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『ペコ』 作者:ツーソン / 未分類
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 天気は快晴。青い空がどこまでも続いています。
 
 十八歳になる僕は今まで世話になった自分の部屋をせっせと片付けていました。
 今日は僕の巣立ちの日。この家を出て新しい世界へと出発していかなくてはなりません。
 今日で僕が育ったこの地域ともお別れ、家族とも友人とも思い出の学校とも離れ離れになることを思うと、何か計り知れない寂しさが襲ってきて視界がぼやけてきました。そして今僕がいるこの部屋ともお別れ、小学校の時から使っているこのボロボロ部屋とも永遠に離れ離れになってしまうと思うと少し寂しい気がします。
 ――今日までいろいろなことがありました。近所の友達と一日中缶けりをして走り回ったこと、初恋の人に勇気を出して告白したこと、部活動に燃えて汗水たらしながら練習に打ち込んだこと、夏休みやることなく片手に缶ジュースを持ちながら友達と一日くだらない話をしたこと……
「おっと、いけない」
 知らない間に思い出に浸っている自分に気がついた僕は潤んでいる目を拭い、再び片付けに集中しました。しかし拭っても拭っても視界はぼやけたまま回復しません。
 新しい世界に出るためには別れは仕方のないことと分かっていても、今だ僕は決心がつきませんでした。
 本棚にある大量の漫画本を束ね終わった僕は次に机へと手を伸ばしました。部屋の隅にあるそれは傷だらけのボロボロの机。今思うとそれは勉強机というより漫画机といったほうが正しい気がします。勉強なんてすることなかったんですから。
 一番下の引き出しを開けてみるとでるわでるわ大量の紙が姿を現しました。それらは捨てるに捨てれなかった一桁の答案用紙達。小、中、高とテストが返されるたびにこの引き出しにしまってしまうことが知らないうちに日課になっていました。塵も積もれば山となるとはよく言ったものです。それらは引き出しから今にもあふれんばかりの様子でした。
 ふっと鼻で笑った後、とりあえず僕はそれらを両手いっぱいに抱えて持ち上げました。大量の紙が長年の間住み着いた引き出しを離れ、僕の手に乗りかかりました。すると次の瞬間、意外なことにその引き出しに哀れな答案用紙以外の一枚の紙が姿を現しました。そして僕の目は引き出しの一番底にあったその紙に一瞬釘付けになりました。
 それは白い犬の写真でした。

 僕はその白い犬に見覚えがありました。体中白い毛で覆われた室内スピッツ犬。たしか名前はペコといいました。ペコは僕がまだ小さかった頃に飼っていた犬だったのでおぼろげにしか記憶に残っていません。覚えていることといったら何時もギャンギャンと吠えていた、ということぐらいでしょうか。
 ペコはとにかく吠えるうるさい犬でした。食事中、わずかな車の音や人の声がしただけでペコは黙ってえさを食ってはいません。大きな声を出してワンワンワンワンワンと音源の方に向かって吠え続けていました。朝でも昼でも夜中でもペコは音がある限りひたすら吠え続けていました。時にはまだ幼かった僕にさえ容赦なく吠えていました。そしてそのたびにペコはスリッパで頭をはたかれていました。
 でも僕はそんなペコが好きでした。他人の目から見るとただの馬鹿犬にしか見えなかったに違いありません。でも僕はそんなペコが好きでした。
 母さんと姉さんの激しい口喧嘩が始まると真っ先に止めに入ったのはいつもペコでした。ワン、ワンと二人の会話をペコの鳴き声が遮ります。喧嘩が終わるまでペコは泣き止みません。二人がしょうがなく口喧嘩を止めるとペコは何事も無かったかのように絨毯の上に寝転がっていました。
 今思うとペコは馬鹿犬では無かったように思えます。きっと言葉が喋れたのなら「やめろ」とか言っていたはずです。
 僕とペコはよく一緒に遊びました。ボールの取り合いをしたり家の中でおいかけっこをしたり、一日中二人とも飽きもせず同じことばかり繰り返していました。ペコはとても元気の良い犬で疲れというものをまったく知らず、へとへとになる僕を横にボールを追い駆け回していました。そしてそれ投げろと僕の目の前にボールを何度も何度も拾ってきては僕に投げさせました。
 だから幼かった僕には次の日に起こったことがあまりよく理解することができませんでした。
 次の日、ペコは絨毯の上でずっと眠り続けていました。「ペコ」と呼びかけても「遊ぼうよ」と呼びかけてもペコはぴくりとも動きません。ペコはただ絨毯の上にうつ伏せになって眠り続けていました。
「ペコはもう違う世界に旅立ってしまったのよ」
 母さんは涙ぐんだ顔でつまらなそうな僕の顔を見て言いました。
 
 しばらくの間、僕は引き出しから出てきたペコの一枚の写真をぼうっと眺めていました。時が経つのも忘れ、ただじっとペコの笑っているような顔を眺めていました。
 その時、突然背後からトントンとドアをノックする音が聞こえてきました。
「はいるよ」
 それは母さんの声でした。母さんはガチャリとドアを開けると僕の方を向いて話しました。
「準備できたかい」
 僕はただ頷いて「うん」とだけ言いました。
「もう下に車来てるよ」
 母さんは目に涙をためて言いました。
「戦争で戦っても死ぬんじゃないよ」
 僕はただ頷いて「うん」とだけ言い続けました。もう母さんが何を言っているかも聞き取れませんでした。
 あれから約十五年、今日になって僕は僕の初めての友達のペコを思い出しました。
 ペコは今もあの世でギャンギャンとうるさく吠え続けているのでしょうか。それとも少しは大人しくなったのでしょうか。

 ――待ってろよ、ペコ。

 天気は快晴。青い空がどこまでも続いています。
 
2005/06/05(Sun)15:32:50 公開 / ツーソン
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