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『電信柱』 作者:せと ゆうじろう / 童話 未分類
全角6680文字
容量13360 bytes
原稿用紙約18.1枚
 僕は生まれた時からここに立っていました。僕を生んだのは山田さんという職人さんだと聞きました。時々僕は激しい痛みを感じます。それが電流だということは知っています。僕はその電流を流す線を支える役目だということまで知っています。僕がいるおかげで人間は夜に本を読んだりすることができるらしいです。それを僕は誇りに思っています。
 僕の頭のあたりには、ランプがついています。それがなかったら、道が暗くなりすぎるからです。人間は時々光の落ちている所に立って休んでくれます。冬だと白いため息が幻想的な風景を描いてくれます。僕は小さな子供の安全を守ってもいるらしいです。とても嬉しいです。
 申し遅れました。僕は電信柱という者です。物だよ、『物』という人もいるかもしれませんが、僕は物ではないと思っています。どうしてだか分かりません。でも、時々小鳥が話し掛けてきてくれます。時々人間が抱きついてきてくれます。だから、生きていると感じるのです。でも、人間や小鳥達は、僕の言葉を聞いてくれません。いえ、聞こえないのです。
 
 今日もいい天気です。小鳥達は、僕の上や、電線の上に乗っかって、楽しくおしゃべりをしています。僕はそれを聞いているのです。とても楽しい気分になります。自然と笑みがこぼれてきてしまいます。
「おい、聞けよピー子。俺、昨日、鷲に追いかけられたんだぜ」
「うそ、じゃぁ、なんで生きているの」
「俺が逃げ切ったからに決まっているだろう」
「きゃぁ、すてきだわ」
 僕ば今日もひとつお勉強をしました。小鳥が鷲から逃れるというのは、凄い事らしいです。でも僕は鷲というのがどのような物なのかが分かりません。でも、僕はよくここに止まってくれる小鳥達のことは全て知っています。この世で唯一の友達なんですから。でも、彼らは僕のことなんて一つもしらないでしょう。知っていることといえば僕が電信柱ということくらいでしょうか。
 でも僕は小鳥達の事がとても大好きです。時々糞を僕の頭の上に置いていきますけれど、それでもやっぱり好きなのです。
 やがて夕陽が沈む頃、裕太君と健二君が駆けてきました。彼らはこの近くの家に住んでいる子なのです。彼らが生まれるよりも早く、僕はここに立っていました。彼らが生まれてから、夏が六回きました。もちろん冬も六回きました。冬は僕の頭の上に白い重たいものをのせていきます。冬はぼくにとってあまり好きな季節ではありません。でも彼らは冬が大好きです。寒かろうがなんだろうが、元気に外であそびまわるのです。そして、白い落し物を無邪気によろこびます。僕はそれが羨ましいのです。子供達は動き回って汗を流しながら自分を暖めます。僕はそれを立って見ているのです。見ているしかないのです。僕は立っている事しか出来ないのですから。
 今は春です。春は小鳥たちも上機嫌ですから、僕も自然と機嫌が良くなります。裕太君と健二君に小便をひっかけられたりしても、怒ったりはしません。二人は歌を歌い始めました。きんきんとしたかわいらしい声です。僕も歌いたくなって、でも歌えなくて、空には二つの声が鳴り響いていたのです。
 それから二年が過ぎました。僕の体にも、少し汚らしいさびが目立ってきました。そうなると、雄二君や健太君も、以前のように抱きついてくれなくなりました。抱きつくと、ぽろっ、と赤茶色のさいびが落ちてしまうのです。
 小鳥達はまだ僕の上に乗ってきてくれます。でも、二年前の鳥とは違います。彼らは死んでしまいました。今、僕の上に乗っているのは、彼らの子供達なのです。
 ここに立っていると、あたりの生死がいやでも伝わってきます。裕太君も大人になって子供を持つのだろうか、健二君もいつかは死んでしまうのだろうか、そんなことを考えたりするときもあります。でも、僕はその時まで生きているのでしょうか。どうやって死ぬのでしょうか。僕は眠りません。僕は食べません。他の生き物とは全く違うのです。誰が僕の命を決めるのでしょうか。
