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『HELLO!』 作者:浅月 / 未分類 未分類
全角3871.5文字
容量7743 bytes
原稿用紙約11.2枚

 やあこんにちは、はじめまして。少し話を聞かないか。
 僕のことは、ジムと呼んでくれれば良い。それは別に、僕の名前ではないけれど。もしも気に入らなかったら、自由に考えてくれるといい。トニィでも、マークでも、ジョンでも。
 さあ、何の話をしようか。
 三番街の風船売りの話は止めておこう、この間マルチーズを連れた奥さんが怒って帰ってしまったからね。十番街にいるアコーディオン弾きの爺さんの話も、この間から話し通しだからやめることにするよ。
 僕の話はどれも他愛の無いことだから、君はくだらないと思うかもしれない。でも、もしかしたら重要な話かもしれないね。
 それは最初の話かもしれないし、話を百ぶっ通しで聞いてもまだ出てこないかもしれない。何が重要かは、人によって違うから。
 さあ、前置きはこれくらいにしてそろそろ始めようか。


*


 一年ほど前の日曜日、僕は不機嫌な顔をして、広場の石段に座り込んでいた。久し振りに出掛けようか、と誘ってきた友達がなかなか待ち合わせ場所に来なかったからだ。
 彼は学生時代から時間にルーズな奴で、おまけによく寝坊する。今も変わっていないんだなあ、と今の僕なら思ったかもしれないけれど、一時間も待たされた僕にそんな余裕は無くて、最後にあったときの彼の、色の薄いブロンドや愛嬌のある鳶色の瞳なんかまでが憎らしかった。
 休日をこれ以上潰されたくなかったので、一時間半待った所で僕は立ち上がった。座った時には冷たかった花崗岩の階段が、体温でほんのり温もっていた。
 古びた鉄の釣鐘を持つ、その広場の時計台を一瞥して、僕は歩き出した。どうせ家からは遠い所なんだし、久し振りにのんびり散歩しよう、気が向いたらそこらの公衆電話で彼に電話して、文句の一つでも言ってやろう。そう思っていた。


 方向感覚には自信があったから、僕はまったくの出鱈目に歩き続けた。偶然行き着いた魚屋の前で犬をからかい、新鮮そうなイワシとサーモンを少しずつ買った。あとでその魚を油で揚げてレモンを絞ったけれど、これ以上無いご馳走だったよ。
 途中で知り合いにも会った。シビルという五十を幾つか超えたくらいの女性で、口から生まれてきたんじゃないかと僕は常々疑っている。彼女のご近所さん――因みに僕とは面識がまったく無い人達――の噂話を幾つかと、御主人の愚痴を少し、それに飼い猫のルーチェがどれだけ賢くてミルクを上手に残さず飲むか、を石畳の上で延々聞かされて、僕は足早に退散した。
 七番街に入ってしばらくすると、一軒の店が目に入った。それはお菓子屋で、小さな婦人服の店と、形ばかりの安っぽい日本料理店に挟まれて建っていた。
 僕はこう見えてもかなりの甘い物好きで、その店に入ろうかと、レースで飾られたショーウインドウを見ながらしばらく思案していた。けれどその店は、漂ってくる甘ったるい匂いに相応しく、チェリーピンクやカナリヤイエロー、その他暖色系のパステルで見事に統一されている。まあ要するに、男は入ってくるなと言外に牽制しているような店だ。客は言うまでも無く、学校帰りらしき友達連れや、「可愛い物好きです」というのを全面的に押し出したような女の子ばかりで、きれいにラッピングされたチョコレートやキャンデーを選ぶ姿には妙な迫力があった。
 その内の誰かのボーイフレンドだろう、灰色に近い色の髪で背の高い、精悍な顔つきの男子学生が一人だけ所在無さげに立ち尽くしていたが、甘い匂いと楽しげに高い声、それに悪気は無いものの一種の好奇の視線に当てられて、いかにも居心地が悪そうだった。
 彼のような目に遭うのは御免だったので、僕は踵を返した。そして、そこに立っていた一人の女の子と鼻を付き合わせる格好になり、驚いて二、三歩後ろへさがった。彼女はそんな僕に頓着する様子も無く、緑色の瞳を笑みの形に躍らせて、一言「こんにちは」と言い放った。
 こんにちは。それがあまりに突然だったから、僕はその言葉が自分に向けられたものだと、すぐには気付かなかった。彼女はもう一度「こんにちは」と言い、僕がはっと気付いて挨拶を返すと、満足気に微笑んで、菓子屋のドア――マホガニー色の木製で、ばかげた表情の子鬼がくっついたベルを下げている――を開けて、中に入っていった。そこに広がる光景に、楽しそうに瞳をめぐらせて。
 変な子だった。と言えば語弊があるかもしれないけれど、本当に変な子だった。
 真っ赤な長袖のワンピースを着て、目の痛くなるような、鮮やかなオレンジ色のサンダルを履いている。そして冬だと言うのに、パラソルほどもある大きな麦藁帽子を頭に乗せていた。黄色い藁の下から、まっすぐな長い黒髪がのぞいている。弾むように歩いているので、ワンピースの裾がふわふわと揺れていた。
 名前がわからないと話しにくいから、その子をスーザンと呼ぶことにしよう。
 スーザンは目を輝かせながら、お菓子が一杯に並んだ棚を眺めていた。それは結構に異様な光景だったので、はじめからそこに居た女の子達は、最初遠巻きにして彼女を眺めていたけれど、そのうちに各々の買い物に戻った。唯一さっきの彼だけが、不審そうにスーザンをみつめていた。
 たっぷり三十分は迷った後――僕は気になって彼女から目が離せなかった――、スーザンは両腕を甘いもので一杯にしてレジに行った。小袋に分けたクッキーを十と、色取り取りのキャンデーを4ポンド分は買っただろう。彼女は心底嬉しそうな顔で店から出てきた。
 お菓子好きの女の子が、大好きな甘いものを山ほど買った。
 誰だってそう思うだろう。僕だってそう思った。でも、違ったんだ。
 スーザンは店を出ると、買ったばかりのお菓子をその場で開けて、そして誰彼構わず配り始めた。それこそ老若男女問わずに。
 その行動に呆気に取られているうちに、僕の鼻先にもキャンデーが差し出された。「どうぞ、ミスター」とスーザンが笑う。思わず受け取ると、スーザンは踊るような足取りでその場を離れた。今度は兄弟喧嘩の真っ最中らしき、幼い二人の男の子の眼の前にクッキーを二枚ずつ差し出している。兄弟はびっくりして泣き止み、それから少し紅潮した小さな手を出してそれを受け取り、笑った。
 菓子屋のすぐそばで呼び子をやっていた女の子にも、黄緑色のキャンデーを渡している。彼女はなんとも言えない複雑な表情でそれを受け取り、律儀に一礼した。
 手に残った紅く透き通ったキャンデーを口に含む。微かな音を立てて弾け、人工的な苺の味が口の中に広がった。甘ったるい香りと少しの酸味が舌に愉しかった。
 人通りの多い時間帯に配り始めた菓子はあっと言う間に減っていく。大方の人間に配り終えたスーザンは、満足気に鼻歌を歌いながら通りを歩いて遠ざかっていった。人々は嵐が急に去った後のような、ほっとした、しかし残念そうな顔をしていた。
 ある恰幅のいい白髪の紳士が、気味が悪そうな顔をして道端に菓子を捨てる。美味しいのに、もったいない。見回したけれど、その紳士と同じようなことをする人は見当たらなくて、僕は少しほっとした。


