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『赤い服のショコラ 一話〜最終話』 作者:光歌 / 未分類 未分類
全角10997.5文字
容量21995 bytes
原稿用紙約42.65枚





赤い服のショコラ







「涙なんてものは、存在しないんです」
赤い服のショコラは、そう言った。
ショコラの言うことは、全て可愛らしいけど。
間違ってるよ、君は。
涙は存在するのさ。
人々の心に、僕の手の平にね。

赤い服のショコラが、初めて僕の城に来た日。
それは、真っ赤な夕日が美しい日。
僕の護衛を決める、大切な日だった。
入ってきた君は、ふわふわと赤いドレスを靡かせ、僕に一礼した。
その時から、僕は君の虜なんだよ。
君は美しい歌を聞かせてくれたけれど、僕は耳に入らなかった。
それに、君のその強さ。その魔力。
僕を守るのに相応しいって?
そうだね、君はとてつもなく強い。
でも僕は、君に守ってもらうよりも、君と一緒に、豪腕の兵士達に守られるよ。

「ソナチネ様?」
「ああ、ごめんよショコラ」
「いえ、考え事ですか?」
君はいつでも赤い服。
僕の好みで、赤い服を着てくれる。
「僕と友達になってよ」
僕は言う。
赤い服のショコラは、いつも微笑んで側にいるだけだもの。
「ソナチネ様じゃなくて、ソランって呼んで」
ショコラ、僕と一緒に王室で暮らそう。
――愛の気持ちを伝えるには、まず友達から始めなくては。
侍女がね、そう教えてくれたんだ。
「私は、ただの城の歌姫ですから」
「それでもいいよ。ね、友達になろう」
友達になってよ。
「ソナチネ様には、もっと気品のある高地位の方がお似合いです」
微笑んで、ショコラはそう言った。
いつものように、優しく微笑んで。
裏切られた気分だ。
優しい余韻が、少し残った。

「ソラン様、またショコラ様に振られたんですね?」
クスクスと笑いながらやって来るのは、手の平サイズの僕の妖精。
薄い桃色の髪を持ち、背にはアゲハ蝶の翅を持つ、少し生意気なエルフの精。
「うるさいなぁリアは。お前には関係ない話だよ」
そう言う僕の表情は、笑ってた、と思う。



私がここへ来たのは、夕日の赤い不思議な日。
私は生まれつき力を持っていた。
「ショコラ・ファウェル様、どうぞお入りください」
黒いベストを着た老人に案内されて、私は広い玉座の間に来た。
この力を生かせるのは、王を守る仕事だけ。
なのに、そこに待っていたのは。
まだ私と同い年程の、少年だった。
私を見た瞬間に、目を丸くして。
一礼して、一応歌を歌って、それからまた礼をした。
「私には、力があります。是非、あなたを守る為に使いたいのです」

彼は、私を城に置いてくれた。
でも、あの方は…ソラン・ソナチネ様は、私を護衛役にはしなかった。
当たり前よね、だって私は子供だし…それに…
私には、目的がある。
ソナチネ様とは、友達にはなれない。

探しているから。
たった一人の…私の空を。

明日、お別れといたしましょうか。




「ショコラ、どうして僕の友達になってくれないの?」
僕はいつまでも聞くよ。
君が友達になってくれるまで。
「ショコラの望むモノは何でもあげる」
友達になって。
それから恋人になって。
一緒に玉座に座ろうよ。
「ありがとうございます、でも…」
赤い服のショコラは、微笑むだけ。
僕の友達になってよ、ショコラ。
「私には、目的がありますので」
「目的?」
そんな話、初めて聞かされた。
初めて聞く、ショコラの真剣な声。
でも、表情は変わらず穏やかで。
どこか新鮮で、興味深くて。
「空を探しているんです。私の青い空」
ショコラはふわりと微笑んで、赤いドレスを靡かせる。
「目的を果たした頃、私は白い服のショコラ」
タン。

堅い音がした気がした。
なんだろう、と思った瞬間、僕は一瞬で理解した。
「そんなところに登っちゃ危ないよ、降りておいで、ショコラ」
テラスの柵のふちに、赤い服が靡いていた。
微笑むその少女は、まるで血塗れた天使。
僕の心を掻き乱す、優しい堕天使。
「…次にお会いする時は…」



――私は、白い服のショコラ



赤いモノが、ふわりと僕の視界から消えた。





僕の前から、赤い服のショコラが消えた。
どうしてかなって、今でも時々考えるよ。

君の望むモノは、何でもあげたのに。
王室で一緒に、優雅な暮らしをしようよ。
ねぇ、なんで友達になってくれなかったの?

