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『空想逃避 完結』 作者:恋羽 / 恋愛小説
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 ボクは、空の上にいた。
 小型のプロペラ機。白い鉄の壁に覆われた空間に、外人のカップルや単独で空を楽しみにきた人々が乗り合わせていた。
 ボクの胸は高鳴った。
 徐々に高度を上げていく飛行機の上で、ボクは孤独に19年の人生を振り返っていた。……、あんまり、良くなかったかな。
 しばらくして飛行機が水平を保ち始めた。といっても、ボクにはほんの少し機体が傾いていたのが元に戻ったように感じられただけだった。
 インストラクターの黒人のおっさんが、なにやらしゃべっている。そしてその後ろのドアがいつのまにか開いていた。多分飛び出す前の最後の説明をしているんだろう。なんにしても、英語のわからないボクには関係のない話だ。
 それに、ボクの目的ってのはスカイダイビングだけどスカイダイビングじゃない。周りにいる人たちとは少し違った。
 ボクはゆっくりと、背中に背負っていたものを床におろし、立ち上がる。おっさんは気づいていない。女性客に対するセクハラまがいの説明に必死みたいだ。
 そして、ドアの前に空間が空いていた。そこから強風が吹き込んでくる。
 ボクは小刻みにゆれる飛行機の中でいきなり走り出した。ドアを目指して。
 距離は5メートルぐらいだったけど、もっと長く感じられた。万引きをして逃げるときみたいだった。
ドアのところに立ったとき、一瞬足ががすくんだけど、そんなことで怖気づいてはいられない。ボクは決めたんだから。そのためにわざわざこんな国にきて、こんな飛行機に乗ったんだから。
「じゃあね」
 おっさんが気づいて駆け寄ったけど、彼が伸ばした手はボクの服に少し触れただけだった。ボクは目を閉じて飛び降りた。

 ものすごい風圧。
 空気の塊がボクの全身にぶつかる。
 息が苦しい。
 それが空気が薄いせいなのか、風のせいなのかわからなかった。
 ジェットコースターとか、フリーフォールとか、そういうのが下に落ちるときの感覚。腹の内側がキューンってなる感じ。あれがずっと続いてる。
 ゴーグルに守られた目を見開くと、そこにはテレビで見たような果てしない風景が本当に広がっていた。口では表現できないような。





 青一色。
 ボクの目の高さはどこもみんな白っぽい青一色だった。

 遠くのほうには緑の山がある。

 上のほうには晴れた空にぽつんと白い雲が浮かんでる。

 真下は茶色がかった草原が広がっている。

 ずっと向こうのほうには灰色の線が延びている。多分あれは道路だろう。




 ああそうか、あの飛行機に乗ってた人たちは、これが見たくて来てたんだな、と今更ながらに気づいた。
 良くテレビで見かけるスカイダイビングのポーズみたいなのをやってみる。手を広げ、足を伸ばして。そうすると、自然に手足が後ろに引っ張られる。ボクの華奢な手足なんてもげちゃうんじゃないかってくらい。
 楽しいな、スカイダイビング。――もうこれっきりだけど……。
 ボクの背中には、背負われているはずのパラシュートがなかった。


「君は、近いうちに死ぬことになると思う」

 ベッドで寝ていたボクのところに、めがねの先生が一人でやってきて言った。
 ボクは驚かなかったし、聞き返しもしなかった。これがインフォームドコンセントか、なんてむしろ感心していた。

「驚かないのかい?」

 意外そうな顔で先生はボクを見た。ボクはうなずいた。
 道端で倒れて、起きたら病院で、変な隔離された部屋で、妙にキツイ薬を打たれたら、いくら頭の悪いボクでも気づくよそりゃ。
 痛くて痛くて、ほとんど毎日苦しくて、こんなのが続くんなら死んだほうがましだって何度も考えてた。

「うん……」

 医者は一呼吸置いて、話し始めた。

「私が君に伝えなきゃいけないのは、君の残された命のこと。半年になるのか一年になるのか、はっきりしたところはまだわからないけど、その時間っていうのはほとんどが病院に拘束された時間なんだ」

 普通言いにくいことをスパスパ言ってくれるから、ボクはこの人のこと、嫌いじゃない。

「君が自由に使える時間は、一日か二日か、とにかくすごく短い。だからこそ、その時間を君と君の大切な人のために使ってほしい」

 先生はこのことをボクの親に伝えるべきか聞いた。ボクは首を横に振った。
 先生が病室を去ったあと、ボクは一人で考えていた。
 大切な人の為、ボクはその言葉が気になっていた。今のボクにそんな人はいない。
 いや、浮かばなかったわけじゃないんだ。すぐに浮かんで、ボクが驚いたぐらいだった。でもそれは、2つ浮かんだけど、それはどっちも大切な人っていうのとはちょっと違った。



 1つは、ルナちゃん。大切だけど、人じゃない。ルナちゃん、猫だもんね。大切だけど、猫だもんね。



 もう1つは……、由衣。
 ボクにとっては、今もずっと一番大切な人。誰よりも、何よりも大切な人。



 でも、ボクが最期の時を由衣と過ごすってのは絶対に絶対に、ありえない。
 それは何もかも全部、ボクが悪い。由衣はボクなんかと一緒にいちゃいけない女の子だったんだ。
 医者の先生の話があって、由衣のことを思い出してから、ボクは由衣のことが頭から離れなくなっていた。そしてつくづく落ち込んだ。どうしようもないくらいに落ち込んだ。


 それからのことは、うっすらとしか覚えていない。かつてのバンドを組んでいた時のメンバーで今は海外で活動している貴に頼んで、スカイダイビングのこととかパスポートの事とかを手配してもらったのは覚えてるけど、どうやって病院を抜け出してどうやってこの国に来て、それからどうやってこの飛行機に乗りこんだのかはほとんど覚えてない。それはきっと、これから死のうとしている僕の思考回路がずいぶん壊れているからなのだと思う。

 空の上。ボクは下に向かって落ちてる。
 そのことだけで、もう十分じゃないか?
 ボクはもう十分生きたし、十分環境を破壊して、十分人の気持ちを傷つけた。ルナちゃんのトイレの片づけだって忘れたし、近所の叔父さんの家の窓も割った。
 もう満足するべきじゃないか?
 そんなことを考えていて、ふと思った。

――地面に着くまでってこんなに長いんだっけ?

 もう10分も20分経っている気がするし、落ちるスピードだって上がってる気がする。それなのに地面がぜんぜん近づいてこない。
 等加速度運動?だったっけ?確かそんな感じだったよな、落下って。
 ……、ああでも、よくテストとかで「空気抵抗はないものとする」って書いてあったな。それにしたって空気抵抗なんて大したことないだろ? まさかそのせいで、五分が一時間になるってことはないだろ。
 ボクは今の高さから後どのくらいで地面に着くのか考えていたが、やめた。わかるわけがないし、タイムリミットを自分で作るみたいなのってなんか嫌いだ。
 きっと死を目前にしてボクの脳味噌がフル回転してるんだろう。それがボクの残り時間を延ばしているんだ。
 生の本能ってのは厄介なもんだ、と心から思った。
 じゃああれも見えるのかな? 走馬灯とかいう奴。もしくは川の向こうでおばあちゃんが手を振るのかな?見たこともない、ボクが生まれる前に死んだおばあちゃんの顔見ても、絶対なんとも思わないと思う。
 下らないことを考えて一人で笑っていると、すぐに空しくなった。
 さっきから、飛び出したときの興奮が冷めてしまって病気の鈍痛がまた僕の全身を襲っていた。
 そうだ。ボクが自分で死のうと思ったのは、病気に食われるのがいやだったから。
 死に場所に空をを選んだのは、首吊りとかガスとか、そんなんじゃあまりにも空しかったから。羽根を切られた鳥のまま死にたくなかった。
 でも、ボクは結局空の上でも空しさを感じ、病魔に苦しめられ、落ちるだけだ。重力に抗う羽根など元から持ち合わせていなかった。

「由衣」

 ボクは声に出した。しかしボク自身にぶつかる空気の塊のせいで、ボクにすらその声は届かなかった。

「由衣」

 でも、そう呼ぶと安心した。そこに由衣がいてくれるような気がした。痛みが消えていくような気がした。
 ボクはすがりたかった。他の誰よりも、かつて僕を愛してくれていた由衣に。
 そしてボクは手を伸ばす。

――そうすればボクの手が由衣に届く、そんな気がして。


    




 落ちていく。
 落ちていく。
 そして、病気がボクを殺そうとする。
 そんな恐怖がボクの頭をおかしくしてしまったのかもしれない。それとも、狂わしい孤独がボクの精神をむしばみ、壊してしまったのかもしれない。
 だってそうでも言わないと説明できないよ。
 外国の空の上で痛みにもがいていたはずのボクが、落ちていないなんて。地面に足をつけて立っているなんて。痛くないなんて。―――ここにいるなんて。
 それに、この見覚えのある風景は……。あの頃のままだ。
 イチョウの並木道。
 小さな公園みたいなスペースに、その三百メートルほどの道はあった。
 この道の木の名前がわからなくて、小学校の先生に聞いたのを覚えてる。このさびれた町の中で、唯一ボクが好きな場所だった。中学校の時には通学路を外れて、毎日ここを通った。秋はちょっと臭かったけど。
 風は、雪が溶けた後に残された砂埃を舞い上げて吹き抜けていく。竜巻の子供みたいな奴を連れて。
 太陽はひかえめに照り付けていて、空は真っ青だ。ボクが飛び出した空とどっちがきれいだろう。どっちにしろボクはこの空が好きだ。
 体が熱いのでそちらに目をやると、少し驚いた。心のどこかでは、ひそかに期待もしていたけど。
 ボクは真っ黒の、少しテカリのある田舎っぽい学ランを着ていた。下にはダブダブの学生ズボンとかって奴。確か太った先輩におさがりでもらった奴だ。学ランのボタンは全部潰れている。うすっぺらい鞄持って。
 まあ要するに、ほんの数年前の物とは思えないほど古臭い不良のカッコしてる訳だ。その上中身はものすごく弱っちくて。

