オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『刹那の夢に踊らされ 1〜4』 作者:月夜叉 / 未分類 未分類
全角10130文字
容量20260 bytes
原稿用紙約33.7枚
―罪を、抗え

―使命を、与えよう

―許されるなどと、思うな

       その罪は、今なお呪縛の鎖となってわが身を苦しめる

第1話「人柱に魅入られし者共」

「あああああ、腹が立つったら腹が立つ!!」
夜中のビルの上で一人の少年の叫び声が響く。歳は16くらい。顔立ちは整っているが、黒曜石のように輝く瞳と頬に奔る一筋の傷跡、黒く日焼けした肌があまりそれを感じさせない。体格はどちらかとゆうと細身で背中に束ねられた黒髪が更に少年を華奢に見せる。
「狭霧の野郎こんな遅くにめんどくさい事頼みやがって!!そう思わねぇか氷室!!」
隣の氷室とゆうらしい少年に同意を求める。歳は14くらいで肩まで届く髪は赤茶に白い肌、やや長い前髪の下に湖のように澄み切った青い瞳が覗く。隣の少年よりずっと小柄なのに何の色も浮かばない表情が、この少年を遥かに大人に魅している。
「…イヤなら俺一人でやるよ。帰ってていいよ、凛」
凛と呼ばれた少年は困ったなとゆう顔をして頭をかく。
「や、そんな理由で帰ったら翔に追い出されて雪羅には…」
瞬時、生暖かい風が二人の頬をうつ。凛の長い髪が風に弄ばれる。
「…帰るわけには行かなくなっちまったみてぇだし」
「そうだね」
目の前に陽炎のような黒い影が現れる。それはゆっくりと獣の形を成していく。その赤い目が向けるのは…紛れもない殺意。
スッと目を細めて氷室は手を上にあげる。が、それを凛が手で制す。
「下がってろ氷室」
ニィ…と唇の端がつり上がる。
「コイツは…俺の獲物だ!!」
言い終えると同時に凛は止めるまもなく走り出す。完全に獣―化け物―となったそれは耳を劈く咆哮をあげながら向かってくる凛に拳を振り上げる。一瞬振り上げられた拳は凛をなぎ払ったように見えた。ニヤリ…と化け物が醜く笑って氷室を見る。氷室は化け物の後ろを見て短く嘆息する。

「…遅っせーよ!!」

後ろに現れた凛の手にはいつにのまにか日本刀のような刀が握られている。その声が耳に届くと同時に鮮血が散った。二度目の咆哮が夜闇を切り裂いて響く。
「あーうっせぇなー!!」
ピッ、と刀についた血を払う。
「…・めんどくさいって言ってたくせに」
はっと気がつくと同時に化け物の拳が氷室の残像を叩き潰す。
「うわぁぁぁぁ!!避けんなよ氷室!!」
「一発で仕留めなかった凛が悪い」
手すりの上に着地した氷室はこのままだと確かに処理が面倒だなと思い、化け物に切りかかってる凛に悪いなと思いつつ手をゆっくりと上にあげる。
「クス、と氷室の口から笑いがもれる。

「…・バイバイ」

…鳴り響くのは一発の銃声。ピッ、氷室の頬に血が飛ぶ。いつのまにか氷室の手に握られていた銃から細い煙が昇っている。ドォ…ッという音がして化け物の体が倒れる。
「んだよかたずけんなよ氷室ー!!」
そう言いながら駆け寄ってきた凛は氷室の頬のついた血を袖で拭う。
「…ごめん」
倒れた化け物の手が動く。二人が同時に身構える。
『人柱に…魅入られし…者共よ…」
化け物の口から悪臭のする血が吐き出される。
「この…世界の…終焉は…近い。すべて…は狭霧の…せいだ…せいぜい罪を抗え、苦しめと…我が主…」
肉を切り裂く音と銃声が同時に響く。肉の塊と化した化け物を見下ろす。
「狭霧の罪は俺達が償う。これ以上の罪は背負わせない」
そう呟く凛の顔には固い決意が見える。隣で氷室も頷く。