アスファルトの道路で見つかった赤い服を、僕は見ることが出来なかった。
ショコラの太陽のような金の髪も、雪のような白い手も、真っ赤だったと侍女は言う。
どうしてかな。
僕に、何が足りなかったんだろう。

「リア」
気晴らしに、僕は妖精を呼ぶ。
小生意気なこの妖精も、今日ばかりは僕に優しかった。
「ショコラはどこにいるの?」
護衛役を決める時に僕の前に現れた、あの赤い服の少女はどこ?
素晴らしい歌を聞かせてくれて…でも僕は聞いていなくて、一応城の歌姫にと、僕のお城に留まらせておいたんだ。
午後の柔らかい日差しを浴びて、ますます輝いていたあの金の髪はどこ?
「ご遺体なら、地下室に」
ご遺体ってなに?
ショコラは死んだの?
ねぇ、あの赤い服の少女を、僕は――
「見に行ける?」
「勿論です」
僕は何を言ってるんだろう。
ショコラは死んでいないよね?
そうだよ、ショコラは死んでない。ね、そうだよね?
「参りましょうか、ソラン様」
リアの少し甲高い声も、今日は異常なほど優しく聞こえた。

コツン、コツン
地下室への石の階段を下る。
その度に、硬い音が僕の耳に響く。
コツ、コツ…
地下室に近づくにつれて、どことなく甘い香りがしてきた。

「…こんにちは。赤い服の、ショコラ」
僕の目の前にあるのは、純白の花と赤いドレス、そして金の髪。
眠る彼女の表情は…長い髪に隠れて見えない。
僕は今、どんな表情をしてる…?
「会いにきたよ」
僕の声は、君に届いているかな。

――涙なんてものは、存在しないんです

存在するよ、ショコラ。
人々の心に、僕の手の平に。
この意味は、いずれ分かってくれるよね?
「…リア」
「わかっています」
ふわりと暖かい風が吹いて、小生意気な妖精は姿を消した。
なんて聞き分けがいいんだろうね、僕の小さなエルフの精は。

この動かない赤い服を見つめながら、僕は微笑むことが出来るだろうか。
口元を、吊り上げてみる。
ああ、出来た。
笑えたよ、ショコラ。
「ねぇ…。友達に、なって」
独りぼっちなんだ。
お父様もお母様も、亡くなられてしまった。
僕はこのソナチネの城で、独りぼっちなんだ。
だから、歳の近い君が側にいてくれたとき、凄く幸せだったんだよ。
もう、口では表せないくらい、凄く凄く嬉しくて…涙が出そうなくらい嬉しくて。
「ショコラ、君はどこにいるの…?」
ねぇ、僕は今何をしたらいいの?
答えてよ、僕の大好きな、赤い服のショコラ。
ねぇ、答えてよ――

青い青い空の下で、僕は呆然と立っていた。
ふわふわと僕の髪を揺らすのは、暖かい春の風。
――私は、赤い空に捕まってしまったんです
雲のずっと上、空のずっと奥で、ショコラの優しい声がした。
――…だから、あなたは赤い空に攫われないように…
僕は叫びたかった。君の名前を、僕の気持ちを。
でも何故だろう。
声が空に吸い取られる。
息を吐いても、ひゅうっという掠れた音しか出ない。
――あなたが攫われないために、私はあなたと友達になれない
ショコラ、そんなこと言わないで。
僕は独りなんだ。これからもずっと、ずっと独りなんだよ?
――青い空の果てでお会い致しましょう…
青い空の果て?
そんなところ、知らないよ、ショコラ。
ねぇ、僕のところに帰っておいで…そっちに行っては危ないよ、ショコラ。
――今だけサヨナラ…ソラン

