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『一夏の物語』 作者:マッハピザ / 未分類
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 雨にも負けず、風にも負けず、ただひたすらに私は伸び続けた。
 何百回、何千回踏まれてもただひたすらに私は伸び続けた。
 臭い煙を吸っても、犬に小便をかけられても、ただひたすらに私は伸びつづけた。
 道路の隅で私は精一杯に生きた。どんな苦しみにも耐えながら伸び続けた。
 そんなある日あなたは現れた。
 暑い日差しの中あなたはしおれた姿の私に水をかけてくれた。
 来る日も来る日もあなたは私に、道路の隅の日陰に生えているこんな私に水を持ってきてくれた。
 数日後、初めて私は花を咲かすことができた。黄色い小さなかわいらしい花が私の頭の上に咲いた。
 そしてあなたは呟いた。顔に満面の笑みを浮かべ、
「きれいだ」と。
 
 

「暑い」
 太陽が燃え上がる炎天下の下で俺はやけになって呟いた。夏なので暑いのは仕方の無い事だと分かっているが流石にここまで暑いとむかついてくる。
 タオルで顔にほとばしっている汗を拭い、恨めしい太陽を一睨みした後、俺は再び赤い自転車をひき始めた。
 しかしこの自転車というものが重いったら重い。
 自転車の籠の中には大量の封筒、封筒、封筒、封筒……そして稀に謎の小包。一目見ただけで無意識に溜め息が出てくる。
 俺は今日中にこれら全てを宛先の各家々に届けなくてはならない。それが今日の朝俺に出された指令であった。
 俺は夏休みの期間だけという条件で市内の郵便局でバイトを始めた。本当は涼しい局内で仕事をしたかったのだが「男は配達だ。」という意味不明の理由でちゃっかり配達に回されてしまいこのありさまだ。今の時代は男女平等だろ?とついつい突っ込みたくなる。
 おかげで俺はこの炎天下の中、ただひたすらに自転車を引きずってさまよい歩いている。水も生気も太陽に奪われ、もはや俺の中には自転車を支える力しか残っていない。
 俺の頭上で自由気ままに燃えている太陽が本当に恨めしく思った。

 夕刻、恨めしき太陽がやっと沈みだし籠の中の郵便物少なくなってきた頃、ちょうど石井さん家の角を曲がった所で今日も俺はあるものに目線がいった。
 コカコーラの自動販売機からちょっと離れた道路の隅でなんとなく生えている雑草だ。
 隅っこで何気なく生えている雑草。
 俺はその雑草がなんとなく好きだった。
 普通の人だったらまずこんな道路の隅っこになんか目線はいかないだろう。ましてや雑草、100円玉とは訳が違う。普通の人なら気づいたところで何の感情もわかずにさっさと通り過ぎてしまうだろう。
 俺がこの雑草の存在に気がついたのももしかしたら奇跡かもしれない。それだけに雑草の存在感というものは薄いのだ。
 でも俺はそんな雑草がなんとなく好きだった。
 実はこの雑草、見る度見る度少しずつ大きくなっているのだ。最初に見た時は地面からちょろっと姿を見せていた赤ん坊が、今になってみるとうちの庭に生えている雑草くらいにはなったろうか、まあ雑草として一人前になったようだ。
 人知れぬところで努力をしているのだなあ、とつくづく思う。
 だから俺は毎日ここを通り過ぎるたびにこいつに水をかけてやっている。枯れるな、がんばれという気持ちを込めて飲みかけの水をかけてやっている。
 これはすでに俺の日課だ。逆にこの雑草を見ないで帰ろうとすると何かやりきれない気持ちを感じてしまう。
 
 そんなわけで今日も俺の目線はこの目立たぬ雑草にいったわけだが、次の瞬間初めて俺の目線は完全にこいつに奪われてしまった。
 ――花が咲いていた。黄色い小さなかわいらしい花が……
 俺は驚きを隠せなかった。あまりの驚きに一瞬時が止まったような感じさえした。
 雑草でも花を咲かすことができるのか。こんなきれいな花を。美しい花を……
 気がつくと俺は呟いていた。顔に満面の笑みを浮かべ、
「きれいだ」と。


 ☆

 今日も私の頭には花が咲く。黄色い色の小さな花が。
 道路の隅で花は咲く。日差しをうけて生き生きと。
 それは私だけに咲いた花。世界に一つしか存在しない私だけの花。
 あなたは気づかせてくれた。私にも花を咲かすことができるということを。名も無いような雑草の私にも花を咲かすことができるということを。
 道路の隅で私は願う。叶わぬ夢に私は願う。
 できることなら伝えたい。水を持って来てくれたあなたに、
「ありがとう」と。
 
 
 
 天気は快晴。
 雲一つない青い空。恨めしいほど輝く太陽。
 夏の午後の炎天下の中、今日も俺は赤い自転車を引きずりまわしていた。
 相変らず今日も暑い。暑いったら暑い。太陽は今日も自由気ままに燃え上がる。
 時刻はちょうど午後の2時。恐らく本日の最高気温を叩き出している時刻だろう。
 鈴木さん家のポストに封筒を入れた後、俺は自転車を止めタオルで汗を拭い落ち着かない様子で腕時計を見つめた。
「まずい……」
 直後、俺は呟く。
 珍しく、いや初めてと言っていいだろう、俺は焦っていた。
 籠の中には大量の封筒、封筒、封筒、封筒……
 午後になってこんなにもたくさんの郵便物が籠の中に残っているなんて初めてだ。初日でさえこんなには残っていなかった。
 どうも今日は調子が悪い。いつものように体がいうことを聞かない。それに今日に限っては暑さよりも空腹感が遥かに俺の中で勝っていた。
 ああ、失敗した……と俺は心の中でぼそっと呟く。
 一日三食を欠かさない俺が朝から何も食べていない。米もパンも何もかも。口にしたのは公園の水のみ。流石に水だけではこの重労働は耐え切れないだろう。朝寝坊したことを今さらになって深く後悔した。
「あ〜気持ち悪い……」
 力のない声で俺は呟いた。
 それでも俺はひたすらに次のポストへ向かって前進を続ける。延々と続くきりがない作業。まるで砂漠の中をさ迷い歩いている様だ。
 自転車を支える手が震えている。暑さと空腹感が同時に襲ってきて、吐くものも無いのに思わず何かを吐きそうになる。次第に意識がもうろうとし瞼が重くなってくる。

「あの」
 
 声。突如俺の後ろから声がした。意識がもうろうとしていてよく聞き取れなかったが確かに誰かの声が聞こえた。

「あのう」

 声。再び俺の後ろから声がした。誰かの声が。きれいな声が。

「あのー……」

 声。またもや俺の後ろで声がした。これで三回目。くらくらする頭の中で疑問に思う。一体誰だ?何で俺の後ろで話しているんだ?一体なぜ……?
 引きずっていた自転車を止め生気の無い顔で俺は後ろを振り向く。ぐらぐらと合わない視点を何とかその声の主に合わせる。
 
 ――麦藁帽子。

 俺が道路に倒れこむ前に見たのは麦藁帽子を被った黒髪の美しい女性だった。


 続く
 




 
 
2005/05/05(Thu)09:25:45 公開 / マッハピザ
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