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『五百円の価値』 作者:ささら / 未分類 未分類
全角6507文字
容量13014 bytes
原稿用紙約20.1枚
五百円の価値



 昔、小学校の家庭科の時間にエンゲル係数というものを調べた。自分がクラスの中で一番低いのだと知ったとき、初めて俺は自分の家が貧乏なのだということを知った。それ以来、俺は貧乏人と特徴づけられた。それは、中学二年生である今でも変わらなかった。
 年に一度のお年玉というのは、貧乏中学生の自分にとって、その収入の大部分を占めていた。月に五百円と昨今の高学生にしては「携帯代金も払えんやんか」と突っ込まれそうなほどあまりに少なく、そして当然足りなかった。
「うちは貧乏なんだから。そのぐらいで我慢しなさい」
 母親にそう言われるたび、俺は「だったら父さんと離婚しなければ良かっただろ」と抗議したくなるのだが、そうすると母親に拳固を喰らわされる事になることを知っていたので口には出さなかった。離婚しなくても現在よりはましだとしても、貧乏である事は全く変わらないのだということも知っていた。
 正月になって、父方の親戚との縁が切れて、お年玉の金額も半分になるかと不安に思っていたが、そんな事にはならなかった。田舎の父親は一月四日にちゃんと郵送で封筒に入れて毎年、現金を送ってきた。人の縁というのは、考えていたほどに現金なものではなかったということだ。今年はあらかじめ貰っていた一万五千円と郵送されてきた一万六千円と合わせて、俺の懐は一気に暖かくなった。
「お父さんにも後で礼をいっときなさいよ」
 母親が別れた父親に対していまだにそういう言い方をするので、俺もそれにならって返事をしてから家を出た。
 金があるのとないのとではこうも違うものなのか。
 今日はいい天気だった。
 コートを着込んでくりだした街はいつもと違って見えた。
 昼飯をまだ食べていなかったので、とりあえずコンビニによってパンを二つとパック牛乳を買って公園で食べた。これだけ好き勝手に買って、まだこんなに残っている。食事をしながら、俺は財布を広げながらニヤニヤとその中身を覗いていた。
「何をしているの?」
 驚いて俺は顔を上げた。俺のクラスメートの木下が僕の顔と財布を覗き込んでいた。あまり会いたくない奴に会ってしまったと俺は思った。俺は木下が何となく苦手だった。しかも、何故かこの木下という女はいつも突然現れる。
「いきなり現れんなよ」
 俺は財布を木下から守るように背中を回した。木下はその俺の行動に不快そうな顔をして、
「とらないよ」
 木下は貧乏な俺と口をきく数少ないクラスメートの一人だった。俺はクラスの中で浮いた存在だった。何故だか知らないが、俺の体からは貧乏オーラというものを放っているらしかった。そのせいで、虐めとまではいかないまでも、半分シカトの様な扱いを受けていた。まあそれは事実なのだから仕方がないと思っている。こっちも、人の価値をステータスで決めるような人間に用はなかった。
「何のようだよ」
 俺はぶっきらぼうにつぶやいた。別に不機嫌なわけじゃない。普段からこんな調子だった。
「あなたを公園の外から見かけたの。何だかニヤニヤ笑っていて様子がおかしかったから。何をしていたの? お金を見て笑っていたの?」
 顔がりんごのように赤らむのを感じながら、俺は木下に対してそっぽを向いた。木下はどこかの中企業の社長の娘らしかった。そんな人間がどうして俺につきまとってくるのか、俺には分からなかった。基本的に金持ちは腐った連中しかいないと思っている。
「別に、馬鹿にしているわけじゃないよ」
 俺が怒っているのかと思ったのか、木下は慌てて弁解した。
 俺は別に怒っているわけではなかった。恥ずかしかったのだ。めちゃくちゃ恥ずかしかった。お金を見ながら自分がニヤニヤしていたことに吐き気がするほどの嫌悪感と後悔を覚えた。自分がとてつもなく汚い人間に思えた。自分が腹黒い人間のように思えた。
