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『タイトル未定』 作者:灰羽 / 未分類 未分類
全角10639.5文字
容量21279 bytes
原稿用紙約31.1枚

  1


――旅客機墜落事件発生についての調書

 X月X日未明、X県から飛び立った旅客機が消息を絶つ。同日の明け方から日本の救助部隊がヘリを飛ばし探索を開始。幸い、旅客機はすぐに発見される。
 だが、旅客機は海面に直撃しており、真ん中から真っ二つに割れ、部品の破片を辺りに散らす無残な姿になっていた。ヘリから救助隊が向かったが、生存者は発見されなかった。近くに島もないことから、乗客全員が死亡したものと思われる。死者数は墜落事故でも過去最大級で、航空会社は頭を抱えている。
 同日午後より、死体の捜索が始まる。だが、大半の死体は海中に落下したと見て間違いなく、難航していることは確かだ。現在までにあがった死体は旅客機に残っていたものも合わせ、乗客全体の15分の1程度である。
 現在、事故原因を追究しているが、手がかり無し。我々、警察の方でも事件の可能性をみて捜査を開始するが、同じく手がかり無し。この事故(あるいは事件か)はかなりこじれていきそうだ。
なんにせよ、今月は休みもらえないだろうな。(最後の一文は消しゴムで消えかけている)


「う、ううん……」
 俺は目を少しずつ開ける。どうやら今は昼のようで、眩しい太陽光線を痛いくらいに浴びている。空が目の前に見えているということは、俺は今仰向けになっているのだろう。背中から伝わってくる硬い感触。俺は岩の上にでも横になっているのだろう。
 今度は、手足を動かそうと力を入れてみる。だが、体がその命令を受け付けない。なんだか、体中の血液が抜かれているみたいだ。それくらい倦怠感に包まれている。
 幸い、空腹感はない。動けない今の俺にとってはプラス面なことである。だが、それも一時的なものであり、時間が経てば空腹感も出てくるだろう。なんとかしなければ、とは思う。だが、動けないこともあり、どうでもいいと思う自分もいる。
 俺は、もう一度目を閉じる。もう俺の目が開くことは無いかもしれない。それでも俺は目を閉じた。何もしたくなかった。息をすることすらだるく、疎ましく感じる。
「休もう」
 そう感じていたのに、声に出すのはなぜか簡単だった。


 俺の名前は鷹上沙雅(たかがみさが)。少し前までは普通の高校生だった。今は……わからない。俺は、恐らくほんの数日前に親父の誘いで、旅行に行くことになった。そりゃあ楽しみにしてたさ。なんたって、初めての外国だったからな。このご時世じゃ危ない、とか言って行きたがらないやつも多いと思うけど、俺は行ってみたかった。
 だけど、墜落したんだよ……その俺の乗っていた飛行機が。なんで落ちたのかもわからない。ただ、落ちたんだ。俺が窓から外を見たときはもう青い海が目前だった。太陽光線を反射して輝いて、まるで天国への入り口のようだった。その時の海のあの緑がかかった青さと言ったら、恐いくらいだった。刺すような青さ。串刺しにされるような違和感。本当に目の前に広がっていたのは海だったのだろうか。だが、海であることに間違いは無かっただろう。海でないはずはない。
 海面に激突した後のことは覚えていない。気付いたらここにいた。人は俺のことを運がないと思い、笑ったり同情したりするだろう。確かにそうだ。俺自身、こんなことになるなんて思ってなかった。墜落事故、沈没事故、地震や津波などの天災、不治の病と噂される重病。普通はまさか自分が、と思うだろう。そう、身近に起こるまでは。
 これから俺はどうなっていくんだろうか? それは恐らく、もう決まっているんだろう。俺は誰かの敷いたレールの上を歩くだけだったのだろう。俺はそのレールから脱線することができたのだろうか……。



