷めるよ、ミネストローネ」
 徐々にではあるが、耳にファミレスの音が戻ってくる。
 食器がぶつかる音、呼び出し音、かったるそうなウェイターの注文確認。
 向かいにいるトオルはといえば、自分の注文したトマトとブロッコリーのリゾットは半分以上平らげてしまったらしい。
 俺のミネストローネは、弱弱しく湯気を吐き出していた。
「何?悩み?ねえ」
「うっせーな。俺だって考え事くらいするさ」


 突然、絶望のことを思い出したのにはわけがある。


 いや、思い出さざるえなかった。
 絶望は、今日この場に同席しているのだ。
 ひやりとした空気をまとって、彼は俺の隣に座っていた。
「そーなのかー。お前もその空っぽな頭で考え事をするんだねえ」
 比較的大きく残ってしまっていたトマトをつぶしながら、トオルは笑った。
 ミネストローネをひとさじすくう。少し酸味が強く、俺は身震いした。
 否、それだけが原因じゃなかった。


「おい」
 真っ黒な声。
「おい」
 気だるそうな口調。
「おい」
 つまった呼吸。
「おい」
 生ぬるい息。
 

「おい、反応したらどうなんだ? 」
 笑いを含む声で、絶望は問いかけてきた。
 また、ファミレスの声が遠のいてゆく。ああ、そこのむかつくウェイター、お前の声が愛おしいよ。近くのテーブルに座ってる、親父のゲップの愛おしく聞こえる。
 ああ、消えないでくれ、俺から音を奪わないでくれ。
 きゅうっと喉が鳴って、視界が暗くなっていくのがわかった。
 世界には、絶望と俺しか存在しなかった。


「最近どうなんだ?」
 震えているのを悟られないように、手を精いっぱい握り締めた。
 絶望は、目を見開いて俺の鼻辺りを凝視している。
「うまくやってるさ。は、でもお前が来るってことはなんかまた厄介な事があるのか?」
 まぶたが痙攣する。
 

 絶望との付き合いは長い。
 物心つくころには、もうそこにいた。まるで、ライナスの毛布のようだった。
 いや、別に依存しあっていたわけではないけれど。
 今ほどは毛嫌いしていたわけじゃなかった。
 俺が小さかった頃は、彼も小さくて、まだほんの子どもだった。
 一緒に育った。いや、まったく愛着はわかないけれども。いや、愛着わいたらきもちわりいよ。


 小学校に上がってからだった。
 手をのばせばそこにいた絶望が、いなくなってしまったのだ。
 友達ができて、好きな子ができて、『先生』という大人に可愛がってもらう術を知った(もっとも、それは役割分担というやつだ。『先生』という人種だって完全じゃない。他人の子など、心から愛する事なんかない。子どもを愛する自分、そして子どもに慕われる自分に酔っているんだ)。
 たまに出てくる絶望は、恨めしい顔でこう言うのだった。


「ねえ、僕は? なぜ僕を愛してくれないの? 可愛くないから?」


 それ以来、絶望はめったに出てくることはなかった。
 それが、久しぶりに出てきたのは、四年生の丁度、夏休みが終わる頃だった。


「やあ」
 久しぶりに見た絶望は、やはり俺と同じように、背丈が伸び、少し引き締まった顔になっていた。
 夏休みの自由研究をやっていた俺の肩に、絶望はそっと手をかけた。

「新学期、楽しみだね?」
「うん、君は?」
「僕?僕かあ。とっても楽しみだよ」
 ぞくぞくしちゃうよ。
 そう言って唇を舐めた意味を俺が理解したのは、学校が始まってすぐのことだった。
 まず、俺の上履きがなくなった。ゴミ箱からノートが見つかった。給食はいつも「汚い」と言って最後になった。担任は見てみぬふりをした。
 原因は簡単な事だった。誰かの親が、俺の暮らしぶりを子どもに漏らしたらしい。狂った母親、汚い部屋、衛生的ではなさそうな食べ物。そんなことでも言えば、たいていの子どもは異常だと感じるだろう。(まあ、それを異常だと思わずに付き合ってくれていたのがトオルだったが)
 
 そんなとき、絶望は笑ってみていた。
 彼は必ず、わざと俺の見える場所に立っていた。

 ある日、とうとう腹が立った俺は、リーダーのように振舞っている男に殴り返した。まあ、案の定そのあとは袋叩き。殴る蹴る焼く煮る。あ、焼く煮るは誇張ね。……じゃなくて、絶望はずうっとうずくまってた俺を見下ろして、声を上げて笑ってた。
 あのときばかりは、涙が流れたのを覚えてる。
 俺は、以前の台詞をそのままあいつに返してやりたかった。


「ねえ、僕は? なぜ僕を愛してくれないの? 可愛くないから?」


 数ヵ月後、ターゲットが別な子に移るにつれて、俺へのいじめは自然消滅したものの、それ以来、何が嫌な事が起こる前触れに現れるようになったのだ。



 はっと気付く。
 まだ、絶望と二人きりの世界だった。
 まるで、自分のまわりにぴったりと膜がはられているようだった。
 苦しいし、音が明確に伝わってこない。あえて言うなら、水泳のあと、耳に水が入ったままいるかんじ。気持ち悪い。


「厄介ごと? さあなあ。俺の知ったこっちゃないし」
「そう言うと思った」
「なんだー、わかってんじゃん」
 絶望は煙草を一本くわえ、ライターを取り出した。
 火をつける前に、こちらを少しだけ見て笑った。やはり片頬だけで。

「でもさ、俺が出てくるって言ったらさ。わかるよね」
「勿論だよ」
 それっきり、絶望は消えた。
 二人の世界は終わり、視界と音はファミレスに戻っていく。
 見てみれば、向かいの席にいたはずのトオルの姿はもうなく、書置きと一万円札だけがぽろりと置いてあった。あらこんにちは福沢さん。今日はお一人ですか?俺もですよー奇遇っすね。

『ちょっとボスから呼び出しあったから、ちょっと帰るわ。
多分、合コン。お前も来たかった? 
なんてね。うっそ。
これ、一万円で会計しておいて。おつりはお前持ってていいよ。』

 トオルの軽薄な人格をあらわすような字。かなり筆圧は弱いらしく、『な』なんて何が書いてあるのかもわからなかった。書道家・箱崎トオルかっての。


 窓のそとには、夜が始まっていた。
 空とネオンが溶け合い、まったくもって気色悪い色をかもし出していた。
 絶望が、ひっそりとどこかで笑っているような気がする闇だった。














つづく
2005/10/29(Sat)23:25:46 公開 / 片瀬
■この作品の著作権は片瀬さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
三話目です。
どうしてもトオルくんが…(汗)
頑張りますので、よろしくお願いします。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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