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『ブラッキーでハイなサンタに〔1話〜4話〕』 作者:貴志川 / お笑い お笑い
全角21702.5文字
容量43405 bytes
原稿用紙約74.15枚


 西神楽 良雄。二十二歳、公務員。



 この年にして収入は安定。親に仕送りまでして、ついでにこの間バイクを買った。マイホームは無いが、安定した収入のお陰で家賃は滞りなく払い、管理人のおばちゃんからは「本当にヨシオくんは偉いわぁ〜私の息子なんか……」と数時間愚痴をこぼされたばかりで、彼女はいないが同棲はしているという平凡な男だ。

 ただ

 ただ俺のガキの頃のクリスマスのお願い事が「僕をサンタさんにしてください!」などという純朴なものでなければ、俺はさらに平凡な生活が送れていただろう。

 あまりの年不相応の高額な仕送りに、俺の職業にはっきりと不安を覚えた家族が俺に電話して、それに「大丈夫だよ。俺、公務員だから」と言ってにげる必要もなかったはずだし。

 「安心してください。息子さんは私が守りますから」と意味不明な事を電話先の家族に口走る『非人間』の女をかくまう必要もない。

 馬鹿な奴らの馬鹿な『サンタさんへのお願い事』を聞く必要だってなかったのだ。
 

 あぁ、皆さん。
 誰か俺を助けてください。







 サンタは公務員です。


■ オタクとサンタとたぶん、鹿


 ぼろいアパートの壁は、朝から恐ろしいまでもの轟音を俺の部屋へと筒抜けにさせていた。轟音の振動で俺の部屋は軋み、酷い騒音で俺の鼓膜も軋み、ついでに俺の中の『何か』もギシギシビチビチと明らかに切れかけている音がした。精神的にか、体力的にか、はたまた心身共にか……いや、絶対に俺という存在そのものが軋みをあげていたのだ。限界、と言うやつだ。わかるだろうか、限界。そのものの上限、ということだ。
いや、おそらくわかっていないだろう。この、隣の住民は。

『あなたと〜一緒に〜夢を見て〜いた〜いの〜ニャン♪』

 ニャンじゃ、ねぇよ

 轟音の正体は歌だ。ただ普通のJ―POPと違うのは、歌手の声がバカみたいに高音な所だ。ついでにいうなら歌詞もまともじゃない。

『ご主人様ぁ〜のご言い付けぇ〜どぉりに〜頑張るニャン♪』

「ニャンじゃねぇつってんだろ! この糞ボケがぁぁ!! 朝からアニメ見てんじゃねぇよ! ニート野郎!!」
 毎朝繰り返されるこの馬鹿騒ぎに遂に俺は体の何かをブチ切れさせて、壁にワンツー・アッパーを叩き込んだ。バキ、ベキ、と木製のなにか(というか壁)が崩壊する音がしたが、この際気にしない。殴る、殴りまくる。きっと、この壁は俺の親の敵だ。間違いない。敵、敵なのだ。そうだ、この先には『アニメオタク、ニート』がいるんだ。奴を倒さねばならない。つぶす。殴る殴る殴る………………

 しばらくして、音楽はやっととまった。
 しかし音は止まったのにもかかわらず、俺の頭の中には『ご主人〜さまぁ〜だけのもの〜ニャン♪』といまだ曲はかかり続けていた。間違いない、幻聴だ。しかしその音ははっきりと俺の脳内に響いていて、俺の小脳か、それとも間脳? はたまた海馬辺りをその高温で(高音で)焼き尽くさんとしていた。
「クソッ……パラサイトシングルが……ファッキンニートだ、豚野郎……」
 俺はベットの上で息を切らしながら呟いた。別にワンツー・アッパーで疲れたわけじゃない。これでもプロテストは合格している。おそらく夜中中うなされていたのだ、このわけのわからない隣人からのアニメソングとやらに。
 この間真相報道パンキシャでやっていた。
『激増する「オタク」。急激に爆進するアニメ業界』
 という題名で
『記者「アニメのどこがいいんですか?」
青年(オタク)「絶対裏切らないじゃないですかぁ〜それにあの……なんというか、保護欲? ていうんですか、可愛いいじゃないですか〜、萌えますよね」
記者「もえる?」
青年(オタク)「萌えるっていうのはぁ〜」』

『モエモエモエ〜夢みてファイトぉ! だってあなたにあえたんだモン(セリフ)』


「だぁぁぁぁぁぁぁー!! うるせぇぇぇぇぇぇー!!」
 再度流れ始めた高音の声に、朝食にしようとしていた玉子(生)を思いっきり壁にぶつけてしまった。グチャッと嫌な音と共に黄身と白身が垂れる。怒りに任せて怒鳴る。
「何が夢見てファイトだボケが!! 夢がねぇからひきこもってんだろが!!」
 そのままゼイゼイゼイゼイと咽をひくつかせた。つらい……何で俺がこんな目に……
 この部屋の隣、俺の部屋とそう変わらない造りの部屋の住人は、はっきり言って、というか確実にオタクだろう。しかも映画オタクとか格闘技オタクなど多種様々なオタク(パンキシャより)の中で奴と来たら
『〜ニャン♪』
 ……アニメオタクなのだ。しかもたぶん、猫とかそっち系の深みにハマッた。
 考えてみろ、俺がひきこもりと言ったら音量をあげやがった。確実にひきこもりでオタクだ。対人関係が悪すぎる。もう俺は無視をすることにした。どうせ、すぐに仕事なのだ。仕事にこんな些細な……と言えないでもないが……ことを持ち込むわけにはいかない。実を言うと今日からが仕事は大変なのだ。
 しょうがなく、俺は朝食の準備を始めることにする。狭いアパートの一室だ。それほど歩かなくても台所には着き、当然その手のかかるところに冷蔵庫はある。そこから玉子と、牛乳、それに冷凍してあったパンを掴み取った。

