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『死者を乗せる列車』 作者:川内大地 / ショート*2
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 男は目を覚ますと、大きな欠伸をし、周りを見た。どうして自分は列車に乗っているのだ。男は慌てて今までに至る経緯を思い出そうとするのだが、どうにも記憶が明瞭としない。
 右手の車窓を覗きこんだ。そこには普通、列車の車窓から見える高層ビルの立ち並ぶ都会の景色や、田んぼや川が広がる田舎の景色でもなかった。ただそこには暗闇のみが広がっていた。一条の光も射さない暗闇が。目の前が真っ暗になり体が暗闇に吸い込まれるような感覚に陥って男は身震いした。光すらない何もないところに行ったら自分はどうなってしまうのか男はそう考えて窓から目を逸らした。
 窓のほうを見まいと床に目を向け、肘掛に頬杖をつきまがら、列車の揺れに身を任せていた。ガタンゴトン、ガタンゴトン、自分は何故列車に乗っているのだろうか。ガタンゴトン、ガタンゴトン、思い出そうとすると何故かあの顔が浮かんでくる。ガタンゴトン、ガタンゴトン、何であの顔ばかりが心に浮かんでくる。
「ここ、いいですか」
 男が目を上げると、そこには一人の老人が立っていた。その老人はクシャクシャになったTシャツ、だぼだぼのジーパンを穿いていた。その老人の顔を覗き込んだとき男は絶句した。自分を苦しませてきたあの老人が目の前に立っていた。
「どうしたんですか」
 老人は心配そうに問うてきた。男は我に帰って、かき回された頭の中を整えてから自分に言い聞かせた。見間違いだ、これは見間違いだ。
「大丈夫です。どうぞ座ってください」
 男は必死に絞り出した声で言った。
 ガタンゴトン、ガタンゴトン、列車は単調な音を立てながら進む。こんな暗闇が続くところにもレールがあるのだろうか。ガタンゴトン、ガタンゴトン、この列車はどこに行くというのだろうか。ガタンゴトン、ガタンゴトン、目の前にいる老人は自分の殺したあの老人なのだろうか。思い切って尋ねてみようか、などと考えていた。だが、貴方は私が殺した人ですか? などと尋ねるのは実に滑稽だ。
 そもそも、自分はあの老人を怨んでいたのではなかったか、あの心に張り付いて離れないあの顔。男は拳を強く握り締めた。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
 老人は心配そうに尋ねてきた。男は拳を緩めて大丈夫ですと答えた。
 そう自分はこの老人が憎い、いつも心のどこかに張り付いて離れない。老人の醜く変形した顔が、張り付いて離れない。
「実は、私娘に会いに行くところなんです」
 あの時の老人も助けを求めながら同じようなことを言っていた。今日娘に会いに行くところなんです、だから助けてと。
「私と妻は別居していましてね、まぁ、私が悪かったんですけどね。ギャンブルにのめり込んでしまいましてね。それで別居ですよ、情けない話ですよ」
 老人は笑う。男は両手を握り力を込めた。あまりに力を入れすぎて手に痛みが走る。それでも拳を握り締める。
「リストラされて、働くところもなく、ホームレスをしていたんですけど。娘が私に会いたいと言ってくれたんです。こんなどうしようもない私に」
 老人は最後のほうは涙声になった。鼻を鳴らしながら涙で濡れた目を拭う。 ガタンゴトン、ガタンゴトン、どうしてそんなことを言う。何故心に取り付こうとする。ガタンゴトン、ガタンゴトン、これから先も罪を背負い続けろというのか。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
 男は立ち上がり、その老人をじっと見た。拳を強き握り締めて。老人が困惑した顔をした瞬間、男は老人の顔を殴った。思い切り殴られた老人の顔は歪に曲がっていた、顎の骨が砕けたのであろう。男はそんなことは気にせず、二発目を放つ。ガタンゴトン、ガタンゴトン、そして何度も何度も殴る。骨が砕ける生々しい感触が手に伝わる、眼球が飛び出し、血が噴こうとも、臆せず殴り続ける。ガタンゴトン、ガタンゴトン、消えろ。男は殴りながらつぶやいた。消えろ、消えろ、消えろ、消えろ。男は何度も何度もそれを唱えながら、殴った。だが、誰かに腕を摑まれて殴る腕が止まった。振り向くと二人の帽子をかぶった大男の一人が男の腕を摑んで離さない。もう一人も男の空いている手を摑み席から引きずり出した。止めろ、そう男が何度も叫んでも大男は手を離さない。消えろ、憎たらしい奴。男は体を必死に捻る。お前のせいで、お前のせいで俺は。
 年老いた男は、血で染まり、眼球がはみ出た顔を男に向けた。憎たらしい顔お前のせいで、お前のせいで。老人の顔が遠ざかる、男は二人の大男に引きずられ、そして列車の外へと放り出された。男の助けてくれという声も虚しく、列車はそのまま走り去っていく。

 何もない暗闇、叫びたくてしょうがない。でも、それができない、暗闇の中では役に立たない、意味を成さない。だがこのどうしようもない衝動を押し殺して、ただ漂うしかない。男は体を丸め、宙を舞うように暗闇の中を漂う。
 このまま自分ではない何者かになってしまうのではないか。罪を背負い続け、あの老人の顔と向き合いながら、自分は少しずつ少しずつ自分ではなくなっていく。狂気に取り付かれた今の自分ではない何者かに。男は目尻に熱いものが溜まるのを感じた。あの老人を殺した罪は罪深くてどうしようもないことであることは分かっている。どうしようもないことを何かに転嫁しなければ自分を支えることができなかった。運命を怨み、あの時お前も殴れといった奴を怨み、あの老人を怨み。だが叫びたくてしょうがない、もう疲れた。
 突然、一条の光が射した。目も開けれぬ程の眩しい光が。男は微笑みながら、その光に向かって泳ぐように進んでいく。
「これで、いいんだ」
 男は呟いた。次の瞬間、体を強く引っ張るGを感じた。

 今年の五月九日、ある町で、一人の男が自殺した。その男はマンションの自室から飛び降り、死亡。自室のテレビではホームレス殺害のニュースが報道されているところであった。遺書らしきものには、私が犯人ですと書かれていたという。








 長い長い暗闇を抜けて、男は再び目を覚ました。そこは列車の中であった。目の前にはあの老人が座っている。
「ようこそ、死者の列車へ」
 老人は言った。
「行き先は」
「私は天国、貴方は地獄でしょうね」
「そうですか」
 男は言った。
「気分はどうですか」
 老人は尋ねた。
「悪くないですよ」
「そうですか、確かに先程より顔色がいい」
 男は老人を見据え、そして頭を深々と下げた。
「すいませんでした」
 許されないことは分かっている。どうしようもないことも。ただ言わねばならない、そう思った。
 ガタンゴトン、ガタンゴトン、列車は単調な音を立てながら走る。ガタンゴトン、ガタンゴトン、暗闇の中をどこまでも。

  
 
2005/05/14(Sat)19:59:38 公開 / 川内大地
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■作者からのメッセージ
初めまして、川内大地と申します。
三回は見直したんですが、誤字脱字がないか心配です。えー、この小説は結構思いつきで書いたんですが、最後まで書けてよかったです、短いけど。短いので気軽に読んじゃてください。
何でもいいので感想やら、技術的に駄目じゃんと思ったところはバシバシ! 書いてください。
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