「う、ううん……」
 俺は目を少しずつ開ける。明かりが見える。優しい、暖かい光が眩しくない、丁度いいくらいに照りつける。俺が安堵感を覚えるには十分だった。目だけを動かし、視界の中にあるものを確認する。明かりの正体は天井から吊るされている電球の光のようだ。背中から伝わってくる柔らかい感触。俺はその感触に少し懐かしさを感じる。この感触は、生まれてからずっと味わっている感触。俺の背中に伝わってくる柔らかい感触は布団によるものだろう。
 今度は、手足を動かそうと力を入れてみる。だが、体がその命令を受け付けない。体に強い倦怠感はあるが、動かないのはそのせいじゃない。柔らかい布団が俺に与えてくれる安心感が俺にやる気を起こさせない。朝目が覚めるが、眠気に負けてもう一眠りしたい。今の俺の気持ちはそんな感じである。
 そこで俺は思う。俺はなぜここにいるのか? まあ当たり前の疑問だ。俺の脳はこんなところに来たことはない、と認識している。頭が混乱してきたので、一度落ち着いてみる。目を閉じて深呼吸を数回。
 自分でも少し落ち着いてきたと感じる。そこで、もう一度記憶の糸を入念に辿ってみる。
(そっか。俺、事故にあったんだったな。確か飛行機の墜落事故)
 俺が真っ先に思い出したのは、墜落の瞬間。海と言う名の深い奈落へ何のためらいも無く直行していく俺。自然と恐怖は無かった。俺自身がまだよく理解してないだけなのかもしれない。それが幸か不幸かは今の俺には何とも言えない。何にせよ、起きないとだめだ。ここがどこか確かめる必要がある。そんな使命感が沸いたせいか、体は動くようになっていた。
「あら、気付いていたんですか? 言ってもらえればよかったのに」
 上半身を起こしていた俺は声のした方に顔を向ける。首は痛まない。そこには壁の影から上半身だけを除かせている女性の人がいた。いや、女性の人と言うには少し早いか。二十歳も迎えてないと思う。容姿はなかなか俺の好みである。長い黒髪をストレートに伸ばしていて、ちょっとおっとりとした優しそうな感じだ。その容姿と言語から、日本人だと思う。俺は言葉が通じることの嬉しさを感じる。
「あ、あの。俺……」
 容姿が好みということもあり、照れが出て言葉が出ずに詰まってしまう。ちょっとだけ情けない。
「貴方、昨日のお昼ごろに海岸の岩場に倒れてたんですよ? 私、びっくりしちゃいました」
 そう言って、彼女は笑う。
そうか、俺は海岸に倒れてたのか。ということは、飛行機が墜落したときに俺は死なずに、ここに流れ着いたってことだ。怪我の一つもしていないのは、かなり運が良かったのだろう。
「貴方、お名前は? 私は浅月颯沙(あさづきさらさ)。颯沙って呼んでください」
「俺は鷹上沙雅です」
 俺のことも沙雅でいいです。と続けられなかった自分にまた少し情けなさが募る。
「沙雅君ね。お腹減ってるよね? 今から何か温かいもの作るから待っててね」
 颯沙は上半身を壁の向こう側に隠すと、その場を離れていった。軽快なスリッパの音が心地よい日常の効果音として俺に響く。
 俺は事故にあった。そして、ここに流れ着いた。まだまだ知らなければいけないことはたくさんある。でも、焦らなくていい。きっと颯沙となら大丈夫。そのうち家にも帰れるようになると思う。その時までに颯沙と仲良くなってたら、ひょっとして連れて帰れるかも。
「ははは……妄想もいいとこか」
 俺は自嘲気味に笑う。まずは飯食って、今の自分の立場をしっかり理解して、どう立ち回ればいいか検討しなければいけない。今からは数日前とは全然違う日常が始まるんだろう。皆は日常は同じことの繰り返しでつまらないと言う。でも、日常を当たり前に過ごせることは神に感謝しなければいけない大事なことだ。
 確かに今までの日常も楽しかった。友人がいて、家族がいて、勉強もそれなりにできて、運動だって得意だった。お金にも困っていない。何一つ不自由することのない日々。終わるのは少々もったいない気はする。でも、大丈夫。今度の日常もきっと楽しいはずだ。根拠はないがどこからかそんな確証は湧く。