暗い暗い地下室で、僕は呆然と赤い服を見つめていた。
赤い服…?いや、違う。
よく見ろ、これはリボンだけだ。
ショコラの遺体も、赤い服も、無い。
どこへ行った?ショコラ、やっぱり生きてるんだね?
青い空の果てで、僕を待っているんでしょう?
そうだよね、だからショコラはいないんだ。
赤い服のショコラは、まだ生きているんだ。

涙が出るほど複雑で、悲しかった。
ショコラは消えてしまった。
赤いリボンを残して。
僕はまた、独りぼっちだ。
ショコラはもういない。青い空の果てへ行った。
空の果てなんて、僕に行けるはずないもの。
でも…ショコラは生きてるよ、絶対。
…さっきのショコラの声はなんだったのだろう。
僕の夢?それとも、ショコラの…力?
あれは、なんだった?
怖いよショコラ、何か来そうで。
ショコラ、お願いだから僕の側にいて。
ショコラ、お願いだから僕と一緒に、ずっと一緒に…
独りぼっちなんだ、ねぇ、怖いよ。
どうして、ショコラ、どこへ行ったの?
「ショコラ」
ねぇ、涙は存在するよ。分かる?
人々の心に…僕の手の平に。
ショコラ、戻ってきてよ。
青い空の果てへ行くの?そんなの嫌だ、僕も行くよ。
君は青い空を探しているんだよね?それがあれば、戻ってきてくれるの?
僕の力で、探してあげるから、帰ってきてよ。
僕が探してあげるから――


「ソラン様!ソラン様!」
「うるさいよ、止めたって行くんだ。僕は…」
もう独りは、嫌なんだ。
「お待ちくださいソラン様!ショコラ様のご遺体は必ずや私めが…!」
しつこいな、侍女や兵士は。
君達は黙っていればいいんだ。
これは、僕一人の問題なんだから、口を挟むな。
「リア、行くよ」
黒いマントの紐を結んで、僕は妖精リアを呼ぶ。
僕は今から、真っ直ぐに向かうよ。
青い空を、探しに。
きっとそこに、ショコラが微笑んで待ってる。
最後に、呼んでくれたよね?
“ソラン”って。
ね、だから今行くよ、赤い服のショコラ。
だから君はただ、優しく微笑んで待っていてね。




僕が血塗れた狂人への道を進むことになったのは、
これが始まりだった。






どこへ向かえば、君に会えるの?


もう一つの場所、もうひとつの世界で、もう一つの物語が幕を上げる。



「炎の精霊よ、悲しみに唄い怒りに踊れ…!」
ぼうっ。
一瞬で、蝋燭に炎が灯る。
「…そろそろ、平気かな…」
燃え盛る炎を見て、少し安心する。
私の家系は、先祖代々戦好き。
私もその家系…イクス家に生まれた為、男のように勇敢になるようにと育てられた。
私の姉も随分厳しく育てられたみたいだったけれど、二年前に亡くなった。
生まれつき盲目だった姉は、それでも歳の離れた妹である私を守ってくれた。
せめて私がもう少し強ければ、と、何度後悔したことだろう。
――後悔しても、先は見えない
そう教えてくれた、あの人は…今は、遠い遠い青空の果て。
赤い服を着た、私の幼馴染の魔術師…。
その名は、ロイア・ショコラ。
変な名前だと思うけれど、その人自身も十分変わり者だった。
雰囲気はどことなく暗い感じで、でも本当はとても優しくて、悪戯好き。
でも、悩みなんかはきちんと聞いてくれて…心を開けば、受け入れてくれる。
そして、彼の唯一の探し物は…青い空。
そんな彼は、一年前に死んだ…と、思っていた。

赤い服のロイア・ショコラは、私と同じ攻撃系の魔術を得意としていた。
魔術なんてものを信じる信じないは人の勝手だと思うけれど、現に私達は力を持っている。
キメラやエルフや精霊なんかを操る者も存在する。私の姉が、このタイプだった。
ロイア・ショコラは、突然死んだ。
誰もが認めた、自殺。
ダボダボになった赤い服を着たまま、家の屋根から飛び降りたのだという。

その時は悲しかった。
ショコラとはとても仲が良かったし、私はショコラが大好きだったから。
ううん、大好きというより…恋してたし。
だから、凄くたくさん涙が溢れた。
今でも好きよ、ショコラのことは。
でも…その涙の意味は、打ち消された。
彼は死んでいなかったから。