 と、高音、轟音の中で一際静かな音を立てているものがあった。
「…くぅ……くぅ…」
「…………」
 俺は、先程から俺の横で寝ていたらしい『見た目は』女の子の胸倉を掴んでゆさゆさと揺らした。
「お前も起きろよ……この状況でなんで寝てられんのか俺に説明してくれよ。あと、何で俺の横で寝てたのかも聞かせてくれ。お前昨日玄関で寝てたろ」
 その女は揺らされるたびに、ふにゃむにゃうにゃむにゃと呟きながら、体を軟体動物のごとくぐにゃぐにゃとさせ、肩までの髪を揺らす。しかし、おきない。おそらく、神経がまともじゃないのだ。いや、過剰な反応と思うなかれ。こいつは確かにオカシイ。
 そう、常識から逸脱している存在なのだ。コイツも、俺も。
 その行動を三分間ほど繰り返した後、俺はいい加減腹がたってきた。
「おい……おい…………おい、『鹿』ァァァ!!」
 さらにがくがく揺らして、耳元で叫ぶと、やっとコイツは目をさました。馬鹿みたいに周りを見渡し、俺を見つけるとぺこりと頭を下げて、またふらふらと頭をまわす。
「はれ……? 朝?」
「夜なわけないだろう……ったくよ、寝くさりやがって。役にたたないなら朝飯くらい作ってくれ……」
 彼女……正確には『雌鹿』に当たるはずのその女の子は、欠伸混じりにベットから体を上げて背伸びした。軽く屈伸をして、もう一度欠伸をする。のんきなものだ。
「無理ですよ。私人間の味覚には慣れないですもん」
 そのまま冷蔵庫に直行し、冷凍庫を空けて箱入りのバニラアイスを手に取った。アイスを見ると、彼女の顔つきがとても嬉しそうな表情に変わる。楽しそうに目をつぶって朝の匂いを吸い込んで、スプーンを台所の引き出しから引っ張り出した。
 言っておくが、バニラアイスは彼女の毎日の主食だ。……おやつでは決してない。あくまでも主食だ。
「毎朝毎朝アイスばっか食いやがって……」
「他に食べるもの無いですから。大丈夫ですよ。他の事はそつなくこなしますから」
「死にさらせ」
 俺は玉子を再度手にとると、鍋のお湯の中に落とした。カツンと軽い音がし、ぶくぶくと泡がたつ。俺はその鍋から立ち上がる湯気が温かそうだったので、手をその中に突っ込んでみた。
 薄ぼんやりとした温かさが両手をやんわりと包み込み、それが体の芯へと伝わってジーンと安心感のような感覚を俺に与えた。
 季節は三月とはいえ、朝はやっぱり一桁台。寒い。
 にもかかわらず、感覚のイカれたこの女はぱくぱくぱくぱくとアイスを口に運び、さらにはその様子に身震いしている俺に、ぬけぬけとぬかす。
「あ、この曲可愛い〜。なんて曲?」
 ……妙にハイテンションにさわぐ女に、俺ははっきりと愚痴を口にした。
「……やっぱりお前人間と感覚掛け離れてるわ。まともじゃない」

 そう


 そう。まともじゃないわけだ。こいつだけじゃない。俺もだ。
 まぁ、「実は俺、堅気じゃないんだ!」 なんてことはない。しごく善人であり、コンビニで出たお釣りはたまに募金箱に入れるような、そんな一般的な感覚の持ち主だ。アインシュタインは言った。「神の前では我々は平等に賢く、平等に愚かです」そう、俺たちはちゃんとみんなと同じように賢く、そしてどこか愚かだ。そこには何の差異もない。俺たちは普通の人だ。もしかしたら、普通の人より劣っているかもしれない。ただ、それでも俺たちは生きているから、神様の前では俺たちは皆、同じなのだ。
 ……しかし、一つだけ……一つだけ、一般的ではないものがある。

いや、大丈夫。だって隣の住人を見てみろ。変人だ。夜中中アニメソングを大音量でかけまくり、まともに外にも出ないのに隣人の正当な批判にも逆に反論するような変人だ。変態だ。さらにいうなら幼女趣味で、もし法が変わって児童犯罪を起こした者が公表されると言うなら真っ先に名前が出てきそうで、ついでに引きこもりである。ヒッキー。宇多田も真っ白だ。
 そういうことからわかるように、人間、どこかにアブノーマルな所を持ち合わせているものなのだ。だから言おう。





 俺はサンタです。
 鹿と同棲しています。
 トナカイじゃなくて、鹿。


「よっしー、朝ご飯食べないの?」
 鹿がアイスをぱくつきながら俺に言った。
「俺はよっしーじゃねぇよ、良雄だ。鹿マリオ」
 二十二歳、サンタはちゃんと切り返した……はずだ。
 


 はたから見れば、こいつは愉快なカップルに見えただろうさ。


■ゴメンけど、110番



 あぁ、そうだ。そうだよ。
 この世の中なんて、陰謀に陰謀を重ねてその上に黒い布かけてさらにポルノ雑誌とエロDVDとまっぱの女と女性向け週刊誌とヨン様ポラロイドとまっぱの男を乗せてそれを札束で隠してそれをさらにポジティブJ―POPとバイオレンスHIP―HOPに『あいだみつを』やら『326(さぶろー)』やらの詞を乗せてやれば完成ってわけだ。皆糞みたいなうわべばっかりの欲望で構成されてんだ。
 世界の本質を見たけりゃネガティブに生きろ。そうすりゃ世界が素顔をさらすから。夢を盲目的に信じるな。正しいことは良いことじゃない。悪いことも強くはない。先駆者は糞だ。後発者は手遅れだ。
 そして、教えてやる。
 サンタが南極やらオーストラリアに住んでるわけないだろ。いつまでガキみたいな夢を抱いてんだ。現実を見据えろ。

 俺は、名古屋に住んでる。
 
 サンタは、名古屋に住んでる。

 そしてサンタは、公務員だ。ファッキン国家公務員試験。

 サンタ日本現存数、三三三名。


 三が、多い

 三、多

 三多

 サン――


 ……
 …………
 ………………




 見ろ。世界なんて、糞でできてんだ。この野郎。




「ねぇねぇ、これ見て下さいよぉ」
 鹿は相変わらずアホ丸出しで騒いでいた。食い終わったアイスパックをなぜか頭に乗せて、口元にアイスひっつけて実に楽しそうじゃないか。ついでに先程まで彼女の唇とアイスとの、なまめかしい行ききをしていたスプーンはしっかりと彼女の右手に握り締められていて、ブンブン振り回されている。テレビに向かって。
『さて、ここで季節に関する楽しいお便りを』
 テレビの中ではニュースキャスターが実に美しい造り上げた笑顔で天気予報をしていた。今は、『天気なんどこ? ここ来て見てここコーナー』……早い話が送られて来た、季節に関係する手紙を紹介するわけだ。
「見て、見て! ここですここ!」
「…………」
『えーと、三重県にお住まいのペンネーム「セントレア」さん……』
「アハハハ(右肩上がり)」
「……………………」
 きっとコイツにはおもしろいのだ。理解不能だが、そうに違いない。コイツが笑うときは楽しい時だ。他意は絶対に無いはず。
 もとより、俺は変人の、しかも変態の女を理解しようとする気はない。
「三重県なのに……セントレア……アハハ」
 ああ、そういこと。マジックマッシュルームでも噛ったのかと思った。よかったね。セントレア。愛地球博と同時に開発された愛知の新国際空港だよな。そういえばこの間から騒がれていた。よかった。コイツ普通の状態で。
 ……いやいや、良くない。良くないだろ。つまりコイツは普段からシャバ(ドラッグ)が抜けきってないような状態ということではないか。マズイだろ。人として。いや、鹿として。
 彼女はほんとにおかしくてたまらない、と言う感じでスプーンを持った手の甲で、口を隠す。
「愛地球博の騒ぎの仲間に入りたくて必死って感じがおもしろいです。なんだか、人間って哀れですよね。この地球上を支配したっていうのに、いまだに『孤独だぁー』とか言うんですもん。ねぇ、西神楽くん。……聞いてます? 西神楽くん?」
 彼女は無視を決め込む俺に振り返った。行儀良く椅子に座ってパンを食いきった俺に、柔和な笑みと少しばかりの寂しさみたいなものを込めて。多分、無視されたのが孤独に感じるんだろう。ちょっとふくれているのかもしれない。あぁ。こいつ矛盾してるなぁ。
 ていうか、笑いがシュール過ぎるだろ。理解できん。
 とりあえず、しょうがないので正当な感想を述べさせてもらう。
「……お前、地方の人間を悪く言うな。愛地球博は全世界の人間の為のイベントだぞ」
「建前なんていいんです。今時の高校生は見た目を重視するんです。メジャーリーガーの松井より、エンターテイナーの新庄です。もちろん、イチローがいればイチローですけど」
「ぬかせ、鹿が」
 俺はさっさと服を着替える為に部屋を離れる。……いや、彼女の正体が鹿なのはわかっている。それでも俺は気恥ずかしいので狭い部屋の、狭い押し入れの中で服を着替えることにしていた。一応、俺が着替える間に『鹿』も着替えるはずだ。
「今日こそあの娘の『お願い事』を叶えなきゃ……ですね。狙いを付けてからもう三日は過ぎてますから」
 薄い押し入れの引き戸を挟んで、ガサガサと音を立てながら彼女は言う。「あぁ、そうだよなぁ……」と、俺は気の無い返事をした。