 始まる日常に期待を寄せたまま俺はもう一度眠りにつく。今度はぐっすり眠れそうだ。





  2


 ゆさゆさゆさ。

 俺の体が左右に揺すられる。視界が真っ暗なのはなぜだろうか?でも、感覚で俺の体が揺すられていることはわかる。

 ゆさゆさゆさゆさゆさ。

 今度はさっきよりも、もっと強く揺すられる。あ〜そんなに揺らさないでくれ。頭がぐわんぐわんする。
(あれ?)
 そこで、俺は思い出す。俺の視界が暗いのは確か、寝ていたからだ。寝ていた?そこで、少し違和感が走る。
「あー!」
 俺は叫ぶと同時に飛び起きた。そうだ。俺は事故に遭って、ここにいるんだ。それで、偶然ここに流れ着いて拾ってもらえてたんだった。それでそれで……。頭を抱えて勢いよく左右にぶるんぶるんと振る俺は、視界の端にちょっと困ったような表情をしている女性を捉えた。
「あ……」
 俺の動きが止まり、一気に赤面する。そんな俺を颯沙は声を忍ばせてクスクス、と笑う。恥ずかしかったけど、嫌な気分じゃなかった。行き場を失った手は、俺の頭を掻いた。
「ご飯、できてるから食べに来てね」
 そう残すと、颯沙はまた奥に消えていった。俺も気合を入れ全身を動かす。上半身も下半身も問題なく動く。今までちょっと休みすぎたくらいだ。手を開いたり閉じたりしてみる。ある程度それをした後、両手を肩から大回転。調子はいい。俺はなんとなく嬉しくなって回転を続ける。
(って何やってんだ俺!)
 自分で自分に突っ込みを入れる。妙な虚しさと恥ずかしさが胸を埋めつくす。きっとお笑いでスベったらこんな感じなんだろう。けっこうつらい。家に帰ってお笑いを見たら、多少面白くなくても笑ってやろう。まあ向こうは液晶の前の俺を見ることなんてできないのだが。
 ベッドの脇にはスリッパが置かれていた。きっと颯沙が置いてくれたものだろう。こういう小さな気遣いに感謝する。俺はそれを履き、颯沙が待っていると思われる台所に行こうとして足を止める。少しこの部屋を見渡してみる。この家は木造のようで、この部屋は客室のようだ。俺の寝ていたベッドも木製のようでやたら木製の物が多く、多少違和感を感じる。でも、よく考えてみると、家電製品以外は普通木造のものは多い。この部屋にはその家電製品がないだけである。
 颯沙をあんまり待たせるのも、他人の家を好奇の目で視察するのも悪いので俺はゆっくりと部屋を後にした。おいしそうな匂いと温かい暖気が俺を包む。見ると、颯沙は二つのお皿にシチューを盛り付けており手を洗っていた。スプーンと牛乳が綺麗に置かれている。
「ごめん、待ったかな?」
 俺の声に反応して颯沙は振り返る。どうやら水の音が俺の足音を消していたようだ。
「いえいえ、今盛り付けが終わったことですよ。座って温かいうちに食べましょう?」
 俺はそう笑顔で颯沙に促され、素直に従う。でも、一つ気になった。タオルで手を拭く颯沙の横に見慣れないものがあったからだ。それは木造で、柔らかい雰囲気に包まれているこの家にとても不釣合いなものだった。真っ黒で、上が尖っている五角形の物体がある。見たところ、金属でできているようで、重量もかなりありそうだ。冷蔵庫、と言われれば少し見慣れないが納得できなくもない。そんな物だ。気にはなったが、湯気をもくもくと上げている颯沙のお手製のシチューの誘惑に空腹感を取り戻していた俺は負ける。温かいシチューは冷めるので今しか食べれないが、あの黒い物体のことはいつでも聞ける。焦ることはない。俺は席に座るとスプーンを取った。



