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『俺は二度死んだ』 作者:するめいか / ショート*2 ショート*2
全角1347.5文字
容量2695 bytes
原稿用紙約4.25枚
「全く。ええ、何も」
 男はあっけらかんと言った。その笑顔を見ていたら、無性に殴りたくなる。
「無い!? 無いって、どういうことだ。ああ!? 俺を馬鹿にしてるのか!」
 硬く拳を握りながら、しゃあしゃあと男に言った。
「そんな、慌てないでくださいよ。時間はまだこんなにあるんですから……。ええ、まあ」男は髭を手で擦った。
「何だと……!」
 男の眼鏡がキラリと後ろの街灯を反射した。「ええ、ですから」
 鈍い音がした。
「こういうことですよ。ええ、まあ」
 其処から先、記憶が無い。


――頭を打ったようだ。
 ズキズキと脈打つような痛みが、何秒か置きに俺の頭を直撃している。全身は、無数の細かい針でチクチク刺されているような痺れがあり、見えているものは全て二重三重に見えた。腕を動かそうとしても、ピクリとも動かない。足を動かそうとしても同じことだった。
「…………」何かを話す気にもならない。
 と、其処へあの男が入ってきた。
「お目覚めですか?」にっこりと(否、にんまりといったほうがいい)男は笑った。
 俺はパチパチと瞬きを繰り返した。だんだん、見えているものが一つになっていく。男は、薬と水を近くのテーブルの上に置いた。
 男は、ニヤリと口の端を吊り上げた。その姿は、不気味――と一言では言い表せないほど、俺の背筋をゾクリとさせた。
「お薬です。体、痛いでしょう。そうでしょうねェ、何せ頭を強打したのですから。もしかしたら、脳にどこか異常があるやもしれませんねェ……。ええ、まあ」
 そういえば先程から、この男は『ええ、まあ』と何回言った? 何がええ、まあなのかわからない。とりあえず、男の口癖なのだろうと勝手に解釈しておいた。
「……め、んのつもり……だ」
 てめえ、何のつもりだ――と言ったはずだったが、実際聞こえたのは……め、んのつもり……だという声。これでは、意味がわからない。舌がよく回らない。
「麺のつもりですか? あなたは人間ですよ、ははは」男は軽く笑う。
 やっと声が出せるようになったのは、男が差し出した薬を飲んでから二時間後だった。

「……っく! 貴様、何を企んでいるんだ? 俺の要望したブツを差し出さなかったくせに!」
 しゃあしゃあと、言いたい事を全部いっぺんに吐き出した。
 男は、眼鏡をクイとあげる。「何のことですかね」
「なっ……! ふ、ふざけるな!」俺は無我夢中で叫んでいた。
「何のことですかね? とぼけるなっ! 俺はお前と契約を交わした。……俺に届くはずだったブツは! ブツをよこせ!」
 ああ、と男は髭を擦りながら言った。
「あなたでしたか。そうですねえ……ありませんでしたよ」
「嘘を言うな! 決して死なない体をくれるって、言ったじゃねえか! 俺に!!」
 男はまだ髭を擦っている。


「だって、もうなっているじゃないですか。ええ、まあ」
 しばらく経ってからの返答だった。 
「どういうことだ」静かに、下から突き上げるように言った。
 男は髭を擦っている。



「だって、あなたと私はこの世にいないのですから。……ご満足ですよね? もう死ぬことなんてないのですから。ええ、まあ」

「成仏しますか?」男は尋ねた。
 俺はこくんと頷き、そのまま目を閉じた。
 
 それから記憶は……ない。
2005/07/10(Sun)15:44:29 公開 / するめいか
■この作品の著作権はするめいかさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
二度死んだ――という話を書きたくてついついキーボードをかちゃかちゃ叩いていたするめいか略してするめ、いかです。
とりあえず意味不明なものが出来上がった気がするので……。
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