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『我侭だから 【読みきり】』 作者:影舞踊 / 未分類 未分類
全角5468.5文字
容量10937 bytes
原稿用紙約16.4枚





 逃げるのは
 逃げる場所があるからだと
 思ってた



 逃げないのは
 逃げる場所がないからだと
 思ってた











 切なげに咲く花は綺麗で、凛として咲く花は見守っていたくなる。そんな丘。僕の大好きなこの丘は、夕日が綺麗に見える場所で、この町を一望できる場所。長い階段を上った後に待っているのがこの場所で、この景色。それからこの花達。豊かな緑と、澄んだ空気、そんな風に謳われてるこの町の観光文句通り、田舎ならではのいい環境だと思う。

 今じゃめっきり過疎化が進んでしまったこの町だが、僕が子供の頃はものすごく活気があったのを覚えている。もちろんその頃は今よりも田舎で、交通の便も、24時間開いてるお店なんてのもなかった。ん? っと待てよ。24時間鍵のかかっていないお店ならあったかな。まぁそれだけのどかで、ゆっくりした時間を持ってる日常だったんだ。
 もちろんそんな町に生まれた僕だから、自由気ままに、のびのび育った。周りの友達も似たり寄ったりの性格で、町全体が家族ぐるみの付き合いだった。古ぼけた商店街を通ると、店屋のおっちゃん、おばちゃんが話しかけてきて、お世辞でも言おうものなら駄菓子やコロッケ、たまには小遣いまでくれたもんだ。僕らはそれを貰ったら、まっすぐ駄菓子屋へ直行。おっちゃん、おばちゃんもそれを見て笑ってはいたが、よく考えれば可愛げのない子供だったのかもしれない。少し反省する。
 小遣いなんてものは金持ちのボンボンが貰うもので、僕らにとっちゃたまに手に入るそれや、自動販売機の下で見つけるお金だったりがその役目を果たしていた。そりゃそうだ。誰に貰おうと、どこで拾おうとお金に変わりはない。父ちゃんや母ちゃん、じいちゃんばあちゃんにですら、僕らはお金を貰わなかった。日ごろ手伝わされる野良仕事は当たり前のことで、それに代価を求めるなんて正気の沙汰じゃなかった。一回兄ちゃんと一緒に小遣いをせびりに行ったことがあるが、足が立たなくなるまで説教されたのを覚えている。
 とまあ、そんな具合の僕らだったんだからそりゃもうお金は重宝してた。重宝なんていっても大事に貯めておいたりなんかはしない。そもそも、貯めておいたのが見つかったら、なんやかんやの理由を付けられてお上に取り上げられてしまうからだ。そんな訳で、先にも書いたが僕らはすぐにそれを使って、すぐに食べた。
 その頃の僕らは腹が減ってたから、その使い道は間違っていないと今でも思う。そんなに貧しかったのかって言うとそうじゃない。家でも十分食べてたし、学校でも給食はお替りして空になってた。なんだろう、成長期ってやつだったんだろうな。今考えるとどうしてあんなに食べて太らなかったのかって気分になってくる。ま、腹が減っては戦はできないと言うしね。それが当時の僕らの合言葉だったように思う。
 そんな合言葉を交しつつ、僕らが向かうは駄菓子屋さん。この頃の駄菓子屋さんって言うのは、今で言うコンビニと同じかそれ以上の役割を持っていた。もっとも僕らにとっては、だが。僕らにとって必要だったのは、手紙を配達してもらうことなんかじゃなく、傘を売ってもらうことでも、化粧品を売ってもらうことでもなかった。ただ、食料の調達。それだけの機能があれば十分で、駄菓子屋さんは十分すぎるほどその機能を備えてた。
 基本的にお腹がすいてる僕らだったが、晩御飯のことも考え買うのは『高い』駄菓子を沢山だった。でも、時たまものすごくお腹がすいてることがある。そんな時は、決まってカップラーメン。いろんな種類があって、そのどれもが超高級品。持ってるお金で一つしか買えない。僕らはそれを毎回十分吟味してとにかく量の多そうなものを、とにかく味が濃そうなものを、と四苦八苦して選んだ。ある時、悩みすぎて駄菓子屋のおばあちゃんが寝てしまっていたことがあった。全くもってお恥ずかしい。
 カップラーメンを選んだら、お湯を入れてもらいそのまま駄菓子屋を出る。「今日はどこで食べる?」決まりきった言葉もなぜか神聖化して、僕らは一つの場所を選び出す。夕日の見える丘。長い階段を必死で登る。お湯がこぼれないように、麺が伸びてしまわないように。(もっとも、たまにはわざと麺を伸ばして量を多く見せるという神業もやっていたわけだが、これじゃあちょっとおいしくないと3回目ぐらいで気づいた)
 町を一望しながら硬い石のベンチに座る。若干伸びてしまった麺だが、高級品には変わりなく、旨かった。カップラーメンを食い終わると、僕は決まってベンチから立ち上がり丘の端まで行く。その下は崖になっていて、見下ろすと背筋がすぅっとする。それを見た後、決まったように花達に水をやり、崖に腰掛けて、足を宙ぶらりんにしたら体勢完了。そのまま寝転び、春の風、夏の風、秋の風、冬の風。それらを体で味わう。見えるのは薄暗くなり始めた空と月と太陽と星。空に現われる全てが僕の視界に納まっていた。隣でゆれてた花達は僕らをどんな風に見てたんだろうか?