「ねえ、颯沙。俺ここのことよくわからないんだ。よかったら教えてくれないかな?」
 食事を終えた俺は颯沙に聞く。颯沙は最初から量を少なめに盛っていたらしく、早々に食べ終わり俺が一生懸命食べる姿を嬉しそうに見ていた。見られていることに気付いて、ちょっと恥ずかしかったけど、おいしかったので夢中で食べていた。少し行儀が悪かったかもしれない。
「いいですよ。えーと、まずここは薩院島(さついんとう)という小さな島なの」
「薩院島……。あんまり聞かない名前だね」
 俺が知らないだけかもしれないが。俺の貧困な脳みそはそんな地名覚えていない。島の名前で覚えているのは、択捉島や沖ノ鳥島くらいだ。
「そうねぇ。確かに知らないのも無理ないかも知れないですね。ひょっとしたら無人島ということになってて、名前が貰えてないのかもしれないですね」
「え? じゃあ薩院島って言うのは?」
「私が付けた名前ですよ。この島は私しか住んでいませんから」
 颯沙はおかしい名前ですか?と、少し不安げに尋ねてきた。だが、俺は曖昧に笑い別のことを考えていた。
 この島は颯沙しか住んでいない。自立するにはまだ早いだろうこの少女が、無人島とうたわれるこの小さな島で一人で住んでいる。確かに、颯沙は料理は上手いし、掃除だってできそうだ。洗濯だって……家事全般のとこはそつなくこなせるだろう。生活能力はあると思う。でも、やっぱり何か引っかかる。俺は両親はいないのか、と聞こうとするがやめる。こんな無人島状態の島に娘を放っていく親だ。どうせ、ろくでもない親か死んでいるのだろう。つらい思い出なのかもしれない。そんなことを颯沙に思い出させて、颯沙の笑顔を曇らせたくない。
「あのさ、とりあえず友人も心配してると思うから一回家に帰りたいんだ。本州に渡るにはどうしたらいいかな?」
 両親が心配している、とは言いにくかった。
「本州? なんですか、それ?」

 ホンシュウ?ナンデスカ、ソレ?

 颯沙に言われたことが頭の中で復唱される。
「え? 何言ってるんだよ颯沙。本州だよ。ほら、日本の中で一番長〜い島」
「日本? 確かにどこかで聞いたことあるような気はしますね。でも本州は聞いたこと有りません」

 ニホン? タシカニドコカデキイタコトアルヨウナキハシマスネ。

 俺は焦る。目の前で無垢に笑顔を向けてきてくれている少女が別人に見えてくる。人間じゃないように、人間という皮を被った別のものに思えてくる。落ち着け、沙雅。何も驚くことじゃないだろう?彼女はこのほぼ無人島に一人で暮らしているんだ。ひょっとしたらこの島から一度も出たことが無いだけで、子供の頃に両親からちょこっとだけ日本の話を聞いていた。そんなかんじだろう。そうだ、日本人だからといって、必ずしも日本を知っているとは限らないだろう。落ち着け、俺。
「そっか。困ったなぁ」
 緊張している心を和ませるように、俺は大げさにおどけてみせる。
「大丈夫ですよ、何日か一回ここにもおじさんが訪ねてくるんですよ。そのおじさんに聞いてみるといいです。おじさんは物知りですからきっと大丈夫ですよ。だから、それまでは一緒に過ごしましょう?」
 颯沙の申し出に俺は快諾する。颯沙が楽しそうに話すので、そのおじさんも日本人であり又いい人なのだろう。そのおじさんが来ること、つまり俺が本当の意味で自分の立場を知ること。その日までは、颯沙と一緒に笑っていようと思う。ここが日本から遠く離れたところでもいい。帰れなくてもいい。そう思うのは親不孝かな?親父達は生きてるのかな……

 でも、俺は今ここで生きている。



――某ラジオ番組

 次のニュースです。

 一昨日未明に起こった旅客機墜落事故の捜査は難航しています。
 墜落原因を調べようにも機体の損傷が激しさと、海上であることが相まって困難を極めています。政府はそんな中、明日から機体の部品回収、及び死体の引き上げと銘打って大規模な作業を始める模様です。
 なお、現在までに身元がわかっている死亡が確認された方は、X県の足立拓郎さん、X県の矢吹義和さん、X県の平山祥子さん、X県の山本ひかりさん、X県の鷹上沙雅さん、X県の栗本元さん…………
 もう一度繰り返します。X県の足立拓郎さん、X県の矢吹義和さん、X県の平山祥子さん、X県の山本ひかりさん、X県の鷹上沙雅さん、X県の栗本元さん…………