 しばらくしてあの時計台の広場に戻ると、そこには待ち合わせた友人が来ていた。怒ったような声で、遅いじゃないか、と言う。時計の針は、待ち合わせた時間から四時間と少し経った時間を指している。僕がここから立ち去った時間からは、二時間半が経過していた。
 訳も無く愉快な気分になりながら、僕は言った。いいじゃないか、学生の時分の貸しを取り返したのさ。
 彼は一瞬奇妙な表情をして、それから噴出した。近づいてきて、笑いながら僕の肩を叩いた。
「さあさあいざゆかん我が親友よ。……いい店を見つけたんだ」
 大人げも無く大笑いしながら、僕らはそこを立ち去った。それから母校を連れ立って訪ね、恩師と少し話をして、それからその近くの酒場でグラスを傾けた。昔のままの、趣味の悪い置物と気さくな亭主が懐かしかった。


 帰り道、差し掛かった広場で、僕はスーザンを見かけた。夕日に染まる石段の上で、彼女はクッキーの入っていたらしき包み紙を丁寧に折りたたんでいた。それを終えると、今度はキャンデーの方に取り掛かる。きっと、あの後全ての菓子を配り終えたのだろう。
 おもむろに、スーザンは紙袋の一つに手を突っ込んだ。そしてそこにたった一つ残っていたキャンデーをつまみあげた。白い指に挟まれたそれは、夕日を受けて橙に染まっている。彼女はそれをしばらく眺め、そして口に放り込んだ。そして、紙袋を丁寧に折りたたみ、横に積み重ねた、紙の山の上にそっと乗せた。
 きっとあれはオレンジ味だと、意味も無くそう思った。
 友人の声がする。僕はちょっと笑って、時計台に背を向けた。


*


 さあ、どうだった? 今日の話はこれで終わりだ。もしかしたらつまらなくてがっかりしたかな。もし、別の話を聞きたくなったらまたおいで。僕は大抵ここに居るから。
 ああ、そうだ。僕に君の顔がわかるようにしないと。他の人と間違えたら大変だからね、ちゃんと区別がつくように、きちんと名前を考えないといけない。
 どんな名前がいい?
 そうそう、“リジー”なんてどうだろう。いい名前だと思うんだけれど。それじゃあ僕は、これから君の事をリジーと呼ぶことにさせてもらうよ。
 じゃあね、リジー。引き止めて悪かった。また会えることを祈ってるよ。

 ……あ。
 もしかして、“リジー”よりも“リズ”の方が良かったかい?
2005/08/29(Mon)15:13:07 公開 / 浅月
■この作品の著作権は浅月さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、こんにちは。浅月と申します。
典型的な山無しオチ無し意味無しですみません……! 雰囲気を楽しんで頂けるような物を目指していたのですが、実力不足を思い知りました。これが精一杯なので、こんなものでも読んでくださる方にはとても感謝しています。
小説初心者なので、辛目の意見を頂けると嬉しく思います。
それでは、乱文失礼しました。
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