 そういえば、裕太君は小便をひっかけなくなりました。健二君は時々します。でも、僕はいやではありません。むしろ嬉しいくらいです。こういうことでしか僕は己の生命を感じることができません。夜ひとりでぼうっと立っていると、時々魂が抜けていくような感覚に陥る事があります。それは凄く恐い事なのです。人の尿はすごく暖かいのです。
僕は裕太君達が、かくれんぼをするのを楽しみにしていました。僕に顔をひっつけて、数字を数えるのです。その子の体温を感じることができました。その子の声で、僕の心臓に振動がきました。それは僕にとって至福の瞬間でもありました。でも、もうそんなこともしてくれません。僕があまりにも汚くなりすぎたのです。
 例えば、誰かが雑巾を持ってきて、僕の体を一生懸命拭いてくれたら、どれだけ嬉しいでしょう。さびた所を暖かい手でこすってくれたら、どれだけ幸せでしょう。きっと僕は泣いてしまうに違いありません。心で泣くのです。泣けるのでしょうか。それも不安です。
 またそれから時がたちました。もう何回夏と冬を越したか分かりません。僕はずっとここに立ったままです。小鳥達も、もう上に止まってくれないようになりました。なんでも、ここには餌が少なくなってきたようです。最近、新しい家が立ち並び、裕太君と健二君にも、新しいお友達が出来たようです。それは嬉しい事です。
 僕の足元から、雑草が生えてきました。雑草は僕とコンクリートの間にいます。
 また月日がたちました。僕は少しずつ疲れてきました。裕太君もここにはいなくなりました。少し前の暑かった日に、おおきなトラックに乗ってどこかへ行ってしまいました。それから帰ってきません。僕は寂しいです。
 寂しいと言えば、このあたりにめっきり人が少なくなっていきます。健二君はまだいるのですが、もう住む人がいなくなって塗料がはげてきた家や、草がんおびたいほうだいになっている家がたくさんあります。賑やかな声もきこえなくなりました。僕はそれでも立っています。
 僕の頭の上にある灯が、最近つきにくくなってきました。時々消えたり、ちかちかしたりします。前までは、ひげを生やした太っちょのおじさんが僕をいじって治してくれたのですが、最近は来なくなってしまいました。
 そのうち健二君に彼女が出来たようです。とても可愛い女の子です。二人は仲良く手をつなぎながら歩いています。時々僕の前を通ります。僕は二人を眺めます。若々しい匂いがたちこめます。嬉しい瞬間です。僕とは反比例のグラフを描くようにして、若々しさをわたのようにふわふわと膨らましていっているような感じです。僕はもう電灯もつかなくなりました。でも、時々線香花火のようにちかっと一瞬電気がついたりするのですが、それが逆に目障りなようです。
 目障り。僕にちょっとした事件が起こりました。いえ、僕にとっては重大です。僕がここに立ち始めてから、十数回さくらの花が散って咲いただろうという頃に、健二君が、健二君の彼女のと一緒に、僕の近くに立ってなにやら話をしていました。時々笑って、時々肩を叩きあいあいます。そして二人が顔を近づけて、接吻を交わそうとしたとき、僕の頭にある電灯が、僕の意志とは全く関係なくバチッという凄く機械質な音を立てて一瞬つきました。健二君の彼女は驚いて、健二君から顔を離しました。健二君は、恨めしそうに僕を睨みました。
「ちっ。この電信柱はもう駄目だな」
 そう言いました。
「触ったら垢がぼろぼろでるしさ。鬱陶しいし」
 とも言いました。それは私の被害妄想かも知れませんが、とても憎しみがこもっているようにも聞こえました。とりあえず、睨んでいた事だけは確かなのです。
 僕は別に健二君が悪いとは思っていません。健二君からしてみれば、僕よりも彼女のほうが数倍も百倍も大事なのです。僕はわかっています。僕はもう垢だらけで、電球がつかなくて。僕の役割は、電気を送る線が垂れないように支えてる役目だと聞いた事があります。まだせんが僕の上にあります。この辺に住んでいる人に、電気を供給しているのだそうです。でも、その家が、最近少なくなってきました。裕太君もいません。そして、電灯もつきません。