 俺はサンタ。
 サンタは偉いんです。
 なぜなら、聞きたくもない他人の願事が手に取るようにわかるのだから。

 特に表層の、一番軽い、サンタさんに言えるようなお願い事。『これが欲しい』『あんな風になりたい』『彼女が欲しい』『彼氏が欲しい』『テストで良い点がとりたい』『私を捨てた彼に復讐したい』『あんな娘とあんなプレイを』『デリヘル嬢が俺の好みに』『ヒカル、私に本気になって』etcetc……

 ……
 …………





 この馬鹿が。

 この猿! 類人猿! クズ! ケダモノ! 

 サンタさん、彼氏下さい? お前、それどうやって叶えてやりゃいいんだ? 「それじゃ私が……」とでも言えってのか? 嫌だよ、俺から願い下げだ。鏡見てから願え。そうすりゃ「レッツ『ホストクラブ』!」で解決するよ。ナイスだろ。あの店の中の男は皆お前の彼氏だ。すばらしい。逆ハーレム。

 まぁ、擬似だがな。期限付きの。

 つまり、そういう事だ。
 人間なんて欲望の塊。好き勝手なことばっかり言う奴ばかりだ。んで、それが食いものにされる。誰かさんの欲望の為に。


 ある日俺の所に鹿が来た。サンタは最高だと。ドリームメイカーだと。
(「楽しいんですよ。デンジャラスなんです。最高なんです」)
 俺は警察を呼ぼうかと思ったけど、やめた。その時来た奴が森三中みたいな奴だったらマジで電話していたが、彼女は実に『見た目は』可愛かったのだ。肩までの髪はさらさらだし、着ている服は薄ピンクのキャミ(ソール)と、いかにもかわいらしい。俺は彼女の為に目頭を熱くした。可哀相に、この若さでイっちゃったのか。どう見ても高校生くらいだろう。宗教? 大丈夫? 主に脳とか。
(「違います。全然、普通なんです。清純、なんです」)
 そうですか
(「……信じてないですね! 信じてください! 純白、なんです!イノセント、なんです! 処女、なんです!」)
 …………
(「私、西神楽くんのパートナーですから」)
 彼女は胸を張った。
(「だから、清純で処女なんです」)
 …………処女。
(「はい!」)
 その時、管理人のおばちゃんが通りがかった。
(「ヨシオ君、この部屋、軋むわよ。壁も薄いから、ここでは止めた方がいいわ。おばちゃんが良い所教えてあげる。ここいきなさい」)
 …………
 おばちゃんは去っていった。
(「サンタ、なりますか?」)
 俺はおばちゃんに貰った『シーサイドホテル』のチケットをジーンズにねじこみながら言ったもんだった。
 なる。なるから、早く帰ってくれ。
(「本気ですか? ちゃんと書類も書いてもらいますからね、いい加減にいっちゃって、後で後悔しても、遅いんだから」)
 どっちだよ、お前。
(「そりゃぁ、なって欲しいですよ。でもいい加減な気持ちでやってほしくないんです。サンタというのは……」)
 彼女は熱く語り出した。熱弁している姿も可愛かったが、その内容は明らかにサイコさん(薬中)としか思えないものだった。ちょっとひいたが、彼女自身がすごい頑張っているからなんとも止めずらい。
 そうこうしている内に時間は過ぎた。

(「…………萌え」)
 え
 と、思うしかない。いきなり横から低い声が。
(「もえ?」)
 …………!!!
 しまった、コイツの事を忘れていた!! ヤバイ!

 隣のオタクです。

 奴はドアを薄く空けて、その間から彼女を見つめていた。熱弁を振るった彼女が汗を垂らすのを見て、その感情(萌え)はピークに達したのか、奴は肉付きの良い体、三桁大台に突入した体をもぞもぞとさせていた。……あれがその感情(萌え)の身体表現らしい。ヤバイ。キモい。
(「誰かいるんですか?」)
 やめろ! 見るな。アンタがあの世界に突入したらそれこそ帰って来れなくなるぞ。
(「そう?」)
 そう。
 オタクはヒッキーらしく部屋に引っ込んだ。よし。そのまま出てくんな。アニメソングでも聞いていればいい。もちろん、ヘッドフォンで。うるせぇから。
 彼女は意外とすんなりと奴を無視した。よかった。意外とコイツ、対象以外には冷たいな。
(「それで、契約書なんですが……」)
 え、持ってるの?
(「そりゃもう……ここがハンコをおすところです」)
 えーと……これ、マジな文書だね。「サンタ登用に関する文書」って、サンタは登録制なのか……甲? 乙? えーと丙って何? ああ、ここに名前書くのか。甲が俺で、乙がアンタか……丙がサンタ……え、国家公務員? すごいな、日本政府動かしてんじゃん。今時アルジャジーラでも日本政府は動かないよ。……ねえ、この職業保険が利かないってなんなの?
(「任務中のケガに関する保険はないんです。その代わり、特別手当が出ます。二百万ほど」)
 ……へえ。二百万。国家予算使いまくりだね。あと、任務中って、そんなにヤバイの?
(「感覚によりますね」)
 ……俺の感覚で大丈夫だといいけどね。とりあえず、銃を使ったりしないよね。
(「使いませんよ。私が使うんです」)
 …………へえ。じゃあ、安心だ。
(「はい。私が守りますから、安心してください」)



 と、しばらくすると、オタクの巣から音がしてきた。またアニメソングか。ヘッドフォンで聞けっていってんジャン。ていうか止めろ。お前の妄想たっぷりの曲など聞きたくも……

 ……え

 こ、これは

(「あ〜、アジカンだぁ」)

 ――何ぃぃぃぃ!!!