 心からご冥福をお祈りいたします。



  3


 小鳥のさえずりにより、目が覚める。なんていい朝なのだろう。朝の太陽の光がカーテン越しにさんさんと降り注ぐ。俺が住んでいたとこでは、こんな清々しい朝なんて迎えた事が無かった。俗に言う、田舎の良さってやつだ。俺は今まで、田舎の良さという言葉には、無礼やさげすみなどの感情を持っていたが、どうもそうではないらしい。本当に清々しい朝だ。
 俺は、最初に寝かされていたこの部屋を使わせてもらえることになった。不自由なことがあったら直しますので何でも言ってくださいね、と言った颯沙を思い出す。颯沙は本当に良い子だ。純朴な可愛らしさがある。ちょっと言い方は失礼だが、田舎がとてもよく似合うと思う。もちろん良い意味で、だ。
 おっと、そろそろ起きないとな。今日は颯沙の生活の手伝いをしようって、俺の中では決めている。ここは颯沙しか住んでいないんだ。きっと、重労働を一人でしているに違いない。俺ができることは、颯沙の負担を減らすことだ。
 俺は勢いよくベッドから跳ね起きる。今日も体は好調である。後から来る怪我とかを負っているかもしれない、と少し思っていたがその心配はなさそうだ。両手、両足をチェックする。ふふふ、昨日のような恥ずかしい失敗はしない。今日は肩を回転させるのは2,3回にしておいて、ベッドから抜け出す。俺は失敗をバネに進化しているのだ!……もうちょっと大人になろうぜ、俺。


 起きて、隣の台所に入る。机の上には焼けたトーストが一枚置かれていた。その脇にはマーガリンといちご、りんごのジャムが置かれている。トーストが香ばしい匂いを発していることから、焼き立てということがわかる。今日も水道で、手を洗っている颯沙。本当に何に対しても丁寧な子だ。タオルで手を拭くと、俺の向かいの席に掛けた。
「いただきます」
「どうぞ、おあがりください」
 俺は手を合わせ、飯にありつけることに感謝する。昨日は俺が見られてたので、今日は俺が颯沙を見てみる。颯沙のお皿には、トーストが半分乗せられていた。
 ん、待てよ。昨日も颯沙って俺より少ない量しか食べてないよな。ひょっとして、いきなり俺が現れたせいで食料が足りないのかもしれない。
 そもそも颯沙ってどうやって食料を調達しているのだろうか?菜園を作っている。これはありそうだ。他には、釣り?いや、女の子って釣りとかあんまりしないよな。あ、そうか。あの昨日言ってた「おじさん」から分けてもらっているか、購入しているのかもしれない。それなら余計に必要な分しか、颯沙の分しか食料はないはずだ。
 俺は目の前にある、トーストを食べることをためらった。
「どうしました? あ、ひょっとして朝は和食派ですか? すいません。昨日の内に聞いておけば良かったですね」
「い、いや、そうじゃないんだ。なあ颯沙。こういう食べ物ってどこから調達してるんだ? ひょっとして俺をまかなうのにすごく苦労とかしてるんじゃ?」
「あ、そんなこと気にしてたんですか? あはは、大丈夫ですよ。菜園や畑もありますし、水田もあるんですよ。今年は稲、植えなかったんですけどね。それにおじさんもいろいろと差し入れしてくれます」
 颯沙は笑って答えてくれた。俺の思い過ごしだったみたいだ。良かったと思う。俺は颯沙の助けにはなりたいけどかせにはなりたくない。それに菜園や畑があるのなら、俺が助けになれる。
「それだったらさ、俺が農作業手伝うよ。男手があった方がいいだろう?」
 俺はガッツポーズをしてみせる。運動神経や体力には自信が有る。
「うふふ、ありがとうございます。それじゃご飯食べてちょっと休憩したら、手伝ってもらえますか?」
「よし、じゃあ早く食べないとな」
 俺は、皿に乗っているトーストにかぶりつく。少し冷めてしまってはいたものの、十分においしかった。颯沙が焼くだけでこれだけおいしくなるんだ。焼き立てほやほやを味わうことができなくて少し残念だったが、明日があるのでいい、と思う。
 俺はどんどん食を進める。はぐはぐはぐ……
「あ……」
「ん、どうしました?」
「いや、ジャム付けるの忘れてたな、と思ってさ」
「だったら、今から付けましょうよ。ほら、おいしい苺ジャムですよー」
 そう言って颯沙は苺のジャムを俺に勧めてくる。でも、実は俺はそういう苺系のものが全体的にだめだった。
「ごめん颯沙。俺、苺系のものだめなんだ。だからこっちのりんごの付けるよ」
 俺はりんごジャムを手に取り、ふたをひねって開ける。
「そうですか。残念です。苺ジャムおいしいですのに」
「ごめんな、颯沙」
「苺はだめですか。なら明日も絶対りんごジャム付けて食べてくださいね」
 颯沙は笑顔で言う。俺はうなずく。自分のために料理を作ってくれる人がいるというのはいいものだ。俺はそう思いながら、残り半分くらいになったトーストにりんごジャムを塗るのだった。