 僕は、僕はここに立っている意味がなくなってきました。人間にとって、意味がなくなる物は、要らない物なのです。僕の近くに立っていたマンションも、こなごなにされ、跡形もなくなりました。その跡には草がぼうぼうと生い茂っています。
 冬がきました。僕の頭の上には雪がかぶさってきて、とても重いのです。僕はなんだか昔を思い出す気分になります。最近は特にそうです。裕太君の顔が脳裏に浮かびます。裕太君は僕の中では、まだ幼く、かわいいのです。でも、僕は現実が必ずしもそうではないことをしっています。僕は二十数年ここに立ってきたのです。人を高いところから見てきたのです。そして、思い出が美しい事も知っています。
 裕太君は笑っているのです。僕にです。僕にしがみついて笑っているのです。健二君もそのそばにいます。でも、僕を睨んでいるのです。それではあまりにも悲しすぎます、僕は必死で健二君の幼い頃の顔を思い出そうとします。でも無理なのです。ずっと睨んでいて、そのうち近隣のひともみんな僕を睨んでて、裕太君だけが笑ってて、僕はとても悲しくて。そしてしばらくたったあと、ショベルカーが来て、ぼくをガリガリとけずるのです。僕はそれにどうすることもできませんでした。まわりの人たちは、今度は睨まずに、声を上げて笑っているのです。裕太君も、相変わらず無邪気に笑っているのです。
 その時、強い風が吹いて、僕を現実に引き戻しました。寒さも戻りました。道路には誰もいません。僕は一人なのです。ただ、電灯がつかなくて、一人ぼっちのところを見られないことがせめてもの救いです。夜です。月が見えます。月はひとりなのでしょうか。
 裕太君が笑っています。その後ろで大勢の人が僕を睨んでいます。それしか最近頭に浮かんできません。そしてその症状は確実に進行していきます。僕はもう一日中そのことしか考ることができません。正気に戻った後も、頭がぼうっとして、寒さも雪の重さも感じなくて、気づいたらまた裕太君が笑って健二君たちが睨んでいるのです。正気の時の記憶が思い当たりません。僕は夢の中を生活しているようです。
 裕太君は相変わらず僕に笑いかけてくれますが、他の人たちは憎悪の目で僕を見つめています。その視線は裕太君にも注がれているのではないのでしょうか。ある日僕は突然そんなことを思いました。僕を冷たく見据える延長線上に、裕太君がいるのではないのでしょうか。きっとそうです。僕は耐えられなくなります。裕太君をこんな冷たい空間の中に放っておくわけにはいけません。たとえ夢の中であろうとも。夢だと分かっているのです。でも僕はそれを否定することはできないのです。僕は夢でしか生きられないのです。僕は裕太君を突き飛ばしました。ただの電信柱である僕が、どうやって彼を突き飛ばしたのかは分かりません。けど、彼はとても悲しそうな顔をして、幼いかわいらしい顔をくしゃくしゃに汚して、泣いていました。
 それ以来裕太君は笑いかけてくれません。僕もそれ以来夢を見ません。現実の世界でも、僕はほとんど存在しません。時々健二君が、恨めしそうに僕を蹴ると、少しはっとして、健二君の顔を認識して、またぼうっと頭が一面の雪のようになるのです。
 僕はもういらないのでしょうか。
「そんなことないよ」
 そうですか。
「あなたは僕の思い出だ。僕はあなたのことをずっと覚えている。思いでは美しい」
 それは知っています。でも、僕は思い出されなくなってしまったのです。そして、唯一思い出せるあの子の顔も、あの子の笑顔も、私自身が葬ってしまったのです。あの子は泣きそうでした。僕の中ではもう、あの子は笑顔をみせてくれないのです。
「僕はあなたを恨んではいない。あなたは素晴らしい思い出だ」
 あなたは裕太君なのでしょうか。これもきっと夢なのでしょうか。自ら望んだ内容を、自ら見ているだけなのでしょうか。裕太君は、随分前にここから居なくなったのです。裕太君が居なくなった時、僕はすごく悲しんだりしたけど、今では感謝すらしています。だって、あの幼い頃の裕太君しかしらないのですから。きっと、裕太君だって大きくなったら、僕を疎みもせず、僕の存在がなかったかのようになるのでしょう。それは、睨まれて、憎まれるよりも哀しいことです。僕は地面にたっているしかないのですから。