 奴が!!
 奴がJ―POPだと!? なぜ奴がアジカンなど!? いつものニャンニャンみーにゃん(アニメ)はどうしたんだ!
 は、そうか! 奴め、この変人兼美少女(後の『鹿』)の気を引くために……
(「私が持ってない曲! スゴイ! なんで持ってるんだろう……まだリリースされてないのに!」)

 マズイ
 この娘(変人)、行く気だ。
 このままではオタクの思う壷……彼女の処女が! そしてオタクの童貞が危ない! 彼女はオタクの道へ、オタクは第二の電車男を狙って3Dの女に……
「オタクさん、サンタになってくれますか」
「ああ、僕は……僕は君のサンタに……ハア、ハア、ハ――」

 ダメ、絶対。やめようドラッグ。やめようオタク。あと、変人と処女喪失。

 おい! おい!
(「はい?」)
 ハンコは母印でいいのか?

 こうして俺はサンタになったわけだ。
 いや、適当だよ、そんなもん。俺だって、知らないうちになってたんだから、知るかよ。
 とにかくこれで俺ははれてサンタに。おめでとう。過去の俺。お前はそこから、地獄に落ちるんだ。
 いや落ちはしないか。

 世界がクソになるんだ。そう、間違いない。


(「ドリームメイカーの世界へようこそ!」)
 彼女は俺の部屋に勝手に上がって、コンビニで買っていたらしいガリガリ君を食べていた。楽しそうにくるくる回る。面白いか、それ。
 ていうか、アンタ、誰?
(「え? 私? えーと……名前は西神楽君につけてもらわないと」)
 …………とりあえずなんて呼べばいいんだ?
 そういうと、彼女はそうだなあ、とアゴに手を置いて考え出した。うーん、とそのまま三十秒ほどたつと、彼女はいきなり立ち上がって言った。

(「鹿です。私鹿なんです」)








 ゴメンけど、その後一回警察よんだから。 





 森下里奈。学生。朝は七時に起床、半に家を出て、40分かけて徒歩で学校へ登校。そのまま授業を受ける。午後二時半に授業終了。クラブ活動を開始。その後午後四時半クラブ終了、午後五時に帰宅開始……

『目標が帰宅行動を開始。撮影開始します。オーバー』

「…………」
『目標の位置、状況によっては、私の位置からの撮影が困難な時があります。その場合のサポートを任せます。オーバー』
「…………」
『オーバー』
「………………」
『オー、バー』
「……………………」


『おぉぉーばぁぁぁー!!!』


「のぉぉぉぉ!」
 俺は無線機から響いた鹿のキンキン声に思わず耳を押さえた。鼓膜がヤバイ、朝から(ていうか夜中から)のアニメソングおかげで俺の鼓膜は完全にグロッキーになっていた。いつ破れてもおかしくない。ていうか

 なんか引っ張られるような痛さなんですが。

 つか、新感覚?

『おぉぉーばぁぁーアアア!!』
「わかった! 止めろ! オーバーだ! オーバー! 俺の鼓膜がイカれる! 鼓膜がオーバーだって! 限界! ちぎれちゃう! いつまで言ってんだ!」



 彼女は無線機の向こう側、俺の上空、お隣りの木の上でフフンと笑った。上を見ると、実に楽しそうに……うわぁ、すっごいいたずらしてますって感じにニヤけてるよ。
『返事をすればいいんです。しっかり仕事をしてくれれば、私もパートナーとして鼻が高いんです。オーバー』
「お…おーばー」
 俺は痛む鼓膜を押さえるように両手でやさしく包みながら(少し触れただけで崩壊するのではないかという恐怖)答えた。また、上で少し機嫌よさそうにフフンと笑ったらしかった。鹿め……

 さて、いったいどういう状況か、説明しよう。
 いや、正直したくない。しなくてよいというのなら、しないでおきたい。だって、この状況、ヤバすぎ。



 俺たちはいま、盗撮しようとしています。

 ああ、しかも、小学生を。



■ゴメンけど、ロリコン



 俺はいま、小学校の隣にある雑木林の中に伏せの状態で待機している。その手にはカメラ、目にはミラーシェイド(サングラスみたいなもん)、怪しげな無線機を片手に、下校中の少女達をパシャパシャパシャパシャ、マジキワモノのカメラで取ろうとしている。

 あ、このアングルいいね。いいよ、その笑顔最高! うわースパッツとか反則…… ああ! 体操服だ! ねらい目! うわー近頃の小学生って胸が大きい……パシャッと うわわ、ちょっと化粧とかして大人びてる……いいね、パシャ


 と、つぶやきながら上で無差別にシャッターを切る女、ピンクのキャミソールはどこへやら、というかピンクのキャミソールで木の上に這い上がり、そこで身を伏せて俺以上にキワモノのカメラを持っているのはそう、

 鹿だ。

『いい、最高です。これはいいですよ。気持ちが高潮します。ハイです。どうですか、撮ってる? 西神楽くん、西神楽くん?』
「……なあ、やばいってこれ。いくらなんでも直接的すぎんだろ」
『そんなことを言ってるから今だ初任給のままなんです。いい、これは任務なんだよ? 作戦なの。手段は選んでられないんです、オーバー』
 そういいながら彼女はパシャパシャパシャパシャと切りに切りまくる。レンズが馬鹿でかい、まるで戦場カメラマンが持ち合わせているようなでかいカメラだ。フラッシュを焚いてないところがなんと言うか、『らしい』ていうか、その下の口が明らかにゆがんでいるのはなぜだろう。猫の口だ。3の形を右へ九十度倒した口だ。

「……なんでクリスマスでもないのにサンタは働くんだろうな」
『いまさら何言ってるんですか。国家公務員でしょ。年末だけ仕事してどうするんですか。頑張れば、いい事ありますよ』
 お前、それ頑張ってるのと違う。と、俺は口にはしなかった。シャッターを切る奴の目は、明らかにマジだった。


 三日前ほど前から目をつけていた娘、というのは小学生、『森下里奈』。彼女のサンタさんへのお願い事とはこうだ。
『同じクラスのユタカ君と仲良くなれますように』
 いかにも小学生らしい、稚拙な感じのお願いごとだ。付き合えますように、とか襲撃が上手くいきますように、とか、具体的でいないところがさすがだ。大人になればなるほど、お願い事というのは具体的になる。三日前、そのようなお願い事を察知した俺は鹿にそのことを伝えてみた。
『いいです! それでいきましょう! 最高だよ。子供はいいね、汚れていないところがそそられますね! ですよね! 西神楽君』
 朝からトチ狂ったかバカ鹿。
 玄関先で伝えたことを激しく後悔した俺だが、もう遅い。下でおばちゃんが昔ながらの黒電話を手に取りながらダイヤルの@に指をかけていた。それがまわされたら、当然次に来る数字は@であり、その次は……
『…………』
 ああ、まずい。
 その時、オタクと逆の隣に住む美人大学生、御浜 幸枝さんがそこを通りがかり。
『おはよう』
 何もいえない俺にニコリと笑顔で挨拶をし、その腰まで伸びた長髪を躍らせながら階段を下りていった。

