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『不条理』 作者:時貞 / ショート*2 未分類
全角3555文字
容量7110 bytes
原稿用紙約10.75 枚
 残暑が続く中、珍しく初秋を感じさせる涼風が爽やかな、日曜日の午前のことであった。
 休日ということもあり、市内のほぼ中央に位置する市民公園は、朝早くから多くの人々で賑わっている。
 幼い子供を連れた若い夫婦、ジョギングで汗を流す青年、ゲートボールを楽しむ老人たち、そして、いかにも楽しそうに笑い転げている少年たち――。
 そんな中、周囲にせわしなく目を配る、少し挙動が怪しい青年の姿があった。
 擦り切れたジーパンに鮮やかな黄色いティーシャツ、黒ぶちの眼鏡を掛けて、水色と白のストライプのバンダナを頭に巻いている。
 彼の名は、香取剛(かとりつよし)。
 今年の大学受験に失敗した浪人生である。彼は今、来年の受験勉強もそっちのけで、ある事に熱心になっていた。それは、ボランティア活動である。
 毎年夏の終わりに放送される、某テレビ局の二十四時間番組――この番組を今回はじめて二十四時間ぶっ通しで見た彼は、この番組の主旨であるボランティア精神にすっかり感化され、自らもボランティア活動をはじめることにしたのだった。
 募金団体に寄付できるほど経済的余裕の無かった彼は、まずは自分でも出来ることからと、近所の困った人たちに手助けをする事を決めたのである。
 ところが彼のボランティア精神は、相手にとってはかえってはた迷惑な事もしばしばであった。
 犬の散歩を引き受けたはいいが、途中でその犬に逃げられ、飼い主とともに何時間も探し回ったこともあったし、近所の老人の入浴を手伝おうとして、危うくその老人を溺死させそうになったこともあった。物干し竿から落ちていた洗濯物を拾ってあげようとして、下着泥棒に間違えられた事もある。
 しかし思い込みの激しい彼は、毎回人の役に立っていると自己満足していた。考えようによっては、ひどく厄介な人物ともいえる。
 そんな彼の今日のテーマは、公園で困っている人たちに愛の手を――である。
 彼自身、今日は何故かしら特別な予感がしていた。これまでの活動とはまったく違う体験が待ち受けているような、なにかこう、自分が特別な存在となるような予感をひしひしと感じていた。

 大きく深呼吸をし、イキイキとした表情で活動を開始する。
「お、あの人困ってそうだな」
 彼の目がきらりと光った。
 大きな松の木の下で、幼い女の子とその母親らしい女性が上を見上げている。どうやら女の子が手放してしまった風船が、松の木の枝に引っ掛かっているようだ。
「おーい、いまから助けてあげますよ――!」
 彼は大声でそう叫びながら母子の元へと駆けて行った。がしかし、そんな彼の接近を目にして、母親は急に顔色を変えると女の子の手を取り、その場から逃げるように去っていってしまった。どうやら彼は、ちょっと危険な人物だと判断されてしまったらしい。
「おやおや、どうしちゃったんだい? 風船取ってあげようと思ったのに」
 風船を取ろうにも今まで一度も木登り経験の無い彼であったが、さも不思議そうにそう呟くのであった。
 
「お、あそこにもいらっしゃるじゃあーりませんか! 困ってらっしゃる人が」
 彼の目が再び輝く。
 見ると、園内にある大きな砂場で子供たちに交じり、一人の男性が足元をしきりに手で掻いていた。どうやら何か落し物をしてしまったらしい。
 彼はすかさず駆け寄って行った。
「何かお困りのようですが、どうされました?」
 そう声を掛けると、男性は目をしょぼつかせながら口を開いた。
「いや、コンタクトレンズを落としてしまったようで」
「それは大変だ! 僕も一緒に探してあげますよ」
 彼はそう言うと、男性と一緒になって砂場に落ちたコンタクトレンズを探しはじめた。
 さらさらとした砂に手を這わせてから十分ほど経ったとき、彼の手に小さな円形のプラスティックのような感触が伝わった。
「あ、あった! ありましたよ!」
「え、本当ですか?」
 彼は、右手の指につまんだコンタクトレンズを取り上げて見せた。
 汗に濡れた男性の顔に、安堵とともに感謝の表情がひろがる。
「あ、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「はっはっは! いえいえ、どういたしまして。人間、助け合いですから」
 そう言ってコンタクトレンズを手渡そうとした瞬間、「ペキッ!」と乾いた音を立てて、彼の指に挟まれたコンタクトレンズが二つに割れた。

