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『賭け事師と嘘つきと正直者について』 作者:若葉竜城 / ショート*2
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 僕が生まれる前に賭け事が好きな女がいた。その女は金と自分と自分の住処を愛していて、それ以外の物には余程のことがない限り愛情たるものを向けなかった。だが関心がなかったわけではない。ただ思いやることをしなかったのである。目の前で立ち上がった人間が最初に出す足は右か左かということにすら金を賭けた。
僕が生まれる以前の話なので当然人から聞いた話だが彼女はある時こういったらしい。
「賭のない一生ほど退屈なものはない。だから、あたしは退屈によって死ねる」
 不思議なもので、何にでも関心を持ち何にも愛情を持たない女の周りにはいつも人がいた。それこそ様々な人間が彼女の周りに集い、彼女の賭け事の相手をしていたのだ。カモにされる人間もいれば彼女の玩具にされる人間もいた。いずれにせよその人間達のうちで一人として彼女に敵う者はいなかった。
なぜなら彼女が一番大事だったのは自分だったから。彼女は自分に勝ち目がない賭け事は絶対にしなかったから負けることもなかったのだ。
そんな彼女をもしも孤独というなら僕はそれよりも孤独だ。彼女は僕の母だった。既に死んでいる。僕を生む際に『子供が無事に生まれるか生まれないか』という賭けをしたそうだ。命を賭けたその賭けで生まれないと宣言した彼女は僕を生んだ直後に血を吐いて、死んだ。どうやら彼女は重い病にかかっていたようなのだがそれを賭けに盛り込んで茶化してしまうような女だったらしい。

こんなことを僕に吹き込んだ男は正直者だった。だが一度だけついた嘘がある。
「俺は嘘つきだよ」
 正直者が嘘つきだと嘘をついた。だから僕は幼い頃、初めて彼が嘘をついたのだと思って驚いた。しかし今考えればどうということはないのである。嘘つきだと言ったのだから彼は嘘つきなのだ。しかし、正直者である。正直だからといって嘘をつかないとは限らないし、嘘つきだからといって本当のことを言わないわけではない。
 男は僕に彼女について嘘をついたのかもしれない。

 伝説として名高い女だった。ある意味では恐ろしいギャンブラーだった。僕を生んだかも知れない女だった。
 もしも、あの男があのとき嘘をついたのなら彼女はそういう女でなかったのかも知れない。
 だから、その女は人を愛したかも知れない女だ。

 そして、僕は退屈で死ねるのかもしれないし世界に対して最も無理解なのかもしれない。
 矢張り、世界は矛盾に満ちている。


「博士は永遠の十一歳」より




 私がこれについて言えることはただ一つでしょう。
「私はこの作者について最も無理解な存在だ」

 それだけです。



2005/05/05(Thu)21:14:27 公開 / 若葉竜城
■この作品の著作権は若葉竜城さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりです。
何となく思いつきで考えてしまった話です。
特に最後とか意味不明ですねえ(汗
でも嘘つきが自分は嘘つきだと言ったらどうなるんでしょう。
感想アドバイス等のついでにこれについても一言いただけたら嬉しいです。
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