 目の前の人間は、木下は俺の事をどう思っただろうかと不安に思った。きっと、俺のことを馬鹿にしているだろうと思った。俺はいったいどんな顔をして金を見ていたのだろうか。俺はいったいどんな顔を見られたのだろうか。
 俺は財布を無言でポケットにしまった。
「木下」
 急に自分の名前を呼ばれて、木下は少し驚いて首をすくめた。俺に殴られるとでも思っているのだろうか。
「お前ってさ。金持ちだろ?」
「え? ……多分」
 木下は一瞬とまどってそう答えた。貧乏じゃない、と謙遜する事は俺に対して失礼だと思ったようだった。木下はそういう奴だということは、けして短くない付き合いで分かっていた。
「羨ましいな」
 俺は自分が訳の分からないことを言っている事を分かっていた。それでも何故かあえて訊かずに入られなかった。
「お前の将来の夢って何?」
「え……、私は……図書館で働きたいと思っているけど……」
 木下は何で俺がそんな事を聞くのか分からないといった顔をしたが、少し間をおいた後、つぶやいた。
「よくさあ、将来の夢が金持ちになりたいって奴いるじゃん? あれってどう思う?」
「え?」
 木下は考えるような顔をした。どんな解答をしたら、俺が気分を害さないだろうか考えているのだと俺は思った。
「正直に答えてくれよ」
「うん。私は、別に構わないんじゃないかと思うけど……」
「俺はさ。将来の夢を書かされるとき、いつも大金持ちって書いていたんだ」
 木下はどう答えていいかわからないようで黙って俺の顔を見つめている。
「先生はさ。それは将来の夢とは呼べないっていつも俺に言うんだよ。飛行機のパイロットだとか、スポーツ選手とか、消防士とかそういうのにしろって。もっと小学生らしいものにしろって。あれって別に小学生らしいとか関係ないよな。中学生になったって、高校生になったて、大金持ちになりたいなんて普通書かないだろ。それどころか、大人になるにつれて、夢なんてものはどんどん形を変えていって、やがて、最終的にはいつか消えちまう」
「何を言っているの?」
「お前は俺の夢を生まれながらにして叶えちまってるってわけだ」
「……ごめん」
「何で謝るんだ?」
「あなたは、私のことが嫌いなの?」
「何でそう思う?」
「さっきから、あなたは私が困る質問ばかりするじゃない」
「嫌い……か」
 俺は木下から視線を下ろした。
「さっき、俺が金を見てニヤニヤしてたとき、お前はそれをどう思った?」
「……どうって、別に何も」
「他には?」
「特には……」
 木下は、俺がどんな気持ちでこの質問をしているのか、本当に分かっていないようだった。
 俺は大きくため息をついた。
「そうだな俺はお前の事が嫌いだ。つーか金持ちが嫌いだ」
 そう言って俺は小馬鹿にするように小さく笑った。美和は一瞬傷ついたような顔をして、悲しげに目を伏せた。
「なあ、どうしてお前は、金持ちなのに俺に付きまとうんだ?」
 俺は前々から思っていた疑問を口に出した。
「どうしてって……」
「同情か? それとも金持ちの余裕か? 俺を実は影で見下してんのか?」
「……そんなわけないじゃない」
 木下はほとんど泣きそうだった。それでも、木下の瞳は俺をじっと見つめていた。
「お前も、俺が貧乏で……臭い奴だとか思ってるんじゃないのか?」
「……そんなわけないじゃない」
 木下はもう一度、口調を強めてはっきりとつぶやいた。
 木下は心からその言葉を口にしているのだと、俺にはひしひしと伝わってきた。
 木下の瞳は潤んでいた。その体は小刻みに震えていた。
「お前は、いつも俺の前に現れる。俺がそんなに滑稽か? 貧乏人がそんなに珍しいのか? それとも俺に同情しているのか? だったら俺はそんな事望んじゃいない!! はっきり言って、迷惑なんだよ!! ああ、そうだよ俺とお前は違う。お前は俺になれるかもしれないが、俺は逆立ちしたってお前になれはしない。だって、金がないからな!! 分かってるんだよ!! 俺は雑魚だ!! 負け犬だ!! 貧乏人の癖に、人に自慢できるような特技も持っちゃいない!! 頭も悪いし、親は知っての通りくそったれだ!! お前はいいよな!! 金持ちで、頭が良くて!! お前は持っている!! 俺が望んでいるものをお前は全て持っている!! ずるいよ!! お前ずるいよ!!」