 つい先日、旧友と会った。凄く変わってて、一目見ても二目見てもわからなかった。馬鹿ばっかりやってて、女受けもあんまりよくなかったはずのあいつが、真面目で、でもどこか砕けてて、3枚目を気取る2枚目になってた。正直なところ、僕は嫉妬したんだけどそんなことを表面に出せるほど僕は人が出来てない。さらりと取り巻く女たちを払って、僕のところへやってきた。
「変わってないなぁ」
「お前は変わったな」
 そう言っただけで僕の中で何かが芽生える。なんでそんなものが生まれたのか、僕は僕で、彼は彼。同じ人間でも、僕は彼とは違う人間。そうわかってる。でも、
――なんでかなぁ
 きっと北に背を向けてたからだと無理やりの理由付け。彼とは懐かしい話もあったし、近況報告みたいなものもしたかった。けど、
「酒でも飲みに行くか?」
 彼は僕の言いたくなかった言葉をさらりといってのける。
 まただ。何でだろう。
 その日の夜。飲み屋で少し飲んでから、僕は用事があると言って抜け出した。
 文字通りの逃走だった。





「おじちゃん」
 不意に僕を呼ぶ声に振り向く。僕は自分で言うのもなんだが、そんなに老け顔じゃない。それでも僕をこんな風に呼ぶのには訳がある。振り向くとそこに立っていたのは見慣れた少女。夏祭りの季節だからか、浴衣を着ている。ほんのりと頬を赤らめているのは階段を上ってきたからか、暑いからか……ま、おそらくは、
 照れ隠し。
 この子が僕をおっちゃんと呼ぶのもそのせいだろう。見ず知らずの男に話しかける勇気があるのかないのか。元来女の子の気持ちに疎い僕にはそんなこと判るはずもない。
 小学校低学年の女の子がどうして僕と知り合いなのか。僕にもよくわからない。ただ数日前に帰郷した僕が、たまたまここにいたら出会ったのだ。あの時と同じように食べていたカップヌードル、あの頃より幾分人工的になった街の風景。変わらぬ花達。気づくとその子は隣にいた。隣にいて、じっとこちらを見つめるものだから「やろうか?」と聞いた。が、首を横に振る。どうにもわからず食べ終えて残り汁を捨てる。土に茶色い液体が染みていくのを見て、なぜかポケットに飴玉が入っていたのを思い出した。「あぁそうだ」ポケットに片手を突っ込んだまま隣を向いた僕は、少女がいないことに気づき少々照れる。さっきのことを独り言のように済ませるため、飴玉を口にほおばる。便意を催したので、昔と同じようにその辺の花にかけてやった。
 それ以来、僕がここに来て夕涼みしているとほぼ毎日のように表れる。そう言えば最初に会った時も浴衣ではなかったか。よくよく考えても今街では夏祭りなどやっていない。今時風流な子だ。
「飴玉、いる?」
 僕はここ数日のお決まりの科白をはく。少女の反応は決まって首を横に振る。もしかしたら首を横に振ることをイエスと思ってるんじゃないかとも思ったが、ただ純粋にいらないみたいだった。僕は飴玉を口に放り込み、足をぶらぶらさせて街を見る。
「おじちゃんはここが好き?」
 少女は僕の隣に腰掛け、同じように足をぶらぶらさせる。
「そうだな。ここが好き、だ」
 僕は街から僕をじっと見つめる少女に視線を移す。
「じゃあ、この町は?」
 少し言葉に詰まる。はっきりと声に出して好きと。そう、言えない。どうしてだろうか。この前の変わっていた旧友のことが思い出された。心のどこかで彼を羨ましく思っていたのは事実。変わってしまった彼。変わらない僕。僕は、この街を……
「嫌い?」
 なかなか答えない僕に少女が不安そうに聞く。風もないのに、ざわっと花達が揺れた気がした。
「嫌い、じゃ……」
 いつの間にか俯いていた視線を少女の元に向けると、また少女はいなかった。言いそびれた言葉を飲み込み、沈んでしまった太陽を恨めしく思う。なんでかわからないけど、少女が消えてしまったのは太陽のせいだと思った。
 もちろん、その日も花達には水をやって帰った。