あのとき、暗い地獄の淵から狭霧に救い出してもらったあのときから。
この人のために生き、この人のために死のうと思った。
その思いは、今も変わらない。

「帰ろうよ。きっと皆心配してる」
「…ああ」
先ほどの表情など欠片も無い顔で凛は頷き、その場をあとにした。

二人が去った後の屋上に、一つの影が現れる。その影は化け物の死体を見、静かに笑うと死体に手を翳す。黒い炎が化け物を包み込むと同時に、耐え切れず大声で笑い出す。その声は静寂が支配町にいつまでも響いていた。

一人の青年が、夜空を眺めていた。月明かりに輝く銀髪に白磁の肌、深い悲しみを宿した藍色の瞳、スッと通った鼻筋形よい唇―それはまるで神が気まぐれに作った人形に命を宿したかのような美しさだった。
その頬を、一筋の涙が伝う。

月を見ると思い出す。守りたかった、守れなかったあの人を。

「…狭霧」
呼ばれて頬の涙を拭わずに振り返り、淡く微笑む。
「乖離」
「何だよまーた昔の事思い出してたのかー?」
言いながら狭霧の頬に触れ涙を拭う。狭霧の顔が少し曇る。
「うわっ!!何だよ調子狂うなーじゃなくて悪ぃ気にすんな今の無し!!」
ナシナシ、とごまかそうと懸命な乖離の顔を見てからまた上を見上げる。
「思い出してたわけじゃない」
忘れてたこと自体、無いのだから。
そう言う狭霧の顔を乖離は痛ましげに見る。あのときから、この友はいつだって痛そうな顔で無理に笑っていた。
「…俺達はお前を裏切らない。今はそれだけじゃ駄目か…・?」
答えずに、狭霧はただ微笑む。

深い絶望が襲う
祈りさえ届くなら
永久に信じ続けよう―。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


真っ白な部屋 真っ白なカーテン

いや、真っ白なんかじゃない

その色を拭い去りたいのに体が動かなくて

真っ赤な血とその中心にいるお母さんを

ただボンヤリと見ていた


第三話「儚き涙の行く末」

「……ん、凛起きなよ…」
りん…誰…・?誰かが…俺を…・揺さぶってる…。
「おか…さん…?」
やっぱり、ただの夢だ。だってお母さんはここにいる。
朝日が眩しくて起こしてくれた人の顔は見えない。動くはずの無い腕を伸ばす。
「…俺は凛の母親になった覚えは無いんだけど…」
その声に半分腕を持ち上げていた凛の意識は覚醒する。
「ひ、氷室?!」
「…起こしに来たらうなされてるから急いで起こしてあげたら…」
まさかママーと言われるなんて。横をむいてわざとらしくため息をつく。
「い、言ってねぇ!ママなんて言ってねぇ!!や、似たようなことは言ったけどママとは…!」
「起こしに来たのが俺でよかったね。ほらバイト遅れるよ」
最後まで聞かずに氷室は部屋を出て行く。
「…っ…くそ…」
確かに翔や雪羅なんかだったら一生ネタにされるだろう。宙は何時までも笑い続けそうだし乖離と狭霧は…・考えたくない。
顔に手をやると汗を掻いていた。本当に、いやな夢をみた。

あれから、十数年経つんだな―。

*************************************
『あら…起きたの?』
目を覚ましたらいつもお母さんは微笑んでいた。
生まれつき四肢に障害があって、指一つまともに動かせない俺をお母さんとお父さんは見捨てないで育ててくれた。度重なる発作と手術に今まで耐えてこれたのは、両親の愛が護ってくれたと信じていた。
『お母さん、幼稚園に弘樹と友美を迎えに行くわね。後でお父さんと一緒にまた来るから』
お父さんは小工業の社長だった。忙しくてたまにしか会えなかったけど、いつも笑っていて、力強いひとだった。生意気な弟と少し口うるさい妹も、こんな自分を慕ってくれているのを知っていた。