 俺はトーストを食べ終え一息つく。颯沙がタイミングを見計らったかのように牛乳を出してくる。颯沙いわく、毎日の元気の元らしい。牛乳は好きではなかったが、嫌いでもないので一気に飲み干す。皆は牛乳を、どろどろしてるとか、臭いから、と嫌がるけどそんなこと気にしてたらいろんな物が食べられないと思う。
 颯沙の方に目を向ける。颯沙がちょうど牛乳パックを片付けていた。その牛乳パックは見たことのない種類のものだったが、白地に黒のマジックのような物で「牛乳」と書かれているので、おじさんの差し入れか何かだろう。颯沙はそれを、昨日も見た黒い五角形の物の中に入れる。やはりあれは冷蔵庫のようだ。
「颯沙、やっぱりそれって冷蔵庫なのか? あ、冷蔵庫ってのは食べ物とか保存しとく物なんだけど」
「ん、冷蔵庫は知りませんけど、そういう物だと思いますよ。便利ですよね、果物はいつだって冷えてますし、焼き芋とかはいつも熱々で食べれますし」
 颯沙は笑顔で言う。
 ん、待てよ?何かおかしいぞ。焼き芋がいつも熱々で食べられる?保温機能付きの冷蔵庫か。いや、そもそもそんな物あったっけ?あったとしても、保温じゃいつも熱々とはいかない。それに冷蔵庫は知らないらしい。
 俺はいまいちよく掴めないでいた。俺が当たり前に使っていた言葉が通るときもあれば通らない時もある。焼き芋は知っているのに冷蔵庫は知らないって……食べ物の名前は世界共通ってことか?いや、この場合は世界ではないか。ここ、一応日本っぽいところだし。まあいい。元々ここは特殊なんだ、無人島だし。
 そんな考えにふけっていると、少しは時間が過ぎたらしく、颯沙はもう片づけを終えていた。
「よーし、んじゃ行くか」
「あれ? 少しお休みしないんですか?」
「もちろんだ。昨日から世話になりっぱなしだからな。どんどん行くぜ」
 それじゃあお願いします、と頭を丁寧に一回下げてから。颯沙は入り口に向かう。その優雅な仕草に、俺は少しドキッとする。
「ついてきてくださいね。まずは、果物でも取りに行きましょうか」
「おう、木登りなら得意だぜ」
「ふふふ、木になんて登りませんよ。落ちているのをちょこっともらうだけです」
 なんだか最近俺の元気って空回りしてばっかりだ。だが、へこんでいる場合ではない。今日からおじさんが来るまでこの島で生きるにはこういうことは大事だ。颯沙にちゃんと教えてもらって、何かあったら俺一人でもいろいろなことをできるようにしておかなければならない。
 颯沙は準備ができたみたいで、少し大きめのかごを持って、俺のほうに手を振っている。俺は急いで颯沙に追いつくと、かごに手をかける。
「これくらいは持つよ」
「うふふ、ありがとうございます」
 颯沙は俺にかごを渡すと、嬉しそうに小走りに走っていく。ちょっと行ったところで俺の方に振り返る。
「おいしい果物、あるといいですね」
 昨日に見た颯沙は、おっとりとした感じで優しい笑顔だった。でも、今俺に笑顔を見せてくれている颯沙はすごくお転婆な、少しいたずらっぽい無垢な少女の笑顔だった。どっちの笑顔も素晴らしい。颯沙の新しい良さを発見できて嬉しい。
 おいしい果物、拾えたらいいなぁ。