ショコラは赤い空に攫われてしまった。
それがどういうことなのか、私には分からない。
ただ、赤い空に攫われた。
本人が言ったのよ、とある方法を使って。
そして今は、青い空の果てで、私を待ってる。
――今だけ、お別れ…ジャンヌ
そう言われた。


そろそろ、この家を出ても平気かな。
姉は死んだし、父母は元からいない。
青い空を探しに…赤い服のショコラを探しに行く為に、私は強くなる。
だから、嫌いな勉強もしたし、不得意な治癒魔術も使えるようになった。
誰も、私の帰りを待っていないんだもの。
どうせ今出て行っても、同じこと。
どうせなら…旅の途中で死んでも構わない。
もしかしたら、そうすることでショコラに会えるのかもしれないでしょ?
なら、死んでみるのも悪くないと思う。
ああ、私って、こんなこと考えるほどショコラが好きなのね。
でも、こういうことを考えるのはやめよう。
私が死んだら…お姉ちゃんにあわせる顔がないもの。
「ごめんね、お姉ちゃん…」
だから今は…赤い服のショコラの元へ。


青い空を探すなんて、バカじゃないの。
そんなことを、前にショコラに言ったことがある。
だっておかしいでしょ?青い空なんて、頭上にあるじゃない。
でもショコラは変人だから、その辺がおかしいんだろうな、なんて思っていた。
今では、私も十分変人ね。


ねぇ、どこに向かえばいいの?

空なんて…どこにあるの?

頭上にある空は、青い空ではないの?



考える度に、目頭が熱くなった。
何で、こんなときに、涙が出るんだろう…。
私は戦いの家系に生まれた娘。
強く強くと願ってきたのに。
だから、あなたのために、私は旅立つのよ?
あなたに代わって、青い空を探しに行ってあげるから。
「…ショコラ…」


ねぇ、どこにいるの?

どこで笑ってるの?


考えれば考えるほど、押しつぶされそうで。
私の心にある気持ちが、私を死に追い遣ってるみたいで。


もう二度と、私の側には戻ってこないの?

赤い服の…ショコラ。





やっぱり僕は、ショコラが好きだった。


青い空を探すのは、大変だろうね。



「ソラン様、青い空なんて無茶です!」
相変わらず少し甲高い声で、リアがしつこく叫ぶ。
うるさいなぁ、探してみなけりゃ分からないだろう?
「無茶じゃないよ、僕は青い空の果てへ行く」
「青い空なんて、そんなの無理です!どこにも無いじゃないですか!」

そうだ。この世界は、白い世界。
空は白く、常に曇っている状態。
虚無の空。白い頭上。

「いいじゃないか。探しがいがあるよ」
少なくとも、頭上にいつも青空が広がる世界にいるよりも…
探し外がいが、あるってものさ。
そういうことだよね?僕の大好きな、赤い服のショコラ。


◇◇◇

――私には力がある。
――だから、仲間も武器も要らない。
私はそう言って、旅の武器屋や共頼みの若者を振り切った。

おかしなものだと思う。
私のほうがどう見ても年下なのに、お供させてください、なんて。
はっきり言って、馬鹿げてる。
私の目的は一つだけ。
その為に、それだけの為に…私は今、生きていると思う。


ごめんねショコラ。
迷惑かもしれないけれど…これは私が望んで止まないこと。

…今、行くから。



今、ふと。
一瞬だけ。
黒いものが見えた気がした。

見えたのは一瞬。
でも、目に焼きつく姿で。
黒髪で、黒いマントで…その傍らにいた、小さな小さな…あれは、妖精?
そんなことはないわ、妖精なんて、この世界にいないもの。
それに、その人の頭上に広がる…何も無い、虚無の空。
ああ…しっかりしなさいジャンヌ、ショコラが恋しくて幻影まで見るなんて。
ショコラを思った直後に、何を見てるの。


私って、狂ってると思う。
はっきり言って、馬鹿げてると思う。
それでも、ショコラを探したいと思う。
だから私は…いつまでも弱いと思う。

でも、私はショコラが好きだから。
誰よりもショコラが好きだから。
もっと強く、もっと強くなろう。
ねぇ、ショコラ…


――僕は、青い空の果てへ行く


…ああ…まただ…。
黒い服。黒い髪。傍らの…妖精。
私がショコラを思い出す度に、それを拒むように現れる“黒”。

あなたは…誰?