 ボクは、歩いてる。


―――ボク自身の意思で。


 ボクってのはこの頃のボクじゃなく、空の上で痛がっているはずのボク。中三のボクの体を、十九歳のボクの意思が動かしてるんだ。
 ボクは耳たぶが熱くなっていくのを感じた。興奮してる。漠然とした何かが、ボクの全身にいつもより多い血をめぐらせる。
 立ち止まる。ボクは自分の体を触ってみる。腕や顔を。嘘じゃないかって。夢とか幻覚じゃないかって。
馬鹿みたいに何度も何度も。
 でも、嘘じゃなかった。多分夢みたいなのとも違うと思う。中三ぐらいの頃の、今のボクよりちょっと細い感じの、きちんと血が通った腕や顔が、確かにそこにあった。こんなにリアルな夢なんて見たことは無い。

 
―――後ろからの足音。


 そうだ、ボクがこんなに喜んでいるのは。自然と興奮しているのは。
 全部君に会える喜びのせい。
 心臓が高鳴った。心地いいバイブレーション。
 そしてボクはゆっくりと振り向いた。ホラー映画の主人公みたいに。だけど表情は満面の笑みで。




 由衣と、目が合った。
 それだけで、幸せだった。
 ボクはその一瞬だけで何度も恋をした。




「どうしたの? 和輝」

 彼女は、白と紺色の、やっぱり少し田舎っぽいセーラー服を着ていた。
 短くてツヤツヤしてて、太陽の光で自然に茶色く見える髪。きっと匂いをかぐといい匂いがする。
 ちっちゃい男の子みたいな、猫みたいな、小さいけれどキラキラ輝いた目。
 そして唇。うすくてちっちゃくて、自然な桃色をしている。
 うーん、はっきりいって、由衣は色っぽさとかそういうものとは無縁だ。おっぱいだってちっちゃいし、身長も一五〇そこそこだと思う。一八〇近いボクと並ぶと、兄妹みたい。同い年なのに。
 だけど全体を見ればわかる。由衣は光ってる。一つ一つの部分が絶妙なバランスで成り立ってて、ボクが今までの人生で見たどの女性よりも魅力的で、かわいくて、すごい女の子だった。妹みたいな、ある時は姉みたいな、そんな由衣が大好きだった。性格も、顔も、ちっちゃいおっぱいも、全部合わせて何よりも大切だ。


―――いや、大切だった。大切にしていたんだ。


「ねえ、なんか今日の和輝変だよ?」
 突然、由衣がそういった。ちょっと考え事が長すぎた。由衣が心配そうな顔をする。
「い、いや、そんなことないよ」
 ボクは声も普通に出ることに、少し感動した。
「そうかな」
 由衣にはわかるのかもしれない。ボクがついさっきまで一緒に歩いていたボクじゃないことが。
 ボクはなんとなく気まずいような、ごまかさなきゃいけないような、そんな風に思った。なんの根拠も理由もなく。
「それはきっと、さ」
 由衣がこっちを見ている。なんとなく顔が熱くなっていく。
「……春だからだよ」
 由衣の顔がキョトンとした。それと同時にボクの顔もキョトンとした。
 何を言ってるんだボクは。思いついたことをなんでも言えばいいってもんじゃないぞ?
 ボクは少し心配になった。はっきり言って、由衣はボクなんかよりもずっと頭が良かった。テストなんかじゃ、学年でも三番までには絶対に入ってる。一度、図書館で勉強を教えてもらったこともある。その姿を見た友達に「妹に勉強を教えられてる情けない兄の図」みたいだったと言われ、一回で打ち切られたが。
 由衣の頭の中で、難解で複雑な計算がものすごい速さでなされ、今のボクの意味不明な言動からいきなり「和輝今空の上でしょ」なんて感じで解答を突きつけられたらどうしよう……。もしくは「あんたみたいな変な人とは付き合えません」とか。
 ボクは冷や汗をかきながら、由衣の表情をうかがった。




 ぷっ。




 唐突に、由衣の口からそんな感じの音が漏れた。
 ん? とボクは首をかしげる。
 続いて、ははは……、という笑い声。由衣が、なんか知らないが笑ってる。
 ボクは心の中で頭を抱えた。なんだこの反応は。変なきのこでも食べたのか。オオワライタケとか。
 もしかして……、ボクの先ほどの発言を冗談だと思ったのだろうか。それでこの爆笑なのだろうか。
 だとしたら、なんて笑いのレベルの低い……。お笑い芸人か何かなら、感動して泣くんじゃないか?「こんな良い子がいるなんて」と。
「和輝って面白いね」
 笑顔のままそう言う由衣が、ボクには輝いて見えた。ボクに対して、そしてきっと世の中のほとんどの人に対して一切の疑念を持たない、天使のような無垢な笑顔。どんなに金を積んでも買うことはできない。
 ボクはいろんな感情が混ざり合った感じで、照れ笑いを浮かべた。





 それからボクたちは、いろんなことをしゃべった。
 修学旅行のこと、勉強のこと、英語の授業にやってくる謎のオーストラリア人のこと。
 下らないけど、中学生なりの、等身大の話題……。
「それでね……」
「あとね、あの人……」
 ボクは笑っていた。必死だった。作り笑いだと由衣に気づかれないように。
 ボクはもしかしたら、心で泣いていたかもしれない。
 由衣が話す話題。その一つ一つは、由衣にとっては楽しい過去や、みずみずしい現在、そして輝かしい未来。だけどボクにとっては遠い昔の、埃をかぶった思い出でしかなかった。
 急にその現実がボクと由衣の間に、透明で見えないけれどすごく大きな隔たりを浮かび上がらせたみたいだった。あまりにも大きくて、残酷な壁。
 いや、それはボクが見ないようにしていたから見えないだけで、もしかしたら本当にそこにあるのかもしれない。ボクがこの並木道にやってきた時からずっと、ボクと由衣の間に横たわっていたのかもしれない。
 由衣の顔を見た。確かに由衣はそこにいる。
 でもそれはもしかして、ボクの眼球に焼き付けられたただの記憶なのかもしれない。
「由衣」
 並木道が途切れる場所。ボクと由衣が別の道へとわかれる場所へと、いつのまにかボクたちはたどり着いていた。そこでボクは由衣の言葉をさえぎった。
 先ほど実感した、確信したはずの「これは夢ではない」という事柄が、薄く軽く、いつでもひっくり返る物のように感じられた。実際、ボクは恐れていた。あの空に戻されることを。




 小学生が数人、ボクの後ろを駆け抜けていった。
 強い風が、土に戻れなかった古い落ち葉を巻き上げていった。



 
「どうかした?」
 由衣がボクのほうを向いた。ボクも由衣のほうを見た。
 ボクたちは、長いようで短い並木道の終わりで、向かい合っていた。
「由衣、オレ達さ」
 ボクは言葉を切った。由衣は小犬がやるみたいに首をかしげた。
「付き合ってるんだよね?」
 本当はこんなことを聞きたかったわけじゃない。本当なら、ボクが今どうやってどこにいるのかを由衣に伝えたかった。
 だけどできなかった。そうすることで、ボク自身ですら失いかけている、いまボクが立っているこの並木道が現実だという自信が、完全に崩れてしまうような気がしたから。
 長い、ものすごく長い沈黙。一瞬がこんなにも長く感じられたことは今まで無かった。
 あれ?と思った。おかしい。この時期ボクたちは付き合ってたはずだ。確かにチャンスが無くてキスも何もしてなかったけど、でも付き合ってはいたはずだ。
 もしかしたらボクは、勘違いをしていたのかもしれない。ボクは内心慌てた。すごい慌てた。




 彼女は笑った。




 少し恥じらいみたいなのを含んだ、かわいくて人懐っこくて、そして綺麗な笑顔。
「当たり前だよ。……和輝のこと、好きだよ」
 ボクの顔がだらしなく崩れていくのを感じた。もしボクが小型犬だったら失禁してたと思う。それくらい嬉しくてたまんなくて。さっきまでのいやな感じなんてどこにも無くて。ただ純粋に幸せだと思った。
 すぐそこに由衣がいる。ボクはそれだけで満足だった。他に何もいらなかった。考える必要なんて無かった。
 ボクは由衣の顔に手を伸ばした。そのかわいい横顔に触れようとして。