 逃げるように砂場を去った彼は、次のターゲットを探しはじめた。
 ボランティアと言うよりももはや嫌がらせとしか見えないのだが、彼にはまったくそういった自覚はない。ただひたすらに、困っている人を探し求めるのであった。
「ふぅ――どっかにまた困ってる人いないかなあ」
 ため息をつきながらそう呟いた彼に、背後から声を掛けてきた者があった。
「おい、あんた。さっきから何を探してるんだ?」
 ふり向くと、一目でホームレスと見受けられるような初老の男が立っていた。ぼさぼさに縮れた髪は伸び放題で、細かいごみや埃にまみれている。ひげも胸の辺りまで伸びており、ぼろ雑巾のような汚い綿ズボンの上に黄色い染みだらけのティーシャツを着ていた。身体も木の枝のように痩せ細っているのだが、眼光だけはやけに鋭い。話し掛けてきた声もどっしりと響くような声であった。
 真っ黒に日焼けしたその肌は、見ようによっては日本人でないようにも思える。
 彼――香取剛は口を開いた。
「はぁ、実は困っている人を探しているんですよ」
「――あ? 困っている人?」
「ええ、実は僕、いまボランティア活動を行なってまして」
 彼がそう言うとホームレス風の男はにやりと笑って、「じゃあ、困ってる俺をなんとか助けてくれよ」と言った。
 話しを聞くと、ここ数日間ほとんど水以外口にしていないらしい。
「腹が減ってたまらねえんだ。ボランティアをやってるんだったら、俺に何かめぐんでくれよ」
 男の言葉を受けて、彼は財布を取り出すと中を覗いた。小銭ばかりしか入っておらず、なんとか五百円になるかならないかといった程度の額である。これを全額渡してしまうと、彼の今日の昼飯代がなくなってしまうのだ。
 寸時悩んだ彼であったが、大きくため息つくと爽やかにこう言った。
「少ししかありませんけど、よかったらこれ使ってください」
 そう言って、ホームレス風の男に財布の中の小銭を全部手渡す。
「ほ、本当にいいのかい?」
「はい。人間、助け合いですから!」
 ホームレス風の男の目に、きらりと光るものがあった。
 男はたずねる。
「しかしこれ、今の君の持ち金ぜんぶだろう? 歩いて帰れるのかい?」
「いえ、バスに乗って帰りますけど、定期券を持ってますから大丈夫です」
 ホームレス風の男はしげしげと彼を見つめていたが、やがてにっこり微笑むと、背中に背負った大きなバッグを下ろした。バッグの口を開け、中から丁寧に包装された包みを取り出す。ちょうどお中元などで見かける、ビールセットくらいの大きさの包みであった。
「あんたいい人だから、これ、あんたにやるよ」
 そう言って、ホームレス風の男は包みを差し出した。
「いえいえ、そんな。僕はボランティアでやっているんで、こんな物をいただくわけにはいきませんよ。……それにこれ、大切な物じゃないんですか?」
「ああ、俺にとって、これはとっても大切な物だ。でも、あんたに会って優しくしてもらって……なんだか照れくさいが、とても嬉しくなっちまってな。他人からこんな風に接してもらったの、本当に久しぶりだったからさ。だから、ちょっと包みが汚れてるかもしれないが、あんたにもらってほしいんだよ」
 ホームレス風の男の熱心な口調に、彼は大きく頷いた。
「わかりました! ありがたくいただきます」
「ああ、じゃあな。ちょっと重いかもしれんが、しっかり持って帰ってくれよ」
「はい! ……あ、ちょうどバスが来る時間ですね。それでは失礼します! ありがとうございました」
 ずしりと思い包みを脇に抱え、彼は満足げに公園を後にしたのであった。

 彼が帰りのバスに乗り込んでから、約十分ほど経ったときのことである。
 ――彼の周囲の全てが吹っ飛んだ。
 激しい爆音と爆風、灼熱、そして――。
 あのホームレス風の男からもらった包みが、凄まじい爆裂音をあげてバス一台を爆破したのであった。

 その日の夕刊記事――。
「都内で自爆テロ発生! ――今日午前十一時四十分頃、東京都S区を走行中の路線バスが、突如爆破炎上した。運転手を含む乗員二十六名が死亡、付近を歩いていた八名が重軽傷を負った。(一部略)……なお、警察では都内S区在住であった十九歳の浪人生を、この自爆テロの容疑者として捜査を進めており……」


   了
2005/09/02(Fri)15:51:37 公開 / 時貞
■この作品の著作権は時貞さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お読みくださりまして、誠にありがとうございました!!
今回は今までとは違う作風を目指したのですが、やはりいつものように投稿する時点になるとひどく緊張してしまいます(汗)これはあくまでブラックジョークとして、軽くお読みいただけたのならホっとするのですが……。他の皆様の作品を読むにつれ、ますます圧倒されてしまっております。こんな拙作ですが、ご感想・アドバイスなどをいただけましたら幸いです。よろしくお願い致します!!
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