幸せだった。お母さんがいてお父さんがいて弟妹がいる。本当に、幸せだった―。

*************************************
「おう、凛!!やっと来たか遅いぞ!!」
「ごめん匠さん!!でもどうせまだ客来てないんだろ?」
「うっせぇな!給料減らすぞこら!!」
凛のバイトはこの【花屋と八百屋ちょーお買い得!ぜひとも花屋にいや八百屋に!】と何回も書き直された汚い看板にあるとうり花屋兼八百屋さんとゆう、儲からない店代表同士が合体したようなみせである。花屋の息子の匠さんと八百屋の娘の静さんが許されない恋に落ち(儲からない店同士商売敵だったらしい)、両者の家で殴り合い蹴り合いをした挙句、お互い子供の幸せを思いニコニコと作り笑いを浮かべながら店を合体させたらしい。
はっきり言って給料は低いし、そのくせ腰が痛いだの何だの言って散々かぼちゃだの何だの重いものをもたされる。でも凛はこのバイトを気に入っていた。たまに残り物の野菜をタダでくれるし、裏社会の事情や化け物倒しより、平和で温かみがあって笑顔が絶えない。自分はもう人じゃない。分ってても、ただ何も知らなくても自分がいたとゆうことを覚えててくれればそれでいいと思う。
ちなみに、乖離と雪羅と翔もバイトしている。翔は家庭で出来るタイプのをやっているが乖離と雪羅は…大声では言えない女性と絡むだけで、と言っていいのか分らない大金を貰えるバイトをしている。
「ぼうや何時もここで働いてるねぇ…学校行かなくていいのかい?」
いつも献花にするのか花を買っていく白髪のお婆さんに尋ねられる。
「あ、俺学校に行ってないんだ」
「まぁ…一体いくつ何だい?」
これには一瞬返答に詰まる。心の中で実年齢を数えつつ答える。
「…16」
「16ねぇ…私の末の孫も16でねぇ、すぐ近くの高校に通ってるんだ。私にはもったいないくらいのいい子さぁ…」
ごめんお婆ちゃん。俺本当は16じゃないんだ。
心の中で誤りつつ家族のことを淡々と話す老婆を見つめる。
「ぼうやも、家族を大切にしなよ…」
ドクン、と心臓が跳ねる。
「…・うん、また来てねお婆ちゃん」
ペコ、と可愛いお辞儀をしてから老母は道の向こうに歩いていく。
「家族、か」
瞼を閉じれば今でも思い出すことが出来る。微笑んでいるお母さんとお父さん、弘樹と友美。走馬灯のように流れていく思い出の最後は必ず―。
「おーい凛!ボケッとしてねぇでこれ運べ!!」
「へーい!!」
「返事はハイだろうが!」
「ほー…・」
スッ、と背中に寒気が走る。視線を後ろにやると電柱柱の上に一羽のカラスがいる。向けてくる眼は、紅に染まっている。
「?どうした凛?」
「…匠さんちょっと俺行かなきゃ。すぐ戻る」
「おいり…!!」
言い終わる前に凛は走り出す。
「ったく逃げ足の速い…マジで給料減らすぞ…」

