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『最高の幸せ』 作者:夢幻焔 / 未分類 未分類
全角2073文字
容量4146 bytes
原稿用紙約6.6枚

 でっかい化け物が恐ろしい武器を持って俺に近づいてきた。
 まだ若いのにハサミで生命線を切られ、他の仲間と一緒に透明な檻に入れられた後、監獄行きの真っ暗な船の中へ…。
 俺はてっきり殺されるものと思っていた。
 生命線を切られたからには、そんなに寿命は長くない。
 ある場所にたどり着くまでは暗闇の中でそんなことを考えていた。
 すると、いきなり光が差し込み、でっかい化け物に檻ごと鷲掴みにされた。
 「もうだめだ」と思ったが、化け物は何故か俺を透明な檻から出した。
 (うわぁ…握りつぶされるのか…)
 そんな考えが空っぽの頭に過ぎった。
 しかし、その考えとは裏腹に、冷たく、白い光がまぶしい場所へと俺を置いたかと思うと、そのまま立ち去っていった。
「おう、兄ちゃん。新入りかい?」
 後ろから良い声が聞こえたので振り返ってみると、真っ赤に輝き、艶々と光沢のあるおじさんがいた。
「あ、あの。ここは一体何なんですか?」
 とりあえず、自分のおかれた状況を把握するために、質問した。
「ここはさっきの化け物が、紙切れや変な円盤と引き換えに俺たちを連れて行く場所さ」
「どこに?」
「さぁ、連れて行かれる所のことなんざぁ誰も知らない。なんせ帰って来た奴は一人もいないんだからな」
 どうやらとんでもない所につれて来られたのは間違いないようだ。
 すると、今度は右から少々芝居がかったような声が話しかけてきた。
「お兄さん。随分とお若いですね」
 声のした方を向くと、眩しいくらいに輝く黄色いおじさんがいた。
「この辺りでは特に、私達のような黄色や赤といった方々が主に連れて行かれるようですよ」
 聞きも尋ねもしないのに、次から次へと色々教えてくれる。

 ――数分後、ようやくネタが尽きたのか、一人独走状態で話していた黄色いおじさんは、最後に気になることを言った。
「聞いた話によると、どうも連れて行かれた先では、私達にとって最高の幸せが待っていると聞いたことがあります」
「最高の幸せって?」
「いえ、私も詳しいことは分からないのですが…」
 どうでもいいことは山のように話す割りに、肝心なところだけ抜けていることに少し腹を立てたが、ここまで詳しく教えてくれたことには感謝している。
「まぁ、お兄さんもその『最高の瞬間』とやらを知りたければ、私達のように早く赤や黄色になることですね」
「そうですか…」
 早く赤や黄色にと言われても、俺はまだ成長途中で生命線を切られたため、長い間繋がっていたおじさん達とは訳が違う。
 それこそ、赤になれるか黄色になれるか、ギリギリのラインなのだ。
「けど、『最高の幸せ』って言うのは一度味わってみたいよなぁ…」



 次の日から、俺は『最高の幸せ』とやらを味わうために、ただひたすら赤か黄色に変わるべく、化け物どもの手から逃げ回るサバイバルが始まった。
 だが、逃げるというよりかは、俺を掴んでいく化け物どもが、勝手に手を離していくと言ったところか。
 ここへ来て、すぐに話しかけて来てくれたおじさん達も数日前に笑顔でこの場を去って行った。
 そしてさらに数日の時が過ぎた。
 俺はまだ生き残っていたが、寿命が残りわずかなのか、かなり老いたような気がしてならない。
「くそっ、まだなのか。まだなのか……」
 すると、目の前に銀色の大きな檻みたいな物を手で押しながら化け物がやってきた。
「もう、いいだろ…」
 心身共に疲れ果て、半ば自棄になっている状態で、何気なしに目をやった先には、銀色の大きな檻があった。
 そして、檻の鉄格子の一本に、ぼんやりと赤く染まった自分の姿が湾曲して映っていた。
「はっ、ははは…。やったぞ! これでようやく俺…も…っ」
 長い間、この時を待っていた。運良く化け物の手から逃れ続け、日に日に去っていく仲間達を見送りながら。
 そして実も心も疲れきっていた俺は、二度と目の覚めることの無い長い眠りについた。




「ちょっと! 店員さん!?」
 小さな店の入り口近くにある野菜売り場で、おばさんの声が高々と響いた。
「ど、どうかなさいましたか?お客様」
 銀色のカートを手にしている派手な服装で厚化粧気味のおばさんが、周りの人の迷惑も省みず大声で喚き散らしている。
「どうしたもこうしたもないわよっ! ピーマンがこんなに腐ってるじゃないの! おまけに変な臭いまで出てるし!」
 店員が赤や黄色、緑といったピーマンを置いてある売り場に駆け寄る。
「あっ、すみません。今すぐ片付けますので!」
「まったく、こんなものを平気で置いておくなんてどういう神経しているんでしょっ!? せっかく夕食にサラダを作ろうと思っていたのに、これじゃ作る気もなくすわよっ!」
 かなり個人的なことで文句を言っている客をなだめるのもほどほどに、店員は慌てて店の奥へと走っていった。
 しばらくすると、ナイロン手袋とゴミ袋を手に戻ってきて、妙に赤っぽく変色し、異臭を漂わせているピーマンだったモノを回収し、持ってきたゴミ袋の中にポイッと放り込んだ。


〜〜〜終わり〜〜〜
2005/07/06(Wed)23:18:48 公開 / 夢幻焔
■この作品の著作権は夢幻焔さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、ご無沙汰してます。夢幻焔(むげんほむら)です。
 いや、今回もまた短いです(^^; 単に長いのを書くのが苦手なだけだったりもしますが…。
 今回は、友人と2人で勝手に「お題を決めて書いてみないか?」と話合った結果、うやむやのうちに何故か『赤ピーマン』というお題になってしまいました(爆)
 そして書いていくうちに、こういう話になってしまいました。 経緯はふざけてますが、中身は真面目に書いたので是非読まれた方々がおられましたら、感想や酷評を頂けると幸いに思います。それでは失礼しますm(_ _)m
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