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『雪夜-yukiya-』 作者:紅月薄紅 / 未分類 未分類
全角1458文字
容量2916 bytes
原稿用紙約5.6枚

 時は平安。
 夜毎、密やかな逢瀬が溢れ、牛車の音、甘く涼やかな香が立ちこめる京。
 一人の女はため息をつき、一人の女は甘い声をあげ、一人の女は袖を濡らす。
 朝を恨む言葉には、明日の夜の期待と不安が混じり、去っていく男の背にぶつかる。
 今日は冬の日。
 一年の終りも近づいてきた、雪の降る寒い日。
 暗い空から降る雪を見つめる女が、いた。

「どうして、今宵は来てくださらないの?」
 不安を含んだ声は、音のない雪に消されてしまう。
「姫様、お体が冷えます。中へ」
 側仕えにそう言われても、冷たい空気に当たる身体は動かない。
「姫様」
 少し口調を強くし、動かせようとする。
「いいの。大丈夫だから」
 振り向かずに、女は言い返した。
「退っていて。私のことはいいから」
 奥に温かい火があるというのに、女はいっこうに動かない。
 御簾の前で外をじっと見ている。
「……わかりました」
 どうかお体のことを考えて下さいね。
 そう言い残して、側仕えは去っていく。
「どうして。どうして来てくださらないの?」
 いつもなら、空が暗くなったら直ぐに来てくださるのに。
 毎夜やってくる、愛しい男のことを考え、女は静かに瞼を閉じた。
 昨日の夜を思い出す。その前の夜を、その前の夜を。
 どんなに時をさかのぼろうと、愛しい人はいた。
 それなのに。
「どうして今日は……」
 涙がつぅっと頬を伝う。
 それは外からの冷たい空気にふれて冷たさを増し、頬から顔全体までもを冷やす。
 雪のように冷たい。
 そう。雪のように。
「きゃっ」
 小さな悲鳴を上げて、瞼を開ける。
 涙ではなく、雪のように冷たいものがその頬に触れたのだ。
「ははは」
 楽しそうな男の笑い声が横から聞こえる。
「あっ……」 
 冷えた頬を手で暖め、ばっと声の下方を見る。
「遅くなってすまなかったな」
 いつの間に入って来たのか、優しい香りを身につけた男がしゃがみこんでいた。
「雪夜様……」
 この夜の間、いや。今朝からずっとずっと待ち焦がれた人。
 やっと。来てくださった。
 安堵の気持ちが身体中に広がる。
「見てみろ」
 男はすっと手に乗せてある何かを差し出してきた。
「あ……」
 乗っていたのは小さな雪ウサギ。
 赤い目ではなく、小さな石ころの黒い目だったけれど。
「こいつを作っていて遅くなったのだ」
 ほら。と女の手に、その雪ウサギを乗せる。
 それは男の手なら片方の掌に乗ってしまうのだが、女の手では、両の手に乗せなければいけない大きさだった。
「かわいい……」
 女は幸せそうに、真っ白なウサギを見つめる。
 冷たさなど感じなかった。むしろ温かさを感じるほどだった。
「名前は……“雪”ね」
「雪か……」
 クスクスと女は笑う。
「雪夜様の名前と一緒」
 今までにないほど幸せそうな女を見つめ、男は微笑んだ。
 そうして女の名を呼ぶ。
「櫻姫」
「なぁに?」
 女はまだ、ウサギを見つめながら首をかしげる。
 雪が解けて、手が濡れることなど、微塵も気にしない。
「いつまでも」
 ウサギの乗るその冷えた手を、ウサギごと両の手で暖める。
「いつまでも、共にいよう」
 そう言って、女が返事をする前に口を塞いだ。
 女の体温が、温かさが、身体中に広がる。
 長いのか、短いのか。 
 ただ今までにないほど愛を確かめ合った口付の後、女は頬を赤らめ頷いた。
「……はい」

 雪の降る今夜。
 それは長くて短い時を経て、“クリスマス”と呼ばれるようになる。
 
 始めての贈り物は、小さな黒目の白ウサギだった。

2004/12/25(Sat)22:16:53 公開 / 紅月薄紅
http://www.geocities.jp/usubeni25/index.html
■この作品の著作権は紅月薄紅さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして。紅月薄紅というものです。
まだまだ未熟ながら、投稿させて頂きました。
一応、クリスマスネタということで…。。
これからも色々と書かせて頂くと思います。どうぞよろしくお願いします。
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