◇◇◇

「…ソラン様?ソラン様?」
「…ああ、ごめんよリア…」

ショコラを思い出した直後のことだった。
僕の瞳に見えた…少女だろうか。
ショコラとは似ても似つかない、灰色の長い髪。
ボロボロの白い服を着、共の妖精はつれていない。

見えたのは一瞬だけだった。
でも、その姿は、目に焼きついている。

「ソラン様、いかがいたしました?」
リアの甲高い声も、遠くに聞こえる。
それでも変に思われないようにと、僕は笑顔を作った…つもりだ。
「いいんだリア。ショコラのことを考えすぎて、幻影が見えたよ」
そうだ。
僕はショコラを思うあまりに、狂ってしまったんだ。
ああ、あの血の様な赤い服が、側にいてくれたら。
こんな狂った僕を見て、赤い服のショコラは、微笑むだろう。

――私は狂ってると思う

「…リア…?何か言った?」
「…いいえ?何も…」
リアじゃないことは分かっていた。
今の声は、物静かで、リアとはまるで似ていない。
そしてまた見えた…灰色の髪の少女。
そして、少女の頭上に広がる…青い青い空。
また…ショコラを思った直後に。

…赤い服ショコラを思い出す度に、誰かの幻影が見える。
まるでそれは、違う世界を生きているが、同じ運命をたどる者。
なんてね、僕はいつからこんな、ロマンチストになったんだろうね。
「リア、もう行くよ」

ねぇ、灰色の髪の…少女さん。

君は一体、誰なのかな?





あなたは太陽だった。



「…ショコラ?」
「そう、ロイア・ショコラ」
初めて話したのは、名前を聞いたときだった。
週一回開かれる魔術の勉強会の時、偶然ショコラの隣の席に座った。
それから、他の人達が他人のはずの隣人と仲良く話していることに気付いて…。
気まずい気がして…勇気を出して、名前を聞いた。
「変わった名前なのね。私はジャンヌ」
「オンナノコって感じの名前だな」
「…そうね」
だって女の子だもの、と言ってみたい気持ちもあったけれど、ここは微笑むことにした。
「あなたの名前、面白くていいわね」
会話が続かない気がして、私はぎこちなく呟いた。
ショコラは不思議そうに私を見て、理由を問いかけるような瞳を向けてきた。
その表情に私は少し吹き出したけれど、なるべく明るい声で答えた。
「“ショコラ”なんて名前、滅多にいないわ」
「よく言われるよ」
苦笑いって、こういう笑いのことを言うのかわからないけれど。
彼は少し焦ったように、不自然な微笑を見せた。

それから、勉強会のときは、ショコラから話しかけてきてくれた。
私はいつも後ろの方の席を取っていたけれど、ショコラはすぐに私を見つけてくれた。

いつのときだったかな。
ショコラに言われたことがあった。
「勇気あるね、ジャンヌ」
どういうことをしたのかは忘れたけど。
その時のショコラの表情は覚えていないけど。
私はその時…ショコラが好きになった。


いつも赤い服を纏って来るショコラは、自然と皆の目を引く人物だった。
だから私は、そんなショコラを、ただ見ているだけの存在だったんじゃないかと思う。
だって、ショコラは結構女の子と仲が良かったし…。
それだけ、私は弱かった。
でも、週一回だけでも…話す機会がある。
それが嬉しくて嬉しくて、私は毎日笑顔を絶やさなかった。
少しでも…ショコラが振り向いてくれるようにと。

そんなときだった。
ショコラは、死んだ。
何も分からない。
ただ、死んだ。
世界から、魔導師が一人消えた。
それだけ。

ショコラは催眠術を使っていた。
だから私も、それを使われたんだと思う。
それで幻覚か何かを見せられたんだと思う。
それから…ショコラが生きていると分かった。

あのとき私は…真っ白な空の下にいた。
風は少しだけ吹いて、後は何もない。
ただ、空のずっと向こうから、赤い服のショコラの声がした。
――俺は、赤い空に捕まったんだよ
それは、何?
――…俺は、青い空の果てで待ってるから
そこは、何処?
――お前が、赤い空に攫われないように
なに、それ…?
――今だけお別れ…ジャンヌ


