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『天才の夢』 作者:ちぎれ雲 / 未分類 未分類
全角1736文字
容量3472 bytes
原稿用紙約5.6枚

 序章


 葉を失くした細い木が風に揺れた。今にも折れてしまいそうで、それでも風に立ち向かう姿は力強くもあったがやはりどこか寂しい。限りなく広がる空は鉛色に染まり、漂う雲は力無くぼんやりと浮いていた。
 右手の指先で回転する赤ペン。細く長い指が織り成す器用な技で、赤い棒切れはぐるぐると踊っている。残像する赤色が白紙のノートに写る光景を黙って見つめて、少年は欠伸をした。大きく開いた口を左手で覆い、声が漏れるのを防ごうと喉を閉める。涙で歪んだ世界には、なぜか自分の名前が響き渡っている。


――たかやま……


――高山……





「高山っ!」
紙が潰れるような平べったい音が耳元の机に当てられた。ふと見上げれば、体格の良い男が一人、席の隣に仁王立ちしていた。彼は手にした教科書で机を何度も叩き、夢の世界への侵入を許してはくれなさそうである。
「高山、答えろ」
重い低音が意地悪い響きを高山の耳に届いた。質問を聞いていなかった奴が正答を導けるわけが無いと言いたげである。高山は仕方なくその場に立ち上がり、まだ歪んでいる世界から黒板を除いた。
 並んでいる文字から察するに、これはおそらく公民の授業。入試間近であるから、復習を兼ねたものであろう。やっている内容はそう難しくは無いはず。白いチョークで書かれた文字が途切れているところは国事行為に関する記述が記されたところ。残りの黒板のスペースから察するに、文章を長く入れる余裕は無いであろう。つまりこの質問は単語を答えさせるものか。
「……天皇」
 いつのまにか緊張した雰囲気が渦巻いていた教室に、高山の声が響いた。二年前声変わりをしたのだから、夢の世界の番人に負けるに劣らず低い声。まだ幼さを残す顔立ちとはあまり合わない声ではあるが、こればかりはどうにもならない。高山は涙を拭うと、歪んでいない世界から目の前の神田教師を見つめた。彼はその視線から目を背けると、残念そうな響きを含む声で言った。
「正解」
 肩を落として教壇へ戻る神田。彼と教壇の距離が縮まるのに比例して、教室の雰囲気も穏やかになってきた。彼の手にしたチョークが黒板に天皇と記すと同時に、チャイムが鳴った。委員長が号令をかけると、高山以外の全員が立ち上がり礼をする。
 賑やかになった教室を去ってゆく神田を確認すると、高山は机に広がった書物をまとめて鞄へと突っ込み、両腕を枕に夢の世界へと足を進めようとした。しかし、それは許されざる行為なのか、隣の席から女子の声が夢への道を絶った。
「よく分かったじゃん、さっきの」
黒板消しが吸い込んでゆく白いチョークの跡を指差し、彼女は微笑んだ。肩まで伸ばした髪が柔らかく揺れ、漆黒の瞳が高山を捉える。
「…まあ……ね」
欠伸をかみ殺しながら、ぼんやりと返事をする。黒板には、天皇という文字が在ったことを悟ることが出来る白い跡がくっきりと残っている。ずいぶんと煩雑な黒板掃除である。おそらく次の授業を担当する教師はもんくをいうだろう。
「ねぇ、テスト何点だった?」
「……ん」
「数学のテスト、前返ってきたやつ」
ソプラノは喋るのを止めない。眠りを妨げるには適した音域である。高山は面倒臭そうに上体を起こすと、背もたれに体重をかけた。
「…何点満点だっけ?」
「五十点」
「あぁ、あれか。えぇ……四十七だっけ」
歪んだ記憶から昨日の答案を思い返す。途切れ途切れの記憶ではこの点数も怪しい。たしか満点ではなかったはず。
「やっぱ頭良いんだね。じゃあ、方程式解けたの?」
「方程式って、あぁあれか。うん、楽しかった」
そういえば、あの方程式の問題はかなりひねくれた問題であった。おそらく正答率は一桁、完璧な答案にするのは厳しい難問だった。
「確か……定規で測って比を利用して倍にしていろいろやって出た答えだった。だから式を立てずに解いた。それでマイナス三点」
「へぇ、式作らなかったの……」
 頭脳明晰なのか変わり者なのか、方程式を方程式無しで解くとはどんな技なのか、彼女は何か言いたげな表情を浮かべたが、口を噤んだ。なぜなら、高山はすでに夢の世界へと旅立っていたから。おそらくしばらくは帰ってこないであろう。

 ――それが高山裕也という人間なのだから。





2005/01/22(Sat)21:22:49 公開 / ちぎれ雲
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■作者からのメッセージ
ちぎれ雲と申します。
短いですが、まだ続くので長い目で見てくれれば幸いです。
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