 俺は思いの丈を全てぶちまけた。分かっている。自分は最低な事を言っている。木下は泣くだろうと思った。泣いて、どこかにいなくなると思った。これ以上、恥を掻きたくなかった。これ以上、こんな俺の姿を木下に見せたくなかった。
 ところが、木下は動かなかった、目に涙を浮かべてはいるがけしてそれを零しはしなかった。それどころか、その瞳には怒りの色が伺えた。木下は、俺に対して何かを吐き出そうとしているみたいだった。もしかしたら、殴られるのかもしれなかった。
 俺に向ける木下の怒りに満ちた瞳は美しかった。
 その瞳に気づいた瞬間、俺は何故か『負けた』と思った。俺の言葉では木下を屈する事が出来なかった。何となくそんな気がした。木下は俺より圧倒的に心が強い人間だから。
 やがて木下の怒りが爆発した。
「私が金持ちだから何よ!! 私がお金を持ってるわけじゃないじゃない!! 持ってるのはお父さんよ!! 私が望んだわけじゃない!!  欲しいんならならあげるわよ!! お金なんて全部あげる!! いらないわよ!! そんなものがなくたって私は構わない!! あなたにそこまで言われるぐらいだったら、私はお金なんていらない!! 私はそこまで醜くない!! ……見下してるのはあなたじゃない!!  あなたが、勝手に自分自身を見下してるのよ!!」
 木下は叫んだ。それは、今までに聞いた事のないような木下の姿だった。
 俺はそんな木下をじっとみつめた。俺はどうしてこの木下というクラスメートの事が苦手なのか、何となく分かった。木下の黒く澄んだ瞳がそれを俺に教えた。そうか、俺は木下に自分の夢を重ねていたのだと。木下は俺の理想のような人物だった。俺は木下を嫌いだと口にしたがそれは真っ赤な嘘だった。俺は木下の事が好きだ。好きなのだ。しかし、コンプレックスがその気持ちを許さない。俺と木下の間にどうしようもない隔たりを与える。しかし、それが幻想なのだという事も分かっている。だけど、次の一歩が踏み出せないのは、俺が弱いからだ。ださいからだ。
「あー」
 そう言って、俺は両手を天に向かって伸ばした。
「その通りだ。全部お前の言うとおり。全部お前が正しい」
 俺の急に豹変した態度に、木下はきょとんとした。
「え?」
「俺は女の子を泣かせるような最低の人間だってこと。そんで、ちっぽけで、下らなくて、ださくて、ちくしょう、最悪だな俺……」
「違う。私は……あなたのこと、立派だと思う」
「俺が? 何で?」
「自分に正直で……とても強い人間だと思う……羨ましいぐらいに」
「はあ。そんな事を言われたの初めてだよ」
 俺は力なく笑った。
「どこらへんが?」
「私、一年生の五月頃、街であなたを見かけたの」
「俺を?」
 一年生の頃、というと去年の話だ。木下と今年一緒のクラスになる前だから、お互い顔すら知らなかったということになる。何かあっただろうか、と考えても、心当たりは何も浮かばなかった。
「あなたは、三人の高校生の人たちに絡まれていたの」
 ああ、と俺は思い当った。そう言えば、そんな事があった気がする。
「それでどうして俺が強いことになるんだ? 確か俺はあんときボロ雑巾みたいに殴られたんだぞ。去年の最悪イベントベストテンに入るぐらいに思い出したくない出来事だ」
「そう、あなたは数人の高校生に殴られていた。体格も全然違うから、敵うわけがなかったわ。私はそれを影から見ることしか出来なかった。あなたを助ける事も、誰かに助けを呼びにいくことも出来なかった。怖くてただ震える事しか出来なかった」
 そう言って、木下は申し訳なさそうに顔を伏せた。
「それが正解だよ」
「やがてあなたは動かなくなった。それから――、