 ボクの手は、何もつかめなかった。
 由衣の柔らかい頬に触れることは、無かった。
 どこをどう通って、どのくらいの時間をかけて、ボクがこの空にいるのかなんて、多分誰にもわからないだろう。ボクにもわからない。
 足先から頭まで、全身が鈍い痛みに襲われた。こんな痛みはあるはずがないから、きっと神経かもしくは脳か、そういう大事な部分が壊れ始めたんだろう。限りなく死に近い痛み。そうボクには感じられた。
 もしかしたらボクは、地面に着く前に病気によって死ぬのかもしれない。
 どちらにしても、ボクは病院を抜け出した時に望んだ死というものに向かっている。
 目に映るのは、さっきよりも近づいた地面。色あせた緑の草原。
―――あれは、なんだったんだろ。
 あの並木道での、由衣とのやりとり。夢だったのか?
 そんなはずない。ボクは確かに今、由衣の声を聞いたんだから。もう少しで由衣に触れられるところだったんだから。
 嬉しかった。由衣と会えて、ボクは体が震えるほど嬉しかった。
 もう一度由衣に会いたい。もう一度だけで、いやできたら何度かがいいけど、とにかく由衣に会いたい。
 もちろん今会えたのは嬉しかった。
 でも本当に会いたいのは、会わなくちゃならないのは、もっと別の時間の由衣。
 神様?神様がボクをあのボクをあの場所へ連れていってくれたんですか?
 それならお願い。ボクをもう一度あの町のあの場所へ連れていって。
 ボクは……、由衣の涙を止めなきゃならない。
 お願いだよ、信じてるよ?
 そしてボクは強い確信を持って目を閉じる。―――きっと会える。


 もう一度、君に会える。








      
 落ちる感覚――体の露出した部分が異常に冷たかったり、身に着けた服が暴れる感じ――が、いつからって訳でもないけど、突然終わった。ボクは目を閉じた暗闇の中でそれを感じていた。
 ボクはフツフツと沸いてくる興奮と感動を、目を閉じたまま味わっていた。
 ボクはまた、空の上からここへ戻ってきた。願い事を誰かが叶えてくれたんだ。鳥肌の立つような快感がボクの体をふるわせた。
 その快感が静かに消えていくと、ボクは雑踏の中にいることに気づいた。そして目を開ける。
 夜だ。そして夜だというのに、いつもは人気のない並木道には沢山の人がいた。そしてボクはその真ん中にいた。
 道の両脇には並木の間を埋めるようにして、露店が立ち並んでいた。そして、並木道の終わりの所にある小さな広場には、二、三百の不揃いなイスが並び、その向こう側にはちょっとしたステージが設けられ、その上では地元のバンドが何やら演奏している。
 要するに、祭りだ。それ以上でもそれ以下でもない。
 少しがっかりした。ボクが来なきゃならないのは、もっと後の並木道なのだから。 
 でも、そんな落胆を打ち消すだけの、こんな祭りなんかよりももっともっと意義のある存在が、今ボクの目の前にあった。
 由衣。その存在はボクにとってリオのカーニバルよりも魅力的だった。
 祭りに来ているので、由衣は制服姿ではなかった。先程見た春のイメージも鮮烈だったけど、それだけに私服姿もまた新鮮だった。
 淡い水色のノースリーブ。デニム地の7分丈のパンツ。制服の少しダフッとした感じとは違って、由衣の細い体つきがはっきりわかる。これだけ見るとホントに小学生みたいだけど、アクセサリーとかうっすらとした化粧の気配とかで、十分歳相応の女の子だ。由衣を見ていると、ボクは妙に照れてしまう。
 でもよく考えたら、この同い年の時ですらロリコンだの犯罪だの兄妹みたいだのいわれてたのに、頭の中身が十九歳のボクがこの由衣にときめくってのはどうなんだろう。異常なんだろうか? 少し複雑な気分だった。
「和輝ぃ、……派手だね」
 長い考え事をしていると、由衣がボクを見て言った。どうもにやにやしている。
 由衣の視線がボクの体に突き刺さっていたので、ボクも自分の体に目を落とす。
 うっ、とボクの口から声が漏れた。
 ボクの服装は、なかなかすごかった。
 まず服装の前に、妙に頭がスース―すると思って触ってみたら、ボウズだった。まあボウズは嫌いじゃない。問題は服と合っているかということだ。
 上半身。とりあえず、青いシャツ。薄手でそれほど暑いはずがないのに、胸は思いっきりはだけている。それにその青さときたら、ガガ―リンもびっくりの真っ青。
 そして首元にはシルバーじゃない、動くとおもちゃみたいな音がする安っぽいロザリオのネックレス。はだけた白い貧相な胸が、更に貧相に見えてくる。
 その上半身に合わせたパンツもすごい。
 黄色。見た人の目を不必要に刺激する、強烈な黄色。いわゆるカラパンとかいわれてた奴だ。これほど原色に近いイエローは、もう犯罪じゃないだろうか。
 青と黄色。その二色がものすごいコントラストを作り上げている。
 パッと見、絶対中学生のファッションじゃない。ごっつ過ぎる。
 ボクは恥ずかしくてすぐにでも全裸になりたかった。
「すごいセンスしてるね」
 しかし由衣はどうやら本心からほめてくれているらしい。その反応を見て、もう一度自分を見てみる。
 ……、確かに、奇抜なように見えるけど、青と黄色というのは意外に相性がいいのかもしれない。今のボクの服の好みには合わないが、こういうコーディネートがあってもいい。ロザリオもそこそこ合ってる。
「ステージに立つんだもん、そのぐらい個性が無いとね」
「ステージ?」
 ボクが聞き返したので、由衣は笑って広場のほうを指差す。人の頭の遥か向こうに見えるステージでは、先程のバンドの演奏が続いていた。
 ああそうか、とボクはこの祭りの日の事を思い出していた。
 ボクはあのちっちゃなステージに、当時組んでいたバンドのベース兼メインボーカルとして上がったんだ。ベースボーカル初挑戦、そして初失敗のステージに。
 ベースという楽器はドラムと同じぐらいにリズム感が求められる楽器で、リズム隊としての役割のほかにもそれ自体は軽くて強さとか重さとかの無いギター音の中で、大切な音を強調するという役割もある。たまにソロも存在したりする。大抵は地味で目立たない楽器に見えるが、ベースが無ければ全体がふわふわして、芯の無い音楽になってしまうのだ。しかもこの時やってた音楽ってメロディアスパンクがメインだったから、ベースの音が目立つんだ。
 そしてボーカルは言わずと知れた、バンドの花形的存在。どんなに他のパートのレベルが高くても、結局ボーカルのレベルが低かったりすると、バンドは機能しない。
 ベースとボーカルの両立というのは慣れないとなかなか難しい。必要なのは慣れだけなのだが、慣れないとどちらも中途半端になる。
 そして練習嫌いだったボクは、その大切な慣れも十分じゃなかった。失敗の原因ほそれだけだ。だから演奏したどの曲も、リズムがグチャグチャになった。
 難しい顔をしたボクの顔を、由衣は下から見上げた。
「どうしたの? 不安?」
「うん、……ちょっとね。」
「大丈夫だよ、和輝ならできるよ」
 由衣は軽くそう言った。そして周りを見まわすと、
「ねえ、何か食べようよ」
と言った。
 ホント、周りの人から見ると情けない兄とお兄ちゃん想いの妹に見えるんだろうな。
 でも、夏ってことはボクのほうが、由衣より一歳下なんだよな。由衣は4月生まれで、ボクは11月生まれだから。それに由衣って長女なんだよ。ボク末っ子だし。
「あんまり考えると、本当に失敗するよ?」
 やきそばを食べながら由衣が言った。こういう言葉にも、どっちが立場的に上かが表れてる。
 でも、ホントに失敗したんだよな、と思い起こす。メンバーの家で反省会をやってる間中、由衣は待っててくれて。メンバーにもさんざん優しい言葉をかけてもらってんのにまだヘコんでて。中三にもなってメソメソ泣いてるボクを、由衣は抱きしめてくれた。それだけが良い思い出。
 そしてボクは考えた。もしボクがこのステージで成功したら、その先にはどんなことが待ってるんだろう。由衣はどんな顔を見せてくれるんだろう。
 由衣は不気味なピンクのチョコバナナをほおばっている。リスみたいにほっぺたふくらませて。
 由衣の喜ぶ顔が見たい。純粋にボクはそう思った。
 幸い今のボクの技術なら、あのステージでやった曲をベースボーカルでやるぐらい簡単だ。経験を積んだのもあるし、この日の苦い経験から練習にも十分打ち込んだ。ベースって弦がぶっといから、ボクの指は常にボロボロだった。
 よし、やってやろう。ボクは心に決めた。
「和輝ぃ」
 後ろから由衣の声がした。いつのまにかボクは由衣を追い越していた。
「なに?」
 振り向くと由衣は手にたこ焼きを持っていた。よく食べるなぁ、と思う。と同時に、いったいどこにそんなものが入るのかと、由衣の体の不思議を感じていた。
 由衣はつまようじにたこ焼きをひとつ刺すと、ボクの方に差し出した。ソースの良いにおいが食欲をそそる。絶対ハズレは無い、これはうまい。
「はい、あーん」
 かなり古いドラマに出てくるアホのカップルみたいだ。ボクはこういうのを妙に恥ずかしく感じる。
「恥ずかしいよ」
 ちょっと迷惑そうにする。もちろん嬉しいわけだけど、周りの視線を過剰に感じていた。
 しかし由衣は引き下がらない。
「恥ずかしくないよ。ほーら、食べないとタコに呪われちゃうぞぉ」
 小さい子供を相手する母親のように由衣は言った。
「い、いや、それにオレ猫舌だしさっ」
 しかし由衣は聞いていない。
「ほーら、食べないと小麦粉とたまごと青のりと、マヨネーズとかにも呪われるぞぉ」
 なんだそりゃ、と内心でツッコミを入れつつ、ボクは顔が熱くなるのを感じた。由衣は恥ずかしくないのか?
 しばらくボクが何も言わないでいると、由衣は急にボクに背を向けた。
「……由衣?」
 ボクはハッとして声をかける。
 しかし由衣は振り向かずトボトボと歩き出す。
 何か怒らせるようなことをしただろうか? ボクはものすごい速さで自分の行動を自己確認した。……わからない。由衣らしくない。
「由衣、怒ったの?」
 ボクは由衣を早足で追いかけ、肩に手をかけた。少し大きな声を出したので周りの人が見る。でも、そんなことを気にしてる場合じゃない。
 由衣は立ち止まった。でも振り向かなかった。少しうつむいて、わずかに肩を震わせていた。
「由衣……」
 由衣が泣いている。泣かせてしまったんだ。まずいことをした。
「……和輝は、あたしのことを嫌いになったんだ」
 沈んだ、そして少し鼻の詰まったような声で、由衣は小さく言った。
「由衣、そんなこと絶対無いよ」
 ボクは、由衣にはっきり聞こえるように、腹筋に力を入れ言った。
「……本当に?」
「オレ、ぜんぜんかっこいいこと言えないけどさ、由衣のこと絶対一番好きだよ」
 本当にカッコ悪いセリフ。もしボクの顔が必死じゃなかったら、絶対周りの連中に笑われていた。顔を知ってる奴が何人かいるから。でもボクは本気だった。
 突然、由衣が振り返った。――手につまようじで刺したたこ焼き持って。
「はいじゃあ、あーん」
 ボクはだまされた、と思った。由衣、君はそんな悪女だったっけ? と心で皮肉った。だって由衣の目には涙が少しも無かったから。
 仕方なくボクは大きく口をあける。
 口に入れられたたこ焼きは、なんだかんだやってる内に猫舌のボクには頃合いに冷めていた。けど、中はものすごく熱かった。
「おいしい?」
 ボクはハフハフ言いながら首を縦に振った。
「良かった……」
 由衣は安心した顔をした。
 わかってるよ、由衣。
 由衣はボクが緊張してると思って、わざわざこんな茶番を演じてくれたんだ。昔のボクならどうかわからないけど、今ならわかる。ボクが今どんな状況でどんなことを考えているかはわからなくても、ボクの不安とか悩みとかを紛らせることをできるのは由衣だけだ。由衣だけがウジウジ悩んでばっかりで、一歩も前に踏み出せないボクを、悩みから解き放ってくれる。だからボクは由衣の前では、ありのままのボクっていう形のボクでいられるんだ。
「由衣」
「ん?」
 好きだよ、と言いかけてやめた。ちょっと恥ずかしい。
「ちょっと休もっか」
 そう言ってボクは、店と店の間の方を目で示した。その向こうには芝生があって、ベンチとかもある。
「いいよ」
 由衣は笑って、最後のたこ焼きを口に運んだ。