昼間だとゆうのにその路地は暗く冷たかった。
「…こんな時間から何のようだよ?」
凛は暗闇に向かって問いかける。暗い路地に声が反響する。
「やれやれ…相変わらず君はせっかちだ…」
突然暗闇から人影が現れる。黒い服に身をつつみ、そのフードの隙から銀色の髪が覗く。背は凛が見上げるほど長く、瞳の色はいつか見た紅。人がいい笑顔を浮かべているがその反面、ぞっとするほど冷たい笑顔だった。
「せっかちもくそもねぇ。何の用か聞いてんだよ千雲」
「用が無かったら会いに来ちゃ行けないのかい凛?」
千雲は形よい己の唇に指をあてる。
「ふざけんな!!狭霧に手をだすのも匠さん達に手を出すのも許さねぇ!!」
「いやだなぁ…私は今回は伝言を伝えに来ただけさ。それにしても、まだあんな罪人の味方をするのかい?このままだと君達も同罪だ。ま、今更だけどね」
「うっせぇ!!殺すぞてめぇ…」
「凛、か。君の許されぬ過去から狭霧はどうしてこんな名前を付けたんだろうね」
瞬時に、凛の顔が凍りつく。
「てめぇ…・!!」
凛の手中から日本刀のような物が現れた。そのまま千雲に斬りかかる。しかし凛の刀は千雲の残像を切り裂いただけだった。後ろから声が響く
「一度も君の刀が僕に届いたことは無いけど、いつもよりひどいな。まぁいい。
【この世界の終焉の扉が開く日は近い】と狭霧に伝えろ」
千雲の気配が消える。凛は刀を強く握る。そして呟く。
「狭霧…っ」

*************************************
いつからだっただろうか?
お母さんの顔がやつれて疲れてるのに心配かけないように無理に笑うようになったのは。
いつからだったのか?
お父さんが俺を見る目がゴミを見るような顔になったのは。
どうしてだか分からず、でもまともに喋ることが出来ないから黙っていた。
ある日から、誰も病院に来なくなった。

それから何日かたって夜の帳に世界が完全に闇と化し病院もすでに消灯時間が過ぎていたときお母さんが突然病室にやって来た。
『おか…さん、ど…し…』
そのときになって母が泣いていることに気づいた。その手に握る包丁も。
静かに近づいてきて頬をなでる。ぞっとするほど冷たい手だった。
『お父さんが、おかしくなってしまったの…やめて、て言ったのに弘樹と友美をこれで…・お母さんもお父さんを…ね、あなたも一緒に…』
死にましょうね…。
涙が頬を伝って顔に落ちてくる。事情は全然分からなかったけど、分かるのはお母さんが俺に死んでくれって頼んでること。構わないと思った。お母さんならいいと本気で思った。お母さんが包丁を振り上げる。俺はそれをただ見ていた。

振り下ろされた包丁は、真っ直ぐ俺の首に食い込むはずだった。

ドスッ、とゆう音がして包丁が顔の横に刺さる。頬から鋭い痛みが走る。
『…・?』
『どうして…そんな目で見るの…・・?!』
そのまま声を押し殺して泣き続けた。俺はどんな目をしていたのだろう。
しばらくするとお母さんはゆっくりと顔を上げて枕から包丁を引き抜く。そのまま、自らの首筋にあてる。
『!』
『ごめんなさい…あなた…・』
一瞬、いつもの幸せそうな微笑を浮かべた。同時に鮮血が真っ白な病室を血に染めた。
お母さんの体がかしいで倒れるまでが、まるでスローモーションのように感じた。
『お…かさ…・?』
死んでしまう。このままだと母が死んでしまう。誰か、誰か来て…!!鉄の匂いが鼻につく。体が、動かない。どうして…?
朝になるまで、部屋に誰も来なかった。朝日に、お母さんの冷たくなった体が見えた。

まわりにある機械と呼吸器の音がうるさい。でも。
『やはり、かなり弱ってるな…』
『母親の自殺がよほどこたえているのでしょうな』
『会社が倒産して一家無理心中か…』
『息子さんのことでケンカが耐えなかったそうですよ』
『気の毒な話だ…・』
隣で聞こえないとおもって喋ってる医者の方がうるさい。
そいつらが出て行ってやっと望んでいた静かな空気に変わる。
苦しい、辛い。もうすぐ俺は死ねる。皆のところに逝ける。怖くない。
どうしてあの時お母さんは、俺を殺さなかったんだろう。
突然、咳き込む。頭が割れるように痛い。