『うわ、こいつ五百円しか持ってねえよ。しけてやがんなぁ』
『マジかよ、ありえねえって。どっかに隠し持ってんじゃねえの?』
『いや、ねえな。マジでこれがこいつの全財産みたいだ』

 あなたは不良たちにぼこぼこにされてぐったりと床に伏して、不良たちはそのあなたの財布を奪って立ち去ろうとしたわ。そしたら……、

『待てよ……』
『おい、こいつまだ動いてんぞ。ゴキブリみたいな生命力だな』
『それは……置いていけよ』
『はあ? なに言ってんの、こいつ』
『その財布を……置いていけって言ってるんだよ……』
『あのね、僕、お兄さんたちは暇じゃないんだよ。わざわざ、余計な時間をかけて五百円ぽっちじゃ割に合わないし、むしろイシャリョー払ってもらいたいところだね、イシャリョー』

 それでも、あなたは抵抗したの、不良のズボンを掴んで、引きずられながら……、

『俺をいくら殴ってもいいから金だけは置いていけ!!』
『なに言ってんの?』
『おい、とっとといこうぜ。こいつなんか変だよ』
『これを持ってたらお前を殺す!! 今殺せなくてもいつか必ず殺す!!』
『こいつ気持ち悪いよ。なに五百円ぽっちでムキになってるんだよ』
『死にたくなければ金を置いていけ!!』
『いてっ、こいつ噛み付きやがった!!』
『まじ頭いっちゃってるよ』

 不良たちは、財布をあなたのほうに投げ捨てて逃げるように去っていった。あなたは、血だらけで、それからしばらく動かなかった。私もすぐに救急車を呼んで、その場から逃げた。何だかあなたがひどく怖かった」
「何だ、お前が救急車を呼んでくれたのか。ありがとな」
「ううん、私にはそれぐらいしか出来なかったから」
「俺をかっこ悪いと思ったか?」
「ううん。凄いと思った。どうしてこの人はこんなに……」
「五百円にムキになれるのかって?」
 木下はばつが悪そうに頷いた。
「さあな。そん時の俺の月の小遣いが、五百円だって事が最大の理由だろうけど……」
 そう言って俺はポケットからごそごそと五百円玉を取り出した。さっきコンビニで買ったお釣りだった。
「俺は五百円の価値を知っていたから……かな」
「五百円の価値?」
「そう。木下は五百円持っていたら、なにが出来ると思う?」
「五百円……。私だったら……本を買うかな。文庫本」 
「うん。お前っぽいな」
「そうかな」
 そう言って、木下は照れくさそうに笑った。
「五百円ってさ、微妙な金額だよな。百円ほど少なくないし、千円ほど多くない。昼飯に弁当を買ったらすぐになくなっちまうし、ジュースだけだったら、大分余るだろ」
「そうね」
「でも、俺はさ、いつも思っているんだ。何かを買うとき、これでいいのかな? もっと良い物を買えるんじゃないかってさ」
「そういう気持ち分かるよ。私も、本を買うとき迷うもん。もっと面白い本があるんじゃないかとか」
「そういうのとはちょっと違うんだよ。俺の場合、結局悩むに悩んで何も買わないんだ」
「じゃあ、その五百円はどうするの?」
「どうすると思う?」
「全然分からないわ」
 そう言って、木下は首を振った。俺は頷いて、
「そうだろうな。実は俺にも分からない」
 木下は頭にクエスチョンマークを浮かべて首をかしげた、どうやら俺の言っていることが理解できないようだった。
俺はそんな木下に向かって、満足げな笑みを浮かべた。
「だからさ、正直、五百円取られたって、別に俺の生活には全く影響ないはずなんだよ結局のところ。もともとたったの五百円だしさ。普通だったら、そんなに悩むはずの金じゃないだろ。だけど、俺は五百円がとられそうになったとき、すげえ嫌だと思った。ぜってえ、手放したくないと思った」
「あなたは、あんなに激しく抵抗したものね」
「つまり、それが俺にとっての五百円の価値なんだ」
 そう言って、俺は五百円を指先で、空に向かってはじいた。空中で五百円が玉はくるくる回っていた。俺は、それを手のひらで受け止めてつぶやいた。
「五百円の価値は、今の俺のちっぽけなプライドの価値と同じなのさ」

2005/01/22(Sat)00:26:00 公開 / ささら
■この作品の著作権はささらさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お読み下さりありがとうございました。久しぶりに書いた作品です。正直、あんまり久しぶりなので小説の書きかたを忘れてしまいました(笑 なんだか創作祭などという面白そうな催しがあるようですね。参加できなくて残念です。皆様の作品はぜひ読ませていただきたいと思っています。センター試験も無事終わり、残すところは二次のみです。二次が終わったら、また小説を書いていきたいと思っていますので、その時はまたご指導よろしくお願いします。それでは。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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