 2つあるベンチにはどちらにもカップルの先客がいた。
 ボクたちは並んで芝生に座った。夜の芝生はひんやりしている。
「和輝、ステージいいの?」
 座ってすぐ、由衣は心配そうに言った。
 確かに、今ステージの上で一際ひどい演奏をしているのは、順番的にボクらの1つ前のバンドだった。
「まだ大丈夫だよ。どうせあいつら、客に金を渡してアンコール要求してるはずだから。」
 由衣が笑った。でもすぐまた心配そうにする。
「でも、音合わせとかあるんじゃないの? あと、円陣組んで『オー!』みたいな」
 ボクは少し考えて、首を振った。
「必要無いと思う。音は合わせてあるし、オレら息合ってるし」
「そっかぁ、すごいなぁ」
 由衣は本当に感心している。ボクにはそれが嬉しかった。
 それからしばらく、二人は何も言わなかった。珍しくどちらも言葉を継がなかった。
 耳には祭りのざわめきと、アンプが発する雑音だけが聞こえていた。
 別に気まずくは無かった。ただボクは、不思議な満足感みたいな物にひたっていた。多分由衣もそうだったと思う。
 ボクは少し、由衣のほうに目を向けた。




――由衣は、夜空を見上げていた。
 由衣の瞳にテレビとか映画みたいに星空が映っているかなんてわからなかった。
 だけどボクは今までで一番綺麗な由衣の横顔を見ている気がした。
 本当に彼女は由衣なのか……?




 星とか、
 雪とか、
 そういう美しい物を見るみたいに由衣を見ていた。




「……由衣?」
 ボクは自分でも声になったかわからないような声で、そう呼んだ。呼ばないと、由衣がボクの手の届かないところに行っちゃうような気がして。かぐや姫みたいに。
 由衣は、一度目だけをこちらに向け、それからゆっくりと顔を向けた。スローモーションみたいに。そして目で「何?」と聞いた。
「由衣は、オレみたいな奴のどこが好きなのかな?」
 ボクは何年か振りに日本語を使うみたいに、ゆっくり言った。




 ――由衣は、笑った。
 いつもみたいなかわいい笑顔じゃない。大人の女性の、綺麗な微笑だった。きっと月の精霊とかってこういう感じだろうな。
 ボクは、何もできなかったし、何も言えなくなった。そしてその微笑の意味もわからなかった。
 その時、いきなり露店の方から、でっかい熊みたいな男が現れた。
 その瞬間、急に現実に引き戻された気がした。ほとんど聞こえていなかった祭りの音がやたらに大きく聞こえ出した。
「和輝、こんなとこで……」
 男はボクが一人じゃないことに気づくと、由衣の顔とボクの顔を交互に見て、
「邪魔、だったか?」
と聞いた。
「これからブッチュウって熱いキスシーンが始まるところだったのにぃ」
 由衣は恥ずかしげも無くそう言った。そうだったのか?とボクは首をかしげた。
「悪かったな、ゆいぼぅ」
 このゴッツイのは貴だ。身長はボクより小さいのに、横にデカイ。ウチのバンドのリーダーで、リードギター担当。小学校の低学年から始めたというこいつのギターの腕は、この町で音楽をやる全ての人間に認められている。まあ、あとあとのこいつを知ってる俺としては、この時点のガキなこいつを見ても驚かないだろうが。
「もうスタンバっとかなきゃヤバイぞ」
「ごめん貴。今行くわ」
 それだけ聞くと、貴はすぐさま来た道を引き返していく。
 貴とは中一の時に知り合った。ボクが音楽を始めたのも貴の影響だ。
 で、中一の時初めて由衣と知り合って、ボクが由衣のことを好きになったって伝えたら、由衣と幼馴染の貴は色々と協力してくれた。ボクが由衣と付き合えたのは半分は貴のおかげだ。
 ボクは立ちあがると、尻をパンパン叩いた。
「じゃ、行ってくるね」
「うん、一番前で見てるね」
 由衣はそう言ったけど、ボクは少し考えてから、
「いや、真ん中ぐらいがいいな。歌いながら下向いてたらなんか変だから」
と言った。





 ステージの脇まで走っていくと、圭太と翔が何かしゃべっていた。
「こいつらの後ってやなんだよな。客少ねぇし」
「あれ? 翔ってあの下手くそギターに憧れてギター始めたんだよな?」
「うっせぇよ。お前だってあのド下手ドラムに憧れてただろ?」
 二人は笑った。いいなぁ、若いって。
 先に来て待っていた貴が、こっちに気付く。
「色男のお出ましだ」
 貴がそう言うと、二人がこっちを見る。といってもステージ脇は暗くてよくわからない。
 翔が寄ってくる。
「なにやってた? おい。女か、こら」
 翔は由衣と同じぐらい小さい手で、ボクの腹を軽く殴る。こいつがギターを持つとものすごくギターがでかく見える。サイドギター担当だ。
「余裕だな、和輝。お前ベースボーカルって初だろ?」
 こっちは三ヶ月前までドラムで言うところの『オカズ』っていうのを、男の夜の大事な『オカズ』のことだと思っていた圭太だ。ドラムを器用に叩く。
「大丈夫だよ」
 ボクは余裕たっぷりの顔を見せた。こいつらとは実際年季が違う。貴以外の二人はハナタレボウズに見えた。
 二人はボクの余裕の意味がいまいちわからないらしく、とにかく笑っていた。そりゃそうだ。この時ボクはビクビクしていたはずだから。
 前のバンドの演奏が終わり、彼らはステージの向こう側にはける。そして、照明が落ちる。
「まあ見てろよ」
 ボクはそう言うと、置いていた深い青色のやけに重いベースを持ち、ステージへの階段を上った。心臓が心地いいリズムを奏でていた。