【…辛いのか?】

誰もいない筈の部屋に声が響く。
『だ…・れ…・?』
声のしたほうに顔を向ける。そこに月明かりに輝く銀髪に藍色の瞳のこの世の物と思えない青年がたっていた。その口が開き、再度問う。
【辛いのか?】
心に響く声だった。言葉は要らない。瞬時にそう思った。
【…つらいよ】
【息が出来ないから?】
【だったら、まだマシなんだけどな】
【母親を、助けられなかったから?】
青年を睨む。が、それが意味が無いと分かるとため息をつく。
【なんてゆうか…やっぱ俺無力だなって】
こんな体でさえなければ。皆死ななかったかもしれない。俺が、皆を助けられたかもしれない。
【後悔、しているのかい?】
【後悔も何もないよ。体は生まれつきだ。生まれる前から、こうなることが決まってたんだ】
涙が頬を伝う。
【何で俺、生きてんの?】
体のことはしょうがない。こうなる運命なんだ。でもそんなんではいそーですかとゆうほど俺は簡単じゃない。
どうすればいいのか分からない。俺は一体何?
【なぁあんた死神?】
【だったらどうする?】
初めて青年が笑う。その綺麗さに言葉に出すのを一瞬躊躇う。この人に、俺なんかのこんな頼み事をしていいのか。
【俺を…殺してくんないかな?】
青年が驚く。構わずに進める。
【生きてたって価値が無いんだ。早く皆に会いたい】
でもこんな俺に会いたがらないよな
自嘲気味に笑う自分を静かに見ていた青年は静かに近づいて頬に触れる。
【過去を、償いたいか?】
【え…・?】
【お前に自由に動ける体を与えよう。私に殺されたいのなら私のもとにくるか?】
瞬きを忘れて青年の顔を見る。
【お前は家族を助けられなかった。でもお前にはまだ護れる物がある。護りたいか?】
何も無いとゆうのなら私が殺してやろう。護りたいとゆうのなら体朽ちるその時までお前は私の物になる。
【強制は、しない。気が変わって生きたいとゆうなら助ける】
青年はしばらく自分の顔を見つめた。
【…あのさ】
【ん?】
【あんた、名前なんてゆうの?】
自分は名乗らなかった。知ってるような気がしたから。
また、あの綺麗な顔で笑う。
【…狭霧】
【狭霧、か。俺あんたについてくよ】
あっさりすぎる返事に青年改め狭霧は奇妙な顔をする。
【俺にまだ護れるもんがあるなら、護ってみせる】
狭霧はまた笑う。すでにこのとき、護りたいものは見つけていた―。

【汝との契約のもと、私の命は主のもの

 たとえこの体尽きても誓い護りとうす

 我が主よ、それを忘れるな】


************************************

『凛』とゆう名前は契約の後狭霧がつけてくれたものである。本名は、すでに忘れた。
このときから、狭霧を護ると誓った。俺にまだ護るものがあると、ずっと悲しい顔をしていた狭霧を―
でも、どうして。本当に俺は『凛』と付けられたんだろう?
「ただいま…」
「お帰り!てめぇなに…」
翔を無視して、会いたい人物の姿を探す。
「狭霧…」
テーブルに座ってなにやら本を読んでいた人物は振り返る。
「凛?いやなことがあったのかい?」
言いながら消えない頬の傷跡を撫でる。暖かい…。
「掌、血が滲んでいるね。何があったの?」
掌をなでる。ほのかな光が傷を癒していく。
「狭霧、伝えなきゃいけね…・」
「あれ凛にぃちゃん、バイトはー?」
後ろでもくもくとケーキを食べていた宙に聞かれる。
「…ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



「凛の野郎…給料今月分なし決定…・」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
嫉妬、してたかもしれない

笑顔を見たことが無いのに確かに笑っている親友に

その親友から一輪の花を貰って嬉しそうに微笑む、妹に

許されぬ仲だと言うのに、二人は本当に幸せそうで

嫉妬すると同時に、すごく嬉しくて

あのとき俺がしたことは、間違ってたのだろうか?