 最近、ここによくショベルカーやブルドーザーが通ります。そして古くさい物をすべてなぎ倒して、そこを廃墟にしてしまいます。別に僕の前に止まっても、驚きもしません。悲しみもしません。だって、この頃は夢すら見れなくなって、ずっとぼうっと立っているだけです。頭の中は真っ白です。白い雪が一面に積もって、空まで白くて、全てが白くて、僕は存在意義を見つけ出す事が出来ません。
 ショベルカーは今日もあちこちを走り回っています。それもぼおっとしていて、音が微かに聞こえ、映像が微かに目に届きます。もう僕の上にある電線も切れかかり、さびついています。トラックが僕の目の前で止まりました。勢い良くドアから出てきた人間が、僕の前でしゃがみこみました。
「懐かしいなぁ」
 そう言いました。この人はだれでしょう。いい匂いがします。この人の昼ご飯はなんだったのでしょうか。
「まだこの電信柱はあるのかい。おや、こんなにさびちゃって」
 男の人はそう言うと、雑巾で、僕を拭き始めました。すると、ぼろぼろと表面のさびた部分が取れていって、でもその取れたあとの部分も汚くて、涙がでそうになりました。嬉しくて泣きそうになったのか、悲しくて泣きそうになったのか、よくわかりません。頭の霧が晴れていきます。顔がはっきり見えます。僕を拭いてくれている人は若く、あごに無精ひげがあります。その後ろには少し頭のはげたおじさんがいます。
 若い人は相変わらず僕を雑巾で優しく撫でてくれます。僕は久しく風と雪と雨にしか触れていませんでしたから、くすぐったいような、恥ずかしいような、そんな感じがいっぺんに襲ってきました。
「山田さん、僕はね、小さい頃よくここで遊んだんですよ。すっかり人家もなくなってしまったなぁ」
 若い人は僕を拭きながら、少しはげたおじさんに言いました。その振り返った横顔が、なぜか僕のこころの中でひっかかるのです。僕の心の中で。
 若い人はそれからしばらく僕を綺麗にし続けました。さびや垢がおちても、落ちた所からまた汚いものがでてくるのできりがありません。それでも若い人は、やめることなく拭きつづけています。
「もういいだろ、その辺にしとけ」
 はげおじさんが言いました。若い人も顔をあげて、うっすらと光る汗をぬぐいました。
「そうすね」
 その言葉をうらんだりはしません。僕は電信柱なのです。人の邪魔をしてはいけません。でも、この人たちはなにをしにきたのでしょうか。時間が凄く短く感じます。こんなに、正常な思考な元で暮らしたのはいつ以来でしょうか。もう過去の事は覚えていません。ただ覚えているのは、美化された裕太くんだけです。
 でも。この人は何かひっかかるのです。
 そう思っているうちに、機械的な甲高い音が響きました。響いたかと思うと、冷たい感触が、僕を貫いていきます。僕は二つになっていきます。なんだかよく分からない感触です。これが死ぬということなのでしょうか。わかりません。僕はそもそも生ある者なのでしょうか。わかりません。そして僕が二つになったあと、脳裏に浮かんだのは、やはり幼い笑い顔の裕太君でした。そして最後にみたのは、若い人でした。その人は僕をなんともいえない、空のように澄んだ眼で見ていました。
 裕太君、あなただったのですね。最後にあなたに出会えたのですね。出会えたのですね。

 僕が目を覚ますと、機械的にぷしゅーぷしゅーと音がなる所でした。僕は3センチ四方あまりの小さなコンクリートの塊にされていました。それが困った事に、あちこちで僕がいるのです。そこら中に僕がいます。僕は細かくされました。僕はどうなるのでしょうか。物語はまだはじまったばかりです。
2005/09/20(Tue)00:34:56 公開 / せと ゆうじろう
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■作者からのメッセージ
 童話ですが、大人も読んで楽しめる、ということを意識しました。そしてある程度の深さというのも追求したつもりです。感想、批評どんどんお願いします。
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