 ステージ上でのちょっとした準備が終わると、スポットライトがボクらを照らす。
 ボクは客席にいるはずの由衣を見つけようとしたが、目が慣れなくて見えなかった。
 とりあえず声を出す。
「こんばんわー、ドッグフーズでーす」
 なんか、漫才師みたいだ。ちなみにこのバンド名は翔が独断で決めたものだ。まあ、パンクをやるには丁度いいかもしれない。
「じゃ、聞いてください」
 ボクが一曲目の曲名をボソッと言うと、圭太がスティックで4回高い音を鳴らす。
 それに続いて、3人の手からそれぞれの音が発せられる。貴は単音で、まわるような踊るような音。翔は様々な音が混ざった協和音。そしてボクは、その二つの音に芯を通すような太い音。それらは不思議に交じり合い、音楽というものになっていた。
 一曲目は、あるインディーズバンドのマイナーな曲に貴がアレンジを加えた、アップテンポの曲。ポップロックみたいな軽やかな音が妙に新鮮で、メンバーの一番のお気に入りだ。歌詞もボクらの気持ちを代弁してくれているみたいな、若くて生き生きとした詞だ。
 いわゆるAメロ、Bメロ、サビをやり終えて、貴がギターソロに入る。
 完璧だった。ハーモニクス、あのギュイーンってやつも、指の運びも、この頃の貴とは思えないくらい完璧だった。
 ボク自身の調子もまあまあだった。のども割と高音まで無理なく出るし、指も中学生の指にしては動いていた。
 他の二人も負けずについてくる。バンドのいい所っていうのは、下手な奴でも上手い奴とやると結構様になるってとこだ。
 客の反応は……、良かった。さっきより人が増えてる感じだし。
 由衣は……、と探している時に曲が終わった。
 久々に歓声を聞いたような気がする。拍手も。何年か振りみたいだった。
 ボクはゆっくりそれを味わうと、次の曲の合図を圭太に送った。




 ボクらは一つのバンドに与えられた30分という時間を順調に消化していった。貴のギターの弦が切れた以外は全部が順調でほとんどミスも無く、最後の曲までたどり着いた。
 ボクはマイクに向かってしゃべる。目は由衣を探していたが、最初の頃よりも更に増えた客の頭のせいで見つけられなかった。立ち見の客も出ているぐらいだから、仕方ないといえば仕方ない。
「……最後の曲になります」
 そう言うと、どのバンドでも出る「えー!」という声が、波のように押し寄せた。
「この曲はボクが生まれて初めて書いた詞に、貴がいつのまにか曲をつけたもんです。だから詞がガキっぽいけど、心込めて歌うんで聞いてください」
 客が静まるのを待って、ボクは弾き始めようとする。この曲はベースのソロから始まるスローテンポの曲で、ベースの音が忙しく動き回る曲だ。ボクの一番好きな曲だ。
 が、ボクは弾けなかった。
 指が動かない。先程までなめらかに動いていた指が、4弦の2フレットを押さえたまま止まっていた。
 スタートの音。それを押さえて、ボクは固まっていた。次の音が、そして流れが思い出せない。一番練習した曲のはずなのに。
 貴と翔が両脇からボクを見る。ステージの真ん中で冷や汗を流すボクを。きっと背後からは圭太も見ているだろう。
 客も何があったのかと、ボクの方を見ている。
 それでもボクは思い出せなかった。




 不意にボクの目に、由衣の姿が映った。由衣は約束どおり客席の真ん中にいた。
 由衣、ボクはどうしたらいいんだろ。わからなかった。自信満々でステージに上がったはずなのに、今ボクは自分の指先ひとつ満足に動かせない。
 あの時の演奏のように、泣いてしまいそうだった。




――由衣は、笑っていた。



 
 さっき見た、精霊みたいな神秘的な笑顔で。 




 聖母のような、包み込む笑顔で。




   永遠なんていらないと思ってた

 ボクののどが、口が、自然に声を発した。小鳥みたいな弱々しい声で。

   恋愛の本当の意味なんて知らなかった

 由衣は小さくうなずいてくれた。

   誰かの全てなんて愛せなかった

 ボクもうなずいた。理由なんてわからない。とにかく、それで十分だった。

   でも今は ただ君の為だけに生きたい




 ボクの左手の4本の指は、それぞれに魂がこもったみたいに動き出した。右手が握り締めたピックで、弦をはじく。リズムも音も、合っているかすらわからなかった。そしてボクはただ夢中に声を出した。




   時間がボクと君を追いかけてくる
   二人の時間は少しずつ奪われていく

   どんな喜びも 君の笑顔と一緒がいいな
   この雨が降り止む頃に やっと幸せがやってくる

   永遠なんていらないと思ってた
   恋愛の本当の意味なんて知らなかった
   誰かの全てなんて愛せなかった
   でも今は 心から君を愛してる




 貴が何百キロも先でギターソロを弾いてる。すごいな、プロ級だな。
 ボクは今一体どこにいるのかわからない。でもとにかくものすごく体が軽くて、まるで空に昇っていくみたいだった。



 
   泣く時もある 羊を数える夜もあるよ
   それでもボクは 二人で流れ星を見つけたい

   永遠が心から欲しい
   恋や愛がこんなにキレイなものなんて
   君の全部が抱きしめたい
   だからずっと 君とずっと  生きたい




 翔が最後のコードをもったいぶって弾くと、遠くの方から地響きみたいな感じで音が押し寄せた。拍手とか悲鳴みたいなのとか、でもどれも悪い感情なんて少しも含まれてない、いい音だった。一斉に立ちあがった人にまみれて、由衣の姿は見つけられなかった。




 メンバーが打ち上げに誘うのを振りきり、ボクは一人で由衣を探した。
 メンバーに聞くと、結局最後の曲も完璧にやれていたらしい。
「いきなり歌い出されてまいったけどな」
 貴が笑いながら言っていた。確かに、とボクはうなずいた。一番まいったのはボクだ。
 でもまあ、ボクはなんとかミスもなくやり遂げたわけだ。
 しかしそんなことよりも、由衣に会いたかった。
 客席は探したけどいなかった。どこへいったんだろ?
 ボクは駆け出した。きっと由衣は並木道のどこかにいる、そんな気がした。なんの根拠も無いけど、世の中のカップルのほとんどが根拠や理由なんて無しに動いてるんだ。誰にも文句なんて言わせない。
 息が切れた。のどがカラカラだった。それでも走る速度は緩めなかった。
 並木道の三百メートル程を、人込みだというのに全速力で走った。
 そして、並木道の学校に向かう方の外れでボクは立ち止まった。
 由衣はバス停の安っぽい青いベンチに腰掛けていた。
 彼女はそこで、空を見ている。
「由衣」
 そう声を出したつもりだったのに、声が出ない。
「由衣」
 何度か大きく息をして、ようやくかすれた声が出た。
 由衣はボクに気付いたみたいだ。
「和輝」
「オレ、あのさ」
 声が出ない。声にならない。さすがに中学生のヤワなのどで、熱唱しすぎたか。
 それにもし声が出たとして、ボクは一体何を彼女に伝えるのか。必死に彼女を探したのは何のためだったのか。……わからない。
 とにかくボクは由衣の隣に座った。そばにいないと不安だった。
「和輝ぃ、カッコよかったよー」
 由衣だ。ここにいるのはちっちゃくてかわいい由衣だ。
 好きだ。愛してる。
「……違うんだ。そんなんじゃなくて。」
 ボクは何を伝えなきゃならないんだ?何の為にここへくることを望んだんだ?
 その時、ようやくボクの中に、ボクの目的が浮かんだ。




『……モウ、笑エナイト思ウ』
 あの時の由衣の、
 冷たい凍えるような涙。
 ボクはそれを止めたかったんだ――。



 
「オレは……謝らなくちゃ、いけなかったんだ」
 由衣がキョトンとする。
「何を?」
 ボクはハッと我に返る。
 そうだ。ボクはまだあの寒い冬の前にいるんだ。今の由衣に謝っても意味が無い。
 ボクが黙り込んでしまうと、由衣は軽くフッと笑って、静かに立ちあがった。
「和輝、さっき聞いたよね」
 下を向いていたボクは由衣の背中に目をやった。由衣の言葉の意味はわからなかった。
「あたしね、和輝がステージで歌ってる間中、ずっと考えてた。あたしは和輝のどこがこんなに好きなんだろうって」
 ボクはさっきの、演奏前の会話を思い出した。
 でもそれよりも、今ボクに背を向けている由衣の顔が見たかった。声が震えてるような気がしたから。
「あ、歌が上手いところが好き、子供みたいなところも好き、なんて考えてたらすぐ最後の曲になっちゃってて」
 由衣は今どんな顔をしているんだろう。明るくてかわいい由衣だろうか。それとも精霊みたいな綺麗な由衣だろうか。
「それでね、あの曲聴いてて気付いたんだ。あの曲みたいに、あたしは和輝の全部が好きなんだって」
 そう言って振り向いた由衣は、
――泣いていた。泣きながら笑っていた。どちらの笑顔でもない、今まで見ることができなかったもうひとつの由衣……。
 なんで泣いているのかはわからない。だけど、その涙からは強くて重い悲しみみたいなものがこもっているのはわかった。愛情とかと一緒に、少しだけ。
 由衣はボクの方に一歩近付いて、ボクの顔を覗きこむみたいにかがんだ。ボクらの顔はものすごく近くにあった。――気持ちと同じくらい。
 もしボクがその時由衣を抱きしめたなら、きっと壊してしまったと思う。なによりも、親よりも、親友よりも、愛猫のルナちゃんよりも、古い表現だけど、世界で一番愛しかったから。
 切なさと満足感みたいなもので震えるボクを見て、由衣は優しく微笑むと、ボクの口に自分の唇を軽く押し当てた。