――某週刊誌の取材記事

記者「今回の『私はこれで大富豪』は世界各地でお宝を発見するトレジャーハンター、鷹上拓也(たかがみたくや)さんです。どうも、こんにちは。今日はよろしくお願いします」
鷹上氏「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
記者「早速ですが今回のお宝の発見、おめでとうございます」
鷹上氏「いえいえ、あれはね、偶然だったんですよ。元々私は沈没船の方が専門でしてね。今回も私の友人が回してくれた、沈没船の探索のはずだったんですよ」
記者「しかし、鷹上さんはそこで沈没船ではなく、別のお宝を発見したんですね」
鷹上氏「ええ、もうあれは運がよかったとしか言えませんよ。なんとなく何かはある、と思ったんですけどね。これもトレジャーハンターの血ってやつですかな?あっはっはっは」
記者「トレジャーハンターになった理由などうかがってもよろしいですか?」
鷹上氏「う〜ん、なんでなったかと言われてもね〜。困っちゃうよ。ま、強いて言うならお宝が俺を呼んでいた、みたいな。あっはっはっはっは」
記者「それで、今回のお金の使い道などはもうお決まりになられているんですか?」
鷹上氏「んー。とりあえず、今回の話を回してくれた友人に何割か渡しますよ。元々は彼のおかげですしね。それで飲みに行きましょう。よかったら貴方もどうです?」
記者「はっはっは。いえいえ、慎んでご遠慮させていただきますよ」
鷹上氏「それは残念ですね。あ、あと家族を旅行に連れて行ってやろうと思います。息子が外国に一度行ってみたいと言ってましたから。残りは貯金ですね。この仕事はいつどこでぽっくり逝くかわかりませんから。特に海中作業が多い私のような者は」
記者「鷹上さんは家族思いの良い人ですね。それではこの辺りで。今回はお話、ありがとうございました」
鷹上氏「いえいえ、こちらこそ。また呼んでくださいね。こういうのは好きですからどこからでも飛んで来ちゃいますよ」
記者「最後まで陽気な鷹上拓也さんでした。それでわ」

2005/04/04(Mon)10:02:55 公開 / 灰羽
■この作品の著作権は灰羽さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
帰ってまいりました灰羽です(滝汗
足の手術などいろいろありましてものすごく長い間消えていましたが、再開しようと思います。
長い間無断で消えたことをお詫びします(礼
それに伴い、推敲して書き直した部分もあります。それに実はもう最終話まで書いてたり(汗汗
ので、今回は途中で消失することはないはずです。がんばりますー。
感想くれたら嬉しくて飛び跳ねます。そして直したばかりの足をまた……(苦笑

え〜と、タイトルが未定です。なんというか思い浮かびません(滅
ぴったりだ、というのがあればご一報くださ……(切腹


甘木さん、初めまして。お読みくださりどうもです(礼 調書についてですが……私自身まだ青いガキなのでそこまで考えが行き届きませんでした(汗 今後いろいろ検討して、修正していきますね。
貴志川さん、お読みくださりどうもです(礼 バイオハザードですか、私は恐くてできません(泣 走り書きですか。確かに調書のようなきちんとしたものじゃなく、走り書きの方が近いかもしれませんね。
ゅぇさん、お読みくださりどうもです(礼 覚えてる人がいてくれて感激です(嬉 でも、今回の書き直しはどちらかと言うと、要らない場所を減らした傾向が強いんですよね。他にも、一単語だけポツンと変えてたりとか。ですから、かぶってるところはあんまり楽しんでいただけないかもしれません(汗 それでも最後までお付き合いいただけたら飛びはねます。

それにしても、調書について突っ込まれるとは思ってませんでした。やはり他人に見てもらうことによって、自分では気付かないものがたくさんあるんですね。読んでくれたみなさん、本当にありがとうございました
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