私の姉は、弱い私を守って死んだ。
当時幼かった私は、それがどういうことか分からなかった。
でも、ショコラが消えたあの日から、私は姉のことをよく思い出すようになった。

私が弱いから、姉は死んだ。
ごめんね、私のせいで、お姉ちゃんは死んだんだ。
強くなれば、きっとショコラは帰ってくる。
そのとき、私は笑っていられる。
……強くなろう。
過去も自分も使命も捨てて、強くなろう。
強く。
誰よりも、何よりも。


さよなら、幸せな…私の未来。






祝福を受けた赤い空――




「ソラン様?どうしたんです?ソラン様?」
ごめんね。
どうしてもどうしても、涙が溢れてくるんだ。
…ショコラを思い出す度に現れる、あの少女を見てから。
ぼろぼろの白い服を着た、灰色の髪の少女。
あの少女のいる場所は、青い空の下。
青い空の果て。
きっとあそこに…ショコラもいるんだろうね。
「ソラン様…?」

君は誰?

「ごめんねリア…一人にしてくれないかな?」
独りだった。
ずっと友達もいない。
だから、ショコラと友達になりたかった。
王宮で、優雅に…幸せに、なりたかった。
「承知しました」
「…ありがとう」
聞き分けのいい妖精。
溢れ出てくる、僕の涙。
「……君は…誰…?」
ねぇ、涙は存在するんだ。
人々の心に…僕の、手の平に。
君に分かるかな?
ショコラ…


――…君は誰?
――…あなたは誰?
――僕は…ソランだよ。君は…?
――私は…


「…どうして…?」
どうして?
何で、涙が出るの…?
私、強くなるんじゃないの…?

涙が出るようになった。
ショコラを思い出す度に現れる、あの少年を見てから。
黒いマントを羽織った、黒髪の少年。
彼の頭上に広がる、白い空。
あれはきっと、青い空の果てなんだと思う。
そこにきっと…ショコラもいるんでしょうね。

あなたは誰?

「……ねぇ、あなたは…誰…?」



◇◇◇


赤い服のショコラが、

青い空の果てのショコラが、

赤い空に攫われたショコラが、


側にいない―――


◇◇◇



朝の光が差した。

ジャンヌの青い空に、ソランの白い空に。
光はどこか優しく、それでいて二人の涙を誘った。
まるで、光に呼ばれているようで。
ショコラが光となって、自分達を迎えに来たようで。

ソランとジャンヌは、同時に光に手を差し伸べた。

瞬間、彼らの心に、溢れんばかりの安心感が湧き出た。
――…これでショコラとまた会える…
身体が浮いたような感覚。
光の中で、彼らの心臓は鼓動を早めた。



「名前、なんて言うの?」
ソランは突然話しかけられた。
見ると、そこにいたのは見ず知らずの少女。
それなのにどこか優しくて懐かしい少女。
ソランは彼女に、一目で心を開いた。
「…ソラン。ソラン・ソナチネ」
「…ソナチネ…?変わった名前なのね。私はジャンヌ」
微笑んで名を名乗る少女が妙に可笑しくて、ソランはくすりと笑った。
「女の子って感じの名前だね」
「そうね」
二人は明るく笑い合った。
幸せな時を、優しく過ごした。
二人で笑い合い、幸せを造って、優しい空気を生んだ。