 ―――優しくてやわらかな感触に、
 ―――ボクは自然と目を閉じた。







 そして目を開けると、結局ボクは空の上にいた。
 ボクの唇に、羽毛のような感触が残っている。
 ボクの体には鈍痛の代わりに、電気のような鋭い痛みが走っていた。
 もう、諦めてしまいそうだった。あの小さなキスで、ボクは満足してしまいそうだった。もう何もいらないような、そんな気持ちだった。
 忘れたかった。自分があの春と呼ぶには早すぎる、冷たい風の吹く寒い季節に、由衣の心を傷つけたなんてことは。忘れて、死んでしまいたかった。こうやって由衣の心に触れた後だからなおさら。
 地面。もうはっきり見える。あれがボクの終わりだ。あそこに着けば、死ぬ。それだけだ。
 そうだ、きっと今まで見たのは夢だったんだ。
 ……そうだ……。夢だったんだ……。
 ボクは目から熱いものが流れるのに気付いた。
 ……、あれ、涙……?
 そして、由衣が別れ際に流した涙の意味が、ようやくわかったような気がした。
 本当に愛してしまったから。だからこそ、別れがやがてやってくるのが怖いんだ。絶対にいつかやってくる耐え切れない程の痛みを、見て見ぬ振りなんてできない。だから、泣いたんだ……。
 わかってるよ。わかってる。これで終わりなんて許されない。ボクは由衣の心の痛みを拭い去るために、ああやって過去に戻されたんだ。そうだろ? 神様。
 いいよ。由衣の悲しみなら、いくらでも受け止めてやるよ。もしもそれで由衣の心が軽くなるんなら、サイコーだ。
 さあ連れてけ。わかってんだろ? 卒業式だ。卒業式の帰り道。あの時間に連れてけ。
 ボクは、もはや確信以上の、事実にしたがってゆっくりと目を閉じた。
 



 由衣、ボクは
 君の涙を止めてみせる。

       




 そこがどこなのか、ボクはすぐにはわからなかった。
 いや、違う。それは……きっと心が、情けなく子供みたいなボクの心が、この時間、この場所での思い出を忘れ去ろうとしていたから。この場面でボクが由衣に伝えたわがままを忘れたかったからなんだ。
 雪。薄曇りの空。見える物のほとんどが白く染まりきってる。
 ……イチョウの並木は葉を脱ぎ捨てて、寒そうに立ち並んでいた。
 そして、そこにボクがいる。
 由衣は、いない。春を過ぎて、夏を楽しんで、秋の日の肌寒さの中で一緒に歩いた由衣は、今ボクの隣にいない。
 それはボクにとっては丁度いい事かもしれなかった。頭の中を整理しないと、またあの時と同じように失敗してしまいそうだったから。
 雪の降り積もった道はいかにも寒くて、雪が氷みたいに硬くなっていて、それはあの時に見た由衣の表情に似ている気がした。
『あたしはきっと和輝がいなくなったら、もう笑えないと思う』
 その言葉がボクの頭の中を切りつけながら回ってる。氷の刃を持った言葉は今もボクを苦しめている。
 でも……、ボクはもう逃げたりしない。それが死んでいこうとしているボクに出来る、ただ一つのこと。
 だからボクは思い出すんだ。
 あの楽しかった夏の日から、この冬のある日――卒業式の日を迎えるまでに、ボクと由衣の間を通り過ぎていった出来事を。



 記憶。曖昧で思いこみも含んだ、記憶っていうもの。
 その中に残る様々な由衣の笑顔。どれも皆かわいいのは、決してデフォルメされたせいじゃない。
 キャンプ場で。
 湖のほとりで。
 枯葉に寝転んで。
 初雪の帰り道で。
 それらの背景の中で、由衣は笑っていた。自然の輝きにも負けない自然な笑顔で。心からの笑顔を表して。
 ボクの記憶の中の由衣は、いつも『笑って』いる。だからボクは由衣はいつも笑ってるんだと思っていた。
 でもそうじゃなかったんだ。……、ホントはそうじゃなかった。
 そうだ。彼女はいつもどこかに影を持っていたんだ。由衣の笑顔は『笑顔』だけを持っているわけじゃなかったのに。……でも昔の単純なボクにはよくわからなかった。
 いや。
 薄々はわかっていた。でも気付かない振りをして、かわいいかわいい言ってたんだ。
 怖かったから。そしてボクには、彼女の影の部分を受け入れるだけの器みたいなものが無かったから。
 


 雪が降り積もり始める頃、彼女の両親が離婚したということをボクは貴から聞いた。
 もともと不仲だったらしい彼女の両親は、しばしばけんかを繰り返していたらしくて、そのイザコザに由衣は巻きこまれていたんだ。由衣は長女だから、きっと大変だったはずだ。
 そして当然の成り行きのように由衣の両親に別れが訪れて、彼女は母方に引き取られ、一歳下の弟は父方に引き取られた。弟と父はしばらくして町を出ていった。
 ――仲の良かった姉弟は、勝手に決まっていく自分達の未来をどのようにして受け入れたのだろうか。
 いや、少なくとも由衣には受け入れられなかったんだ。
 それでも由衣は、ボクの前では笑っていた。
 いつも元気に。
 でもたまにあの祭りの時みたいなちょっと憂いのある顔で。
 どんな気持ちだったんだろう……。由衣は本当にしっかりしているから顔にはほとんど出さなかったけど、愛している親同士が目の前とか聞こえる場所で争い、ついには離れ離れになって……。それでも笑っていた由衣の心の中は、一体どんな気持ちで満ちていたんだろう。
 本当に心から笑っていた時もあったと思う。でも、ボクみたいに単純じゃない由衣はきっと、自分の置かれた環境を忘れることなんてできなかったんだと思う。笑っていた由衣のことを思い出すと、胸が締め付けられる。ボクが、由衣を本当に追い詰めたんだ。
 由衣から卒業式の少し前に、中学を卒業した後は母方の祖母の家へ引っ越すということを聞くことになる。彼女が引っ越す町は、ボクが当時住んでいた町からはあまりにも遠く、まるで外国のことのように思えた。
「……ふうん」
 ボクがそのことを打ち明けた由衣に言えたのは、たったそれだけだった。
 もっと何か言ってあげるべきだっただろうか。もしそうならなんて?
 そして、ボクと由衣はこの卒業式の日を迎えたんだ。



 もう終わりだな、と思うとボクは少し寂しくなった。もう由衣と顔を合わせることは無い……。
 でも人生で最期に会う相手ってのが由衣なんだから、ボクは満足だ。そういうことにしておく……。
 そしてようやく、由衣がやってきた。
 グレーの暖かそうなコート。その下にのぞく足は、黒いストッキングが履かれている。白い雪を背景にしているからか、余計にその足はか細く見えた。
 スキー場で出会った女の人は綺麗に見えるってよく言うけど、それはきっと北海道の女の人が色白で綺麗って言うのと同じ理由だと思う。降り積もった雪が反射光を放って由衣を照らし、いつもよりも白く見える由衣の肌は頬の部分だけが薔薇色に染まっていて、ものすごくかわいかった。……暗く沈んだ表情を以外は。
「和輝……」
 由衣は小さな声で言った。
「来ると思ってたよ」
 ボクは精一杯心の中のものを押さえつけて答える。
 ボクらは別にここで会うことを約束していたわけじゃない。でもあの時みたいに、やっぱりまたボクらはここで顔を合わせた。
 由衣の顔にはほとんど力の無い笑顔が浮かんだ。悲痛っていうのは、こういうことを言うのかな。
「……最後に、見ておきたかったから」
 由衣はこの卒業式の次の日、すぐに引っ越すことになっていた。だからこそ彼女は記念撮影みたいなのもそこそこに切り上げて、ここにやって来たんだ。もちろんボクも。





 由衣の口から小さな白い息が吐き出された。弱々しいそれは、すぐに風に流されていく。





 いつの間にか粉雪が舞い始めていた。晴れた空から揺れ落ちる雪は、妖精みたいにボクと由衣の間を舞って、そして地面に音も無く降り積もった。
「長かったね、あたしたち」
 由衣が初めて二人の終わりを連想させる言葉を発した。それまで一度も言わなかった、別れを覚悟した言葉を。
「……もう一年近くになるんだね」
 まるで思い出を語るように由衣が言った。その弱々しい声がボクの胸を締め付ける。
「短かったよ。……短かった」
 ボクは反論した。
 そうだ。春に始まったボクらの生活を、ボクは今あっという間に体験してきたんだから。もっと無数にあったはずの他愛も無い会話を無視して。ボクにとって、この追体験の時間はあまりにも短かった。それがどんな意味を持っているかは知らないけど、でも短かった。
「そうだね。いつも一生懸命だったから、そういう風にも感じる」
 由衣がまた力無く微笑んだ。