ビバ、年上。

 俺は決してロリコンでないことを主張するために、下のおばちゃんに声高らかにそう宣言した。

『まあ、もう七時じゃないの! 大変だわ』

 おばちゃんの最後の番号は、Fを押していた。もっとも、中指は確実に0押さえていたが。
『年上、好きなんですか』
なぜか激しく俺を薄めで見つめてくる鹿を、逆に薄めで睨み返した。コイツ、色々やらかしすぎ。というか、鹿なのにロリコン? 発情期周期とか関係ないの?
『むう』
奴は膨れたらしかった。あ〜あ〜……


 そんなこんなで色々その小学生について調べていたのだが、今日、突然鹿がわめき始めたのだ。
『本部に報告しないと。書類と、対象の写真が必要なんだけど……』
 なんでも、サンタ国際協会、略称SANT(Santa・All・National・Team)なるものがあるらしく、誰かの願い事をかなえるためにはそこの認証を得る必要があるらしい。
『無理があるだろう』
 俺は言った。
『なにがですか』
『SANTだよ。明らかに無理無理だろ。最後のチームってなんだよ。なんで国際機関なのにチームなんだ』
 彼女はそれをやんわりと、自然に、確実に無視し、カメラをバックから取り出した。
『いいですか、今から彼女の写真を撮りに行きましょう。今すぐにです。さあ、これもって。ここからは茨の道ですよ。一歩踏み外したら、その先は死です。ここから先は上官の俺についてコイ』
 彼女はブリッコしながら腕を見せ付けた。細い腕だった。呆れた。
『……上官、イラク行きましょうよ』
『サーをつけんか!』
 彼女はニコニコしながら言った。



 という感じでここまできたのだが、彼女は何を勘違いしたのか、小学校の近くの雑木林までその『アメリカ海兵隊訓練プログラム教官ごっこ』を続け
『いいか! ここから先は敵の陣地だ。頭を上げたら鉛弾が飛んでくると思え! テメエらアカデミー出たてのヒヨッコどもには地面にへばりつく姿がお似合いだ! さあ、匍匐(ほふく)前進をシロ!』
 と俺をそのぬかるんだ地面へと突き飛ばしたのだ。冗談にも程がある。ていうか、頭おかしいだろコイツ。俺は怒鳴ろうとしたが
『どうした! 遅いぞヒヨッコども!』
 俺の前を(たぶん)楽しげにスキップで進んでいく彼女を見て、その気も失せた。
 その姿は相変わらず、『見た目は』可憐な少女だった。鼻歌など歌ったりして、ここがお花畑なら、まさにアバンチュールに来たカップルだ。
 俺はこの後、彼女のこのキャミソール姿を何度も渇望することになる。何度も、何度も。



『あ、いた! いました! あの娘です! ベリショの女の子です! オーバー』
 木の上でハワワエワワと騒ぎ立てる鹿は無線機片手に大声で叫ぶ。ていうか、この距離無線機いらないだろ。と思いつつも目前に迫って来るであろう危険を無線でハワワ(パシャパシャ)エワワ(パシャパシャ)と騒ぐ鹿に小声で器用に叫びかえす。
「わかったから静かにしろよ! こんなとこ警察に見つかったら確実に逮捕だぞ! オーバー」
 上から『大丈夫です!』と言いながら、パシャパシャと鹿は写真を撮る。そして無線機のスイッチを入れていないことに気付き
『同じ公務員です。同じ穴のムジナなんです! オーバー』
「同じ穴のムジナに俺の部屋で捕まってたろお前。あの後どうなったんだ? オーバー」

 ややあって

『……あ、あの少年はユタカ君だ!美少年です! 爽やか! スポーツ少年!! しかも、サッカーです!!』
「黙れっつーの!!」


 神崎 ユタカ。学生。サッカークラブ所属。スーパー爽やか少年。家族は教育家族。クラブも終わったら塾直行。イチローに似てる。

「いいですね。可愛いだけじゃなくて爽やかだなんて、最高じゃないですか」
 俺達はとりあえず一緒に帰るらしい小学生二人をつけることにした。校門前の電柱で張り込む。
「…………」
 ちなみに俺の服も、鹿の服もよごれていない。よくわからないが、鹿のお陰だ。
(『魔法です』)
 鹿はそう説明した。
(『人の願望がわかる世界ですよ? 鹿が人間になる時代ですよ? 魔法が無い方が不思議でしょ』)
いやいや。常識を逸脱してるって。
(『私も、西神楽君も既に逸脱してるよ。そこら辺ちゃんと理解してる?』)

 その後、延々と魔法について語られたが、俺にはさっぱりの内容だった。わかったのは、言わばショボイ偶然を積み重ねて目的を叶えるようなもの、ということくらいか。
(『嘘だと思ってますね。いいです。今から魔法をかけますから! 見てて下さいよ! リ〜ルラ〜リ〜ルハ〜♪ 流〜れゆ〜く〜……』)
 そう言って鹿は小学生二人と逆の方向へ走り去っていった。当然とめたが、無駄だった。ていうか、今の木村カエラだろ。まんまパクりやがった。アレ、魔法?

 二、三分すぎた。
 まったく何をしているのか、そうこうしている内に小学生二人は行ってしまう。あー……待ってくれ。このまま行かれると何のために平日の昼真っから変質者に成り果てていたのかわからない。

 と、その時俺の視界に赤い塊が見えた。
 タバタババタバタと暴れ狂いながらこちらに来る謎のけむくじゃら。
「…………」

 何、アレ?


 右へ左へ、フラフラしながら両手を上げたり下げたり、顔をブルンブルンと振り回したり横振りしたり
「もう一度言おう」

 何、アレ?


 そしてけむくじゃらは俺の鼻先まで来ると、そのプラスチックでできた無機質な目で俺を覗き込んで来た。そしてくぐもった声で言う。

「さぁ! お嬢さん方を尾行しますゾ!」
「……………………………………………」

 ムックだった。ポンキッキーズの



「……………………」

 俺はくわえていた煙草を手に戻し、肺にたまった煙をゆっくりと吐いた。

「……………………」
「尾行しますゾ」
「……………………」
「尾行しますゾ」
「……………………」





「びこ――」
「鹿」







 お前もう帰れ。



■ゴメンけど、マゾヒスト


『ゴメンね、真理ちゃん。用意するのに時間かかっちゃって』
『あ、ううん。いいよ、あたしも無理に誘っちゃってゴメンね。ユタカ君』
『ううん、真理ちゃんが謝ることないよ……』
『あ、そ…そうかな……』
『う、うん』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『よし君のバカ! その女の人だれよ!』
『あ、いや、違うんだ朱美……この娘は僕のお姉さんで……』
『あたしはあなたの姉になったつもりないんだけど? 朱美さん、あなたこそ誰かしら?』
『朱美って言ってるのわかんない? あんた誰っつってんだよ!』
『あたしは唯だけど? 悪いけど、よし君にはあなたみたいな軽そうな女あわないと思うけど?』
『はぁ? ふざけんじゃないわよ!』
『ちょっ、まてよ朱美! 殴っちゃダメだって!』
『はぁ!? 元はといえばアンタが……』
『うげ!……ぐげほ……』