 帰り道、一人の泣いてる少年を見た。真っ暗な道で、ぽつんと立った一本の街灯。商店街から少し離れた裏の路地。それなりに『近代化』してきたと言っても、まだまだこの路地には街灯が少ない。次に立ってる街灯までの距離はおおよそ20メートル。そこまでは本当に何もない闇。少年にとって、それはとんでもなく怖い道のりなんだろう。僕が子供の時もああして泣いたことがあった。

「こんな遅くまで遊んでるからでしょ!」

 そう言って怒られたのが懐かしい。
 家に帰るための時間も無視して遊びまわり、友達と別れるまではよかったものの、いざ一人になってみると周りが凄くしんとしていることに気づく。無性に怖くなって走る。街灯から街灯まで、20メートルの無酸素運動。街灯ごとに一旦停止で、そのうちそれが永遠に続くんじゃないかって思う。しまいには帰る道もわからなくなって、泣き出す始末。全くもって恥ずかしい。
 気づくと少年の前には女性が立っていた。彼女は何と言ったのだろうか。少年も僕と同じように叱られたのだろうか。それとも、優しく諭されたのだろうか。聞きそびれた自分がちょっと歯がゆい。ただ、泣いていた少年の顔はあのときの僕と一緒で、笑ってた。
 それが妙に嬉しくて、僕はその夜一人で飲んだお酒で酔いつぶれた。





 次の日僕はまた、ここに来ていた。別に何か用事があったわけじゃない。ただ、ここにいたら、昨日の続きが言えそうな気がして。僕はいつも通り飴玉をほおばる。ごつごつしたちょっと大き目の飴玉。昔懐かしいサイダーの味がする飴玉だった。夕日が見える。僕がここに来るのはこの時間、暇な時。(しょっちゅう暇なわけだけど)
 サイダーの飴がシュワッと溶けて口いっぱいに広がる。足をぶらぶらさせて街を見下ろす。どんなものにも変化は訪れる。僕が子供だった頃よりこの街は幾分か人工的になった。田んぼや畑はあんまり見なくなったが、町に下りていけばまだ駄菓子屋はあるし、商店街のおっちゃんおばちゃんもいる。まだ変わってないだけで、これから変わっていくんだろうか。便利さを追い求めるのが有益なんだろうか。
「おじちゃん」
 隣を見ると少女がいた。浴衣姿の少女。いつの間にか僕の隣に座ってて、同じように足をぶらぶらさせている。
「飴玉、いる?」
 少女は首を横に振る。変わらないその仕草が妙に愛おしい。
「おじちゃんはこの町、好き?」
 少女が昨日と同じように僕に問う。
「この『街』は嫌い。でも、ここは好き。だからこの『町』も好き。」
 わかるはずがないのに。苦笑する僕に少女はにこりと微笑んで「よかった」と言った。そして、「太陽が沈んでいく」という少女の言葉に、僕も山に落ちてゆく太陽を見つめる。気がついたら、太陽は沈んでて少女はいなかった。でも、太陽のことは綺麗だと思った。
 でも、太陽が沈むと少し冷えて、やっぱり花達には水をやってから帰った。昨日お酒を飲みすぎたかな。今日は多めだ。






 暫くして、また旧友とあった。彼は以前と同じで180度変化した状態。僕は以前と違って90度から270度回転した状態。
「やっぱり変わってないなぁ」
「お前もな」
 そんなことを言っても前のような感じは生まれない。そうか、今日は北に背を向けてないからだ。そんなことも思いつつ、自分の中で何かが変わってることに気づく。
「酒でも飲みに行くか」
 言ったのは僕。無性にそう言いたい気分だった。酒の席、あることないこと、あったことなかったこと。いろんなことを話し合う。話してみると、「何だこいつもあんまり変わってないな」と思う。それに軽く嫉妬……なんてね。
 変わっていくことを恐れて、変わらないことに執着。でもそれを指摘されると悔しくて、自分も変わってるよと言いたくて。
 結局中途半端が嫌だっただけで。そのどちらかにつくのを望んでた。でも時代は僕の望んだ方とは逆向きで、僕は無理して逆の方を選んでた。
 それが苦しいって気づくのに時間はかかったけど、それでよかった。

――求めてたのは逃げる場所。僕はそこを探して逃げてたんだということに最近やっと気づいた

 延命菊。夜になると萎んでしまうあの花は、そういう名前らしい。
 あの町も、あの丘も、ずっとあのままであって欲しいと思うのは僕の我侭。
 我侭だから、
 密かに願っていいですか?



2005/03/01(Tue)23:20:43 公開 / 影舞踊
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■作者からのメッセージ
久々に短編でもと思って書いたのですが、なんじゃこりゃ(失笑
おそらく読み終えた方の中には、この作品が何をコンセプトにしてるのかわからない、って感じの方がいらっしゃると思います。すいません、まとまりきっていなくて。レス返しの際にでも、細かい事は述べさせていただきたいと思います。
読んでくれた方、貴重なお時間ありがとうございました。
新しくできた一言感想。辛口感想。どんなことでも受け入れますので、
感想・批評等頂ければ幸いです。
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