 強い風が急に吹いて、俯きながら向かい合うボクらは、並木道の木と一緒に少し横に揺れた。





「……でも、もう終わりなんだね」
 由衣が言った。別れの言葉を。
 ボクはしばらく何も答えられなかったけど、しばらくして口を開いた。真剣な顔で。
「そうだね、オレたちはもう終わり」
 ボクははっきりと言った。
 あの時と違う言葉を、あの時と違う冷めた口調で。
 由衣が顔を上げる。目には驚いたような表情がある。
『オレは由衣のことずっと好きだよ』
 無理に笑ってそう言ったのを覚えている。それが、あの時の本心。
 その言葉の少し後に由衣が、
『……あたしもずっと和輝のことが好きだよ』
と、答えたことも。そのあとに由衣が言った、
『あたしはきっと和輝がいなくなったら、もう笑えないと思う』
という切なく心を刺す言葉も。
 由衣はあんな言葉を望んでなんていなかった。
 ボクはきちんと終わりを受け入れなければならなかったのに、自分の気持ちのまま彼女の心を揺らしてしまった。
 ボクの言葉が。そしてそこに込められたボクの幼さが何もかも悪いんだ。だから由衣は……。
「でも、でもな?」
 ボクは由衣の肩を両腕で抱きしめた。本当に、由衣の体は壊れそうだった。
「お願いだから、お願いだからさ。笑っていてくれよ」
 ボクは泣いている。……ボクよりもずっと小さい由衣を抱きしめて。
「オレの為なんかに、死ぬなんてやめろよ……。お前がこれから出会う男の中にはさぁ……、こんな情けない男なんかより、ずっとカッコ良くて、優しくて、お前のことわかってくれる奴がきっとあらわれるからさぁ……。頼むよぉ、頼むからさぁ……」
 ボクの腕の中でじっとしていた由衣が、「死」という言葉を聞いたとたんビクッと体をふるわせた。
 ボクは自分でも何を言っているのかわからないぐらい、声に出して泣いていた。

 由衣は……、ボクの腕の中にいるこの温もりは、……死んだんだ。





 卒業式の日。彼女は自分の部屋から姿を消した。窓が真冬なのにも関わらず開け放たれていて、引越しの為にほとんど家具も運び出されてしまって寂しくなった部屋の真ん中に、ただ由衣の遺書が残されていたらしい。
 由衣の遺書には、両親の離婚のことについて自分を責める文章が何行にも渡って書き付けられていて、中が良かった頃の両親と弟との楽しかった思い出も書かれていた。そして母親の重荷になって生きていく人生に耐えられない、とも。
 そして最後の行に、
『私は大好きな人の気持ちにも応えられなくなった』
と言う一文が付け足されていた……。
 由衣は見つからなかった。ボクも精一杯探したのに。どこにいったのか、手がかりも無かった。ただ開かれたままの窓からどこかへ行ってしまったのだろうということぐらいしか。
 結局彼女が見つかったのは3日後だった。




 彼女はボクたちの思い出の並木道で、降り出した記録的な量の雪に埋もれて、眠るように死んでいたらしい……。





 葬式で、由衣は責任感が強すぎたんだって言って、担任だった先生は泣いた。
 だけど、そんなことどうでも良かった。
 冷たくなった由衣を見ても、ほとんど何も感じないことが悔しかったから。
 ボクは、泣かなかった。
 泣けなかったんだ。
 あまりにも突然過ぎて、ボクは混乱しただけだった。
 全然わからなかったと言えば嘘だ。だけど由衣の心に秘められていた痛みがそんなに大きいなんて、ボクにはわからなかった。由衣はボクの事を好きでいてくれたはずなのに、ボクは……。
 ボクは由衣の死を受け入れられず、四年経っても自分を責めるところまですら思考を進められず、いつの間にか入院して、……死のうとしている。
 いや、いた。心地良い思い出に埋もれたまま、何も考えないまま、ボクは死のうとした。




「和輝、痛いよ」
 由衣が腕の中で小さく言う。
「オレは離さない。……お前が死なないって言うまで、絶対」
 ボクは顔を涙と鼻水でグシャグシャにしながら言った。




 ボクらはだんだんと強くなりだした雪の中で、抱き合っている。
 彼女を殺したこの雪の降る中で。




 由衣は何も言わなかった。ボクの胸に顔を押し付けたままで、何も言わなかった。
 何を考えているんだろう。何を思っているんだろう。
 でも、ボクはただそのまま抱きしめつづけた。
「由衣」
 ボクは足先とか腕とかが、冷たくてジンジンし始めていた。
「オレ、謝りたかったんだ」
 由衣は何も言わない。
 それでもボクは続けた。
「オレな? お前が死んでからずっと何も考えられなかった」
 由衣にはなんの事かわからないかもしれない。
 でも、それでも良かった。そんなことは関係が無いんだ。
「考えようとしなかったっていうのが正しいかな。由衣の事も自分の事も、全部どうでも良くなって……。いや、どうでも良くないから考えなかったのかな?」
 ボクは大してまとまっていなかった考えを、ただ思いつくままに言った。
「由衣の事大好きで、でも由衣の事追いかけて行けば行くだけ由衣の事がわからなくなってって……。いや、理解しようとしなかったのかもしれない。由衣の事がわかると、オレが情けなくなる気がしたから」
 由衣は、本当に何も言わなかった。何の動きも見せない。まるで体温をもったマネキンみたいに。
「オレは知らず知らずのうちに由衣の重荷になってたんだな」
 そうだ。もしボクがボクを去ろうとしていた由衣の心をひきとめなければ、由衣は死のうと思うほど追い詰められなかったかもしれない。
「オレ、本当はここに、この時間に来るの二回目なんだ」
 ボクはようやく真実を言うことができた。
「オレは今、本当は……」
 そう言いかけて、ボクはやめた。
「そんなことどうでもいいな」
 関係ないことを言っていると、由衣がいなくなってしまうような気がした。いままでの並木道の時間みたいに、また遠い空の上に戻される気がした。
「なんだっけ、……そうだ。謝りたかったことっていうのはさ、オレなんかのこと好きになってくれて、オレが辛い時とかいっつもはげましてくてて。なのに俺はさ」
 雪が大きな塊になってボクの顔にぶつかってくる。だいぶ吹雪いてきた。
「由衣に何もしてあげなくて。いっつも自分の事ばっかりで。もっと由衣の事支えてあげなきゃいけなかったのに。そして最後まで由衣を苦しめて」
 このまま、由衣と凍えて死んでしまってもいい、なんて往生際の悪い事をまだ考えてる自分がいる。
 でもそんな頭の中の声を無視して、ボクは言った。
 ―――おそらく最後になる、その言葉を。




「ごめんな」




 たった四文字の、だけどボクの四年間の後悔を全て詰めた言葉を、ボクは言った。
 それがボクの全てだった。後悔、懺悔、思いの全てなんだ。
 由衣が好きだから。由衣を離したくなかったから。必死で由衣の気持ちを抱き締めようとして、その小さな体を自分のものにしたかったから、……幼いボクは由衣を……壊してしまった。それは結局、終わりに向かうだけの恋でしかなかったのかもしれない。
 でもボクは春の日のときめきを、夏の日の喜びを、秋の日の空しさを、もう一度経験してきて……、由衣を好きなだけじゃなく、由衣と一緒に生きたい、由衣の支えになりたい、そう思えた。愛なんて難しくてありふれた言葉を使うのは嫌だけど、それはきっと愛なんだと思う。
 今はただ、由衣を抱き締めていたかった。凍えそうな寒さの中で、ただこのまま由衣を抱き締めていたい。





 その瞬間に雪が、風が、止まった。
 そして、舞台の照明が消えるように、辺りが暗くなる。
 突然の事だったが、ボクには気にならなかった。





「由衣……?」
 ボクは腕の中で、もぞもぞと動く由衣に気付く。
 ボクは由衣にまわしていた腕を解くと、由衣の顔を見る。
「あ……」
 彼女は顔を上げる。
 ボクの腕の中で、何も言わずにいた由衣は、―――笑っていた。





 何も言わないけれど。
 今まで見た事の無い。
 今までで最高の。
 そんな笑顔をしていた。
 ボクは気付いた。
 いや、知っていたんだ。
 ボクが探していたのは、ボクが本当に見たかったのは、ただひとつ。
 春の恥ずかしそうな笑顔でもなくて、夏の綺麗な笑顔でもなくて、秋の静かな笑顔でもなくて、そしてさっきまでボクを見つめていた力の無い笑顔でもない。
 ……この笑顔なんだって。
 その表情を見つめていると胸が熱くなってきた。
 由衣は、ボクに向けている笑顔を少しずつ少しずつ純粋なものに変えていく。
 ボクの目の前で由衣は、ゆっくりゆっくりと幼くなっていく。少しずつ時間が戻り始める。
 中学二年生、中学一年生。二つの春夏秋冬が遡る。
 それからはボクの知らない、だけどどこかで見たような、そんな由衣がボクの前に現れはじめた。
 時間をかけて作り上げられてきた由衣という人間が、身につけていた衣服を脱ぐように幼くなっていく。
 小学生の時間を遡っていく内、ボクの知らない由衣の顔がボクに笑いかけてきた。
 幼稚園くらいから更に幼くなっていく。
 ……そしてしばらく後、その若返りは最後に行きついた。
 暗闇の中、彼女を暖かな春の陽光が包んでいた。
 あの冬の日にこの世を去っていった彼女が浴びる事のできなかった、優しい愛の光が。





 由衣。
 宝石の様に純粋な由衣の結晶が、天使の微笑を浮かべてボクを見つめている。
 無垢で可憐で純粋な笑顔。
 偽りの無い、一点の穢れも無い笑顔。
 誰からも愛される、神々しい笑顔。