 ガチャ

 じーじーじーじー

 ガチャ

『ゴメンね真理ちゃ……』


「…………」
「あ、どうですか? 盗聴記録で何かわかりました?」
 鹿は風呂上がりでバスタオルを体にまいて、さっぱりした感じで現れた。俺はそれから目をそらし、テープレコーダーの『停止』を押した。ついでに耳からヘッドホンをはずす。
「……強いて言うならお前は後半まったく違う事を考えていた、ということかな。ていうか、バカだろ。お前。あと、服を着ろ」
 鹿は小首を傾げた。
「でもスゴイファイトだったんですよ? 朱美さんなんて、途中から警察相手にジャンプバックのハイキック決めたんですよ」
「ああ、そう……ってバカ、やらんでいい! うわ、マジでダメだって! ……うわっ……うわぁ……」
 時間は八時を回ったくらいか、小学生はしっかり家路につき、俺たちも既にそれに習って家に帰っていた。いや、正確には
(『任せてください! しっかり尾行しますぞ!』)
 と言う鹿(ムック)の言う事を信じて俺が先に帰っていたのだ。……しょうがないだろ、いや、だってムック(鹿)と歩くのとかダメだろ。感覚的に。しかもまっすぐ歩けないとかで、横歩きしてくる。まともじゃない。
 帰ってきたときはしっかりとキャミソール(なぜか汚れてなかった……魔法?)を着ていたので、おそらくは不審者尋問などはされていなと思うが……。小学生をつけ回している時点で怪しさ100%か。
 鹿はその朱美さんとか言う人(絶対小学生とは関係ないのだろう)のことが忘れられないらしく、帰ってからもずっとその話をしていた。無理やり風呂に入れたのは俺だ。あまりにうるさかったし。何よりキャミはいいとして体じゅうドロだらけだったのだ。
 いったい何があったのかはわからないが。
「私もやろうかなぁ……カポエラ」
「そんなマニアックなもんに手をだすな」
 楽しそうに鹿は笑った。シュッとか言ってる。それ、ボクシングなんだけど。
「早く着替えろよ」
「ああ、はいはい。シャツはどこかな……」
 そのままさっさと俺の背後で着替える気らしい。あー……やめて欲しい。がさがさ音が聞こえるんだよ、着替える音だけってのがかなりいやなんだけど。
そんなことはお構いなしに、背後から少し気落ちした感じで鹿が話しかけて来る。
「結局無駄足でしたね、朝から盗撮したりして、なんだかバカみたいです」
「……ああ、主にお前がな」
「えー? なんでですか?」
 呆れた。
「聞くのかよ」
 あーしかしどうするかな。このままじゃ願い事なんか叶えてる場合じゃねぇぞ……(主に鹿のせいで)どうすればいいのか検討もつかない。ユウジ君? だっけ? あの子の好みすらわからないなんて、これは重症だな。
 俺は「面倒臭いなぁ」と言いながらビールのプルトップを空けた。キャカリッ! と小気味のいい音を立ててビールのふたが開く。おお、旨そう。やっぱ二十歳越してよかったことは堂々と酒が飲めることだよな……
「あ、私も飲みます!」
 後ろから鹿が手を伸ばしてきた。うわわ、奪われる。
 俺は高校時代に身に着けたボクシングの技術を生かして、とおっ、てやッと避けてやった。
「うっさい、未成年。コイツは俺の獲物だ」
 鹿はあきらめると、ブーと不満げに頬を膨らませたらしかった。
「へーん。そんな麦芽を醗酵させた『苦汁』飲みたくないですよ!」
 勝手な奴め……ていうか、『苦汁』って……なんかまずく感じてきた。
「ていうか、もう着替えたか? 振り向いていい?」
 遊んでいたが、そろそろ着替え終わっていい頃だ。鹿はトロいが、着替えは早い。しかも音もさせない。なぜかはよくわからないが。
「あ、はい。いいですよ」
 鹿の声を聞いて、俺は振り返りながらビールを一気に口の中に流し込んだ。まぁいいや。飲んで忘れよう。うん。それが得策だ。


「あ、そぉだ。アイスクリーム食べますゾ」


 吹いた。


「うわわ! 何してるんですか! 子供みたいに吹き出して……ゾ」
 振り返ったそこにいたのは鹿ではなく……いや、鹿なんだけど……赤いし、モジャモジャ。
「ムックは返してこい」
「ゾ?」
 鹿、もといムックは相変わらずの無機質な目で俺を覗き込んできた。なんだ、この切迫感は。くそう、高校時代のボクシングで身につけた俺の戦闘本能が……
 ていうか
「なんでまだ持ってんだ! 捨てろ!」
「ゾ」
 ムックは「やれやれ」といった感じで肩をすくめた。もちろん手もつけて。
「『ゾ』をやめろ! 『うん』か『ううん』かの差がわかんねぇんだよ!」
「ゾ〜わかってないですね。こういう動物語尾が男心をそそるんですよゾ」
「ムックは動物じゃねぇよ……あれ中に人入ってんだぞ。 完全にホモサピエンスだろ。つかムックの語尾使われると男心逆なでなんだよ」
「わかってないです。西神楽君は『男心』の掴み方をしらないです。ゾ」
「うるせえよ。『ゾ』の使い方間違ってるしよ」
 ムックは楽しそうに片手を上げてくるくる回った。そのプラスチックの無機質な目が素敵に不気味。

「ゾ〜ゾ〜♪ ゾ〜ゾ〜♪(お〜れ〜♪お〜れ〜♪)」
 …………
「ゾゾゾンゾ〜ゾ〜ゾ〜♪(マツ〇ンサンバ〜♪)」
 …………
「ゾ〜ゾ〜♪ ゾ〜ゾ〜♪(お〜れ〜♪お〜れ〜♪)」
 …………


「ゾゾゾンゾ――」
「鹿」
「ゾ?」




ぶん殴りますゾ?




「いや、あのな、鹿」
「はい……」
 涙をいっぱい貯めて鹿は俺を見た。俺はうっと息を詰める。いやいや、落ち着いて……煙草を揉み消す。
「お前、ちょいちょいウザいときがあるから、いや、なんつーか……嫌いじゃないんだ、嫌いじゃ」
「はい……」
 いや、ちょっとビール缶で、すれ違いざま小突いただけだったのだがいきなり泣き出してしまったわけで。うー、イライラはしてたけど
 うわぁ……泣かれるのって苦手……
 そうこうしている間にも彼女はまた目にいっぱい涙を貯めて……
「うわ、待てって泣くなよ……ほら、これ飲んでいいから……」
「……うん」
 あぁ、いいのだろうか、国家公務員の(ありえないけど)未成年が酒を飲んで。いや、しかし誰も見てないし、なによりこうでもしないと泣き止みそうにない。
「いただきます……」
 鹿は泣きながら缶ビールに手をかけた。