第4話「許されることの苦しみ」

ホストクラブ。それは夜な夜な乙女(だったりなかったり)が金を出して指名した男達がそれ相応のおもてなしをする店。表向きは華やかで美しいが、その裏は醜く残酷だ。
ホストクラブ『イリュージョン』ここも例外ではない。ここら一帯に数多く並ぶクラブの中でかなりのセレブを常連客にもつ、1,2を争う高級ホストクラブである。

カランコロン♪
「いらっしゃいませー!!」
「おおこれは高森の若奥様。今日はどなたをご指名に?」
妙齢な雰囲気をかもし出しているその女性は赤い唇に綺麗な指を押し付けて店内の男達を眺め少し考えるそぶりをする。
「そうねぇ…【乖離】を呼んで頂戴」
「かしこまりました」
タキシードの男は女を席まで連れて行くと【乖離】を呼びにいった。

「…暇って、すばらしいね乖離…」
「結構楽しんでるくせにそれは無いんじゃねぇか雪羅」
ネクタイを緩めてパタパタと手で仰いでいる雪羅を横目で見ながら乖離は雑誌を読んでいる。二人はついさっきまで中年3人組のおばさんの相手をしていた。ギャラは良かったのだが、ものすごく話が長かった。
「いや、この仕事はとても心苦しいよ…・」
「はぁ?」
突然真顔になってそんなことを呟く雪羅を乖離は見やる。
「『君は可愛いよ』とか『大好きだよ』とか…僕が本気でそう思うのは氷室にだけだもん…だからとても心苦しいや…」
「…あそ」
真面目に何だろうと思った自分が馬鹿らしい。
「おーい乖離!!高森の若奥様がお前をご指名だそうだ」
おおー!!とかいいなーあの人美人だよなぁという声がする。
「高森?あああのプライド高い人?乖離も大変だね」
「そうでもねぇよ」
笑いながら起き上がり、ネクタイを締めなおし髪を整える。
「資産家の妻であるあの人からはいろいろ異変を聞けるしな。それに…」
ふいに、懐かしいことを思い出したような顔になる。
「妹に、似てるんだ」
言い置いて乖離はひらひらと手を振って部屋を出て行く。
「……・」
それを黙って見送った雪羅はさっきまで乖離が読んでいた雑誌を拾い、読んでみる。
『ネス湖のネッーシーは実在した?!どっきりびっくり心霊体験?!』
「(暇つぶしとはいえこんなん読むかな、普通…・)」

「ご指名ありがとうございます高森様。乖離です」
形だけの挨拶をする乖離に女は真っ赤な唇を弓並みに曲げる。
「ああ乖離!!久しぶりねぇ」
そのまま乖離の頬に触れ、その輪郭を撫でる。
「こっちに…隣に座って…」
言われた通りに隣に座った乖離の腕に女は胸を押し付ける。谷間を強調する黒いドレスを着ている胸は白く豊富で、足の裾からはスラリと伸びた白く細い足が覗く。この体と美貌で女は数多くの男を落としてきたが、未だにこのホストだけ落とせていなかった。いつもにっこり笑っていて金をやっても家に誘っても引っかからないのである。
「ナポレオン…それから…」
次々と高いワインを注文する女をニコニコと見ていた乖離が呟く。
「やっぱ似てやがんな…」
小さな声だったがすぐ隣にいたため女の耳に届く。
「私が、どなたに似ているんですの?」
「え?ああ…妹に」
笑って乖離はワインを飲み干す。
「まぁ妹…どんな方?」
上目使いに問いかけられて乖離は遠い目をする。
「二人いて…かたっぽだけ腹違いの妹で…いつも皆に嫌われて疎まれてたのに…笑顔がとても綺麗な子で…」