 
 由衣はこんな笑顔をしてたんだ……。
 明るい笑顔も悲しい笑顔も、魅力的だった。
 でも由衣が本当に最初から持っていたのは、こんなにも美しい笑顔だったんだ……。



「和輝……、愛してる……」



 赤ん坊の由衣と、見た事の無い大人の女性になった由衣が重なって、そう言ったような気がした。









 ボクは達成感を感じていた。やり残した事はもう無い。
 痛みはもう消えていた。きっと限界なんてものは超えてしまったのだろう。粘り強い生の本能ってのもようやく諦めたらしい。
 ふと地面を見れば、もうちょっとしたビルくらいの高さまで、ボクは落ちてきていた。
 ――由衣は最後に、最高の笑顔をくれた。
 あれはきっと、許してくれたんだろうな。
 誰も答えてはくれないし、由衣はもういないけど、ボクはそう信じてる。
 二階の窓くらいの高さまで落ちてきた時、僕は思った。
 ――由衣が、ボクにチャンスをくれたのかな。
 地面が目の前に迫ると、ボクは目を閉じた。




 由衣に会えることを願って。



     

「……ねぇ、しっかりしてよ」
 誰かがボクを揺り起こそうとする。
 頭の中が、霧がかかったみたいにぼんやりしている。ボクは目を開けようとしたが開けられなかった。
 鼻が薬臭いにおいを感じ取る。あと、病気っぽいにおい。
「しっかりして」
 この声は……。
「あっ、看護婦さん! ここです!」
 若い女の声がする。
「ちょっと鎌田さん、あなたも健康体じゃないんですよ? 早く病室に戻りなさい」
 続いておばさんの声。
「そんなこと言ったって……」
「ほらほら、早くしなさい」
 若い女の声が遠くに離れていくと、先程のおばさんの声の人が、ボクの頬を叩く。
「前原さん、聞こえる?」
 いつまでも目を閉じていたってしょうがない。ボクは無理をして目を開けた。
 目を開けると、そこは広い病室だった。白い壁の中で何人かの病人が一緒の部屋で生活する、普通の病室だ。
「前原さん、気分はどうですか?」
 気分は最悪だった。まずここがどこなのかがわからないのに、気分がいいわけなかった。病院と言うのは間違い無さそうだが。
「ここは、どこですか?」
 ボクは朦朧とする意識でそう言った。
 目の前にいるおばさんくさい看護婦は、ガハハ、と大きい声で笑った。
 なんだ、その反応は……。
「ここはねぇ……」
 看護婦は一度言葉を切って、再び笑った。
「どこなんですか?」
 ボクはすこしずつはっきりしだした意識の中で、ちょっと腹を立てた。
「あんたの彼女のいる病院だよ。今は彼女と子供がいる、だね」







 看護婦の話を聞いて思い出した。
 ボクはこの病院に向かう途中、突然めまいを起こして倒れたのだ。
 理由は医者が何やら難しく説明していたが、要するに風邪を引いているにもかかわらず慌てて走ったりしたから、体に無理がかかって倒れてしまったということみたいだ。なんにしろ大したことはなくて、もう今日中にも帰れるそうだ。
 何をそんなに急いでいたのか。
 簡単なこと。美幸のお腹の子供が生まれた、という知らせが病院にいる彼女の母親からボクの職場に伝えられたからだ。
 仕事も何もほっぽり出して、ボクは病院へ走った。ボクが働いているスタジオから、その病院までは一キロくらいだった。
 だが、ボクは一週間も前から風邪を引いていて、普通にしてても呼吸が苦しかったのだ。でもボクはタクシーに乗ろうとかいう考えは、少しも浮かばなかった。
 やはり変な風邪を引いたのも、同棲中の彼女が二週間も病院に入院してたからだと思う。おかげでボクはここのところまともなものを食べていなかったのだ。
 でも看護婦から子供が無事に生まれたと聞いて、ボクは心から安心した。





 ボクは病院の会計で入院費などを払うと、そのまま産婦人科の方へと足を伸ばした。
 この総合病院はかなり大きいので、産婦人科までは結構な距離がある。
 その距離を駆け抜けたい気持ちもあったが、病院ということもあるしゆっくり歩いていくことにしよう。
 ボクはその時間、美幸との出会いに想いをめぐらせることにした。
 彼女と出会ったのは十七才の時だ。
 お互い高校生として、適度な青春を過ごし、卒業するとすぐに同棲を始めた。
 彼女といると、落ち着くんだ。それに楽だった。二人とも好きなようにバイトをして、好きなように愛し合っていた。
 そして去年、ボクが近くの楽器店とレンタルスタジオを兼ねる店で正社員として働き出した時、美幸が子供ができた事をボクに伝えた。ボクは素直に喜んだのは言うまでも無い。
 すぐに結婚はしなかった。したかったけど、まだ二人が十代の内は今のままの関係でいようと、美幸が言ったのだ。
 ようやく辿り着いた産婦人科の受付で、ボクは美幸の病室を聞く。
 美幸の病室のドアを開けると、ベッドで雑誌を読んでいる美幸の顔が目に入った。
「……大丈夫?」
 そう言う美幸の顔の方が、ボクからしてみれば心配なんだが。疲れみたいなものが顔に表れていた。
「お前は?」
「あたしは大丈夫だよ。看護婦さんにも、さすが十代は元気だねって誉められちゃった」
 美幸は本当に元気そうに言った。もしかしたら、疲れて見えるのは化粧をしていないからかもしれない。
「さっき来てたな、オレんとこ」
 ボクがそう言うと、美幸は嬉しそうに笑った。
「わかった? いやー、パパが来ないねって赤ちゃんに言われたもんでね」
 美幸は調子よく言った。ボクは笑う。
「赤ちゃん、見た?」
「いや」
「じゃあ見てきなよ。一番かわいいからすぐわかるよ」
 美幸にそう言われ、ボクはうきうきしながら美幸の病室を後にする。本当は真っ先にそちらに向かいたかった、なんて行ったら美幸に殴られそうだな。
 病室を出てしばらく行くと、やがて子供の笑い声のする一角があった。
 近付いていくと、小さな女の子が父親に連れられて、壁の方を向いて笑っているのに何となく新鮮な印象を受ける。
 一方の壁がガラス張りになった場所だった。やわらかな光が、そこから漏れている。
「これでアイちゃんもお姉さんだな」
「うんっ!」
 そんなやりとりが、ボクの耳に入ってきた。
 そして、ボクはガラス越しに並んだ沢山の保育器を見つめた。




 それは電気的な衝撃だった。
 どこかで見た純粋無垢な笑顔。
 まだ表情なんてものがあるのかすらわからない赤子が、




 確かにボクを見て笑っていた。






「見てきた?」
 うきうきした感じで聞く美幸にボクはただ首を縦に振るだけだった。
「どうだった? やっぱりウチの子が一番でしょ?」
「……好き、だ」
 ボクはうっとりした目で言った。
「はぁ?」
「初恋みたいな感じ……」
 ボクが言うと美幸は吹き出す。
「まだ親バカは早いって」
 そう言って笑う美幸のことなど気にせずに、ボクはうっとりし続ける。お前だって同じだろうなんて言葉は後にしよう。
 しばらく笑っていた美幸がようやく笑い終えると、ボクの方に顔を向けた。
「それで? 名前はやっぱり恋羽で行くの?」
 美幸は言った。子供の名前はボクが付けるということになっていて、恋羽というのは子供が女の子だった時に付けようと考えていた名前だった。
 ボクは首を振る。
「あれ? 違うの考えたの?」
「由衣……」
「ユイ? なんからしくない名前だね」
 美幸がいかにもボクが変な名前ばかり考えているような事を言った。
「どういう字書くの?」
「……自由の由に、衣」
「ふーん」
 美幸は軽く鼻から息を吐くと、ベッドの横の小さいキャビネットの上のメモ用紙に、ボールペンで『由衣』と書きつける。
「自由な衣か……、なんか天使とか天女様とか、そんな感じだね」
 美幸が母性を感じさせるような笑顔を見せた。
 ボクはうなずくと、もう一度由衣と名付けられた赤ちゃんのところへ向かう。
 赤ちゃんの前に行くとボクは言うんだ。その言葉はずっと前から決まってる。
 たった四文字の、目覚めの言葉。







「おはよう、由衣」





                   完

2005/05/22(Sun)11:41:12 公開 / 恋羽
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■作者からのメッセージ
 また、長い(汗 いや、それよりも問題はオチがふにゃふにゃと言われないかだなぁ、と少し頭を抱えてしまう恋羽です。
 やっとこさ僕の中で週末が始まりました。しかし今週はやる事が目白押しで、その上『鰻』一話分をなんとか仕上げたいと思っていたりして、なかなか暇が無いなぁと思うのです。
 遅れ馳せながら、鴎外の作品にほんの少しばかり目を通しました。確かに硬い文体なのかなぁ、とも思ったのですが、フィーリングで文章を読む恋羽には全く関係無し(笑 むしろ良い感じに映像も浮かんだし、知り合いの「鴎外の文語表現を使った作品は漢文を学ばないと難しい」などという話はどうやら僕には当てはまらないらしいですね。純粋に面白いなぁ、漢文や古典表現とは少し違うと思うしなぁ、と訳のわからない事を語るのです(汗
 うんで作品の方なんですが。この最後の場面と言うか、読者の方はどう読むのだろうと少し心配ではありました。安直な夢オチと取るのだろうか、それとも……、と。感想が楽しみでなりません。
 それでは長いような短いようなこの文章にお付き合いいただいた皆様方、誠にありがとうございました。御感想などをお聞かせ願えたなら、大変光栄に思います。

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