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『一歩素直に。  (読みきり)』 作者:朱雀 / ショート*2 ショート*2
全角1201.5文字
容量2403 bytes
原稿用紙約4.3枚
 一番難しいことは
 自分の気持ちと正直に向き合うこと。
 そう教えてくれたのは
 誰だっけ。
「あ、今日は幸助の誕生日だったね」
 学校の帰り道、親友の亜由美とゆっくりと歩いていて
 さりげなく私はつぶやいた。
 赤くなり始めた空を見上げて、亜由美の顔をチラリと見た。
「そうだね。なんか言ってあげたの?」
 亜由美はぶっきらぼうにそう言った。
 少し不思議に思ったけど、笑って言葉を返した。
「うん! オメデトウって言ってあげた」
 亜由美の顔が少しゆがんで見えた。
「なんかハルさ、最近幸助の話多くない?」
 最後の方の言葉が濁っていたけど、なんとか聞き取ることができた。
 そうかな。
 と聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいて、しばらく沈黙が続く。
 時々チラリと亜由美の顔色をうかがってみるけど
 夕日の赤色でうまく見えなかった。
 こんなに静かな帰り道はあっただろうか。
 なんで幸助の話に反応するんだろう。
 お腹の音が亜由美に聞こえませんように。
 いろんなことを考えていた。
 だんだん沈黙に耐えがたくなってきた私を救ってくれたのは
 亜由美の一言だ。
「幸助って……嫌われてるって知ってる?」
 その一言に私は眼を丸くした。
 亜由美は私の顔をわざと見ないようにしているのかわからないけど
 道路に転がってる小石を下を向きつつちょっとずつ蹴っていた。
 沼地幸助。
 顔は良くない。ニキビだらけで縦長だった。
 かなりの面食いの私だけど、友達としてはすごく仲が良かった。
 男子、女子なんて関係なく、幸助といると楽しかった。
「知らなかった」
 普通に答えたつもりなのに、声は一オクターブ低く感じた。
「まさかハル、幸助のこと好きとか……ありえないよね?」
 亜由美がくるりとこっちを見た。
 心配しているのかも知れない。
 親友として心配してくれてるのかも知れない。
「やっぱりね。ありえないでしょ! だって私も嫌いだったし」
 いつもの声で
 いつもの明るさで
 心の中で意識しながら話した。
「良かった。幸助の好きな人ってハルだって言ってたから…心配でさ」
 亜由美は笑った。
 私は別に驚かなかった。 
 結構噂になってたことだし
 でも自分でいうと、うぬぼれてるだけだと思われるから黙ってたけど。
 昔からリーダー的だった亜由美は、気に入らない人がいると
 すぐに敵にまわすような子だった。
 でも普通に話しているぶんには凄くいい子で
 私は亜由美が大好きだった。
 だから、亜由美に嫌われるのが怖かった。
 幸助を
 好きだと言って
 亜由美に嫌われるのが怖かった。
 みんなにハブられるのが怖かった。
 ――。
 いつか……貴方に伝えられるといいな。
 私がまわりを気にせず
 真っ直ぐに貴方を好きといえる日がくるといいな。
 顔の悪い貴方を愛せた自分を誇りに思える日がくるといいな。
 それまで――
 私を好きでいてくれますか。
2005/07/11(Mon)21:30:56 公開 / 朱雀
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