「もしもショコラがあなただったら、私達は幸せだったのね」
どこか眩しい、何処か遠くの場所に、二人はいた。
空の色は…美しい夕焼けの色。
二人のショコラが捕まった、赤い空。
「生まれてくる場所も、空の色も違ったけどね」
ソランは優しく微笑んだ。
ショコラに微笑みかけるように。
ジャンヌも安心して微笑んだ。
ショコラに明るく話すように。
二人の背後には、広がる赤い空と、鮮やかな赤い服が靡いていた。
「今だけサヨナラって言われたの」
「ショコラにだろう?僕もさ」
「凄いこともあるものなのね」
赤い服のショコラ。
微笑む二人の背後に、赤い服が靡いた。
赤い服のショコラ達は、どういう表情をしているのか分からない。
赤い空に溶け込んで、二人のショコラは消えているようにも見えた。
どこか脆い、儚げな赤い服が、空と混ざり合って消える気がした。
「ねぇ、ショコラ?」
「…何ですか、ソナチネ様…?」
ようやく聞くことが出来た、大好きなショコラの声。
それでもソランは、嬉しがるでもなく、ただ笑顔で彼女に聞いた。
「君は何で、あちらのショコラさんと出会ったんだい?」
ソランが見るのは、ジャンヌの背後の赤い服。
自分と同じ黒髪の少年、赤い服のショコラ。
「…ソナチネ様は、ジャンヌの幻影をご覧になったでしょう?…私は彼の幻影を見ました」
「どうして?」
「探してたんです。私の…青い空」

青い空を探していた愛しい人が攫われる。
愛しい人を求めて、違う人間が青い空を探す。
何かの心の繋がりを持って、相手が同じ目的の者の幻影を見る。
それを見て、涙すれば…赤い空に攫われる。

「…涙なんてものは、存在しないんだ」
「何言ってるの、ショコラ」
ジャンヌは振り返って、背後に立つ赤い服の少年を見た。
自分の背後に、捜し求めていた人がいる。
それでもジャンヌは、どこかあっさりとしていた。
赤い服のショコラ。赤い服の…ロイア・ショコラ。
「だから、人は脆い。いつも偽りの涙を流して生きているから」
「…それもそうだけれど、でも僕は涙を信じてるよ」
ソランは右手の平を見つめて、誰に言うでもなく、呟いた。
「…人々の心に、僕の手の平に…」
赤い服が、ふわりと風に靡いた。
二人のショコラは、微笑んで見えた。
ショコラ達は、赤い空にふわりと舞って…消えた。
まるで、彼ら自身が、赤い空の正体だったかのように。
――…今だけ、さよなら…


「君は空…いや、ショコラだったんじゃないかな?」
「え?」
ソランは赤い空を見つめて、ジャンヌの足元に腰掛けた。
「君の名前はジャンヌ・イクスだろう?“空”って言うのは、もう失われた国の言葉で“SKY”って言うんだ」
「…逆から読めば、イクスになるわね」
くすくすと微笑んで、ジャンヌは不思議そうにソランを見た。
「あなただって、名前に“空”が付いてるわ」
「…あ…そうか…」
二人は笑い合った。
幸せな時を、優しく過ごすように。
ソランが旅支度の時につけた、黒いマントは…いつの間にか、取れてしまっていた。

「ぼろぼろの白い服だね」
「今まで強くなるために、飾り気のないこの服ばかり着てたの」
「…白い服のショコラ」
「…青い空の果てで会えたね、ソラン」
「何でだろうね、何かいいね、こういう幸せも」

さよなら

赤い服のショコラ



「…ソラン様?」
ぽん、と、アゲハチョウの翅を持つ、可愛らしい妖精が姿を見せた。
もう日が沈む。
ソランが今朝『一人にしてくれ』と頼んでから、リアはずっと姿を消していた。
それなのに、もう日は沈んでしまう。
「…ソラン様、ソラン様?」
リアは飛びながら、高い声で主の名を呼んだ。
「…ソラ…」
呼びかけて、リアの動きが止まった。
その甲高い声も聞こえなくなった。

彼女の目の前にあるのは、主であるソランの、黒いマントだった。
そのマントからはみ出た、黒い髪。
何故だろう。
リアにはそれが、赤く濡れているように見えた。
それだけではない。
マントの端が、赤く染まっているように見えた。

…赤い服のショコラが死んだ場所で。


「ソラン様…?」



夕焼けの赤い空が、美しく輝いていた。
2005/03/13(Sun)16:06:31 公開 / 光歌
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■作者からのメッセージ
なんだかダークな終わり方ですね…;
一応これで完結という形になります。
最後までジャンヌは目立ちませんでしたけれど…一応、ジャンヌもソランもバッドエンドではないと思います。
なんでソランとジャンヌが出会ってるのとか、分かりづらいと思いますが…その辺、勘弁してやってください……;
では、レスくださった方々、期待に答えられない終わり方ですが…今まで読んでくださってありがとうございました!
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