 時刻午前二時。
 ヤバイ、目が、まぶたが重てえ……ああ、もう俺はだめだ。ドリームの妖精さん、いざ、俺を夢の世界へいざな……

 グリ

「……きいてますか? 『良雄』さん」
「…………」
 まぶたを思いっきりねじ上げられていた。イタタタタ……指を突っ込むんじゃない。やめろ、止めろっつーの! 
 と言いたいが、なんだかそんな雰囲気じゃない。
「この地球上において、人にとって必要なことなどほとんどないのれす。しかしながりゃ私たちがあると感じていりゅのは、鬱鬱としひゃ物質への欲望、渇望。いわば私達は物質への欲の為にしんきゃを続けているのれす……わかりまひゅか?」
 俺はまぶたを持ち上げられたままウンウンとうなずいた。
「…………」
「この世界はマテリアル(物質)社会なのれす。いいれすか? 確かに私達わしんきゃによって物質に頼ることはなくなりぃますた」
「…………」
「ちょっと! 聞いてるんれすか!? 」
 まぶたをブンブン振り回された。
「うぎゃあッ! 何しやがるッこの……」
「………………………」
「…………いや、別に……」
 目が据わってやがる。もう、なんだコイツ。

 すでに机の上には十数本の空き缶が転がっていた。これはつまるところ、なかなか泣き止まなかったので、俺が飲ませてしまったのだ。ついつい飲ませすぎてしまった。
「……………」
 眼(ガン)くれてやがる。
 ……やばいだろ。マジで飲み過ぎじゃないのか、これは。

(『うぐ……そんな、怒るとか…思わなくて、いつも……そうなんです……いっつも自分勝手に騒いで、誰か怒らせてしまうんです』)
 うんうん。そうだろうな。『よく』わかる。うん。
(『……『よく』わかるんですか?』)
 うるうるさせて上目使い。
 まぁ、うん。
(『うぐ……うぇっぐ……うぇぇぇぇん』)
 泣くのかよ……
 まぁ、いいから飲めよ。今日はおごるから(缶ビールで割り勘というのもよくわからないし)のめるだけ飲めば忘れるって。
(『……うん』)


 という状態から

「言わびゃ、アインシュタインの訴えた『相対性理論』わぁ、現代の世界を抽象的に、明確に捕えているのでしゅ。つまりぃ、『欲望』が満たされるぎゃためにゅ、反対では『欲望の搾取に対しゅる欲望』が生まれるわけでありましゅる……」
「…………」
 まぁ、飲むと人間おかしくなるものだから、元からおかしい人間(いや、鹿)は
「う〜……アインシュタイン……」
 クソ真面目になりました。というオチなのだろう。多分。大分ねじくれた真面目だが。
「あのですね」
 鹿は俺のまぶたから手を離し(おお、なんかまぶたヤバイかも)狭い部屋を大幅に占拠するテーブルに突っ伏した。ブルブルと首を振る。
「やめろよ……酔いがまわんだろ?」
 だんだんそれが楽しくなってきたのか、ブンブン振り回し始める。
「アハハハ……ハハハ……ハハ」
 そしてそのまま撃沈。気持ち悪い、と少し涙声。なにやってんだか……。
 鹿はそのまま、タバコをつまんでいた俺の腕を握った。
「……あのですね」
「……なに?」
「……最後に必要なのは、愛している人や感情なんれす。好きな人がいれば、幸せなんれす。物質欲なんて、キリがないんです」
「……あぁ、そう」
「……西神楽くん」
 お、久しぶりに聞いたな、それ。
 鹿は突っ伏したまま、にへら、と笑った。
「……私、今幸せだから」
 …………
「……あぁ」
 そう。俺は一切幸せではないがな。とは言わんよ。
「うぅ……ぐぅ……うぇぇぇぇん」
 …………。またかよ……忙しい奴だな。コイツは
「ムックはそんなにダメですか!? 赤いけむくじゃらの何がいけないんですか!?」
 その話に戻すのか。
「……しらねぇよ、生理的なモンだよ」
「そんなの、良雄の勝手な身体的特徴でしょ!?」
 うぉい、呼び捨てかよ。
「わかりますた……勝負しましょう。それでいいと言う人は手を上げて」
 ぎろり、と鹿は周りを見回した。……いや、そこらへんには何もないですよ。あるのは畳と、あとは酔っ払った鹿ぐらいですが。
 …………ラリ?
 とは言わないが。鹿は自分一人手を上げて周りを見回していた。
「よし。下半身が一線を超えましたね」
 …………?

 下半身→×→過半数
 一線を超える→×→(過半数を)超える

「良雄、勝負です」
 鹿は赤くなったほほを押し付けるようにして俺を睨んできた。……別に怖くないけど。
「…………どうやって」
 鹿はふふふ、と不敵に笑った。あごに手を置いて、なにそれ? 探偵ごっこ?
 そして鹿はガッと俺の肩に手を置いた。笑顔で言い放つ。

「私を縛ってくだせい!」

「…………」
 やはり、飲み過ぎだろう。俺はビールを片付ける。
「亀甲でもなんでも縛るがいいでしゅ。それでも私がムックに辿り着く事ができれば、私とムックの絆は確かなものになるのれす!」
 握りこぶしを作る鹿。
「勝手にやれ」
「しゃあ!(さあ)」
「俺はそんなアブノーマルな方面に興味ねぇんだよ」
「しゃあ!!」
 …………コイツ
「しゃあ!! しゃあ!! しゃあ!!」
 俺の肩を掴み寄せ、鼻先が触れ合う程に……ていうか鼻を押し付けてきやがったぞ。うわ、イテテテ、って、うわぁ唇のほうがヤバイ! マジで止めてくれ! うわっ、うわっ!!
「しゃあ!!」
 奴の目はマジだった。


 というわけで縛ってみる。まぁ、マニアックなのはわからないから、手足を縛るくらいで。


「…………」
 ガタゴト(鹿)

 …………(俺)

「…………」
 ガチャゴチョ

 …………

「…………」
 ゴリゴリ

 …………

「…………」
 じたばた

 …………

「…………」
 じたばた

 …………

「…………」
 じた……

 …………

「…………」

 …………

「…………」





 じたば……

 じた……






「に…西神楽殿……」













――と、といて下され……







 ……………………………




 そろそろ三時を回る頃に、変態がいます。
 あぁ、誰か助けてください。


 変態です。たぶん、マゾ。


■ゴメンけど、巻いていこう

「さて! いい加減読者の皆様も設定をはじめあらゆる目的を忘れていそうなのでここで再度設定を説明しましょう!」

…………

「まずは主人公西神楽君! ニシカグラ君、ですよ! すごく読みにくいですけどネ。それから私こと『鹿』! 西神楽君のパートナーです! 容姿端麗! 性格最高の超級美少女です! パートナー具合は大体NHKで放送できるくらいのレベルですよ。期待しすぎはムダです。脳内で再生してください!」

……う

「そしてお隣のオタクさん! 結構いい人ですよ、 私にかわいい服もくれるんです! アニメソングは大好きと共に西神楽君との戦争の手段でもあるんです! パレスチナ・イスラエル軍の投石紛争と同じ状況ですね! 暴力にまさる西神楽君にアニメソングで対抗なんて素晴らしいです! 民衆の力強さを感じますネ!」