『乖離様、乖離様』
何もしてあげることが出来ない俺を、慕ってくれていた。兄と呼んでくれることは最後まで無かったけど、愛してくれた。たった一人の親友との関係がわかったとき、本当は父に話そうかと思った。でも、あんまりにも幸せそうだったから。その笑顔をもっと見てたいと思って。それで。許されない仲だった。あいつがもう一人の妹の婚約者だからとかそんなことじゃなくて、あの二人のことを思うなら、無理にでも引き剥がすべきだった―。

「私が、その子に似てるの?」
はっと気がつくと顔の前にキスしようとするばかりに女の顔があった。顔を背けながら乖離は否定する。
「いえ、もう一人のほうですよ」
「そちらはどんな方?」
そっちの方が可憐で優しく美しくてあなたそっくりだ―と言われるのだと思った女は耳を傾ける。
「強情で、わがままで強欲で。醜くは無いけれどあつかましくて。いつも自分を作っててプライドが高い。気に入った男を落とすためなら何でもする。そんなところでしょうか」
話を聞いてるうちに少しずつ女の顔が朱に染まる。
「失礼な!!」
突然立ち上がり女は手をあげる。その手を乖離は無言で掴む。
「離しな…」
喚き散らそうとした女の手に口付ける。そのままつ、と舌を出し女の手を舐めていく。
「あ…・」
女の顔が怒りと違う意味で赤くなる。
顔をあげた乖離はいたずらっ子のような顔で笑う。
「そのプライドの高いところが、とても魅力的で可愛いと思いますよ」
作りなんかより、ずっと。
トマトのように真っ赤になった女を見て笑った乖離は手を離してグラスにワインを注ぐ。
「さ、飲みましょうか」
差し出されたグラスを、女は無言で受け取った。

「乖離またすごいこと言ったって皆大騒ぎしてたよ何したの?」
「別に大したことは言ってねぇよ」
客によって紳士、子供キャラ、不良キャラ、極甘キャラになる乖離の顔をまじまじと眺めてため息をついたあと話を変える。
「何か収穫、あった?」
ネクタイを解く乖離の手が、止まる。
「…何かの議員が裏の人間に貢ぎこんでるらしい」
「その人総理大臣になりたいのかね。なれるわけ無いのに」
「近々あいつらによって作られた人間が本格的に動き出すだろうな。世界をあいつらのものにしちゃいけねぇ」
「それは『神様』たちのため?狭霧のため?」
「…誰のためでもねぇ」
ひたと、前を見据える。
「ただの、罪滅ぼしだ」

許されたかったわけじゃねぇ。傷つけて欲しかった。何を言われてもしょうがなかった。
『君は悪くない。守れなかった、私が悪いんだ―』
許されたくなかった。それなのにあいつは俺を許した。君が背負うことは何一つ無いのだと。全部自分が悪いと。どうしてお前はそうなんだろうな。せめてお前の罪や悲しみを、俺も背負いたい。これがただの自己満足でも、矛盾した考えでも俺はお前を一人にしない。

「あのさ乖離。このまま帰ったら確実に翔に家を追い出されちょうよ」
「げ、マジかよ。しょうがねぇ何か買って帰るか。早く帰えんねぇと狭霧が心配するからな」
二人の姿が消えるとその場は完全な闇に包まれる。

ぬくもり知らずにいれば、傷つくこともないと思い出せない
消えうせた過去から誰かが呼んでいる。
二度と来ない今、あなたのことしか見えない―。















2005/08/15(Mon)23:32:45 公開 / 月夜叉
■この作品の著作権は月夜叉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
やっと編集のことがわかった人…。わかったと同時に二話を消してしまったことが発覚…はぁ…まぁ気にしないで行こうと思うついこのごろ…二話は幻となってしまいました…

とゆうわけで1話をちょっと手を加えて編集。ものすごく疲れました…。
連続して、4話。カンがいい人は、もしや…と思うかもしれません。色んな意味で。ホストって、こんなんですっけ?ディープラブとカリスマホストの体験談を見て勝手に妄想。ホストクラブの名前なんて、知りませんから。(残念)
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除