……ぐ……う

「私の最高のパートナーシップのおかげで西神楽君の作戦はさくさく進むんです! 今回の作戦も順調に進んでもう後は締めだけです! いいですね、たとえ本人がダメダメでも相方によって人はいくらでも上に進んでいけるんです! いわば私はカンニングの竹」



 ぷッツン



「――ッ るせええエエエぇぇぇぇぇ!! この鹿がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 握ったまま眠ったらしい缶ビールを握りつぶすと、そのまま(なぜか)玄関に向かって笑顔で話す鹿に走りよって胸倉を締め上げる。
「朝からごちゃごちゃごちゃごちゃと騒ぎやがってぇ! 大体最初の説明の部分俺のところ全部省きやがって、名前だけ説明してどうすんだ! 自分のところは超級美少女って勝手に説明しやがってぇぇぇ! あの書き方じゃ俺よりオタク野朗のほうが感じよすぎだろ! それから実在のコンビ名を伏字無しで公開するなっつってんだろうがぁぁぁぁ!!」
 しかし一気にまくし立ててぐらぐらぐらぐらと首を揺らしても、鹿はアハハと笑って笑顔だった。
「おはようございます西神楽君。今日もハイテンションがしっかり根付いてますね。読者からは多少『ウザイ』との発言があるにもかかわらず暑苦しいほどのノリです。それから、読者はどうあれ私のランキングでは西神楽君がダントツで一位ですからそれほど気にすることはありません。二位が細木和子で、三位がオタクさんです」
「ざけんな! そんなランキングがあるか! 二位以下を見ればろくなランキングじゃないのが目に浮かぶわ!」

 ――スキスキスキ〜ドッキン♪

 俺は振り返って走り出し、壁に到達するとフックを叩き込む。
「ウラァ! テメエも調子乗ってんじゃねえぞ! イスラエル軍は投石した市民の頭撃って皆殺しにしたんだからな! 俺達に国連はねえぞ!」
「ブラック過ぎますよ西神楽君、非戦主義の方に睨まれ――」


 閑話休題


「……さて」
 俺はさっさっと着替えてから朝食の料理に取り掛かった。
 卵に絡めたパンをフライパンで焼き、砂糖をまぶす。
「いやあ、やっぱり朝はアニソンとアイスに限りますね」
「死んでくれ」
 相変わらず狭いこの空間は隣からのアホなオタク音楽……通称アニソンに満たされ、ついでに変態の鹿は昨日の騒ぎなど綺麗さっぱり記憶からなくし、朝のニュースを見てアイスをほおばる……という状況。
「なあ、いい加減あの子達を何とかしないと……」
「そうですねぇ……はむ……ミッションが成功しないと……はむ……給料も上がらないし……はむ……あ、目覚ましテレビだ……ああ、『恋に落ちたら』いいな……はむ……そういえばビデオ借りたばっかりだっけ」
「会話の内容を一つに統合しろ」
 俺は出来上がった朝食を運びながら鹿の頭を軽く小突いた。まったく、カンベンして欲しい。
「いたた……フン、イーだ!」
 鹿は思いっきりすねた顔してそっぽを向く。なにやってんだか。
「とりあえず、どうするよ今日は。前回の写真みたいなのはもう嫌だからな。ほんとにつかまると思った……」
「もちろん今回も二人をくっつける作戦を始動です! 実は昨日同僚からいいテープをもらってきたのです」
そういいながら鹿はテープとテープレコーダーを取り出した。俺はそれを見ながら、鹿の向かいになるように椅子に座る。
「同僚? お前以外にも鹿みたいなのがいるのか?」
「ええ、みんなトナカイですけどね」
 言いながら、鹿はカチャリと再生ボタンを押した。 

――俺? 好きな子なんていないって……ホントだってば! ちょっ……さわぐなよ〜

 鹿はそこでいきなり停止ボタンを押した。
「どうです? チャンスじゃありませんか?」
…………
「……いや、何がよ」
「あれ? わからないんですか? おかしいですね……私と西神楽君の電波相性は抜群なはずなのに」
 そういうと鹿は、両手をピースの形に変えて、自分の額にそれをあわせてつけた。
「テレパス!」


 …………


「どうしたんですか? 遠い目をして」
「……たぶん、お前が思ってる以上に地球は発展してないからテレパスは無理だな」
「あれ、そうですか?」
「ああ、それが通用するのはコリン星だけだ」
「その星ってどこに――」
 俺はテープレコーダーを手に取ると、アイスを口の端につけている鹿のまん前に突き出した。
「テープの意味を教えてくれ」
「ああ、しょうがないですね。色々並列化もできて便利なんですが……言葉で伝えるとしましょう」
 鹿は食べていたアイスのカップを台所のゴミ箱に放り込むと、えへん、と大仰に胸をそらした。
「今朝私の仲間がうちに来てくれました。そこでこのテープを渡してくれたのです」
「んで?」
「なんでもこれは、あのサッカー少年、ユウジ君(前回参照)の肉声だそうです! つまり、今ユウジ君に好きな人はいない、チャンスなわけです!」
 俺はしばらく考えて、それから「ふーん」と答えた。特に感想ないし。
「あら、リアクションが薄いですね」
「いや、どっちにしろ状況かわんねえじゃん、とか」
 それを聞くと、鹿は外人さんがよくやる「やれやれ」のポーズを作って鼻で俺を笑った。
「わかってませんね。女の子にとってここはとても重要なのです。相手に好きな人がいたりなんかしたら最悪じゃないですか」
「それを乗り越えてでも振り返らせるとか……」
「甘い!」
 鹿はいきなり机をバンッとたたき、おれに詰め寄った。鼻が触れ合うくらいまで顔を近づけ、睨みつける。肩までの髪が顔にかかる。
「うわッ」
「恋愛はそんな簡単じゃないんです! いわば戦争のようなものです。もっとリアリティをもって恋愛戦争に臨んでくれないと、すぐに死ぬことになりますよ! ラムズフェルド国防長官が夢を語ってはいけないのです! スターウォーズより、宇宙戦争です!」
「どっちもまだ内容わかんねえよ!」
 俺は鹿を突き飛ばす。鹿は
「はわわ……」
とバランスを崩して椅子に倒れこんだ。アホ、そして変態め。
「とにかく出かけるんだろ」
 俺は食べ終わった朝食の食器を持って、台所に向かった。蛇口をひねり、水を出してから鹿をビシッと指差す。
「出かける準備、さっさとしとけよ」
「ふん、イーだ!」
 鹿はまた不満そうにそっぽを向くと、椅子にかけてあったジーンズを手にして押入れに飛び込んだ。
「のぞかないでくださいよ、チェリーボーイ!」
「うるせえ変態、チェリーじゃねえ!」
 こうして俺の中での朝の風景は姿を消し……



2005/06/23(Thu)00:00:48 公開 / 貴志川
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■作者からのメッセージ
う、更新しようとしたらメモリから一章節分まるまる消えてる……泣きそう
いや、すみません。半端に更新する結果に……。失礼しました。近日再更新ということで……
感想、書けるのでしたら次回更新時で結構です。短すぎますモンね【泣 失礼しました。
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